ホーム・スィート・ホーム -21


「母さん。母さん」


 息子の呼ぶ声に、レインは振り返った。

 母の面影を色濃く受け継いだ、青灰色の瞳と、ダークブラウンの髪の子供───レオンは、とても賢い子供だった。
母がカフェバーで仕事をしている間は、遊んで構ってとせっついて来る事をせず、大人しくバーカウンターの一席に座って店の終了を待っているか、父と一緒に外で花の手入れをしているか。
けれども、夜になって店を閉めると、今だ!と言わんばかりに跳び付いて来る。
ワガママを言って良いタイミングと言うものを、レオンは言われる前に理解していた。
父の方はそんな事はお構いなしで、朝起きたら顔を見て頬擦りをして、食事の時にも賑やかに話しかけて、花の手入れの合間にも虫を見付けては捕まえて見せてやり……とにかく、隙があったら必ず構ってやっていた。
その様は、息子を楽しませてやりたい、と言う気持ちよりも、自分が息子に構って欲しいようにも見えた。

 そんな構いたがりの夫は、今は村の子供達の遊び相手をしている。
息子はあまりその輪の中には加わりたがらないようで、寧ろ構いたがりの父の気が反れている事を幸いに思っているらしい。
レオンは、決して父の事が嫌いな訳ではないのだが、やはり“男の子”だからだろうか。
母には素直に甘えるのだが、父に対しては少しばかり拗ねたような表情をするようになった。
赤ん坊の頃や、立って歩けるようになった頃は、一所懸命に後ろをついて来ていた息子だが、4歳になって一次反抗期を迎え、その反抗の対象(それにしては可愛らしい反抗であるが)は専ら父である。
これが父には寂しくて堪らないらしく、以前よりも輪をかけてレオンを構い倒そうとし、「父さん、うるさい」の一言を貰う事もあったりする。

 レインは、持っていた食器をシンクに置いて水に浸しながら、レオンに聞こえているよと返事をした。


「なぁに?どうしたの、レオン」
「あのね」


 小さな手がレインのエプロンの端を握る。


「リオーネおばさんのお腹、またおっきくなった」


 レオンが口にした名前は、レインの幼馴染である女性のものだった。
レインが己の内にレオンを宿した時、彼女は色々と気を回してくれて、出産の時にも村唯一の医者と一緒に忙しなく働いてくれた。
産後の体調が落ち着き、レオンの授乳期も終えた後、休業していたカフェバーを再開した頃、彼女はレインに代わってレオンの相手をしてくれる事もあった。
レオンもそれを覚えているのか、彼女によく懐いており、父母が忙しそうだと感じた時は、言われるよりも先に「おばさんの所に遊びに行く」と言って家を出て行く。
そうして無邪気に懐いて来る息子を、彼女も相変わらず大切にしてくれていた。

 そんな彼女の腹の中には、新しい命が宿っている。
日に日に大きくなって行く腹に、レオンはうきうきとして、毎日のようにその腹を撫でさせて貰っていた。
そして家に帰って来ると、レインに今日のお腹の様子を報告して来るのだ。


「おばさんのお腹、赤ちゃんが蹴るんだって。おばさん、それが嬉しいって」
「そう」
「赤ちゃん、お腹蹴ってるのに、なんで嬉しいの?蹴ったら、おばさん、痛いんじゃないの?」


 今のレオンは、なんでも不思議で、なんでも知りたがる。
判らない事や不思議に思う事があったら、母と父を捉まえて、なんでどうしてと質問攻めだ。

 レインは洗い物の手を止めて、膝を折って息子と目を合わせた。
丸い青灰色が、答えを待って、じっと母を見詰めている。


「赤ちゃん、元気だって判るからよ」
「蹴ってるの、元気なの?」
「そう。赤ちゃん、まだおばさんのお腹の中で、顔が見えないし、お話も出来ないでしょう。だからおばさんのお腹を蹴って伝えるの。元気だよって」
「赤ちゃん、お話、出来るよ。オレ、いつも話しかけてるもん。おばさんも話しかけてるよ」
「うん、そうね。お話は出来るわね。でも、赤ちゃんはまだお喋りは出来ないでしょ」
「出来るよ」
「あら。じゃあ、レオンは赤ちゃんの声がもう聞こえるのね」
「聞こえるよ。母さんは聞こえないの?」
「うん、聞こえないみたい。だからレオン、赤ちゃんがどんなお喋りしてるのか、母さんに教えてね」
「うん」


