零れ落ちる、その前に


 突然の事故により女の体へと変化してしまったスコールは、元に戻るまでは待機を余儀なくされた。
余りに怠けているのは体が鈍ると言うので、ウォーリアが日課のように熟している秩序の聖域近辺の見回りはしているが、其処には必ずフリオニールが同行している。
微妙な身体の変化で間合いの読みが鈍る事もあり、一人で行動させるのは危険と判断しての事だった。
どちらかと言えば一人で行動したがるきらいのあるスコールにとって、恋人とは言え常に誰かが傍にいるのは落ち着かないものであったが、そもそも大人しくしろと言われているにも関わらず、我儘宜しくそれを拒否したのは自分である。
いつ元に戻るか判らないと言う事は、普通に過ごしている日常の中は勿論、戦闘中に体の変調が起きないとも限らないのだ。
その所為で命の危機に陥る事でもあれば、目も当てられない。
同行者を、苦手としているウォーリアや、賑やかな面々に指定されなかっただけでも良しとするべきだろう、とスコールもフリオニールの同行を受け入れた。

 スコールは自覚していない───或いは認め難いのか───ようだが、女になってしまってから、体力もやや落ちているように見受けられた。
元々女性であり、魔法使いであるティナよりも基礎体力はあるが、本来の男の体である時に比べると、筋力や骨格の違いと言った差異も含めて、あらゆる面に影響が出ているのだろう。
イミテーションや魔物との遭遇により、一戦一戦を重ねる内に、積み上げられる疲労度が違う。
足や手数を活かした戦闘スタイルも、今のスコールには少し辛いのかも知れない。

 その事に気付いてから、フリオニールは早めに見回りを切り上げるように努めていた。
そろそろ夕飯の時間だから、雲が出て来て暗くなるのが早いから、傷薬を切らしたから。
下手にも聞こえる言い訳が精一杯であったが、それでも帰ろうと言うタイミングをよく考えて提案すると、スコールも頷いてくれた。
其処には、我儘を言った自分にフリオニールを付き合わせている、と言う負い目もあったのかも知れない。

 今日はフリオニールが帰投のタイミングを申し出る暇もなく、昼過ぎには切り上げとなった。
遭遇した植物系の魔物───グラットが吐き出した粘液を、フリオニールが被ってしまった所為だ。
倒した際に胎内に蓄積させていた液体をぶちまけてしまったもので、消化液の類ではなかった事は幸いだが、べとついていて気持ちが悪い。
とてもこのままで過ごしていられるものではなかったので、聖域までそう遠くはない事もあり、戻ってシャワーを浴びる事にしたのだ。
これを提案したのはスコールで、フリオニールはその辺の川でも良いのだけど、と思ったが、気遣いは有難い。
何より、綺麗に洗い流すのなら、川より屋敷の風呂の方が良い事も確かなのだ。

 屋敷に戻ると、待機番のセシルに出迎えられた。
セシルは粘液塗れになったフリオニールを見ると、大体の事を察したようで、直ぐに風呂を入れると言ってくれた。
しかし、体液を被ると言う目には遭ったものの、早い帰還であった為、疲労度としては然したる事はない。
フリオニールはシャワーで十分だと言って、帰還した足でそのまま風呂場へと向かった。

 頭からシャワーの湯を浴びて、ふう、とフリオニールは息を吐く。
鎧の隙間から入り込んでいた粘液は、べたべたとしつこく、湯を被っているだけでは溶けそうにない。
石鹸のついたタオルでがしがしと強めに擦って、ようやく取れる頑固さであった。


(スコールが被らなくて良かった。こう言うのは嫌がるだろうしな)


 フリオニールとて平気と言う訳ではないが、スコールはこうした類を一層嫌う節がある。
魔物の体液と言う点で好んで被りたくない代物ではあるが、べっとりとまとわりつかれる感触が嫌悪の対象なのだろう。

 殆ど正面から体液を被った為、多くは体の前面に付着していたが、一応背中も洗うか、と思っていると、風呂場の戸口が開く音がした。
誰か帰って来たのか、と挨拶しようと顔を上げて、フリオニールは其処に立っている人物を見て目を丸くした。


「ス……っ!!」


 濃茶色の髪、蒼灰色の瞳、額に走る傷。
見間違えようもない人物の顔を見た直後、白い体が惜しげもなく曝け出されているのを見てしまい、フリオニールは言葉を失った。

 完全にフリーズしてしまったフリオニールを見て、スコールの足がぺたぺたとタイルの床を歩く。
いつもなら誰かと風呂に入る時、スコールは必ず腰にタオルを巻いて中心部を隠しているのだが、今はそれすらなく、スコールは文字通り裸だった。
そんなスコールが近付いて来る事に気付き、フリオニールは慌てて逃げようとするが、


