あなたが触れているだけで


 秩序と混沌の神が闘争する世界に置いて、最も注意すべき存在は、対立する陣営にある混沌の戦士達だ。
それと並んで、彼等が使役しているイミテーションがある。
が、それらを除けば注意を払うものがないのかと言われると、答えは“否”である。

 この世界には、その場その場に適合している動物もいれば、魔物も存在している。
凶暴なものが多い魔物は勿論、動物も種類によっては獰猛なものも存在し、これらは秩序や混沌と言う区別を持たない為、遭遇すれば区別なく襲ってくる。
混沌の戦士のように意思の疎通が出来ないと言う点では、此方の方が厄介かも知れない。

 とは言え、この世界に召喚されているのは、皆それぞれに腕に覚えのある者だ。
各々のやり方で、危険な動物・魔物との遭遇を回避する事も、撃退する事も出来る。
面倒なのは、秩序の戦士達が魔物や動物と遭遇している最中、混沌の戦士、或はイミテーションが襲撃を仕掛けてくる事だ。
腹を空かした魔物や動物を振り払いながら、容赦なく攻撃を仕掛けてくる敵と戦えと言うのは、幾ら戦いの巧者と言えど、簡単には行かない。
辺り一面を吹き飛ばせるような極大魔法でも扱えれば良いが、戦士達にはそれぞれ得手不得手があるし、そうした大きな魔法は発動させるまでに大きな隙が出来てしまう。
若しも単独行動をしている時、こうした場面に出くわしてしまったら、とても無事では済むまい。

 ────今、クラウドが遭遇しているのが、正にその場面だった。

 混沌の大陸周辺に生息している魔物の牙がトレードに必要、と言うスコールに付き添う形で、クラウドは秩序の聖域を出発した。
素材そのものは特に希少価値のあるものではない為、収集を初めて程無く必要数を集める事が出来たのだが、その帰路で魔物の群れに遭遇した。
トカゲに似た、しかし大きさは人の身長大はあろうかと言う魔物───バジリスク。
動きが素早い上、その眼には見たものを石化させる魔力が宿っており、鋭く尖った牙と爪は神経を麻痺させる毒を分泌させる事が出来ると言う、厄介な相手だ。


「───くそっ、鬱陶しい……!」


 クラウドの背後で、スコールの苦々しい声があった。
微かに呼気が乱れているのが聞こえて、クラウドは眉根を寄せる。

 一匹や二匹なら、幾つかの注意点のみ留意すれば、それ程手のかからない相手なのだが、やはり数と言うのは一種の暴力だ。
接近状態での単体戦を得意とする人間が二人だけでは、辺りをちょこまかと動き回る複数体を仕留めるのは、簡単とは言えない。

 状況の悪さは、それだけではない。
クラウドとスコールは、風を切り裂く矢羽根の音を聞いて、それぞれ前方に向かって跳んだ。
二人違っていた場所に矢が突き刺さり、ぱきぃん、と音を立てて砕け散る。
バジリスクの群れの向こうに、複数の人影があった。
矢を武器とする人間は、この世界では一人しかいない───それは秩序の戦士であるフリオニールだ。
だが、彼はこの場にいないし、そもそも彼が仲間に向かって矢を番えるはずがない。
言わずもがな、バジリスクの群れを壁にして、その向こうに立っているのは、イミテーションの軍団であった。


(こっちに近付かずに矢で……俺達が相手なら、距離は縮めない方が良いと判断したか。頭が回ると言う事は、上位種だな)


 背中を狙って飛び掛かって来たバジリスクを、クラウドは体を捻って切り捨てた。
遠心力に任せ、並んで襲い掛かってくるバジリスク達の腹を切り裂く。

 イミテーションの軍団は、クラウドが目視できる数だけでも、三体いる。
義士、少女、死神と言う面子に、クラウドは舌を打った。
スコールが行った方向にも気配はするので、弓矢の他遠距離攻撃に精通する武器を持った義士と、強力な魔法を扱う少女と死神……魔法か遠距離戦が得意なイミテーションが待ち構えているだろう。
クラウドにとってもスコールにとっても、相性の悪い組み合わせだ。

 しかし、泣き言を言っても状況は変わらない。
クラウドはバスターソードを握る手に力を籠め、振り上げた剣を裂帛の咆哮と共に振り下ろした。
風圧と剣圧が衝撃波を生み、視界を塞ぐバジリスク達を襲う。
数メートル離れた場所から、火薬の爆発する音が響き、粉塵が舞い上がる。
風が吹いて巻き上げられた塵の隙間から、ほんの一瞬、此方を睨む蒼灰色と碧眼がぶつかった。


(体力の温存なんて悠長な事は言っていられない)
(一気に片を着ける!)


