声が消える先


 最初に浮かんだのが、世話になっている青年の顔だった。
けれど、彼には言えない。
事の発端が、彼の頼み事を引き受けた事だったと思うと、言えば彼が自分を責めるのが目に見えていた。

 それから、次に浮かんだのが、特徴的な形をした金色だ。
彼はレオンに比べるとやや強引な所はあったが、踏み込んでも良い領域と、そうでない領域は弁えていた。
普段は、それすら敢えて見ないような振りで踏み込んでくるのだが、そのお陰でスコールが、幾つかの不便や希望について口にする事が出来たのも確か。
彼のお陰で、スコールが彼等との距離を縮められたのは間違いない。

 いつもふらりと戻って来たかと思うと、いつの間にか何処かに雲隠れしている事の多い彼が、此処数日はずっと家にいる。
数日前、何があったのか問い詰められた時、頑として答えなかったスコールを、傍にいる事で気にかけてくれていたのは間違いないだろう。


(……クラウド……)


 あの時、やっぱり言えば良かったのか。
でも、言ったらどんな顔をされただろう、と思うと、スコールの喉が苦しくなる。

 涙を浮かべ、苦しげな顔で奉仕を続けるスコールに、見下ろす男達が舌なめずりをした。
咥えたペニスが膨らみを増し、どくどくと脈を打っている。
咥内でじっとりと苦い味が広がって行くのが判って、スコールは吐き気を感じたが、吐いた所できっと男達がこの行為を辞める事はないだろう。
ああ、早く終わってくれ、と思いながら、秘奥に埋められたペニスがどくんっ、と絶頂の前兆を示した時だった。

 スコールを囲んでいた男達の眼前に、錆付いた包帯を巻き付けた幅広の刀剣が現れる。
僅かに距離感を間違えれば、男達の顔を切り裂いていたであろうそれに、男達は一瞬それが何か認識出来ずに呆然とした。
動きを止めた男達に囲まれる中、一心不乱にペニスをしゃぶるスコールの淫音だけが続いている。


「何…なんだ、こりゃ…?」
「おい、これって確か────」


 僅かに記憶に覚えがあった者が、嫌な予感を覚えて首を巡らせる。
と、その人物の真後ろに、黒衣を身に纏った金髪の男が、幅広の剣の柄を握り締めて立ち尽くしていた。

 お前は、と名を呼ぶ前に、男達の姿は闇色に飲み込まれて消えた。
スコールが咥えていたものも、握っていたものも、彼の秘奥を犯していたものも全て、まるで最初から何もなかったかのように跡形もない。
一人取り残されたスコールだけが、呆けた表情で其処に座り込んでいた。


「……スコール」


 呼ぶ声にスコールがゆっくりと顔を上げる。
虚ろな蒼灰色に見上げられて、金髪の男───クラウドは傷ましげに眉根を寄せた。

 剣を横に置いて、クラウドはスコールの傍らに片膝を着いた。
手を伸ばすと、スコールはぼんやりとした表情のまま、それを受け止める。
嫌がられない事に僅かに安堵したクラウドだったが、視線を彷徨わせているスコールに、認識が追い付いていないだけだと言う事を悟った。


「……もっと早く来るべきだった。悪かった」
「……?」


 詫びるクラウドに、スコールの茫洋としていた瞳に微かに光が戻る。
火照りに赤くなりながらも、何処か温度を失くしたような色をした頬を、クラウドの手がゆっくりと撫でた。
いつ以来かと思うような優しい触れ方に、徐々にスコールの瞳に意識が戻って行く。

 ぱち、ぱち、とゆっくりと瞬きが繰り返された後、「……クラウド……?」とスコールの唇が形を紡ぐ。
ねばついた液体をまとわりつかせた喉奥は、声帯もまともに機能していなかったが、唇の動きが見えれば、クラウドは名を呼ばれた事が判った。
小さく頷いて返事をすれば、スコールの腕がゆるゆると持ち上がって、クラウドの胸元を握る。


「ク、ラ…ウド……」
「ああ。俺だ、スコール」
「クラウド…ぉ……!」
「……うん」


 名を呼ぶ度、じわじわと大粒の涙を滲ませるスコール。
クラウドはそんなスコールを抱き寄せて、乱れ切った濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でた。


「あ…あ……うあああああ……!」


 自分が解放された事、助けられた事を、スコールは理解しつつあった。
同時に、自分が何をされていたのか、何を隠そうとしていたのかをクラウドに知られた事を理解して、新たな絶望が襲う。

 見られた。
見られた見られた見られた。
知られたくなかったのに、だから黙っていたのに、結局、知られてしまった。
クラウドに知られたのなら、きっと彼はレオンにもこの事を伝えるに違いない。
一番知られたくない二人の人間に、自分の汚れきった躯の事を知られるなんて、絶対嫌だったのに。

 初めて声を上げて泣くスコールの姿に、クラウドは唇を噛む。
レオンと違って子供の扱いは慣れていないから、何を言えばスコールが泣き止んでくれるのか判らない。
そうでなくとも、あんな事をされていた少年に、泣きやめと言うのが無理だろう。


(……ともかく、このままでいさせる訳にはいかないな)