「動くな。背中、洗ってやる」
「えっ!あ、ええっ!?」


 立ち上がろうとした肩を上から押さえ付けられ、フリオニールは混乱した声を上げる。
それにも構わず、スコールはフリオニールの手から石鹸の沁み込んだタオルを奪い取り、小さく畳んでフリオニールの背中に押し当てた。


「ちょ、スコール……何して……」
「背中を洗ってる」
「そ、それは判るけど。どうしてこんな」
「……詫びみたいなものだ」
「別にそんな事して貰うような事は……」
「良いから、あんたは頭を洗え。粘液が髪にこびり付いてる」


 フリオニールの慌てる様子に構わず、スコールは広い背中をタオルで擦りながら言った。
これは何を言っても止めてはくれそうにない、とフリオニールも察し、シャンプーボトルを手許に寄せる。

 髪を洗いながら、フリオニールは背中から感じる気配に意識を捕まっている。
スコールに背中を流して貰ったのは、これが初めてと言う訳ではなかったが、それもティーダやバッツと言った他のメンバーがいた時の話。
彼等がノリで「洗いっこしよう!」等と言い、巻き込まれるように三人、四人で並んで背中を流していた時位のものだ。
こんな風に二人きりで、それもスコールの方から事を始めた事はない。

 詫びだとスコールは言ったが、何に対しての詫びだろうか。
元に戻るまで、待機を嫌がった代わりの見回りに付き合わせている事に対してか。
恐らくはそれが一番近いような気がしたが、フリオニールは彼と共に過ごせるのなら、理由は何でも良かったし、スコールに拒否されなければ十分だった。
体液を被った事については、フリオニールが偶然グラットの間近にいたからであって、スコールが気に病むような事はない筈だ。

 幾ら考えても、スコールの行動の理由が判らない。
聞いてみようか、でもスコールってあれこれ聞かれるの嫌がるよな、と考えつつ、フリオニールはシャワーを出して髪の泡を洗い流す。
いつものように犬猫のように頭を振りそうになって、後ろにいる人物の事を思い出して留めた。


「終わったか?」
「あ……ああ。多分」


 髪について、あまり頓着のないフリオニールである。
髪の根本から毛先まで十分に洗浄したかと言われると自信がなかったが、それでもグラットの体液は洗い流せた筈。
そう自分に言い聞かせてフリオニールが頷いた。

 後ろから腕が伸びて来て、シャワーを握って固定から外す。
さああ、と温かい湯が背中に当てられて、気持ち良いな、とフリオニールは目を細めた。


「熱くないか」
「うん。丁度良い。ありがとう、スコール」
「……別に……」


 いつもの三文字の反応に、照れているな、とフリオニールは思った。

 シャワーが背中から離れて、固定位置へと戻された。
粘液は綺麗さっぱり洗い流され、ついでに温かい湯で体の筋肉と疲労も解れた。


(そうだ。スコールもすっきりしたいだろうし、俺がいたら落ち着かないだろうから、早く出なくちゃな)


 スコールがどうして風呂場に来たのか、フリオニールは彼もまた休みたかったからだろうと思い至った。
今日は早めに切り上げたとは言え、戦闘で土埃を被り、汗を掻いているのは変わらない。
それらを洗い流してから休んだ方が、気持ちも休まると言うものだ。

 自分は用も済んだし、さっさと出よう───とフリオニールが腰を上げようとした時だった。
ひたり、とフリオニールの背中にスコールの手が触れ、柔らかな髪の感触が背中に押し付けられる。
え、とフリオニールが肩越しに背後を見れば、其処には背を丸めてフリオニールに縋るように身を寄せているスコールの姿があった。


「ス…スコール……?」
「………」


 伺うように恐る恐る名を呼ぶと、スコールの頭がぴくりと揺れて、そっと持ち上げられる。
濡れた濃茶色の髪の隙間から、微かに潤んだ蒼の瞳を向けられて、ごくり、とフリオニールは唾を飲んだ。

