………悔しいんだよ、いつもいつも


















To tell the truth, both are mortified


















やらせろ。




歯に衣着せぬ物言いが、一体何を示してのものなのか、一瞬判じ兼ねた。
兼ねたが、現状を思い返してみれば、示すものは一つしかない事に気付く。

つい数分前まで、躯を重ね合わせていたのである。






「元気だねェ、京ちゃん」





言って抱き寄せると、違ェバカ、と顔を掌で抑えられる。





「やれって言ってんじゃねェ、やらせろっつってんだ」
「だから、するんだろう?」
「させろってんだよ!」




微妙な言葉のニュアンスが食い違っていることには、八剣も気付いている。



京一も男だ。
その男としてのプライドが、同じ男に組み敷かれる事に反発を訴えるのも無理はない。

片手では足りないが、両手では余る回数。
いい加減に京一も我慢の限界だと言う事だろう。


京一が本気で嫌がる事は八剣も強要したくないし、京一の要望にはなるべく善処する心持である。
しかし、自分が女役を担うことには賛同できないし、何より自分が京一を抱きたいのだ。
こればかりは譲れない─────京一にしてみれば不条理だと言う所だろうが。




腕を取ってシーツに押し付ける。
身を捻って逃れようとするのを体重をかけて封じて、八剣は京一の鎖骨に舌を這わす。
熱の名残を残す若い躯は、与えられる快感に正直で、鍛えている割には薄い肩が跳ねる。





「……ッ…」





艶の篭った吐息が漏れる。


どす、と音がして、腹を蹴られた。
ろくに力など入ってはいなかったから、痛くはない。
痛くはないが、完璧に拒絶の姿勢である事は確かだ。

見上げ、睨む京一の強い眼に光悦感を覚えたが、あまり機嫌を損ねるのは宜しくない。
腕を解放すると、京一はさっさと八剣の躯の下から抜け出して、起き上がった。




「ヒトの話を聞きやがれ、このケダモノ!」
「男は皆ケダモノだよ」
「テメェは格別にな!」




もう一度足が飛んできて、八剣の肩を蹴った。
その足を捕まえようとした手が触れる前に、それは引っ込んで逃げる。
惜しい、と思ったのが顔に出たか、京一の眼が更に剣呑さを帯びた。

……もうしばらくその眼を見ているのも悪くはないのだが、このままでは話が進まない。


仕方なく1メートル分距離を取って、聞く姿勢を取る。
京一はまだ此方を警戒していたが、ようやく喋れると思ってか、一つ息を吐いてから、





「毎回毎回、テメェばっか好き勝手しやがって」
「まぁ、否定は出来ないかな」
「違うとか言ったらマジでぶっ飛ばすぞ、テメェ」




忌々しげに言う京一に、八剣は笑むだけだ。
それが更に京一の神経を逆撫でしているのだろうが、八剣はその表情を止めない。


京一ががしがしと乱暴に頭を掻いて、また一つ、大きく息を吐く。





「……やらせろ、オレにも」
「好きなように?」
「当たり前だ」





胡坐をかいて、京一は八剣を睨んで頷く。


八剣は、少しだけ安心した。

攻める側としてやらせろと言ったのであれば、どうしたものかと少し考えていたからだ。
前述でも述べたが、八剣は京一の要望にはなるべく善処する姿勢であるが、抱かれる事だけは容認できない。

杞憂で済んだのならば、次に沸いてくるのは、どんな事をやってくれるのかと言う興味であった。





「例えば何を?」
「………何、って………」




問われて、京一の視線がしばし彷徨う。
好き勝手にされて腹が立つから、自分にも好きにやらせろ、と言う気持ちは確かであったが、しかしいざとなると何をすれば良いのか、特に決めてはいなかったようだ。

考え込む京一を急かすことなく、八剣は、さてどうしてくれるんだろう、と面白そうに想い人を眺めた。


しばらく視線を宙に彷徨わせた後、京一は何かを思いついたらしい。
が、いまいち決断出来ないようで、あーだのうーだの小さく唸る。
眼は何度か八剣に向けられ、また逸らされてを繰り返した。



