真実はその手の中に


ちゅん、ちゅん、と言う鳥の鳴き声と、瞼の裏に透ける眩しい光。
部屋の外から微かに香る、トーストの香ばしい匂いに気付いて、朝なんだ、とスコールは知った。


「んぅ……」


こしこしと目を擦りながら、スコールは起き上がる。
その横で、ころん、とティーダが寝返りを打った。

朝に弱いスコールは、寝て起きてからしばらくの間、ぼんやりとしている事が多い。
今日も中々活動スイッチがオンに入らず、ベッドの上で転寝しながら座っていた。
頭を持ち上げては、首の坐らない赤ん坊のようにカクン、と落とす所作を繰り返していると、横でもう一度、ころん、と寝返りを打つ気配。
スコールはもう一度目を擦りながら、隣で眠るティーダを見遣り、


「……寝ちゃった…」


昨夜、ティーダが『サンタさんに逢うまで寝ない』と言っていた事を思い出す。

ティーダは、「サンタクロースはいない」と言っていた。
スコールは、「サンタクロースはいる」と思っている。
けれど、ティーダが「絶対いない」と言い切るものだから、スコールも段々と自信がなくなって行ってしまった。
其処で、サンタクロースに逢って真実を確かめると言うティーダと一緒に、サンタクロースが家に来るのを待つべく、起き続けていようと頑張っていた────のだが、いつの間にか寝落ちてしまっていたようだ。


(寝たら起こしてって言われてたのに…)


スコールが寝たらオレが起こすから、オレが寝たらスコールが起こして。
ティーダにそう頼まれて、スコールは頷いた。
が、結局、どちらが先に寝たのか判らない内に、二人とも眠ってしまっていたらしい。

もう朝になってしまったが、取り敢えず自分が先に起きたので、ティーダを起こさねばなるまい。
いつも一緒に寝ている筈のエルオーネもいないし、きっと彼女はもう一階に降りて、兄と一緒に朝食の準備をしているのだ。
二人で一緒に降りて、ご飯を食べて、兄と姉にサンタクロースが来てくれたか確かめないと。

そう思いながら、ティーダの方を振り返ったスコールの目に、見慣れないものが飛び込んできた。


「……?」


ティーダの枕元に、大きなリボン付のビニール袋が置かれている。
中に入っているのは青と白のラインが書かれたボールだった。

こんなものは、昨日はなかった。

ぱち、ぱち、と瞬きを繰り返した後、スコールははっと思い出す。
きょろきょろとベッドの周りを見渡すと、今度は自分が寝ていた枕の傍に、ラッピングされた小さな箱が置いてあった。
思わずドキドキと胸が高鳴るのを感じつつ、そっと手に取った箱には、『Happy Merry Xmas!』のシールが貼られている。


「……!」


思わず、胸からそのまま心臓が飛び出るかと思った。

震える手でリボンを解いて、包装紙を丁寧に丁寧に剥がす。
スコールの掌よりも少し大きい箱の蓋を開けると、中には青色の光沢を放ち、真ん中には“Triple Triad”の文字と共に、長い髭と美しい毛並を持った雄々しい魔獣の意匠が施されたケースが入っていた。


「……!…!!」


その興奮も冷めやらぬ内に、スコールは隣で寝ているティーダを揺さぶる。


「!…!……!!」
「んぁ……なに〜…?」


ゆさゆさと体を激しく揺さぶられ、安眠を妨害されたティーダは、思い切り顔を顰めてのろのろと目を開けた。
寝惚けた色を残す青と、ぱっちりと興奮した蒼がぶつかる。


「…なに…すこーる……」
「……れ…これっ、これっ」


興奮の余り、声の出し方さえも忘れたスコールだったが、精一杯に音を吐き出しながら、青いケースと剥がしたラッピング紙を見せる。

ティーダはごしごしと目を擦りながら箱を見た。
それから、包装紙に貼られた『Happy Merry Xmas!』のシールに気付き、


「……それ」
「……」
「…プレゼント?」
「……!」
「…サンタの?」
「……!!」


一言一言を区切るティーダと、その一つ一つにこくこくと首を縦に振るスコール。

ティーダの目が、きょとん、とスコールを見詰める。
信じられない────と言うよりも何が起きているのか判らない、と言う表情だ。
そんなティーダの顔を掴んで、スコールはぐいぐいと彼の向きを変えさせる。