 互いのやるべき事を確認して、クラウドとスコールは背を向け合う。
餌を食い合うように一気に飛び掛かって来たバジリスクに向かって、クラウドは炎を放ち、爆音が消えない内に地を蹴った。




 イミテーションよりもバジリスクの方が厄介だった───終わった戦闘を振り返って、クラウドは思う。

 三体のイミテーションは、常にクラウド達から距離を保ち続けていた。
撃っては引き、撃っては引きを繰り返し、近接戦を得意とするクラウドの間合いには決して近付こうとはしなかった。
その距離を更に広げさせるのが、次から次へと湧いてくるバジリスクである。
絶え間なく飛び掛かって来る巨大トカゲを片っ端から切り捨て、数を減らして、ようやくクラウドはイミテーション達に追い付いた。
最初に少女を、間を置かず死神を排除し、尚も距離を取ろうとする義士に追い付いて、クラウドは遂に戦闘を終えた。

 手を焼かせてくれた、とバジリスクの骸の山を一瞥し、その向こうにいる少年を呼ぶ。


「スコール!無事か!」


 いつの間にか、後方から戦闘の音は消えていた。
バジリスクもイミテーションも此方に来ないので、恐らく彼も戦闘を終えている筈。

 クラウドの声に応えるように、一つ強い風が吹いて、土煙を浚って行く。
黒衣の少年の姿は、程無く確かめる事が出来たのだが───彼は、ガンブレードを地面に突き立て、片膝を着いていた。


「スコール!」
「……聞こえてる……」


 駆け寄って名を呼べば、面倒臭いと言わんばかりに、小さな声で呟かれる。

 クラウドは片膝を着いて、スコールの顔を覗き込んだ。
はぁ、はぁ、と息を切らしたスコールの額に、じっとりと脂汗が滲んでいる。
体力的にはクラウドにやや劣る面のあるスコールだが、この困憊振りは単純に疲労の所為だけではないだろう。
クラウドが眉を潜めて彼の身体を見分すると、スコールは左手で右脇腹を押さえている。


「やられたのか」
「………」


 ぎり、とスコールが唇を噛む。
失態を見付かったのは、プライドの高い彼には屈辱だったに違いない。
しかし、負ってしまった傷は放置する訳には行かなかった。


「見せてみろ」
「……移動してからだ。血の匂いで、他の魔物が寄ってくる」


 処置を施そうとするクラウドの手を拒否して、スコールは言った。

 確かに、辺りにはバジリスクの血が撒き散らされている。
血の匂いは魔物達に獲物の位置を知らせ、腹を空かせた者が誘われて来るまで時間はかかるまい。
この周辺にはイミテーションの影も少なくない為、もたもたしていると、また魔物と上位種のイミテーションと同時に戦う羽目になり兼ねない。

 判った、とクラウドは頷いて、スコールの肩を持ち上げてやる。
スコールは自力で立ち上がろうとしていたが、身体の右側が上手く動かないらしく、結局、殆どクラウドに支えられる形となってしまった。
ずる、ずる、と右足を引き摺りながら歩くスコールを抱え、クラウドは周囲の気配に細心の注意を払いながら、鬱蒼とした森の中に入って行った。

 見通しの悪い鬱蒼とした森は、敵襲を警戒するには不利な場所だが、姿を隠すには適している。
魔物は匂いを頼りに追って来る者もいるので、姿を隠せば安全と言う訳ではないが、イミテーションに関してはこれは通用しない。
あれらは人間で言う視覚に頼って秩序の戦士達を探し彷徨っているので、見えない場所に紛れてしまえば、あれらは此方を見付けるまで時間がかかる。

 森の中の川辺までスコールを運んだクラウドは、木の根元にスコールを座らせ、赤い沁みの滲んだシャツを捲る。
其処には裂けた皮膚があり、じわじわとした出血が続いていた。
クラウドは一先ず、手持ちの布を破り割いて川の水に浸し、傷口の回りを拭いてやる。


「痛いか?」
「……いや……」


 眉根を寄せるスコールの言葉に、クラウドは嘘を吐け、と思ったが、どうやらそうではないらしい。
クラウドがそっと傷口に触れてみると、スコールは身動ぎ一つする事なく、ただ唇を噛んでいた。

 バジリスクの持つ毒は、神経の感覚を麻痺させる。
恐らく、クラウドが触れている感覚すら、今のスコールには判らないのだ。
右脚と右腕が力なく投げ出されている所を見ると、麻痺毒はスコールの右半身に大きく広がっているようだ。


