上手く折れない。
それが無性に腹が立って、一番に投げ出したのは京一だった。




「あきたー!!」




歪な形になった折り紙を放り投げて、京一が言った。
その隣で黙々と折っていた龍麻が顔を上げ、その向かいで二人に折り方を教えていた葵が眉毛を下げて笑う。
ぽーんと放られた未完成の折り紙を取りに行ったのは、自分の分を折り終わった壬生だった。

壬生が拾った折り紙を持ち主の所で返そうとするが、差し出されたそれを、京一は受け取らなかった。
代わりに龍麻が受け取ってありがとうと言うと、壬生は少しだけ顔を赤くして、黙ったまま元の位置に戻って行った。



真神保育園の子供達は、現在、揃って折り紙に熱中している。

しかし、こういう細かい作業は得手不得手があるものだ。
得意なのは葵、醍醐、如月、雛乃、亮一、壬生、龍麻で、苦手なのは京一、小蒔、雛乃、雨紋。
それぞれ得意な子が苦手な子に教えているのだが、その中でもダントツに京一は折り紙が下手だった。
自分自身でも下手だとはっきり宣言しているので、教える側もそれを判っている。


だがそれよりも問題だったのは、京一の集中力の短さであった。




「もうやだ。オレやんねェ」
「がんばって、きょういちくん」
「やだ」




葵の励ましにプイッと明後日の方向を向いてしまう京一。
いつもなら此処で小蒔が怒り出すのだが、現在は此方も折り紙に四苦八苦しており、京一に構っていられない。
醍醐に丁寧に教えて貰いながらも、京一と同じように、度々爆発寸前になっていた。




「もうやだ、ボクわかんないよぉ〜」
「だ、だいじょうぶです。こっちを、こう……」
「らいと、そっちじゃないよ。それヒコーキの方だよ」
「え? ちがうのか?」
「ひなァ〜……もういいじゃねーか、かわりにやってくれよ」
「ダメです! ねえさま、いつもそうやって、とちゅうで止めちゃうんだから」




止めたいもう嫌だと言い出す苦手な子供達と、励まそうとする得意な子供達。
あまり周りの子と喋らない壬生と如月は、二人それぞれ、黙々と別のものを折り始めていた。

それを見守っているのは犬神先生。
一番最初に折る手順を教えた後は、子供たちが自分から聞きに来ない限り、じっと様子を見ているだけだった。
ちなみに彼の手元には、如月作のウサギの折り紙が収められていたりする。


龍麻は自分の折り紙を最後の手順まで折り終えると、京一が折っていた折り紙を見た。
何度も何度も折り直したのがよく判るくらい、その折り紙はシワだらけになっている。

京一は、まだ葵にもう嫌だもう止めると言っている。
葵がどんどん困った顔になっていて、「頑張って」と言っても京一は聞かなかった。
それを傍らに聞きつつ、龍麻は犬神先生が説明した通りに京一の紙を折り進めていく。

程なく、完成したそれを持って、




「はい、きょういち」
「ん? うぉ、やりィ!」
「もう、ひゆうくん…」




一人一人作るようにと言われたのに、龍麻が京一の分を作っては意味がない。
けれども嬉しそうな京一に、葵もそれ以上強くは出れなくなってしまった。

周りでも同じような事が起きている。
ギブアップした小蒔と雨紋の代わりを醍醐と亮一が、雪乃はまだ雛乃に教えて貰いながらもう少し自分で頑張るらしい。
見守る犬神先生は、いつもと同じ表情で、怒る事はなかった。


折り終わった折り紙に、クレヨンを乗せて、柄を描く。
どう描けなんて言われていないから、時々、可笑しな柄のものが誕生していた。



柄も描き終わって、完成品が三つ出来たら、それぞれ犬神先生の所に持って行く。
京一も、龍麻に残り二つを作って貰って、二人揃って犬神先生の所へ走った。




「せんせー、できました」
「いぬがみ! できた!」
「……先生だ」




端的に京一の呼び方に修正をつけてから、犬神先生はテーブルに用意していた割り箸を取る。
一人一本ずつ受け取って、子供達は元の位置へと戻って行った。

折り紙の完成品に糊をつけて、割り箸に貼る。
糊が乾いて固定したら、本当に完成だ。


龍麻と京一は出来上がった完成品を持って、遊戯室を出た。
後から葵と小蒔と醍醐もついて来て、三人とも二人と同じものを手に持っている。

向かったのは、園舎の玄関口。
其処には高見沢先生が待ってくれていて、駆けて来た子供達を見てにっこりと微笑む。
龍麻と京一は高見沢先生の前まで来ると、手に持っていたものを差し出した。




「できた!」
「わ、格好いい!」
「えへへ」
「じゃあ、これは先生が預かるわね」




二人の手から、完成品が高見沢先生の手へ。
それから下駄箱の上に行って、それは下駄箱の上に並べられた。




「なぁ、もう行っていいか? オレ、はらへった」
「ぼくも……」
「良いわよ。熱いから、火傷しないようにね」
「へーい」
「はい」




いそいそと靴に履き替えて、庭へ出る。
その後ろで、葵、小蒔、醍醐の三人が、同じように完成品を高見沢先生に渡していた。


龍麻と京一が外へ出ると、玄関口の直ぐ横で、ほかほかと温かな湯気が上がっている。
二人で其処へ駆け寄れば、マリア先生と遠野先生が立っている。
マリア先生と遠野先生の前には、蒸し器を乗せたテーブルがあった。

やってきた子供達に、遠野先生とマリア先生はにっこり笑い、




「はい、お待ちどーさま!」
「火傷しないように、ゆっくり食べるのよ」





蒸し器から取り出されたのは、温められた手作りのかしわ餅。


葉っぱに包まれたそれを受け取ると、京一は龍麻の手を引っ張って歩き出した。
龍麻は手に持った温かいかしわ餅を落とさないように気をつけながら、京一の後ろをついて歩く。

二人が向かった先にあったのは、いつも京一が木登りをして遊んでいる、保育園の大きな木の下。



龍麻と京一に続いて、葵達もかしわ餅を受け取る。
それから亮一が雨紋に手を引っ張られて外に出てきて、やはり同じようにかしわ餅を受け取った。
雛乃と雪乃が少し疲れた顔で出てきたけれど、かしわ餅を受け取れば直ぐ笑顔だ。

最後に、自分の分が完成してもずっと折り紙をしていた壬生と如月が、犬神先生に連れられて来た。
マリア先生が微笑みかけて、二人にもかしわ餅を渡す。






子供達は皆好き好きに散って、タイヤやブランコやブロックに座ってかしわ餅を食べ始める。

そんな子供達を見守るように、大きな三匹のコイが、空で元気に泳いでいた。









20010/05/05

やねよーりーたぁかーいー、こいのーぼぉり〜。
と言う訳で、こどものじかんでこどもの日でした。京一も大分打ち解けてる様子。

こどもの日の当日って、保育園やってないんじゃないかなぁとも思うのですが、其処はスルーでお願いします(爆)。