狭いからこそ、近い距離でいられる訳で

















Narrow space















この寒空の下を、そんな格好で。
そんな言葉を言いかけて、八剣は寸での所でそれを飲み込んだ。




数か月前の衝突の後から、あれやこれやと色々あった後に、恋人となった一人の少年。
彼は真冬の季節であるにも関わらず、学校指定の学ランの下に薄手のシャツを一枚着ているだけの格好で、冷たい鉄の街を彷徨い歩き、気紛れに八剣の下へとやって来る。
吹き付ける北風に身を縮こまらせ、案外と細い腕を摩り、雀の涙程度の暖を取りながら。

雪が降る日もそんな格好で彼が過ごすのは、他にまともに着れる服がないからだ。
秋口まで着てていた制服のポロシャツは、件の衝突の際、八剣が血塗れにしてしまった。
他の服はと言うと、持っている事は持っているのだが、日々の喧嘩でボロボロになって草臥れてしまっていて、これを着て学校に───人目につく場所に───行くのはどうよと、マナー的な意味もあって使う気にならないと言う。
後は世話になっている店の従業員が買ってくれた物があるのだが、物騒な日々を送っている事を考えると、破ったり汚したりするのは気が引けるらしく、夜通し歩き回るような生活で着用したくはないらしい。


だから、真冬の空の下でも、彼は防寒などまるで無視した格好なのだ。




日々を過ごす拳武館寮の自室から、時折、京一の姿が見える事がある。
気紛れな猫は、今日の宿を此処に定めたらしい。

彼の訪問は大抵唐突なものであるが、八剣はそれを喜んで受け入れた。
出逢いこそ温和なものではなかったが、八剣はその時の彼の態度や表情も含め、京一の事を気に入っている。
だからこそ恋人になったのだし、そもそも惚れたのは八剣の方であった訳だから、彼が拳武館寮にやって来るのは、八剣にとって喜ばしい事以外の何者でもないのだ。


八剣は窓を開けて、入っておいで、と口を動かして音なく言った。
じっと八剣の部屋を見上げていた京一は、それを確り読んだ後、躊躇わずに寮の敷居を跨いだ。

一分弱の間を置いた後、彼は八剣の部屋の扉をノックする。
直ぐに扉を開けて、八剣は、彼の格好と赤らんだ頬を見て思ったのだ。
「この寒いのに、そんな格好で」と。




「あー、さみさみ」




京一は八剣の微かな表情の変化など気にした様子もなく、勝手知ったるなんとやら、遠慮なく靴を脱いでフローリングの短い廊下を通り抜ける。
リビング兼寝室の奥間に行くと、するりと炬燵の中に潜り込んだ。




「うーっ……ちくしょー、雨降るなんざ聞いてねェぞ」
「雨?濡れたのかい?」
「いや、そんなでもなかった。なんだっけ、雨じゃねェか……あれだ、ミゾレだ、ミゾレ」




ミゾレ────雪と雨が混ざって降る気象現象。
雪と言う程に結晶が形になっている訳ではなく、雨と言う程に雫が解けやすい訳でもない。

炬燵に入り、もぞもぞと脱ぎ捨てた京一の学ランを拾うと、しっとりと水分を含んでいた。
成程、雨に濡れた程に重くはなっていないが、酷く冷たい空気に触れたのだろう事は判る程、生地が冷えている。
八剣は今日はずっと室内にいたので気にしていなかったが、今日の気温は雪が降っても可笑しくない程、冷え込んでいたのだ。
割と寒さに強い京一が、寒い寒い、と炬燵の中で手足をジタバタさせるのも無理はない。


京一は炬燵の毛布を引っ張り上げ、肩から被るが、背中は未だ空気に晒されている。

八剣もつい先程まで炬燵の中で茶を啜っていたので、天井に取り付けられた暖房の電源は切っていた。
それでも炬燵のお陰で八剣は十分暖かかったのだが、外界で寒空に当てられた京一には、炬燵だけでは足りないらしい。




「うぁ〜……おい、風呂沸いてねえのか?」
「残念ながら。まだ入る予定じゃなかったからね。シャワーだけでも浴びる?」
「……そうする」




このまま芯から冷え切っているよりは、と京一が重い腰を上げて、風呂場へ向かう。
その背中を見送って、少しでも部屋を暖めておこう、と八剣は暖房のコントローラーを手に取った。





