そうして数分の時間が経ち、京一は腹を括って再び八剣に向き直る。





「……………フェ、ラ……とか…」





呟きが消えかけて、顔は真っ赤。

腹は括っても、いざそれを口に出すと一挙に羞恥が募る。





「……してくれるの?」
「……あーもうッ!!」




思わず八剣が問うと、京一は癇癪を起こしたように声を上げた。
羞恥がピークに達して自棄になったのだ。


離していた僅かな距離を一気に詰めると、京一は八剣の下肢に屈み込む。
これ以上何か言われて余計な羞恥心を煽られる前に、思い切ることにしたらしい。

八剣が眼を丸くしている事などお構いなしに、京一は八剣の雄を口に含んだ。
ぬるりとした生温かい感触が走って、八剣は現実に帰る。




「……京ちゃん?」
「…るせェ、喋んな」




それだけ言うと、京一はまた奉仕を再開させる。



無理に離す訳にも行かないし、本音、京一のこの行動が嬉しくない訳がない。

日頃豪胆に見えて、色事に置いては恥ずかしがり屋な想い人は、今までにこういった行為を一度もしてくれた事がない。
情事の最中に前後不覚になるまで昂った後ならともかく────自ら行動する事はなかった。
だから八剣は、京一がフェラをする、と言う事にしたいして、思わず確認するような言を取ってしまったのである。


それがなんの気紛れか知らないが、こうして奉仕などという行為をしてくれている訳で。
嬉しくない訳がない、ついでに興奮しない訳もない。



ぴちゃり、と濡れた音がする。
時折、少し苦しげな呼吸が艶を含んで漏れていた。





「ん、ぐ……」





行為を始めた事で羞恥心をかなぐり捨てたか、京一の舌遣いは徐々に大胆になる。


男同士だから、何処をどう刺激すれば良いのかは判る。
拙いながらにポイントを抑えた舌遣いは、八剣を昂らせるには十分な役目を果たしていた。

けれども、それよりも、京一がこういった行為を自ら起こしたと言う事が、何よりも八剣を興奮させる。




「……っは……ん……」




口を離して呼吸を一つしてから、もう一度。
鼻で息をするのが上手く出来ないのか、京一の表情は時折苦しげに歪んでいた。




「無理しなくても良いよ、京ちゃん」
「……る、せェ…っつってる……」




八剣にとっては宥めるつもりで言った台詞だったが、逆に京一のプライドを刺激させたらしい。
それまで竿を舐めていた舌が離れ、亀頭を口一杯に含む。

硬質を持ち始めた八剣の雄に気付いて、京一は気を良くした。



先端を舐め、気紛れに吸い上げようとする。

時折ちらりと窺うように切れ長の眼が八剣の顔へと向けられた。
どうだ、とでも言うように瞳が窄められて、八剣は苦笑しか出て来ない。




どうもこうも。
興奮しない訳がない。




躯を重ねる関係になってから、少しずつではあるが、京一の八剣への態度は軟化しつつあった。
真神の友人達のようには無論行かないが、彼らに見せない顔を八剣に見せる。
年齢よりも少し幼く感じられる表情と、それとは正反対の性質を持つ妖艶な表情と。
以前ならば顔を合わせれば警戒しかされなかったのだから、それは八剣にとってかなりの進歩である。


けれど、それとは違い、出逢った当初の────まるで研ぎ澄まされた刃の切っ先のような眼差しも、八剣は好いていた。
全身で警戒していると知らせる猫のようにも似ていて、八剣はそれを屈服させたかった。
一閃の下に斬り捨てたあの瞬間、嘘だ、と絶望にも失望にも似た表情を浮かべたのを見た瞬間、その愉悦は満たされた。

満たされたから、もうその愉悦を望むべくはないと思っていた。
それ以上に、もっと暖かで柔らかな熱に手が届くのだから、血の緋色を望むことはないだろうと。


だが人は何処までも貪欲で、際限を知らない。

行為の最中に、自身のプライドを尊厳を傷つけられて溜まるかと、強気に睨む眼差しに、あの時の色を見てしまった。
以来、僅かな合間にその色を見つける度、強い光を屈服させたい支配欲に捕らわれる。




「…っく……ん、この…ッ」




膨らみ始めた欲望に、顎が痛くなったらしい。
京一は口を離すと、飲み込めずに垂れた唾液を手の甲で拭った。

熱が浮かび始めた瞳は、理性と言う人間独特の感情は既に遠くに放置してきたようだが、強い光は変わらない。
行為を始める前の真っ赤になった顔だとか、何をしてくれるのかと問われて迷った青さは、其処にはなかった。




