今日のおやつ、と差し出されたのは、柏の葉に包まれた白い餅。
京一はそれをいつものようにソファに座って、葉を半分捲って食べていた。

隣には龍麻が座って、京一と同じように柏餅を食べている。
ただし、彼が食べているのは白ではなく、綺麗なピンク色をしている。
普通に考えれば、食紅か海老入りかと思う所だが、何せ食べているのが龍麻である。




(苺餅ってなんだよ……)




ビッグママが龍麻に差し出したのは、苺を混ぜた餅米で作られた柏餅。

龍麻の苺好きは今に始まった話ではないし、苺系の食べ物に目がないのも周知の事実。
けれども、物には限度があるだろうと京一は思うのだ。


ちらりと隣の龍麻を伺ってみれば、にこにこと笑みを浮かべて苺柏餅を食べている。
人当たりの良い性格をしているとは言え、舌に合わなければ案外と顔に出る人物なので、恐らくお気に召したのだろう。

だが京一は、何度考えても、ショッキングピンクの餅が美味いとは思えない。
紅白餅だの、海老入り餅だのとは訳が違うのだ。
苺大福のように、餅の中に実がそのまま入っていると言うのならまだ良いが(決して食べたい訳ではないけれども!)。



カタン、と小さな音が二つ。
テーブルに湯気を立てた渋茶が置かれており、顔を上げてみれば、此方もにこにこ笑顔のアンジーがいた。




「美味しい? 京ちゃん」
「ん」
「苺ちゃんはどう?」
「美味しいです」




ぶっきら棒な返事をした京一と、やはりにこにこ笑顔の龍麻と。
それらを見れてアンジーは満足したようで、嬉しそうな表情を浮かべて、ソファに腰を下ろす。


じっと、京一は感じる視線から務めて意識を逸らしていた。
視線は間違いなくアンジーのものなのだが、京一はなんとなく、それと目を合わせるのが気恥ずかしい。

食べているのを見られるのが恥ずかしい、と言う訳ではない。
アンジーが見ているのも特に意味がある訳ではなくて、ただ“美味しそうに食べている”のを見詰めていたいだけ。
母親が、自分の幼い子供の食事風景を眺めて和んでいる、多分それと同じ事なのと思う。

だから京一が気にする必要なないのだが、如何せん、やはりじっと見詰められる事には未だに慣れないでいる。



いつまでも明後日の方向を向いているのも不自然に思えて、京一は隣にいる相棒に目を向けた。




「お前、それ美味ェのか?」
「うん。食べる?」
「……………ちょっと寄越せ」




いらない、と言い掛けて、京一は止めた。
いつものように会話が終了するのを避けた為だ。


どう考えても龍麻用にと作られたであろう苺餅。
絶対クソ甘いと思いつつ、京一はショッキングピンクを口に運ぶ。

柔らかい食感と、強い抵抗なく歯が埋まって行って、軽く噛み千切る。
案の定、それは今まで食べていた餅に比べて甘かったのだが、京一が思っていた程ではない。
少しの甘酸っぱさが感じられる程度で、苺らしい匂いもないし、想像よりも食べ易い。




「……意外と食えるな……」
「もっと食べる? いいよ、一個交換しよう」
「いや、」




流石に其処まで食べる気にはならない。

そう言おうとして、出来なかった。
手の中にあったまだ食べていない柏餅を奪い去られたからである。


もごもごと白い柏餅を食べる龍麻に、もういいか、と京一は諦めて赤い餅をまた口に運ぶ。




「いいね」
「何が」
「とりかえっこ」
「……そーか?」
「うん」




短い単語のみで続く会話。

見れば相棒は酷く満足そうで、にこにこ笑顔。
其処から視線を逸らせば、子供の頃から面倒を見てもらっている人が、満面の笑み。





──────まあ、いいか。


もごもごと赤い甘い餅を食べながら、京一は天井を仰いで胸中で呟いた。








2011/05/05

京一+龍麻+アンジー=ツッコミ不在。
兄さんがいるので、京一が色々諦めてしまうのです(笑)。

高校生の京一がもごもご柏餅食べてたら可愛いなって思ったんですが……なんかグダグダになりました(汗)。