世界の色を変えるもの


 判る人間にしか判らない事であるが、案外と、彼は物臭な性格なのである。

 神経質なのは確かだが、その気質によって気になってしまう事に対して、積極的に何某かの対処をしようとはしない。
全くする気がない訳ではないが、その思考が行動に繋がるまでが非常に時間と手間のかかる男であり、大抵は行動に繋がる前に「面倒」の一言で切って捨てる事が多い。
あと一歩、あと一押し耐えれば、と言う所で投げ出すので、見ている方にとっては非常にやきもきさせられる。
…と、周りが思っているなどと、彼は一欠けらも思いもしていないし、言った所で不満そうに唇を尖らせて黙り込むだけなので、現状で彼のこの性格についての改善の余地はなさそうだった。

 性格なんてものは、先天的なものであるにしろ、後天的に形作られた部分にしろ、簡単に変えられるものではない。
増して、本人が変える気も直す気もないのだから、やっぱり変えられるものではない。
もう少し肩の力を抜けば良いのに、と周りが苦笑交じりに言った所で、それが出来れば彼もその周囲も最初から苦労する事はなかっただろうし、それが出来ないからこその“彼”であるようにも思う。

 ────結局の所。
彼の物臭な性格は、改善する余地もその努力も見られる事はなく、しかして神経質な性質も相俟って、“面倒臭がり”と言うなんとも不名誉な称号を彼が頂く事はない。
それは、彼の公的立場の名誉やイメージを思えば、幸いであったと言えるのかも知れない。
物臭な性格に振り回される事が日常と化した、周囲の人間の疲労度を除けば。




 仕事に追われたスコールが、二、三日の間、絶食状態で通すのは珍しくない事だった。
その度、キスティスから食事ぐらい採りなさいと言われるのだが、それが出来れば、そもそも絶食状態になど陥りはしない。
目の前に堆く積まれた書類が、半分、いや三分の一でも減ってくれれば、コーヒーを飲んでパンを齧る程度の余裕は出来る筈だ。
…と言ったら、紙の束を綺麗に半分浚われて、「後は私がやるから、貴方は食事をして来なさい」と言われ、指揮官室を追い出されたのは、まだ記憶に新しい。

 スコールは、どちらかと言えば、生真面目な性質である。
面倒だとは思っても、出された課題はきっちりと期限前に終わらせておくタイプだ。
こういうものは、面倒だ面倒だと言って、後に回せば回す程、自分の首を絞める結果になる。
面倒なもの程、先に片付けておくに限るのだ。

 だから、指揮官として目を通さなければならない書類が山積みになる度、スコールはワーカーホリック並に仕事に集中する。
面倒事を先に片付けてしまいたいからだ。
紙束は放って置く時間が長ければ長いほど、どんどん高くなって行くので、一時出掛けて戻って来た時に塔のように聳え立っている紙束を見ると、始めからないも同然の仕事意欲が更に減退する。
そうなってしまうと、作業を再開させるまでに体力も心力も多大に消費しなければならない。
そうなる位なら、集中力が続いている内に、一気に片付けてしまった方が良い。

 と、スコールは思っているのだが、それが度々行き過ぎるのが、指揮官補佐を務める幼馴染達の頭痛の種であった。
面倒事を先に済ませてしまおうと思うあまり、生活の中で必要な物事が、綺麗さっぱり抜け落ちるのだ。
食事を採らない、睡眠時間を削る、指揮官室に缶詰なんてものは当たり前。
任務に出る前には流石に睡眠時間は確保しているが、それで数日分の不摂生が元に戻る訳もない(それでも仕事に支障を出さないのは喜ばしい事であるが、それとこれとは話が別だ)。
スコールが出張る程の仕事もなく、デスクワークだけが延々と続くようになると、体が鈍るぞ、とサイファーが挑発する。
するとスコールは、むっとした貌を浮かべ、訓練施設に赴いてアルケオダイノスを三頭ほど狩った後、またデスクに戻る。
折角仕事から離れたのだから、そのまま部屋に帰って寝れば良いだろうに、とサイファーやキスティスが呆れている事を、彼は知らない。

