目を凝らすと見えてくる
ふわふわと揺れるそれが気になった。
けれど、それを言い出す勇気もなくて。
先を歩く青年を、ティナはじっと見詰めていた。
そんなティナの隣にはルーネスがいて、聊か緊張した面持ちで、ティナと同様に前方の仲間を見詰めている。
ティナとルーネスの前を進むのは、スコールだった。
このメンバーで探索に出たのは今日が初めての事で、このパーティを決定したのはセシルだった。
いつもならスコールではなくクラウドが同行している事が多く、ルーネスもクラウドに懐いているし、ティナも彼になら素直に頼っても良いような気がした。
寡黙な雰囲気に反して面倒見の良いクラウドも、クリスタルを探す旅路以来、何かと自分達を気にかけてくれていて、幼いルーネスや戦う事に未だ怯える心を持つティナを支えてくれていた。
それがすっかり当たり前のようになっていたので、突然のメンバー変更に、ティナもルーネスも、些か戸惑いを隠せずにいた。
前方を行くスコールは、そんな二人の心情など振り返る事もなく、文字通り、前だけを見詰めて歩き続けている。
迷いを持たないその足取りは、ともすれば後ろをついて歩く二人を置いて行こうとしているようにも見える。
だがスコールは決して二人を置き去りにすることはせず、立ち止まってティナ達を待つ事こそないものの、距離が開くと歩く速度を落としてくれた。
そうして三人の距離が縮まると、また元の速度で歩き出す。
(優しい、のかな)
三人でホームである秩序の聖域を出発してから、スコールと二人の間に会話らしい会話はなかった。
出発前にスコールが探索範囲等の確認をしただけで、それきり、彼とティナとルーネスの間は埋まる様子がない。
それは決してスコールの所為だけではなく、ティナとルーネスが彼に近付く事を───怯えている訳ではないけれど───恐れているからだろう。
だが、遠目に眺めながら、ティナは思う。
フリオニールやセシルのように並んで歩く訳ではないし、クラウドのように時折此方を振り返って目を合わせてくれる訳でもない。
ジタンやバッツ、ティーダのように、何でも良い、些細な事を話しながら笑いかけてくれる事もない。
目の前の背中からは、拒絶に似た雰囲気さえ感じられるのだが、それは決して冷たく刺々しいものではなかった。
その意味をティナはまだ判じ兼ねているけれど、それでも。
───前を歩くスコールが足を止めたのを見て、数歩分の距離を開けているティナとルーネスも足を止める。
どうしたのだろうとスコールを見詰めていると、彼は道脇の茂みの向こうをじっと睨んでいた。
それに気付くのと同じく、ティナは自身の感覚神経の琴線が揺れたのを感じ取る。
「……来る!」
「下がって、ティナ!」
ルーネスがその手に剣を握り、腰を落として迎撃の構えを取る。
茂みを破って躍りかかって来たイミテーションの振り上げた刃を、スコールはガンブレードの刃で受け止める。
クラウドを模した仮初の命は、スコールの抵抗に表情を変える事なく、力でスコールを押し退ける。
力では分が悪いと判断したスコールは、押す力に逆らわず、一足で後方へと飛び、ティナ達の前に着地する。
イミテーションが方々から飛び出してくる。
揃ったのは勇者、義士、兵士、暴君、少女───前衛後衛が揃っているのを見て、スコールが小さく舌打ちした。
「ティナ、プロテスとシェルを頼む」
「はい」
「ルーネスはティナの補助を」
「…判った」
ルーネスの返事が終わるか否かで、スコールが地を蹴り、突進する。
直ぐにティナは彼にプロテスとシェルを重ね掛けし、続けてルーネスと共にブリザドを放つ。
氷の礫はスコールを追い越し、彼に肉薄していた義士と勇者の肩をそれぞれ撃ち抜いた。
スコールは振り被ったガンブレードを袈裟懸けに打ち下ろし、勇者の偽物を砕く。
更に返す刀で義士を切り捨て、眼前に迫る兵士にサンダーを放った。
兵士は転がる形で落ちる落雷をかわすと、スコールを無視し、ティナとルーネスの元へ向かってくる。
直ぐにルーネスが走り、小柄な体格と素早さを活かして兵士の懐に飛び込む。