「……無茶をするなよ」
「…仕方がないだろ。治す暇なんかなかった」
「それはそうだが。少しは感覚は戻って来ているのか?」
「……戦闘が終わった時は、足の感覚もなかった。今は少しだが、ある。時間が経てば元に戻ると思う」
「それまでは動かない方が良さそうだな」


 ───となると、今日は秩序の聖域に戻るのは難しいだろう。
テレポストーンは此処から離れた場所にあるし、空を見上げれば夕闇が濃くなっており、日暮れまで後幾許もない。
感覚が戻り始めているとは言え、半身が上手く動かない状態で敵に襲われては、振り払うのも難しい。


「麻痺しているのは、腹周りと、右足と。腕はどうだ?余り動かせないようだが」
「腕は問題ない。肩が上がらないんだ。多分、爪を引っ掛けられた」
「よくそれで戦えたな」
「肩の麻痺が効いて来たのは、さっきからなんだ。傷も深くないし、こっちは直に消える筈だ」
「そう言う事は、確認もしないで言うんじゃない。見せろ」


 言い終わらない内に、クラウドはスコールのジャケットを半脱ぎにさせて、白いシャツの襟を引っ張る。
襟口の端に、白い肩が覗いて、鬱血のような線が浮き上がっていた。
これがバジリスクの爪によるものなら、麻痺毒は此処から広がっている事になる。

 スコールが言うには、肩の麻痺は始まったばかり。
今は右肩のみにその症状は留まっているようだが、放っておけばもっと拡がる可能性もある。
処置は早い内に越した事はない……が、クラウドもスコールもエスナは使えないし、万能薬も持っていない。
持ち出すアイテムの選び方を間違えたな、と今更後悔しつつ、スコールの肩の鬱血を見詰めながら、どうしたものか、と考える。
そんなクラウドを、スコールは眉間の皺を深くして睨んだ。


「おい、もう良いだろう。寒い」


 ジャケットを脱がされ、シャツの襟を引っ張られて、スコールは首下を無防備に晒す格好になっていた。
加えて、世闇に誘われたように冷たい風が吹き、川辺からもじっとりと湿った冷気が漂って来る。
寒さを嫌うスコールがクラウドを咎めるように睨むのも、無理はないだろう。

 が、クラウドはスコールのシャツを掴む手を離さなかった。
碧眼がじっと鬱血を見詰めている。


「……吸い出してみるか」
「は?────!?」


 クラウドの呟きに、きょとんと首を傾げたスコールだったが、直後、彼は目を剥いた。
鬱血の浮き上がった自分の肩口に、クラウドが吸い付いたのだから、当然だ。


「ちょ……クラウド!あんた、何やって」
「応急処置の基本だろう。毒は吸い出して置いた方が良い」
「それは毒蛇に咬まれた直後の話だろ!もう時間も経ってるし、今更そんな事しても───」
「やらないよりはマシだろう」
「やっても意味がないって言ってるんだ!」
「良いから大人しくしていろ」


 自由にならない右半身の代わりに、左半身でもがくスコールだが、全身を持っても力で敵わない相手に、半分の力で勝てる筈がなかった。
クラウドは暴れるスコールを抱き締めるように抑え付けて、肩口に顔を埋めている。
スコールの視界の隅で、クラウドが自分の肩を舐めているのが見えた。
出血する程もなかった、掠っただけの傷跡を丹念に舐め、吸い付く男の横顔に、スコールの顔に朱色が上る。

 感覚が麻痺している所為で、クラウドの舌や唇の感触は、スコールには判らなかった。
しかし、耳元でぴちゃ、ちゅぷ、と言う水音が聞こえるのが、スコールの羞恥心を煽る。


「……っふぅ…ん……」


 時折聞こえる男の声が、また更にスコールを煽っていた。
距離を近付ける事が苦手なスコールが、誰かとこんなにも近付く時と言ったら、ジタンやバッツが飛び付いて来た時を除けば、クラウドと褥を共にする時位のもの。
その時、耳元で聞こえていたクラウドの息遣いが、今の彼のそれとよく似ている気がする。

 これは治療だ、とスコールは自分に言い聞かせていた。
必要ないし、やった所で意味はないだろうが、一応、クラウドは処置のつもりでこんな行為をしている。
疾しい意味等ないのだから、自分は何も意識する必要はないのだと、スコールは頭の中で繰り返し呟く。

