この感情に名前はない


 サイファーはベッドを降りると、立ち尽くしているスコールの手首を掴んだ。
突然の事にスコールが目を瞠るのも構わず、ベッドへ連れ戻して、放り投げるように座らせる。
ぽかんとした顔が見上げて来るのに構わず、サイファーは寝着のシャツを脱ぎ捨てた。
それを見たスコールが、え、と声を漏らしたのを聞き、サイファーはシャツを床へと放りながら言った。


「俺がしてやる」
「だってあんた」
「良いから黙って静かにしてろ」
「でも」
「痛いのは御免なんだろ」


 サイファーがベッドに乗り上げると、スコールは口を噤んだ。
強張った肩を掴んで、ベッドシーツへ押し付けると、蒼の瞳が途端に震える。
それを隠すように、ぎゅうっと目を閉じた後で、また蒼が覗いた時には、決意を秘めた色が其処には灯っていた。

 頭の天辺から、脚の爪先まで、スコールの躰は緊張に強張っていた。
ようやく事の次第の重大さ───恐ろしさまで想像が追い付いたのかも知れないが、今更止める事は出来ない。
止めて釈放すれば、もう彼女はサイファーを頼って来る事はないだろう。
それきり今夜の事を忘れてしまえば万々歳だが、そうはなるまいと、サイファーは確信していた。

 スコールのシャツの裾を捲り上げると、薄い腹が晒される。
身長の割には体重が足りないとカドワキに注意されているスコールだが、彼女は胃袋がそれ程大きくはないようで、余り量を食べられない。
スタミナ不足の問題を彼女自身が解決したがっているので、食べる事には案外と貪欲な素振りを見せるが、体質の方が彼女の方に応えてくれないようだ。
おまけに脂肪もつき難いらしく、長刃相当の重さのあるガンブレードを持つにも、彼女は少し脊力が足りない為、両手遣いを余儀なくされている。
それ位に彼女の体格は、傭兵や戦士と言うには一見すると頼り無く見える。

 それでもサイファーが彼女の腹に触れると、確かに鍛えられた筋肉の感触がある。
小さな臍の上に手を乗せると、薄い筋肉と骨の形が判った。
サイファーの手がゆっくりとそこを回すように撫でると、ひくん、と細い肩が震える。


「……っ…」
「嫌なら殴れよ」
「…静かにしてろって、あんた」
「うるせぇ」


 言ってる事がバラバラだとスコールは指摘したが、サイファーは悪態を返すのみ。
この一言が最後の逃げ道だと言う事を、スコールは何処まで理解しているだろうか。
下手に腹を括って来たから、読み取っていない可能性の方が高い。
こうなっては、サイファーの方が腹を括る方が話が早いだろう。

 だが、サイファーにはどうしてもその一線を容易く越えられない理由がある。


(……くそったれ。なんでこうなった)


 スコールの腹を掌で撫でながら、サイファーの頭の中は高速で動いていた。
オカズにする為に何度か見たAVや、同輩の間で馬鹿のように盛り上がる猥談を思い出し、何をどうすれば良いのかを必死に考える。
何せ、サイファーも初めての事なのだ。
経験のない事を、どうやってその節を目の前の少女に気付かせないで乗り越えるか、必死に頭を巡らせる。


(なんでこいつと。どうせならもっと美人か可愛げのある女子とか───おまけに、雰囲気もクソもねえ。こいつは捨てたいから良いかも知れねえが、俺を巻き込むんじゃねえ。いや俺から首を突っ込んだのか。そもそも、こいつの隣の部屋の奴が余計な事を言わなけりゃ)


 目の前の状況に対する方法を考える傍ら、どうしても思考が愚痴に散る。
その内に、横たえた少女へと向けていた苛立ちが、顔も知らない女子生徒へと向けられる。
そうでもしないと、スコールに対してまた説教をしたくなる。
それでは益々、スコールが臍を曲げて、取り返しのつかない事になってからサイファーに業が巡って来るに違いないのだ。

 サイファーの手に腹を撫でられるスコールの躰は、已然として強く強張っている。
覆い被さる男を見上げる瞳は、精一杯の強気で睨み付けていたが、肩が縮こまっているのが彼女の胸中をありありと晒していた。
その肩に触れて、ゆっくりと首筋に向かって辿って行くと、


「……ん…う……っ」


 こそばゆさが嫌なのか、スコールは眉根を寄せて緩く頭を振った。
構わず頬へと手を重ね、猫をあやすように耳の下を指先で軽く押し撫でていると、ほう、と詰めていた息を吐くのが判った。

 耳元を擦るのはお気に召したようなので、しばらく続けながら、逆の手でスコールのシャツを更に上へと持ち上げる。
小ぶりな膨らみをシンプルな白い布が覆っていた。
少々過激なグラビアや、AVで見るような華やかな下着ではなく、他人に見せる事など意識していない物。
それがこの光景に現実感を突きつけているように思えて、サイファーは知らず喉の奥で唾を飲み込んでいた。

 ブラジャーをシャツごと上にずらし上げる。
一見すればなだらかにも見える小さな丘に手を添えると、掌に柔らかな肉の感触が伝わった。
此処にあるのは確かに女の体なのだと、益々妙な実感がサイファーを襲う。
重ねた手でまた撫でるようにそのラインを辿っていると、


「ふ…、ん……」


 ふる、ふる、とスコールの身体が小さく震える。
彼女の手はベッドシーツを手繰り寄せて握り、競り上がる抵抗の意思を押し殺しているようにも見える。
いっそ抵抗しろよ、とサイファーは思うが、頑なに行為を続けようとするスコールを見るに、彼女が他でこんな事をしなかった事に安堵する自分がいた。