 泣きじゃくるスコールの躯を見て、クラウドは顔を顰めた。

 潔癖症ではないが、衛生管理にはレオン同様に気を遣う性格のスコールは、いつも身綺麗にして過ごしている。
服もきちんと洗濯しているので、みすぼらしく見える事もない。
それが今は、シャツは皺だらけで、彼の一張羅であるファー付のジャケットは床に放られて乱雑に丸められているだけ。
ズボンも同じように放られており、スコールが下肢に辛うじて身に付けているものと言ったら、恐らく下着の成れの果てであろう布切れのみ。
ウェストのゴムだけが申し訳のように残されていたが、前も後ろも大穴が空いて、肝心な所は何も隠せていない。
その上、尻は薄らと赤く腫れて、其処に大量の白濁液がかかっている。
秘部からどぷっどぷっと精液が溢れ出し、股間がぐしょぐしょに汚されて、床に精液溜まりが出来ていた。
シャツの裾から覗く細い腰には、力任せの男達の手形がくっきりと残っている。
顔も涙と涎と、精液のような白濁で汚れていて、綺麗な所を探す方が難しかった。

 ひっく、ひっく、としゃっくりを零しているスコールの頭をもう一度撫でて、クラウドは彼の体を抱き上げた。
横抱きにされたスコールは、浮遊感にか一瞬体を硬くしたものの、嫌がって逃げる事はない。
が、


「っふ…クラウ、ド……待っ、て……」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔で、スコールがクラウドを呼ぶ。
なんだ、と目線を合わせて応えると、スコールは縋るようにクラウドの胸を掴み、


「かえ、るのか……?」
「そのつもりだが…その前に、風呂場に行こう。水しか出ないが、このままは嫌だろう」


 複雑な構造をしている城内だが、復興が始まった頃、生活の起点を置いていた事や、まだ蔓延っていたハートレスを退治する際にかなり歩き回ったお陰で、何処に何があるのかクラウドは覚えている。
街の復興が形になってきた頃に、城へのガス等の供給も止めたので、温かい湯は使えないだろうが、致し方あるまい。

 図書館を出て、長い廊下を歩いていると、スコールはクラウドの胸を握ったまま、小さな声で言った。


「クラウド…たの、みが…ある……」
「なんだ?」
「………」


 出来るだけいつもと変わらない態度を努めながら、クラウドは応じた。
スコールはきゅっと唇を噛んだ後、苦しげな表情で、やっとの事で声を出した。


「さっきの、事……言わないでくれ……誰にも……」
「……レオンにも、か?」
「……っ……!」


 紡がれた名に、スコールの肩が跳ねる。
怯えていると判る反応に、クラウドはそんな顔をする必要はないのに、と思う。

 しかし、少年の切な訴えの気持ちも判らないではない。
数日前に様子が可笑しかった時から、スコールは今日と同じ目に遭わされていたのだろう。
男が男に襲われ、輪姦された等と、きっと誰であっても言いたくない筈。
スコールが素直に助けを求められる人間であったとしても、それを言った時の相手の反応や、自分の身に起きた出来事を反芻させる事への恐怖に苛まれるのは、想像に難くなかった。

 レオンがスコールを酷く心配していた事を、クラウドはよく知っている。
彼は、何処から来たのかも判らない、自分と似通っている、けれどもずっと幼い少年の事を、弟のように可愛がっていた。
いつかの自分のようになってしまったら、と言う自己投影もあって、入れ込み過ぎだとシドに注意されても尚、気にかけずにはいられないようだった。
そんなレオンを思えば、スコールの身に起きた事を知らないままにされるのは悔しいだろうが、


「……判った。誰にも言わない」


 クラウドの言葉に、胸を握っていたスコールの手から力が抜ける。
安堵か、彼に秘密を持つ事への後ろめたさか、またスコールの目から涙が溢れ出す。
慰める言葉を持たないクラウドは、泣き縋るスコールを気の済むまで好きにさせていた。



 生活の拠点を街に移して以来、めっきり使う機会がなくなった城の大浴場は、寒々としたものであった。
冬ではないので凍える程の寒さはないが、タイル張りの床は冷え切っており、シャワーを捻っても水しか出ない。
しかし、一先ずはこれで我慢して貰うしかないだろう。

 クラウドはスコールの服を脱がせると、緩めの水圧のシャワーを背中にかけた。
水の冷たさに、ビクッとスコールの体が跳ねる。


「すまない。少し我慢してくれ」
「……ん……っ」


 細い肩を震わせながら、スコールは頷いた。
その震えが水だけの所為とは思えず、クラウドはひっそりと唇を噛む。


「…スコール、口、漱ぐか?」
「……ん」


 望んでもいない奉仕を強要された、桜色の唇。
唾液の痕に混じって、薄らと白んだものがこびり付いていたのを、スコールは手で受けた水で洗い流した。
口の中も二度、三度と漱ぎ、咳き込みながら水を吐き出す。

 あまり長々と水に晒しているのも良くないと、クラウドは手早くスコールの体を洗い流してやった。
本音を言えば、あの男達が触った後も判らなくなるように、全て綺麗にしてやりたかったが、スコールに風邪を引かせる訳にも行かない。
それは帰ってから、きちんと温まらせてからの方が良い───が、どうしても放って置けない所もあった。