ゆったりと湯船に入る事こそ敵わなかったものの、熱い湯を肌身に浴びて、京一は大分温まる事が出来たようで、十分ほどの湯浴みを終えた後、京一はほんのりと赤らんだ頬を上機嫌に緩めてリビングに戻ってきた。




「ふー」
「温まれた?」
「おう」




ほくほくと満足げな表情を浮かべたまま、京一は炬燵に滑り込む。

着替えなど持ち歩かない京一は、八剣が用意した肌襦袢を着ていた。
熱めの湯を浴びたのだろう、汗が赤らんだ肌から噴き出していて、京一は熱を逃がすように襟元を寛げて手団扇で仰ぐ。
が、下半身の冷えは御免被りたいようで、炬燵の中で冷気をガードしている。


奔放に伸ばされた京一の足が、正座で炬燵に収まっていた八剣の足を蹴った。
ワリ、と言う短い詫びすらなかったが、八剣も気にせずに茶を傾ける。




「お前、そうしてるとマジでジジくせェな」
「酷いねェ」
「蜜柑もらい」
「どうぞ」




京一が炬燵の上に竹籠に納めていた蜜柑に手を伸ばす。
皮をむいて、筋はそのままに、一房ぽいっと口の中に放り込む。




「炬燵にミカンってな、最強だな」
「そうだね。猫もいるし」
「あ?何処にだ?」




八剣の言葉に、京一がきょろきょろと辺りを見回す。
お前猫飼ってたっけ、と言う京一に、八剣は湯呑に隠してくつくつと笑った。

笑う八剣に、揶揄われていると思ったか、京一はむっと眦を尖らせる。
八つ当たりするように蜜柑の丸ごとの半分をそのまま口の中に突っ込んだ。
もごもごと粗食する彼の頬は、リスの頬袋のように膨らんでいて、また八剣は笑う。


京一は口の中のものを無理やり気味に飲み込んで、じろりと八剣を睨んだ。




「何笑ってんだ、このッ」




京一の足が炬燵の中で、八剣を蹴った。
げしげしと連続で蹴ってくるそれを、八剣は甘んじて受け入れる。

しばらくそうして暴れた後、京一は次の蜜柑の皮を剥きながら、些か不満そうに八剣を見る。




「なんか狭いな、この炬燵」
「一人用だからね。二人で使うには、確かにちょっと狭いかな」




京一がじたばたと暴れなくとも、炬燵の中では京一の足が八剣の足に当たっている。
八剣が正座している状態でも、だ。


一人暮らしで使用する為に購入した炬燵だから、当然、人一人が使うだけのスペースしか確保されていない。
寝転がりでもすれば炬燵の中は完全に埋まってしまうし、二人が使おうと思えば、どうしたってお互いのパーソナルスペースを侵略し合うしかなくなる。

八剣が正座しているので、京一も胡坐なり何なり、膝を曲げて過ごせば、接触する事は減るだろう。
しかし、京一は寮に来るまであちこち歩き回って来たので、足を延ばしてのんびり過ごしたい。
シャワーを浴びて多少は筋肉の疲労も緩和されたが、やはり湯船に浸る程の回復はしないし、それより何より、京一に遠慮するように足を引っ込めろと言う選択肢は最初から存在しない。
八剣相手であるなら、尚更。



京一は不服そうな表情は浮かべるものの、致し方ないのは判っているようで、拗ねた顔のまま、溜息一つを吐いて意識を蜜柑に戻した。
─────が、ふと、その手が止まって、




「………………へっきし!」




ずぴ、と鼻を啜る音。

京一はきょろきょろと辺りを見回して、小さな和箪笥の上にティッシュを見付けると、下半身は炬燵の中に埋めたまま、上半身だけを伸ばしてそれを掴む。
数枚取り出して盛大に鼻をかんだ後、またきょろきょろと辺りを見回してゴミ箱を探し、丸めたティッシュを投げた。
ティッシュは綺麗な弧を描いて、クズ籠へと落ちる。