「痛い痛い!なんだよ、スコール!」
「それっ、そっちっ、ティーダのっ」


順序立てて説明する事は愚か、まだ声の出し方を忘れているスコールだったが、辛うじてそれだけは言う事が出来た。

言葉よりも先に、強引に首を捩じられたティーダは、少しの間顔を顰めていたが、自分の枕元に置かれているものを見付けると、青い瞳を零さんばかりに大きく見開いた。


「……これ」
「……」
「…プレゼント?」
「……!」
「…オレの?」
「……!!」


一言一言を区切りながら問うティーダに、スコールはこくこくと首を縦に振った。

恐る恐る伸ばされたティーダの手が、袋に包まれたボールに触れる。
ボールには“Bliz ball Official Club”と書かれていた。
それの意味する所を、ティーダはよく知っている。

二人は同時にベッドを飛び出して、ばたばたと転がる勢いで階段を下りた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃーん!」
「レオンー!エル姉ー!」


短い距離を走っただけなのに、すっかり興奮した所為だろうか。
はあはあと息を上げながらリビングにやって来た二人を出迎えたのは、並べられた朝食と、レオンとエルオーネ、そしてジェクトだった。

ジェクトがいる事に、スコールとティーダは顔を見合わせる。
彼は時々、息子の様子を見る為に帰って来るが、その時は必ずレオンかエルオーネに連絡がある。
今回は何も聞いていなかったので、不思議に思ったのだ。

────が、


「おはよう、スコール、ティーダ」
「おはよう、二人とも。サンタクロースはどうだった?逢えたか?」


朝の挨拶と共に、サンタクロースの事を聞かれて、はっと子供達は我に変える。


「サンタ!サンタ、逢えなかった!」
「でも来てくれたよ、サンタさん!」
「これ、ほら、プレゼント!サンタさん、持って来てくれた!」
「僕のも!これ、これっ!」


顔を真っ赤にして興奮し切り、見て見て、とカードケースとボールを差し出して見せるスコールとティーダ。
レオンとエルオーネは、そんな二人の頭を撫でて興奮を宥め、


「スコールはカードケースか」
「これ、欲しいって言ってた奴だね。良かったね」
「うん!」
「ティーダは、これは────ブリッツに使うボールか?」
「うん!ザナルカンドにある、こーしきの奴!ザナルカンドじゃないと買えない奴!」
「ザナルカンドじゃないと手に入らないの?凄ーい。やっぱりサンタさんは凄いねえ」


兄と姉の言葉に、弟達の弾む声がより高く響く。

きらきらと輝く蒼と青が、まるで夢の宝物を見付けたかのように、じっとプレゼントを見詰める。
スコールは、まだ何も入っていないカードケースの蓋を、開けては閉めてと繰り返す。
ティーダはボールを袋から出し、感触を確かめるように、両手でもってくるくると回し見ていた。

プレゼントにはしゃぐ二人の子供達は、昨晩、サンタクロースが来てくれるかと不安になっていた事など忘れていた。
彼等の真実は、彼等の手の中にあるものが、全てを物語っている。
スコールは信じた通りにサンタクロースがいた事、ティーダは生まれて初めてのクリスマスプレゼントに、すっかり夢中になっていた。


そんな子供達を、赤い瞳がじっと見詰めている。



眩しげに細められる赤い瞳が、柔らかな光を浮かべている事に気付いて、レオンとエルオーネは顔を見合わせて笑みを零した。




2013/12/25

子供達の喜ぶ顔って、良いですね。
これが見たいから、叶えてあげたくてお兄ちゃんお姉ちゃんは一所懸命。
親父も一所懸命なんです。でも不器用だから。ちゃんと喜んでる顔が見れて、ちょっとホッとした。