 胸に重ねた手の指に柔らかく力を入れてみると、小ぶりな丘でも確かに揉める感触があった。


(柔らけえ)
「…う…、ん……っ…」
(こんな色してんのか)


 サイファーの目は、胸の頂きでぷくりと膨らんだ小さな蕾に向けられていた。
陶磁のように白い肌をしたスコールの身体で、淡いピンク色に色付いたそれ。
男にもそれの形の名残がついているのだが、性別が決まる過程で役割を喪ったそれとは、全く違う形をしているように見える。

 やわやわと胸を揉んでいた手を移動させて、蕾の先端を人差し指で突いてみた。


「んっ……!」


 ピクッ、とスコールの躰が敏感に反応を示す。
スコールは逃げるように体を捩るが、サイファーは構わず指先でくりくりと圧すように捏ねてやった。
ひく、ひくん、と肩を震わせるスコールの貌をちらりと見遣って、眉根を寄せているが、痛みを堪えている訳ではない事を察する。

 指の腹で乳首の頭を探り続けていると、段々とスコールの鼻息が荒くなって行く。
頬が赤らみ、鼻の孔が微かに膨らんで、唇を開けまいと必死に噤んでいる。
小さかった乳首は段々と膨らみを増して行き、弄られていない反対側と見比べると、明らかにしこりのように固くなっていた。


「ふ…あ……、サイ、ファー……っ」
「……」
「や、あ……んっ、うん……っ!」


 名を呼ぶ声を無視して、サイファーは乳首を擦り続ける。
スコールは頭を振り、足元がもどかしそうにシーツを蹴った。

 サイファーはスコールの耳元に添えていた手を移動させて、反対側の胸に沿える。
両胸を同時に優しく揉んでやれば、スコールは「あぁ……っ」と切なげな声を零した。


「は…、はっ……んん……」
(小せえな。知ってたけど)
「…あ、う……ん……っ」
(揉んでるだけで感じるモンなのか)


 加減が判らないので、サイファーは出来る限り優しく、スコールの胸を揉んでいた。
仰向けになると、殆どあるのか判らない位の慎ましやかな乳。
それを丹念に丁寧に揉み続けていると、スコールの口からは悩まし気な声が漏れ、はあ、はあ、と乱れた呼気が狭い部屋の中に静かに反響する。

 揉んでいるだけでこんなにも反応するのなら、摘まんだりしたらどうなるのだろう。
AVで見た女の中には、それで大きく喘ぐ者もいた。
サイファーは片手でスコールの胸を揉みながら、さっきまで指先で突いていた方を、親指と人差し指で摘まんでみた。


「ひんっ」


 きゅっ、と少し上に引っ張る形で摘まむと、スコールが目を瞠って息を詰める。
鳴く声が少し高かった。
摘まんだそれを軽くクッ、クッ、と引っ張ってやると、


「あっ、あっ…!や、サイ、…あっ!」


 引っ張る度に、スコールの口から高い音が吐き出される。
もう片方の方も摘まんでやると、スコールはビクッと跳ねて背中を仰け反らせた。


「やっ、あっ!サイ、ファ……あぁっ…!」


 シーツを手繰り握り締めながら、スコールは絶え絶えにサイファーの名前を呼ぶ。
その返事の代わりとばかりに、平らな胸の狭間にサイファーは顔を寄せた。
肉厚の舌で胸の真ん中を辿ってやると、汗ばんだ匂いと味がサイファーの鼻孔と舌を擽る。


「ふあ、あ、あ……!」


 生暖かい感触に、スコールはベッドシーツに後頭部を押し付けて、喉を逸らしてあえかに啼いた。
唇がはくはくと不器用に開閉を繰り返し、不自由そうな短い吐息が弾む。

 サイファーの指に触れる乳首の感触は、どんどん固さを増している。
二つの蕾がすっかり固くなると、指を離しても、そこはぷっくりと膨らんだまま元には戻りそうになかった。
心なしか色も鮮やかになったような気がして、サイファーは誘われるように其処に顔を近付ける。
唾液に濡れた舌でそれをゆっくりと舐めてみると、


「ふぅん……っ!」


 指とは違う、生暖かい感触に、スコールの背中にぞくぞくとしたものが奔る。
思わず上がりそうになる高い声を、スコールは寸での所で手で口を覆って抑えた。
サイファーが食んだ乳首を舌で何度も舐めてやれば、スコールは口を覆ったまま、ふーっ、ふーっ、と荒い鼻息を立てる。

 サイファーは片腕で少女に覆い被さる自分の体を支えながら、もう片方の手でスコールの腰を辿った。
無茶な戦闘訓練をしては、打ち負かして気を失った彼女を運ぶ度に感じていた事だが、やはりスコールの躰は細い。
引き締まった腰など、サイファーの大きくなった両手で軽く覆えてしまそうな程だった。

 骨の感触が浮き出た腰を撫でて、更に下へと下りて行く。
足の付け根の皺を指が辿ると、はっとスコールの眼が見開いた。
俄かに理性を取り戻した蒼が、胸を食むサイファーの顔を見下ろす。


「サ…イ、ファー……っ」
「……なんだよ」
「………っ」


 名前を呼ぶので、サイファーは応じた。
しかしスコールはまた口を噤み、シーツを手繰り寄せて握り締めるのみ。

 夜着のハーフパンツは、ウェストを引っ張ればゴムが伸びて、そのまま下へと引き下ろすのは簡単だった。
ブラジャーと同じく、ショーツもやはりシンプルなもので、男を誘おうと言う意思はまるで感じられない。
それでも他人に迂闊に見せるものではない物が、今目の前に晒されているのだと思うと、サイファーの体は本能のように雄の熱を覚え始める。


(相手はスコールこいつだってのに)