「シュート、っと……ひっくしゅ!」
「湯冷めしたかな。大丈夫かい?」




空になった湯呑に新しく茶を注いで、京一の前に置く。
京一は、湯気を立てるそれを軽く冷ましてから、ちびちびと口をつけた。




「あー……湯冷め…まあ、したんだろうな。背中寒ィ」




下半身と体の前部分は炬燵のお陰で温かいままで保たれているものの、背中は外気に晒されている。
暖房のお陰で部屋の中は温まっている方だが、湯を浴びて温まった直後の熱は、流石に逃げてしまったようだ。
おまけに京一が着ている肌襦袢は、冬用に多少厚めの生地で仕立てられたものではあるが、本来ならその上に薄手の着物を重ね着して就寝するようになっているから、単品での防寒機能としては頼りない。


寒さを自覚すると、より一層寒さを感じてしまう。
京一は、ぶるっと小さく身を震わせ、手元の湯呑を傾けた。

そんな恋人を見て、八剣はくすりと笑み、場所を移動する。




「………おい」




急に動き出した八剣を観察していた京一は、彼が自分へ近付こうとしている事に気付き、眉根を寄せた。

威嚇する猫のように睨む京一だったが、八剣がそれを意に介す訳もなく。
隣に並んだ八剣を見て、猫に似た眦に胡乱げな色が灯る。




「なんだよ」
「背中、寒いんだろう?」
「まあ」




じゃあ、こうすれば良い。
そう言って、八剣は京一の背中に覆い被さる形で、自分の身体を密着させた。


ぴしっと京一の体が固まる。
それから数秒後、我に返った京一は、直ぐにじたばたと暴れ出した。




「てンめ、このッ!離れろ、セクハラ野郎!」




密着しているだけでセクハラ呼ばわりとは。

毎度の事と言えば毎度の事であるので、八剣は特に怒る事はなかった。
ただ、そろそろ触れ合う事────もっと大きく言えば、傍にいる事そのものに慣れては貰えないだろうかと思う。


……既に何度となく、肌を重ね合わせている間柄なのだから。




「バカ!妙なトコ触んじゃねえ!」




脇腹をなぞる手の不埒な動きに、京一は顔を引き攣らせて叫んだ。
が、それを妨げるように、八剣の手が京一の口を覆う。




「あまり大きな声を出すのは良くないよ?」




吐息がかかる程に顔を近付け、耳元で囁く。

此処は拳武館の面々が住まう寮だ。
壁一枚隣には他人が生活していて、それは脚の下も同様である。


でかい声出させてるのは誰だ、と京一が背後の男を睨むが、犯人は含みのある笑みを浮かべているばかりで。




「ひッ!ちょ、止めろッ!」




肌襦袢の襟併せの隙間から、骨張った手が滑り込んで来る。
京一が悲鳴に似た声を漏らし、身を捩って逃げようとするが、後ろから完全に抱き込まれている所為で、離れる事すら出来ない。


八剣は併せから潜り込ませた右手で、京一の胸を撫でる。
左腕は京一の腰を抱き込んでおり、時折掌が不埒な動きを見せていた。

悪戯に彷徨う指先が胸の頂きを掠める。




「んっ……!」
「気持ち良いかい?」
「……ざ、けんな…あッ…!」




きゅ、と頂きを指先で強く摘ままれて、京一の身体が跳ねる。
それを見た八剣が笑みを浮かべれば、気配でそれに気付いたか、京一が耳まで赤くなった。

京一は肘で背中を八剣を押し退けようとするが、やはり大した効果はない。
寧ろ、そうして細やかな抵抗に一所懸命になる様が、八剣から見れば、自身の潜めた加虐心を煽られるばかりだった。
何も京一が嫌がる事をしたい、と言う訳ではないのだが、そうやって嫌がった後に陥落する様を知っているものだから、尚の事八剣には行為を止める事が出来ない。


炬燵と八剣に挟まれた京一に逃げ場はない。
それでも、少しでも八剣から距離を置こうとしているのだろう、京一は炬燵のテーブルに縋り付く。

八剣は京一の胸を抱いて、自分の方へと引き起こす。
不意を突かれたのか、京一は上ずった声を漏らして、力に従って八剣の胸に背を預けた。




「バ、離せ、この……ひ、んッ」
「そうは言うけど、京ちゃん。此処は弄って欲しそうだよ?」




コリコリと八剣の指が京一の胸の果実を弄り、転がす。
京一は炬燵布団の端を掴んで、耐えるように背中を丸めていた。



人に触れられる事に対し、京一は嫌悪感にも似た感覚があったのだが、この男が相手だと、嫌悪感よりももっと別の感覚に襲われる。

あやすように頭を撫でられたり、小動物を宥めるように頬を撫でられたり。
最初の頃はどれも気持ち悪い、鬱陶しい、と思っていた筈なのに、何度も繰り返される内に嫌悪感は麻痺し、気付いた時には慣れてしまっていて─────それからまた、気付いた時には、官能を覚えるようになっていた。