 ちゅう、ちゅ……と何度も音が繰り返されている間に、段々とスコールの肩には感覚が戻っていた。


「クラ、ウド……」
「……ん?」


 名を呼ぶと、クラウドが短く返事を返す。
スコールが肩口を見遣ると、クラウドの色の薄い唇から覗く赤い舌が、鬱血の上をゆっくりと舐めていた。
ねっとりとしたものが肩を這うのが判って、スコールの身体が微かに震える。


「っん……も、もう…いい……っ」
「まだ、もう少し───」
「もう治ってる……!」


 まだ自由に動く訳ではないが、痺れは消えて、感覚も蘇っている。
あとは時間が経てば、ぎこちなくも動かせる程度には回復するだろう。

 スコールが左腕でクラウドの胸を押す。
退いてくれ、と言うその訴えに、クラウドは意外にすんなりと体を離した。


「感覚、戻ったのか」
「……少し」


 だから処置はもう必要ない、と言うスコール。
しかし、クラウドはいいや、と首を横に振った。


「こっちの処置がまだだ」


 こっち、とクラウドの手が触れたのは、スコールの脇腹───出血の止まった傷口だ。
スコールは顔を赤くして、傷口に近付こうとするクラウドの頭を掴んで押し退けようとする。


「い、いらない!そっちももう……」
「消毒もしないと駄目だろ」
「必要ないって言ってる!」


 片腕だけでは抵抗するに足りないと、スコールは左脚でクラウドの腹を蹴り上げようとする。
が、クラウドは片手でスコールの膝を押さえるだけで、その抵抗を封じてしまう。
利き手・利き足の右半身が自由にならない事が如何に面倒か、スコールは深く知る事となった。

 クラウドはスコールのシャツをたくし上げ、白い脇腹に滲んだ赤い痕に唇を近付けた。
赤い舌がゆっくりと傷跡を舐めるのを見て、スコールの顔が火を噴いたように赤くなる。
ピリピリとした小さな電流が流れるのを感じて、スコールは感覚が戻っている事を忌々しく思う。


「…っう……!」
「痛むか?」
「……判って、る、なら……っ」


 止めろ、と言うスコールの言葉は、最後まで音にならなかった。
ちゅう、とクラウドが脇腹に吸い付いて、ヒクン、とスコールの躯が震える。

 スコールは腰を引かせて逃げようとするが、背にした木が邪魔をする。
その上クラウドに腰を抱かれ、動かないように固定されれば、最早スコールに逃げ場はない。


「や……んっ…!」
「痛いならちゃんと言えよ」
「……ふ、ぅ…っ」


 痛い方がまだマシだ、とスコールは噛んだ唇の中で呟いた。

 クラウドの舌が肌を這う度、ぴりぴりとした微弱な電気が流れるのが判る。
麻痺毒の効果が消えつつある上、傷の痛みと、その周囲の感覚が鋭敏になっている所為で、些細な刺激にも身体が反応してしまう。
これなら、まだ暫く麻痺したままの方が良かった、とスコールは投げやりに思う。

 スコールの左手がクラウドの肩を掴む。
拒絶しようとしている筈なのに、碌な力が入らない所為で、スコールの手は添えられているようにしか見えなかった。
クラウドはそんなスコールの手を掴み、ぎゅう、と強く握れば、同じだけの力で握り返される。


「う、く……クラ、ウド……痛っ……!」
「……ああ。悪い」


 傷の中心部に舌を押し付けられて、スコールは思わず顔を顰めた。
咎めるスコールの声を聞いて、クラウドは宥めるように、傷の端からゆっくりと舐め上げて行く。

 クラウドの腕の檻の中で、スコールの細い腰が何度も戦慄く。
スコールは断続的に与えられる刺激に、耐えるように、強く唇を噛んでいた。
じっとりとした汗がスコールの肌に滲み、クラウドの手を握る彼の手が震えている。

 はあ、とクラウドの吐き出した吐息が、スコールの脇腹にかかる。


「…っ……!」


 ぴくん、と震えたスコールの躯が、隠れるように縮こまろうとする。


「痛むか?」
「……んっ……」


 体が反応する本当の理由を悟られまいと、スコールはクラウドの言葉に頷いた。
「気を付ける」と言うクラウドに、気を付けなくて良いから早く終わってくれ、とスコールは思う。

 クラウドの唇が傷にゆっくりと宛がわれ、ちゅう、と吸われる。
二度、三度と繰り返される行為に、スコールの薄い腹筋がひくん、ひくん、と跳ねた。


「左脚、まだ感覚は戻らないか?」
「…すこ、し…だけ……」
「戻って来ている?」
「……ん…」


 腰を抱いていたクラウドの手がするりと動いて、スコールの臀部を撫でる。
そのまま手は更に降りて行き、スコールの太腿を擽った。
しかし、スコールの躯はその優しい手付きまでは未だ感じられず、傷口を消毒していた時と違い、反応は鈍い。