 そんな思考を振り払うように、サイファーはスコールのハーフパンツを脱がせた。
足から完全に抜けてしまう瞬間、「あ、」とスコールが小さな声を漏らす。
不安そうな音を帯びたそれに、じわりとサイファーの胸に言い知れない感覚が過ぎったが、それがサイファーを止める事はなかった。

 シャツとブラジャーは胸の上まで捲り上げられ、スコールの守りは最早ショーツ一枚のみ。
その中心がじんわりと色を変えているのを見て、サイファーは気付いた。


(濡れてんのかよ)


 そう思ったサイファーの感情の出所が何処にあるのかは、自分自身でも判らなかった。
苛立ったような気もするし、体が熱くなったような気もする。
じわじわと熱が自分の中心に集まって来るのが判って、サイファーは男がとかく馬鹿であると言われる理由を、その身でよくよく理解した。

 サイファーの手がショーツのウェストに引っ掛かると、スコールが息を飲む気配があった。
数瞬の間が二人の間にあって、先にサイファーが動く。
するりと抜けていく最後の守りを、スコールがようやっと追い駆けて腕を伸ばすが、その時にはショーツは既に膝下まで降ろされていた。

 方足だけを穴から抜けば、もうスコールの肌を守るものはない。
流石に恥ずかしさが勝るのか、スコールは片手で下肢を隠そうと手を彷徨わせていた。
その手を掴んでシーツに縫い付け、膝を使ってスコールの足を開かせる。


「あ……!」
「……!」


 思わず声を上げたスコールの顔は、沸騰しそうな程に真っ赤になっていた。
誰にも見せた事のない、恐らくはこれからも見せるつもりのなかった場所を、他でもないサイファーに見せている。
その事がスコールに言い様のない感覚を齎して、全身の毛穴からじっとりとした汗が滲み出て来るのが判った。

 サイファーはと言うと、その目は曝け出された秘園に釘付けになっている。
映像や写真では専らモザイク加工されて隠された場所が、初めて生のままで突き付けられたのだ。
すっきりとした筋のあるそこは何処か非現実的なものに思えたが、双丘の縁に触れると柔らかく弾んだ感触が返って来る。


(これが女の)
「……ふ…くぅ……」
(スコールの────)


 悩まし気な声を漏らす少女の声を聞きながら、サイファーは知らず生唾を飲んでいた。

 指先で筋の周りを摩ってみると、ピクッ、ピクッ、とスコールの躰が跳ねる。
そうっと中心に指を宛がうと、「ふあ……っ」と言う声が漏れた。
指先を当てただけなのに、とその敏感振りにサイファーは息を詰めていると、指先にじわじわと湿った感触が滲んでくる。
すり、すり、と筋を指先で優しく擦ってやると、


「あ…ん……、んぅう……っ」


 小さく声を漏らすスコールの中心部から、またじんわりとした蜜が滲み出す。
指先に絡む感触を辿りながら、サイファーは自分の鼓動が早くなっていくのを感じていた。
首の付け根と後ろが詰まったような感覚がして、気を抜くと荒い息を吐きそうになる。


(解した方が良いんだろうな。処女だし)


 サイファーとて性交の経験はないが、そう言うものであると言う話は聞いていた。
実際、スコールの秘園は汗を掻いてはいるものの、筋はぴったりと閉じていて、とても何かを受け入れそうにない。
AVで見る分にはよく指で解しているように見えるが、スコールはそれすら無理だろう。

 サイファーは少しの間逡巡した後、もう一度腹を括った。
なんで俺が、と言う愚痴が口の中で零れるが、こうしないと話が進まないのだから仕方がない。
強引に進める手段もなくはなかったが、後でスコールに恨まれて寝首を掻かれる羽目になるのも御免だった。

 スコールの足を膝裏から抱えるように捕まえる。
スコールが頭を起こして、何、と言う目を此方に向けていたが、サイファーは敢えて気付かない振りをした。
動向を見守る少女の視線を感じながら、サイファーは背中を丸めていく。
その頭が自身の中心部に近付いているのを見て、え、とスコールが目を丸くしている間に、サイファーの舌がスコールの恥丘をぬるりと滑った。


「ひっ!?」
「暴れんな」
「な、ひ、ひぅっ!」


 反射的に蹴ろうとする足を、サイファーは一手早く抑え込んだ。
戦闘訓練中、中々に強烈な蹴りを放ってくれる脚には、油断してはならない。
サイファーは腕に力を入れて、がっちりとスコールの足をホールドし、汗なのか塩臭い匂いのする園にまた舌を這わせた。


「ひ、ひっ……!や、サイファー…っ、そんな所……っ!」
「ん、ぐ、……んぁ、ん、」
「やあ…きたな、い……やだぁ……っ!」


 スコールの声に泣きが入ってきた。
彼女のそんなしおらしい声を聞いたのは、いつ振りだろうか。
そんな事を考えながら、サイファーはゆったりと舌を行き来させ、筋の付近を丹念に舐めてやる。


「し、信じられ、な……あんた、こん、な……っ」
「ん、は……、痛ぇのは嫌なんだろ」
「い、う……うぁ、ひ…っ!きも、ち…わる……っ」


 感触からか、生理的な嫌悪感からか、スコールは目尻に涙を溜めながら、いやいやと首を振る。

 サイファーの唾液でスコールの秘園がてらてらと光る。
心なしか淫筋が微かに口を開き、内側のピンク色を覗かせているのを見て、少しはマシになったんだろうか、とサイファーは悩む。
生々しさが増したその光景を、目と鼻の先で見ながら、サイファーは宛がった舌先に力を入れた。


「っんぁ……!」


 にゅぷ、とサイファーの舌先がスコールの口を開かせる。
唾液塗れの艶めかしい、肉厚の舌がやや強引にもゆっくりと入って来る感覚に、スコールの躰が益々強張る。
ぬるついた内壁がサイファーの舌を挟むように絡み付いて来て、独特の味をサイファーに押し付けていた。