「でやああああっ!」
咆哮を上げ、ルーネスは兵士の胸に剣を突き立てる。
がくん、と兵士の体が一度地面に落ちたものの、精巧な形をしたそのイミテーションはどうやら上級種であったらしく、これだけで砕けてはくれなかった。
兵士の腕が力任せにルーネスを払い除ける。
ルーネスが彼の懐から離れたのを好機に、ティナは兵士へ向けてファイアを撃った。
ごう、とガラス細工のような体が炎に飲み込まれる。
地面を転がり、体勢を立て直したルーネスが早口に詠唱を終え、畳み掛ける。
「クエイク!」
ルーネスが地面に剣を突き刺すと、其処を起点に地割れが起こり、イミテーションの元まで一気に奔る。
兵士の足元が隆起し、巨大な尖り岩が彼の体を貫いた。
兵士の体は、今度こそ砕け散り、霧散する。
息つく暇なく、ティナはスコールを探した。
スコールは少女の放った雷を避け、ガンブレードを握り直し、突進する。
振り上げられた刃は、躊躇う事なく落とされ、少女の顔面を砕いた。
後に残ったのは、暴君一人。
スコールが身を翻して暴君に向かおうとした時、暴君は魔法陣を完成させつつあった。
それを見たルーネスが全速力で走る。
距離で言えばスコールの方が暴君に近かったが、素早いルーネスの方が届くのは早い。
ティナはルーネスとスコールの両方にヘイストを唱えた。
補助の力を借りて、ルーネスが更に加速し、彼の細い刃が暴君に届こうとした時、
「ルーネス!下がれ!」
スコールの言葉に、ルーネスは直ぐに反応できなかった。
敵が一人であった事、既に自分の獲物の届く位置にあった事───これで終わりだ、と言う意識で頭が一杯になっていた。
だから気付かなかった。
ルーネスの踏み締めた場所で、青い光を放つ魔法陣が浮き上がった事に。
「うぁあああああっ!」
小さな体に雷撃が走り、甲高い悲鳴が響き渡って、ルーネスの手から剣が落ちる。
空に走る雷をそのまま身に受けたルーネスの体からは力が抜け、ぐらりと地面に倒れて行く。
「ルーネス!」
ティナの悲鳴にも似た呼び声にも、彼は反応できなかった。
意識はあるが、雷撃の名残か、体のあちこちが痺れて動かない。
眼前で模倣の暴君が───彼らは感情を持たない、故に表情を変える事もない筈なのに───哂っているように見えて、ルーネスは悔しさに唇を噛んだ。
完成させた暴君の新たな魔法陣から、身の丈大の巨大な光球が生まれる。
それはふわりと浮かんだ後、直ぐに足元のルーネスへ落ちて来た。
しかし、其処に飛び込む黒い影。
「────スコール!」
ティナとルーネスの目の前で、スコールの細見の身体が爆炎に包まれる。
名を呼ぶ声は空気を壊す破裂の音で飲み込まれて消えた。
爆炎の煙が立ち上る中で、暴君が笑う。
風が一陣吹いて、煙が攫われていく。
それが全て運ばれるのを待たずに、煙を振り払って銀色の刃が閃いた。
大きく踏み込んだ一歩を軸にして、影は身を捻って刃を横一線に薙ぎ払う。
暴君の作り物の体が上部と下部に別たれて、ノイズに似た慟哭を上げて砕け散る。
スコールは火傷の残った頬にかかった髪を払って、短く息を吐いた。
ガンブレードが光の粒子となって消えると、足元に倒れたままのルーネスを抱き上げた。
「え、え、ちょっ…」
「動くな、落ちるぞ」
思いも寄らぬスコールの行動に、ルーネスは目を白黒させて、スコールの腕の中で固まった。
スコールはそんな少年に構わず、離れた場所で一人立ち尽くす格好となっていたティナの下へ向かう。
「少し休憩しよう」
「うん」
スコールの言葉に頷いて、ティナは辺りを見回した。
茂みの向こうに流れる小川を見付けて、「あそこに」と指差すと、スコールは何も言わずに其方へ踵を返して歩き出した。
痺れの抜けないルーネスを川べりの木の下に下ろすと、スコールは直ぐに立ち上がって、「少し見回りをしてくる」と言ってその場を離れた。
周囲からはもうイミテーションの気配も、魔物の気配もしなかったが、用心しておくに越した事はない。
残されたティナは、持っていたハンカチを川の水で濡らし、ルーネスの傷を冷やしながら汚れを拭う。
