リリース・フロム・シャイネス


 『酒を飲むと人が変わる』と言うのは、正確に言うと、『酒を飲むと抑圧のコントロールが出来なくなる』と言う事らしい。
理性や自意識、衆目、培った知性による常識的観点等々、枚挙すれば理由は幾らでも見つかりそうなものだが、とにかくそう言うもので押し殺して来た欲求等が、抑える事が出来なくなる、と言う事だ。

 その状態は、体の良い言い方をすれば、『解放』とでも言うのだろうか。
こうしたい、ああしたい、だがしてはいけない、相反するその思いで、どちらに軍配が上がるか。
その“やってみたい”事が自分の身を危険に晒す事であったり、周囲に迷惑を被る事であったり、或いは倫理的価値観によって禁忌とされていたりする場合、当然、“してはいけない”と言う結論に至る。
また、誰に迷惑をかける訳でも、そもそも危険に陥る事でもないが、自分自身のプライドや矜持の上で、“それはやってはいけない事”として認識している場合も、やはり“してはいけない”と言う結論に至る。

 人間とは、欲深な生き物である。
それでいて、理性だ道徳だ倫理だと言う理由で、それを押し殺す、なんとも面倒な生き物である。

 ───その所為だろうか。
ふとした折に襲った解放感は、ふわふわと気持ちの良いもので、夢心地にさせてくれる。
普段、強い抑圧の中で生きている者ほど、反動であろうか、その傾向は強いらしい。





 大の字に引っ繰り返ってかーかーと寝息を立てているティーダ。
その腹の上に乗って俯せになり、時折唸るような声を上げているジタン。
ルーネスの兜飾りをふかふかふかふかふかふかしているティナ。
真っ赤な顔と坐った眼で数字(恐らく円周率)を読み続けているルーネス。
白い肌をルーネスに負けず劣らず紅潮させ、何が面白いのか大口を開けて笑い続けているセシル。
吟遊詩人もマスターしてるんだ!と言っていた時の美声は何処へやら、音調の外れまくった歌を歌っているバッツ。
歌うバッツにグラスから溢れる程の酒を注がれ、ぐるぐると目を回しながら、セシルに促されるまま酒を浴びるように飲んでいるフリオニール。
そして、フリオニールの広い背中に、ぴったりとくっついているスコール。

 ウォーリア・オブ・ライトと共に三日をかけて哨戒に出ていたクラウドが帰還した時には、既にご覧の有様であった。
実に混沌としている。
秩序とはなんぞや、とクラウドが数秒考えたのも当然の事だろう。

 そして此方も当然、雷が落ちた。


「これは一体、どうした事だ!!!」


 響き渡ったウォーリアの声に、バッツとセシルが振り返る。
煩型の帰還に、少しは顔色を蒼くするかと思ったら、


「お〜、リーダーおっかえり〜!遅かったなあ」
「クラウドもお帰り〜。お摘みあるよ、食べる?」


 なんとも朗らかに迎えてくれた仲間達の言葉は、斥候で疲弊した勇者と兵士の心に潤いを齎してくれる。
平時ならば。
この空間がこんな惨状でなければ。

 ガシャッ、ガシャッ、と言う具足の音が、ウォーリアの心情を如実に表している。
いつもならそれを聞くだけで、バッツは勿論、ジタンやティーダも跳ね起きるのだが、今日は二人は無反応、バッツはへらへらと笑っている。


「バッツ、セシル、これはどう言う事だ?我々が戻るまでの間、皆の事は君達に任せた筈だが」
「んあ〜?うん、そーそー。任されたぜっ」
「では、何故こんな事になっている?見た所、皆酒に酔い潰れているように見えるが」
「うえ?あ、ほんとーだ」


 ウォーリアの言葉に、ひっく、と酒の回ったしゃっくりを零して、バッツは辺りを見回す。
今の今までこの状況に気付いていなかったのか、とクラウドは呆れるしかない。

 バッツはその場に座ったまま、体を捻って伸ばし、ティーダの上に重なっているジタンの頭をぽんぽんと叩く。


「おーい、ジーターンー。何寝てんだよ、潰れるにゃ早いぜ〜?」
「って、あんたまだ飲むつもりなのか」
「当たり前だろ!夜はまだまだこれからだぜ!なっ、セシル!」
「ふふふふふ、そうだね、ふふふふふふ」


 セシルは大口を開けて笑う事は止めたようだが、笑い上戸は相変わらず続いている。
確か以前、余り酒には強くない方だと言っていたような気がするが、あれは気の所為か。
いや、強くないからと言って、酔い潰れるか否かはまた別の話であって、酩酊状態になるのが早いと言う意味でも、酒に弱いと言う言葉は十分通る。
何れにせよ、今の彼に、常の落ち着いた分別ある振る舞いと言うものは、求めても無駄な話らしい。

 溜息を吐いたクラウドの前で、ぎしり、と何か硬いものが軋む音がした。
ウォーリアの拳である。
指先まで覆う籠手に覆われた手が、その銀鉄を軋ませる程の力で握り締められているのだ。


「おい、ウォーリア……気持ちは判るが、ちょっと落ち着いてくれ」
「判っている、クラウド。先ずは皆を部屋に運ぼう。手伝ってくれ」


 二度目の雷が落ちる前に割り込んだクラウドに、ウォーリアは驚く程冷静な声で言った。
その落ち着き払った声色が、クラウドには反って恐ろしかったのだが、それを敢えてこの場で口に出す必要は皆無。
寧ろ、彼がまだ冷静を保っている内にと、クラウドは急いで仲間達の回収に当たった。

