ただ一人の君に贈る
スコール誕生日記念(2017)


 記念品、と一言では言うが、それでも形や種類は様々である。
結婚指輪のような、一定の規格やパターンが決まっている物ならばともかく、誕生日の記念と言うと、本当に多種多様であった。

 レオンはまず初めに、スコールが好きそうなアクセサリーに、銘を彫って貰えないかと考えた。
名前であるとか、暦を刻んで、今年の誕生日の記念とする。
シルバーアクセサリーなら、リングの裏側に彫って貰ったりと言うのも、よくある物であった。
しかし、これにはスコールが好みそうなデザインのアクセサリーの入手発見が前提であり、現在は其処から難航している。
物が見付かればこれで良いかも知れない、とは思ったが、今の所は保留である。

 やはり無難なのは置物だろうか。
世界的にも有名な鉱石の産出地を多く保有しているイヴァリース大陸の上空都市プルヴァマでは、鉱石や宝石、時には魔石を使用し、記念プレートを作る者も多いと言う。
誕生祝に贈るものであれば、誕生石を使ったり、健康を願うパワーストーンとして信仰されている石を使う事もあるそうだ。
こうした習慣は、やはり鉱石類の産出が多く、その調達が自国内で賄えるイヴァリース大陸だからこそ根付いたものだろう。
しかし、今レオンがいるのは、ガルバディア大陸のドール公国である。
ドールでも記念プレートを贈ると言う習慣はあるが、煌びやかな宝飾で彩られているものが多く、純粋な鉱石を磨いて名を彫るタイプのシンプルなデザインのものは少ない。
しばらく粘って捜し歩いたレオンであったが、結局、スコールの好みになりそうなものは見付からなかった。

 そのまま一日、二日と任務が終わり、明日になれば仕事は終わり───スコールの誕生日になると言う時になっても、レオンは未だにプレゼントを決めていなかった。


(実用性を除いても、中々決まらないものだな……)


 彫り物であるとか、見てわかる記念の品と言うものに拘らずに探しても、中々良いものが見付からない。
終いには、場所が悪いのかも知れない、とまで思い始めた。
ドールで売られている物は、目立つ物の多くは富裕層向けで、バラムの学生が持つには派手なデザインが多いのだ。
レオンの思考の念頭には、弟の趣味趣向と言うものがあって、それに沿ったものを見付けようとしているので、余計に難航していると言っても良いだろう。


(これなら、デリングシティで探した方が、もっと色々見付かったかも知れないな)


 デリングシティなら、それこそもっと幅広く、様々な商品が並んでいる。
軍のお偉方や政府高官をターゲットにするような店もあれば、街中で遊んでいる学生層を目当てとする店もあった筈だ。
レオンはブランド物の情報には疎いが、クレイマー夫妻の孤児院で共に過ごし、現在はガルバディアガーデンに入学したアーヴァイン・キニアスから、今はこんな物が流行ってるよ、と言った話は手紙で聞いていた。

 デリングシティとドール公国は、陸続きの鉄道で繋がっている。
しかし、決して小さくはないガルバディア大陸の北部と南部で分かれている為、直ぐに行って直ぐに帰れる、と言う訳ではない。
一日分の暇があるのなら可能だが、時刻は既に夕方で、夜の22時には明日の警備の打ち合わせと最終確認の予定がある。
これからデリングシティに行くのは無理だな、とレオンは早々に諦めた。
そして、明日もデリングシティまで行くのは無理だろう。
正午前に任務が終わったら、解散から自由帰宅になるので、バラム行の船ではなく、デリングシティ行の列車に乗る事は可能であったが、プレゼントを見付けてデリングシティからバラムまで帰るとなると、夕飯の時間には間に合わない。
プレゼントの目星がついていて、それだけを取りに行くならともかく、何も決まっていない状態で行っても、良いものは見付かるとは思えなかった。

 やはり、今日の内に見付けて用意しておくのが良いだろう。
何度となく考えては同じ答えに行き着いて、レオンは何度目か知れず気持ちを改めつつ、道行く店並を眺めて歩いていると、


(……文具屋か?)


