「京ちゃん、俺の事嫌い?」



前触れもなくそんな事を聞かれて、



「嫌いだな」



躊躇なくそんな返事をする位には、嫌いなのだと、京一は思う。


京一から八剣に対する感情は、恋人同士と言う関係でありながら、決して好意的なものではなかった。

寧ろ京一にしてみれば、どうして自分が八剣と“恋人”と呼ばれる間柄になってしまったのかが激しく疑問である。
しかし、あれやこれやと騒いでいる間に、この関係で落ち着いてしまったのは確かなので、これについて問答するのは既に諦めている。
その割には、八剣に対する京一の慕情と言うのは殆どなく、ぶっちゃけてしまえば「拒否するのが面倒臭いのと、言う程に嫌悪感もないので好きにさせている」と言うのが京一の心中であった。
要するに、“恋人面をする男に対し、寛容してやっている”と言う立場を自負しているのだ。

京一と言う人物を知る人間から見れば、“寛容している”時点で、京一の感情は好意的な方向を向いていると言って良い。
とは言え、周りがどう受け取ろうと、京一が思う八剣への感情は、「好き」などと呼べるものではなかった。


だから先の一言には、躊躇なく「嫌い」と返したのだが、



「……何笑ってんだ、気持ち悪ィな」



背中に突き刺さるにこやかな視線に寒気を感じて、京一は顔を顰めて振り返る。
そうすれば、座卓に頬杖をついて、口元を笑みに傾けている男の顔が合って、益々寒気を覚えた。



「いやあ、ね。嫌いなのか、と思って」
「あー、嫌い。ってか気持ち悪ィ」



平時から悪く見られがちの尖った眦をさらにきつくして、京一は吐き捨てるように言った。
が、八剣は相変わらず笑っている。

思考の読めない男の表情に、京一は胡乱な目を向けた。



「お前、マゾな訳?」
「どうかなァ。京ちゃんは、どっちかって言うとSだよね?」
「だろうな」
「じゃあ俺はMの方が良いかな」
「いや、気持ち悪いだけだぜ。ってかSでもMでもどっちでもいいし、そもそもお前の性癖なんぞ興味ねェし」



なんだか会話までもが気持ち悪くなってきた。
眉根を寄せて、京一はこれ以上の会話はするまいと、また八剣に背中を向けて、持ちこんだ漫画を見下ろす。

─────が、数分と経たずにコマを追っていられなくなった。
背中に刺さる、にこにことした、妙に機嫌の良い男の視線の所為だ。



「てめ、鬱陶しい!」



読んでいた漫画を投げつけるが、難無くキャッチされてしまう。
判り切っていたが、だからこそ尚の事腹立たしい。

睨む京一を、八剣は細めた眼でじっと見詰め、



「京ちゃん、俺の事、嫌い?」
「大っ嫌い」




殺してやりてェくらい。

そう付け足してやると、男は益々嬉しそうに笑った。





2012/04/01

一人でエイプリルフールを堪能してる八剣。
まあ、京一が本気で「嫌い」って言ってても、二人の関係は“恋人同士”な訳で。その時点で、京一の負け。

八京の京一は、自分の感情の根底部分に気付いてない感じが多い。