 先ず、ティナを確保。
彼女の腕に抱えられたルーネスの兜は、取り上げようとすると、それを察した彼女に「いやぁ……」と涙を浮かべて訴えられたので、そのままにして置く事にする。
明日になったらすっかり縮れた飾り羽を見てルーネスがショックを受けるかも知れないが、犯人がティナでは、致し方あるまい。
クラウドは兜ごと彼女を抱え、部屋へと運び、ベッドに寝かせた。

 次に延々と数字を読み続けているルーネスに、部屋に戻るように促した。
ふらふらと立ち上がった彼は、自力で自室へ戻ろうと言う気概はあったようだが、残念ながらまともに前が見えていないらしい。
リビングの床に転がっていた酒ビンやら、ソファやら、椅子やら、ついでに壁にもぶつかるので、危なっかしくて見ていられなかった。
本人は自分で歩ける平気と言い張ったが、クラウドが耐えられなかったので、暴れる彼を肩に担いで部屋まで運んだ。

 そうしている間に、ジタンとティーダはそれぞれウォーリアが運んだようだった。
あの二人は完全に意識を手放していたようなので、特にウォーリアの手を煩わせる事もないだろう。
……多分。

 クラウドは目を回しているフリオニールと、彼の背中にくっつき虫宜しく密着しているスコールの下へ。
フリオニールは未だに酒を飲み続けている(実際の所は半分以上はグラスから零れている。お陰でフリオニールの服は水浸しだ)のだが、意識は殆ど残っていないに等しいだろう。
バッツに酒を注がれ、セシルに煽られて、殆ど操られるようにしてグラスを傾けている。
クラウドはフリオニールの肩を掴むと、ずるずると引き摺ってジタンとバッツから引き離した。
彼の背にくっついているスコールも、一緒になってついて来る。


「あー、何すんだよクラウド〜。今いーとこなんだぞぉ」
「クラウドも飲みなよ、美味しいよ、このお酒。はいどうぞ」
「ありがとうセシル、それは明日ゆっくり飲ませて貰おう。フリオニール、確りしろ」


 バッツは無視し、セシルの差し出したグラスを断って、クラウドはフリオニールに声をかけた。


「うあ、う…?」
「もう飲むな。立てるか?」
「あー……くらうど…?おかえり」
「……ただいま。立てるか?」


 律儀に挨拶をしてくれるフリオニールに返事を返し、クラウドはもう一度同じ事を聞いた。
しかし、フリオニールはぐらぐらと頭を揺らすばかりで、立ち上がろうともしない。
駄目だな、とクラウドは判断した。

 フリオニールを部屋に運ぶ前に、彼にくっついている人物もなんとかしなければ────とクラウドが顔を上げると、背中にいた筈の人間がいない。
何処に、と思っていると、横からバッツの賑やかな声。


「どしたぁ、スコール。ノリ悪いぞぉ〜!」
「ふふふふふふふふ。スコール、はいお水〜」
「待てセシル、それはさっき俺に渡そうとした酒だろう。スコールも受け取るな、飲もうとするな」


 いつの間にかバッツに捕獲されていたスコールに、セシルが酒の入ったグラスを差し出している。
スコールは俯いたまま、差し出されたグラスを受け取って口に運ぼうとするが、クラウドは素早くそれを奪った。
バッツもセシルも、全く性質の悪い酔っ払いである。
油断も隙もあったものではない。

 バレちゃったー、もっと上手くやんないとー、等と暢気にのたまっている二人は無視する事にして、クラウドはスコールを二人から引き離す。
近くにいさせるのは危険だと思ったからだ。


「全く……おい、スコール。スコール」
「………」
「駄目か……」


 ぺちぺちと、林檎のように赤らんだ頬を軽く叩きながら呼びかけるが、スコールからの返事はない。
そっと顔を覗き込んでみると、ぼんやりとした青灰色が瞼で半分隠れていた。
一応、眠ってはいないようだが、意識があるかと言われると、怪しい所だ。

 がちゃ、と具足の音が鳴って、クラウドが振り返ると、ウォーリアがフリオニールを肩に担いでいた。
秩序の戦士の中でも長身で、体格の良いフリオニールは、鎧を脱いでいてもそれなりにウェイトがある。
だが、ウォーリアは涼しい貌で彼を担いでいた。


「クラウド。フリオニールは私が部屋に運ぼう。君はスコールを頼む」
「ああ。……あの二人はどうするんだ?あと、此処の掃除と」
「彼らには私から話がある。君は気にせず、ゆっくり休むと良い」
「……そうさせて貰おう」


 フリオニールを担ぎ、リビングを出て行くウォーリアの背中に、クラウドは触らぬ神に祟りなし、と言う言葉を思い出す。
彼がバッツ達に一体何の話をするのか、掃除については、と気になる事はあるが、クラウドは一切触れない事に決めた。

 相変わらず反応のないスコールを背に負ぶって、クラウドはリビングを出た。
あれー誰もいないぞー、何処に行ったんだろー、と間の抜けた会話が扉の向こうから聞こえていたが、クラウドは聞こえなかった事にした。
今後、これから起こる事に、自分は一切合財関わらない。
それより今は、背負った少年を部屋に連れて行く事が先決だ。

 階段を上がっていると、下りて来たウォーリアと擦れ違った。
お休み、とだけ言って、ああ、とシンプルな返事があった。
ふと、彼が運んだ筈のフリオニールは大丈夫だろうか、と心配になった。
彼は零れた酒で服を水浸しにしていたが、失礼を承知で言わせて貰うと、ウォーリアがその辺りの事に気が周るかどうか怪しい。
増して今のウォーリアは、酔っ払い二名への説教で頭が一杯になっているようだから、尚更、細かい配慮は出来なくなっているのではないだろうか。