 古めかしい釣り看板が掲げられた店を見付けて、レオンは足を止めた。
緑色に塗装された壁のペンキが所々剥げて、端々に木製の素の色が覗いているのを見て、年季があるな、と呟く。
ウィンドウにはベージュのカーテンがかけられており、一見すると宝石店に見える。

 レオンはしばらく考えた後、他に気になる店もないし、と扉を押した。
カラン、と扉の上でベルが鳴る。

 外観は古く見えていたが、店内は明るくシンプルに整えられていた。
ただし、バラムガーデンの売店や、街で一般的に見るような文具屋とは違い、ペンが山になって並べられている事はない。
一本一本が全てきちんとしたケースを添えて並べられており、やはり文具屋と言うよりは、老舗のアンティークショップのような雰囲気だ。
店員はカウンターの向こうに立っている髭を蓄えた老人だけで、老人はレオンが入って来たのを見ると、ぺこりと小さく会釈だけを見せた。
声をかける訳でもなければ、それ以上レオンの姿を目で追う事もせず、ごゆっくりどうぞ、と体現している。

 そう広くはない店なので、五分もすれば陳列しているものをざっと見て回る事が出来た。
棚に並べられた商品は、貴重な鉱石を使ってペン先を作ったものや、キャップに宝石をあしらったペン等、中々豪華である。


(学生が持つには派手だな。いや、しかし……)


 贅沢慣れをしていないスコールに贈るには、無理があるか。
一度はそう考えたレオンであったが、


(万年筆は、一本持っていると結構便利なんだよな)


 カラーバリエーションとして揃えられている5本の万年筆に、レオンの目が留まる。

 レオンは、子供の頃、万年筆を何度か見る機会があった。
生まれ故郷に住んでいた頃、父が何某かをメモする時に使っており、レオンは何度かそれを借りている。
鉛筆やクレヨン、ボールペンとは違い、さらさらとしたインクの書き心地が気持ち良かったのを覚えていた。
あの頃、父が使っていた万年筆は、母と出会う前に仕事の報酬金を叩いて買ったものらしく、駆け出しのジャーナリストとして方々に記事を投稿する為に買ったものだったと言う。
結局、父はレオンの故郷で母と出会った事で、ジャーナリストの道を諦めたと言うが、それでも万年筆の使い心地はお気に入りだったようで、いつも家の決まった場所に仕舞われていた。

 万年筆は、複雑な機構を有しているが故に、どうしても値段が張る。
その代わり、一本あれば一生物、とも言われていた。
折々のメンテナンスは必要であるが、それさえ済ませていれば、いつまでも使い続ける事が出来、世代を越えて受け継がれていく事も可能だ。
安価なボールペンや、デジタル化が進む昨今で長文を書くにはパソコンを使えば良いと言う考えも増えてきているが、それでも書き物をする必要性がゼロになると言う事はないだろう。
実際に、レオンも仕事の報告にパソコンを多用する傍ら、筆記用具として万年筆も持っている。
提出書類のサイン程度なら安価なボールペンで済ませる事も多いが、任務地での人前では、持ち合わせていれば万年筆を使っていた。


(……今の内から持っていても、十分役に立つと思うが、どうかな……)


 学生であるスコールが万年筆を使用する場面は、恐らく多くはないだろう。
それに拘らなければならない場面と言うのも滅多にないだろうし、単純に文房具を揃えるだけなら、購買に売られている安価なボールペンで事足りる。
それを思えば、万年筆に拘らずとも、作りの確りとしたボールペンを贈る、と言うのも有りか。

 じっと万年筆のケースを睨んでいたレオンであったが、ふと、ケース横に置かれた一文に目が行った。
有料ではあるが、万年筆に銘入りのサービスがあり、そのサンプルとして刻印の写真も掲載されている。


(……そう言えば子供の頃、名前がついているものを渡すと、随分と喜んでいたな)


 スコールの誕生日が近付くと、エルオーネと二人で、彼に贈るプレゼントの事を考えた。
手作りのものを作っていた頃は、必ず何処かにスコールの名前を入れて、スコールの物なんだよと判るようにすると、彼は自分の名前を見付けては嬉しそうに笑っていたものである。

