時々、龍麻の事が判らなくなる。
それはいつものように、「何を考えているのか判らない」からではなくて。




覆い被さってくる少年が、何を思ってこの行為に執心しているのか、京一には判らない。


首筋をゆっくりと舐め上げられて、時折気紛れに歯を立てられるのを知っているから、どうしても筋肉が緊張する。
喉を食い破られたら死ぬしかないから、これは防衛本能だ。

人間の首の骨など、龍麻の力を持ってすれば他愛なく砕く事が出来るだろう。
それを知っているから、余計に京一は体の力を抜き、湧き上がる熱情に身を任せることが出来ない。
委ねきったその瞬間、皮膚も肉も血管も、一気に持って行かれるような気がするから。



そんな京一の心中に気付かないのか、知っていながら無視しているのか。
龍麻は口元に薄い笑みを透いて、肢体を投げ出す親友を見下ろしていた。




「う、あ…ッ……」




制服を脱ぎ捨て、インナーをたくし上げられて、露にされた肌。
触れる空気が異様なまでに冷えているような気がするのは何故だろうか。
外で雨が降っているから、それだけが理由ではないように思う。

────そうだ、見下ろす瞳が冷たいからだ。
その冷たさが、針を立てるように肌を突き刺して行くから、こんなにも寒い。


こんな時、いつもの苺馬鹿の相棒は何処に行ったのかと思う。

何処にも行っていない、目の前にいるのがそれであると判ってはいる。
けれど、深層でそれを認めるのを嫌がる自分がいた。



龍麻は、殊更にゆっくりと、京一の肌を愛撫する。
アームウォーマーを取り除いた手で胸板に触れ、一秒間に数ミリと言う速さで手を滑らせた。

そのゆっくりとした速度が、京一には返って恐ろしい。




「…ん、ん、…ん……」




全身を品定めされているような気分になって来る。
このまま、生きたままで解体されるのではないかとさえ思ってしまう。

手か、足か、それとも頭か。
いや、そんな大まかで大胆な作業ではない。
指の一本一本、関節からゆっくり、ゆっくり削ぎ落とされて行くのだ、きっと。




想像して、躯が震えた。




恐ろしいイメージを振り払おうと、京一は頭を振った。
背を預けている畳に爪を立て、ぎりぎりと歯を食いしばり、息を詰める。




「どうしたの? 京一」
「……ッあ……!」




カリ、と胸の頂を爪が引っ掻いた。
極度の緊張を強いられていた躯は、たったそれだけの刺激にさえ敏感に反応する。

仰け反った京一は、酸素を求める魚のようにはくはくと口を開閉させた。
その目は虚ろに彷徨い、意識が現実にあるのかさえ怪しい。


龍麻は細く細く双眸を窄め、露にされた京一の喉に唇を寄せた。
「あ」の形に口を開いて吸い付き、食むかのように何度か口を動かす。
その都度、京一の躯はビクッビクッと痙攣した。




「っは、…あッ……はぁ、あ…ッ」
「汗かいてるね。ちょっとしょっぱいよ」
「…ふ、あ……あぁ……!」




ちろちろと尖らせた舌先が、喉仏の上で遊ぶ。
一点を掠り続ける刺激に、京一は更に喉を反らせる事となった。


龍麻は京一の胸に置いていた手を、ゆっくりと下ろしていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
京一にも、触れられる場所と、触れる龍麻の手の形が判るように、ゆっくりと。

その手が向かう先は想像するまでもなく理解出来てしまって、京一はいやいやと頭を振った。
これ以上は可笑しくなる、と。



何を考えているのか読めない親友は、時々、自分にだけ妙に意地の悪い言動を取る事がある。
決して他の人間に対して現れないその行動を、京一は決して嫌いではない。
特別扱いされる事に、芯から居心地の悪さを抱く人間は、そうはいないだろう。

京一もそれは同じだ。
まして龍麻が転校して来てから、何かと彼に構いつけていたのは自分なのだ。
龍麻が自分だけを特別扱いしているように思う言動を取るのは、気恥ずかしさもありながら、嬉しくもあって。


──────けれど、この行為だけは理解できない。
その上、京一がどんなに嫌がっても、これだけは押し通して行くから、尚更。


いつもの冗談や軽い嫌がらせなら、適当な所で引く筈。
京一が本気で切れる前か、切れた後なら一頻り怒鳴ってから、ごめんと謝る。
それで後はいつも通りだった。

なのにこの行為だけは譲る事も引く事もなく、己が満足行くまで押し進める。
緩やかな愛撫と緩やかな刺激で、京一の思考を奪い、その躯を思うがままに揺さぶり、終わりまで、ずっと。




「あ、あ…! あぁあ……!」




遂に龍麻の手が京一の下肢に触れた。
首を振って拒絶を示す京一に構わず、龍麻は其処へ更に刺激を与える。

京一は身を捩って逃れようとしたが、また首を食まれて、全身が緊張で硬直する。
その間に彼の手は我が物顔で京一を嘲笑う。




「龍麻、あ、龍麻ぁあッ……や、め…あ、うぁあ…」




薄く昏い笑みを透いて見下ろす親友に、京一は縋った。
本当に、本当に止めて欲しくて。

しかし無情にも、龍麻は京一を追い上げて行く。




「っは、あッ、あぁ…ッ!」




そもそも、この行為自体、京一は許した覚えがない。


一番最初の時は、ちょっとした悪ふざけなのだと思っていた。
けれども何処までもエスカレートして行くから、龍麻が愛撫をしてくる頃になって慌てて止めた。
しかし抵抗を奪われ、腕を褥へ縫い付けられ、行為はそのまま押し進められた。

それから何度も繰り返された行為だが、京一は決して一度も自ら許してはいないのだ。
抵抗し、暴れ、殴る蹴るなど何度もしたし、プライドに障るが大声を出して誰かに助けを求めようかとも考えた。
だが龍麻はその度、それらを全て封じ、快楽で京一の思考を溶かして行くのである。

結局勝てないのだと悟ってからは、ただ只管、この行為が早く、一秒でも早く終わる事を祈るようになった。


悟ったと言っても、受ける行為を諦めて受け入れた訳ではない。
男の矜持がそれを許さず、出来る事なら最後まで行く前に終わらせて、いつもの日常に戻りたかった。

だが願いも空しく、親友は、京一の日常を非日常で食い尽くしていく。




「も…や、め……龍麻…あ、あ…あああ……!…」




ビクン、ビクン、と。
躯を跳ねさせて、京一は果てた。

それでも愛撫は止まず。


己のものとは思えない甘い声を上げる喉に、親友の舌がゆっくりと這う。
今か、それともいつか、その喉を喰らう為の品定めと下拵えをしているかのように。






壊れる。
壊れる。

塗り潰されて行く。


喰われる。
喰われる。

魂ごと。




それでも、逃れる事が出来ないのは、

見下ろす薄く昏く冷たい笑みに、己も囚われているからだ。











2009/07/22

この京一は完全に龍麻に対して怯えてますね……
本番までヤってないけど、エロさを出したくて頑張った(頑張るとこ間違えてる)。