 子供の世界は無限大───レインは、レオンや村の子供達を見ていると、そう思う。
幻想と現実がごちゃまぜになっている子供の世界は、幾らでも広がるし、自由な色彩で飾られる。
見えないものが見えたり、聞こえない音が聞こえたり、それは大人には判らないものの方が多いけれど、“その子の世界”では真実なのだ。

 だから、赤ん坊の声が聞こえると言ったレオンに、レインは嘘でしょうとは言わなかった。
代わりに、お話してねと言うと、レオンは嬉しそうに頷いた。

 赤ん坊がお腹を蹴るのがどうして嬉しいの、と言うレオンの疑問は、声が聞こえる、聞こえないと言う話の間に、頭の中から抜け落ちてしまったらしい。
小さな子供にはよくある事だ。
世界が不思議な事で一杯だから、受け皿の中は直ぐに一杯になって、どんどん溢れて流れて行ってしまう。
それは悪い事でもなんでもなく、また何かの折に掬い上げて、これなんだろう?と首を傾げる。
子供はその繰り返しの中で、どんどん世界を広げていくのだ。

 レインが曲げていた膝を伸ばすと、レオンもくるりと方向転換した。
ぐるっとカウンターテーブルを周って、背の高い椅子によいしょっとよじ登る。
それはカウンター席の一番端で、其処がレオンの指定席だった。
その隣に座っていた若い男性が、きちんと姿勢よく座っているレオンを見て、笑いかける。


「レオンは、アルウィの所の子供と、もう話が出来るのか」


 アルウィとは、レオンが言った“リオーネおばさん”の夫だ。
此方もレインとは旧知の仲である。

 レオンは男性の言葉にこっくりと頷いた。


「出来るよ。おじさんは、出来ないの?」
「アルウィがお話させてくれないんだよ」
「あなた、よく子供達に変なこと教えるんだもの。私だって反対するわ」


 レインの言葉に、男性ががっくりと肩を落とす。
それを見たレオンは、じっと男性の様子を観察して、落ち込んでいる事を知り、


「じゃあ、オレが代わりにお話しする。おじさんが話したいこと、赤ちゃんにお話しする」


 まるで使命感を持ったように真剣な顔をして言ったレオンに、男性がころりと表情を変えて嬉しそうに笑う。
畑仕事で皮の厚くなった手がぐりぐりとレオンの頭を撫でた。


「そうか、そうか。そうしてくれると、嬉しいな」


 男性の嬉しそうな表情を見て、レオンが笑う。

 3歳の誕生日から少し過ぎた頃からだろうか、レオンは誰かに褒めて貰う、感謝して貰う喜びを覚えたようで、頻繁にレインの手伝いをしたがったり、誰かを気遣う言葉を言うようになった。
利発で賢く、気配りも出来るようになった息子を、村の人々も皆愛してくれる。
レインはそれが嬉しくて堪らない。

 頭を撫でていた手が離れて、レオンは乱れた髪をそのままに、テーブルにぺたっと伏せた。
レインは食器を乾燥機に置いて、濡れた手を拭き、自分譲りのダークブラウンの髪を撫でて梳く。
そうすると、レオンは日向で眠る猫のようにくすぐったそうに目を細めるのだ。

