冷めない内に召し上がれ


人参を星の形に刳り貫いて。
じゃがいもも出来ればそうしてやりたいのだが、こちらは人参と違って煮崩れの可能性が高い。
だから、一口サイズよりももう少し多めに切って置く。
キャベツは4分の1カットサイズのものを、手で千切って、外側の大きな部分は半分以下にした。

オリーブオイルをひいた鍋に、小さく切ったベーコンを入れて、軽く炒めた後、人参・じゃがいも・キャベツを入れて、全体にオリーブオイルが行き届くまで手早く炒める。
その後は、綺麗な水に全体を浸し、買っておいた固形ブイヨンを投入し、強火でじっくり煮込む。
時々掻き混ぜつつ、ブイヨンが完全に溶け切ったのを確認すると、味見をしながら塩コショウで整えた。
最後に子供達が一番喜ぶであろう本日のメインディッシュなる食材、ウィンナーに切り込みを入れて投入し、また少し煮込んでおく。
これで今日のメイン料理、ポトフの完成だ。

鍋に蓋をして、レオンはサラダ作りに取り掛かる。
メインの中に野菜も入っているし、今日のメニューならスコールもティーダも無理なく人参も食べられるが、やはり食卓の上に一品だけと言うのは少々寂しい。
残っていたキャベツを刻んで、人参をキャベツと一緒に透明な皿に盛り付け、手作りのドレッシングをぐるりとかける。


「レオン」


エルオーネがリビングと続いている出入口から、ひょっこりと顔を出す。
レオンが振り返って見てみると、彼女は眉尻を下げて、けれど楽しそうに笑っていた。


「ティーダがお腹空いたって。スコールも」
「もう出来たって伝えておいてくれ」
「うん」


兄の言葉に頷いて、エルオーネはリビングへと戻った。
もう直ぐだって、良い子にしてようね、と言うエルオーネに、ティーダとスコールの元気の良い返事が返った。

メインのポトフを底の深い器に移して、炊き上がった白飯を茶碗によそう。
4人分の食事を乗せられる程大きなトレイは持っていないので、先ずはスコールとティーダの分を乗せた。
スープを零さないように気を遣いつつ、リビングに持って行くと、窓辺のテーブルに行儀よく座っていた二人が此方を見て、蒼と青を輝かせる。


「ご飯だ、ご飯ー!」
「お兄ちゃんのご飯」
「こらティーダ、飛び跳ねないの。危ないでしょ」


ガタガタと椅子に座ったままではしゃぐティーダを、エルオーネが諌める。
怒られたティーダは直ぐに、背筋を伸ばしてはしゃぐのを止めた。
そんなティーダにスコールがくすくすと笑い、レオンも笑みを浮かべる。

スコールとティーダの前に料理を置いても、二人は直ぐには手を付けようとしない。
待ち遠しそうにそわそわとする二人の為に、レオンは足早にキッチンに戻って、自分と妹の分を運んだ。
四人分の料理が食卓に揃って、これでようやく夕飯の時間だ。


「はい、手を合わせて。頂きまーす!」
「頂きます」
「いただきまーす!」
「いただきます!」


エルオーネの号令に合わせて、四者四様の声が響く。

待ちに待った夕飯に、ティーダが勢いよく大きなじゃがいもを口に頬張る。
あ、とレオンが止めようとするのも間に合わなかった。


「!!!」
「ティーダ?」


声にならない悲鳴をあげたティーダに、スコールがきょとんと首を傾げる。

一緒に頬張ったスプーンも、じゃがいもの熱が伝染していたのだろう。
慌ててスプーンを離して、口を手で押さえるティーダに、エルオーネが水を差しだす。


「ゆっくりよ。ゆっくり飲むの」
「んぐ、う、ん、ん!?えほっけほっ、げほっ!」
「ほら、だから言ったのに……」
「大丈夫か、ティーダ」
「ティーダ、」


レオンがティーダの背中を摩り、スコールも心配そうにティーダの顔を覗き込む。
ティーダは目尻に涙を浮かべてはいたものの、こくこくと首を縦に振って、もう一度水を飲んだ。


「口の中、ヒリヒリするか?」
「んーん」
「スコールは、ちゃんとふーふーして食べようね」
「うん」


エルオーネの言葉にスコールが頷いて、掬ったキャベツをふーふーと息で冷まして、小さな口を一杯まで大きく広げて齧り付く。
もう少し小さく千切った方が良かったか、とレオンが思う傍らで、ティーダは大き目のウィンナーを一気に頬張る。
エルオーネは星の形に切った人参をスコールに見せて、くすくすと笑いあった後、ぱくりと一口。

幸せそうに温かな料理を頬張る妹弟達の姿に、レオンは小さな幸せを感じつつ、スープを口へと運んだ。




2012/08/01付けでアップするのを忘れて放置していたもの。

晩御飯にポトフ作ったよと言う事で、お兄ちゃんにも作って貰いました。
なんか食べてる系のSSが多いような気がする。まぁいいか。