 ────早い話が、スコールは、日常生活に置ける自己管理が全く出来ていないのだ。
仕事をきっちりと済ませようとする姿勢は良いのだが、その事にばかり意識を奪われている。
睡眠不足は情報の理解力を欠如させ、栄養不足は体力や集中力の低下にも繋がる。
傭兵である以上、体が資本なのだから、これらを欠く事は絶対に許されない……のだが、SeeDが慢性的な人手不足である現在、スコールにこれらを十分に採れと言うのも、中々難しい事だった。

 それでも、時には無理やりにでも、休ませなければならない。
幾ら世間で“伝説のSeeD”だの“魔女戦争の英雄”だのと大層な美辞で呼ばれようと、彼は間違いなく、普通の人間である。
眠らないのも食べないのも、過度になれば死に繋がるし、そうでなくとも幼馴染の面々は、いつかスコールが過労死してしまうのではないかと心配でならない。

 仕事詰めになったスコールを休ませるのは、いつの間にかサイファーの役割となっていた。
指揮官室から強制退場させるだけならキスティスでも可能なのだが、スコールは指揮官室を追い出された後も、自室に設置した仕事用のパソコンでネットワークを使い、自室で仕事に勤しんでしまう。
男子寮に住むスコールの下にキスティスが行ける筈もないので、同性であり、スコールを相手に唯一対等に渡り合える者であり、彼に対して強引な手段も厭わないサイファーに鉢が周るのは、自然な成り行きであったと言える。

 だから、サイファーがいれば、スコールの事は安心して見ていれば良い、と幼馴染の面々は思っているのだが、それでも問題は解決しない。
指揮官であるスコールが任務に赴く事があるように、当然、補佐官の役職を務める事になったサイファーも、任務に出る事がある。
それは一日で帰って来られるようなものばかりではない。
エスタやセントラ大陸での任務ともなれば、早くても三日は帰れないのが普通であった。
その間にスコールは、鬼の居ぬ間にとばかりに仕事に集中してしまう。
一応、キスティスは勿論、ゼルやセルフィ、アーヴァイン、時にはリノアもやって来て、スコールに休むように言うのだが、「これが終わったら休む」の一言で終わりにされる。そして、大抵“これ”が終わった所で休む事はない為、仲間達は「早くサイファーが帰って来ないかな…」と溜息を吐いて待ち侘びるのが常であった。

 そんな訳で、遠方の任務から戻って来たサイファーが真っ先にする事は、自室で疲労回復の為の睡眠確保ではなく、指揮官室に缶詰になっているであろうスコールを、強制的に寮へと連れ去る事であった。

 そして、今日も。
エスタから本日付で帰還したサイファーは、早速指揮官室へ赴き、目の下に薄らと隈を作ったスコールを捕まえると、有無を言わさず連れ去った。
仕事がまだ残っている、と抗議するスコールだったが、サイファーはそんな事はどうでも良かったし、キスティスは「おやすみ」と言ってスコールを見送るだけだった。

 サイファーはスコールを連れて、自分の部屋へと向かった。
部屋に入ると、スコールに適当に待っているように釘を刺し、シャワールームに入った。
カラスの行水宜しく、汗を流すだけで済ませて部屋に戻ると、スコールは上着を脱いでラフな格好になり、部屋に置いてあったメモ用紙を使って、黙々と何かを書き込んでいた。


「何やってんだ」
「明後日の任務のスケジュール調整」
「そんなモンは明日やれ」


 サイファーはそう言って、スコールの手からペンとメモ用紙を奪い取る。
おい、とスコールが不機嫌を露わにしたが、サイファーは気にせず、ペンとメモ用紙を部屋の隅に投げる。


「お前の今日の仕事は、休む事だ」
「…そんな暇ない」


 サイファーの言葉に、スコールは眉根を寄せて言った。
こうしてサイファーに拉致された以上、書類関係の仕事はもう出来ないが、スコールの仕事はそれだけではないのだ。
作戦の立案や、タイムスケジュールの調整、情報の整理整頓諸々────全く以て時間が惜しい。
その事は、指揮官補佐を務める事となったサイファーにも判る事だ。