 孤児院にいた頃、自分個人のものと言うのは、決して多くはなかった。
玩具は皆で遊ぶものだし、本や食器も共用。
レオンは年上だったので、服は新品のものを買って貰える事があったけれど、年下の子供達はそれぞれお下がりを着ていた。
レオンの新品と言うのも滅多にあった事ではなく、古着屋で安く売られて綺麗なものをイデア・クレイマーが見付けて来たものであった事が殆どだ。
誰のものでもなかった、真っ新なものを子供達が手に入れる機会は、本当に少ない。
中にはそれを不満に思う子供もいて、新しい服が欲しい、自分だけの玩具が欲しい、とクレイマー夫妻にねだっていた事もある。
スコールがそう言った事を誰かに零したと言う話は聞かないけれど、そんな生活の中にいたから、やはり“自分だけのもの”と言うのは、特別に思い入れが込められるものだったのだろう。

 レオンは改めて、ケースの中に並べられた万年筆を見詰める。
黒、紺、白、シルバーと並ぶペンの中で、やはり最初に目を引いたのはシルバーだった。
しかし、スコールがシルバーアクセサリーが好きとは言え、文房具についてはどうか。
スコールが使っている文房具と言うのは、どちらかと言えばどれも地味でシンプルなものが多い。


「……よし。すみません、良いですか」


 一考の後、レオンはカウンターにいる老紳士風の店員に声をかけた。
店員は皺の浮いた眦をにこりと和らげると、カウンター奥から出て来て、お決まりでしょうか、と尋ねる。
レオンはケースの中のペンを指差しながら、サービス諸々の確認を始めた。



 誕生日なんだから、と何かと家事を手伝いたがる幼馴染に、スコールは無理に手伝わなくて良いと宥めつつも、その気遣いは嬉しかった。
兄が仕事に行き、姉がトラビアガーデンに留学する頃から、家事はスコールの役目となっている。
几帳面ではない物の、掃除洗濯は毎日やらないと気が済まないし、料理は食事の為に日々必要だ。
しかし、必要性がどれ程であるにせよ、毎日従事していると面倒臭く思う事は少なくない。
野菜の皮剥きでも、食器洗いでも、誰かが手を貸してくれるのなら、有難かった。

 ティーダにしてみれば、本当は「自分が全部やる」と言いたかったそうだが、勝手知ったる幼馴染の家とは言え、やはり自分の家のようにスムーズには行かない。
スコールが神経質な性格なのも知っているので、余計な事をして後の手間を増やすよりは、手伝い程度が良い、と思った末の事であった。

 朝昼とティーダの手伝いを受けながら、何事もなくスコールの一日は巡る。
正午を過ぎた頃、仕事でドールに行っていたレオンから「今帰った」と言うメールが入った。
それから十分程度で家に帰って来たレオンの手には、ドール産の菓子の土産と、バラム駅前に建っているケーキ屋で買ったケーキボックスが一つ。
もうホールケーキに夢中になる歳でもないだろう、とレオンが買って来たのは、ショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキが一切れずつ。
これを食べるのは夕飯の後の楽しみと言う事になり、冷蔵庫の中へと納められた。

 午後になってから、ぽつぽつとスコールの携帯電話がメール着信の音を鳴らした。
見ればエルオーネに始まり、ジタン、ヴァンから、次いで孤児院で一緒に過ごした幼馴染の面々から、誕生日を祝うメールが届いている。
ジェクトからも届いているのを見て、案外マメだよな、と思った。
どうにもむず痒くて、何と返信して良いか判らずに立ち尽くしていたら、ティーダに「ありがとうって送れば良いんスよ」と言われた。
その一文が酷く恥ずかしかったスコールであったが、祝う言葉を無視する訳にもいかず、「感謝する」の一言のみを添えて返信ボタンを押した。
それを受け取った友人達が、素っ気無いが故にスコールらしいと微笑んでいた事を、スコールが知る事はない。

