しがみついて、捕まえる


 右手の手首が可笑しい、と思ったのは、降って湧いたように現れたイミテーションの大群を退けた後の事。

 いつになったら尽きるのかと思う程、後から後からやってくる軍勢を片付けるのにかかった時間は、十分や二十分ではなかった。
幸運だったのは、此方も複数人数で行動していたと言う所だろう。
クラウドを筆頭に、スコール、バッツ、ジタン、フリオニールと言ったメンバーである。
前線をクラウド、スコール、フリオニールが固め、バッツは魔法で広範囲を吹き飛ばし、ジタンは持ち前のフットワークで前線組とバッツの支援に終始する。
そうして斬って斬って斬って斬って、後手に回れば物量で押し負けるから、とにかく後退だけはするまいと、全員が踏ん張った。

 そうして長い長い戦いを終えて、ようやっと一息ついた────スコールが自分の右手の違和感に気付いたのは、そんな時。


(……まあ、いいか。この程度なら)


 バッツがフリオニールの傷にケアルを施しているのを見ながら、スコールは思った。

 多分、捻ったか軽く攣ったか、その程度の怪我だろう。
利き手であった事が少々気掛かりだが、試しに握り開きをしてみても、特に痛みを感じる事はない。
違和感と言うのも、もう戦闘が終わったのにじんじんとした熱が残っている、程度の事だ。
わざわざ回復魔法を使う程の事ではないから、白魔法を得手とする人間がバッツくらいしかいない───スコールもフリオニールも簡単なものであれば使えるが、バッツに比べれば雀の涙だ───事を考えると、貴重な魔力を捻挫程度で消耗させる訳には行かない。
皆、大なり小なり怪我を負っているが、戦闘や歩行に支障がない程度ならば、放置しているのが当然だった。
掠り傷や打ち身程度を一々心配していたら、この戦いの世界の中では命が幾つあっても足りない。

 スコールは、二、三度手首を曲げて具合を確かめた以上は、気にするのを止めた。
バッツはジタンの脇腹の火傷────詠唱中のバッツを庇った時のものだ───の治療をしている。
フリオニールは粗方の治療が終わり、クラウドはあまり大きな怪我をしていないようで、ジタンの治療さえ終われば出発して構わないだろうと言う雰囲気だった。


「───よし、これでいいぜ!」
「いって!叩くなよ!」
「あはは、悪い悪い。でも傷は治ったろ?」
「ああ。サンキュー、バッツ」


 火傷の消えた脇腹をぽんぽんと叩きながら感謝を述べるジタンに、バッツも朗らかな笑顔を見せる。
そして、二人揃ってスコールの方へぐるりと振り返り、


「スコール!」
「なーにボケっとしてんだ〜?」


 同時に飛び掛かって来た2人を、スコールは一歩下がって避ける。
目測を誤った形になった2人は、揃って仲良く地面に落ちる事となった。

 避けるな冷たいぞと騒ぎ出す2人を無視して、スコールは進路について話し合っているクラウドとフリオニールに近付いた。


「此処から先はどうするんだ」


 問うたスコールに、クラウドとフリオニールが顔を上げる。


「ああ……予定としては、海岸の方まで出たかったんだけど、今の襲撃を考えると、迂闊に見通しの良い所には行かない方が良い気がするんだ」
「だから今日は此処までにして、海岸へは明日────と言う感じにしようかと思ってるんだが、あんたはどうだ?」


 尋ねるクラウドの言葉に、スコールは周囲をぐるりと見渡して、


「……同感だ。近くにひずみもないのに、あれだけのイミテーションの数……カオスの戦士が近くにいるか、罠の可能性も考えた方が良いだろう」
「決まりだな。野営地は……」
「それはもう少し進んでからにしよう。山を下りて来る時、湖が見えたんだ。其処まで行けば、運が良ければ魚も採れる」


 フリオニールの提案に、スコールもクラウドも否やを唱える理由はない。
3人は、じゃれあっているジタンとバッツを呼び戻し、再び歩き始めた。




 野営の予定地として目指した湖は、岸から底が直ぐに見える程に浅いものであった。
しかし、淡水魚がいてくれたのは幸いだ。
旅慣れて知識も豊富なバッツによれば、食べても問題のない種類だと言う事で、夕飯はこれに決定した。
フリオニールとスコールが釣り糸を垂らしている傍ら、ジタンとバッツが手掴みで魚を捕獲し、クラウドは薪を拾いに森へ向かった。

 ジタンとバッツが散々はしゃぎまわるお陰で、フリオニールとスコールは釣れたものではなかったのだが、代わりに賑やか組2名が沢山の魚の捕獲に成功した。
それらはフリオニールとスコールの手で綺麗に捌かれ、持って来ていた簡易調理具と調味料でスープになり、5人の胃袋を満たしてくれた。

 陽が沈み、森の中が昼以上に見通しが悪くなった頃、見張り2名を残して3名は就寝する事にした。

 そうして、見張りを交代しながら、夜も更け、空に昇った細い三日月が南天を過ぎた頃。
見張りをしていたフリオニールは、手元の薪が思った以上に早いペースで減って行く事に気付いた。


「拾ってきた方が良いかな」
「……そうだな。すまない、もう少し探しておけば良かった」
「いや、気にするなよ。魚を焼くのに結構使ってしまっただけだから、クラウドの所為じゃない。じゃあ、ちょっと行って────」
「それ、おれ達が行かせて貰っていいか?」