ほんの少し切っ掛けを与えられるだけで、京一の体は与えられる快感に容易く押し流されてしまう。
そう躾けたのは、他ならない八剣だ。
己の手で熱に浮かされて行く少年の姿に、八剣の表情に恍惚としたものが浮かぶ。



刺激を与えられ続けた果実は、直ぐに固くなって行く。

襦袢の襟が崩れて緩む。
八剣はその襟を更に広げて、京一の肌を外気に晒す。
湯浴みした肌はまだほんのりと赤みを残しているが、それよりも、胸元の蕾の色が鮮やかで。




「可愛い色してるよ」
「る、せ…見るな、ぁッ……!」




ツンと立った、淡い緋色。
八剣はそれを京一の肩口から見下ろしながら、指の腹で押し潰す。
ぐりぐりと潰したままで捏ね回されて、京一の口から甘い悲鳴が零れる。




「あ、う…んッ、あッ……」




ピクッ、ピクッ、と京一の体が小さく震える。

腰を抱く八剣の手に、京一の手が重なる。
ぎゅぅう、と手の甲を抓って抗議を上げるが、それが大した効果になる訳もない。




「ッは……ん、んんッ……」
「ほら、もうこんな……」
「る、せェッ……!」




八剣が指を離すと、頂きはツンと尖って自己主張する。
血色の悪さ故か、あまり日に焼けていない京一の肌に、その部分だけが鮮やかな色を魅せていた。


炬燵布団の中で投げ出していた京一の足が、引き寄せられて太腿を擦り合わせる。
その行動の意味を、京一も自分で(甚だ不本意ではあったが)理解していた。

耳元で八剣が笑う気配があって、京一はぎりぎりと歯を噛む。
熱に浮かされかけた思考でも、理性と男としての矜持は捨てていない。
それでいてまともな抵抗が出来ない上、流されるしかない己の躯に、京一は酷く腹が立っていた。


京一の腰を抱いていた手が離れて、襦袢の衿下からその中へと滑り込む。
太腿をゆったりと撫でられる感触に、京一が身を震わせた。




「てめッ、気持ち悪ィ触り方すんなッ!」
「色気がないねェ」
「あって堪るか!」




噛み付くように怒鳴る京一だが、赤い顔で幾らす睨んだ所で、八剣には通用しない。
そもそも、この男に凄みや威嚇の類など、意味がないのだ。


するり、と、八剣の手が京一の腿の内側に滑ってくる。
拒否するように京一が足を閉じるが、指先がくすぐるように遊ぶのを感じて、鼻にかかった息が零れてしまう。




「ッん…ふ、く……や、めろ、ってェ……」
「でも、このままも辛いだろう?」




緩めのトランクスの下に八剣の手が入り込んで、京一の中心部に触れる。
指先で形を確かめるようになぞれば、京一が息ごと口を噤んで耐えようとする。

八剣は固くなりつつあった其処を掌全体で包み込んで、上下に扱き始めた。




「う、あッ、ん…!や、あ…ッ」




京一の躯が小さく跳ねて、いやいやをするように頭を振る。
しかし、八剣の手は益々悪戯さを増して行く。


雄を刺激しながら、八剣は京一の胸の果実に再び指を掠める。
下肢にばかり意識を向けていた京一は、不意の刺激に一際大きく躯を震わせた。




「バ…!や、あッ、ん…!」
「こっちも一緒に弄られるの、好きだろう?」
「ンな訳……ひぁッ」




きゅ、と下肢を緩く握り込まれて、思わず高い声が漏れる。

己のあられもない声を聞いて、京一は耳まで赤くなった。
その様子を後ろから見下ろして、八剣の口元が笑みに緩む。




「ほら、ね?」
「違、やッ!…ん、あ、うぅ……!」




否定する声を遮るように、八剣の手が京一の雄を扱く。

振り払おうとしてか、京一は炬燵の中でじたばたと足を暴れさせていた。
その所為で襦袢の褄下は崩れて行き、炬燵の赤外線の熱が直接京一の足に当たる。
────それに気付かず、尚も暴れていたものだから、