 見上げるスコールの表情を、フリオニールは何度か見た事がある。
それは決まって夜の褥の中で、熱に溺れてフリオニールに追い縋っている時に浮かべるものだった。


「……フリオニール」
「な、なんだ?」


 桜色の唇に名前を呼ばれ、フリオニールの声が震える。
動揺が判り易く声に出たフリオニールを、スコールはじっと見詰めて、


「……したい」
「な、にを」
「………セックス」


 消え入りそうな声で言ったスコールに、フリオニールはまた言葉を失う。
今のスコールの様子が判れば、そう言うニュアンスであった事は問う以前に判っていた事ではあったが、改めてはっきりとスコールの口から告げられた事で、二の句が告げなくなった。

 固まったままのフリオニールに構わず、スコールは体を伸ばして、フリオニールの頬にキスをする。
フリオニールの頬に白い手が添えられ、スコールの唇は触れては離れ、離れては触れてを繰り返しながら、フリオニールの唇へと重なった。


「ん…、ん……っ」


 鼻にかかった呼気を零しながら、スコールは何度もフリオニールの唇を啄む。
されるがままのフリオニールの唇を、ちろり、と赤い舌が撫ぜた。
弾力性のある熱の感触に、はっとフリオニールの意識が現実へと戻り、フリオニールは慌ててスコールの肩を掴んで顔を離す。


「ま、待て、スコール!それは、その、ちょっと……!」


 ストップをかけるフリオニールに、口付けを中断させられたスコールの眉間に判り易く皺が浮かぶ。


「…嫌なのか」
「う、い、嫌とか、そう言う話じゃなくて。セックスしたいって、本気で」
「本気で言ってる」


 何かと直ぐに顔を赤らめて怒る、恥ずかしがり屋な一面は何処へやら、スコールは真っ直ぐにフリオニールを見詰めて言った。
それだけで、彼が本気でこれから行為をしたいと思っている事が判る。
が、フリオニールはそれで良しとする訳には行かなかった。


「でもスコール、その、体がまだ」
「……」
「………っ!」


 ちらり、とフリオニールが視線を落とせば、すっきりとしたスコールの中心部がある。
本来の性別として、なくてはならないものは、未だ戻って来ていない。
“女”として形を作っている其処を見て、フリオニールの顔が真っ赤になる。

 フリオニールの戸惑い様に、スコールの眉間の皺が深くなり、唇が拗ねたように尖る。
そんな顔をされても、とフリオニールが弱っていると、


「だって……前にしたの、いつだと思ってるんだ」
「それは、その……結構、前、だよな……」


 前に二人が夜を共にしたのは、いつだったか。
スコールが女の体になってから四日が経ち、その間、フリオニールはスコールから離れないように努めていた。
見回りの時は勿論、屋敷で過ごしている時にも、折々に声をかけては体調はどうかと訊ねている。
夜は落ち着けずに眠れないスコールがフリオニールの部屋を訪れる事もあり、フリオニールは恋人が眠れるまで宥め、抱き締めて眠った日もあった。
その翌朝、フリオニールの部屋からスコールが出て来るのを見付けたティーダやジタンに揶揄われたりもしたが、一緒に寝ていただけだよとフリオニールは返している。
その言葉には一遍の偽りもない───が、スコールはそれが気に入らなかった。


「……こうなってから、あんたはずっと俺の傍にいてくれた。それは感謝してる。でも、あんたは傍にいるだけで、俺に何もしなかった」
「こんな事になってるのに、出来る訳ないだろ。いつ何が起こるかも判らないのに……」
「……恋人が自分の部屋に来てるのに、何もしないとかないだろ。少しは察しろ、この鈍感」
「そんな事言われても……」


 スコールの言葉は、フリオニールには中々横暴である。
夜中に自分の部屋を訪れたスコールに、フリオニールとて色々と思わない訳ではなかったのだ。
“男”でありながら、今は“女”になってしまった人物が、夜半の男の部屋に来る。
危ないよなあ、とフリオニールとて思わない訳ではなかったが、不安げな表情をして「眠れない」と言うスコールを見ると、放って置く事は出来なかった。
不安があるなら安心させてやらなければ、傍にいる事でそれが出来るなら、と言う気持ちでフリオニールはスコールと一緒に眠っていたのだが、その傍ら、湧き上がる情欲がなかったと言えば嘘になる。
ただ、スコールが求める安らぎと、自身の劣情は全く別物だ。
何よりスコールの体の変調はいつ訪れるか判らないし、その時に何が負担になるかも判らないから、無理をさせる訳にはいかないと堪えていたのが事実である。