 腰を上げようとしたフリオニールを遮ったのは、テントの入り口を捲ったバッツの声だった。
2人が其方に目をやると、クラウドとジタンが交代した時にはすやすやと寝ていた筈だったバッツが、ぱっちりと目を開けて立っていた。


「バッツ、見張りにはまだ早いぞ」
「みたいだな。でも、目が覚めちまったからさ。薪が必要なんだろ?散歩がてら拾って来るよ」


 そう言ってテントから離れたバッツの後ろから、もう1人の仲間がテントから出て来た。
テントの端で出入りの邪魔を嫌うようにして眠っていた、スコールだ。


「スコールも目が覚めたのか?」
「……まぁな」


 クラウドの言葉に、スコールは言葉少なに頷いた。
そうか、と此方も短く呟いたクラウドの後ろを通り過ぎて、スコールはテントを離れたバッツを追う。

 森の中は見通しが悪く、平地や草原に比べて魔物の出現も多い。
大丈夫なのか、とフリオニールが声をかけたが、バッツが振り返らずにひらひらと手を振っただけだった。
スコールは何も言わず、足早になってバッツの後ろをついて行く。


「────まあ、平気か。バッツだしな」
「……そうだな」


 生来の旅人と、サバイバル訓練の経験がある傭兵だ。
それ程遠くまで足を延ばす事はないだろうし、魔物なら自分達でなんとか出来る。
イミテーションかカオスの戦士との遭遇なら、彼らが然程遠くまで行っていなければ、此方も気配で気付ける筈だ。

 仲間を信頼して、薪を火に投げるフリオニールを横目に、クラウドはひっそりと溜息を吐いた。




 この辺ならいいかな、とバッツが足を止めたのは、木々の合間から火の明るさが垣間見える所。
野営地からは遠くもなく、近くもなく、余程大きな声を上げなければ、会話の声も届かない距離。
火に作り出される仲間2人の影の形が伺える。

 バッツが振り返ると、テントを出て以来、一貫して沈黙したままついて来ていたスコールが立っていた。
スコールは左手で右腕を掴み、口を真一文字に噤んでいる。
傷の走る眉間には、不機嫌の度合いを表すかのように深い皺が寄せられ、バッツはそれを見て小さく笑った。


「ほら、スコール」


 双眸を細めて、“おいで”とばかりに両手を広げるバッツに、スコールは唇を噛んだ。
じゃり、と石砂を踏む音がして、スコールがバッツへと歩み寄り、右腕を掴んでいた左手を放して、

 ─────ゴッ!と鈍い音。


「………ってぇ〜!」


 痛む鼻柱を両手で押さえて、バッツが地面の上をごろごろと転がる。
それをスコールは、握り締めた拳をわなわなと震わせて、射殺さんばかりの眼光で睨みつけていた。


「あんた…いい加減にしろっ!」


 ───しかし、睨む蒼灰色には、心なしか透明な滴のようなものが浮かんでいる。
ようやく唇を割ったスコールが漏らす吐息にも、常の平静とした落ち着いた呼吸は崩れており、白い頬が薄らと汗を掻いて紅潮しているのが見えた。

 そんなスコールの顔を見て、やっぱり可愛いな、とバッツは思った。
鼻柱の痛みなどさっさと忘れて、バッツは起き上がってスコールに歩み寄る。


「ごめんって。でも、あそこでするのはやだって言ったのは、スコールの方だろ?」
「……そもそも、あんたが余計な事しなければ良かったんだ…っ」


 ふる、と体を震わせて、スコールは木に凭れかかった。
立っているのも辛いのだろう。
バッツは更に距離を詰めて、寄り掛かるスコールの顔の横に手を突き、見目の良い少年の面に顔を近付ける。

 吐息がかかる程に近い距離。
もう何度も、数分前にも体験している筈なのに、スコールはいつまで経ってもこの距離に慣れない。
先程まで強気に睨んで来ていた瞳は、あちらこちらへ視線を彷徨わせ、時折バッツの方を向いては直ぐに逸らされる。


「だってさ、仕方ないだろ。スコール、色っぽかったから」
「…俺はっ……、寝てた、だけ、だ……っ」
「自覚ないから、おれが大変なんだよ。これでも一杯我慢したんだぞ。ジタンもいたし、クラウドとかフリオとかもいるし」
「んっ……!」


 スコールの赤くなった耳に、バッツの吐息がかかる。
ぞくん、とスコールの体が震えて、小さく甘い声が零れた。

 バッツの手がスコールのシャツの中へと侵入する。
長い指がゆったりと肌を滑って行く感覚に、スコールは声にならない声を、吐息と共に吐き出した。
侵入者の手は、殊更に緩やかなスピードで上り、それが無性に焦らされているような気がして、スコールは無意識に身を捩る。


「う、ん……ふっ……」
「汗、一杯かいてるな」
「……っ……」


 森の中は、亜熱帯的に蒸し暑い訳ではない。
どちらかと言えば、ひんやりとした風が吹いて来て、少し肌寒さを感じる程だ。
山向こうに雪原があるので、其処から冷気が流れ込んで来ているのも理由の一つだろう。

 バッツの手がスコールのベルトに触れた。
ボトムを締めるものとは別に、三重に絞められたベルトの隙間から手を入れて、スコールの中心部を撫でる。
決して緩やかではない生地の下で、張り詰めているものがあるのを感じ、バッツは薄く笑みを浮かべた。