「や、や…サイファー、やだ…やだあ……っ!」
(煩ぇ。こうしねえと後がキツいんだよ、多分)
「はっ、ふ…うぅ……うぅー……っ!」


 スコールの足先がぱたぱたと暴れている。
が、サイファーはスコールの太腿をしっかりと捕まえ、離そうとはしなかった。
ぐす、と鼻を啜るのがサイファーの耳に聞こえたが、顔を上げて彼女の顔を確認する事はしない。
今のスコールの顔を見たら、色々なものが決壊するような気がして、サイファーは敢えて耳を塞いで、眼も閉じて、舌を動かす事に集中する。


「は、はぁ、うぅ……あ、や……そ、こぉ……っ」
「ん、ぢゅ…ふ、ふぅっ……!」
「は、鼻息…っ、やだ……あっ、はぁ……っ、んぅ……っ」


 舌先に当たる肉の感触は、サイファーにとって未知のものだった。
ヒクヒクと小刻みに動いているのが舌肉越しに伝わるのだが、絡み付くその感触は固いようで柔らかい。
鼻先にツンとした匂いが刺さり、脳髄まで駆け抜けていくようなそれに、思考がぼやけて行く。

 尖らせた舌で、上の壁をぐっと押してみる。
抱えたスコールの太腿がビクンッと跳ねて、奥からじゅわりと艶めかしいものが溢れ出し、サイファーの口元をしとどに濡らす。


「あぁ……っ!は、あ…あぁ……っ!」


 背中を弓形に撓らせて、スコールは天井を仰いでいた。
シーツを掴んでいた手が縋るものを求めて彷徨い、サイファーの肩を捕まえる。
ぎゅう、と爪が立てられるのが判ったが、サイファーは気にしなかった。
ぐりぐりと舌で奥壁を穿ると、スコールの躰がまた大きく跳ね、高い声が上がる。


「ああっ、あぁ…っ!は、はぁ…、うぅ……んぁあ……っ」
(…少しはマシになったか?)


 涙交じりだったスコールの声には、仄かに艶が灯っている。
秘裂からゆっくりと舌を抜いて行くと、「あ、あ……」と小さな声が零れた。
体温の感触が残る口元を拭いながらサイファーが顔を上げると、スコールはくったりとベッドに沈み、虚ろな瞳を彷徨わせている。
目尻に涙が残っていたが、ぼろぼろと泣きじゃくっている訳ではない事に少しだけ安堵して、サイファーは元の位置に視線を戻した。

 スコールの秘部から、じわりじわりと透明な蜜が溢れ出し、彼女の恥丘を濡らしている。
サイファーの唾液と混じり合ったそれが、仄かに赤らんだ肌の上を滑り落ちて行くのを見て、サイファーの喉がごくりと鳴った。
指で縁を軽く引っ張ってみると、くぱ……と口が開いて綺麗なピンク色が露わになる。


「あ……う……」


 空気の触れる感触が判ったのか、ふるりとスコールの躰が震えた。
細い腰が右へ左へと捩られる様が、よく見知った少女の肢体である事も忘れて、扇情的に映る。

 サイファーが自身の下肢を緩めたのは、無意識の行動だった。
ボクサーパンツの中に手を突っ込んでみると、自分自身が驚くほど固くなっている事を初めて知る。
取り出してみれば血管が浮く程に勃起しており、今まで抜けると評判のAVを見てもこんな風にはならなかったのにと、現状と裏腹に妙に冷静な頭が呟いた。

 それから、鈴口から先走りを滲ませている自分自身を見て、はたと我に返る。


「おい、スコール。おい」
「……ふあ……?」


 横たわる少女の名を呼ぶと、とろりと蕩けた蒼灰色が返事をした。
甘い砂糖をふんだんに溶かしたクリームのような、そんな印象を与えるブルーグレイを、サイファーは初めて見た。
途端にどくりと心臓が跳ねて、その菓子を貪り食いたい衝動に駆られたが、寸での所で理性が働く。


「お前、ゴムは」
「……?」
「お前から話持ってきたんだ。あるんだろ?あるって言え」
「…う、ん……?え、と……」


 のろ、とスコールが起き上がるが、そのまま彼女はぼんやりとしていた。
焦れたサイファーは放り投げていたスコールのズボンを掴み、ポケットに手を入れる。
左右にあるそれを入念に探って、何もないのを確かめてから、本当にこいつは馬鹿だと思った。

 サイファーはベッドを下りてデスクに向かい、デスク下の収納用の箱を探った。
躾の悪い生徒から取り上げて、処分し忘れていたものがあった筈だと思い出したのだ。
まさか自分がそれを、こんな形で使う事になるとは思ってもみなかった。

 見付けたものを掴んでベッドに戻ると、スコールは起き上がっていた。
一人でしばしぼんやりとして、体の熱が引いたのか、蒼の瞳には微かに見慣れた光が戻っているように見える。
そんな彼女の前に座って、サイファーは封の切られていた小さな箱を開ける。


「……サイファー、それ」
「バカから取り上げたもんだ。お前が持って来てねえから使う」
「あ……」


 今になって、それがなくてはいけないのだと思い出した顔をするスコール。
こんな調子で、自分以外の男を頼ることを考えていたのかと思うと、サイファーは呆れを通り越して怒りすら沸いて来る。

 取り出した袋の口を切って、中身を出すと、スコールがまじまじと覗き込んできた。
無視して自身に被せていると、スコールは目を逸らしてはちらりと覗くを繰り返す。
気が散るからあっちにいってろ、と睨んでやっても、スコールは恐らく初めて見るのであろう男の性器が気になって仕方がないらしい。
いっそ怖がって逃げてくれれば楽だったのに、と思うサイファーの心中を、彼女が知る事は終ぞない。

