フロム・ディア・サンタクロース


部屋の電気を消して、レオンは一階へと下り、ふう、と息を吐く。
それから食卓テーブルの椅子に置いていた鞄を開けていると、後を追う形でエルオーネも二階から降りてきた。


「レオン、今年もお疲れ様」
「ああ、お疲れ様、エルオーネ」


今年も秘密のミッションを無事に終え、エルオーネはすっきりとした表情だ。
そんな彼女の前に、レオンは鞄から取り出した小さな袋を差し出す。


「エル。メリークリスマス」
「えっ。あっ」


兄の言葉にエルオーネは目を丸くして、その手に握られているものを見た。
レオンの気持ち大きな掌に収まるサイズの小さな紙袋には、確りと『Merry Xmas』の文字。
マスキングテープのデコレーションに、『エルオーネへ』と綴られているのを見て、エルオーネはほんのりと顔を赤らめた。


「あ、ありがとう……もう、そんな年じゃないのに」
「良いだろう、クリスマスなんだから。家の事も、スコール達の事も、いつも見てくれるエルオーネに、サンタクロースからのプレゼントだと思えば良い」
「サンタが来くるのは、小さい子だけだよ。私、もうそんなに子供じゃないのに」
「じゃあ、それは要らない?」
「それとこれとは別!」


受け取った紙袋を、エルオーネはしっかり確保して言った。
そうしてくれると嬉しいよ、とレオンが笑えば、エルオーネはもう、と言って眉尻を下げた。


「開けても良い?」
「ああ。……そんなに大したものじゃないけど、似合うと思うんだ」


レオンのその言葉を聞きながら、エルオーネが小袋を開ける。
中身を取り出してみると、水色の花を携えたヘアピンが入っていた。
シンプルながらも可愛らしいチョイスに、レオンがエルオーネの好みを考えて選んでくれた事がよく判る。

エルオーネは早速ピンを取り出して、前髪を軽く横に流し、ピンで止める。
鏡がないので自分では判らなかったので、見守るレオンに正面から見せてみた。


「どうかな」
「ああ。よく似合ってる」
「ふふ、ありがとう」


良かった、と笑うレオンの反応に、私も良かった、とエルオーネは思う。
似合わなかったりしたら、折角選んでくれたレオンに悪い、と思うからだ。

それからエルオーネは、背に隠すように手に持っていたものを差し出す。


「じゃあ、これ。レオンにクリスマスプレゼント」
「俺に?」


小さな正方形のプレゼントボックスを差し出し、思いも寄らなかった妹の言葉に、レオンは目を丸くした。
どうして、と言う表情で見詰める兄に、エルオーネはくすくすと笑いながら言った。


「スコールとティーダがね、レオンは多分、もうずっとクリスマスプレゼントを貰ってないって言ったら、そんなの可笑しいって。だから自分達で用意して、サンタクロースにお願いして、お兄ちゃんにプレゼント贈るんだって言ってたの」


サンタクロースは一年間を良い子で過ごした子供の下に来るのに、レオンやエルオーネの所に来ないのは可笑しい。
スコールとティーダは真剣にそう考えつつも、サンタクロースは世界中を飛び回る為に、どうしても配り切れない子供も出てしまうのだと考えていた。
嘗てティーダの所にも訪れなかった事もあり、世界中の子供達の数が、彼等の想像をはるかに上回る数である事も手伝って、それは仕方のない事だとも思った。
それなら、サンタクロースが準備出来ない分は自分達が用意して、サンタクロースにお願いし、兄にプレゼントを贈りたいと考えたのである。

エルオーネの言葉を聞いて、レオンの脳裏に、眠り落ちる寸前の弟と妹の会話が浮かぶ。
エルオーネが言った、「お願いを伝えておくから」と言うのは、この事か。

彼等は幼いなりに、一所懸命に考え、準備を頑張った。
プレゼントを選び、今まで貯めたお小遣いを使って必要なものを買い、自分達でラッピングした。
自分達だけで、と言うのは流石に無理があったので、エルオーネも手伝っている。
それでも、殆どの作業を弟達が主導で行った事は間違いなく事実であった。


「だから、受け取らないなんて言わないでね」


そう言って、はい、とエルオーネは改めてプレゼントボックスを差し出す。
よくよく見れば、そのボックスの包装紙には所々に不自然な折り目がついていて、リボンも歪になっている。
名入りのメッセージカードは手書きだし、それがティーダの癖字とスコールの几帳面な字である事を、レオンは直ぐに悟った。

見れば見る程、目頭が熱くなるような気がして、レオンはどんな顔をして良いか判らない。
ただ唇が緩むは堪えられなくて、なんとも顔の締まりがなくなっている気がして、堪らず口元を手で隠した。
しかし、しっかり者の妹にはやはりバレていたようで、ふふ、と楽しそうに笑う声が聞こえる。


「…この年で、サンタクロースに逢えるなんてな」
「凄く可愛いサンタさんでしょ?」
「ああ。全くだ」


こんなに可愛いサンタクロースは、世界中の何処を探しても、他にはいない。
レオンはそう思いながら、プレゼントボックスを受け取った。


「開けても良いか?」
「うん」


弟達が何を贈ってくれたのかが気になって、レオンは我慢が出来なかった。
ソファに座り、きっと頑張って結んだのであろうリボンを解くと、テープ留めの粘着が弱かったのか、箱を包む包装紙がばらっと開いた。
あらら、と苦笑するエルオーネに、レオンも微笑ましさを感じてくすくすと笑う。

箱を開けると、中に入っていたのは、小さな袋が二つと、折り畳まれた画用紙が一枚。
画用紙を開いてみると、『お兄ちゃん レオン へ。メリークリスマス』と言う文字と共に、レオンの似顔絵が入っていた。
恐らく、文字を書いたのはティーダで、絵を描いたのはスコールだろう────いや、所々の塗り方が違う所を見ると、それぞれ分担作業にしたのかも知れない。

その隣に並べられた小さな袋を手に取ると、中に入っていたのは赤いビーズのヘアゴムだった。


「あ、それ。皆で一緒に作った奴なんだ」


レオンが何某かの作業や仕事をしている時、長い髪をよく束ねているのを、スコールは幼い時から見ていた。
その時に使っているヘアゴムは、何処でも安価に売られているシンプルなものばかりだ。
特に執着している訳でもなく、必要であるから使っていただけで、千切ればそれきりのものだったのだが、スコール、ティーダ、エルオーネが揃って手作りしてくれた物なら、無碍には出来ない。

大事に使わなくちゃな、と思いつつ、もう一つの袋を手に取ると、少し感触は違うが、此方もビーズらしき小さな凹凸が感じられる。


「二つも作ったのか」
「え?時間もあまりなかったから、一つだけだったと思うけど……?」
「……?」


エルオーネの反応に、おや、とレオンは首を傾げる。
袋を開けて中身を取り出したレオンは、黄緑色の小さな輪───ビーズの指輪と一緒に出てきた小さなメッセージカードを見て、ああ、と納得した。


「エル。お前宛てだ」
「えっ?」


今度はエルオーネが目を丸くする番だった。
どう言う事、と訊ねて来る妹に、さあ、どう言う事だろう、と推し量るしか出来ない兄はそれだけを言って、淡い緑を基調にしたビーズを手渡した。




2017/12/25

皆それぞれサプライズ。
エルオーネが最後まで自分の欲しいものを弟達に言わなかったので、弟達はこっそり頑張りました。