「ベルト外して」


 耳のすぐ下に吐息を当てながら、バッツは囁いた。
スコールが驚いたように眼を瞠り、バッツを見る。
それに対し、にぃーっと笑みを深めてやれば、少年の白い頬が林檎のように赤くなった。


「……なん、で…あんたが…すれば……」
「おればっかりヤりたがってるみたいで寂しいんだよ」
「…実際、そうだろう…っ」
「ふぅん?」
「────っ!」


 きゅ、とバッツの手がスコールの中心部を柔らかく握る。
スコールはびくっと細い肩を震わせ、濡れた唇を戦慄かせた。


「う…ん……っ」
「こんなにしといて?」


 零れかける声を殺そうと、黒のグローブを噛んで呻くスコールに、バッツはにやにやとした表情で言った。
スコールは、そんなバッツを雫の滲んだ蒼でじろりと睨み付け、


「誰の、所為、だと……っ」


 震える声で怒りを滲ませるスコールの言葉に、バッツはへらりと笑って見せる。
子供のような年上のその表情に、殴りたい、と拳を握るスコールだったが、捲れたシャツの裾から忍び込んだ手が背中を撫でて、ぞくん、と走った感覚に息を詰める。

 ────結局、どんなに抗っても、スコールに勝ち目はないのだ。
背筋の窪みを指先がなぞり、首下に寄せられた唇から覗いた赤い舌が、ねっとりと喉仏を撫でる。
背にした木の幹に爪を立てて、甘い吐息を漏らすしか出来ない。


「スコール、ベルト外して」


 もう一度告げられた言葉は、お願いのような形なのに、殆ど命令と同じ音をしていた。

 スコールはおずおずと自身の下肢に手を伸ばし、バックルを外して締め付けを緩める。
ボトムの前を開けてジッパーを下ろそうとして、手が止まる。
ちらりと目の前の男を見れば、じっと見つめる栗色が間近にあって、スコールは顔から火が出そうになった。
それでも見詰める瞳は“もっと”と促すばかりで、結局プレッシャーに押し流される形で、スコールはボトムを膝元まで下げた。
それでも見詰めて来るだけで、何も手を出そうとしない男に、スコールは唇を噛んで、下着も下ろす。

 膨らんだ雄が露わになって、スコールは真っ赤になって目を伏せる。
バッツがその先端に指を這わすと、ぴくん、ぴくん、と小さく震えるのが判った。


「触って欲しい?」
「……っ……」
「だよな。結構我慢したもんな」


 バッツの言葉に、スコールはただ唇を噛む。
違うと言えばバッツはまた意地が悪くなるだろうし、頷くのは自分のプライドに障る。
────どちらにせよ、結果は同じにしかならないが。

 バッツがその場に膝を折ると、スコールの中心部が丁度バッツの顔の高さになった。
視線を感じて眼を開けたスコールがその事に気付き、赤い顔を更に沸騰させて、シャツ裾を引っ張って自身を隠そうとする。


「駄目だって、隠すなよ」
「……!」
「だーめ。そうだ、シャツ持ち上げて捲ってて」
「嫌、だ、そんなのっ」


 真っ赤な顔で拒否するスコールだったが、バッツはお構いなしだ。
シャツを引っ張るスコールの腕を掴み、強引に胸の高さまで持ち上げる。


「バッツ!いい加減に……!」
「スコールもそろそろ観念しろって」


 声を荒げようとするスコールだったが、両手を掴まれたまま、バッツの顔が近付き、唇が重ねられる。
嫌がるようにスコールが頭を振ろうとするが、バッツは逃げる彼を追って、またキスをする。
バッツは、背にした木の所為でそれ以上逃げられないスコールの腰を抱き寄せて、口付けを深くして行く。


「ん、ん……っ…ふ、ぅん……っ」


 ちゅく、ちゅぷ、と咥内で唾液が交じり合って、水音が鳴った。

 侵入者から逃げようと舌を引っ込めようとするスコールだが、息苦しさに耐えられずに吐息を喘がせる度、また侵入者が深くへと滑り込んでくる。
歯列の裏側をなぞられ、舌の腹をくすぐられる度、スコールの体がピクッ、ピクッ、と跳ねる。


「ふ、ぁ……や、バッツ……んんっ」
「ん……ちゅ、ふ……」
「むぅっ……ん、ぅん……んっ……」


 舌の先端から腹まで、ゆったりと撫でられて、スコールの体から力が抜ける。
羞恥の所為か頑なに閉じられていた瞼も緩み、ぼんやりとした青灰色が覗くのを見て、バッツは満足げに眦を細めた。

 バッツが離れようとすると、もっと、とねだるように舌が追い駆ける。
それを宥めるように、ちゅ、と軽く吸ってやって、バッツはスコールの唇を解放した。


「シャツ、そのまま。な?」


 捲り上げた格好のままだった、スコールの白いインナー。
スコールはバッツに言われるがままの格好で、恥ずかしさに戸惑うように眉尻を下げて、視線を逸らす。
薄い胸の頂きがツンと尖っているのを見て、バッツは其処に顔を寄せた。

 熟した果実のように色付いた乳首に吸い付くと、ビクッとスコールの体が震える。
バッツはスコールの乳首を舌で転がしながら、細く引き締まった腰のラインを撫でた。


「は、ぅ…バッツ……っ」
「ん?」
「…息、が……ん…っ!」


 バッツが舌で胸を愛撫する度、彼の熱の篭った吐息が肌をくすぐる。
それが直接的に触れている手や舌と重なって、スコールの官能を更に煽っていた。


「感じる?」
「ふ、ぅっ……!」


 笑みを含んだバッツの言葉に、反論しようとして、出来なかった。
腰を撫でていた手が下がって、スコールの臀部の形を確かめた後、前に回って雄を撫でる。
先端を指先でぐりぐりと擦るように刺激されて、スコールはシャツの端を強く握って、腰を引かせる。