「…スコール。足、開けるか」
「……っ…」
「……嫌か?」


 クラウドの言葉に、スコールは自身を抱き締めるように蹲った。
しかし、彼自身も今のままにしておきたくはなかったのだろう、しばらく躊躇うように丸くなっていたが、怖々と脚を開き始めた。

 床すれすれの位置にある秘穴から、トロトロと溢れ出している精液。
クラウドが“片付けた”男達が、其処を好き放題に蹂躙していたのだと思うと、腸が煮える思いがする。
その怒りをぶつける相手は既にいないのだが、滲む憤りは未だ沈下する気配はなく、ぐらぐらとクラウドの胸中を焼く。

 とは言え、それをスコールにぶつける訳にはいかない。
今は彼を安心させてやらなければ、とクラウドはスコールの涙が浮かぶ眦にキスをして、スコールの開かれた太腿を撫でる。


「ん……っ!」


 ビクッ、とスコールの体が強張って、クラウドは手を止める。
少年の表情をよくよく観察して、拒否を口にしない事だけを救いに、クラウドはゆっくりと指を滑らせていった。

 足の付け根の皺をくすぐり、辿り着いた秘部を、ぐっ、と指が押す。
スコールの体がカチカチと小刻みに震えて、息を詰めているのが判った。
恐いのか、寒いのか、クラウドには判然としなかったが、長々と苦しませない為にも、と性急に指を挿入させる。


「んぁあ……っ!」


 厚みのある硬い皮膚に覆われた指が入って来るのを感じて、スコールは身体を仰け反らせた。
灯りのない暗がりの天井を仰いで、はっ、はっ、と短い呼気が繰り返される。


「あ…あぁ……っ」
「少しだけ我慢してくれ」
「は……ああぁ……っ!」


 くちゅっ、と内部でクラウドの指が動いて、スコールは官能の声を上げる。
ほんのついさっきまで、男達に凌辱されていた其処は、歪な形に広がりながらも、柔らかく解れており、クラウドの指を物欲しそうにきゅうきゅうと締め付けて来る。
男達の精液と、分泌された腸液とで濡れそぼった肉壺は、何処か苦しそうなスコールの表情に反し、クラウドを拒もうとはしない。

 奥まで挿入した指を曲げて、中を占領しているものを掻き出して行く。
その間、スコールは肉穴を弄られる快感で、ひっきりなしに甘い声を上げていた。


「あ、あ…っ!クラ、ウド……んっ、そこ…あぁっ
「大丈夫だ。直ぐ終わる。終わらせるから」
「はひっ…、ひぃん…っ!ああっ、出、てる…ぅう……っ!」


 どろりとしたものが秘孔から溢れ出すのを感じて、スコールの体がぶるりと震えた。
赤らんだ頬に、彼が感じているのが嫌悪の類ではなく、官能である事が判る。
それを見たクラウドの喉がごくりと鳴るが、クラウドは今ばかりはと理性でそれを抑え込んだ。

 しかし、クラウドが指を動かす程に、スコールは甘い声を上げてしまう。


「あっ、ふぅっんん……っ!あ、あ……っ!」
「……おい、スコール、ちょっと……」
「は、はうっ……んっ、クラウド…ぉ…あぁあ…っ


 苦しげに息を堪えているように見えたスコールの表情が、段々と蕩けて行く。
スコールの腕が彷徨い、縋るものを探した手が、クラウドの肩を掴んだ。


「クラ、ウド…んっ、クラウド、ぉ……は、あぁ…っ!」
「…少し強くするぞ」


 このままでは、此方の理性が持たない。
そう判断して、クラウドはスコールを床に引き倒し、脚を大きく左右に開かせた。
突然の状況の変化に、スコールが呆けた顔でクラウドを見上げて来たが、理解を待たずにクラウドは指の動きを激しくさせる。


「はっ、あっあぁっ、んぁっ…!」


 ぐちゅっ、ぐちゅっ、と淫音を漏らす秘孔から、どろりとした粘液が溢れ出してくる。
クラウドはスコールの中を引っ掻くように指を動かして、蜜壺に溜め込まれている精子を掻き出して行った。
クラウドの指に掻き回され、精液が尻穴から溢れ出して行く快感で、スコールは身体を弓形に撓らせて悦びを孕んだ悲鳴を上げている。


「はぁっ、ああっ!んっ、ふぅんっああっ、出て…っ、ああぁ…っ!」


 スコールの腰が悶えるように捩られ、水でしっとりと濡れた肌が火照りを帯びて行く。
クラウドが二本目の指を挿入させると、スコールはまた高い声で啼いた。
広いタイル貼りの壁に反響する声に、クラウドは飛びそうになる理性を踏み留めながら、スコールの秘孔内を広げていく。

 どぷ、ごぷっ、と泡立った白濁が一気に溢れ出した後は、少しずつ量が減って行った。
最後に水圧が直接当たらないように手で庇いながら、秘部に水を流して行く。
股間を伝う冷たい水流に、スコールはビクッビクッと太腿を跳ねさせた。