「熱ッ!」




ガツン、と京一の足が赤外線の放射口に当たる。

最近は熱源部分に触れても火傷しない炬燵もあるそうだが、八剣宅にあるのは、旧来からよく見られる代物だ。
熱源部分にはカバーが当てられており、高温部に直接触れないように考慮されてはいるが、やはり其処も熱くなっている。


暴れさせていた足を引っ込めて、京一は体を丸める。
炬燵布団の中でヒリヒリと痛む足を摩った。

思わぬ事態に八剣も目を丸くして、京一の様子を見守る。




「大丈夫かい?」
「あっち……」
「ちょっと見せてごらん」




炬燵布団を捲ると、抱えられた京一の足は、ぶつけた部分が微かに赤くなっていた。
八剣が優しく撫でてみると、京一の肩が僅かに震えたものの、痛みらしい痛みはないらしい。




「ビビった……」
「暴れるからだよ」
「誰の所為だよ」
「さてねェ」




とぼけてみせる八剣に、この野郎、と京一が涙の滲んだ眼で睨む。
それに眉尻を下げて笑みを返して、─────八剣は動きを止めた。

フリーズでもかかったように停止した八剣に、京一は眉根を寄せる。
なんだよ、と見下ろす双眸を見返せば、八剣の視線はそれを素通りして更に落ちて行く。



炬燵の中で、目に見えないまま暴れていた足は、相当激しい動きをしていたようで、襦袢の褄下は広がり、皺だらけになっている。
袷と褄下がそれぞれ緩んでいるのに、腰元だけは確りと留められているから、引き締まった腿の合間が、見えそうで見えない。
帯だけは確りと結ばれているのが、反って少年と青年の合間の躯独特の背徳感を助長させていた。

肩越しに京一が振り返れば、八剣の首元を、痛み勝ちな髪の毛先がくすぐる。
眉間に皺を寄せながら、それでもきょとんとして此方を見上げる瞳は、不機嫌な空気がない所為か、常よりも随分と幼く見えた。


八剣は、京一の細く尖った顎を摘まんで後ろを振り向かせた。
何だよ、と言いかけた唇を、己のそれで塞ぐ。




「────ん、む……ッ!」




ゼロ距離の位置で、京一の眼が見開かれる。
それに構わず、八剣は驚いて半開きになった唇の隙間に舌を滑り込ませた。




「ん、んぅ…!ふ、む、んぁッ…!」




逃げようとする顎を捉えて固定させ、八剣は京一の舌を絡め取る。

息苦しさに耐え兼ねて、京一が硬く目を閉じる。
強気な眼が瞼裏に隠れた事を残念に思いつつ、八剣は少年の咥内をじっくりと味わう。


八剣の手が、ゆっくりと、京一の襦袢を肌蹴させていく。
上半身をほぼ裸身にした京一の腹をそっと撫でて、その手は下へ下へと降りて行った。

口付けは、離れては再び重ねてを繰り返す。
合間に呼吸を求めても、僅かな隙間では、京一の満足行く酸素の補給には足りない。
頭の中に霞がかかる感覚に襲われながら、京一はただそれを甘受するしかない。