「無駄にデカくしてんじゃねーよ、やり辛ェ!」
「そう言われてもねェ。いつもこんな感じだよ?」
「……信じらんね……」




天を突き、最早支えなくとも起立した雄を見て、京一がげんなりと呟く。
コレがいつも自分の中に入ってるのか────……そんな事を考えながら。





「じゃあ、やめる?」




勿論、此処で止められて辛いのは八剣の方だ。
起立した雄に集まった熱は、解放を求めている。

しかし、京一が辛いと言うなら中断しても構わない。


それに─────これ以上続けられてしまったら、芽を出し始めた欲望を止める自信がなかった。



だが、相手を思っての言葉でも、京一にとっては全て逆効果になるらしい。
相手が八剣であるから、余計にそうなのか。

京一はムッとしたように肩眉を上げると、また雄を口に含む。
もう相手の様子を窺う間など持つつもりはないようで、只管愛撫に神経を注ぐ。




「っふ…ぅ……ん…」
「…京ちゃん」
「……むぅ……っく……」




ちゅ、ぴちゃ、と濡れた音が広くはない部屋の中に反響する。
呼んでも、もう返事はなかった。


髪の毛を指で遊んでみると、相変わらず、毛先は少し痛んでいる。
勿体無いねェと毎回思うが、言った所で京一は女じゃねえからいいんだ、と取り合わない。
そういう所も含めて京一らしいとは思うけれど、やはり少し勿体無いと考えてしまう。
綺麗にしたら、それは良い色になると思うのだけど。

後ろ髪を撫でていると、京一の頭が一度不自然に揺れた。
猫が急に撫でられて驚いたような、そんな仕種。
悪戯心が沸いて後ろ髪を少し持ち上げ、露になった項に指を這わせると、ぴくりと肩が小さく跳ねた。


そのまま少しの間項をなぞっていると、京一の手が浮いて、八剣の手を払おうとする。




「……触んな、バカ」
「感じた?」
「………」





手を払う仕種をした京一に、おどけたように聞けば、気分を害したと言わんばかりに渋面になる。


仕返しのように、京一は八剣の雄の先端を舌でぐりぐりと刺激した。
急に訪れた強い刺激に、八剣は一瞬言葉を呑む。

は、と息を吐いて、京一は雄から口を離し、にやりと笑って八剣を見上げる。





「感じたかよ」




ざまあみろ。
顎を伝う唾液を拭って、京一はまるで勝ち誇ったかのように言った。



……油断するとこういう反撃に合うから、益々溺れてしまう。









─────従属させてしまいたくなる。








「敵わないな、京ちゃんには」
「あ? なんだよ、ギブアップか?」
「まさか」
「そーかい。じゃ、続行な」




業務連絡並みに淡々と言うと、京一はまた八剣の下肢に顔を埋めた。


竿の裏筋をゆっくりと舐めて、亀頭を口に含む。
手も使って扱きながら、京一は先端を舌で刺激した。

自分の呼吸が少しずつ上がって行く事に、八剣は気付いていた。
見下ろせば、こちらも僅かに紅潮しつつある京一の顔があり、その口が自分の雄を咥えている。



項をなぞっていた手が移動し、京一の背筋を滑る。
京一は一度ふるりと肩を震わせたが、強気の眼差しは相変わらず、八剣を睨んでいた。

しかし、その眼は次の瞬間驚愕に見開かれる。





「おい、待……ッ…─────!」




八剣の手は一度撫でるように京一の臀部を滑り、食指が動いた瞬間に京一は声を上げたが、既に遅かった。
四つ這いの姿勢で高い位置にあった秘孔に、つぷりと長い人差し指が侵入する。

叫びかけた声は、後頭部を抑えつけられ、含んだ熱によって遮られた。


少し前に交わったばかりの熱の名残は、まだ京一の其処に燻って残っていた。
締め付けはきついものだったが、痛みを感じる様子はないようで、八剣はそのままゆっくりと深くへ埋め込んでいった。
抗議のように京一の拳が八剣の腹を叩いたが、構わず埋めていく。




