本気で泣き出してしまった子供に、一同がてんやわんやしてから、約十分。
ビッグママのいるカウンターの向こうに非難して、京一はようやく落ち着いた。

お気に入りの子供を取り上げられた一同は、一旦は反省し、落ち込んだのだが─────




「京ちゃん、こっち向いてェ」
「アン、こっちが先よォ!」




再び黄色い声をあげて、可愛い子供の気を引こうとしている。
京一もカウンターテーブルがあるので、安全地帯にいる事を認識しており、もう泣き出したりはしない。
声のした方向に頭を向けてやって、お年玉代わりのお菓子を貰っていた。

貰った飴玉を口に放り込んで転がす京一。
頬袋が出来ているのがまた可愛らしく、彼(女)達の目を楽しませる。


現金と言えば現金な子供に、ビッグママが苦笑した。




「あんなに嫌だって言ってたのに。もういいのかい? 京ちゃん」
「いちおー約束したっつーし。食いモン貰えるし」
「そうかい。ほら、お餅が焼けたよ。食べるかい?」
「ん」




ガリガリと飴を噛み砕いて、差し出された餅を受け取る。

箸で摘んで齧り付いた餅を引っ張る。
よく伸びる餅に、あぐあぐと口を動かしていると、近い距離で写真のフラッシュが焚かれた。
それからテーブルの向こうでまた揉め始める声。




「ちょっとズルイ! アタシにも頂戴よォ、それ!」
「イヤン! アタシのカメラだもの、アタシのものよ!」
「……頼むから、あんまバラまかねェで欲しいんだけど」
「ほらァ!!」
「そんなァ、京ちゃぁ〜ん」




餅を食べている所を食べられるのは構わない。
それを写真に撮られても、焼き増しされるのも、別に気にしない。

しかし、今の格好─────ウサギの着ぐるみを着ているのを記録に残されるのは、あまり宜しくない。




「ね、京ちゃん、お願い。アタシにも写真取らせて!」
「アタシもォ」
「抜け駆けなんてずるいわ、アタシも欲しいのにィ」




次々詰め寄ってこられて、テーブルを乗り出して来る。
あまりの勢いに飲まれかけた京一だが、もう泣き出したりはしなかった。
顔を引き攣らせつつも、まぁまたあんな大揉めになるよりは、と思い至る。




「…いいけどさ。さっきみてェなケンカなしな」
「撮りたかったら順番守るんだね。次にあんな大騒ぎして京ちゃん泣かせたら、もうナシだよ」




可愛い子供の頼みと、ビッグママの援護射撃。
それさえ守れば、可愛い姿がまだ見られるのだと判れば、皆直ぐに大人しくなった。


カウンターテーブル越しでは、全身が撮れない。
だから、もうケンカもしないし、大騒ぎもしないと約束して、京一はカウンターから表に移動する。

それからは、いつものソファに座って撮影会状態。
何度か興奮から揉め事が起きるかと言う空気になったが、ビッグママの鶴の一声で窘められる。
京一は餅に御節にお菓子と、他にも戦利品を貰えたので、終始ご機嫌だった。





それからしばらく、歌舞伎町界隈で、着ぐるみ姿の子供の写真が売られるようになったのは─────本人のみぞ知らない話であった。






2011/01/01

バレたら京一じゃなく、ビッグママから制裁されそうな予感(笑)。