 スコールを部屋に運んだら、一度フリオニールの様子を見に行こう。
フリオニールが着替えていれば良し、そうでなくても、せめて水浸しの服だけでも脱いでいてくれれば、彼が明日、風邪を引く可能性は低くなる筈だ。
風邪を引かなくても、フリオニールのみならず、秩序の戦士の半分以上が二日酔いで戦力にならないのは確かであるが。

 クラウドはスコールの部屋の扉を押し開けた。
色々なものを回収しては置きっぱなしにしているクラウドと違い、彼の部屋は綺麗なものだ。
ベッドの上は、今朝抜け出した時からそのままなのだろう、抜け殻になった毛布がダマになって寄せられている。
殺風景にも見える室内だが、ベッドヘッドにカードが散らばっていた。
デッキの整頓をしながら眠ったのか、夢中になったら周りが見えなくなる所は、まだまだ少年らしいなと思う。

 すっかり見慣れた部屋をぐるりと見渡した後、クラウドはベッドにスコールを下ろそうとした。
しかし、


「……ん?」


 ベッドサイドに立った途端、掴まるようにと首に回させていたスコールの腕に、ぎゅ、と力が篭った。
まるで下ろすな、と言っているような力に、クラウドは背負った少年を見遣る。


「スコール、起きてるのか?」
「………」
「おい、スコール」


 声をかけてみるが、スコールからの返事はない。
代わりに、ぎゅう、と彼の腕に更に力が篭る。
まるで、降ろすな、と言っているかのようだ。

 平時は背負われる事は勿論、誰かに、それこそ恋人であるクラウドにすら寄り掛かろうともしないスコールである。
酒の所為であろうとは言え、甘えられているような気分に、クラウドも悪い気はしない。
しかし、このままずっと彼を背負っている訳には行くまい。

 クラウドはベッドに腰を下ろして、スコールに腕を解くように促した。


「スコール、離してくれ」
「……いやだ」


 返って来たのは、何処か舌足らずな返事。
スコールの頬がクラウドの項に押し付けられて、柔らかなダークブラウンの髪が、クラウドの首をくすぐった。

 クラウドの首下にかかる吐息は、微かに熱を含んでいる。
十中八九、酒の所為だろう。
未成年に飲ませるなよ、と今頃サンダガ級の雷を食らっているであろう成人二人に対して溜息を吐く。

 その溜息が聞こえたのだろうか。
ぴく、とスコールの肩が震えて、


「……嫌、なのか」
「ん?」


 くぐもって聞こえた声に、何だ?とクラウドは振り返った。
そうして見た恋人の貌に、クラウドは目を丸くする。

 ぐす、と小さく鼻を啜る音。
青灰色の瞳は、潤んで揺れて、迷子になった幼い仔猫を思わせる。
クラウドを捕まえるように、彼の首に絡んでいた腕は、今はクラウドの服の端を摘んでいるだけだ。
桜色の唇がきゅっと引き結ばれて、泣くのを堪えているように見える。
クラウドが、秩序の戦士達が見慣れた、凛と大人びた表情をした獅子はいなかった。

 泣き出しそうな表情と、縋るように服端を握る手を見れば、今のスコールはまるで小さな子供の様だ。
しかし、それよりもクラウドは、彼の白い頬が酒ですっかり赤らみ、瞼もとろんと落ち掛けている所為で、もっと別の場面での彼を想像してしまう。
例えば───互いの熱を重ね合わせた、情事の時の、彼の表情を。


「クラウド」


 舌足らずな声で、スコールは恋人の名を呼んだ。
ぐ、と貌が近付いて、ぶつかりそうな距離にクラウドは思わず仰け反る。
そんなクラウドに、スコールの眦にじわじわと雫が浮かぶ。


「…やっぱり、嫌、なのか……?」
「い、いや……」


 何が嫌なのか、と言う疑問はさて置いて、それより、距離が近い。
驚くほど近い。

 スコールは接触嫌悪の気があるのでは、と思う程、他者との接触を拒む傾向がある。
クラウドも最初はそう思っていたのだが、実際は触れ合う事で知った温もりが失われる瞬間に怯えていた、と言う事。
失う事に恐れて、甘える事を忘れた彼と体を重ねるまで、クラウドは忍耐の日々であった。
可惜に触れれば逃げられる、だから少しずつ少しずつ、手を繋ぐ所からゆっくりと慣らして行き、触れる熱が怖いものではないのだと教え────……ようやく、体を重ねる関係になったのである。

 しかし、はっきりと恋人関係になってからも、やはりスコールは触れ合う事に消極的である。
元々対人関係に対して積極的ではないのだろう、自分からクラウドに触れようとする事は稀だ。
更に言えば、自ら他人に近付く事も珍しい。

 そんな彼との距離が、こんなにも近い。
滅多に起こらない出来事に、クラウドはしばし驚き、狼狽していた。


「……クラウド……」


 消え入りそうな声で、スコールはもう一度、恋人の名を呼んだ。
手袋を嵌めていない、白く形の良い手が、クラウドの胸に重なる。
スコールは目を閉じて、ゆっくりと体を伸ばし、クラウドの唇に己のそれを重ね合わせた。




 ちゅぷ、ちゅぷ、と小さく卑猥な音が聞こえる。
それは、ベッドに座ったクラウドの下肢から零れていて、其処には蹲ったスコールがいた。

 クラウドのズボンは緩められ、下着もずらされて、雄が顔を出している。
スコールはそれを両手で包み、アイスキャンディでも舐めるかのように、夢中になって口淫に耽っていた。
酒の所為か、いつもより心なしか熱を持ったように感じられる舌が、ねっとりとクラウドの中心部を撫でている。


(どうしてこうなった……)