 1ミリ以下の薄い膜を取り付けて、準備は終わった。
サイファーはまだ覗き込んでくるスコールの肩を掴んで、ベッドへと転がして上から覆い被さる。
途端に今の状況と言うものを思い出したか、ぎくりとスコールが判り易く体を固くした。
表情が引き攣っているのを見付けて、サイファーの眉間に皺が浮かぶ。


「止めるなら今だぞ」


 サイファーのその言葉は、最後通牒だった。
その意図をスコールも汲んで、息を詰めて唾を飲み込む。

 長くはない沈黙の後、スコールは閉じていた両足を開いた。
半端な中断を挟んだ後ではあったが、彼女のそこは湿りを帯びており、筋も微かに口を開いている。
スコールが呼吸をする度に、秘裂がひくん、ひくん、と戦慄いているのが判った。

 サイファーが先端を宛がうと、びく、とスコールの躰が震える。
二人とも視線は互いの性器に釘付けになり、此処からどうなってしまうのか、どうなって行くのかと、未知の扉を開けるような面持ちだ。
事実、男にとっては女の、女にとっては男の、決して知り得ようもない場所がこれから混じり合う訳で、そう思うと恐怖と興奮が綯交ぜになって行く。


「……っ…!」


 サイファーは唇を噛んで、ゆっくりと腰を前へと進めた。
先端が秘裂の狭間を押し開き、ねとついた感触が纏わりついて来る。
ぞくりと背中を奔ったのは何だったのか。
嫌悪感に似ていたが、それは一瞬だけのもので、あとは腰の後ろからじわじわとした痺れが上って来る。
どくんどくんと脈打つ園の中へ、拒むように絡み付いて来る内壁を切り開くように入って行くと、半分ほど納めた所で急激に締め付けが増した。


「いっ……!」


 ぎゅううう、と噛み付かんばかりの締め付けに、サイファーは顔を顰めた。
デリケートな場所からの痛烈な窮屈さに、思わず涙が滲む程だ。
おい、とその痛みの元である筈の少女を睨もうとして、はたと我に返る。


「……っ、……〜〜〜〜っ!!」


 スコールは、ぼろぼろと涙を零しながら、固く唇を噛んでいた。
唇の端から赤い糸が伝っているのを見て、スコールが相当な力で口を閉じているのが判る。
同時に呼吸も忘れ、眉根を寄せて目を閉じ、全身を石のように硬直させていた。


「……っ、おい、スコール……っ」
「………っ!」


 名前を呼ぶと、スコールは子供のように頭を振る。
返事も出来ない少女の額から、大量の脂汗が滲んでいた。


「おい、バカ、いてえ……っ!力抜け…っ!」
「…っ、かんな……い、う……!」


 判らない、とスコールは言った。
力を抜けと言うサイファーの指示に対し、どうして良いのか判らないし、何故こんなにも苦しいのかも判らない。
パニック状態になっているのは明らかだったが、ならばどうすれば良いのか、サイファーも判らない。
何せ、こんな事をしたのはサイファーも初めての事なのだから。


「う、う……うぅう……!」
「くそ……っ」
「ひ、ぎ……う、ご…や……!」


 動くな、嫌だ、と言う言葉すら、スコールは満足に繋げなかった。
だがサイファーはちゃんとそれを汲み取った。
かと言って、このまま過ごしていれば、サイファーは自分の分身が噛み潰されてしまいそうだし、スコールも苦しいばかりだ。

 取り敢えず一旦抜く───そう思ったサイファーだったが、スコールの秘部は頑なに滞っており、サイファーは前にも後ろにも行けない。
もっと濡らせば、解せば良かったのか、と考えるサイファーだが、正解を教えてくれる者はいなかった。
とにかく、性急であったのだと言う事だけは判ったが、それより今は、この苦しみへの対処が欲しい。


「ひっ、うっ…うぅ……、ひ……っ!」
「…く、う……っ」
「痛、いぃ……っ!サ、イファー……っ、サイ、ファー……っ!」


 唯一縋れる者の名を呼ぶスコールに、サイファーは煩い、と悪態を吐きそうになる。
幾ら名前を呼ばれても、今のサイファーにそれに応えてやれる余裕はなかった。
寧ろサイファーも援けが欲しい位だ。

 サイファーは下腹部の痛みに耐えながら、はっ、はっ、と短い呼吸を繰り返した。
酸素が脳に回って来ると、少しだけ頭が冷静になったような気がして来る。
気休めのような気分の中で、サイファーは組み敷いている少女を見下ろした。


「う、え……ふっ、うぅ…、ううぅー……!」


 泣きじゃくるスコールの顔なんて見たのは、いつ以来だろう。
冷静を通り越して、現実逃避を始めた思考を圧し留め、サイファーは大粒の涙を零す頬に触れた。
後から後から零れる雫で、サイファーの手が濡れて行く。

 は、とサイファーは息を吐いた。
真新しい空気を吸い込んで、その唇をスコールのそれと重ねる。
スコールは息が出来なくなった事で更にパニックが増したようで、じたばたと全身を暴れさせた。
それを肩を掴み、足元を自分の足で押さえ付けながら、振り落とされない様に体重をかける。
混乱もあって頑なに閉じている唇を舌で撫でると、スコールは更にぎゅうっと唇を引き締めた。

 スコールはしばらくの間、遮二無二暴れて抵抗した。
繋がっている場所の痛みも忘れて、自分に覆い被さるものを追い払おうと必死になっている。
しかし、それだけ暴れれば、体力の消耗も激しい。
長く真面に息をしていなかった事で、酸素不足にも陥って来ると、段々と抵抗の力は弱まってきた。