 しかし、スコールには反ってそれが不安になってしまっていた。
傍にいてくれる事は嬉しいし、過ぎる不安を和らげてくれる事も有難い。
だが、それとは別に、彼を求める気持ちも確かに存在するのだ。
それは精神的な繋がりだけでは安心できないスコールの性質から来るものでもあり、募る程に膨らんで行くものであった。


「……フリオニール」


 名を呼ぶスコールの声は、既に熱を孕んでいる。
欲しい、と小さな声を聞いた気がして、フリオニールの目が眩む。


「ス、スコール。せめて元に戻ってから────」
「……嫌だ。今が良い」


 こうなってしまうとスコールは頑固だ。
首に回されたスコールの腕は、梃子でも離れない、と示している。

 スコールの唇がフリオニールのそれに押し付けられ、舌先がくすぐるようにフリオニールの唇を割ろうとする。
駄目だって言ってるのに、とフリオニールが睨んでも、其処にあるスコールの瞳は熱を求めて已まない。
布一枚すら纏っていないスコールの肌が、フリオニールの体に押し付けられる。
基本的に肉が付き難い体質であるスコールであったが、それでも引き締まった筋肉はあるから、触れるとその感触が感じられた。
しかし、女の体となった今のスコールの体は、フリオニールの記憶よりも固さがなくなり、特に平らで男と全く変化のないように見えた胸すら、ふに、とした微かな柔らかみすらある。


(う…わ……っ)


 スコールが女になっていたと判った時、フリオニールは彼の中心部を見るまで、その事に気付かなかった。
それ程に女になった事への変化に乏しかったスコールであるが、体格の微妙な違いも含め、こうしてゼロ距離で触れると、色々と違う所があるのが判る。
反面、殆ど感じられない体臭に微かに混じる火薬の匂いが、此処にいるのは間違いなくスコールなのだと示していた。

 触れていた唇が離れ、は、と零れる息がフリオニールの下唇を擽った。
長い睫毛が目の前に合って、本数まで数えられそうだ、とフリオニールは思う。
それがゆっくりと上下に動き、ぱち、ぱち、と瞬きをした後、蒼灰色の瞳がじっとフリオニールを見詰め、


「フリオ」


 合図のように名前を呼ばれた。
二人で過ごす夜、始まりの切っ掛けをいつまでも迷うフリオニールに促すように呼ぶ声だ。

 少しだけ躊躇ったが、それは本当に少しだった。
背中に腕を回すと、より体が密着するようにスコールが体を寄せる。
共に裸だから邪魔をするものはなく、シャワーの湯で温まった体が心地良い。
フリオニールの方から口付けを贈れば、スコールは驚いたように目を瞠ったが、直ぐにそれはとろりと溶けた。


「ん…う……」


 スコールが薄く唇を開いたので、フリオニールは其処に舌を入れた。
待っていたようにスコールの舌が絡み付いて来て、ちゅく、ちゅく、と唾液が交じり合う音が鳴る。
重なり合った胸の奥から、互いの早い鼓動が聞こえていた。

 濃茶色の髪を抱き撫でるように手を当てて、少しずつ深く口付けていく。
息苦しさでスコールの眉間に皺が浮かぶのを見付けて、唇を離す。


「っは……フリ、オ……」
「…何処か可笑しい事があったら、ちゃんと言ってくれ。直ぐ止めるから…」
「……ん……」


 熱を孕んだ赤い瞳に見詰められながら、スコールは小さく頷いた。
ぼんやりと蕩けた蒼に、判っているのかな、と思いながらも、フリオニールも進めて行く。

 喉に顔を近付けると、スコールは差し出すように首を逸らした。
すらりと伸びる白い首には、やはり喉仏はなく、噛み付くと容易に食いちぎる事が出来そうだった。
俄かに狂暴な自分が目を覚まして行くのを感じながら、フリオニールは其処に甘く歯を当てる。
ヒクン、と震えるスコールの背中を抱き締めながら、片手で平らな胸に触れる。
大きな掌で摩るように胸を撫でられ、カサついた手の表面が小さな乳首を擦る度、スコールの体がピクッ、ピクッ、と跳ねた。


「ん…あ……っ」
「…痛くは、ないか?」
「…う…ん……っ」


 喉に吐息を当てながら問うフリオニールに、スコールはなんとか答えた。
すると、フリオニールの指がピンク色の乳輪を辿り、乳首を摘む。
指の腹で捏ねるように柔らかく転がせば、其処は直ぐに固くなり、小さいながらにぷっくりと膨らんで自己主張を始めた。