 自分の股間に顔を埋める恋人の、柔らかいダークブラウンの髪をあやすように撫でながら、クラウドは戸惑っていた。
奉仕なんて彼が滅多にしてくれないのに、どうして突然、「したい」と彼は言い出したのだろう。
普段は、やってくれと言っても、顔を真っ赤にして「出来ない」「無理」「判らない」と言って拒否され、とろとろに溶かしてようやく咥えさせる事が出来ると言うのに。

 スコールの舌がゆっくりと根本から太い膨らみまで舐め上げる。
ちらりとクラウドがその貌を覗き込んでみれば、色の薄い唇から、赤い舌がてらてらと妖艶に光って見えた。
スコールは咥内の唾液を舌に乗せると、雄全体に塗りたくるように、丹念に舐め回す。
はふ、はふ、と艶の篭った吐息が裏側に当たるのが判って、クラウドは息を詰めた。


「ん…ふ……ふら、う、ろぉ……」


 時折、甘えるような声が、スコールの喉奥から零れていた。
その声に応えるように、そっと頭を撫でて、耳の裏側を指先でくすぐってやると、スコールは嬉しそうに目を細める。

 嫌がらないのも、珍しい。
平時、専ら触れ合う事に強い抵抗を見せるスコールは、頭を撫でられる事も、情事の最中に項や耳を触られる事も嫌がる。
そもそも密着どころか、手を振れ合わせる事さえも恥ずかしがるのだから、性交なんてハードルが高過ぎるに決まっているのだ。
抱き合う最中に、クラウドの指先で遊ばれる事も嫌がるものだから、それが照れから来る拒否であるとしても、触れ合いたいと思うクラウドとしては、少々淋しいものがあった。
もっと甘えてくれれば良いのに、と。
───しかし、実際にこうして素直に甘えられると、普段そんな素振りを殆ど見せない所為か、どうにも違和感に襲われて戸惑ってしまう。

 クラウドのそんな胸中など知る由もなく、スコールは只管、恋人への奉仕に夢中になっていた。
小さな口を目一杯に開けて、ぱくり、とクラウドの雄を咥え込む。
ねっとりとした湿った熱が、中心部をすっぽり覆い尽くしている感覚に、クラウドは一瞬息を詰めた。


「く……っ」
「は、むぅ……んっ、んっ…」


 スコールはクラウドの膨らみを咥えたまま、頭を前後に動かし始めた。
スコールの小さな口から、男の欲望が出たり入ったり、その度に唾液で濡れててらてらと光るものだから、なんとも卑猥な光景だ。


「んっ、ふっ、…んっ、んっ、」
「う……く、スコール……っ」


 咥内でスコールの舌が動き始め、膨らみの裏側にある凹みをくすぐる。
ビクッ、とクラウドの体が震えても、スコールは構わずに───気付かずに───クラウドへ奉仕した。


「む、う…あ、はぁ……」


 咥内で膨脹して行く雄に、咥えている事が辛くなったのだろう、スコールはゆっくりと膨らみから口を放した。
唾液の糸がスコールの唇と雄を繋ぐ様に、AVみたいだな…とクラウドは他人事のように考える。

 そんなクラウドを、青灰色がちらりと見遣り、


「…クラウド……」
「ん?」
「……だめ、なのか…?」


 恐る恐る訪ねてきたスコールに、何の事だ?とクラウドが首を傾げると、スコールは泣き出しそうに表情を歪める。
それを頭を撫でてあやすと、スコールは小さな声で言った。


「……俺、下手…?きもち、よく、…ない……?」


 不安をありありと映し出した瞳で問う恋人に、クラウドは目を丸くした。
この状態でそれを聞くのか、と。

 クラウドの男は、すっかり立ち上がっていた。
スコールの咥内に収まり切らない程に膨らんだそれは、すっかり天を突いており、スコールの手の支えがなくても萎える事はあるまい。
確かに、スコールの口淫は拙いものであるが、それでも一所懸命に奉仕してくれている事は伝わるし、何より、恋人にこんなにも愛撫されて気持ち良くないなんて、ある訳がない。
端麗な顔を歪めながら夢中になって己の雄を咥える恋人の姿は、無条件でクラウドの劣情を煽る。

 ────と言うか、彼には見えていないのだろうか。
自分の目の前で、痛い程に膨らんでいるものが。

 少々呆気に取られつつ、クラウドはそれを心の奥に圧し留め、表情には出さなかった。
碧眼は柔らかく細められ、不安そうに見上げる恋人をじっと見下ろす。
耳の裏側を指先でくすぐると、スコールは猫のように肩を竦め、くすぐられる感覚に耐えるようにふるふると小さく震えた。


「大丈夫。気持ち良い」
「……本当、か…?駄目なら、直す、から…」
「……いや、大丈夫だ」


 直すって、どうやって直すつもりなんだ。
疑問に思ったクラウドだが、何か変な誤解でも招いて現状を台無しにするのも嫌なので、何も聞かずに「大丈夫」と繰り返して、スコールを宥めた。


「ほら、俺の───こんなに大きくなった」
「……あ……」


 奉仕する事に夢中で、クラウドの有様をよく見ていなかったのだろうか。
クラウドに促されて、目の前に聳えるものを見たスコールは、目を見開いて真っ赤になった。


「もうちょっとでイけそうだから…頑張ってくれるか?」


 嫌なら良いけど、と逃げ道を確保しながら言うと、スコールは少しの沈黙の後、口を開けた。
クラウドへの返事はなく、代わりに、ぴちゃ……と赤い舌が欲望を這う。

 クラウドが気持ち良くなっている事に安堵したのだろうか。
必死になって舐めていたスコールの舌は、少し落ち着きを取り戻していた。
ゆっくりと裏側の窪みを舐めた後、一番太い膨らみの凹みを舌先でくすぐる。
竿を扱く手の動きもゆっくりしたものになり、時折袋を揉んで遊んでいる。