 スコールの肩が暴れるのを辞めた頃に、サイファーはスコールの唇を解放した。


「────っはぁ…!はあっ、はあっ、はぁっ、」
「…っ、は…はっ……、んっ!」
「は、んむぅ……っ!」


 スコールが必死で酸素を取り込む事、数秒。
サイファーも自身の呼吸を整えると、再びスコールの唇を塞ぐ。
ぶつけるように重ねたものだから、微かに歯が当たった気がしたが、幸い酷い音がするような衝突にはならなかった。

 うーうーと唸るスコールの顎を捕らえて固定させ、咥内に舌を侵入させる。
中で強張っているスコールの舌があったので、サイファーはそれに舌を押し当てた。
舌はぎこちない動きでスコールの舌の表面を何度も撫で、二人の口端からは唾液が垂れて、スコールの口の周りを汚していく。


「んむ、んぶ、ぷ、ぁ、」


 スコールはされるがままだった。
彼女がどんな気持ちでサイファーの舌を受け入れているのか、サイファーには判らない。
だが、次第に彼女の体から、過剰な程の強張りが解けていくのは判った。

 スコールを押さえ付けていた力を抜いて、サイファーはもう一度スコールの唇を開放した。
銀糸が二人の舌を繋いで、ぷつりと切れてスコールの唇をまた濡らす。
てらてらと光るスコールの口周りを、サイファーは手と指で軽く拭ってやった。
スコールはこれもされるがまま、はあ、はあ、と荒くはあるがなんとか正常に戻った呼吸を繰り返している。


「……スコール」
「…っは……ん……はぁ……、」


 名前を呼ぶと、蒼の瞳が此方を見た。
潤いを帯びた眦は当分乾きそうにはないが、それでも正気が戻ってきた事は判る。
まだぼんやりとした光ではあったが、パニックは収まったのだと、それだけ別れば十分だ。

 サイファーがもう一度顔を近付けると、スコールは緩く唇を噤んだ。
重ねるとスコールは目を閉じ、サイファーからの熱を静かに受け止める。


「ん…ぅ……、ん……」


 緩く柔く唇を吸うと、スコールの喉奥から小さくむずがるような声がする。
サイファーの肩を掴んでいたスコールの手から、少しずつ力が抜けて、いつの間にか添えられている程度の触れ方になっていた。

 繋がっていた場所はまだきついものであったが、引き千切られそうな痛みはない。
じわりと奥から濡れたものが滲むのを感じて、サイファーもようやく痛みに構えていた体の力を抜いた。
すると今度は、艶めかしく蠢く生々しい肉の感触がリアルに伝わって来て、下がっていたサイファーの血がまた上昇していく。


「は……、スコール、……おい」
「…う……サイ、…ファー……」
「……力、抜いてろ。息してろ。お前はそれだけどうにかしとけ」


 スコールが何をどうすれば楽になれるのか、サイファーにも判らない。
とにかく彼女に、無用な力みは出来るだけ捨てるように促すと、スコールは肩を震わせながらも、小さく頷いた。

 サイファーはスコールの身体の横に両手をついて、腰を前へと動かした。
深くなる挿入にスコールの躰がびくりと震え、また締め付けが増したが、スコールはサイファーに言われた通り、努めて意識した呼吸を繰り返す。
お陰で彼女の秘部は、狭いもののサイファーが動く余裕は残してくれた。

 もう少し中まで入った所で、びくん、とまたスコールの躰が跳ねる。
奥から感じる抵抗感に、これが───とサイファーはその正体に思い至る。


「スコール」
「……ん……っ!」


 ぎゅう、とスコールの腕がサイファーの首に絡んだ。
耐える為に身体と気持ちを整えて、呼吸はサイファーが言ったように止めない様に意識して、来たる瞬間に身構える。
サイファーも少女の背中に腕を回した。
びっしょりと汗を掻いた名残で、掌に冷たい感触があったが、構わず抱き締める。

 ぐぅ、とサイファーが腰を推し進めると、幾何かの抵抗の後、雄は中へと突き入った。
瞬間、びくん、とスコールの躰が仰け反り、


「あっ、あ…あ……────!」


 スコールが声にならない声をあげる。
ぬるりとした感触が二人の繋がった場所を滑って行った。

 そのまましばらくの間、二人はじっと動かなかった。
動けなかったと言うのが正しい。
瞬間の痛みでスコールはやはり全身が強張っていたし、咥え込んだ雄を強く締め付けている。
サイファーはその苦しさに耐えながら、腕の中の少女の意識が戻って来るのを待っていた。


「……っは…はふ…っ、ふ……っ」


 ようやくスコールが思い出した呼吸を再開させ、同時に全身の力がかくんと抜け落ちる。
薄い腹をひく、ひく、と戦慄かせながら、スコールはぼんやりと天井を仰いだ。


「は…う……」
「……こっち向け」
「ふ……、ん……っ」


 サイファーに促されたスコールが視線を向けると、二人の唇が重なった。
ちゅ、ちゅ、と軽く振れるバードキスを、スコールはじっと受け止めている。
蒼の瞳が柔らかく蕩けるのを見ながら、サイファーはそっと腰を動かし始めた。


「う…あ……っ、ん……っ」
「っは……ふ、ふ……っ!」
「あ…う、サ、サイ、あ……っ!」


 サイファーの雄が中を擦る感触に、スコールの足がびく、びく、と跳ねる。
スコールは眉根を寄せており、聊か苦しいのかも知れない、とサイファーは思ったが、彼女の中は滑りを帯びている。
そのお陰か、スコールの口から苦し気な音はあまり聞こえない。

