ウソとホントと、ほんとの気持ち


「ティーダ、ジェクトが帰って来るぞ」


そう言ったレオンを見て、ティーダはきょとんとして、瞬きを繰り返す。
その隣で、スコールも同じようにきょとんとした後、ぱあ、と青灰色を輝かせた。


「本当?お兄ちゃん」
「ああ。土産、持って帰るってさ」


当時者である筈の息子よりも、先に食いついた弟の頭を撫でながら、レオンは頷いた。
スコールがくすぐったそうに目を細める。

しかし、一番喜ぶであろうと思った筈の子供は、むーっと頬を膨らませた。


「どうした?」
「……レオン、今のウソだろ」
「なんで?」


拗ねた表情のティーダの言葉に、スコールがことんと首を傾げた。
レオンの方も同じように首を傾げる。
それを見て、ティーダは怒ったように眉根を吊り上げて、壁にかけられた日捲りカレンダーを指差した。

差された先の数字を確認して、ああ、とレオンは察する。

カレンダーが示す数字は、4月1日────エイプルフール、嘘を吐いて良い日。
だからティーダは、レオンの「父親が帰って来る」と言う言葉を信用せず、嘘だと言い出したのだ。

睨んでくる青色に、レオンは苦笑を漏らし、携帯電話のメールフォルダを開いた。


「本当だぞ。ほら、ジェクトからメールが来てる」


差し出したそれをティーダが受け取り、スコールと一緒に覗き込む。
メールにはザナルカンドからバラム行の船の乗船予定時刻が書いてあった。
今から丁度乗る所、と言うタイミングでメールを送ったのだろう。

しかし、それを見てもティーダはまだ疑う目を止めない。


「じゃあ、父さんがウソついてるんだ」
「どうしてそんなに、ジェクトが嘘吐いてるって思うんだ?」


頑なに信じようとしないティーダに、レオンは参ったな、と思いながら尋ねる。
するとティーダは、だって、と唇を尖らせて俯く。


「だっていっつも、今日はウソついて、オレの事からかってバカにするんだもん」
「ジェクト、そんな事しないよ。優しいよ?」
「それスコールにだけだよ。オレには意地悪しか言わないし」
「……?」


ティーダの言葉に首を傾げるスコールと、そんなスコールを少し恨めしそうに見るティーダ。
レオンは、気まずい沈黙になっている弟達を見下ろして、眉尻を下げて苦笑する。

レオンは、ジェクトからのメールの真偽を疑ってはいなかった。
確かに、ジェクトは帰って来る度にティーダを揶揄って遊んでいるが、その後、いつも揶揄い過ぎた事を後悔しているのを知っている。
口では意地悪ばかり言っても、根は息子を本当に想っているから、こんな性質の悪い悪戯はしないと思うのだ。
けれども、当の息子がこの調子である。
だが、それもジェクトの日頃の行いの所為だから、自業自得にも思えた。

────……本当ならジェクトは、今の時期、ザナルカンドから離れるのは難しい筈だ。
ザナルカンドは年中ブリッツボールに関するイベントが行われている。
大会シーズンや合宿予定がなくても、何某かの大きなイベント行事の際、選手達はパフォーマンスを依頼される事も多い為、ほぼ年中のスケジュールが埋まっている。
だから都市内のチームに所属する選手の殆どは、自身の拠点をザナルカンドに固定させるのだ。
ジェクトが息子と離れてザナルカンドで暮らす事を決めたのも、これが理由だ。

現在、ザナルカンドは現市長の在任十周年を祝っているそうで、これに関する催しが多く、ジェクトが所属するトップチーム『ザナルカンド・エイブス』にもパフォーマンス依頼が寄せられているらしい。
パフォーマンスと言うものは、普通の試合とは勝手が違うので、入念な打ち合わせとリハーサルが繰り返される。
ジェクトはスタープレイヤーとして名が知られているので、当然彼の参加は強く望まれている為、一日でもスケジュールを空けるのは難しいと言う。

ティーダは一年前までザナルカンドで暮らしていたから、そう言った事情も幼いながらに覚えている。
……だから余計に、この時期に父がザナルカンドを離れ、自分の下に帰って来る事が信じられないのだろう。


「絶対帰って来ないよ」
「帰って来るよ」
「来ないよ」
「来るよ」
「来ない」
「来るもん」


ティーダのスコールの遣り取りは、段々と二人の意地の張り合いのようになって来ていた。
二人の大きな丸い目に、じわりと大粒の滴が滲むのを見て、レオンは慌てて二人を宥めた。


「こら、ケンカするな」
「だってティーダが」
「だって帰って来ないに決まってるもん!」
「帰って来るよ!ジェクト、ウソつかないよ」
「いつもウソばっかだよ!」
「ウソつかないよ!」
「う……わぁぁああああああん!」
「ふえええええええ」
「ああ、ほらほら。泣くな、二人とも」


わんわんと声を上げて泣き出した二人に、レオンは溜息を吐く。

それぞれ抱き締めて、くしゃくしゃと頭を撫でて宥めてやるが、中々落ち着きそうにない。
買い物に出かけたエルオーネが帰って来るまでに、果たして泣き止んでくれるだろうか。


(こんな調子でどうするんだ?ジェクト)


メール一つでこの騒ぎ。
しかも肝心の息子は、父が帰って来る事を喜ぶどころか、信じてもいない。

日頃の態度の事も含め、一つ二つ説教ぐらいしてやっても良いかも知れない。
けれども、この話を聞いて一番堪えるのも彼だろうから、説教までは要らないか。

取り敢えず、どうやってティーダを港まで連れ出そうか。
ぐすぐすと泣きじゃくる弟達を宥めながら、レオンは頭を悩ませるのだった。




2012/04/01

日頃の行いが大事ってね……

ジェクトも意地悪したくてしてる訳じゃないんですけどねえ。
その癖、スコールには、頭撫でたりいーこいーこしたりするから、益々ティーダの態度が硬質化。
レオンにしてみれば、肝心の息子になんでそれが出来ないのか、物凄く不思議。