「ん、ん……っ…!う、ふぁっ……!」


 腰を引かせて逃がしても、バッツの手は直ぐに追い駆けて来た。
戒めるように、きゅ、と根本を握られて、スコールは息を詰まらせる。
そのままバッツは、雄の竿を上下に扱き始めた。

 はぁっ、とバッツの頭の上で、殺した声が熱の吐息になって吐き出される。
上目にそれを眺めながら、バッツは舌で転がしていた蕾に歯を立てた。


「あっ…ぅ……!」


 ビクン、とスコールの喉が仰け反る。
バッツの手の中で、雄が質量を増したのが判った。


「乳首でイきそうになった?」
「う、ぅ……んっ…!こ、の……っ!」


 にやにやと楽しそうに問う子供のような男に、スコールは眉根を寄せて眦を尖らせる。
それでも表情を崩さない男が腹立たしくなって、スコールは握った手を振り下ろした。
────ガンッ!と強い音が響いて、バッツはその場にしゃがみこむ。


「いってぇ〜!スコール、今、手加減しなかっただろ!」
「調子に乗ったお前が悪い!!」


 非難の声を上げたバッツに、スコールは怒鳴り返した。
射殺さんばかりの眼光に、思わずバッツが竦み上がる。
が、スコールがバッツを睨んでいられたのも、それまでだった。

 ────テントの中で唐突に背後から襲われ、ジタンがいるのにと言えば、バッツは「寝てるから平気」「声を出さなければ平気」と言ってお構いなしに触れて来た。
大人びた思考や外見に反し、人の温もりに飢えた彼が、スキンシップを好むバッツを本気で拒む事は容易ではない。
しかし、ジタンはバッツとスコールの関係を知っているから、下手に身構えなくても良い(かも知れない)としても、だからと言って他人がいる場所で躯を預けられる程、スコールは大胆ではない。
ジタンが起きて、性行為の様を見られるのも嫌だったし、テントの外にはクラウドとフリオニールがいた。
だからせめて、仲間達に見られない、聞かれない所で、と懇願して、バッツはようやくスコールの意見を聞いてくれた。
……スコールの官能のスイッチを散々に高めた後で。

 バッツに煽られた熱を抱えたまま、スコールはずっと耐えていた。
それなのに、この上にまた煽られて、焦らされるのは、辛い。


「んっ…う、……はっ……」


 背中の木に凭れて、ずる、とスコールはその場に座り込んだ。
柔らかなシーツに覆われたベッドなど此処にはないから、草土のちくちくとした感覚に皮膚がくすぐられる。

 細い躯を震わせて、熱に喘ぐスコールに、バッツは唾を飲む。
が、それを聞いたスコールにじろりと睨まれて、慌ててスコールの前に膝をついた。


「ごめん、スコール。可愛かったからつい」
「……聞いてない、そんな事……」


 もぞ、と太腿を擦り合わせ、シャツを引っ張って中心部を隠すスコール。
バッツは、蒼の目尻に浮かんだ雫に唇を寄せて、キスをした。


「ごめん。今度はちゃんとする」
「……そうして、くれ……」


 赤い顔で頷くスコールに、可愛いな、とバッツは思う。
意地っ張りで恥ずかしがり屋な恋人が、こういう表情を見せてくれるから、ついつい苛めたくなる。
けれど、あまり調子に乗ると、今度はしばらく触らせて貰う事さえ出来なくなるから、バッツは今日はもう苛めない、と決めた。

 バッツは、スコールの右手を掴んで、唇を寄せた。


「スコール。さっき、大丈夫だったか?」
「……?」


 唐突なバッツの問いに、スコールは首を傾げる。
大人びた少年の幼い仕草に、バッツは小さく笑みを零して、細い手首にキスをする。


「ここ、捻ったか何かしてたんだろ」
「……別に……」
「嘘ばっか。今日の戦闘が終わった後、気にしてたじゃないか」


 確信しているバッツの言葉に、スコールは目を逸らす。
図星と言っているようなものだった。


「……捻った、だけだ。一々報告しなきゃいけない程のものじゃない」
「駄目だって。今日はあれから戦闘もなかったから良かったけど、もう一戦とか言う事になったら、どうなってたか判らないだろ。変な感じがあったらちゃんと言ってくれよ。おれが治してやるからさ」
「…捻った位で大袈裟だな。魔力の無駄遣いだ。……大体、そんな事、今言う事じゃないだろう」


 テントの中で就寝前に言われるのならともかく、恋人同士の睦言の真っ最中(一時中断はしたが)にする話ではない、と言うスコールに、バッツはそうだなぁと眉尻を下げたが、


「だって思いっきりおれの頭殴ったからさ。また痛めてないかと思って」
「……平気だ」
「本当か?」


 食い下がるバッツに、スコールはそんな事は良いから、と睨み付ける。
散々煽られ、燻った熱が、体の中で出口を求めて暴れている。
しかし、それを素直に伝えて甘えられないのが、スコールたる由縁であった。


「本当、だから。もう、」


 スコールは、下肢を隠そうと引っ張っていたシャツの裾を摘まんで、持ち上げた。
木の根元に凭れかかって、膝元にまとわりついているボトムにもどかしさを感じながら、バッツの前に全てを晒け出す。