そうして少年が再び劣情に流されつつあるのを確かめながら、八剣は京一の膝裏に手をかけ、持ち上げた。




「ッは……!バカ、降ろせッ……んぅッ」




京一は、胡坐を掻いた八剣の膝上に乗せられ、そのまま両足を大きく広げさせられる。

炬燵布団のお陰で目には見えないが、自分がどんな体勢をしているのかは、理解出来る。
襦袢の褄下も大きく広がって、京一の下肢を男の手から妨げるものは残っていない。


ちゅく、ちゅ、と舌を絡めあう音がする。
それが鼓膜を揺らす度、京一の躯が震え、官能を呼び起こす。




「んあ、ふぁ……ッは、あ…ッ」




舌裏をゆっくりと舐られて、京一の瞳に熱が篭る。

開いた京一の脚を腕で押さえながら、八剣は京一の太腿を撫で辿る。
その狭間の中心部は、少年の若い性の昂ぶりに素直に反応を示す。


唇を解放すれば、銀糸が尾を引いた。
ぷつん、と切れたそれが京一の唇を濡らす。




「寒い?」




問いながら、八剣の手は京一の秘部を撫でた。
ぴくん、と京一の脚が震えて、艶の宿った双眸が男を見上げる。




「………熱、い、……」




どうにかしろ、と。
命令にも似た言葉で先を促す京一に、八剣はくすりと笑みを漏らす。


八剣の指先が京一の秘孔をなぞる。

嫌で仕様がなかった筈のその感覚に、慣れてしまったのはいつからだろうか。
意識とは関係なく、続く刺激をを欲しがるように、京一は秘孔が疼くのを感じた。



手探りで下着を脱がしていくと、京一自ら腰を浮かせてそれを助けた。
下肢は炬燵布団の中で、人目に晒される事はなかったが、それが反って京一の羞恥心を煽る。
いっそ丸見えになったら、腹を括って開き直れるのに、と。

耳まで赤くなって、強気の眦に羞恥の滴を滲ませる少年に、八剣は己の下肢に血が集まって行くのを感じていた。
それが京一の下肢に当たっているものだから、京一は益々顔を赤くする。


ヒクヒクと疼く秘孔に、長い指がつぷ、と埋まる。
異物感と圧迫感、待ち侘びていた刺激に、京一の肩がビクッと跳ねた。




「ひっう……!」
「痛い?」




耳に吐息がかかる程の近い距離で囁かれて、京一はゆるゆると首を横に振った。
その返事に満足して、八剣は口を押し広げるように、ゆっくりと指を動かし始める。




「う…ん、あッ、…ん、はぁ…ッ」




艶の篭った吐息が京一の唇から溢れて、八剣の耳を楽しませる。
指を抜き差ししてやれば、細い身体が小刻みに震え、与えられる快感に耐えるように口を噤む。
それを腕の中に閉じ込めながら、二本目の指を挿し入れて、秘孔の口を押し広げる。




「あ、あ……う、んんん…!」
「欲しい?」
「…っは…ひッ……あ、」




そっと喉元を撫でれば、ひくん、と首が逸らされて。
広げられた秘孔が、くぱくぱと伸縮して。

京一は縋るように炬燵机に身を倒して、腰を突き出して八剣の下肢に押し付ける。




「も、早く…しろッ……!」




肩越しに睨む、赤い顔をした少年に、八剣はうっそりと笑みを浮かべた。

着物の帯を緩ませて、袷を広げ、下着から取り出した欲の塊を、京一の淫部に押し当てる。
少年を焦らした分だけ、焦らされていた其処は、既に熱の凶器になっていた。


きゅ、と息を詰めて唇を噛んだ京一を見下ろしながら、八剣はゆっくりと、抱いた細腰を引き寄せて行く。




「う、あ、あう…うぅーッ……!」




息苦しさを堪えて、ふるふると身を震わせる少年の姿が、なんともいじらしい。


埋めた肉棒にまざまざと肉壁がまとわりついて締め付ける。
八剣が腰を揺らすと、京一の押し殺した声が漏れた。

八剣は京一の膝裏を掬い上げて、京一を下から突き上げる。




「ひっあ!」
「見えない分、いつもより感じ易いかな?」
「う、あ、あ、んんッ!」




ぐちゅ、ぐちゅ、と炬燵の中から卑猥な音が小さく聞こえて来る。

炬燵と八剣に挟まれて、身動きできない京一は、秘奥を突き上げる感覚から逃げる事も出来ない。
それよりも、もっともっとと誘うように、炬燵布団の端を握り締めて腰を揺らす。




「ふあ、あ、う、うくッ」
「意外と積極的だね。見えないからか」
「る、さいッ…!ひッ、あん!」




揶揄うように囁く男に、眉を吊り上げて睨む京一だが、下部を襲う快感に言葉を攫われる。




「ひッ、ひう…!も、きつ…!」
「暴れちゃ駄目だよ。また熱い思いしたくないだろう?」
「あぁっん!」




ぐちゅッ、と八剣が一つ強く腰を打ち付ければ、京一の喉から高い悲鳴が零れた。




「んあ、あッ!は、う、やッ、も…ああッ…!…熱、いぃ…ッ」




炬燵の中は熱が篭っていて、袷が広がって露わになった肌にも、直接熱が当たっている。

与えられる快感に正直な若さの象徴のように、京一の中心部も天を突くほどに反り返っていた。
八剣がそれに手を這わせれば、先端から先走りの蜜が滲んでいるのが判った。
蜜を救って裏筋に擦りつけるように指を上下させると、一層高い声が上がり、秘孔が強く閉じて八剣の雄を締め付ける。