「ん、ぅ……!」
「本当に敵わない。俺を煽る事に関しては、特に」
「ふ、んぐっ…んんッ……!」




纏わり付く肉壁を押し広げながら、八剣は京一の秘孔の奥を目指す。
熱を含まされた咥内は、行為を忘れて文句を上げているようだったが、結局言の葉にはならなかった。


もう一本、指を挿入させる。
京一の躯がぶるりと震えた。

名残の蜜液が滑りを助け、指は更に奥地を目指す。
内壁を押し広げると、立てられていた膝がガクガクと震えた。




「京ちゃん、口がお留守だよ」
「んっ、ふ…! うぅんッ…!」




後頭部を押さえつけたままで囁くと、京一は眉を顰めて八剣を上目に八剣を睨む。

うっそりと笑む八剣の顔を見つけて、京一は内心でサド野郎、と呟く。
そのサディズムの火をつけた上で煽ったのが自分であるとは、気付かずに。


咥淫を再開させた京一に、八剣は競わせるように菊門を刺激する。




「んぷっ……っく、ぅ……ん、ん…」
「……上手いね、京ちゃん」




八剣の思惑通り──言えば確実に怒りを買う──、京一は八剣に負けまいとするように舌を動かす。

息苦しさと匂いに当たられたか、目尻に雫が浮かんでいる事も気付いていないようだった。
とにかく、息が上がるのも自分の今の格好も構わず、必死で奉仕していた。



ずるりと京一の秘孔から指を引き抜く。
内壁に擦れる感触に京一の躯が震え、熱を含んだままの口が小さな呻きを漏らす。
その呻きがなんとも言えない艶を含み、八剣の興奮を更に昂らせた。


咥内で更に体積を増した雄に、京一は顎が痛くなった。
一度離して呼吸も落ち着かせたかったが、後頭部に添えられたままの手がそれを許さない。

抑える力は強くない筈なのに、離そうとすると絶対の形をそれを拒む。
同時に秘孔を攻める手が激しさを増すから、文句を言う事も出来ない。
いっそ噛み千切ってやろうか、と物騒なことまで考える。




「此処、ヒクついてるよ」
「んんッ……!!」




誰がンなことするか! と言いたくても、言えず、言った所で嘘だと返される。

事実、京一の熱を煽ろうとするように、指先が京一の秘孔を口をなぞってみれば、形を確かめるように動く指に、京一は我知らず腰を揺らしていた。


指が抜き差しを始め、強い快感に京一は耐えるように硬く目を閉じる。
寄せられた眉根に気を良くして、八剣は指を動かす速度を速めた。




「んふっ、う、うぅんッ! ふぐ…んふぅッ!」
「気持ちいい? 京ちゃん」
「んぁッ…!」




内壁のしこりを指先で引っ掻くと、高い声が京一の喉奥のから上がった。





「んッ、んーッ! う、ううぅんッ!!」





同じ場所を刺激すれば、ビクッビクッと若い躯が跳ね上がる。
程無くして、京一は声にならない悲鳴をあげて、熱を吐き出した。

ずるりと指を抜き出すと、その指は白濁に塗れていた。




「いつもより少し早かったかな?」
「…………!!!」




八剣の呟きに、京一がガバッと起き上がる。
完全に怒りの眼になっていた。





「テメェ!! マジで食い千切るぞ、コラァ!!!」
「ごめん、ごめん。可愛かったから、つい」
「殺ス!!!」





飛び掛る勢いで伸ばされた京一の腕を、八剣はあっさりと捕らえた。
捕えた両腕を片手でまとめ、空いた手で京一の腰を強く引き寄せる。
上体を逸らして仰け反った京一の上に乗る形で、八剣は京一をシーツに押し付け、馬乗りになった。

あっと言う間の視点の転換についていけなかった京一は、しばらく呆然とした様子で八剣を見上げていた。
が、現状を把握すると途端に暴れ出し、八剣を自分の上から退かせようと腹を蹴る。
それも空いていた手で制すると、八剣は京一の足を肩に乗せて、そうなると京一の秘所は露に晒される。





「テメ、待て、コラ!」
「無理だね、待てない」
「オレにやらせろっつっただろうが! つーか、さっきのもお前、勝手に」
「うん、そうなんだけどね」




確かに、京一は自分の好きにやらせろと言って、八剣も容認したつもりだ。
京一がどんな事をどんな風にしてくれるのか、興味もあったし、見たい気持ちも勿論ある。

あるが、それ以上に限界が近い。





「京ちゃん、俺を煽るのが本当に上手いから、もう我慢出来なくなった」





健康的に日焼けした鎖骨にキスを落とす。
見える場所に付けるなと言われている事など、もう頭には残っていなかった。

それよりも、限界まで昂ったこの熱を、早く京一と共有したくて堪らない。


つい先ほどまで指を埋め込んでいた箇所に、張り詰めた熱を宛がった。
同じくそれをついさっきまで口に含んでいた京一は、改めてその度量を直に眼にしたからだろうか。
そんなモン無理────と珍しく弱気とも取れる呟きが、京一から漏れた。