 しかし、サイファーはそんな事はお構いなしに、簡素なチェアに座っていたスコールの腕を引っ張った。


「っ!」


 引っ張って、スコールが抵抗する暇を与えず、ベッドへと投げてやる。
ぼすっ、と三日前にサイファーが抜け出てから塊にして放置していた羽根布団が、柔らかい音を立てた。
細身の体が羽毛に沈むのを見下ろして、サイファーは問う。


「お前、前に寝たのはいつだ?」
「……昨日の夜」
「それは昨日の夜か、今日の朝か、どっちだ?」


 ずい、と顔を近付けて睨みながら詰問すれば、スコールは忌々しげな表情を浮かべて、サイファーを睨み返す。

 寝るのが夜で、起きたら朝───等と言う生活リズムは、スコールには通じない。
それはスコールに限らず、任務を預かるSeeDならばよくある話だが、スコールは程度が違う。


「何時に寝た?」


 明確な数字を示せと言うと、スコールは押し黙った。
いつも真一文字に噤まれている唇が、今日はへの字になっている。


「……3時」
「起きたのは」
「………」


 答えないスコールに、サイファーはわざとらしい程に深々とした溜息を吐き出す。
1時間か、30分か、いやもしかして、デスクでうたた寝しただけだとは言うまいな。
そう思いながら睨み続けていると、緑の瞳の無言の圧力を察したのか、ふい、とスコールが目を反らす。

 成る程。
言えば俺に怒られるって自覚はある訳か。

 そんな事を考えて、サイファーは米神に薄い青筋を浮かべつつ、口元に意地の悪い笑みを浮かべる。


「おい、スコール。どうしても寝たくねえってんなら、俺も考えがあるぞ」


 ぎし、とベッドのスプリングが音を鳴らす。
サイファーは、羽毛布団に背を埋もれさせているスコールの上に覆い被さった。


「……退け」
「聞かねえな」
「あんたの我儘に付き合っている暇はない。始末書だって溜まってるんだ。誰かさんが任務に行く度、余計な破壊活動をするお陰で」


 青灰色に物騒な光を閃かせたスコールだったが、サイファーは意にも介さない。
握った拳がサイファーの胸を打とうとしたが、サイファーはその前にスコールの細い手首を捕まえた。


「始末書ね。チキン野郎か、セルフィか。案外、ヘタレかも知れねえな。そんなモンは仕出かした本人に任せりゃ良いんだよ」
「あんた、判ってて言ってるだろう」


 冷たい瞳がサイファーを睨む。
が、やはりサイファーがそれを気に留める事はなく、数日前よりも骨が浮き上がって見える鎖骨へと唇を寄せる。
つ、と舌先で骨の形をなぞってやれば、ぴくり、とスコールの細い肩が微かに揺れた。

 白いシャツをたくし上げて、肉の薄い腹を撫でる。
サイファーの体の下で、もぞもぞとスコールの足が動いた。
抵抗の意思を見せるそれを、下半身で押し潰すように妨げると、スコールは益々忌々しげな眼でサイファーを睨んでいたが、


「……っ!」


 シャツの下から垣間見えた、薄淡色の蕾に舌を当てると、スコールの躯が判り易く跳ねた。
そのまま、蕾にねっとりと舌を這わせてやれば、熱の篭った吐息がスコールの唇から零れる。


「やけに敏感じゃねえか。溜まってたか?」


 物欲しげに膨らんだ蕾の先端を、指で摘まんで転がす。
スコールは声と一緒に息を殺して、羽毛布団の端を握り、耐えるように瞼を閉じている。


「う、ん…っ」
「さっさと素直になっちまえ。気持ち良くなりゃ、面倒臭ぇ事も忘れられるぜ」
「…っあ……!」


 唾液でいやらしく光る蕾に歯を立てると、それだけでスコールの躯は甘い音を奏でる。
その音に、サイファーは己の欲望がむくむくと頭を擡げて行くのを自覚した。

 スコールの胸を愛撫しながら、サイファーの手は彼の細い腰を撫で、下肢へと降りて行く。
黒のボトムスの前に手をかけると、気付いたスコールの手が妨げるようにサイファーの手を掴む。


