夕暮れの帰り道








昼と夜の間。
一時の橙。

学校と家の間。
一時の道。








一人で歩いた、小学校の帰り道。
一人で歩いた、中学校の帰り道。

一人で歩いた、道場からの帰り道。


家に帰れば大好きな父が、母が、待っている。
ひーちゃんと優しい声が、眼差しが、待っている。

だから悲しくなんてなかった。
寂しくなかったと言ったら嘘になる。
だけれど、悲しいなんて事はなかった。
これは本当。



ジャンケンをして、ランドセルを押し付けあって競争したり。
ちょっと寄り道をして、自分達だけの隠れ家に行ったり。
また寄り道をして、道の途中の小さな駄菓子屋さんに入ったり。

いつも遠くで見ていたそれに、いいなぁと思ってはいたけれど。
其処に入りたいと思う気持ちは、いつの間にか諦めになって消えて流れた。





ケンカなんてした事なかった。
する相手がいなかった。

ふざけあったりなんて覚えてない。
する相手がいなかった。


夕暮れの帰り道。
鞄を背負って、隣を手を繋いで通り過ぎていくクラスメイト達を見送った。

それから誰もいなくなった細い道を、一人で歩いて家に帰る。



夕暮れの田舎道。
一人で歩いた帰り道。

悲しくなんてなかった。






悲しくなんてなかった、けど。
寂しくなかったと言ったら嘘になる。


だからほんの少しだけ、夕暮れの帰り道が嫌いだった。




























皆で歩く、高校からの帰り道。



家に帰れば誰もいない。
静かな空間だけがある。

だけれど、悲しくなんてなんてなかった。
寂しくだってなかった。
だって気持ちはそのまま此処にある。
明日に繋がる喜びがある。



ジャンケンをして負けて、6人分の鞄を持って、次の電信柱でまたジャンケン。
長い影が賑やかに動いて、子供のようなケンカが始まる。
ふとお腹空いたなぁと呟いたら、ラーメン食いに行くかと、暗黙に決まる寄り道先。

いつも遠くで見ていた賑やかさの中に、自分がいるのが少し不思議で。
諦めていたつもりの気持ちは、知らない間にまた芽を出して、当たり前にするする成長して行った。





時々ケンカもする。
直ぐに仲直りもする。

ふざけあう事もする。
冗談言い合うのが楽しいって、初めて知った。


夕暮れの帰り道。
分かれ道でそれぞれの家の方向へ別れて、それぞれ歩き出す。

帰る先がころころ変わる相棒は、今日はもう少しだけ一緒で。
繁華街のアーケードが見えてくると、彼は立ち止まる。
いつもの場所に行くようで、其処で挨拶一つ交わして別れた。




夕暮れの都心。
皆で歩く帰り道。

悲しくなんて、寂しくなんて、なかった。






悲しくなんてなかった。
寂しくなんて無かった。


だけど、物足りなくないと言ったら嘘になる。
明日はもう少しゆっくり歩こうか、そんな事も考える。




色々思うけど、一先ず帰りながら、今日一日を思い出そう。















「じゃ、また明日な」

















いつの間にか、嫌いから好きに変わった、夕暮れの帰り道。



──────その言葉を胸に抱いて。
















うちのサイトにしては珍しく、龍麻単品になりました。
でもやっぱりちょっとだけ京一贔屓(笑)。