「痛くないよ。いつもそうだろう?」
「バッ……!」





痛いようにはしていない、と囁く八剣に、京一の顔が赤く染まる。

強気な眼と、恥ずかしがり屋の顔と。
ギャップがあり過ぎて、それが余計に八剣を深みに嵌らせて行く。



ヒクリと伸縮する秘孔にゆっくりと禊を埋めていく。
体内に侵入する圧迫感から逃れるように、京一が仰け反った。




「あ…ひ、ぅあ……ッ……」
「くッ……」




痛みはなくとも、圧迫感までなくなる訳ではない。
呼吸を忘れて力んでいる所為で、それは余計に京一を苛んだ。

同時に、八剣も痛いくらいの締め付けに眉を顰める。


頬に手を添え引き寄せて、酸素を求めているのに息の仕方を忘れた唇に、口付ける。
あやすようにキスを繰り返していると、次第に眼差しはトロリと濡れ、艶を含んだ細い呼吸も漏れ始める。

締め付けが緩み、八剣は奥を目指して突き上げる。
性急に始まった攻め立てに、京一の躯は成すがままに揺さぶられた。
先ほど達したばかりの京一の中心は、早々に再び起立を始めている。




「ちょ、待ッ……お、オレ、さっき、イ…ッ…」
「ごめんね、余裕ないんだよ。俺も」
「ん、うっ、んんっ……ふぁッ! あ…!」




耳元で囁いて、八剣は更に奥を突く。
鼓膜まで犯されたような気がして、京一は身震いした。




「あ、あうッ…! 手前ッ、また、勝手にィッ……!」
「ああ、それじゃあまた今度にね。今度は京ちゃんの好きにしていいから」
「信、用ッ…んぁッ! …出来るか……ッああ!」




涙目で睨む京一。
八剣はそれに小さく笑みを浮かべ、また謝って目尻を舐めた。


確かに信用できない、自分で言っておいてなんだけれど。

だって仕方がないだろう────京一がしているのを見ているだけなんて、そんなのは拷問だ。
奉仕してくれているだけで我慢が利かなくなったのだから、これ以上なんて絶対に無理だ。
言い切れる。




ずちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音が響く。
肌を打ちつけ合う音も一緒に。
攣ったようにピンと伸びた京一の足が、突き上げられ穿たれる度にビクンビクンと跳ねた。
突き上げのタイミングに合わせて細く締まった腰が揺れる。

呼吸が上がって、京一は理性など殆ど残っていなかった。
それは八剣も同じで、まるで獣同士の交わりのようにも思えてくる。


弱い箇所を攻めれば、強い快楽から縋り逃げるように腕を絡めてくる。
抗議のように髪を引っ張られても、背中に爪を立てられても、気にならない。
寧ろそれすら愛おしい。





「あ、う、やッ……んぁッ! はひっ…あ……!!」





熱に喰われて虚ろになった瞳を見下ろし、八剣は嗤う。


気紛れな猫のように甘える顔も、いつまでも挑むように強気な瞳も、全て自分だけに向けられたもの。
快楽に全てを攫われて、妖艶に身を捩らせるこの姿も─────全て。
この顔を知っているのは自分だけで、この顔をさせる事が出来るのも自分だけ。

愛欲も征服欲も、全てが満たされて行くのが判る。





「んぁッ、ああッ! も、もう……やべ…や…ッ」





先走りを漏らし始めた、京一の雄。

片手で縋る京一の頭を支えて、もう片方の手で京一の雄を包み込む。
突き上げと同時に扱けば、直ぐに増していく熱と体積。





「やめ、それッ…い、く……イぅッ…! …や、つるぎ……ッ!」
「ああ。俺も……」





限界を訴える京一に、従じるように。
同じく、限界を迎えた八剣。






「ひ、あ……あぁあッ……!!」





熱に浮かされた悲鳴は、酷く、耳に心地良かった。



























ぐったりとシーツの波に躯を埋めながらも、京一は忌々しげに八剣を睨んでいた。
そんなに機嫌を損ねてしまったかと、八剣は眉尻を下げる。


途中からは完全に八剣のペースで、京一はすっかり翻弄された。
京一が自分のペースを保っていられたのは、結局、最初のうちだけだったと言う事だ。
それが益々、京一の機嫌の右肩下がりに拍車をかけている。