 だから、もう。
其処から先をスコールが言える訳もなく、ただ言葉以上に彼の心の内を語るブルーグレイが、頼りない光を揺らしながら、バッツを見詰める。
いつも、合わせようとしても直ぐに逸らされてしまう深い蒼に見詰められ、バッツは自身の下肢が熱くなるのを感じた。


「……ん、」


 バッツが上から覆い被さるように重なって、キスをする。
ちゅ、ちゅぷ、と音が鳴るのを聞いて、スコールの頬に朱色が上った。


「ぅ、ん……んっ……」


 ぎゅ、とバッツの細いのに筋肉のついた、確りとした腕を、スコールの手が掴む。
バッツはそれを視界の隅に見て、


「────駄目だって。痛めるぞ」
「……そんなに、柔じゃないっ……」


 バッツの掴んでいた手を掴まれて、放される。
途端、小さな子供が駄々を捏ねるように、スコールがバッツを睨む。
それをあやすようにもう一度キスをして、バッツはスコールの両の手首を捉まえると、案外と大きな自身の片手でまとめてしまった。
しかし、スコールは縋るものを求めるかのように、バッツの手を振り解こうとする。

 もどかしそうなスコールを見下ろして、バッツはへらりと笑った。
それを見たスコールが、じろりと睨む。


「あんた、何笑ってるんだ…!」
「いやあ。スコール、可愛いなって思って」
「ふざけ……」
「ふざけてないぜ。甘えたがってるスコール、可愛い」


 スコールは、触れられる事を好まない。
それが離れてしまう時の寂しさを嫌ってのものだと、バッツは知った。
けれど、スコールはとても寂しがり屋だから、欲しいと思った温もりは、放したくないと必死に縋ろうとする。

 バッツは、スコールが自分に縋ってくれるのが嬉しかった。
何においても自分一人で解決しようとし、昼間の戦闘の後も、自分の体の違和感すら自分の中で片付けてしまおうとするスコールが、甘えたがって縋って来る。
そう言う風に自分が教え込んだのだと判っていても、バッツは自分の心が高揚するのを止められなかった。

 バッツの空いている手が、スコールの腰を撫でる。
睨んでいた蒼がビクッと見開かれるのを見て、バッツは笑みを浮かべる。


「此処、疼いてる?」
「っ……!」


 双丘の谷間を辿り、バッツの指がスコールの淫部を掠めた。
秘孔の口を確かめるように指先で突くと、細い腰がひくん、と戦慄く。

 バッツはスコールの膝に引っ掛かっていたボトムを、下着ごと引き下ろして脱がせると、彼の足を大きく開かせる。
その間に自分の体を入れて、白い太腿を撫でながら、シャツの端を噛んで持ち上げる。
露わになった胸に舌を這わせると、捉まえたままの手がぎゅっと耐えるように握り締められた。

 薄い胸を下から上に撫でるように舐めて、辿り着いた蕾に吸い付く。
ちぅ、と強く吸い上げられて、スコールが息を詰める。
同時に下肢に触れていた手を中心部へと移し、スコールの雄を捉える。


「んっ…あっ、ぅ……っ」


 バッツが手を上下に動かし、刺激を与えると、スコールは太腿を震わせて、背を上ってくる快感に耐える。
零れそうになる喘ぎ声を殺そうと、手で口を覆ってしまいたくても、バッツに捕まえられている所為で出来ない。


「や、あ…っ、…ふ…んんっ…!」


 ビクッ、ビクッ、と反応を返すスコール。
口では何を言っても、丹念に開発された体は、与えられる快感に素直だった。
膨らんだ雄が熱の放出を求めるように、ヒクヒクと切なげに震えている。

 雄の太く膨らんだ場所を、バッツの爪先が悪戯に掠める。
ふるふると嫌がるように首を横に振るスコールだったが、バッツは爪先で遊ぶのを止めない。


「バッ、ツ……ぅ……っ」


 せめて、捕まえたままの手を自由にして欲しい。
ぞくぞくと背中を上ってくる感覚に、息を殺す事が出来ない。


「我慢しなくて良いぜ。今まで一杯我慢したんだしな」
「ひっ…ぅ……んぅっ…!手、放し…っ」
「それは駄目。スコール、すぐ暴れるから、また痛めちゃうだろ」


 暴れるのは、恥ずかしさだとか、意識が快感に攫われる事に慣れないからだ。
自分が自分でなくなってしまうような感覚には、未だに薄らとした恐怖を感じてしまう。

 だが、バッツはその壁こそが壊したいものだった。

 きゅう、とバッツの手がスコールの雄を強く握る。
びくっとスコールが背を仰け反らせた直後、バッツの指がスコールの裏筋を扱くように擦り始める。
スコールは足を爪先までピンと強張らせ、太腿を戦慄かせた。


「やっ、う、あぁあっ……!!」


 耐え切れずに吐き出された蜜液が、バッツの手とスコールの腹を汚す。

 ────くたり、と細い四肢が弛緩する。
バッツに捕まれていた手も、握り締めていた拳が解けてしまっていた。
強張っていた足も緩んでしまい、バッツに下肢を開いたまま、無防備に全てを曝け出している。
高揚とした名残を示すかのように、赤らんだ肌にしっとりと汗が滲んでいた。