ルーネスは眉尻を下げ、動けない体でティナの手を受けていた。
「ありがとう、ティナ」
「ううん。痛みはない?大丈夫?」
「うん、もう平気だよ」
言って、ルーネスはゆっくりと右腕を持ち上げた。
筋肉の動きはまだぎこちなさが残るのものの、感覚は戻って来ているようで、手を握り開きしてみせる。
ルーネスはその自分の手に視線を落とし、小さな声で呟いた。
「……悔しいな」
鼓膜に届いたその声に、ティナは顔を上げる。
幼さを残す大きな翡翠色の瞳には、彼の言葉通り、悔しさの色が滲んでいた。
ティナがハンカチを下ろすと、ルーネスは自身の手を見詰めたままで零す。
「敵の罠にまんまと引っ掛かって、庇われて……スコールが下がれって言うまで、僕、罠にちっとも気付いてなかった」
「……私も。ちゃんと見ていれば、判ったかも知れないのに」
命の遣り取りの中で、それも終えた事柄で、たらればの話をしていても意味がない。
けれども、回避できたかも知れなかったと思うと、どうしても考えてしまうのだ───もっと見ていれば、もっと早く気付いていれば、と。
それにさ、とルーネスはぎゅうと手を握り締めて続けた。
「僕を庇ったスコールは、平気そうでさ」
暴君のフレアを至近距離で受けたと言うのに、彼は傷らしい傷を負っていないようだった。
それは無防備に受けたのではなく、ダメージ覚悟で突進したから、下手に避けたりするよりもダメージも軽くて済んだから。
ティナが施した障壁魔法もまだ生きていたし、フレアの直撃を喰らったとは言え、スコールが平然としていられる理由は幾らでもあるのだ。
だが、若しも立場が逆であったとして、ルーネスがスコールやティナを庇ってフレアの直撃を受けたとして───果たして今のスコールと同じように、平然とした顔をしていられただろうかと思うと、ルーネスには頷く事が出来ない。
「……悔しいな……」
コスモスの戦士の中で、ルーネスは最年少になる。
身長も低く、同じく小柄なジタンと比べても、ルーネスの方が僅かに低かった。
ジタンは盗賊と言う職業柄、小柄である事も持ち味として上手く戦闘に活かしていたが、ルーネスは彼とは違う。
成長途中の体が憧れているのは、しっかりとした体躯を持ったウォーリアやフリオニール、クラウドで、あんな風になれたら、と憧れを抱いていた。
だから理想とは違う今の自分の姿が、人に庇われてしまう自分の弱さが、悔しくて堪らない。
ティナも沈黙したまま、悔しい、と胸中で呟いた。
コスモスの戦士の中で最も探知能力・索敵能力に優れているのはティナだと言われている。
しかし、ティナのその能力は本人の精神状態によって大きく振り幅があり、不安定な時には殆ど役立てる事が出来ない。
静かな時ならばともかく、戦闘時など、落ち着いて気配を探り分析すると言う行為は、ティナには些か難しい事だった。
だが、僅かな油断が命取りとなるこの世界では、そう言ったティナの能力こそ重要なのだ。
遠くから近付いて来る魔物やイミテーションの気配、仕掛けられたトラップ、不自然な大気の流れ……それらを理屈ではなく、感覚で明確に捉える事が出来るのは、ティナの他にはバッツくらいのものだ。
貴重で得難い能力は、仲間達にとって先見の眼の役目を持つことが出来るのに、ティナは中々それを発揮する事が出来ない。
どうすれば発揮できるのかも判らなかった。
(守りたいのに)
項垂れるルーネスの横顔を見詰め、ティナはきゅっと唇を噛み締めた。
ルーネスは、ティナを守ると言ってくれた。
そんなルーネスを、ティナも守りたいと思う。
それなのに現実はとても厳しくて、助ける事も出来ず、ティナは雷撃に悲鳴を上げるルーネスを見て、彼の名を呼ぶしか出来なかった。
「……ごめんね、ルーネス」
零れた言葉は、殆ど無意識のものだった。
「え?」とルーネスが振り向いたのを見て、ティナは自分の感情が音に漏れていた事を知る。
「あ、その……」
「うん…あ、いいよ、そんな。ティナがそんな顔しないでよ。あれは僕が油断したからだ。ティナは何も悪くないよ」
