「付き合う事になった。な」




そう言ったのは、京一で。
隣にいる人物に同意を示せと声をかけ。




「う、ん?」




その隣で小首を傾げて頷いたのは、小蒔だった。




「……………!!!!」
「あっぶねーな! せめてなんか一言言いやがれ!!」




無言で振り下ろされた拳を避けて、京一が怒鳴る。
それで醍醐の気が収まる訳がなく、続け様、大きな手が京一の胸倉を掴む。




「お前、お前ッ…!! いつからだッ、いつからッ!」
「さーていつからだっけなァ」
「ん? 何が?」




詰め寄られた京一だったが、恐れ戦く訳もなく、けろりとした顔で眺めている小蒔に問う。
それを受けた小蒔はきょとんとして首を傾げ、京一の質問の意味を把握していないようだった。


醍醐が問いたいのは、旧知の友人である筈の京一と、片想いしている小蒔の二人が、いつから互いに大してそういった感情を抱いていたのかと言う事。

京一も小蒔も夏ごろからよく話をするようになったが、その関係はあくまで友人・仲間だった。
よく揶揄い合い、軽口を叩き合う仲で、確かに仲が良いと言われればそうだったが、それ以上とは誰も思っていなかった。
それは二人に限らず、龍麻と葵、京一と遠野と言うように組み合わせを変えても同様だった筈。

なのに─────そんな二人がどうしていきなり、恋人同士なんて関係に発展するのだろうか。


京一に食って掛かる醍醐の取り乱しっぷりは、半端ではない。
無理もない、何せ彼は真神学園に入学した時から、今日までずっと、小蒔に片想いしているのだ。





「京一ィィィィィィィ!!!」
「うえっぷ…ちょ、離せこの馬鹿、脳ミソ出るッ」
「醍醐君、落ち着いて。深呼吸した方が良いよ」




がくがくと揺さぶられた京一の訴えは、醍醐にはまるで聞こえていない。
龍麻が醍醐を宥めようとするが、それも効果は見られなかった。

あわや惨事の時が近付きつつある男子陣に比べ、女子陣は平和────と言う訳でもなく。




「え? なんで? なんで京一なの??」
「うーん…なんでって…?」
「小蒔、京一君の事が好きだったの?」
「いや、そういう訳でもないんだけど」
「じゃ京一が告白して来たの?」
「そういう訳でもなくて。って言うか、告白って…?」




遠野の質問攻めに、小蒔はなんとも煮え切らない返答ばかり。




「いやいやいや。可笑しいでしょ、なんで京一?」
「成り行き…? ってかさ、なんか可笑しいこと言った? ボク」
「成り行きだとしてもさ、桜井ちゃんが付き合うんなら醍醐君でしょ?」
「なんで醍醐君なの?」
「小蒔……」
「あいたー……」
「おい沈むなよ、お前。つか早く離せ」




付き合うのなら醍醐だろうと言う友人達に、小蒔は至極不思議そうに問い返す。
それは、真新しい傷に粗塩を塗り込めるも同然のものであった。

醍醐は京一の胸倉を掴んだまま、がっくりと撃沈する。


京一は自分よりも蓋周り程大きな醍醐の手を解かせて、よじれた学ランの襟元を直す。
文字通り撃沈している級友を見る彼の目は、呆れているようで、仕様がないなと苦笑も浮かべている。
それを見ているのは、隣に立っている龍麻だけ。




「……京一」
「あん?」
「…駄目だよ、こういうのは」




諌める瞳が京一を射抜く。
京一はしばらくそれを睨み返すようにじっと見て、




「……お前、ノリ悪ィぞ」




不服と判る目でそう呟き、沈み込んでいる醍醐の前で膝を折る。


見れば醍醐は、何かをブツブツと呟いている。
あの時か、それともあれか、いやでもあの時はまだ……とこの一年───若しかしたらこの三年か───を振り返っているようだ。
恐らく、級友と想い人が何処で気持ちを繋げ合ったのかを探ろうとしているのだろう。

……それよりもっとやる事があるだろう、と胸中で呟いて、京一は溜息を吐いた。




「安心しろよ。嘘だから」
「………………………何?」




たぷりと間を置いての反応に、京一はにーっと笑う。
意地の悪い、悪戯っ子の笑みで。




「オレがあんなガキくせェのと付き合う訳ねーだろ」
「なんだとー!?」
「オレはホモの気はねーんだよ」
「だ・れ・が・男だぁあああッ!!」




お前だお前、と笑う京一に、当然、小蒔が憤慨する。
常ならば小蒔を怒らせるような事を言えば、漏れなく醍醐も付属してくるのだが、今回はそれはなかった。
醍醐にそんな気力がなかったのだから無理もない。


京一は殴りかかってくる小蒔から、素早く距離を取る。
教室の窓枠に足を乗せると、ひょいっと乗り越え、いつものようにグラウンドへ降りて行った。
直ぐに小蒔も後を追い駆けようとするが、葵と遠野に止められる。

待て、と怒鳴る小蒔に構わず、地面に下りた京一はそのまま駆け出した。
が、ふと足を止めて振り返り、自分を見下ろす友人達の姿を認め、




「其処のヘタレに言っとけ。ウダウダしてると、いつか本当にこうなるぞってな!」




──────それが、付き合いの長い友人への忠告と、アドバイスであると。

……残念ながら、その言葉を向けられるべき本人が気付く事はなかったのであった。






2011/04/01

エイプリルフールでした〜。

小蒔は多分、「面白いことするからちょっと付き合え」とか言われただけだと思います。
京一と小蒔はあくまで“&”が好きです。醍醐を挟んで京一が面白がってると良い。