 夕飯を準備する時間が近付くと、いつものように鍋を取り出していた所で、レオンに「代わろう」と言われた。
今日はスコールの誕生日なのだからと、夕食作りを引き受けると言うのだ。
仕事から帰って疲れているのに、とスコールは思ったが、レオンはそんな弟の頭を撫でて、キッチンから追い出した。


「お前の好きなものにするからな」


 そう言ったレオンの表情は、楽しそうで、嬉しそうだ。
兄のそんな顔を見ると、申し出を断る訳にもいかず、スコールはリビングのソファに落ち着いた。

 やるつもりだった仕事がなくなると、どうにも暇を持て余す。
夏休みの宿敵である課題については、始まって十日も経った頃に計画通りに終わらせたので、悠々としたものであった。
ティーダはまだ幾らか残っているようだが、ブリッツボール部の練習時間も減っている為、───サボらなければ───問題なく終わるだろう。

 そんな訳で、何をするでもなく、ぼんやりとテレビを見ていたスコールに、ティーダが声をかけた。


「スコール、スコール」
「……なんだ」
「これ、プレゼント」


 そう言ってティーダは、後ろ手に隠していたものをスコールに差し出した。
受け取ったそれは、細長い長方形のラッピングボックスで、『HAPPY BIRTHDAY, Squall』とシールが貼られていた。

 メールを受け取った時と同じ、面映ゆい気持ちで固まっていると、傍らでそわそわとする気配。
ちらりと視線を上げれば、ティーダが落ち着きのない表情で此方を見ていた。


「……開けて良いのか」
「勿論っス!」


 寧ろ開けて欲しい、と言わんばかりのティーダの表情に、こっそりと笑いつつ、スコールはラッピングのリボン紐を解いた。
丁寧に包装紙を剥がして行くと、中にはデニム生地のシンプルなペンケースが入っていた。


「ほら、スコールの筆箱、結構長い事使ってるだろ。綺麗なまんまだから、別に良いかなーとも思ったんだけど、そろそろ気分変える感じで新しくしても良いんじゃないかと思って」


 確かに、スコールが今使っているペンケースは、中等部にいた頃から使っているので、中々長い代物になる。
女子生徒のように色ペンを増やす事もなく、乱雑に扱う事もない為、必然的にスコールは物持ちが良かった。
とは言え、長く使っていると草臥れている所もあり、何度か変え時だろうかと考えた事もある。
その度、新しいデザインであるとか、流行りに左右されやすい大きさの問題を考えるのが煩わしく、本格的に壊れるまでは今のままで良いか、と思っていた。
その内に、二年、三年と経っている。

 ティーダがプレゼントにと選んだペンケースは、余り物を増やしたくない、大きな物を持ちたくないスコールの趣向に合わせ、高さも横幅も大きくはない。
代わりに底にマチがついていて、ぱっとした見た目よりも、収容量は多く取れそうだった。
デニムの生地は新品の内は少し硬いが、使って行く内に柔らかく馴染んで行くだろう。
デニムの色が濃いグレーなのも、スコールの趣味に合っていた。


「…ありがとう。大事にする」
「へへっ」


 微かに頬を赤らめるスコールの言葉に、ティーダも釣られたように顔を赤くして、照れ臭そうに笑う。

 キッチンからトレイを持ったレオンが出て来て、窓辺の食卓テーブルに料理を並べて行く。
それを見たスコールが、手伝おうとしてソファから腰を上げると、ティーダに「スコールはそのまま!」とソファに押し戻されてしまった。
暇なんだが、と言うスコールの表情には気付かず、ティーダがレオンを手伝いにキッチンへ向かう。


「レオン、手伝うっス!」
「悪いな。そっちのサラダを運んでくれ」
「はーい」


 ティーダがサラダを持ってリビングに戻って来ると、続いてレオンも次の料理を運んで来た。
テーブルには鶏の腿肉を入れた餡かけの野菜炒めをメインに、鶏ガラ出汁のスープや、浅漬けの漬物が並ぶ。
ほんのりと香る胡椒の香ばしい匂いに、スコールの腹がぐう、と鳴った。