「……っ…」


 サイファーを見上げる蒼は、悔しそうな空気を孕ませてはいるものの、それは拒絶とは程遠い。
全く以て素直ではない、しかし、だからこそ良いのだと思いつつ、じっと緑が蒼を見詰め返していると、 ────す、と蒼が組み敷く男から逸らされ、サイファーの手を握る手も離れた。
それが、予測していた行動と違ったので、サイファーは微かに目を丸くした。


「良いのかよ?」


 いつもなら、仕事の邪魔をするな、休ませたいなら余計な事をするなと、遮二無二暴れてサイファーを振り払おうとするのだが。
拒まれないのは良い事だが、予想と違った展開に、サイファーは少々面を食らっていた。

 スコールはそんなサイファーをちらりと見上げ、


「……どうせやるんだろう」
「…まーな」
「なら、俺が何を言っても無駄だろう」


 これ以上疲れる事はしたくない、と言った後、


「ただし、条件付きだ。俺の今日と明日の仕事、あんたが全部代わりにやれ。明後日のスケジュール調整と、始末書の処理。来週の予算会議に必要な書類の作成と、再来週のSeeD実地試験の準備、それから────」
「あー、判った判った。判ったから黙れ」


 次から次へと出てくる仕事の内容に呆れつつ、サイファーはスコールの唇を己のそれで塞いだ。
言い足りないのか、サイファーの突然の行動が気に入らないのか、スコールはうぐうぐとくぐもった声を上げていたが、それは言葉らしい言葉にはならない。

 言葉を訴えようと動く舌を捕まえて、絡め取る。
途端、スコールはビクッと肩を震わせて、硬直してしまった。


「ん、ぅ…!」


 ちゅ、ちゅく、と唾液が絡み合う音がして、口端から溢れ出す。
抗議するように見開かれていた青灰色の瞳が、舌を撫でてやる度に、少しずつ蕩けて行く事にサイファーは気付いていた。

 舌の腹を舐めると、ビクッとそれが引っ込んで、かと思うと、おずおずと差し出される。
その頃には、スコールの肩の強張りも解け始めており、柔らかな羽毛に体重を預け、与えられる熱を甘受するようになっていた。

 サイファーを受け入れる意思を示すように、スコールの唇が開かれて行く。
その誘いに逆らわず、サイファーは角度を変えて、更に深く、スコールの咥内を貪った。


「う、ん…んっ……」
「ふ……」
「ふ…く、ん…っ!」


 サイファーの舌が、スコールの歯列をなぞる度、細い肩がぴくり、ぴくり、と揺れる。

 長い長い口付けに、スコールはやがて目を閉じ、息苦しげに眉間に皺を寄せた。
おっと、とサイファーがようやっと唇を放すと、スコールはぐったりとベッドに身を預け、ぼんやりと虚空を見上げて荒い呼気を繰り返した。


「生きてるか?」
「っは…ん…っ……誰の、所為だ…っ」


 じろり、と睨むスコールに、サイファーはにんまりと意地の悪い笑みを浮かべてやる。
「…むかつく」と小さな呟きが聞こえたが、赤らんだ顔を見れば、サイファーは毛ほども腹は立たなかった。

 シャツを胸の上までたくし上げて、もう一度胸の蕾に唇を寄せる。
すっかり色付いたそれを舌で愛撫しながら、サイファーはスコールのボトムの前を寛げてやった。
もぞ、とスコールが身動ぎして、腰を浮かせる。

 ボトムと一緒に下着も脱がせてやれば、緩く立ち上がった中心部が顔を出す。


「足持ってろ」
「……っ……」


 体を折り畳まれるように下半身を持ち上げられたスコールは、サイファーの言葉に頬を赤くした。
震える手が自身の膝裏を持ち上げ、サイファーに自身の秘部を全て曝け出す格好になる。

 サイファーの指がスコールの雄の裏を辿り、更に下りて、慎ましく閉じた秘孔に触れる。
指先でくすぐるように、つん、つん、と弄られて、スコールは唇を噛んで縮こまる。


「う、ふっ…!」


 ひくっ、ひくっ、と細い体を震わせるスコールの姿は、サイファーの目を十分に楽しませてくれる。
いつ来るか、今か、と言う緊張感の所為か、スコールが殊更に敏感になってしまっているのが判る。