「っは…ん…ちゅ……」
「……っ」


 スコールの唇が、雄の先端に口付けられる。
そのままスコールは、先端を尖らせた舌先でぐりぐりと弄り、棒の裏側を撫でた手で竿をきゅっと握った。
強い刺激に、クラウドは思わずベッドシーツを握り締める。


「スコール…出る……っ!」


 クラウドが言うと、スコールはもう一度、ぱくりと雄を咥え込んだ。
ちゅぅうっ、と強く吸い付かれて、クラウドは思わずスコールの頭を掴む。
このままではスコールの口の中にぶちまけてしまう───離せ、とクラウドは言ったが、スコールは頑なに離れようとしなかった。


「くぅ…ああっ!」
「ふ、んぅうっ」


 結局、クラウドはスコールの咥内へと己の欲望を放ってしまった。

 以前にも一度、解放を抑え切れずに、スコールの口の中へぶちまけてしまった事がある。
その時のスコールは、口一杯に広がった苦味と匂いに辟易し、しばらく断固として口淫を拒否されてしまった。
結局とろとろに溶かしてもう一度奉仕を強請り、口の中に出さないと言う条件で赦して貰ったのだが、またやってしまった。
でも、離せとは言ったから、俺の責任じゃないよな……と言い訳染みた事を考える。

 ずるり、とスコールの口から頭を下げた雄が抜き出される。
呆然としたように半開きになったスコールの口端から、唾液とは明らかに違う、どろりとしたものが零れ落ちていた。
熱の解放感から、スコールと同じように暫し放心状態にあったクラウドだが、スコールの有様を見て我に返る。


「すまん、大丈夫か?」
「………」
「ほら。口の中の物、吐き出して」


 クラウドは、自分の手を受け皿にさせるように差し出して、スコールに口を開けるように促した。
いつまでも口の中に溜めこんだままでは、気持ちが悪いだろう。

 と、思っていたのだが、スコールは思わぬ行動に出た。
自分の手で口元を抑えるスコールに、やっぱり気持ち悪いよな、とクラウドが思っていると、こくん、と彼の喉が鳴った。


「───スコール?」
「…んっ…う……はふ…っ」
「…………飲んだのか?」
「……んぅ……」


 まさか、と言う気持ちで問い掛けると、スコールは赤い貌でふらふらと頭を横に揺らした。
肯定とも否定とも取れる仕草であったが、それはさて置くとして、明らかに飲んだよな、とクラウドは目を丸くする。


「大丈夫か?」
「……ん……」
「気持ち悪いだろ?」
「……んぅ……」


 今度は、はっきりと首が横に振られた。


「くら、うど…の……飲ん、で、…みたかっ……」


 これもまた、クラウドの思いも寄らない言葉であった。

 奉仕すら嫌がるスコールの事、一度咥内に出して思い切り嫌がられた事もあったし、恋人とは言え他人の体液を口に含むなど気持ち悪がっているとばかり思っていた。

 スコールは、咥内に残る余韻に浸るかのように、うっとりとした表情を浮かべている。
頬を紅潮させ、口端に垂れる蜜液を指先で拭ってはそれを舐め、瞼はとろんと落ち掛けていて、夢と現の狭間にいるよう。
いつもなら、とろとろに溶かして前後不覚になって、ようやく見られる貌だった。

 その言葉と、貌は、駄目だ。
下半身に再び熱が集まってくるのを感じながら、クラウドは思った。


「クラウド…イったの……気持ち良かった、から…?」


 問い掛けるスコールに、クラウドは答えなかった。
そんな余裕がなかったからだ。

 赤らんだ顔で覗き込んでくるスコールには、得も言われぬ妖艶な色香が滲み出ていた。
眉間に皺を寄せる事なく、蕩けた顔を近付けてくる彼は、すっかり色事の虜になっている。
いつもなら、情事に及んでからも随分と長い間険しい表情をしているのに。
酒が入っているとは言え、この豹変ぶりには、クラウドも驚いていた。

 恋人が胸中でそんな思いを渦巻かせているとは、やはり知る由もなく。
スコールは答えないクラウドに焦れて、へにゃりと眉尻を下げ、泣き出しそうな顔でクラウドを見た。


「……やっぱり…だめ、だった…か……?」


 ことん、と首を傾げ、「きもちよくなかった…?」と何処か舌足らずに問うスコールに、クラウドは我に返って、慌てて首を横に振った。


「……本当か…?駄目なら、駄目って言っていい……」
「そんな事はない」


 クラウドがスコールに嘘を言う訳がない。
そもそも、この躯が何よりも正直に、スコールと言う存在に反応を示していると言うのに、駄目な訳がないのだ。

 クラウドの言葉に、スコールの瞳から迷子のような色が消える。


「じゃあ……もっと、する」


 そう言うと、スコールはもう一度クラウドの下肢に顔を埋めようとした。
しかし、クラウドの手がスコールの肩を掴まえて、ぐっと抱き起こす。
クラウドの行動に、スコールがぱちりと不思議そうに目を丸くしていると、ぐるりと視界が反転した。

 スコールはベッドに仰向けになり、クラウドは彼の上に馬乗りになっていた。
あれ、と子供のような表情で見上げて来るスコールに、クラウドは小さく微笑み、額の傷にキスを落とす。


「今度は俺の番だ」
「……違う。いつも、クラウドばっかり…だから……今日は、俺がクラウドにする。気持ち良くする。……したい」


 駄々を捏ねるように、スコールは言った。
スコールの手がクラウドの服を掴んで、替われ、と言うようにくいくいと引っ張る。

 しかし、クラウドは退かなかった。
汗の滲んだスコールのシャツを捲り上げて、肉の薄い腹を撫で、平らな胸を愛撫する。
つんと膨らんだ蕾を指先で軽く摘むと、ぴくっ、とスコールの体が震えた。