 母子のそんな姿を見ていた客の一人───白髭を蓄えた初老の男が、ぽつりと呟く。


「絵になるなぁ」
「あら。誉めても何も出ないわよ。うちはツケは駄目だからね」


 くすくすと笑って言ったレインに、客も判ってるよ、と笑う。
それを見ていたレオンが、ぱちりと瞬きを一つして、褒めた客の方を見て、


「母さん、絵になるの?」
「ああ。別嬪さんだしな。お前と一緒にいると、もっと良い絵になる」


 良かったなぁ、と白髭の男は言ったが、レオンはむーっと不満げな表情になった。
眉間に皺が寄っている。


「……母さん、絵になるの、嫌だ」


 レオンの言葉に、おや、と客が目を丸くする。
なんでだ、と聞かれて、レオンは拗ねた表情のまま、言った。


「母さんが絵になったら、お話できない」


 絵になる、と言うのが比喩表現であるなど、小さな子供にはまだ判るまい。
レオンは、母が何も言わない、触れる事も出来ない、紙一枚になってしまうものだと思ったのだろう。
そうなったら話す事も、抱きあげて貰う事も、一緒に寝る事も出来ない。
そんなのやだ、と言うレオンに、嬉しい事を言ってくれる、とレインは思う。

 可愛い息子の言葉に、レインは頬が暖かくなるのを感じながら、ダークブラウンの髪を撫でる。
するとレオンは、ひょいっと椅子を飛び降りて、カウンターを周って母の下に駆け寄ってきた。
ぎゅっと抱き着いて来る息子を、レインはよいしょっと抱き上げる。
簡単には持ちあがらなくなって来た重みに、子供の成長は本当に速いものだと思う。


「レオン、お母さんが絵になっちゃうのは、嫌?」
「やだ」
「私は、レオンと一緒だったらなってもいいけど」
「やだっ」


 ぎゅう、とレオンがしがみ付いて来る。
うー、と唸るような声がして、レインはくすくすと笑った。
客も皆、口元を綻ばせている。

 店内が和やかな空気に包まれて────そんなタイミングで、賑やかな父が帰って来る。


「ただいまー!レオン〜、イイコにしてたか〜?」


 自分の子供よりも朗らかに、子供のような笑顔を振りまきながら帰って来たレオンの父───レインの夫である、ラグナ。
村の子供達にせがまれて、遊び相手をしていた彼は、子供達との激闘の印の如く、あちこち砂塗れ埃塗れになっている。
店に入って来る前に砂も埃も落とすように言って聞かせているのに、ラグナは殆どそれを守れない。


「ラグナ、ちゃんと服をキレイにして」
「おっと、そうだった。悪い悪い」


 レインに言われて、ラグナは慌てて開けたばかりのドアから店を出る。
パンパンと服を叩く音が聞こえた後、もう一度ドアが開けられる。


「もう一回、ただいま〜」
「お帰りなさい」


 レインの夫を迎える言葉を、抱いた息子が繰り返す事はなかった。
それを見たラグナが、どうしたどうした、と言いながら二人の下へ急ぐ。

 ラグナがカウンター越しに見た息子の表情は、判り易く拗ねていて、母にしがみついて離れようとしない。
年齢を考えると、母に甘えたがるのも当然の事だったが、レオンがこうまで熱烈に甘えたがるのは珍しかった。


「なんだ?どうしちゃったんだ?おーい、レオンー、パパだぞ〜」


 ひらひらと両手を翳してアピールするラグナだったが、レオンは母に抱き着いたまま、ちらとも其方を見ようとしない。
きっとさっきの話───絵になると言う───をぐるぐると頭の中で繰り返しているのだろうレオンの様子に、レインは眉尻を下げて、ラグナに言った。


「私が絵になるのが嫌なんだって」
「んん?なんでだ?いい事じゃねーか、絵になるって。それくらいキレイってことだろ?」
「絵になったら、お話できなくなるから、嫌みたい」
「へー?……あ、そーかそーか。そういう事かぁ」


 ラグナも、レオンが考えた事が判ったようで、手を打って納得する。
それから、レオンの顔を覗き込みながら、


「俺も、レインやレオンが絵になっちまったら、寂しいから嫌だなあ。お話できないし、抱っこできないし、一緒におやすみなさい出来ないもんな。って事は、おやすみなさいのちゅーも出来ないんだよな。うん、それは嫌だ!」