「んっ、んんっつめ、たい…あぁ……っ」
「…少しだけだ。我慢してくれ」
「はっ、あぁっ…クラウ、ド、おっふぅうん…っ!」


 宥めるクラウドの声を、スコールは聞いていなかった。
官能で強張った爪先がピンと伸びて、クラウドの指を食んだ秘孔がヒクヒクといやらしく動く。

 スコールの下肢にまとわりついていた白濁が、水に洗い流されて行く。
クラウドが指を抜くと、最後の一液がぴゅくっと零れ、排水溝へと押し流された。
清められた体を震わせ、はっ、はっ、と短い呼吸を繰り返しているスコールに、一先ずはこれでいいか、とクラウドはシャワーを止める。


「後は家に帰ってからにしよう。ちゃんと風呂で温まった方が良い───」


 言いながら、クラウドがスコールを抱き上げようとした時だった。
服の襟を掴まれ、ぐいっと強く引っ張られる。
不意を突かれたクラウドは、スコールの上に覆い被さるように倒れ込んだ。
危うくスコールを押し潰してしまう所で、クラウドはタイル床に両手を突いて自重を支える。


「おい、スコール……」
「は…う…っんんぅ……っ」


 襟を掴んでいた手が、クラウドの首に回される。
嫋やかな足がクラウドの腰に絡み付いて、身を寄せたスコールの吐息が、クラウドの耳元に当たった。
何度目になるか、どくどくと血が昂るのを自覚したクラウドは、今は駄目だ、と今一度自分を律しようとするが、


「ク、ラウ、ド……クラウ、ドぉ……っ」


 縋るように、甘えるように名を呼ぶスコールに、クラウドの理性がぐらぐらと揺れる。
そんな場合じゃない、早く帰らないとスコールが風邪を引く───と判っているのだが、しがみつくスコールが、起き上がろうとするクラウドを全身で引き止める。

 ゆらゆらとスコールの細い腰が揺れて、中心部がクラウドのそれに押し付けられた。
既に固くなっていた其処に熱を当てられて、どきりとしたクラウドだったが、それ以上に彼の意識を引いたのは、スコールのペニスだ。
見下ろしてみれば、スコールの雄はすっかり膨らんで立ち上がっており、先端からは先走りまで零している。


「スコール、お前、」
「っは…あ…あぁ……っクラ、ウド…クラウド…お…っ」


 スコールの背を抱きながら、クラウドは体を起こした。
床に座り、膝の上にスコールを乗せてやると、スコールは涙と熱が交じり合った瞳で、クラウドを見詰めた。


「クラウド……お、願い…だから……んっはぁっ……、触っ、て…え……


 テントを張ったクラウドの前部に、自身を擦り付けながら、スコールは強請る。
自分がしている事を認識していない訳ではないのだろう、恥ずかしそうに頬が赤く染まる。
それでも、体の熱が止められないスコールは、クラウドに縋る。


「クラウド…んっ、クラウド……」
「……スコール」
「お願い…、お願いだから……はっ、ああ……っ!あんたの指…気持ち、良くて……俺、もう……っ」


 望まぬ凌辱を受けたスコールを慮って、クラウドが処理を行ってくれていた事は判っている。
だが、ようやく解放された安堵感の中で与えられた刺激は、無理矢理拓かれた体にも快感を与えていた。
いや、あの男達ではなく、クラウドに触れられていると思うからこそ、余計にスコールは我慢が出来なかったのだ。
自分の欲望だけを満たそうとする連中と違い、出来るだけスコールを傷付ける事のないように気遣ってくれるクラウドの指が嬉しかった。

 だが、指だけでは足りない。
処理作業の中で、煽られてしまった体の熱は、最後まで満たされるまで、スコールを苛み続ける事だろう。
男達に凌辱されていた感覚も、未だ消えきらない体に、安心できる人の温もりが欲しくて堪らない。

 抱き起こしてから先に動こうとしないクラウドに、スコールの表情が翳る。


「だめ、なのか…?クラウド…もう、俺と…セックスしたくない……?」
「いや……」
「も……汚れ、たから……嫌になった……?」
「違う。そうじゃない」


 大粒の雫を浮かべ、消え入りそうなか細い声で言ったスコールに、クラウドは迷わず首を横に振った。
でも、とスコールが言おうとすると、それを遮ってクラウドは冷たくなった体を抱き締める。

 ひっく、ひっく、と腕の中でしゃっくりを零している少年を、クラウドは頭を撫でてあやす。
嫌じゃない、と囁いてやっても、スコールは信じられないと首を横に振った。
返事が遅れたのが悪かったのだと、クラウドにも判る。
一度悪い方へと考えると、坂道を転がるように思考が落ちて行くスコールを引き止めようと、クラウドは不慣れを自覚しながら口を開く。


「お前とセックスするのが嫌になるなんて事はない。それに、お前は汚れてなんかいない」
「でも……俺……あ、あいつ、らに……中……」


 声を震わせるスコールに、クラウドは言わなくて良い、と首を横に振った。


「奴等の事で、お前に悪い所なんて何もない。無理矢理だったんだろう?」


 クラウドの問いに、スコールは小さく頷いた。
聞かなくてもクラウドには判る事だったが、スコール自身に答えさせる事で、彼が少しでも落ち付けば、と思っての問いだ。


「お前は悪くない」
「でも、俺、前にも……、それも、黙ってて……」
「簡単に言えるような事じゃない。きっとそれが普通だ。俺達に心配をかけたくなかったんだろ?」
「……ふ…う……!」
「お前は悪くないし、俺もレオンも、お前を嫌いになんかならない。さっきはちょっと驚いたのと……大丈夫なのかって思ったんだ。あんな目に遭った後だから」