「んぅ…っ」
「俺は十分、して貰った。だから、今度はお前だ」
「……あ、う……んんっ…!」


 摘まんだ乳首を指先で転がしながら言うと、スコールはいやだ、と言うように頭を振った。


「今日、は…俺が……っ」
「頑固だな。でも、こっちは欲しがってるだろ?」


 するりとクラウドの手がスコールの細腰を撫で、布越しに引き締まった臀部を撫でる。
いつもクラウドを受け入れている場所を、ぐっと指先で押し上げてやると、甘い声がスコールの口を付いて出た。


「あっ…あっ……!」


 クラウドの指が陰部を刺激する度、ピクッ、ピクッ、とスコールの体が震える。
素直な反応に気を良くしつつ、クラウドはスコールの腰のベルトを外し、下着ごとズボンを引き下げる。

 露わになった下肢では、スコールの分身がすっかり頭を持ち上げていた。
膝を割って左右に大きく広げさせれば、ヒクヒクと物欲しげに伸縮する秘部がクラウドの前に晒される。


「嫌だ……クラウドぉ……」


 見るな、と目尻に涙を浮かべて訴えるスコールだが、その表情すらも、クラウドには欲を煽る材料にしかならない。
サドの気はないと思うんだが、と思いつつ、クラウドは秘孔に指を宛がった。

 くぷ、と先端が埋められ、スコールの細い腰が跳ねる。


「あっ、あ……」
「入れるぞ。力は抜いておけよ」
「ん…うぅんっ…!」


 ゆっくりと深くなって行く挿入に、スコールはともすれば詰まりそうになる息を、意識しながら逃して行く。
ふぅ、ふぅ、と呼吸する瞬間に微かに体の強張りが緩んで、その隙にクラウドは指を埋めて行く。

 クラウドの指が根本まで挿入されて、動きを止めた。
苦しくないか、痛くないかと囁き問うクラウドに、スコールはゆるゆると首を横に振った。
どっちだ、としばし迷ったクラウドだが、少しずつスコールの表情が弛緩して行くのを見て、大丈夫そうだ、と思う事にする。

 ゆっくりと指を動かして、前後に抜き差しする。
ぬぷ、くぷ、と指が媚肉を擦る感覚に、スコールの唇が緩み、甘い声が漏れ始める。


「ふあ…あ、あっ…クラ、ウ、ドぉ……」
「凄いな……もうぐちょぐちょだ」
「……あぅ、う……」


 言うな、と頭を振るスコールに、クラウドは小さく笑う。
あやすように頬に口付けると、スコールの腕が首に絡み、しがみ付いて、


「も…いい、から……クラウドの…」
「まだ解し切ってないだろう。もう少し────」


 我慢しろ、と言おうとして、唇が塞がれた。
クラウドの咥内に滑り込んで来た舌が、クラウドのそれを絡め取って、ちゅく、ちゅく、と淫靡な音を立てる。

 ちゅう……と舌に吸い付いてから、スコールはクラウドを解放した。
しかし、首に絡められた腕はそのままだ。
まるで放すまいと言うように、ぎゅっと縋り付きながら、スコールは潤んだ瞳でクラウドを見上げ、


「クラウド、に…気持ち、良く、なって、欲し…から……」


 クラウドの熱が欲しい気持ちもある。
けれど、それ以上に、クラウドを気持ち良くしたい。
甘えるように縋りながら、スコールの思考はそれ一色だ。

 早く、気持ち良くなって。
小さな声で囁かれて、クラウドは己の下肢が一気に膨れ上がるのを感じた。

 思わず性急になりかける本能を自制して、スコールの陰部に埋めた指で媚肉を一回り撫でてから、ゆっくりと引き抜く。
焦らされている気分なのか、早く、早く、と声なき声で訴えるスコールに、クラウドは必死で己の欲望を抑え込んだ。
もうちょっと待て、と自分に言い聞かせつつ、クラウドは固くなった熱の塊を、秘孔口へと宛がう。


「痛かったら、そう言えよ」
「……っ…」


 ふるふる、とスコールは小さく首を横に振った。
俺は良いから、と言う声が聞こえて、クラウドは眉尻を下げる。


「無理はするな。お前が気持ち良い方が、俺も嬉しい」
「…あ……ぅ……っ」


 囁いてやれば、かあ、とスコールの顔が赤らんだ。
その隙に、クラウドの雄が秘孔の入り口を潜った。


「うぅんっ」
「っは……やっぱり、ちょっときついか…っ」
「あ、う……やぁ……!」


 慣れるまで耐えよう、と動きを止めたクラウドに、スコールが泣きそうな声を上げた。
不安を携えた青灰色が、己を組み敷く男を見上げる。


「クラウ、ド……んっ…気持ち、よく…ない……?」
「違う…っ、大丈夫、だから……」
「で、も」
「焦るな。俺ばかり気持ち良くなっても、虚しい、からな……一緒に気持ち良くなった方が、お前だって淋しくないだろ?」


 あやすようにスコールの頭を撫でながら、クラウドは努めて柔らかい声で言った。
ふ、と涙を堪えるようなスコールの声が漏れる。
首に回された腕に、ぎゅっと力が篭って、スコールの体が甘えるようにクラウドに密着した。

 二人で呼吸のタイミングを合わせながら、クラウドはゆっくりと腰を押し進めて行く。
挿入が深くなって行く毎に、スコールの内壁が雄に絡み付いて、きゅうきゅうと締め付ける。