慌てて表情を取り繕うルーネスに、ティナは眉尻を下げて、ありがとう、と呟いた。
ルーネスもつられたように眉尻を下げたものだから、お互いに困ったような表情を浮かべる形になっていた。
ざり、と土を踏む音がして、振り返ると、スコールが戻ってきた所だった。
手には枯れ木の束がある。
治療をしていない彼の頬には、赤くなった火傷が残っており、よくよく見るとジャケットや白いファーも所々焦げている。
それを気にしていない表情で、スコールは川辺へ近付いて辺りを見渡し、
「……大丈夫そうだな」
周囲の危険が低い事を確認、ついで見通しの良さも確かめて、スコールは呟いた。
「此処で野宿にするぞ」
「僕なら大丈夫だよ。目的地まであと少しだし、野宿するならそれからでも」
スコールの言葉に、真っ先にルーネスが言って立ち上がろうとする。
ルーネスは僅かにふらついたものの、自分自身の足で立つ事が出来た。
しかし、スコールはそれをちらりと一瞥しただけで、
「いや、今日は此処までだ。此処から先は今まで以上に見通しが悪い。強行せずに、陽が昇ってからの方が良い」
スコールの言葉にティナが空を見上げると、橙と漆の色が混じりあっていた。
目的地であり、探索の終了地点としていた場所まではあと少しの距離だが、其処に行くにはまだ森の中を歩かなければならない。
このまま進めば、森を抜けるよりも早く、陽が沈み切り、森は闇に溶け込むだろう。
それは得策ではない、とスコールは判断した。
「それに、あんたもまだ走れないだろう」
ルーネスの体の痺れは大分抜けていたものの、戦闘が出来る程に回復したかと言われると、否であった。
身の軽さを素早さと手数でカバーしているルーネスにとって、体が思ったように動かないのは大きなネックになる。
それを見抜かれていた事に、ルーネスは俯き、大人しく地面に腰を落とす。
スコールは持ち帰っていた木の枝を地面に置いて、ジャケットの内ポケットからライターを取り出した。
枝の一本に火をつけて、他の枝木にも何本か火をつける。
炎が目に見える程度の形になった所で、スコールはその傍に腰を下ろし、片膝を立てた姿勢でティナとルーネスに背を向けた。
それから、三人の間に会話らしい会話はないまま、陽は落ちて行った。
大丈夫、と当人が言っていたとは言え、やはり体に受けたダメージが残っていたのだろうか。
携帯食で手短に夕飯を済ませた後、ルーネスは程なく眠ってしまった。
そうして寝顔を見てみれば、やはり幼い面立ちをしている。
自分よりも年上ばかりの戦士の中で、一人前に同じ場所に立とうとしている彼だけれど、こんな時は、やはりまだ子供なのだと思えてしまう。
本人が聞けばきっと怒るか、若しくは拗ねてしまうのだろうけれど、ティナはどうしても、そんなルーネスが可愛く思えて仕方がなかった。
いつも精一杯背伸びをしている、小さな騎士───その姿を見て、弟がいたらこんな感じなのかな、とも思う。
ティナは暫くルーネスの寝顔を見詰めていたのだが、その内、自分も眠ってしまっていた。
ルーネスの傍でマントに身を包み、地面に横になっていたから、かも知れない。
ふ、と意識が上昇して目を覚ました時には、空いっぱいの星がティナの視界を埋め尽くしていた。
きれい、と言う呟きは、音になったようで、けれどもあまり空気を震わせる事はなかったらしい。
ティナ自身、その音を殆ど拾う事は出来なかった。
ぱちり、と爆ぜる音がして、ティナは起き上がる。
暗闇に覆われた大地の上で、ゆらゆらと揺らめく炎の灯り。
その灯りを遮ってシルエットになっている人を見付けて───吹く柔らかな風に僅かに揺れる、白いふわふわに目を奪われる。
ティナは、四つん這いで、そろそろと、それに近付いた。
まだ少し寝惚けているのかも知れない、とはこの時のティナに考える程の余裕はなく、ただただ誘われるように近付いて行く。
柔らかくて暖かくて、気持ちの良さそうな、ふわふわに。
「─────あ、」
もう少しで触れる、と言う所で、それはついっと逃げてしまった。