 クラウドの言葉に、“あんな目”を思い出して、スコールの体が震える。

 ねだられたとは言え、スコールは強姦された直後である。
クラウド自身は応える事に抵抗はないが、スコールを怯えさせるのではないかと心配だった。

 そんなクラウドに、スコールは震える唇を開いて、


「だ、から……だから、消して欲しいんだ……あいつらの手、凄く気持ち悪くて…でも、あんたの手は、気持ち良かったから……」
「……そうか」
「消して欲しいんだ……あいつらの気持ち悪いの、あんたので全部……!じゃないと、俺…、レオンにも逢えない……!」


 もう一人の、自分を愛してくれる青年の顔を思い出して、スコールの眦から大粒の雫が零れた。
ぼろぼろと溢れ出す涙が、クラウドの肩袖にじんわりと熱い滲みを生む。

 クラウドはスコールの頭を撫でて、その手を頬へと滑らせた。
肩に顔を埋めていたスコールの頭を上向かせて、涙を零す眦に唇を当てる。
柔らかく触れたものに、スコールがまた涙を滲ませた。
きりのないそれを、舌でゆっくりと舐め取ってから、今度は唇にキスをする。


「ん、ぅ……っ」


 クラウドの舌が、スコールの唇をの形をくすぐる。
スコールがそっと唇を割り、隙間を開けて、クラウドを招き入れた。
怖々と絡めようとする舌を、クラウドの方から絡め取って、唾液を分け合いながら咥内を弄る。
舌先で歯列の裏側をなぞる度、ぞくぞくとした感覚にスコールの体がビクッ、ビクンッ、と跳ねた。


「んっ、んんっ…あ、ふぅ……っ


 クラウドの首に絡められた、スコールの腕に力が篭る。
ねっとりと唾液で濡れたスコールの口の中は、じっとりとした熱い吐息で一杯になっていた。
その全てを貪らんとばかりに、クラウドはスコールの咥内を隙間なく舐って行く。


「んぁ、はっ…あ、むぅっ…!」
「ん……は、んっ……」
「む、ぅ……ふっ…!」


 スコールの頬を撫でていた手が離れ、腰を抱いて引き寄せる。
ぴったりと体を密着させた状態で、クラウドは空いた手で自身の前を寛げて、雄を取り出した。
すぐ傍らで膨らんでいたスコールのペニスも捕まえ、二本を擦り合わせながら手全体で扱いてやる。


「んっ、んぅっふっ、うぅ…っ


 スコールのペニスはあっと言う間に固くなり、また先走りを溢れさせていた。
男達に触られた時は、体が否応なく反応しつつも、最後まで悍ましさは消えなかった。
けれど、クラウドの手に包まれていると、どくどくと熱い血が集まって、痛い程に其処が張り詰めるのが判る。

 口付けの所為で酸素が足りず、スコールは頭の芯がくらくらとするのを感じていた。
熱を孕んだ瞳が虚ろに彷徨っているのを見付けて、クラウドが唇を放す。
「ふあ……」と寂しげな声を漏らしながら、スコールはペニスへの手淫と、添えられたクラウドの太い肉棒の脈動を感じて、甘い声を零し始める。


「あ、ふっ…!ふあ、あっ、あぁ…っクラウド…あ……っ!」
「直ぐに固くなったな」
「っは…あぁ、あぁあ……っ!や、あ……っ」


 クラウドの囁きに、スコールは頬を赤くして、ふるふると頭を振った。
自ら誘いながらも、初心な一面だけは消えない少年に、クラウドは口端を緩める。


「一度イくか。その方が、お前も気持ち良くなれるだろ?」
「んっ、あっ、あぁっク、クラウド、やぁ…っ!」


  嫌、とは言いながらも、スコールはクラウドから離れようとしない。
寧ろ更に強くしがみ付いて、早く、と焦らされた射精を求めているようにも見える。

 クラウドの指が、スコールの雄の根本をくすぐる。
海綿体をゴシゴシと擦ってやれば、スコールは喉を逸らして、ビクビクと戦慄いた。
目の前で曝け出された喉に食い付いて、膨らんでいる喉仏を舐める。
ひくん、とスコールの喉が震えたのが判った。


「あ、あ…っ!はっ、あぁっ…!」
「ん、ふ……む、」
「んぁ、あ、クラ、あっ…!あぁあ…っ


 喉を食みながら顎を動かし、甘く歯を立てる。
ビクッ、とスコールの肩が跳ねたが、恐怖からの反応は見られない。
じゅる、と音を立てて、喉仏に唾液を塗り付けて唇を放すと、スコールはうっとりとした表情で、ぼんやりと天井を見上げていた。