「っは…あっ……んん……」
「もう、少し……」
「うん……んっ、ぅっ!」


 ぐ、とクラウドが腰を押し付けると、雄の先端が壁に当たった。
ビクッ、とスコールの体が跳ねて、足が逃げを打つようにシーツを引っ張る。

 二人の呼吸が落ち着くまで、クラウドはじっと待った。
スコールは焦れるように時折腰を揺らしたが、反面、引き攣る痛みに顔を顰めるので、クラウドが彼の腰を掴まえて抑える。
クラウドのそうした行動を嫌がるようにスコールは頭を振ったが、クラウドがあやすようにキスを落とせば、大人しくなった。


「んぅ…ふ……」


 唇を、重ねては放しと繰り返して、少しずつスコールの体から余計な力が抜けて行く。
痛い程にクラウドを締め付けていた秘孔も緩んで行くと、クラウドはゆっくりと律動を始めた。
深い所で前後に短く動く雄に、スコールは唇を噛んで声を殺す。


「んっ…う……っ、ふっ……」


 クラウドにしがみ付くスコールの腕に力が篭る。
スコールはクラウドの肩に顔を押し付けて、背中を丸め、律動に合わせて細い腰を揺らめかせていた。

 くちっ、くちっ、と下肢から淫らな音がする。
蕩けた肉壁が己に絡み付き、艶めかしく蠢いて締め付ける度、クラウドの雄は質量を増して行く。
揺らめく細腰を押さえつけて、角度を変えて上壁を擦ってやれば、雄の先端が敏感な箇所を掠めて、ビクビクとスコールの体が痙攣した。


「っあ、あ…!やっ、待……ひぅっ!」


 ぐりゅっ、と剛直に弱点を抉られて、スコールは目を見開いた。
待って、と言うように彼の腕がクラウドの背中にしがみ付くが、クラウドはそんなスコールを抱き返し、腰の動きを速めて行く。


「やぁっ、あっあっ、あぁ…!クラ、ウ、ド…!…んっ、ひくぅっ!」


 体の奥を突き上げられる度、甘い衝撃がスコールの体を駆け抜ける。
二人の体の間では、スコールの雄がすっかり膨れ上がり、今にも破裂しそうになって震えていた。

 媚肉が雄を締め付ける度に、そのまま絞り出されてしまうんじゃないかとクラウドは思った。
それ程、スコールの中は熱く、居心地が良く、淫らにクラウドを捕らえて離そうとしない。
腰を引けば引き留めるように内壁がぴったりと絡み付こうとまとわりついて、押し進めれば開いてクラウドを奥深くまで迎え入れようとするのだ。
体の相性も然ることながら、此処まで自分を欲しがってくれる恋人に、クラウドが心も体も夢中になるのは当然の事だ。

 しかし、当の本人にはそんな自覚がまるでないらしい。
スコールは投げ出していた足をクラウドの腰に絡め、全身でクラウドに縋る。


「はっ…あ、あっ…クラウド…クラウドぉ……!」
「う、く…スコール、熱……っ!」
「んっ、あっ…いい…っ、クラウド、きもち、い…?ちゃんと、気持ち良く、なって、る…?」
「…っは…ああ……ずっと、気持ち良い……お前が心配しなくても、全部気持ち良い…っ!」
「あ、あ…!んぁあっ…!」


 クラウドの答えを聞いて、スコールの秘孔がきゅうっと締まって、咥え込んだ雄を強く締め付けた。
しがみ付く手足にも力が篭って、ぴったりと身を寄せる彼の貌は、耳まで赤くなっている。
喜んでいると受け取って良いんだろうな、とクラウドは考える事にした。

 内部の微かな膨らみを集中して突き上げる。
ビクッビクッ、とスコールの体が大きく跳ねて、クラウドの背中に爪が立てられた。


「あっ、ん、んんっ…!クラ、ウド…う、んっ」
「イく、か……いいぞ」


 絶頂が近い事を訴えるスコールに、クラウドは言った。
しかし、スコールはふるふると首を横に振る。


「クラウド、が…先……っ!気持ち、良く、…して、から…あ…っ!」


 クラウドがイってから。
クラウドを最後まで気持ち良くしてから。

 最初から今まで、ずっとクラウドを気持ち良くしたい、と言ってくれる恋人の気持ちは、とても嬉しい。
しかし、クラウドにはその気持ちだけでも十分であったし、何より、自分が先にスコールをイかせてやりたい。
絶頂し、体中でクラウドを欲しがる締め付けの中で、スコールの内側に果てたい。

 クラウドはスコールを抱き締めて、最後の律動を始めた。
ずちゅっ、ぐちゅっ、ずちゅっ、と今までの比ではない激しさで、秘孔を雄が出入りする。
スコールは揺さぶられるままに声を上げ、がくがくと全身を震わせ、クラウドにしがみ付いた。


「やあ、あっ、あぁっ!クラウドっ…、イくっ…!だめ、やだ…あぁああっ!」


 最後の最後まで、精一杯の抵抗のように全身を強張らせ、クラウドを締め付けながら、スコールは果てた。
膨らんでいた中心部から、弾けたように勢い良く白濁液が飛び出して、二人の腹を汚す。

 ビクッ、ビクッ、とスコールの体が痙攣したように震える。
同時に、秘奥の壁がクラウドの雄を締め付けて、生き物のように蠢き、クラウドの劣情を限界まで押し上げた。
息を詰めたクラウドの雄から、どろりと熱い迸りが噴き出して、スコールの体内を染めて行く。


「あ、は…あぁ……っ」
「は……ん、ふ…」
「んふっ…は、むぅ……」


 抱き合ったまま口付ければ、直ぐにスコールは応えて来た。
ちゅく、ちゅく、と二人の咥内で猥らな音が鳴っている。

 ちゅ、とクラウドが色の薄い唇に吸い付いて離れると、銀糸が引いて、潤んだ唇を艶やかに演出する。
緩んだ唇から、ほう、と蕩けた吐息が漏れて、熱に浮かされた青灰色の瞳が、じっとクラウドを見詰めていた。