 大きく頷きながら言った父を、レオンがちらりと見る。
ようやく息子が自分を見てくれたのが嬉しいのか、ラグナはにーっと笑って見せた。

 ……が、レオンは賑やかな父を暫く見詰めた後、


「父さんは、絵になっていい」
「あれっ、なんで?」
「寝る時、父さん、うるさいから」


 いつも賑やかなラグナは、寝ている時も賑やかだ。
寝相は悪いし、イビキも煩い。
レオンが赤ん坊の頃の夜泣きの原因には父も含まれていたりする。


「だから父さん、寝る時絵になって」
「あ、それ、いいかも」
「ええ!?レインまで!?」


 パパ一人ぼっちなんて寂しいじゃないか〜!等と泣いてみせる父に、レオンはぷいっとそっぽを向いてしまう。
父がまた悲しそうな声で息子を呼んだが、レオンはまた母にしがみついて、もう父を見ようとはしなかった。






 店を閉めた後、明日の仕込みを終えて、レインはようやく一息吐く事が出来た。

 シャワーを浴びて、レインが店の二階にあるリビングへ上がると、ソファの上でレオンとラグナが二人揃って寝落ちかけている。
そうなる前に布団に入るように言っているのに、レオンはともかく、どうしてラグナはいつまでもそれが出来ないのか。
夫である筈なのに、息子よりも子供のような男を見て、レインは全くもう、と怒った表情を作る───が、その口元は緩やかなものだ。

 レインはソファに近付くと、レオンを膝に乗せてうとうととしているラグナに声をかけた。


「ラグナ、起きて。レオンが風邪ひいちゃうでしょ」
「んぁ…?お、おお、そーだった、そーだった」


 はっと目を開けたラグナは、膝上の息子を抱いて、腰を上げる。
揺れにレオンが微かに身動ぎしたものの、落ちた瞼はもう持ちあがりそうになく、安定できる場所を求めてか、ラグナの胸に寄り掛かる。

 寝室に入って、大きなベッドに下ろしてやる。
このベッドは、元々は二つあったものを並べて、マットレスを新しくし、親子三人で寝ても狭くないように設えたものだ。
この仕様にしたのは、レオンが二歳になってからの事である。

 レオンが生まれてしばらくは、危険回避でベビーベッドを使っていたのだが、掴まり立ちが出来るようになると、ベビーベッドの柵を登って乗り越えようとするので、レインは息子を自分と同じベッドで寝かせるようにした。
それを見たラグナが羨ましがり、「俺もレオンと一緒に寝たい!」と言ったのだが、その時は大き目のベッドが二つあっただけだったし、ラグナは寝相が悪いので、レオンを潰してしまう可能性があった。
だから駄目、とレインは言ったのだが、ラグナが子犬のように余りにも落ち込むので、ベッドを並べて隙間を無くし、端からラグナ、レイン、レオンと並び、レオンがいる側には柵を作って転落防止にした。

 乳児期を過ぎたレオンは、一人で眠れるようにもなったのだが、父親の方が息子離れが出来ていない。
本人は「レオンが怖い夢見ちゃったら大変だろ」とか「レオンは可愛いから、可愛いもの好きのオバケが来たらさらわれちゃうかも知れないぞ」と言うのだが、レオンの方は淡白なもので、「怖い夢なんて見ない」「オバケも怖くない」と言って、ラグナの完敗になる。
その時、息子にも判る程に落ち込んで見せるものだから、レオンの方が空気を読んで「父さんがオバケが怖いって言うから、一緒に寝てあげる」と言い、今に至る。

 寝かせたレオンを真ん中に挟んで、レインとラグナもベッドに入る。
ぎ、とスプリングが揺れたのを感じたのか、レオンがもぞもぞと身動ぎして、ころりと寝返りを打った────レインの方に。


