昼休みの屋上






グシャグシャとビニール袋を潰す音が聞こえて、相棒がごろりと寝転がる気配。
今日は天気がいいから、ぽかぽか陽気に包まれた屋上は昼寝には丁度良い。

昼食を終えて早々に寝る体勢に入った親友。
その京一を挟んで、龍麻の反対隣に座って輪になっているのは、墨田の四天王達だった。
先日京一と丁半賭博でしこたま作ってしまった負け分を取り戻そうとしているのか、必死で練習している。
……腕そのものの練習も必要だが、京一が時折イタズラに仕掛けるイカサマを見破る目も必要だと龍麻は思う。


学校とは無関係者でありながら、この四人はよく学校に現れる。
初登場からして学校の教員をボコボコにしていたから、教師たちも追い出すことに気後れしているのだろうか。

何より、今はそれなりに大人しくしており、学校で暴れたのは初めて此処に乗り込んで来た時だけだ。
時々何某かで在校生と揉める様子はあるが、それも京一が一喝すれば終わり。
京一が彼等の手綱を握っている限り、吾妻橋達は至って大人しいのだ。

あまり良い顔はされていないが、それも彼等は気にしない。
全ては、心酔するアニキの為か。








「アニキ、一勝負お願いしやす!!」








眠りかけていた京一に、吾妻橋が言った。

京一はのろのろ目を開けると、起き上がって面倒臭そうに頭を掻いた。
しばらく吾妻橋を見て考えるように沈黙していたが、欠伸一つ漏らすと、無言で手を差し出す。
サイコロを寄越せ、という事だ。


京一は明らかに眠そうな顔をしていたが、今寝れないなら、彼等が帰ってから寝ようと思ったのだろう。
午後の授業はサボりになりそうだ。



籠代わりの紙コップにサイコロを入れ、振る。
カツンと音を立てて地面に押さえられ、逆さまになったコップが数度、左右に揺らされた。







「丁!」
「丁!」
「半!」
「丁!」
「じゃ、オレは半だな」







次々に定められた振り分けに、京一は少ない方へと賭ける。







「シソウの半。オレとキノコの勝ちだ」
「あーッ!! さっきは当たったのに!」






吾妻橋が頭を抱えてゴロゴロと転がる。
京一はそれを横目に、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべていた。







「もういっちょ行くか?」
「ヘイ!」
「今度は負けねェっスよ!」






手の中でサイコロを弄びながらの京一の台詞。
吾妻橋以下四天王は見事に食いつき、京一はまた紙コップにサイコロを入れた。






「半!」
「半!」
「半」
「俺も半!」
「なんでェ、丁方ナシか? じゃあオレが丁だな」
「アニキ、イカサマなしですぜ」
「お前等相手にやりゃしねェよ」






口ではなんとでも言えるものだ。
平静として答えた京一を、龍麻は無表情に見つめる。


京一の手元が僅かに奇妙な動きをしているのを、見つけられるのは恐らく龍麻だけだろう。
古武術に精通し、並外れた動体視力を持つからこそ、気付く事が出来る。
京一のイカサマが通じないのは、龍麻のような人間を相手にした限りの事だ。

上手い具合に勝ち点が稼げる上、見事に引っ掛かる舎弟達の相手は、実に面白いものだろう。
少々疑われた所で堂々と胸を張って嘘を吐き、バレれば「見破れなかったお前等が悪い」と開き直る。

舎弟達が京一に勝てる日は、恐らく来ないだろうと龍麻は思った。



負けが混んでいく舎弟達に、京一はなんとも面白そうに笑っている。







「京一」
「あ?」






呼ぶと、笑みを残した表情が此方を向いた。








「僕もいい?」







笑みを浮かべて告げる親友に、京一は一瞬、顔を引き攣らせ。
けれども直ぐにニィと笑って、サイコロと紙コップを投げて寄越した。













午後の授業は、サボりに決定だ。














何処で教わったんだろうね、京一のイカサマ技。
歌舞伎町の夜の帝王?(←ゲームネタ)

アニメでちょくちょくやってた、賭博のシーンが好きです。