「……もう少し吸い出した方が良いな」


 そう呟いて、クラウドは再度スコールの傷口に唇を当てた。
ちゅう、ちゅっ、ちゅうっ…と繰り返される吸引に、スコールは眉根を寄せて唇を噛む。
クラウドの手を握るスコールの手に力が篭り、いやいやをするようにスコールは頭を振った。


「やっ……クラ、ウド…っ!」
「ん、ぷ……っ」
「……っあ……!」


 ちゅう、と一際強く吸い付かれて、スコールは首を逸らした。
投げ出された右手が土を掴む。

 太腿を撫でていたクラウドの手が、スコールの傷口の縁に触れる。
酷く優しい手付きで傷の縁を撫でられる度、スコールの身体にはちりちりとした痛みのような、微粒な電気が流れてくる。

 スコールの脇腹の傷は、クラウドの唾液で濡れ、赤黒い痕は大分薄れていた。
が、裂けた皮膚は簡単に元には戻らない。
傷痕は出血程深くはなく───出血の原因は、治療を後回しにして戦闘を続けていた所為だ───、ケアルを使えば直ぐに直る程度のもの。
麻痺毒さえ消えてしまえば、特に留意しなければならない傷ではあるまい。


「…んっ…う……っ!くぅ、ん……!」


 クラウドは丹念にスコールの傷に舌を這わせ、それが齎す感覚に、スコールは唇を噛み続けた。
しかし、喉奥からはくぐもった甘い声が漏れるばかり。
その声は、クラウドが情事の際によく聞いている、恋人の声とよく似ていた。

 脇腹の傷を宥めるようにくすぐりながら、クラウドがスコールの様子を伺うと、彼は赤い顔で目を閉じ、唇を噛んでいる。
クラウドが舌先で傷に触れる度、スコールの身体が小さく震え、熱の篭った吐息が零れていた。
白い肌が耳まで赤くなっているのを見て、クラウドはひっそりと笑みを漏らす。


「……感じてるのか、スコール」
「……っ…!」


 問うて、傷口に吸い付いてやれば、ビクッ、とスコールの躯が跳ねる。

 クラウドはスコールと繋いでいた手を解いて、左脚の太腿を撫でた。
左脚と違い、傷を負っていないスコールの右脚は、触れる男野手に反応して、逃げるように膝を寄せる。
クラウドの手は太腿の下を潜り、スコールの中心部に触れ────張り詰めたその感触に、クラウドの唇が弧を描く。


「勃ってるぞ」
「……っ」


 スコールの顔が林檎のように赤くなり、ふるふると首を横に振る。
違う、と言うスコールに、クラウドはくすくすと笑い、


「手当、してるだけなんだがな」
「うそ、つけ……っ!」


 この行為は、スコールの体内にある麻痺毒を吸い出す為───そんな言い訳は、最早通用しない。
クラウドの手はスコールの劣情を煽るように触れ、悪戯な気配を臭わせており、スコールもまた、その意図を汲み取るように躯が反応を示している。

 クラウドの手がスコールの腰のベルトを外し、ズボンのフロントジッパーを下げる。
下着がずらされると、膨らんだ雄が顔を出し、その先端からは先走りの蜜が零れ出している。


「こっちも吸い出しておくか?」
「バ……あぁっ!」


 馬鹿な事を言うな、とスコールが声を荒げる暇もなく、クラウドはスコールの雄を口に含んだ。
ねっとりとしたものが自身の中心部を万遍なく撫でる感覚に、スコールは甘い痺れが躯の内側で拡がって行くのを感じる。


「あ、あ…、あぁっ……!」
「ん、ちゅっ……んぷっ……」
「やあ……っ!や、め…クラウド……!」


 根本まで深く咥え込まれ、裏筋を擽られて、スコールは頭を振る。
クラウドはスコールのズボンを下着ごと引き下ろすと、彼の寄せられた膝を割り、動かない右足を押し広げた。
剥き出しにされた恥部に顔を寄せる男を見て、スコールは顔を真っ赤にし、クラウドの頭を掴んで押し離そうとする。


「や、だ……やっ、あっ…あぁ……っ!」


 ちゅっ、ぢゅうっ、と陰部を啜られて、スコールの背中をぞくぞくとしたものが走る。
スコールは背後の木に背中を押し付けて、不自由な体を捻って逃げを打った。
しかし、スコールがどんなに逆らおうとしても、身体の反応を覆す事は出来ない。

