ボウルに上新粉100gを入れ、熱湯80〜100ccを少しずつ加えて練る。
練った生地の硬さは、耳たぶくらい。

せいろに布巾を敷き、小さく千切った生地を乗せる。
蒸気の上がった蒸し器にせいろを入れて蓋をして、強火で約25分蒸す。


蒸したら、次の手順に進む前に、生地の中心を少し食べてみる。
この時、ザラザラしていなければ蒸し上がりだ。


蒸し上がったら布巾ごと生地を取り出し、手で触れるようになるまで擂り粉木で突く。
その後、布巾を使って手でまとめ、更に滑らかになるまでよく練る。
十分に練れたら、生地を円盤状にし、冷水に直接つけて中まで冷ます。

生地を冷ましている間に、別のボウルに白玉粉20gを入れ、水大さじ2杯を少しずつ加える。
ダマが出来ないように手で混ぜる。
よく混ざったら、冷ました生地を入れ、餅状に伸びるまでよく練る。


ちなみに、昔ながらの味は上新粉だけで作る事が多いらしい。
今回は食感を加える為、白玉粉も追加した。


生地が出来たら、買って置いたこし餡とそれぞれ7等分にして丸める。
生地を楕円状にし、手前を薄く、向こう側を厚くなるように広げ、餡玉を包む。
合わせ目はしっかりと閉じる。

布巾をしたせいろに並べ、蒸気の上がった蒸し器に入れ、強火で約5分。
滑らかに仕上げる為に、途中三回ほど蓋を開けて、意図的に温度を下げる。
蒸し上がったら艶出しの為、コップ一杯の冷水をかける。


完全に熱が冷めたら、柏の葉で包む。
食べ頃は、餅と餡の一体感が出る数時間後だ。





と言う訳で、数時間後────午後三時。




「京ちゃん、おやつだよ」




そう言って完成品を差し出せば、お気に入りのパンダのぬいぐるみを抱き締めていた子供が顔を上げる。


上質な焼き物の皿に乗せられたのは、大きな葉に包まれた餅。
八剣手製の柏餅である。




「先に手を拭こうか」
「ん」





パンダをソファに乗せてから、ウェットティッシュを一枚取って、きちんと手を拭く。
天邪鬼でも素直な子供に、八剣は微笑み、くしゃりと頭を撫でてやった。


一つを手に取り、柏の葉を取って、ぱくりと食いつく。
もごもごと弾力のある餅生地を噛めば、甘味が子供の舌には心地良く。
昼食後から数時間が立ち、空き初めていた小腹には丁度良いあんばいだ。

ただ一つ、餅生地が手にべったりとくっついてしまう意外は。




「うーッ」




ぺたぺたとくっつく餅生地に、京一は顔を顰めて唸る。
それがなんだか、ネズミ捕りのトリモチに引っ掛かった猫のようで、八剣は苦笑する。




「葉を全部取るからだよ」
「じゃま」
「はは。こうやれば邪魔にもならないし、手も綺麗なままだよ」




葉があったら食べれない、と言う京一。
単純で判り易い子供の発想に、八剣は工夫を加えてやる事にする。

餅に巻いた柏の葉を全部取るのではなく、半分程まで捲る。
餅の半分から下は葉に覆われたままで、手に持つのはその部分だ。
これで手はベタつかないし、持つのも手放すのも楽だし、食べるのも支障がない。


ほらね、と見せる八剣に、京一はむぅと唇を尖らせる。
機嫌を損ねたかと思ったが、京一は一つ目の柏餅を食べ終えると、二個目に手を伸ばした。
今度は八剣がして見せたように、葉を半分だけ捲って、葉に覆われた部分を持つ。




「むぐ」
「あまり一杯口に入れない方が良いよ」
「んむ。むぅ」
「喉に詰まると大変だからね。はい、お茶」
「ん」




渋みのある茶を渡せば、京一はちゃんと冷ましてからそれを飲む。

京一の実家は洋食よりも和食を好む事が多く、和菓子に接する機会も多かった。
自然、それらに合わせて渋茶も飲むようになり、子供が嫌いと良いそうな苦味にも慣れている。


京一の手が三個目に伸ばされる。
ペースが早い。
どうやら、気に入ってくれたらしいのが、八剣は嬉しかった。

好き嫌いは多いけれど、出されたものはいつもちゃんと食べる。
それでも速度の違いで、食べたいものか食べたくないものかと言うサインは見せてくれる。
その点では、この柏餅は合格したようだ。

合わせて煎れた茶も京一の舌に合っているらしい。



────そう、満足感に浸っていると。





「う゛」





ぴたりと京一の動きが止まり。
歪んで行く表情と、青くなる顔色に、八剣は慌てた。




「京ちゃん!」




小さな体を抱えて前屈みにさせ、後ろから両手で京一の腹を引き寄せるように圧迫させる。
うえ、と何度か息苦しそうな声が聞こえたが、今ばかりは謝る暇も気遣う余裕もない。




「う゛……ぐ、ぅ…ぅえッ」




京一の口から餅の切れ端が吐き出される。
それは子供の体の作り、食道器官を考えると、明らかに大きい。

げほげほと咳き込む京一を抱き締めて、今度は落ち着かせる為に背中を叩いてやった。




「えッ、ふえッ、うぇええぇえ……」
「よしよし。怖かったね」
「ひぐッ、ひッ、ふえ、うぁあぁあ…」
「言っただろう、気を付けないとって。判ったね?」




慰めながらの注意の言葉に、京一はこくこくと頷く。
ぼろぼろと泣きながら。

意地っ張りのこの子がこれだけ泣くのだから、相当怖かったのだろう。
滅多に抱きついて来ない筈の京一は、今ばかりは八剣に確りとしがみ付いていた。


泣きじゃくる愛し子を宥めつつ。
勿体無いけど、これはもう無理かなと、残りの三つの柏餅を見て思う。

この子の為に作ってあげたのだけれど、もう仕方がない。
こんな目にあってしまっては、二度と同じ思いはしたくないと、嫌いになっても無理はないし。
取り敢えずは、落ち着かせてあげないとなぁと思いつつ、ソファでじっと見つめるパンダを差し出すことにした。






数十分後。

パンダを片手に、八剣の膝の上で。
さっきよりは遅いペースで、残りの柏餅を食べる京一の姿があった。









20009/05/05

なんかこの八剣は凄い家庭的だな。
本物の八剣には生活感はまるで感じないんですけどねぇ(笑)。

また泣かせてごめん、京一………