「っは……ん、ぁ……」


 薄い腹が呼吸のたびに微かに揺れている。
バッツがスコールの胸の蕾を舌で転がすと、ひくん、とまた細い肩が震える。
その反応が先程よりも顕著になっているのを見て、バッツはよしよし、と胸中で頷いた。

 スコールの蜜で濡れたバッツの指が、彼の淫部へと伸ばされる。
慎ましく閉じた秘孔に指先を押し当てれば、ヒクヒクと穴肉が物欲しそうに伸縮した。


「ひっ、ん……!」


 つぷん、とバッツの指が侵入すると、スコールの背が仰け反って甘い声が漏れる。
くちゅくちゅと秘孔内を掻き混ぜるように指を曲げて出し入れしてやれば、耐える事を忘れたスコールの喉から、艶を含んだ吐息が溢れ出す。


「あっ…は、あっ…!や、ぁ…っ」
「スコール、気持ち良い?痛いとこないな?」
「んっ、うん……っ!ふぁ、あん、あ…っ!」


 バッツの問いに、スコールは答えられない。
内壁を擦り、押し広げて行く感覚に、全ての意識が絡め取られていく。
ぞくぞくとしたものが背中を上って来て、脳髄まで犯して、思考回路が溶かされる。

 バッツが捉えたスコールの両手が、また拘束を嫌がるようにもがく。
縋るものを求めるように握り開きを繰り返す手を見て、バッツはくすりと笑みを漏らす。


「スコール、」
「ひっ、ん…あっ…!んあ、ぅうんっ……」
「スコール、手、放すぞ」
「ん、ん、っ……あ、…ぅ……!」


 バッツがスコールの腕を解放すると、直ぐにその腕が恋人の首へと絡められる。

 二本目の指を挿入し、秘孔の中を拡げて行く。
内壁の脾肉を摘まんでやれば、スコールは甘い悲鳴を上げて、いやいやと頭を振る。
そんな彼に構わずに、バッツは三本目の指を挿入させた。


「あ、あ……!ひぃ、ん……!」


 圧迫感に目を見開いたスコールだったが、微かに凹凸のある壁を擦ってやると、また直ぐに蕩けて行く。


「やっ…!バッツ、ぅ…そこぉっ……!」
「気持ち良いんだ?」


 名を呼ぶスコールに、半ば確信気味に囁けば、スコールは恥ずかしがるように首を横に振る。
しかし、バッツの指が敏感な箇所を掠める度、ゆらゆらと悩ましく揺れる腰を見れば、本音が何処にあるからは明らかだ。

 丹念に解してやる内に、いつも冷然としているスコールの面は、その面影もない程に蕩けていた。
喘ぎ続け、飲み込む事を忘れた唾液が顎を伝って、地面に落ちてシミを作っている。
茫洋とした瞳は完全に熱に浮かされ、バッツが悪戯に指の動きを止めてしまうと、どうして、と求めるような蒼が見上げて来る。
それに応えるように、バッツが再び脾肉を撫でて刺激してやれば、


「あっ、ひ、んぁ…あぁっ…!はん、やっ…!バッツ、ぅ…!」


 ぎゅう、と縋るスコールの腕に力が篭り、バッツの指の動きに合わせて細腰が揺れる。
もっと、とねだるその様子に、バッツは自分の限界を感じた。

 絡み付いて来る脾肉を振り解いて、指を引き抜く。
ずるり、と皮肉を擦って行く感覚に、スコールは躯を反らせて声を上げる。


「ひぁ、ああぁっ!んぁっ…あっ…あ…」


 秘孔内の圧迫感が消えて、代わりにうずうずと甘い疼きに苛まれて、スコールは悩ましい声を零して四肢を震わせる。

 バッツは自身の前を緩めて、反り返った雄を取り出した。
既に大きく膨らんでいたそれに、自身の手を濡らすスコールの蜜を塗って、スコールの秘孔へと宛がう。
ビクッ、と肩を揺らすスコールの足をバッツが抱え上げ、自分の肩に乗せる。


「入れるぞ」


 言って、バッツはゆっくりと腰を進める。
ぐぷ……と自身の下肢に埋められていく感覚に、スコールはうっとりと熱の篭った双眸を細め、見下ろす男をぼんやりと見つめた。


「ん、あ……バッツ…う、ん…っ……」


 圧迫感が高まって来て、スコールは息苦しさで小さく喘ぎながら、恋人の名前を呼ぶ。

 熱の塊が最奥の壁を押して、スコールは一瞬息を詰めた。
それを宥めるように、バッツの舌が唇をなぞる。
応えるように口を開けば、直ぐに舌が滑り込んで来て、互いの熱を共有し合うように、赤い舌が絡まり合う。


「んっ、んっ……ふ…ぅ……」
「あ、む……ん、」
「んぁ……う、んっ…!」


 体内で脈打つ、自分のもの以外の鼓動。
バッツが微かに身動ぎする度に、それが脾肉を擦って、スコールに緩やかな刺激を与える。
けれどそれだけでは物足りなくて、スコールは自ら腰を揺らめかせ、自身の感じる場所に男を導こうとする。

 バッツはスコールの背中を抱いて、ゆっくりと律動を始めた。
秘奥の壁を微かに押し上げながら前後に動く雄に、スコールはバッツの首にしがみ付いて、甘い声を上げる。


「あっ、ひっ…んあ、あっ、あっ…!」
「っ……!」


 ぎり、と背中にグローブ越しの爪が立てられる痛みに、バッツが微かに眉根を寄せる。
それを見た途端、スコールの肩が怯えるように跳ねて、首に絡められていた腕が逃げようとした。
その気配をいち早く察して、バッツはスコールの腕を捉まえる。


