この青空に包まれて








朝から降り続いていた雨は、正午になる頃に雲と一緒に遠退いた。
それまでの土砂降りが嘘のように、空は一面の青に包まれている。

グラウンドは見事に水浸しになり、5時間目の体育は、女子も男子も体育館で行われる事になった。


が、蓬莱寺京一と緋勇龍麻は揃って今日もサボタージュしていた。




雨が上がって間もない屋上は、グラウンドと同じく水浸しになっていた。
平らな筈のコンクリートのあちこちに水溜りが出来ていて、青空が綺麗に映り込んでいる。
染み込んで行く事がない分、乾くまでにはグラウンドよりも時間がかかりそうだった。

その水溜りを蹴飛ばして水を散らし、遊んでいる男子生徒が一人。








「よッ…と!」








蹴飛ばした水は、陽の光を受けてキラキラ光って地面に落ちる。
何が楽しいのだかと思いつつも、龍麻はその光景をじっと見ていた。


京一は多分、アレだ。
台風になったらはしゃぐ性質だ。
大雨の中を傘など知ったこっちゃない風に、ずぶ濡れになりながら走るのだ。

何が面白いのか龍麻には判らないけれど、そうなったら、きっとその隣には自分もいるのだろう。
京一に引き摺られてか如何かは判らないが、多分、恐らく、一緒に。



それにしても、小さな子供でもないのに、よく飽きない。
雨が上がって屋上に来たのは、昼休憩の間だったから、もう20分は前の話になる。
つまりは京一が水溜りで遊び出してから、同じ位の時間は経っている筈だ。

長いこと散々水を蹴ったり、水溜りの真ん中に踏み込んだりしている所為で、京一の足元は無残なことになっている。
靴もズボンも水浸しで、此処がグラウンドでないから泥がないのは幸いかも知れない。
でもこの状態で教室に戻ったりしたら、今日の掃除当番に文句を言われるに違いない。
確か今日は小薪だったと思うから────言われるだろう、間違いなく。


思いつつも止める気にならないのは、遊んでいる京一が、事の外楽しそうに見えるからだ。







「龍麻ァ!」
「なに────」







呼ばれて顔を上げるなり、飛んできたのは水滴。
陽光を受けてキラキラ光るそれが、見た目ほど綺麗な水ではないのは判っている。
何せ此処は屋上で、塵のような汚れはあちこちにあるのだ。

ひょいっと避けて水を避けると、京一が判りやすく舌打ちした。







「ちッ、避けやがったな」
「だって汚れたくないし」







水と一緒に染みになったら、洗うのが大変なんだ。
そんな抗議をする龍麻に、京一は何処の主婦だ、と呆れたように呟いた。


だって本当なんだと思いつつ、京一を見遣って。










(───────あ)










広い屋上の真ん中、大きな水溜りの中心。
京一が立っているのは、其処だった。



龍麻から見える水溜りは、まるで足元に生まれた空のようだった。
綺麗な青が其処にくっきりと映り込んで、まるで大きな鏡に似ている。

いつも頭の上にある空が、この時だけは足元にある。
────京一の足元に。


上も下も青に覆われたその場所に、京一は立っていた。




其処にあって、一つも輝きを失わない親友は、まるで、








「? 何笑ってんだよ、龍麻」








木刀を肩に担いで、胡乱げに龍麻を睨む。
だけども、其処には刺々しさはない。









「なんでもないよ」








立ち上がって、広い大きな水溜りに足を踏み入れた。
ぱしゃりと跳ねて、生まれた波紋が空を揺らす。




体育館から元気の良い声がする。
音楽室からオルガンの音がする。

だけど其処にいたら、この青空は見れなかった。


この青空に包まれて、二人で同じ空の上には立てなかった。













空と空の間で、


キミという“太陽”の傍にいるという、幸せ。














ゲーム原作の12話で、京一が“太陽”と称されてました。
うっかり反応してしまったよ!

いるよね、水溜り見るととりあえず踏む! っていう子。(寧ろ自分(爆))
傘とかで水面擦って撒き散らしたりとかね。