「すぐに、病み付きになる」






中学生の頃、かなり荒れていた。
汚泥の中に身を沈めていた自覚があって、其処から抜け出す術を見つけ出せずにいた。
抜け出した後の事も酷く不透明で、現状維持に甘えるのが一番楽で、同時に一番苦しかった。

あの頃、どうするのが一番良かったのか、今でもよく判らない。
それでも全てを忘れると言う、何よりも楽で、何よりも愚かな事はしたくなかった。




病み付きになるよ、と言って薄汚れた袋を見せたのは、何処の誰だったか。
加工ではないボロボロの服を着て、雪駄を履いていて、髪はくすんだ黄色で、顔は覚えていない。
ガラガラの耳障りの悪い声で、男は京一に声をかけてきた。

見せられた袋の、透明な入れ物が何であるのか、すぐに気付いた。
横には女が虚空を見ていて、男の目は白くは無かったけれど今にも引っ繰り返りそうだった。



下らねェ、と言って背中を向けたら、男は追って来た。



いいよ、安くしとくよ。
初めてだからタダでもいいよ。
試しに一つ、どう?

しつこく言うので、金がねェ、と言った。
こういう輩の大元は大概金目当てで、それが無いと言うと、なんだ貧乏人かよ、と言って態度を一転させて去って行く。


しかし、この時は予想と違った。


男は鬱陶しく付き纏い、だからタダでもいいんだよ、初めてなんだから、と訳の判らぬ理屈を並べて袋を見せる。
楽しくなるよォ、嫌な事忘れられるよ、と、明らかに正常ではない眼で此方を見て。

嫌な事を忘れられると言う言葉は、場合によっては酷く甘美な言葉に聞こえるのだろう。
けれども京一は、忘れてしまいたいと思うような事など一つも無かったから、やはり下らねェと言って足を速めた。
が、やっぱり男はついて来る。

いい加減にぶっ飛ばしてやろうかと木刀を握る手に力を込めた時、男は言った。



金がなくても大丈夫だァ、お前ェだったら躯でいいぜ。
きっと直ぐに稼げるよ、だから一回どうだい?

どっちもきっと、直ぐに病み付きになるよ







───────立てない程に叩きのめして、そいつは路地の奥にある生ゴミ置き場に捨てた。


























最悪の寝覚めだった。
覚えていた夢の内容が嫌にリアルで、それをはっきり覚えている、そのどちらもが原因だ。

起き上がってから更に、最悪だ、と小さく呟いた。
腰が痛い、背中が痛い、下半身全体がだるい。
その癖、躯は随分スッキリしていて、還って気分が悪くなった。


こん畜生、と誰に向けたのだか判らない───それでも二択しかない───罵倒を吐き捨てる。

と、するりと腰に何かが回って、それが人の腕だと気付くよりも早く、後ろへ引き倒された。







「起きた? 京ちゃん」






……最悪、三度目。
耳元で囁かれた声に、京一は顔を顰めた。







「続きしようか」






言われてから少しして、途中で意識を飛ばしたのを思い出す。
…情けない。


京一の返事など待つ暇もなく、胸の上を男の手が滑る。

ふざけんなダリーんだよと思いながら、拒否はしなかった。
どうせ聞きはしないし。



肌の上を、男の節ばった手が滑る。
竹刀蛸があるのが判った。

耳朶に生温い生き物が這う感触に、京一は息を漏らす。







「は……んっ……!」






下肢に手が伸びて、未だ萎えたままの熱に指先が触れる。

腰を引き寄せられて背後の男の膝上に乗せられた。
臀部の下に雄の熱を感じて、顔を顰めて後ろにいる男を睨む。
男はすぅと目を細めて、京一の中心を扱き始めた。






「ん、う……っは…あ……ッ」
「綺麗だよ、京ちゃん」
「…ざ、けん、な…ッ……っふ、ぅ…!」






ふと部屋の時計が目に付いて、意識を飛ばしてからそう時間が経っていない事を知る。
熱は下がっていたとは言え、官能のスイッチはオフになっていた訳ではないようで、躯は快楽に流される。

腰は痛いし、背中も痛いし、もう全体的にだるい。
けれども、知ってしまった悦楽の熱は、理性を捨てた獣には酷く甘美なもので。



溢れ出す白い液体を、忌々しげに睨んだ所で何が変わる訳でもなく。
背後の男に諸々全部の責任を押し付けた所で、この男が煽る手を止めるとも思えず。








「……………ッ……!」







更なる快感を欲する浅ましい自分を、今更隠した所で、無意味なだけで。
暴かれる事には既に抵抗は無くなっていて。

ゆっくり、ゆっくり、白い汚濁に、沈んで行く。












ほぅら、病み付きになっただろ。



耳障りの悪い声が聞こえた気がして、八つ当たり気味に掴んだ腕に爪を立てた。














どんどん京一が病んで行ってる気がします(滝汗)。
八剣、どうにかしたって!!(←書いてるのお前だ)