「いいよ」
「……う、んんっ!」


 ずちゅっ、と突き当りの壁を強く突き上げられて、スコールは全身を強張らせた。
バッツが腕を掴んだまま放してくれないので、恐る恐る、もう一度首に絡み付かせる。
爪を立てないように、猫手に丸められる手の指が背中に当たって、気にしなくて良いのに、とバッツは思う。


(自分の事は無頓着なのになぁ)


 背中に爪を立てられて、痕を残される位、なんでもないのに。
寧ろ嬉しいのに、と思いつつ、バッツはそれを言葉にはしなかった。
バッツを想って耐えようとする恋人の姿が、どうにもこうにも愛しくて。

 バッツはスコールの両の膝裏を掴んで、細い体躯を折り曲げるように足を押す。
淫部の全てを曝け出す格好になったスコールが、恥ずかしさで嫌がるように頭を振ったが、バッツもスコールも、今更行為を止める気などない。

 バッツの腰の動きが少しずつ逸って行き、動きも大きくなって行く。
秘奥の壁を時折掠めるように突いていた雄が、スコールの淫部全体を弄るように出入りを繰り返す。
ぐちゅっ、ぐちゅっ、と言う蜜音が鳴って、スコールはその音から隠れるように、バッツの首に精一杯の力でしがみ付いた。


「ひっ、んんっ!…や、あ……っ!」
「んっく……ふ、ぅっ」
「んぁあっ……!!」


 角度を変えた雄が、肉壁のしこりを押し上げた。
途端、目の前がちかちかとするような強い快感に襲われて、スコールの背が仰け反った。
反り返ったスコールの雄が、覆い被さるバッツの腹に押し付けられる。


「ここ、好き、な?」
「ひっ、あんっ!やぁ、あ…ふぁっ、あっ、あ…や、だぁ……っ!」


 バッツが執拗に同じ場所を突き上げれば、スコールの躯はビクッビクッと顕著な反応を返す。
体内の雄の動きに合わせ、スコールは腰を揺らして、内壁の肉も痙攣するように震えながら、熱の塊に吸い付こうとしていた。

 栗色が見下ろす蒼は、既に理性の光などなく、与えられる快感に酔いしれているかのように虚ろだった。
薄らと涙の滲む眦に唇を寄せて、子供をあやすようにキスをすれば、もっと、と甘えるように首に絡んだ腕に力が篭る。


「うぁ、ん…っ!はぁん……っあ、あっ、」


 バッツの激しい律動に、少しずつスコールの動きが遅れて行く。
それでも更に熱を欲しがるように、スコールは夢中でバッツの攻めについて行こうとしていた。

 ────けれど、いつしかスコールの躯は、バッツに攻められるがままに揺さぶられる一方となり、


「ひぅっ、うっ、あぁんっ!バッツ、ばっつ…ぅ…!」


 強過ぎる快楽に耐え切れなくなったか、猫手に丸められていたスコールの手が解ける。
ぎ、と微かに尖ったものが首の後ろに当たったが、バッツは気に留めなかった。
スコールもそれを気にするような余裕はなく、夢中でバッツに取り縋り、限界を訴えるようにバッツの名を呼び続ける。


「バッツ、バッツ…!も、う……ひっ、ああっ!」
「ん、うん……っ」
「ふぁ、ひっ……あっ!んん、ぁ、んあっ!」


 押し広げられた太腿がピクピクと小刻みに震え、二人の狭間でスコールの雄が切なげに震える。
それは既に先走りの蜜を零していて、今にも弾けそうに見えた。

 バッツは、自身をスコールの体内から下がらせた。
太い膨らみが脾肉を推し上げて擦り、穴口に引っ掛かると、スコールは視線を虚空に彷徨わせて、唇を戦慄かせる。
穴口に留まった雄で、その形を拡げるようにスコールの腰を揺さぶると、濡れた唇から悩ましげな声が零れて行く。
その甘い声は、バッツの耳を楽しませて、脳の神経まで波紋を呼び、そうして高まる興奮は、彼の欲望と直結してしまう。


「バッ、ツ…、ひぁ……あっ…!もう、イきた、ぃ……っ!」


 真っ赤な顔で、羞恥心よりも躯の限界の方が辛くて、スコールは震える声音でバッツにねだる。
そんな恋人に応えようと、バッツは入口から秘奥を一気に貫いた。


「んぁああああっ!」


 ビクッビクン!とスコールの躯が跳ねて、バッツとスコールの腹が白濁液で濡れる。
秘孔が強く締まって、バッツの雄を痛いほどに締め付けた。
それを振り解きながら、バッツは大きなストロークでスコールの淫部を攻め続ける。


「や、あっあっあっ!バッツ、バッツ…!だ、め…あああっ!」


 二度目の絶頂を迎え、敏感になったスコールの躯を、容赦のない快楽の波が襲う。
高い声で響く甘い悲鳴は、ひょっとしたら野営している仲間達の下まで届いているのかも知れない。
けれど、既にスコールにはそんな事を気にする余裕はない。


「んあ、あっ、ひぃん!あう、あっ、あっ、あっ、」


 バッツの淫部を突き上げられる度に、スコールの躯ががくがくと震えて、細い腰が跳ねる。
ずりゅぅう…と脾肉を擦って太い肉の塊が動く度、スコールは意識が飛びそうになった。