 ぢゅうぅっ…!と一際強く吸い上げられて、スコールの右半身がビクッ、ビクッ、と痙攣する。
同時にスコールの雄が絶頂を迎え、クラウドの咥内にどろりとしたものが吐き出される。


「あぁ、あっ…!やぁあ……っ」


 熱に溺れた蒼灰色の瞳が宙を彷徨い、クラウドの頭を掴んでいた手に力が篭って震える。
髪を引っ張られる感覚を、クラウドは特に気にしなかった。
咥内を汚す熱いものを堪能しながら、膨らみの収まらないスコールの雄に舌を這わす。

 果てた直後の敏感な雄の裏筋をくすぐられて、スコールの薄い腹がビクッ、ビクッ、と痙攣する。
その反応を楽しみながら、クラウドはスコールの尻の谷間を撫で、狭間の窄まりに指を這わす。
指先が触れるだけで、ひくっ、と震える其処に、クラウドはつぷっ……と指の先端を埋めた。


「ああっ……!」
「ん、は……よく締まるな…」
「ひ、ひぅっ……んんぅっ…!」


 ぬぷ、にゅぷぅ……とゆっくりと沈められて行くクラウドの指を、肉の内壁がきゅうきゅうと締め付ける。
クラウドが指を曲げると、くにっ、くにっ、と肉壁が押され、その度にスコールの身体がビクビクと跳ねた。


「やっ、あっ、あっ…!あくっ…!」
「気持ち良いか?スコール」
「…や…そこ、で……喋るなっ…!」


 クラウドが喋る度、スコールの中心部に触れる吐息。
それを嫌って頭を振るスコールだが、クラウドはそんな恋人の反応さえも楽しむように笑い、


「ほら、この辺り。好きだろ?」
「やっ、ひぃんっ……!」


 かかる吐息に身を震わせる暇もなく、内部の微かな膨らみを指先で押し潰されて、スコールの喉から甘い悲鳴が上がる。
神経の集中した場所を連続して攻めれば、スコールの顔はあっと言う間に赤く染まり、蕩けて行く。


「ひっ、あっ…!ん、あぁっ…!」
「んぢゅっ……」
「あぁあっ……!」


 スコールの秘部を弄りながら、クラウドは再び頭を持ち上げ始めた雄を口に含んだ。
ぬろっ、ぬろっ、と裏筋を撫でる艶めかしい舌の感触に、クラウドの咥内で雄が小刻みに震えている。
更に内壁の膨らみをぐりぐりと押し抉られて、スコールの左脚がピンと伸びる。

 力なく投げ出されたスコールの右脚を、クラウドが持ち上げ、肩に乗せる。
木に寄り掛かったスコールの背中がずるずると落ちて行き、地面に仰向けになった。
麻痺が抜け切らないのだろう、スコーールの右半身はくったりと投げ出されており、左腕だけが縋る場所を探して彷徨う。


「は、っあ……あぁっ…クラウ、ドぉ……っ!」
「っふ…はふっ……んん……」
「やぁ、あ……も、もう……んんっ!」


 クラウドが頭を動かす度、その口から自身の雄が出入りするのを見ていられず、スコールは目を閉じた。
拒むように身体に力が入り、秘部に埋められた指を締め付けてしまい、また声が上がる。

 指を咥え込んだスコールの秘部は、入り口からその内部から、ヒクヒクといやらしく伸縮している。
クラウドはねっとりと絡み付いて来る肉壁を堪能するように、指先で大きく円を動かすようにぐるぐると内部を掻き混ぜてやる。
くちゅっ、にゅちっ、と陰部が音を立てる度、スコールの雄がクラウドの咥内で膨らみを増す。


「はっ、あっ…!クラ、あ…あぁ……っ!」
「ん……イく、か?」


 ちゅぽっ…とわざとらしく音を立てて雄を解放したクラウドの言葉に、スコールは目を閉じたまま、小さく頷いた。
よし、とクラウドは満足げに言って、スコールの秘部に埋めていた指をゆっくりと引き抜く。


「あっ、あっ……!」
「スコール。足、まだ動かないか?」
「……ん、ぅ……」


 もう一度スコールが小さく頷く。


「じゃあ、肩はどうだ?右腕、使えるか?」
「……あまり……」
「ふむ……」


 スコールの答えを聞いて、クラウドは考えるように沈黙する。
なんか嫌な予感がする、とスコールは思うが、身体は未だに不自由、その上熱が昂った状態では、主導権を握った男に逆らう事は出来ない。