 出来たぞ、とレオンの声を合図に、スコールはようやくソファから離れた。
その手にティ─ダからの誕生日プレゼントが握られているのをレオンが見付け、


「ティーダはもう渡したのか」
「うん。忘れない内にと思って」
「じゃあ俺も渡しておこうかな。先に食べていて良いぞ」


 夕食を促しつつ、レオンが席を立って、二階へと上がる。
程無くして戻って来たレオンの手には、ティーダがスコールに渡したものと比べ、一回り程小さいサイズの箱が握られていた。

 スコールがスープを飲む手を止めて兄を見ると、レオンが箱を差し出す。
箱はベルベットのネイビーカラーで、厚みがあり、見るからに高級感がある。
受け取ってみると、微かに重みが感じられ、中身の重さなのか、箱そのものの重さなのか、スコールは少し考えた。
まさか高級品なのでは、と質実剛健な生活が根に染みているだけに、些か恐々とした気持ちで蓋を開ける。

 箱の中に入っていたのは、透明感すら感じられる黒に身を包んだ、一本のペン。
その傍らには、インクの入ったカートリッジが一本。


「これ……」
「万年筆だ。一本持っていると、色々と便利だぞ」
「わ、格好良い。これ高いんじゃないんスか?」


 スコールの横合いから、ティーダが箱を覗き込んで、目を丸くする。
重厚そうな箱に入っていた時点で、値段は押して知るべしとも言われているようなものだ。


「まあ、万年筆だからな。購買に売っているペンとは違うのは確かだ」
「うへぇ〜」


 敢えて値段は聞くまいとするティーダであったが、自分が使っているボールペンやシャーペンとは桁が違うのは確かだろう。
想像するのも怖い、と言った表情で、ティーダは万年筆をしげしげと眺めている。
そんな幼馴染を肩に乗せて、スコールは戸惑った表情で兄を見上げた。


「こんなの、何処で使えば……」
「何処だって良いさ。別に、無理に使う必要もないし。今時は、ボールペンやサインペンの方が使い易いと言うのも確かだしな」


 想像できない値段や、見た目の高級さから、使う事に気後れを持ちそうな様子のスコールに、レオンはくすくすと笑って言った。


「ただの記念品とでも思って受け取ってくれれば良い。使う機会があれば、その時に気楽に使ってくれれば十分だ」


 気楽に、と言われても───スコールはそんな表情で、万年筆を見る。
じっとペンを見詰める弟の眉間に、厳めしい皺が浮かぶのを見て、レオンは苦笑した。
くしゃくしゃと濃茶色を髪を撫でて、食事の席へと座る。

 いつまでも眺めているだけでは仕方がないと、スコールが箱の蓋を閉じようとした時だった。


「あれ。レオン、これってキャップに名前入ってる?」
「ああ」
「……本当だ」


 漆の黒で染められたキャップに、金色の刻印。
『Squall,L』と刻まれたそれを見付けて、スコールの瞳が驚いたように見開かれた。


「だから、その万年筆はお前のものだ。大事にしてくれると嬉しいな」


 ペンとして使うか使わないか、レオンは拘るつもりはない。
毎日のように書き物が必要とされる学生でも、その時に使うのはシャーペンが殆どだし、ボールペンだって購買で安く売っている。
長く使える物とは言え、其処を万年筆に取って変える必要はない。
ただの記念の品として万年筆が贈られ、それが使われないまま仕舞われていると言うのもよくある事だし、受け取ってくれただけで、レオンは満足していた。

 大事に、と言う言葉に、スコールが小さく頷いて、箱の蓋を閉じる。
赤らんだ顔を誤魔化すように食事の手を再開させるスコールに、ティーダが照れてるっス、とレオンに音のない声で言った。
存外と判り易い弟の胸中を察しつつ、レオンもそんな弟に気付かぬ振りをした。

 ────その後、スコールの新しいペンケースの中に、黒の万年筆が納められている事をレオンが知るのは、当分先の話である。




スコール誕生日おめでとう!と言う事でお兄ちゃんからプレゼント。
そこそこ良いものをプレゼントされたんだと思います。
後でティーダがエルオーネから預かってる物も渡してくれます。

スコールは大事なものは勿体なくて中々使えないタイプだけど、時々は使うと思う。その度に大事に使おうって思ってる。