「く、う……っ!」
「は、ひっ…!ひぅ、ん、んぁっ、あっ!あぁっ、あ、あ、」


 最早、二人の間に言葉らしいやり取りは交わされない。
互いに夢中で相手の躯を、熱を貪り、交じりあい、絡め取ろうとする。

 バッツが微かに苦悶するように表情を歪めた。
同時に、スコールの体内で、どくっ、どくっ、と雄が大きく脈を打ち、スコールはその感覚に腰を震わせた。
きゅう、と締め付ける淫部の強さに、バッツが笑む。


「期待、してる?」
「あはっ…あ、あぅん…!あ、あ、ひっ、ああっ、はぁん!」


 あんただって。
限界の癖に。

 そんな言葉を吐きつけてやりたくても、口を開けば、出てくるのは喘ぎ声ばかり。
下肢に埋められ、自身を支配する男の欲望に、従順になるように躾けられたスコールが勝てる訳もない。


「くっ……スコール…!出るっ…!」
「あっ、あっ…!出して、いい、からっ……!は、ひうっ、んんんっ!」


 ぞくぞくと、二人同時に高まる絶頂感に、堪える事など出来ない。
ぐちゅっ!とバッツの雄がスコールの淫部を一つ強く突き上げて、スコールはバッツにしがみついて射精した。


「イくっ、またイくっ……!あぁああぁっ……!!」
「う、く……んんっ!」
「んっあぁあっ!ふぁあん……っ!」


 白熱としたものが秘奥に注がれて、スコールは甘い声を上げる。
どろりと蕩け切ったそれに満たされて行くのを感じながら、スコールは意識を手放した。




 スコールが目覚めた時には、バッツの薪拾いは既に終わっていた。
バッツは、両手に抱えても持ちきれない程の枯枝を集めており、その中の一本で地面に落書きしながら、スコールが目覚めるのを待っていた。

 スコールの脱がされていた服は、目覚めた時には元通りになっていた。
腰の痛みや、押し広げられていた秘部の違和感は否めなかったが、それを堂々と恋人に訴えられる訳もなく、赤い顔でスコールは躯の違和感については無視する事にした。
下手に口に出せば、地面に落書きしている子供のような男が、また襲い掛かってくるような気がしたからだ。


「……バッツ」


 地面に落書きしている恋人の名を呼ぶと、少年のように澄んだ栗色の瞳が此方を見た。
それを正面から見る気になれなくて、スコールは微かに目線をずらす。
バッツは、そんなスコールを気にする事なく、無邪気に笑った。


「スコール、目が覚めたのか。意外と早かったな」
「……そうなのか」
「うん。十分くらいじゃないかな、多分」


 それを聞いて、スコールはほっとした。
いつ魔物に襲われるか判らないような場所で、いつまでも眠ってはいられない。
第一、今は団体行動の真っ最中なのだ。
薪拾いをすると言って仲間達の下を離れた手前、遅くなれば怪しまれるし、不要な心配をさせてしまう。
他人の手を煩わせるのが嫌いなスコールだから、それは絶対に嫌だった。

 木を支えにしながら、スコールが立ちあがると、バッツも薪を両脇に抱えて腰を上げる。


「歩けるか?」
「…馬鹿にするな。そんなに柔じゃない」
「あはは、そっか。よし。じゃ、戻ろうぜ」
「……ちょっと待て」


 言うなり、早速野営地へ戻ろうとするバッツを、スコールは呼び止めた。


「…半分、持つ」


 バッツの両脇に抱えられた薪を指差して、スコールは言った。
しかし、バッツは大丈夫だよと笑い、


「これ位ヘーキだって。余裕余裕」


 手伝って貰う程のものではないと言うバッツに、スコールの整った眉が不機嫌に潜められる。


「それじゃ俺がついて来た意味がないだろう」


 薪拾いは、仲間達の下を離れる為の単なる口実だが、口実でもやる事はやらなければなるまい。
バッツは、別に良いのに、と思ったが、睨むスコールに負ける形で、抱えていた薪の半分を差し出した。

 薪を抱えて戻る道すがら、バッツはスコールの右手を見た。
長袖のジャケットとグローブのお陰で、見える肌は微かなものしかない。
その微かに覗く、白く細い手首に、薄らと赤色が残っている。
間違いなく、バッツが彼の手首を捉まえていた時に残った、彼の手形だった。


「─────……なんだ?」


 じっと見つめるバッツの視線を訝しむように、スコールが眉根を寄せて問う。
バッツは、手首の痕について教えようかと数瞬思案した後で、やっぱり黙っていよう、と決めた。


「なんでもないぜ」
「………」


 物言いたげな青灰色が向けられたが、バッツは気にしなかった。

 捻った位、と言って気にしない彼の事だ。
残った手形の痕ぐらい、気にしないだろう。
増してあれを残したのはバッツだから、いずれ消えてしまうものならば、それまで刻印にして置きたい。

 ────実際、本人はその痕について、深く気にする事はなかった。
何処かでぶつけた痣程度に思ったのかも知れない。
しかし、それを見た金髪の仲間二名が本人以上にそれを気に留めて、バッツは空と碧に睨まれる事になるのだが、バッツの方もそれを気に止める事はないのだった。




ラブラブバツスコ!
無邪気なフリして意地の悪いバッツと、なんだかんだで受け入れてしまうスコール。

バツスコはスコールの露骨なツンデレが書けるので楽しい。
……そしてうちのバッツは、エロになるとSが出てくるようです。