 二人分の重い呼吸と、ぎし、ぎし、と言うベッドの軋む音の中、次第にくちゅ…くちゅ…と言う音が混じって来る。
粘膜の滑りを助けにして、サイファーの律動が段々とスムーズになって行く。
スコールの中は艶めかしく温かく、包み込まれた雄が今にも暴発しそうで、サイファーはそれを唇を噛んで堪えていた。


「は、あ…っ、あっ……!」
「は、は、…っ、くぁ……ふ…っ!ふ…っ!」
「はあ、は…あぁ……っ!」


 サイファーが中を突き上げる度、スコールが腰を揺らして身悶える。
眦から零れ落ちた涙が、赤らんだ頬を伝って、シーツに吸い込まれて行った。

 スコールの秘奥から、温かく蕩けた愛液が溢れ出してくる。
絡み付くそれをスコールの中全体に擦り付けるように、サイファーは大きく腰を動かした。
徐々に逸って行く律動に合わせて、スコールの声も止まらなくなり、サイファーの耳元で甘く蕩けた女の声が繰り返される。


「はっ、あっ…!あ、んっ…!そこ、あっ……!」
「や、べ……はっ、来そうだ……っ!」
「あっ、あっ、あ…!は、はっ、あぁ……っ!」


 最早サイファーは、自分の思うように体を扱う事が出来なくなっていた。
絡み付いて来る肉を擦る感触が心地良くて、それをもっと味わおうと、腰が勝手に動く。
男の下半身は、脳と繋がっていない、全く別の生き物だと揶揄したのは誰だったか。
そんなのは考えなしの能無しの言う事だと思っていたが、こうなってしまっては、サイファーもそれと同じ生き物なのだと思い知らされる。

 そんな男に組み敷かれて、少女もまた熱を昂らせていく。
奥を突かれる度に、痺れるような感覚が腰全体を襲う。
それから本能的に逃げたがる躰を何度も捩るが、背中を抱く腕はしっかりと強く、逞しく、スコールを捕まえて離さなかった。
その事に、こいつは男なんだと、よく知る男の性を初めて知ったような気分になって、言いようのない感覚がスコールを包み込む。


「あ、あ、あ…っ!サイファ、サイファー……っ!も、もう…んっ!あ……っ!」


 自身の体が、思うように動かせなくなっている事を、スコールは絶え絶えの呼吸の中で訴えた。
頭の芯がチカチカと点滅するような、初めての感覚が迫って来る。
背中を仰け反らせ、喉を晒して喘ぐスコールの姿に、彼女も上り詰めている事を悟ると、サイファーは骨の浮いたスコールの腰を捕まえて、ずんっ、と強く突き上げた。


「あぁんっ!」


 甲高い声が上がる。
壁の向こうに聞こえたか、そんな事を今のサイファーに気にする余裕はなかった。

 腰を大きく、強く動かして、絡み付く肉を掻い潜って、奥の秘園を突き上げる。
零れるスコールの声は熱と情を孕み、白磁のような肌が全身に渡って紅潮していた。
閉じては開く瞼の下で、潤みを湛えた瞳がサイファーを映すと、其処にはもっと、と求める声がある。
それはサイファーの気の所為なのかも知れない。
それでも、腕に抱いた少女が自分を求めていると思うと、サイファーはこの上なく熱が上がるのだ。


「スコール……!は、くっ!」
「あ、あ…!あっ、はぁっ…!や、くる…っ、きて……、あぁっ!」
「はっ、はっ、はっ、」
「あっ!あっ、あっ!あぁっ!」


 びくん、びくん、と一際強くスコールの躰が弾んだかと思うと、彼女は細い腰を強張らせた。
サイファーを受け入れた中が細かく痙攣した直後、ぎゅううぅっ、と強烈な締め付けが襲う。
それはサイファーを包み込むように絡み付いて来て、既に限界に至っていたサイファーに最後の一押しを与えた。


「ううぅ……っ!」
「あっ、あっ!んんーーーーっ!!」


 サイファーの腰が一回、二回と大きく跳ねて、薄い膜の中に熱の塊が吐き出される。
その瞬間のサイファーの戦慄きを、スコールは胎内で感じ取り、抱き締める腕の中で体を左右に捩って身悶えた。

 ────しんと静まり返った部屋の中で、二人はしばらくの間、何も言えず、何も考えられず、余韻の奔る体を震わせていた。
少しでも体を動かすと、敏感になった躰が相手の感触をリアルに感じ取って、また動けなくなる。
呼吸一つも満足に出来ない、そんなにも昂ったのは、若い人生で初めての事だった。

 やがてサイファーが幾何かの意識を取り戻した頃、首に絡み付いていたスコールの腕がするりと解けた。
ぱたりとベッドに力なく落ちたそれを見て、おい、とサイファーが声を漏らす。
見下ろす少女は瞼が落ち、唇を無防備に半開きにして動かない。


「おい、スコール」
「………」
「スコール!」


 俄かに首の後ろが冷たくなって、サイファーはスコールの名を呼んだ。
しかし少女は固く目を閉じたまま、ぴくりともしない。

 ────が、密着させた薄い胸の奥で、とくん、とくん、と心臓が動いている事に気付いて、サイファーはほっとした。
同時にがっくりと体の力が抜けて、スコールを下敷きにしかける。
寸での所で腕に最後の力を込めて体を起こすと、繋がったままの場所がきゅうっと締め付けを感じて息を飲んだ。


「……っやべ……」


 このままは不味い、かなり不味い。
何がどう、と言う訳でもなかったが、とにかく不味いと思って、サイファーはゆっくりと腰を引いた。
眠っている筈なのにスコールの胎内はまだ強く締め付けていて、サイファーを離すまいと絡み付いて来る。
知ったばかりのその奥の感触を彷彿とさせる肉の動きに、サイファーは思わず生唾を飲みながら、萎えた自身をようやく抜き取った。
艶めかしい愛液に塗れた雄の先で、伸びたゴムが液溜まりを作っている。
重さを感じさせるそれに、自分がどれだけ出したのかと言う事を知った瞬間、身体にどっと重みが襲う。