 クラウドは手全体でスコールのペニスを包み込み、上下に動かして扱いてやった。
根本から先端まで擦り上げる度に、ぴゅっ、ぴゅうっ、と精子が噴き出す。


「あっひひぃっんっ、クラウド……っ、あっ、イく…っんっ、出るぅ…っ!」
「ああ。イって良いぞ」


 そう言ってクラウドは、スコールの亀頭をきゅうっと握った。
ビクン、とスコールの体が跳ねて、クラウドが手の力を緩めると、ビクッビクッ、と肉棒が震え、


「あっ、あぁっんぁああうぅっ


 びゅくっ、びゅるるるっ!と白濁の蜜が噴き出して、クラウドの手と下肢を汚す。
男達の手で凌辱された時、強引に一度果てさせられてからは、ずっと昂るばかりで射精には至っていなかった。
その所為か、処理の最中から官能を感じていた事も含め、吐き出されたスコールのカウパー液は、ねっとりと濃く重くなっている。

 クラウドは精液で汚れた手で、もう一度スコールのペニスに触れた。
果てたばかりの躯は全身が敏感になっており、竿に指先が触れただけで、スコールの腰に甘い痺れが襲う。


「ふあっ…あぁ……っ
「…気持ち良いか?スコール」
「あ…う……く、ら、うど…ぉ……


 クラウドの問いに、スコールは答えられなかったが、蕩け切った貌を見れば一目瞭然だった。
良かった、とクラウドが目尻にキスをする。

 体を弛緩させたスコールを膝に乗せたまま、クラウドは服を脱いだ。
黒の服を冷えたタイル床の上に敷いて、スコールを寝かせる。
既に力が入らなくなっている白い足を肩に乗せて、クラウドはスコールの上に覆い被さり、膨脹したペニスを秘穴に宛がった。


「んっ……!」
「あっ、ああぁん…っ!」


 ずぷっ、と太い亀頭首が一息に挿入されて、スコールは堪らず背を仰け反らせた。
クラウドの肩の上で、強張った爪先がビクビクと戦慄いている。

 クラウドのペニスに、柔らかく解れた肉圧が一斉に絡み付いて来る。
ぬるりとした感触が残っているのは、己を求めるスコールが分泌させた蜜液なのだと思う事にした。
とうに痛みなど忘れている其処は、クラウドが腰を進める儘に肉棒を飲み込んで行き、あっさりと根本まで咥え込む。


「は、う……あ…あぁ……っ」
「…スコール。お前の中、気持ち良いぞ」
「んっ…クラウ、ド…俺も…気持ち、いぃ……っ


 久しく忘れていた、愛される心地良さ。
汚れた体でもそれを与えられる事を許されて、スコールは涙を流して喜んでいた。

 クラウドはスコールの腰を掴んで、律動を始めた。
スコールが怯えないように、いつもの性急さを出来るだけ抑えて、ゆっくりと腰を動かす。
柔らかく解された肉壁をペニスが擦る度に、スコールは甘く悩ましい声を上げていた。


「あっ、クラウド…クラウドの、大きい…っ俺の、中、…あっ一杯になるぅ……っ!」
「一杯にしてやるさ。溢れる位に、な…っ!」
「んぁんっ


 ぐぅっ、と最奥の行き止まりを押し潰されて、スコールの体が跳ねた。

 少しずつ早くなって行く攻めに、スコールは自ら足を開いて求めて来た。
いつも恥ずかしがり屋でギリギリまで羞恥を捨てられないスコールが、滅多にしない行動だ。
求められているのだと言うのが判って、スコールの中でクラウド自身がむくぅっと大きくなった。
体内で増した容積を、拡げられた肉壁の感触で感じ取って、スコールは顔を赤らめる。


「ふぁっ、ひぅう…っんっ、もっと…大きく、なった、ぁ…っ
「お前が素直だからな」
「はっ、あっああっや、んぁっ、ああっ…!そ、そこ…あっ、ひぃっ


 奥の僅かに手前にある弱点を、カリがぐりぐりと抉り擦る。
掠めるだけでも相当な快感を得てしまう場所を、何度も何度も擦られて、スコールの背にぞくぞくとしたものが走る。
中心部に再び血が集まって、スコールの息が上がって行った。


「あっ、クラ、クラウド、そこ…そこされたらっお、俺…っ!」
「ああ、イきたいんだろ?幾らでもイって良い。もっと気持ち良くしてやるから」
「はっ、んっ、あぁっ…!あふっ、ふぅんっ


 獣を思わせる、獰猛な光を宿す碧眼に見つめられて、スコールの腹の奥できゅんきゅんと切ない熱が生まれる。
その腹に手を当てて体をくねらせていると、クラウドの手がそれを握った。
首へ腕を回すように誘導されて、されるがままにクラウドに縋れば、クラウドは一層激しい律動でスコールを攻め始めた。


「あっ、あっは、激しいの…あっ、擦れてる…っお、奥も、届いてる…あぁっ
「く、は…っ!苦しい、か?スコール…っ」
「んっ、平気、だから…っ!あっ、もっと、あふっ、もっと一杯……っ!クラウ、ドぉ……っ!」


 スコールの足がクラウドの腰に絡み付き、全身で抱き付いて来る。
キスをねだって顔を寄せるスコールに、クラウドは笑みを浮かべて応えた。
ねっとりと舌を絡ませ、唾液を交換し合い、ちゅぷ、ちゅぷ、と淫音を立てる口付けに、スコールは夢中になっている。
そんなスコールの唇を舐めて、クラウドは細い腰を突き上げた。