 秘孔の入り口の形を確かめるように、指先でゆっくりとなぞってやると、ヒクヒクと蕾が伸縮するのが見えた。
その光景を眺めながら、秘孔口を離れるように会陰を下から上に辿れば、


「サ、イファ……っ」


 咎めるような、求めるような声で名を呼ばれる。
サイファーはその声を、甘えたがっているのだと思う事にしている。
それを口に出せば、誰があんたなんかに、と棘のある返事が予想できるので、決して口にはしない。

 サイファーは指先を舐めて濡らすと、もう一度、スコールの秘部に指先を当てた。
つぷり、と指の先を挿入すると、微かに入口が抵抗するように閉じて指を締め付けたが、それも直ぐに馴染んで行く。
ゆっくりと指を押し進めて行けば、それ以上の拒む気配はなく、スコールはサイファーの指を受け入れて行く。


「っは…ぅ……!」
「聞かせろよ、お前の声」
「…い、や…だ……あっ!」


 くりゅっ、と秘孔内で指で円を描いてやれば、脾肉を押し広げられる感覚に、思わず高い声が上がる。
自分のものとは思えない、思いたくない甲高い声に、スコールは顔を真っ赤にして唇を噛んだ。


「良い声じゃねえか。そそられるぜ」
「……だか、ら…っ、嫌、…あっ、う…っ!」


 ぐ…と奥まで侵入される感覚に、スコールの言葉は最後まで続かなかった。


「奥まで入ったぜ……判るか?」
「ふ…う、ぅ……っ」


 サイファーの言葉に、スコールは頷く事も首を横に振る事もしない。
下肢から湧き上がってくる、痺れるような甘い疼きに、ともすれば漏れそうになる声を殺す事で必死なのだ。

 挿入した指を秘孔内で悪戯に動かせば、その度にスコールの薄い腹がぴくり、と跳ねる。
ぎゅう、と固く唇を引き結び、下肢から湧き上がってくる快感に耐えるスコールに、サイファーはまたにんまりと笑みを浮かべ、


「我慢するのも良いけどな、」
「ん……うぅんっ!」


 ぐりゅ、とサイファーの指がある一点を掠めた途端、スコールの躯が一際大きく跳ねる。
サイファーはその一点を、爪先で引っ掻くように何度も擦ってやった。


「ひっ…う、うっ…!んんっ、うっ、」


 ビクッ、ビクッ、とスコールの抱えたままの膝が震え、悶えるように濃茶色の髪がぱさぱさとシーツを叩く音がする。


「サイ、ファー…っあ、うっ、」
「素直にならねえと、辛いぜ?」
「ひんんっ!」


 ぐりっ、と爪の尖りを当てるように、しこりのように膨らんだ其処を押し上げてやれば、堪え切れなかった悲鳴が上がる。
そのまま押し上げた壁を、指先で小さく円を描きながら擦ってやれば、


「はっ、ひっ…!やめ、や…!う、んんんっ!」
「素直になれよ、気持ち良いんだろ?」
「…あっ、う…!ちが、ああっ!」


 否定の言葉を咎めるように、サイファーはスコールの内壁を突き上げた。
ビクン!とスコールの躯が跳ねて仰け反る。

 ヒクッ、ヒクッ、と快感の余韻に躯を震わせるスコールを眺めながら、サイファーはゆっくりと淫部から指を引き抜いた。
ぬりゅ…と内壁が擦られて行く感覚に、またスコールの唇から甘い声が漏れる。
ねっとりと絡み付いて来る内壁の熱さに、もう一度弄ってやりたい衝動に駆られつつ、サイファーはそれを堪えた。
この熱さを、もっと奥深くまで味わうために。