いや、その持ち主が動いた事で、ティナの手から遠ざかってしまったのだ。
「……何、してるんだ、あんた」
「あ……」
火の揺らめきを受けて、仄かにオレンジ色の混じったブルーグレイが、ティナを捉えていた。
眼の上の眉は盛大に顰められて、その間にはくっきりとした谷が出来ている。
ティナは慌てて、伸ばしていた手を引っ込めた。
「ご、ごめんなさい。私、寝惚けていたみたいで……」
謝るティナの声は、言葉尻に行くに従って、どんどん小さくなって行く。
スコールはそんなティナをじっと見詰めているだけで、何も言わなかった。
それがティナにとって、断罪を待つ時間のように感じられてしまう。
此処にいたのがクラウドだったなら、「眠れないのか?」と、何某か声をかけて来てくれただろう。
フリオニールなら「起こしてしまったか?」と自分に非があるのではと言い出すし、ジタンなどは「添い寝してあげようか?」と言うだろう。
ウォーリアやセシルやティーダや───とにかく、此処にいたのがスコールでなければ、ティナもこうまで畏まらなかっただろう。
だが、どれだけ“もしも”を考えた所で、此処にいるのは他の誰でもない、スコールなのだ。
ティナは気まずさで息が詰まるような気がして、どうしよう、と視線を彷徨わせた。
ティナは、もう一度「ごめんなさい」と呟いた。
それ以外に何も言葉が見付からなかったのだ。
長いような短いような、そんな沈黙の時間が流れた。
ティナは膝の上で組んだ手を、もじもじと握ったり放したり。
スコールはやはり黙ったままで、立てていた膝に片腕を置いたまま、ティナを見詰めていた。
(怒らせた、かな……)
どうしよう、とまた心の中で呟いた、時。
「……ルーネスは、寝てるのか」
スコールの形の良い唇が紡いだ言葉に、ティナは一時、きょとんとしていた。
数秒の間を置いてからスコールの言葉を理解し、後ろを振り返って眠るルーネスを見る。
「うん、眠ってる。……?」
頷いた後で、ティナは違和感に首を傾げた。
なんだろう、としばらく考えてから、ルーネスが毛布に包まれている事に気付く。
その傍らにも抜け殻になった布の塊があった。
「ねえ、スコール」
「……なんだ」
「毛布、かけてくれたの?」
ティナもルーネスも、眠った時に毛布は被っていなかった。
ルーネスは食事が終わって間もなく、木に寄り掛かったまま、眠ってしまった。
小さな体をそっとマントに包んだのはティナだ。
それから自身も、自分のマントを引っ張って丸くなった。
風もなく、空気が冷えている事もなかったから、それで防寒としては十分だったのだ。
あれから、今の今まで、ティナは眠っていた。
だからその間に毛布を掛けてくれたのは、目の前にいる青年以外はいない筈。
スコールは、肯定も否定もしなかった。
ふい、と見詰めるティナから視線を逸らし、燃える焚火に枯れ木を放り込む。
そんな彼の、ダークブラウンの隙間から覗く耳が、炎の灯りとは違う意味で、僅かに紅いような気がして。
「ありがとう、スコール」
「……別に」
ぶっきらぼうな反応が、金髪の兵士の口癖と似ているような気がして、ティナは笑った。
歩いている時、決して置いて行く事はしない。
並んで歩く事はないけれど、離れてしまうと、ゆっくり歩いて、ティナとルーネスが追い付くまで待ってくれる。
眠っている間に毛布を掛けてくれて、じっと一人で起きて火の番をしてくれた。
それは、単純に必要としての行動なのかも知れない、けれど。
(やっぱり優しいんだね、スコール)
クラウド達のように何か言ってくれる事もないから、それはとても判り難い。
けれど、この無口な仲間は、決して冷たい人ではないのだと───それが判っただけで、ティナはとても嬉しくて。
一度だけ、いつか。
今ではなくて、いつか。
お願いしてみても良いだろうか。
ふわふわとした肩のそれを、ちょっとだけ貸して欲しいって。
368は癒し。
仲良くしてるのも好きですが、こんな感じで36と8が距離を測り兼ねてるのも好き。
パーティ分けを決めたセシルについては、また次回に。