────ねえ、なんで?





目の前に広がる赤い海を見て、小さな子供が呟いた。
その頭頂部を見下ろして、酷く冷たい目をしている自分がいる。

────その景色を、京一は僅かに離れた場所で眺めていた。


赤い色があって、しゃがみこんだ子供がいて、それを見詰める少年がいる。
もう何度見たのかも判らない光景。
飽きる程に繰り返されたその光景に、吐き気を覚えたのはいつまでで、それすら消えたのはいつだったか。

あまりに繰り返されるものだから、ああこれは夢だったのかと言う事まで気付いた。
それから、こうして光景を見ている自分を見ている自分、と言うのも、いたりするんだろうかとも考えた。




赤い海を見詰めていた子供が、顔を上げる。
背後に立ち尽くしていた少年を振り返り、子供は言った。

「ねえ、なんで?」と。


少年はじっと子供を睨んでいる。
知った事か、と彼が思っている事を、京一は知っている。


少年が睨んでいた子供から視線を外し、二人を眺めていた京一を見た。
まるで憎むべき対象を見るかのように、冷たい光を宿して此方を見詰めたまま、少年は言う。

「なんでだ?」と。


少年と子供が、じっと京一を見詰めている。
知らねェよ、と京一は音のない声で呟いた。




何度も何度も繰り返される、夢の中。
京一は、見詰める二対の眼から目を逸らし、後ろを振り向いた。

そうして、自分と同じ顔をした人間の存在を知る。


京一と、そしてその後ろから、二つの視線。
三対の眼を甘受し、立ち尽くす人間に、京一は言った。


「なんでだろうな?」と。



問いを浴びせられた人間は、薄く薄く、哂う。
そして言った、音のある声で。





「知らねェよ」






──────結局の所、誰も判らない事なのだ。

赤い海がどうして生まれたのかなんて。









2011/11/22

音楽聞きながらぼ〜っと書いたらこんなの出ました。トラウマ発動中の京ちゃんでごめんなさい。
バラード系やアンニュイ系を聞いてると、こんなのばっかり浮かんで来る。