 体内を支配するものがなくなって、スコールの四肢から力が抜ける。
抱えていた膝もシーツに落ちて、淫部を曝け出したまま、スコールは熱に犯された瞳を彷徨わせていた。


「こっからだぜ、スコール」


 サイファーはそう言うと、スコールの足を限界まで大きく開かせた。


「サ、イ…ファー……」
「今更待ったは聞かねえぞ」
「……いつも聞かないだろ、あんた…」


 待てと言って待っている所など、見た事がない。
溜息交じりに言うスコールに、待てないんだから仕方がないだろう、とサイファーは思う。


「こんな美味そうな奴がいるのに、どうやって待てってんだよ」


 ────涙と熱で濡れた、青灰色の瞳。
不摂生な生活の所為で傷んだ髪が、乱れてシーツの上で散らばっている。
日焼けを嫌う、細く白い肌が、今は上気せたように薄らと火照って色付いて、もどかしげに体を捩らせる様は、まるで誘われているよう。
時折、理性を取り戻したように、蒼の瞳が睨むのも、サイファーにとっては心地良いスパイス。

 淫部にサイファー自身を押し当てると、その熱と大きさに驚いたように、スコールの躯がギクッと固まった。
それを宥めるように、胸の蕾にキスをすると、


「…やめろ」
「嫌だね」


 素っ気ない台詞は、照れ隠しと同じだと、サイファーは知っている。
だから遠慮もしないし、止める事もない。

 おずおずと、スコールの腕が、サイファーの首へと絡まった。
その滅多に見られない行動に、サイファーは少しばかり目を瞠ったが、もぞ、と体の下で揺らめく細腰に気付いて、口元に笑みが滲む。


「いつからそんなにやらしくなったんだ?お前」
「…なんの話だ」


 サイファーの言葉に、スコールは眉根を寄せた。
意味が判らない、と不機嫌を滲ませた眦に、「なんでもねーよ」と言ってキスをする。


「……挿れるぜ」
「……っ……!」


 ぐ…とサイファーの雄がスコールの秘部を広げていく。
はく、とスコールが短く息を吐いて、サイファーの首にしがみ付いた。


「く…っ……」
「う…はっ……あ…!」


 息を詰めないように、スコールは意識的に呼吸するように努めていた。
しかし、圧迫感や異物感は、何度体を重ねても慣れないものらしく、どうしても躯が強張ってしまう。

 ぎち、と食い付いて来る内壁に、サイファーは片眉を潜めつつ、ゆっくりと腰を進めて行く。
ぐにゅう…と絡み付く内壁の熱さが、またサイファーの興奮を煽って行く。


「…ちょ…サイ、ファーっ…!」
「んだよ…っ」
「あんた、でかい…っ!苦しい……っんんっ!」


 スコールの、苦痛を精一杯訴える声。
しかし、それはサイファーにとって逆効果にしかならない。


「なんで大きくしてるんだ、あんた!」
「お前の所為だろ!」
「知らな、あっ!や、あ…!」


 抗議するスコールの声を聞かず、サイファーはスコールの足を肩に担ぎ上げた。
ベッドにスコールの躯を押し付けて、上から押し潰すように腰を振る。


「や、あっ!うあ、あっ、…ん…あっ!」


 ぎしぎしとベッドが煩く鳴って、まるで其処にいる人間達の所業に苦情を言っているかのようだ。
しかし、サイファーは構わず、性急にスコールの躯を攻め立てた。

 ぐちっ、ぐちっ、と蜜音が聞こえる。
スコールはそれを嫌うように、サイファーの肩に歯を立てる。


「いっ……」
「う、う…!」


 ぎ、と歯が食いこんでくるのを感じながら、サイファーは一瞬痛みに歪めた表情を、笑みへと塗り替えた。


「痕残してくれるってのは、冥利に尽きるもんだが、」
「っは…!あっ、ああっ!」
「やっぱ、俺はお前の声が聞きてえな」
「嫌、あ…!ひっ、あっ、あっ、あっ、」


 ずるり、と引いた雄が、呼吸する暇を与えられずに、奥を突き上げる。
激しい律動に翻弄されて、スコールはサイファーに縋りながら、子供がいやいやをするように頭を振った。

 サイファーは、スコールの細い腰を捕まえて固定し、乱暴にも思える力強さで彼の内壁を犯す。
ぐちゅっ、ぐちゅっ、と響く卑猥な音に、スコールが時折、忌々しげにサイファーを睨むが、それも敏感な箇所を攻められれば、直ぐに蕩けてしまう。