むずがる子供のように頭を振る京一に、可愛いねェ、と八剣は笑む。
俯いて後ろ髪が落ちると、鬼との戦いか、それとも喧嘩か、痣の残った項が見えた。
つ、と舌を這わせれば、肩を縮こめて背を落ちて来る快感に耐えるのが判った。




「…ふぁ…は…っあ…あッ…」




意識して呼吸を繰り返し、京一は快感をやり過ごそうとする。
けれど、それに務めるには頭の中は既に悦楽に支配されていて、思うように思考が回らない。

背後の男の欲望を咥え込んだ秘部は、ヒクヒクと伸縮している。
己の有様が直接目に見えない分、繋がる感覚がリアルに感じられる気がして、京一は身を震わせた。
考えたくもないのに、頭の中にはイメージが浮かんで、自分が酷く淫らな生き物になったような気がする。


京一の身体から力が抜けて、八剣の胸に寄り掛かる。
それを見た八剣が、掬っていた京一の脚を支える手から力を抜けば、自重で落ちた身体がより深く男を咥え込み、




「ひぁッ、あッ、あああああッ!」




堪え切れなかった声を上げて、京一は己の熱を放つ。
同時に秘孔も強く閉じ、八剣の雄を締め付けた。




「く、うッ……!」
「んぁッ、あうぅ…!あ、つ、ひぃいんッ…!」




ビクッ、ビクッ、と京一の秘孔内で雄が強く身を打ち、白濁液が吐き出される。
どろりとしたものが体内を犯して行く感覚に、京一は虚空を仰いで戦慄いた。


すとん、と強張っていた体が弛緩する。
体重を預ける少年を、八剣は背中から抱き締めた。




「大丈夫かい?」
「……う、……んん…ッ」




気遣うような言葉を、揶揄ような声で囁かれて、京一は小さな声で呻く。

秘孔には男の熱が穿たれたままで、少しでも身動ぎすれば、其処から新たな熱が背中を這って昇ってくる。
注がれた濃い蜜液は、蓋が成されている所為で体内に居残って、ぷちゅ、と淫水音を鳴らす。



絶頂の後の倦怠感が過ぎるのを待ち、零れる呼吸も落ち着くのを待って。
熱に浮かされていた瞳に、少しずつ理性が帰って来る。




「ふぁ……あ…っは……はぁ……」




八剣の肩に京一の頭が落ちて来る。
散らばる赤茶色の髪を、八剣の手がそっと掻き揚げて撫でた。




「だる……」
「でも、気持ち良かっただろう?」
「死ね。汗でベタベタじゃねえか、最悪だ」
「汗、ねえ。本当にそれだけかな?」




八剣が抱いた少年の身体を軽く揺すってやれば、ヒクン、と京一の肩が跳ねて、




「ンの……セクハラ野郎!さっさと抜け!」
「まあまあ。せっかく温まってるんだから、もう一回。ね?」
「ふざけ…ひんッ!」




ぐちゅッ、と淫部を突き上げられて、京一の喉から思わずと言った悲鳴が上がる。

とろけた秘孔は、相変わらず八剣の雄を咥え込んで離そうとしない。
頭の中は理性が戻って来ていても、快感に弱い身体は簡単には甘い網から抜け出せなかった。




「ちょ、止めろ!こんな狭いトコでもう一回なんざ御免だぞ!」
「炬燵じゃなければ良いのかい?」
「此処よりゃな!って、ヤって良いなんざ言ってねェっつーの!」




背中の男を睨んで叫ぶ京一だが、八剣がそれに怯む訳もない。
常ならば己の命令に従順である筈の男の反旗に、京一は必死になって抵抗しようとするが、




「俺は好きだよ。これ位狭い方が」




京ちゃんとくっついていられるからね。


─────にこやかな笑みの男の言葉に、俺は嫌だ、と叫ぶ少年の声は、届かない。








コタツの中で密着えっち!
基本的に京一はベタベタされるの嫌いだから、ぴったりくっついてエッチなんて中々出来ない。

しかし今更コタツネタって……書きはじめたのは冬だったんだけどなぁ。あれ?