「んひゅぅっ


 最奥を強く突き上げられて、スコールの四肢が仰け反る。
そのまま硬直してしまった腰を、クラウドは続けて突き上げた。


「んっ、んふっあふっふぅうっ
「は、スコール…!出るっ、出すぞ…っ!お前の中に……!」
「ふあっ、あっああっあぁああ…っ!」


 限界近い体を動かし続けているクラウドの言葉に、スコールは目を瞠る。
拒否されるか、と一瞬緊張したクラウドだったが、蒼灰色の瞳は嬉しそうに笑んでいた。
ようやく、とも言いたげな熱に溺れた瞳に見詰められ、きゅううぅっとペニス全体を包み締め付ける肉の誘いに、クラウドが耐えられる筈もなく。


「うっ…!イく……っ!」
「あ、あぁっ!はあぁぁああんっっ


 ドクン、ドクンッ、とペニスが一際強く脈を打ったかと思うと、クラウドの劣情は一気に弾けた。
此処数日、スコールの様子を慮って性行為を避けていた為、クラウドの精液はスコールのそれよりも更に濃くなっていた。
肉欲の度合いを全て濃縮したような、大量の熱い精液を胎内に注がれて、スコールは歓喜の声を上げる。

 はあっ、はあっ、とクラウドが動きを止めていたのは、ほんの一時の間だけだった。
腹の中から燃え広がる熱に、スコールが意識を浮遊させている間に、クラウドは再度腰を振り始める。


「あっ、あひっ、あぁっク、クラウド、あふっ…!はぁん


 官能に溺れ切った躯は、快感に恐ろしい程に弱い。
痙攣したように戦慄いている肉壺の中を、クラウドは何度も擦り、スコールの前立腺をずんずんと突き上げた。
スコールは全身を襲う強烈な快感に身を震わせながら、ぎゅうっとクラウドにしがみついた腕を放さない。


「んぁっ、クラウド、もっと…もっと、出してえ…っ!」
「ああ……っは、判ってる…!」
「全部、全部ぅ…っ!全部、あんたで…あんたで一杯にして……っあんたの、気持ち良いので、全部ぅっ


 泣き縋るような声で欲しがるスコールに、クラウドは応える為に腰を振る。
細い躯を抱き締めて、その体に触れた男達の気配を全て忘れる事が出来るように。

 望んでもいなかった性行為の所為で、汚されてしまったスコールの体。
それを最も嫌悪しているのは、他でもないスコール自身だ。
汚れた体でレオンに逢う事なんて出来ない、と言うスコールは、クラウドに対しても、同じように考えていたに違いない。
クラウドに助けられ、彼に慰められて幾らか落ち着きを取り戻したけれど、汚れた事実は変わらない。
それを、記憶ごと全て塗り潰して欲しくて、赦してくれたクラウドに縋る。


「んぁっ、はっクラウドの、せーえきで、一杯…俺の中、一杯にしてぇ…っ!」
「スコール…んっ、スコール…!」
「あっ、もっと、もっと突いて…っ!奥まで、来て…っ!あぅんっ
「ああ、一杯にしてやる。全部俺で塗り替えてやる…!」
「んふっ、はひゅぅっクラウド、クラウドぉ…っ!イ、イく、んんっイっちゃ、んんんぅうんっ


 限界を訴えるスコールの唇を、クラウドの唇が塞ぐ。
呼吸も声も奪われた状態で、秘奥をぐりゅぐりゅっと犯されて、スコールはくぐもった声を上げて果てた。
二人の腹に熱いものが降り注いで、どろりと流れ落ちて行く。

 ぷはっ、と二人の唇が離れ、銀色の糸が光る。


「はっ、はっ、あっ、あっ
「俺の、俺達以外の事なんて、忘れてしまえ、スコール。お前の体は汚れてなんかいない。俺達しか触れる事はないんだから」
「はひっ、はぁっああっク、クラウドぉ…っんっ、奥ぅっ、届いてるぅうっ…!」
「帰ったら、レオンともしよう。いつもみたいに、いつも通りに。あいつのも、此処に一杯出して貰え」
「ふあっ、はあぁんっで、でもぉっ…!お、俺、レオンに、色んなことっ、あっ黙って、えぇっ
「ああ、黙ったままで良い。言わなくて良い。言わなきゃいけない事なんか何もないんだからな」
「はうっあふっ、あひぃっ!あっ、んっ、あぁ…っ


 涙腺が壊れたように、雫が溢れて止まらない眦を舐めながら言うクラウド。
何もなかったんだから、と囁くクラウドの言葉は、まるで暗示だ。
未だ拭い切れないレオンへの罪悪感で、スコールが顔を歪めれば、それすらも必要のない事なのだとクラウドはあやす。

 クラウドは自身の突き上げに合わせて、掴んでいたスコールの腰を引き寄せた。
ずんっ!と一際強く秘孔を突き上げられて、スコールの体が弓形に撓る。
背中を仰け反らせ、腰を浮かせた状態で、スコールは痺れる官能に脳髄まで支配されるのを感じていた。
そのままクラウドが円を描くように腰を動かし、肉壺の底をぐりゅぐりゅと掻き回すものだから、スコールはすっかり蕩けた貌で喘いでしまう。