「ひっ、あ…!や、だ…さいふぁ…あっ!」
「ったく、相変わらず、素直じゃねえなっ…!」
「んっ、んっ…!深、いと、こ…やめっ…んぁああっ!」


 ずちゅっ!と最奥の壁を突き上げられて、スコールは背を弓形に撓らせて甘い悲鳴を上げる。
そのまま、雄の先端でノックをするようにゴツゴツと壁を押してやれば、びくん、びくん、とスコールの躯が痙攣する。


「はっ…あっ…!んあ、あっ…!や、あ……」
「こっちの口は、俺を離したくないって夢中なのによ」
「…そ、んな、の…ない、ぃ……ひぃうっ!」


 耳元で囁かれるサイファーの言葉に、官能に身を震わせながら否定するスコールだが、そんな彼の言葉とは逆に、躯はサイファーを求めて止まない。

 腰を掴んでいたサイファーの手が、するりと滑り、スコールの背中を撫でた。
ぐい、と確りとした腕で、スコールの背中が起こされる。
淫部でぐち…と言う音がして、スコールの躯が微かに震え、濡れた唇から艶の篭った声が零れる。


「もっと深いとこまで行こうぜ」
「あ、う…んんっ…!!」


 胡坐になったサイファーの膝の上に、スコールの躯が下ろされる。
更に深くなる挿入に、スコールは天井を仰いで、はくはくと口を戦慄かせた。


「は…ひ……ぃっ…!」


 サイファーの耳に、スコールの苦悶の声は聞こえない。
届くのは、切なく甘く響く、自分を求める恋人の声。


「や…サイ、ファ……も、入ら、ない…から…っ」
「大丈夫、だって…いっつも全部、入ってるだろ…っ!」
「─────っっ……!」


 ずりゅううう、と一気に深くなる繋がり。
根本まで挿入された熱の塊は、じくじくとした甘い疼きを発し、あっと言う間にスコールの脳髄まで犯して行った。

 スコールの奥深くの熱を堪能しながら、サイファーはゆっくりと息を吐く。
抱き締めた腕の中で、スコールは視線を虚空に彷徨わせながら、小さな子供が甘えるような声で、サイファーの名前を繰り返し呼んでいた。


「サ、イファ…サイファー…サイ、ファー、あぁあ…」
「ああ。もっと、だろ?」


 キスを強請る唇に応えて、重ね、舌を入れる。
スコールが応えて来るのは早かった。
滑り込んできたサイファーの舌を招き入れるように、自ら口を開け、サイファーのそれに己の舌を絡ませる。

 唇を交わしながら、サイファーは律動を再開させた。
スコールの腰が跳ねないように、抱き締めて押さえつけながら、下肢を突き上げてやる。


「んっ、んぁっ、あっ!んん、あん、んっ、ふぅんっ…!」
「は、ふ…っ!きっつ…!」
「んっ、んっ…!あんた、が、バカ、みたいにっ…!大きい、からあっ…!」
「へっ……良いじゃねえか。お陰で、お前を、満足させられる、訳だしなっ!」
「バカ、あ、あぁあんっ!」


 内壁の小さな膨らみ────前立腺を突き上げられて、スコールは声を上げた。
同じ場所を狙って突き上げれば、最早スコールには言葉らしい言葉を探す余裕などなく。


「ひっ、あっ!あっ、や、あ…!サイ、ファー…!」


 精一杯の力で縋るスコールの、涙の滲む目尻を舐めて、サイファーは口端を上げる。


「いいぜ。俺も、イくからよ」
「ふっ、う…う、んっ!あっ、あっ、あっあっ!ああ…っ!」


 サイファーの律動に合せて、スコールの喘ぎ声も性急に短いリズムで刻まれて行く。
喉に何かが詰まったような、断続的なその声が、サイファーの耳には心地良い。
自分の手で、自分の体で、スコールが翻弄され、高みに上り詰めようとしているのが判るからだ。