京一の「やらせろ」と言う言葉を途中で完全に撤回した事は悪かったと思っているが、かと言って、反省はしていない八剣である。
だって京ちゃんが可愛かったから、なんて思っている事を口にすれば、もれなく蹴りが飛んでくるだろう。



布団の上でうつ伏せになり、シーツに顎を乗せたままで、京一はぎりぎり歯を鳴らした。




「…っのヤロー……ムカつく…」




ぶつぶつ漏れる呟きは、大半が八剣への罵倒であった。

それを聞いても、八剣は気に留めない。
ポンポンと出てくる罵倒も、それは京一が自分を気にしてこそのものだと思えるからだ。
そうでなければ、悪口どころか、相手の事さえも京一は口にしないだろう。



薄い肩に手を乗せて、八剣はそっと京一の耳朶に口付けた。
京一はいぶかしむ様に眉根を寄せたものの、一つ溜息を吐くと、ごろりと仰向けになった。




「ったく。次はオレがやるんだからな」
「はいはい」
「今度は勝手な事すんじゃねえぞ」




念押しする京一に、八剣はふとした疑問が沸く。




「京ちゃん」
「なんでェ」
「やけに拘るけど、どうしてそんなにやりたいの?」





今回だって、いつもは絶対にしない事をして。
なんの気紛れで、行き成りそんな事を考え出したのか、気にならない訳がない。


京一は問われた瞬間、やっぱ聞くのか、と苦々しげに顔を歪める。
それを宥めるように目尻にキスを落とすと、京一はまた溜息を一つ。





「テメェの所為だ、テメェの」
「俺の?」
「テメェのその余裕ぶっこいてる面が気に入らねえんでェ」
「……そう言われてもねェ」





言われても、自分が普段どんな顔をしているのかなんてよく判らない。
京一が気に入らないと言うなら、改めた方がいいんだろうか────などと思う。




「やってる時も、余裕面しやがって」
「それはないと思うけど」




緩い反論を、京一は無視した。









「オレばっか一杯一杯になってんのが、ムカつくんだよ」








ふいとそっぽを向いて、ともすれば聞き逃しそうな声で京一は呟いた。

一瞬、言われた意味を判じ兼ねて、八剣は静止した。
しばしの間を置いてから八剣は壁を向いた京一を見る。



自分ばかりが翻弄されて、相手はいつも余裕の笑みを浮かべたまま。
出逢った時から今の今まで、京一の中でそのバランスが崩される事はなかった。
二度目の対峙の瞬間を除いて。

日常でも、情事の最中でも、確かに八剣は殆ど表情を崩さない。
相手に表情を読ませれば自分の手の内が読まれるから、おのずと身に付いた防衛の術だ。
ゆらゆらと掴み所のない顔をして、相手の調子を崩せば、己の優位は磐石となる。

それが気に入らないと、京一は言う。





(違うよ、京ちゃん)




抱き寄せれば抵抗はなく、京一は八剣の胸に後頭部を押し付けて動かなくなった。
気を許してくれている証拠だ。

此方に背を向けた京一の髪を手櫛で梳く。




(京ちゃん相手に余裕なんて、ある訳がない)




さっきだって、興奮して自分を抑えるのが大変だった。
結局、その努力は徒労に終わったし。

浮かべた笑みの裏側で、八剣がどれだけ葛藤しているか、京一は知らない。
八剣も言うつもりはなかったし、今更この仮面を取り去る事は容易ではない。


知らないままでいい。
こうして、自分の事をどんな形であれ、考えていてくれるのなら。

知らないままでも構わない。
仮面を剥ごうと躍起になってくれる恋人が、可愛くて仕方がない。
それ程までに、京一は自分の事を想っていてくれる訳だから。







「愛してるよ、京ちゃん」

「あーあーハイハイ。聞き飽きたぜ、その台詞……」








素っ気無い言葉の裏、赤い耳と振り払わない態度が本音。
それに甘えて、繰り返し愛を囁く。












───────この関係に、余裕なんてある訳がないんだ。













八京でラブえっち。
京ちゃんにご奉仕して貰いたかったのです。……途中で八剣が調子に乗りましたが(笑)。
うちの八剣は裏モノになるとS入るらしい……

ラブラブにすると京一のツンデレの匙加減が判りません。難しい。
と言うか、ラブラブ八京がまず難しかったです。