「っは…はー……、くそ……疲れた……」


 ベッドに深く腰を沈めて、サイファーは天井を仰ぐ。
このまま倒れて寝落ちてしまいたい位だったが、目の前に横たわる少女を見て、溜息を吐く。
それから彼女の尻の下で、シーツに赤い色が滲んでいるのを見て、息を詰める。


(……っとに、バカな奴。なんで俺の所に来たんだ)


 愚痴を零しながら、サイファーはコンドームを取って口を縛り、ティッシュに包んでゴミ箱に捨てた。
股間をティッシュで乱雑に拭いた後、スコールの躰を抱き上げる。
スコールが目を覚ます様子はなく、いつもより心なしか重く感じる彼女を連れて、サイファーはシャワールームへと向かった。

 狭いシャワールームの冷たい床に下ろしても、スコールは目を開けない。
サイファーは捻り出したシャワーの水が温まるを待ちながら、ふと、


(……そういや、キス)


 最中、自分がした事を思い出して、口元に手を遣った。
あの時はとにかくパニックになっているスコールをどうにかしようと必死だったのだが、その拍子に初めてのそれを喪った事を、サイファーは此処に至って思い出した。

 漏れた溜息は、ショックか、諦めか。
どちらも含まれていたし、もう今更取り戻せないものである事も判っていた。
一度ならず、何度も重ねた唇の感触が、妙にリアルに思い出されて、なんともむず痒い気分になる。
同時に、眠る少女も恐らくは初めてだった筈だと思うと、何とも言えない感情がサイファーの胸を支配していた。




 大人の階段なんてものは、眼に見えるものではない。
上ったのか上っていないのか、下りているのかすらも、誰にも判らないのだ。
それでも、何か一つの境界を越えたとすれば、一段ステップを上がったような気がしてくる。

 ───気がして来るだけであって、結局はそんなものは気の所為なのだ。
見える世界が劇的に変化するものではないし、自分の顔の形が変わる事もない。
サイファーは今日も風紀委員として生徒達の風紀の乱れを取り締まり、スコールは人の輪から外れた場所で一人静かに過ごしている。

 隣室の姦しさに悩まされていたスコールは、部屋替えの希望が通り、無事に引越しを済ませた。
今度は寮の角の部屋で、その中でも一番奥。
校舎へと向かう道のりは遠くなったが、夜の安眠を確保できた事の方が彼女にとっては大きな収穫で、同室の生徒達も皆物静かであるらしく、ようやっと彼女は快適な環境を手に入れる事が出来たのだ。

 じゃあもう俺の部屋に来る必要はないな────とサイファーは言ったのだが、彼女は相変わらず、サイファーの部屋にやって来る。
以前と同じように窓から入って来て、好きなようにその部屋で過ごし、気が済んだら帰る。
彼女がそんな風に過ごすので、いつしかサイファーも、また彼女の部屋に行くようになった。
物の貸し借り、勉強の見直し、そんな具合で前と同じ過ごし方だ。

 それでも、以前と全く同じには戻れない。


「サイファー」


 いつものように部屋に来て、ノートを開いていた少女に名を呼ばれた。
勉強に飽きたのか、予定の所まで終わったのか、スコールは閉じたノートをフロアソファに投げて、ベッド端で雑誌を開いていたサイファーの前に立つ。
それを雑誌から上げた眼で見上げて、交わる蒼が深い熱を宿している事を知り、サイファーは溜息を吐く。


「…どっちの使う」
「……ん」


 サイファーの言葉に、スコールはポケットから取り出したものを差し出した。
受け取ったそれの封を切っている間に、スコールはシャツを脱ぎ、ボトムも下ろして、下着姿になる。

 あの日から、時折こうして、二人は体を重ねている。
まるで睦言だが、二人の間が甘い関係になったのかと言うと、そうではない。
初めてその一線を越えてから、何かの箍が外れたのか、スコールはサイファーを求めるようになった。
二度目の夜を迎えた時、ぎこちなく誘ってきたスコールを、どうしてかサイファーはその手を掴んでしまった。
この関係は、他者の口を借りて言うなら、やはりセックスフレンドと言うものなのだろう。

 二人分の体重を受け止めたベッドが軋む音を立てた。
その音が抗議のように聞こえるのは、心の何処かで、誰かに咎めて欲しいとでも思っているからなのか。
だが、咎められたとして、身を寄せて来る少女を突き放せるのかと言われれば、サイファーには判らない。
ただ、あの日のスコールの行動を思うと、彼女が何処か他の人間の所に行くと言い出す可能性は否めず、それを想像するとサイファーは酷く凶暴な気分になる。

 スコールの躰をベッドに横たえて、覆い被さる。
肩に触れた手は微かに強張っているが、構わずサイファーは薄い体に手を当てた。
肌の上を滑る感触に、スコールの唇から柔い吐息が零れ落ちる。
憂いを孕んだ蒼の宝石が、じっと自分を見つめるのを感じて、サイファーはじんわりとした充足感を感じていた。




♀スコールでの二人の初めて話が描きたくて。
本編開始前、無自覚の意識や独占欲を持ってる二人が、半分勢いでお互いの初めてを捧げるのが。
サイファーも初めてだし、スコールの勢いに振り回されて苦労してるんだけど、見栄と意地でそれをスコールに言ってないって言う。

その後、本編開始から終了まで、二人の関係はこのままセフレ状態。
終わってサイファーがガーデンに帰って来てから、リノアが首突っ込んで来てやっと収まる所に収まるんだと思う。