 サイファーの首に縋り付いていたスコールの腕には、もうしがみ付くだけの力は残されていない。
ずる、と背から落ちて行こうとするその腕を、サイファーは捕まえて、また自分の首へと絡ませる。

 二人の体の間で、スコールの雄が反り返り、先端から蜜を溢れさせている。
それを見て、スコールの体内で、サイファーが更に体積を増し、それを感じ取ったスコールの秘孔がサイファー自身を強く締め付ける。


「ああっ、あっあっ!さいふぁ、イ、く、イくうぅっ…!」
「う、く……出すぞ…っ!」
「ふぁっ、あぁああっ…!!」


 自らの熱を放ち、同時に己の身の内へと注がれる迸りに、スコールは悩ましい声を上げる。
サイファーも、ぎちぎちと、食い千切るのかと思う程に締め付ける内壁の熱を感じながら、自身の昂ぶりを恋人へと注ぎ込んだ。

 絶頂を終えて尚、二人の体の火照りは鎮まらない。
乱れた呼吸を整える暇なく、先に動き出したのは、サイファーの方だった。
ぐったりと力を失って凭れかかるスコールを抱き締め、収まらない昂ぶりをぶつけるように、律動を再開させる。


「んあっ、あっ!サイ、ああっ…!そこ、だ、め…んんっ!」


 スコールの躯は、果てたばかりで、気が可笑しく成る程に感度を上げていた。
サイファーの手がほんの少し背中を撫でるだけで、スコールは酷く甘い声を上げて、体内の雄を締め付ける。


「やっぱ、溜まってたろ、お前」


 耳元で揶揄うようなサイファーの言葉さえ、今のスコールには甘美な毒になる。
耳朶に、首にかかる男の吐息に、スコールは一瞬息を詰まらせた後、


「あ、んた、が…帰るの…っ、遅い、から…っ!」


 サイファーがいなければ、スコールは指揮官室に閉じ籠っているのが常だ。
キスティスに追い出されれば、食堂には行くが、休息を取る時間は酷く少ない。
たまに寮の自室に戻っても、やる事と言えば、仕事の継続と最低限以下の睡眠と食事の摂取だけ。
性的な事に気が周るような時間も意識もなく、ただ只管、紙面と向き合い、面倒な仕事を片付け、時折、訓練場で体を動かす。
───そう思い返すと、つくづく不毛で不健康な日々を送っているな、と今更ながら、スコールも思う。

 息も絶え絶えのスコールの言葉に、サイファーは虚を突かれた気分だったが、同時に言葉にし難い高揚を感じていた。


「じゃあ、次の任務は、もっと早く帰ってやるよ」
「ん…うぅ…あっ、あっ、」
「じゃねえと、いつかどうなっちまうか判んねえからな」
「な、に…言って…あぅんっ!」


 説明を求めるスコールの意識を遮るように、サイファーの雄がスコールの秘奥を突き上げる。
ビクン!と強張る躯を抱き締めて、サイファーはくつくつと笑った。


「ほら、良いからこっちに集中しな」
「ひっ、あっ!あ、あ、深いぃっ…!」
「面倒臭い事は、全部忘れさせてやるって言ったろ?」


 一度注いだ熱の所為だろう、スコールの淫部はサイファーから与えられる感応に従順で、主に激しく甘い快感だけを伝える。
内側を掻き回すように腰を回すと、スコールは苦悶ではない涙を浮かべて、溢れそうになる声を唇を噛んで殺し、


「っは…あ…条、件…っ」
「判ってる。今日と明日、ちゃんとお前の傍にいてやるよ」
「違────ひあ、あっ、あぁあっ!」


 びくっ、びくっ、と全身を戦慄かせるスコールに、冗談だよ、と囁いて、サイファーは彼の唇を塞いだ。





なんか唐突に甘いサイスコが書きたい衝動に駆られた訳ですが、甘いの通り越して砂糖吐きそうです。私が。

スコールはサイファーに対してなら、結構遠慮なく文句を言うと思う。売り言葉に買い言葉が日常。
だから、他の人が相手なら我慢しそうな言葉も、サイファーが相手なら言う…だったらいいな。
そんな調子で無意識にサイファーを煽れば良いと思います。