可愛い。
可愛い!

そう言ってきゃあきゃあ騒いだのは、葵、小蒔、遠野の三人と、『女優』の面々だった。




「ウサギさんだ、ウサギさん!」
「かわいい、ちっちゃ〜い!」




そりゃ小さいだろ、ガキなんだから。
遠野の言葉に突っ込んでやりたかったが、京一はそんな気力もなくなっていた。


写真に写っている、もこもこのウサギの着ぐるみを着た少年は、間違いなく京一だ。
京一も覚えがある(正直言って事実ごと記憶から消し去りたいが)。

写真の頃からして、確か、初めて『女優』に来て年越しをした時に着せられたものだ。
卯年だからと着せられて、『女優』の仕事仲間達にお披露目され、撮影会にまで発展した時に撮られたもの。
あれ以降あんな格好はしていないので、先ず間違いなく、その時のものに間違いない。



ソファにぐったりと沈み、天井を仰ぐ京一。
そんな京一に、龍麻の顔がひょいっと視界に割り込んできた。




「ああいう事、したことあったんだね」
「…したくてしたんじゃねーよ」




元旦の初詣で甘酒を飲んで、酔いが回っている間にしてしまった約束。
未だにその時の記憶は京一にはなく、いっそ駄々でも捏ねて覚えてないと喚いた方が良かったか────と今になってまた後悔している。


葵達は一頻り楽しむと、ぱたぱたと弾んだ足取りで、カウンターにいるビッグママの元へ駆けて行く。




「ママさん、この子、京一ですよね?」
「うん? ────ああ、そうだよ。懐かしいね。何処で見つけて来たんだい?」
「─────そうだ! アン子、何処だ、どっから見つけて来た!?」




疑問を訊ねたビッグママの言葉に、京一が飛び起きて叫ぶ。
ソファの背凭れを飛び越えて、遠野に一気に詰め寄った。




「ど、何処って……えーっと……見つけたってゆーか、売られてたってゆーか、」
「……………はぁ!?」




頬を掻いて目を泳がせながら言った遠野に、京一は引っ繰り返った声をあげる。




「売られてただァ!?」
「なんか、ほら、あるじゃん。アイドルとかのピンナップ写真売ってるお店。ああいう所に…」
「…あれは芸能人とか、人気がある人の写真を置いてる所じゃないいのか?」




なんでそんな所に京一の写真が───それも子供の頃のものが───置いているのか。
首を傾げる醍醐の疑問に答えたのは、一連の騒ぎを遠巻きに見ていた吾妻橋達だった。




「いや、此処ら辺じゃアニキの写真もよく並んでますぜ。有名ですから。ガキの頃のは俺らァ見た事ねえけど、最近のならたまーに見ますぜ。結構高値ついてやす」
「そうなのか?」
「オレが知るか!」




異名も本名も含め、名は通っているとは思うが、こんな形で有名だなどとは思ってもいなかった。
おまけに、子供の頃だけならまだしも、最近の写真も出回っているってどういう事だ。
盗撮されてるのか、気付いていないのか、このオレが!!

無性に頭を掻き毟りたい衝動に狩られて、京一はがしがしと頭に爪を立てる。
何をどうしたらこんな形で─────もう訳が分からなかった。


龍麻は写真に写っているウサギ姿の少年と、傍らでプチパニックを起こしている親友とを交互に見比べる。
うん、面影があるなあ、と思いつつ、




「京一、人気なんだね」
「……嬉しくねェ」




これで遠野が見つけてきたのが、つい最近の時代を写したものか、中学生の頃だったら、まだ良かったのに。
よりにもよって小学生の頃で、あんな恥ずかしい格好をさせらてている時の代物なんて。

精神的にも物理的にも沈んでいきそうな京一の思考に、ふと、少女たちの声が届く。




「ね、アン子。秘蔵写真ってコレだけ?」
「う〜ん……店員さんに聞いたら、まだありそうな素振りだったんだけど。うちの店にはこれだけって言ってた」




──────“うちの店には”。

……と言う事は、つまり。





「……おい、吾妻橋」
「へい……!?」





ゆらりとソファを立ち上がった京一に、吾妻橋は返事をして────敬愛するアニキを見て一瞬戦慄いた。
まるで幽鬼の如く、瞳に冷たい色を宿した京一の姿に。




「お前、幾つか知ってるよな? ピンナップ写真だかなんだか扱ってる店」
「へえ…ま、まぁ、三つ四つぐれェなら……」
「連れてけ。」




端的に告げられた言葉は、絶対零度の、完全な“命令”。
手にした木刀を握る手に力が篭り、ミシリと不穏な音を立てたのは、果たして気の所為だろうか。




「アン子! 後でそれも処分だからな!!」
「えーッ!!」







過去は清算する。
須らく、その全てを自分自身の手で。








2011/02/21

また写真ネタか!
京一、自分の過去とか知られるの嫌だろうな……だからうちの京一は、自分の子供の頃を知ってる人には中々頭が上がりません(岩山先生が筆頭)。