「きもち、よかった……?」


 舌足らずに訊ねるスコールに、クラウドは頷いて、赤らんだ頬にキスを落とす。
背中に回されていた腕が、ぎゅ、とクラウドを掴まえて、


「……もっと、する……」
「気持ちいい事がしたいのか?」


 スコールの呟きに、問い掛けてみると、彼はふるふると首を横に振って言った。


「クラウドが、気持ち良い事……する……」


 細い腰が揺らめいて、くちゅ、と卑猥な音。
乱れた呼吸をそのままに、スコールはゆらゆらと腰を動かして、咥えたままの雄を内壁で締め付けながら擦って刺激を与える。

 まるで何かから解き放たれたかのように、けれど貪ると言うには何処か丁寧な動きで、スコールは恋人を煽る。
酒も入っているし、早く寝かせた方が良いのは判っていたが、クラウドとて男である。
可愛い恋人の願いは、聞かねばなるまい。

 刺激を受けて再び硬さを増して行く熱に、スコールが嬉しそうに笑ったのが判った。




 翌朝、スコールは何も覚えていなかった。
酒を飲んだ事も覚えていなかった。
スコールは酒など飲んでいないと言ったので、恐らく、バッツに水だと騙されて飲んだのだろう。
そしてアルコール耐性の低いスコールは、あっと言う間に酔ってしまったのだ。

 未成年組に酒を飲ませた犯人二名は、ウォーリア・オブ・ライトによってこってり絞られ、しばらくの禁酒を言い渡された。
元より酒が得意ではないと明言しているセシルは、これに大人しく従ったが、バッツはかなり駄々を捏ねた。
が、それもウォーリアに睨まれ、二日酔いになったスコールにまで睨まれては、さしもの彼も黙るしかなかった。

 未成年組は軒並み二日酔いとなった。
元の世界で飲酒に年齢制限のないフリオニールは、他の面子に比べれば酒に慣れているのだが、滅茶苦茶なペースで大量の酒を煽ったのが災いし、起き上がる事さえ出来ない。
比較的軽症で済んだのは、飲む量も少なかったティナとルーネスだが、二人も頭痛が収まらないと言っていた(ついでにルーネスは、すっかり草臥れた兜の飾り羽にも落ち込んでいた)。
ジタンとティーダは置き上がれるものの、頭を揺らすと気持ちが悪くなるので、戦力として数えられない。

 そしてスコールであるが、彼は頭痛、吐き気、胸のむかつき、喉の渇きと言う二日酔いの諸症状の他、体の痛みが酷かった。
主に下腹部全体に渡る鈍痛は、二日酔いにはない症状である。
原因は勿論、クラウドとの長夜に渡る睦み合いなのだが、本人がそれを覚えていない。
症状としては既に何度も経験していたので、情事の記憶がなくとも、スコールは直ぐに原因に思い辺り、目覚めて直ぐ傍にいた恋人に抗議したのだが、


「そろそろ寝た方が良いぞって言っても、あんたが俺を気持ち良くしたいって聞かなかったんだ」
「誰がそんな事言うか!」


 ────こんな遣り取りが、今日は延々続いている。

 ぼすぼすと枕で叩いてくる恋人の横暴を、クラウドは大人しく甘受している。
怒り半分、羞恥半分でぶつけられる枕は、柔らかいお陰でちっとも痛くないし、何より真っ赤な顔で怒るスコールが可愛く見えたので、好きにさせる事にしたのだ。
発散させていれば、直に疲れてベッドに戻る事も予測済みである。

 が、疲れるよりも先に、スコールはダウンした。
興奮した所為で、頭痛と吐き気が一挙に襲ってきて、口元を抑えてベッドに落ちる。


「う……」
「無理するな。吐くなら吐け」


 セシルが用意してくれていたビニール袋を差し出すクラウドだが、スコールはふるふると首を横に振った。
喉奥の気持ち悪さはあるものの、吐くには至らないようだ。
無理はするなよ、と頭を撫でて、ビニール袋を元の位置に戻す。

 クラウドが濃茶色の柔らかな髪を撫でていると、怒ってるんだからな、とじろりと睨みつけられる。


(いつものスコールだな)


 真っ赤な顔で睨むのも、その割には撫でる手を振り払おうとしないのも、クラウドが見慣れた恋人そのもの。
昨夜のように甘えたがりでクラウドの為になんでも頑張ろうとした彼は、顔を見せくれそうにない。

 やはり、昨夜のスコールの大胆な行動や言葉、恋人への夢中の奉仕精神は、酒の力によるものだろう。
いつもクラウドに気持ち良くして貰ってばかりだから、今日は自分がクラウドを───と。
若しかしたらそんな気持ちを、スコールは常に抱えて来たのかも知れない。
しかし恥ずかしがり屋で、性的な事には消極的な彼は、自らそれを言い出す事が出来なかった。
それが、アルコールによって理性や強い羞恥心が融けて、思ったままの言葉がするすると口を付いて出ていたのだ。

 二人きりになれた時、また飲ませてみようか────そんな事を、傍らの悪い大人が考えているとも知らず、スコールは布団に丸く鳴ったまま、恋人の撫でる手に甘えていた。




デレ全開のスコールが書きたいなと思って。
あと、まともなクラウド書きたいなと思って。たまには。

色々してあげたいけど、してあげたい事を思うと羞恥メーターが一気に振り切って何も出来なかったスコール。
タガが外れて夢中になってるスコールって可愛いなーと思います。