山積みにされたプリントが減らない。
寧ろ増えているように見える────のが気の所為なのは、十分判っている。
判っているが、そんな錯覚を覚えてしまいそうな位、やってもやっても終わらないのだ。

積み重なった紙の束の、なんと忌々しい事か。


判っている。
計画的に、そうでなくとも、まともに授業に出ていれば、少なく見積もっても、この半分はやらなくて済んだのだ。
一週間の授業の内、半分近くを当たり前のようにサボタージュするから、こんなツケが周って来るのだ。

だからこの状況は自業自得と言う他ないし、これで誰かに当り散らして済むと言う話でもない。
ついでに言うなら、このプリントを用意した生物教師の責任ではない事も────頭では一応、判っていた。



塔の天辺の一枚を手に取って、半分に折る。
開くと真っ直ぐな線の跡が残り、今度はそれを目印にして、紙の端と端を対角線に折った。

折って、折って、折って、本日五機目の手作り飛行機が完成する。
手首のスナップを利かせて放てば、飛行機はひゅうと弧を描いて、誰もいない教室内を飛ぶ。
前方へ前方へと飛んだ飛行機は、程なく黒板に当たって、かさりと音を立てて床に落ちた。
その周囲には、同じようにして不時着若しくは墜落した飛行機達が散らばっている。




……いつも隣にいて、一緒に補習を受けている筈の相棒は、今はいない。
九角との戦いで負傷した傷は、さしもの彼でも、そう簡単に回復してはくれなかった。
お陰で隣席がスカスカするような気がして仕方がない。

─────だからだろう。
いつでもやる気の出ない補習授業が、いつも以上にやる気が出ないのは。




(妙なモンだな)




放課後の人気のない教室に残っているのは自分一人。
部活で残っていた生徒が帰り、職員室で仕事をしていた教師が帰り、残るのは京一と、大嫌いな生物教師。
時々担任のマリアも残っている事があったけれど、大抵は犬神一人が京一の補習に最後まで付き合っていた。

……去年はそれが普通だった。
一昨年もそれが普通だった。


今年もそうなのだろうと、思っていた。
いっそ留年しても仕方あるまいとも思っていた。



なのに、あの桜吹雪の舞う日から、何もかもが予想外な事ばかりが起きている。




(訳の判らねェ転校生が来た)

(訳の判らねェ《力》を手に入れた)

(訳の判らねェ化け物とやり合う羽目になった)




六機目の飛行機を作りながら、つらつらと考える、思い出す。
桜吹雪の舞う日─────それ以前の日々の事を。




(一人が当たり前だと思ってた)

(一人が楽だと思ってた)

(どうせ独りなんだと思ってた)




自分の傍にいてくれた人達を、自分が傍にいる事を許してくれた人達の事を忘れてはいない。
ただ、京一の中で、あの人達は別格扱いと言うか……そう言うカウントには入らなかった。
それは無自覚の甘えなのだろうか。



六機目の飛行機が離陸─────そして不時着。
七機目を折ろうとして、手が止まる。




(卒業─────しねェと)




留年しても、きっとあの人達は怒らない。
のんびりして行けばいいのよ、と言って笑うだろう。

以前の自分なら、それでいいかとも思っていた。



でも、今それをすると、







『卒業、しようね』


『皆と』







そう言ったのは誰だろうと、指折り数えて、

五本指が全部埋まって、



………さてやるかと、五分だけやる気を出す事にした。










2010/10/30

このままでもいいと思っていた日常が、いつの間にか過去のものになっている。

色々疲労困憊している所なのですが、今後の為にやらなきゃいけない事山積みなので、こんな気分で頑張っております。
ローペースですが一応小説も書いておりますので、出来上がったらアップしようと思っています。
すっかり更新が滞り勝ちになってしまっていいますが、ネタがある限り書いて行く所存ですので、お暇な方は思い出した時にでも覗いてやって下さい。