僕のものではないという事実











例え何度穢しても。
例え何度、傷付けても。

例えどれ程、その身に消えぬ痕を残しても。



君は僕のものじゃない。











脇腹に残した行為の痕跡を、忌々しげに睨んでいる横顔を見つめる。
無遠慮なほどに見つめているから、きっと彼は視線に気付いているのだろうけれども、何も言わなかった。
恐らく、此方の顔など見たくもないと思っているのだろう。


しばらくそのまま停止していた京一だったが、動き出すと服を着る手を再開させた。
冬に着るには薄手の赤いシャツを着て、たったそれだけで肌の軌跡は隠される。

どうせなら、見える所に痕をつけたい────消えない痕を。
無防備に晒されている鎖骨だとか、向き出しの腕だとか、髪の隙間から見える項だとか。
けれども、そうするとかなりの不興を買うから、滅多にした事はない。






「明日は体育があるってのに……」






着替える時に面倒臭い。
学生らしい呟きを漏らして、京一は赤シャツの上に学ランを羽織る。

最初に逢った時のワイシャツはどうしたのかと聞いたら、なんでもあの一着しか持っていなかったらしい。
余分に買えるような金銭は持ち合わせていない、と言う京一に、八剣はただ一回だけ、悪かったねと言った。
上辺だけの言葉と取られたか、京一は顔を顰めたが、別に、と言った。



木刀と学校指定の鞄を持って、京一は部屋の戸口へと向かった。


外は暗い。
時計を見れば、草木も眠る丑三つ時。
最も、彼が帰る場所としている所は、あの不夜城なのだけれど。

彼の腕は自分が何よりもよく知っているから、心配する事はない。
自分に勝った男なのだから、其処ら辺をうろついて屯しているだけの輩に、何かされるとも思えない。


それでも、この言葉を告げる事は、何も可笑しなものではないだろう。







「もう遅いし、泊まって行ったら?」







冬の真っ只中である。
今外界に出れば、当然冷気が肌を突き刺す。

だから、物騒事に置いて心配の要らぬ相手でも、可笑しな台詞ではない筈だ。



今までにも、こうして何度か引き止めた事がある。


暗いし、と言ったら、慣れてる、と言われた。
危ないんじゃない、と言ったら、今更何が、と逆に問い返された。
寒いよ、と言ったら、これもまた慣れてる、といわれた。

雨が降っていても、雪が降っていても、これは同じだった。




そして今回もまた。








しばらく八剣の顔を見た後、京一は何も言わずに踵を返した。


















閉じた扉を見つめて思う。






あと何回抱き締めて、
あと何回口付けて、

あとどれ位穢して。


あとどれ位、傷付けたら、




君はこの手を取ってくれるだろう。



















八剣は京一が本当に好きなんだけど、京一がいまいちそれに気付いてないと言うか、信じてない感じ。
正面から言えば信じない、遠回りにすれば気付かない。

……この八京どうしよう(滝汗)。