今日も今日とて鬼退治。


鬼の出現率は大分下がってきているが、全くゼロになる気配はなく。

如月に言わせれば、そもそもあれらは龍脈の活性とは関係なく存在するものなのだそうだ。
“鬼”の語源である“隠(おぬ)”の名の通り、人に知られる事なく、陰で息づいているものであったものが、龍脈の活性化によって《力》が増幅され、人目につく事が増えるようになっただけに過ぎない。

─────しかし、今日ぐらいは鬼なんて出ないものなんじゃないか、と小蒔は言う。




「だって節分だよ。鬼は外ー、福は内ーってね」




戦闘で舞い上がった埃に塗れてしまった、制服。
手の平でパンパンと払いながら、小蒔はブツブツと文句を言った。

それを聞き留めた京一が、木刀を太刀袋に仕舞いながら呆れた表情を浮かべる。




「その言葉通りなら、鬼が出ねェのは家の中だけだな。外にゃ追い出された鬼がウヨウヨいるって事になる」
「……あ、そっか」




京一の突っ込みに、小蒔は納得した。


醍醐と龍麻の傷の手当を終えた葵が、次に小蒔の下へ向かう。
親友の切れてしまった額に手を伸ばして、白い光が其処を包み込んだ。




「それにしてもさ、今日ってなんかやたら鬼が多くない?」
「まァな。言葉通り、おんだされた鬼がウロついてンじゃねえか」




傷が消えると、葵は最後に京一の下へ。




「京一君、怪我は……」
「ああ、オレはねェから問題ねェ。それよか、其処で伸びてるオッサンの瘤でも治してやっとけ」




京一が指差した先には、鬼に襲われていたサラリーマンの男性が倒れている。
仰向けになって目を回している彼に葵は駆け寄り、そっと彼の体の状態を確認する。
幸いにも鬼によって負わされた傷はないようで、京一の言葉通り、昏倒した時に地面にぶつけたのだろう瘤が後頭部にあるだけだった。

他に目立った傷もないなら、目覚めた時には、今夜の出来事は夢だと思い込むだろう。
それでも念の為、葵は治療の後に、少しだけ記憶変換の催眠をかけておく。


これで一段落、とサラリーマンの男性を壁に寄りかからせて、葵は立ち上がった。




「葵、どうする? もう一回りしとく?」
「そうね……なんだか今日は物騒だし」




時刻は随分遅くなっており、いつもならそろそろ引き上げる頃だ。
しかし、今日の鬼の出現率を考えると、まだまだ終わるには早そうだ。

それじゃあ次は向こうを、と葵が率先して歩き出そうとして──────




「美里さん、危ない!」
「─────きゃッ!!」




張り詰めた龍麻の言葉に真っ先に反応したのは、京一だった。
一足飛びに葵の下まで駆け寄ると、彼女の体を抱くように拾って前方へと転がる。


葵と京一が振り返れば、全長三メートルはあろうかと言う巨大な人影。
プロレスラーを思わせるような体躯に、丸太のように太い腕、その手には金棒。
人間と同じような体つきの中、頭部の頂点に生えた太い角が、シルエットの中で異形である事を示していた。

絵本や漫画、伝奇で見るような、正しく“鬼”。




「今日って日におあつらえ向きだな」
「全くだ」




木刀を太刀袋から引き抜いて構える京一。
その呟きに、醍醐が苦笑して頷いた。




「そんじゃ、追い出された不法侵入者は、とっととお帰り頂くか」





言い終えるが早いか、京一は地面を蹴って鬼へと突進する。
鬼は金棒を振り上げて、雄叫びを上げて京一と真正面から激突を狙った。

振り下ろされた金棒を、京一の木刀が受け止める。
体重の乗った一撃に彼の足がコンクリートにめり込んだ。
その脇を掠めて、三本の矢が鬼の足を射抜く。

巨漢を支える足の一本を奪われて、鬼のバランスが崩れ、体勢が傾く。
金棒が浮いた瞬間を逃さず、京一が手首を捻って木刀を一閃すると、恐らく何物よりも固い物質であろう金棒が、真っ二つに割れた。


斬撃の名残が鬼の手を切り裂いたが、鬼はそれに構う暇はなかった。
京一の背中を足場にして、跳躍した醍醐が、太い喉仏に拳を打ち込んだ。
潰れた蛙の様な、引き攣った鳴き声が零れる。

宙に浮いた無防備な醍醐を掴もうと、巨大な手が彼に迫ったが、またその腕も小蒔の矢によって射抜かれる。
後方から狙う小蒔を鬱陶しく感じたか、ターゲットが小蒔に移った。
弓を番えた小蒔に向かって、巨漢が地響きを鳴らしながら突進する。

しかし、それも届かなかった。
小蒔の傍らに控えていた葵が張った結界の檻によって、鬼は行き場を失う。




「─────醍醐!」
「おう!!」
「借りるね」




構えた醍醐へと、京一と龍麻が走る。
ジャンプした二人は醍醐の手に足をかけると、彼の強力を借りて、鬼の頭上へと飛び上がる。




「うらぁッ!!」
「─────はッ!!」




鬼の首が跳ね跳び、それでも生きていた、いやらしく笑ったその顔に、龍麻の拳がめり込む。
龍麻の小手が白い光を放ち、鬼の頭はその光の中で消し飛んだ。
同じく、道を塞いでいた巨大な体も、綺麗さっぱり消えてしまった。

これで終わり───と思ったのだが。
龍麻と京一は、不穏な気配を感じ取って、居並ぶビルの上を見上げた。


月明かりすらない闇夜の中、蠢く沢山の陰がある。




「……どんだけ不法侵入者がいるんだよ」
「皆、追い出されちゃったんだね」




どうやら、あれらを全て片付けるまで、今夜は帰れそうにない。







鬼は外。
福は内。

豆ぶつけたら消えないかな、と呟く小蒔に、試してみるかと京一が笑った。









2011/02/03

アニメ・ゲーム共に決戦があったのは1月1日ですから、ゲームはともかく、アニメでこの時期こういう事は有り得ないんですが……気にしてたら京一の誕生日も祝えないので、其処はスルーでお願いします!(今更ですが)
小蒔と京一の理屈で行くと、「鬼は内」の地域はどうすんだって感じですね(笑)。普通は“鬼”と言っても、言う程悪いイメージだけではないし。
ただの二人の言葉遊びみたいなモンです。

京一と小蒔の漫才みたいな遣り取りが好きです。二期の二人の会話が好き。
でもって、葵の事は守る、助けてあげてる京一が好きです。なんやかんや言っても、彼は女子メンバーに優しいと思う。

五人揃うと小蒔と京一がよく喋る代わりに、龍麻と醍醐が喋らなくなるので、バランスが難しいです。