「ほぁっ、あぁああ……っ
「お前も此処に欲しいだろう?レオンの精液で、一杯にして欲しいだろ?」


 クラウドの指が、ペニスを咥えて拡がっているアナルの縁に触れる。
盛り上がった皺をくにっ、くにっ、と指先で遊ばれて、スコールの肉がペニスをきゅううっと締め付ける。


「あ、あ…レオ、ンのぉ…っいっぱ、い……


 クラウドのものと同じく、長らく与えられていない愛情の証。
彼もクラウドと同じように、スコールの体調と様子を心配して、夜の行為は自重していた。
慮っての事ではあるが、そうして離れて過ごさざる得なかった時間の所為で、スコールが不安を抱いているのも間違いない。


「だから、帰ったら一杯しよう。俺とレオンで、お前を沢山気持ち良くしてやる。他の事を全部忘れる位、な」
「ふ、あ…あぁああ……っ


 耳元で低い声音で囁かれるだけで、スコールは官能を得てしまう。
同時に、数日振りに二人の男に抱かれる事、レオンからもまだ愛して貰えるかも知れないと思うと、スコールの躯は期待で熱を増す。

 きゅんきゅんと切なげに、期待を持って締め付ける肉壁に、クラウドは唾を飲み込む。


「でも、今は、俺だからな……っ!」
「ンはぁんっ


 ゆっくりと引き抜いたペニスを、一気に突き入れる。
じゅぷんっ!と肉壺全体を擦られ、蕩け切った秘奥を突き上げられて、スコールは甲高い声を上げた。

 激しくなる快感の中で、スコールは何度も何度も果てた。
クラウドの熱い蜜液を中に注がれる度に、頭の中が快感と悦びで塗り潰されて、他の事が考えられなくなる。
それでも、キスをされる時の唇の柔らかさと、時折頭を撫でてくれる手が、不器用だけれどとても優しかった事は判った。




 冷えた風呂場で長い性交に及んでいた所為で、スコールの体はすっかり冷たくなっていた。
帰り道にくしゃみをするスコールに、しまったな、とクラウドは頭を掻く。
もうちょっと場所を考えるべきだった、とクラウドが呟くと、スコールは「…我儘言ったのは、俺だから…」と赤い貌で呟いた。

 風呂場を出た後、スコールが着た服は、あの汚された服だ。
クラウドもこれは余りにも、とは思ったが、帰らなければ替えの服もない。
裸も同然の格好で帰路を行く訳にも行かず、一時だからとスコールには我慢して貰う事になった。
スコールも仕方のない事は判っていたのだろう、大人しく服に袖を通した。
ボクサーパンツが布切れも同然だった為、素肌の上にズボンを穿いているので、落ち付かない様子であったが、これも仕方のない事だ。

 城から街への帰路で出現するハートレスは、クラウドが全て蹴散らした。
谷を抜け、セキュリティシステムが働いている街まで来れば、もう心配はない。
体力が底を尽いているスコールを背負い、なるべく揺れが伝わらないようにとゆっくり歩きながら、クラウドは言った。


「帰ったらまず風呂に入れ。冷え切ってるからな」
「……ん」
「飯は食えそうか?」
「……判らない」
「無理はしなくて良い」
「…ん……」


 所々の民家から漂う食卓の匂いにも、スコールの胃袋は反応しなかった。
胃が空っぽなのは自覚しているが、まだ食べ物が喉を通ってくれると思えない。
クラウドは、レオンに言えば粥位作ってくれるだろ、と言った。

 レオンの家が見えると、その前に一人の男が立っている。
男───レオンは、クラウドと背負われたスコールを見付けると、一目散に駆け寄って来た。


「スコール、クラウド」
「ただいま」
「………」


 クラウドが帰宅の挨拶をするが、スコールは黙っていた。
隠れるようにクラウドの肩に顔を伏せるスコールに、レオンがひそりと眉根を寄せる。

 少年と同じ蒼灰色の瞳が、クラウドへ向けられた。
何があったのかを問う瞳に、クラウドはさてどうするか、と考えた。
肩から伝わるスコールの小さな震えに、やっぱり約束を破る訳には行かないな、と思う。
ただ、何事もなかった、とは流石に通じる相手ではないので、沈黙と視線だけで以て応える────事は終わった、とだけ。

 レオンは納得のいかない顔をしていたが、クラウドが肩口の少年を見遣れば、蒼の眦の険は抜ける。
クラウドがどうして口を開こうとしないのか、彼も判ったのだ。


「……スコール」
「……っ」


 レオンに名を呼ばれ、ビクッとスコールの体が跳ねる。
縮こまる細い肩を、レオンは傷ましそうに見つめ、


「……お帰り、スコール」


 何も聞かず、何も言わない事を決めて、レオンはスコールにそう言った。
大きな手がくしゃりと濃茶色の髪を撫でて、絡まった所のある毛を優しく手櫛で梳いて行く。
いつもと変わらない手で触れて、優しく迎えてくれる青年の声に、クラウドの肩にじわりと熱いものが滲んで行った。



END.4

ぜんぶ塗り潰して、ぜんぶ忘れさせて。
汚れた躯が、もう一度貴方たちに相応しくなるまで、何度でも。

結局レオンは詳細を聞かない訳ですが、察してはいるので、当分スコールから離れない。