「あ〜……」
「判るんでしょうね、こっちの方が静かだって」
「俺、そんなに煩くしてねぇよぉ」
「どうだか。子供は正直よ」


 くすくすと笑いながら言ったレインに、ラグナは唇を尖らせる。
その表情が、4歳の息子よりも様になっていると言うのもどうなのだろう、とレインは思ったが、そんなラグナがラグナらしいとも思う。


「良いじゃない、一緒に寝てくれるんだもの。フィリの所の子なんて、2歳の時からお父さんと一緒に寝るのを嫌がってたみたいよ」


 親しい友人夫婦の娘は、生まれたばかりの頃は父によく懐いていたと言うが、レオン同様に自意識が強くなる時期を迎えると、父にキスされたり、抱き上げられると嫌がるようになったと言う。
レオンもそれは同じなのだが、我慢強いのか、嫌がるのは照れの現れであるのか、……父が子供の眼にも判る程に落ち込むからか、最後は父のリクエストに応えている。
キスして、と言うのは流石にやらなくなったが。

 レオンは決して、父を拒絶する事はない。
多分、ラグナの過激すぎるスキンシップが嫌だと思う年齢になったのだろう。
だからラグナが殊更に抱き締めたり、頬擦りしたり、キスしたりと言う事がなければ、先程のようにラグナの膝の上で落ち着いている事もある。


「……んー……」


 ころん、とまたレオンが寝返りを打った。
小さな手が何かを探すようにシーツの上を彷徨う。

 ラグナがその手に自分の手を重ねれば、きゅ、と握り締められる。
それだけでラグナは、幸せの頂点に昇ってしまった顔になるのだ。


「あー、可愛い!」


 ぎゅうっ!とラグナがレオンを抱き締める。
すると大人しくしていたレオンが途端にもぞもぞと動き出して、ぱちりと目を開けた。


「んぅ……いたい……」
「あ」
「もう。ほらレオン、こっちにいらっしゃい」


 ぽんぽんとレインが自分の隣を叩いてやると、レオンはごそごそと手足を動かして父の腕から抜け出し、母の下へ。
あー……とラグナが情けない声を零していた。


「ずるいぜ、レイン。俺もレオンをぎゅーってして、ちゅーってして、一緒に寝たいのに」
「ラグナは力加減が下手なのよ。あんまり強く抱き締めたら、苦しくなっちゃうの。ねえ、レオン」
「……ん……」


 レインの言葉に、レオンが夢現のまま頷いた。
言われた事など殆ど聞こえていないだろうとは思ったが、レインはラグナに「ほらね」と言ってやった。


「うー…だってさあ、だってさー。小っちゃくて、ぷにぷにしてて、可愛くってさあ。つい、こう、…判るだろ?」


 ラグナの言いたいことは、レインも理解しているつもりだ。
けれど、適度に加減してあげないと、小さな子供は直ぐに痛がったりして、“嫌”と思ってしまうものである。

 ラグナがだってさあ…とまた唇を尖らせたが、レインは構わず、布団を被った。
レオンが擦り寄って来て、レインの胸に顔を埋める。
ダークブラウンの髪を優しく梳いてやれば、眠っている筈なのに判るのか、ふわ、とレオンが安心したように笑う。
それを見たラグナが、ぽつりと呟いた。


「やっぱ、絵になるなあ」


 そう言った柔らかな翠の瞳には、静かで温かな光が宿っている。
その目を見ると、あっと言う間に吸い込まれてしまうのを知っていたから、レインはわざと見ないで目を閉じた。


「おやすみ、レイン、レオン」


 ベッドの鳴る音がして、頬に落ちて来る柔らかなキス。
ちらとレインが目を開けてみると、同じように息子の額にキスをする夫がいて、いつもそうならレオンもきっと嫌がりはしないのに、と思いつつ、嫌がるレオンが自分に助けを求めて来るのも嬉しかったから、レインはその事は黙ったままにしようと決めた。





レオンくん4さい。
普通に子供子供してた頃。人見知りはあまりしない。