京一の性格は決して素直とは言い難いが、感情は案外素直に表に出てくる。
それも多分、京一の意志ではないのだろうが、彼にもそれはどうにもならないらしい。




仔犬の龍麻と仲良くなってから、京一の遊びの幅はぐっと広がった。
それまで八剣がいない時は、寝て過ごすか、壬生の所で何をするでもなくテレビを見て過ごしていたのだが、近頃は一人遊びをするようになった。
トランプの神経衰弱を一人でやっていたり、綾取りやおはじきもするようになった。

今まで、そうした遊び道具を与えていなかったのかと聞かれたら、そうではないと八剣は答える。
遊び方もちゃんと教えた筈だし、頭の良い京一はちゃんとルールも一通り覚えていたと思う。
けれど、少なくとも八剣や壬生が知る限りでは、彼は玩具で遊んだ事はなかった。

この変化は恐らく、龍麻のお陰だろう。
一緒に遊べる友達が出来て、子供らしく“遊ぶ”ことを楽しめるようになったのだ。


京一と龍麻が今はまっているのは、トランプのババ抜きだった。
龍麻を預かっている鳴滝冬吾も加わって、三人でやっているらしい。
戦績は龍麻が一番、京一が二番で、鳴滝が三番だとの事だ。

先ず間違いなく鳴滝は判っていてジョーカーを引いているのだろうが、それを言うのは野暮である。

京一はこのババ抜きで、現在成績二位と言うのがお気に召さないようだった。
負けず嫌いでプライドが高いので、無理も無い。



─────そんな訳で、最近八剣は京一のババ抜きの相手をするのが日課になっていた。





「むー………」




八剣の差し出した二枚のカードをじぃっと見詰めている京一。
そろそろと手を伸ばすと、右へ左へうろうろさせて、左からカードを掴んだ。

しゅっと勢いよくカードを抜いて、自分の方へ絵柄を向ける。




「げッ!」
「ババだね。残念でした」
「う〜ッ」




京一の頭の上で、耳がピクピクきょろきょろ動く。

京一はカードを手札に加え、二枚になったそれを混ぜる。
シャッフルを終えて持ち直すとと、ずいッと八剣に突きつけた。




「ふむ」




八剣は考えるように顎に手を当て、京一の手札を眺める。
数秒そうしてから手を伸ばし、八剣から見て右のカードを摘む。

あからさまに京一の尻尾がゆらゆらと揺れた。




「やっぱりこっちかな?」




逆側の左のカードに手を移すと、京一の尻尾がぺたりと床に落ちる。
頭の上で忙しなく動いていた耳も、へにゃりと寝てしまった。

……また右に手を移す。
耳と尻尾が同時にピンッと立った。




「ふーむ、」
「はーやーくーしーろッ」




カードから手を離して考え込んだ八剣に、京一は伸ばした足をぱたぱた遊ばせて急かす。


八剣の手元にあるカードは、クラブのエースが一枚だけ。
此処で八剣がジョーカーを引かなければ、ゲームは終了し、京一の負けになる。

考える振りをして部屋の時計に視線を移すと、時刻は夜の十時を過ぎていた。
子供はもう寝る時間だが、京一は一向に眠くならないようで、尻尾をゆらゆら揺らせて八剣に催促している。
急かす仔猫をちょっと待ってねと宥めつつ、八剣はこのまま続行するか終わらせるかを思案する。



明日は一日、これと言った用事がないので、夜更かししても構わない。
しかし思い返せば昨日と一昨日も、随分遅くまで起きていたように思う。


八剣が夜遅くまで起きていると、京一も寝ないで起きている。
「一緒に寝たい」などとこの仔猫が言ってくれた事はなかったが、八剣の就寝を待っているのは明らかだった。
八剣がベッドに収まると、欠伸をしながら一緒にベッドに潜り込み、直ぐに寝息を立てるのである。

また、こうやってトランプをしている時も、京一は中々寝ようとしない。
自分の気が済むまで勝ち星を取らないと、何を言っても止めようとしないのだ。




「八剣ー」




尻尾をゆらゆら揺らして、京一は足をぱたぱた遊ばせる。
もう少しで勝負が着くのに、八剣のスローテンポが気に入らないのだ。

そんな京一の頬を撫でてやってから、八剣はカードへと手を伸ばす。
その傍ら、今日は何回勝負したかなと思い出していた。


右のカードを摘む。
京一の尻尾が嬉しそうに揺れた。

左のカードを摘む。
耳と尻尾がぺったり寝た。




「早くしろよッ!」
「ああ、ごめんごめん」




フーッ! と牙を見せて威嚇した京一に、八剣は改めてカードを摘んだ。





─────嬉しそうに揶揄う仔猫に、さていつになったら寝てくれるだろうかと、眉尻を下げて八剣は苦笑した。







2011/05/25

龍麻も尻尾ぱったぱった振ります(笑)。
鳴滝はそんな二人に気付いているけど、負けてあげてる。

八剣も京一を勝たせてあげたいんだけど、イカサマすると「手ェ抜いたろ! もう一回!」ってなるので、京一が自力で勝てるまで付き合います。