 クラウドはスコールの左足を掬って持ち上げると、スコールの顔の横に膝が着く程に体を折り曲げた。
腰が高く上がり、陰部を差し出すような格好になったスコールを見て、クラウドの中心部に熱が集まる。
スコールは息苦しさに眉根を寄せ、呼吸が楽になる姿勢を探すように身を捩っていたが、そうするとクラウドからは、スコールが物欲しげに腰を揺らしているようにしか見えない。

 クラウドは、はふ、はふ、と心許ない呼吸を繰り返すスコールの耳元に顔を寄せ、耳朶を甘く噛んだ。


「あぁっ……!」
「足、このまま抱えていろ」


 クラウドはスコールの左手を掴むと、白い太腿の裏側へと誘導し、自身の足を抱えさせる。
言われた通りに従い、スコールは自ら恥部を曝け出すような格好になって、赤らむ顔を隠すように目を背けた。
右足がクラウドの肩から落ちるが、クラウドは構わず自身の前を寛げて、地面に半身を預けているスコールの上に覆い被さる。

 反り返った肉の塊の先端が、スコールの淫部に押し当てられる。
会陰に竿を擦り付けながらクラウドが腰を揺らせば、スコールの唇からもどかしげな甘い声が漏れた。


「あっ、あっ…、ふ、あ……んっ…!」
「っは…スコール……」
「ふ、あんっ…!や、あぁっ……!クラウド…、クラウドっ……!」


 足を抱えたスコールの左手に力が篭る。
自身の足に縋るように、膝を引き寄せて縮こまりながら、スコールはビクッ、ビクッ、と四肢を震わせた。


「も、早く……クラウド……あぁっ…!」


 焦らされる熱に耐え兼ねて、スコールは求める声で男を呼んだ。
蕩け切った瞳で見上げる恋人に、クラウドは小さく頷いて、秘部に怒張した雄を宛がう。
ひくん、ひくん、と蠢く秘孔口を押し広げ、クラウドはゆっくりと自身の欲望を埋めて行った。


「あっ、あっ、あぁああぁっ……!」


 固く熱いものが自分の中に潜って行くのを感じて、スコールの身体がビクビクと跳ねる。
肉壁は待ち望んでいたものをようやく得られた悦びからか、みっちりとクラウドに絡み付いて行く。

 最も太い部分が入口を潜って、スコールが腰を捩る。
虚ろな瞳が彷徨い、赤らんだ頬を透明な滴が伝った。
しかし、スコールの表情は苦悶とは程遠く、腰から這い登って来る甘い痺れが脳まで浸透しているのが判る。

 熱の塊を根本まで挿入して、クラウドは一度息を詰めた。
ぎゅちっ、と食い付いて来る内壁に、自身の熱を全て奪われそうになる。
昂ぶりの度合いを示すように、どくん、どくん、と体内で脈打つ雄に誘発されるように、スコールの興奮もまた高まって行く。


「は…クラ、ウド……っあ、あ…!」


 スコールは更なる快感を求めるように、細い腰を淫靡にくねらせている。
クラウドはその腰を捕まえると、一つ短く息を吐いて、自身を奥へと打ち付けると同時に、細腰を引き寄せる。
ずんっ!と最奥へと強く穿たれた熱に、スコールの躯が弓形に反りかえった。


「んぁあっ!」
「…っく……ふっ!んんっ!」
「ん、う…あっ、あっ…!あっ…!ああっ…!」


 クラウドの律動に合わせて、スコールの躯が揺さぶられ、嬌声が上がる。


「んっ、ふぁっ…あっ、深っ……あっ、ひんっ…!」
「傷、汚れないようにしないとな……っ」
「や、触るな……あぁっ……!」


 脇腹の傷が地面で擦れないよう、クラウドの手が傷痕を覆うように隠す。
その瞬間、ぴりぴりとした感覚が体を襲って、スコールの淫部が強く締まる。

 スコールの右半身は、まだ自由に動かない。
しかし、いつの間にか感覚は戻っていて、クラウドが触れると、その感触が具に伝わってくる。
昂ぶりの中で戻った皮膚感覚は酷く敏感になっていて、クラウドの躯や服が当たるだけでも、官能に似た刺激を感じてしまう。


「傷、触られると気持ちが良いのか?」
「そんな、訳、ない……あぁっ!」
「でも、お前の此処は締め付けて来るぞ」
「ん、ん……あふっ、はぁっ……あぁ…っ!」


 傷口のある脇腹を撫でられ、ぐりゅっ、と奥壁を抉られて、スコールの躯が一際大きく戦慄いた。

 左脚を抱えていたスコールの腕には、もう幾らも力は残っていない。
しかし、腕が解けそうになると、クラウドの手がそれを阻んだ。
クラウドはスコールの腕ごと足を抱え、上から押し潰すように腰を叩きつける。


「ああっ、あっ、はっ、はげし…っ!ク、クラウド、待、あぅんっ!」


 皮膚を打ち合う音が響く程の激しい律動に、スコールの不自由な右腕が土を掻く。
その様子を見下ろして、クラウドは小さく笑い、


「考えてみたら……殆ど抵抗できない、訳だな。今のお前は」
「ふ、あっ、あっ…!そこ、んっ…やぁ……!」
「悪くない、かもな。大人しいお前と言うのも」
「んんっ……あっ、あぁっ…!」


 いつものスコールなら、性交の最中、恥ずかしがってじたばたと暴れている所だ。
しかし今日は右半身がまともに動かない所為で、抵抗らしい抵抗も碌に出来ず、クラウドにされるがままに流されるしかない。
触れ合う度に恥ずかしがる恋人の姿を、クラウドはこっそりと気に入っているのだが、こうして従順に従い、快感に喘ぐ姿も、中々興奮を誘う。

 ぐちゅっ、ぬちゅっ、と言う卑猥な音が響く度、スコールの淫部が強く締まる。
クラウドが少し腰を揺らしただけでも、スコールには官能の刺激となり、熱に溺れた蒼の瞳が助けを求めるようにクラウドを見上げる。


「はっ、クラ、ウド、くらうど……っ!も、もう…んっ、んぁっ、あぁっ…!」
「…っく、ああ……はっ、俺も……!」


 縋るスコールに応えて、クラウドはスコールの躯を抱き寄せた。
膝を抱えていたスコールの左腕が解け、クラウドの首に回される。
右腕は持ち上がらない為、地面に垂れたままだったが、クラウドが導いてやれば、なけなしの力で抱き着いて来る。

 ラストスパートをかけるように、クラウドの腰の動きが激しさを増す。
淫部を犯す熱は、入り口から最奥までを万遍なく蹂躙し、秘奥の壁をずんずんと突き上げる。


「あふっ、あっ、あっ…!クラウド、イくっ…んっ、出るう……っ!」


 ビクッ、ビクッ、ビクッ、とスコールの躯が戦慄いて、二人の躯の狭間で白濁液が飛び散った。
同時に淫部の中がきゅううと閉じ、クラウドの雄を根本から先端までみっちりと絞るように締め付ける。
クラウドがぎりっと歯を噛んだ直後、スコールは自分の体内に熱いものが注がれるのを感じた。




 ぱち、ぱち、ぱち、と火花の弾ける音がする。
それ以外には風の音すら聞こえない、静かな夜であった。

 火の番を務めるクラウドの傍らで、スコールがすぅすぅと寝息を立てている。
彼の身体を蝕んでいた麻痺毒は大分消えたようで、寝入る頃にはゆっくりと動かせる程度に回復していた。
しかし、それでも戦える程の回復とは言い難い。
今夜はゆっくり休息し、安静に過ごす事が出来れば、明日には自分の足で歩けるようになるだろう。

 クラウドは夕飯兼夜食となった魚の缶詰を胃に掻き込みながら、数時間前の睦み合いを思い出す。
自由にならない身体を男に預け、疲れ果てるまで応え続けた恋人の姿は、中々いじらしく、男の欲望を誘うものがあった。
普段、良くも悪くも大人しく触れ合いを甘受しないスコールだから、余計にそう思うのだろう。
だから、偶には大人しく従順な彼に興奮を覚えた面もあったのだろうが、


(抱き付けないのは当然か。体がまともに動かないんだから)


 右肩が上がらず、脇腹を中心に右半身を動かす事が出来なかったスコール。
左腕は自分の意思のままに動かせるとは言え、それでも体半分の不自由と言うのは、案外と大きな喪失である。

 最後の瞬間、縋り付いたスコールの腕。
それが左腕一本だけだった事が物足りなく思えて、クラウドは半ば強引に、彼の右腕を自身に導いた。
縋る右腕の力は弱かったが、求めて縋る熱量はいつもと変わらない事に、クラウドは密かに安堵していた。

 クラウドは、傍らで眠るスコールの頬を撫でた。
触れる感触に気付いたスコールが身動ぎして、右腕が持ち上がる。
何かを探すように彷徨う手をクラウドが捕まえてやれば、ぎゅ、と甘えるように握られたのが判った。




傷を舐められて感じてるスコールが浮かんだので(唐突)、クラウドにやって貰いました。
真面目に治療する気もあった筈なんだけど、欲望に勝てなかったようです。