「うぁ…んっ、あ……っ!」
「…舐めても良いか?」
「…好き、に…して、いい……っ」


 久しぶりの情交だからか、不安にさせてしまった反動なのか、スコールはフリオニールを拒まなかった。
恥ずかしがるよりも、欲しい気持ちの方が強くて、何でも良いから触れて欲しい、早く繋がりたい、と思う。
それを素直に口にすれば、腹に当たる固いものが、ドクン、と脈を打ったように膨らむのが判った。

 スコールの胸にフリオニールの顔が近付いて、赤い舌がぷっくりと膨らんだ乳首を濡らす。


「あっ……!」


 敏感になった其処は、舐められるだけで顕著な快感を示した。
二度、三度と舐めた後、吸い付いてやる。
ちゅ、ちゅ、と小刻みに吸いながら、反対側の乳首を軽く指で引っ張ってやると、ビクビクとスコールの体が戦慄いた。


「は…ん…っ…、フリオ、ニール……っ」
「ん……ふ……っ」
「あ、あ……っ!んぁ……っ!」


 フリオニールの歯が先端に引っ掛かるように当たって、スコールは背筋を仰け反らせた。
強張った体は一層刺激に敏感になり、フリオニールの愛撫で白い肌が益々赤らんでいく。
肌を伝い落ちて行く雫は、出しっ放しのシャワーの所為だけではないだろう。

 フリオニールの首に縋っていたスコールの手が離れ、肉付の良い体のラインを辿る。
今も普段は変わらない服装で過ごしている為、スコールはいつも手袋をしていた。
その手が今は晒され、心なしか細くなった指の形が見えて、それが自分の肌に触れていると思うと、フリオニールの熱もまた燃え上がる。
スコールの手はそのまま下へ下へと降りて行き、フリオニールの太腿を撫でた。
少しの間迷うように右へ左へと彷徨った後、するりと滑ってフリオニールの雄に触れた。

 フリオニールは、ちゅう、と乳首を強く吸って、離した。
すっかり固くなった乳首に、雫が伝い流れて行く。
それだけでスコールの体は震え、ぴりぴりとした小さな刺激が胸に残る。
フリオニールの中心部を握ったスコールの手が震え、ゆるゆると上下に動き、雄の欲望を煽る。


「フ、リ…オ……あっ…!」


 スコールが触れるのを真似るように、フリオニールの手もスコールの太腿を撫でた後、秘部へと寄せられた。
と、其処まで来て、フリオニールははたと其処に在る筈のものがない事を思い出し、


「…す、スコール……」
「ん…う……?」
「あの……こっちで、良い……のか?」
「……?」


 こっちって?と首を傾げて問い返す瞳に、フリオニールはどぎまぎとしつつ、


「…あ……えっと……う、後ろの方が良いのかと、思って。その方が、いつもしている事だと、思うし……」
「………」
「……それに、俺、その……初めてだから…上手く出来ないかも……」


 何かと初心さを揶揄われているからと言って、異性とのまぐわいがどう言うものなのか、手順としてどうすれば良いのか、判らない程フリオニールも子供ではない。
とは言え、フリオニールが経験しているのは、スコールとの情交だけだ。
年相応の知識はあっても、試した事すらないのだから、今までのセックスのように、きちんと恋人を気持ち良くさせてやれるかは判らなかった。

 意図せず傷付けてしまう事もあるかも知れない、と不安げな表情を浮かべているフリオニールを、スコールはじっと見詰めた後、ふ、と呆れたように笑みを零す。


「そんなの、今更だろう。あんたに女の経験があるなんて、思った事はない」
「う……そ、そうはっきり言われると何か……」


 男としての矜持が傷付けられるような、と眉尻を下げるフリオニール。
スコールはそんなフリオニールの眦に唇を押し当てて、


「良いから……あんたなら、傷付けられたって、別に構わない」
「いや、そんなのは駄目だ。スコールを傷付けたくない」
「…それも判ってる。だから、いいから。早く、触ってくれ……」


 問答をしている時間も惜しいのだと言うように、スコールはフリオニールの雄を扱く手を早めて行く。
早く、早くと言葉だけでなく急かすスコールに、フリオニールは未だ拭い切れない不安を押し殺して、そっとスコールの秘部に指を当てた。


(……これ、が…スコールの……)


 彼が本来持ち得ない筈の器官に触れて、フリオニールは息を飲んだ。
ぴったりと閉じた筋を撫でるように指でなぞると、スコールがヒクンッと息を詰めて腰を強張らせた。
緊張しているのかと、表情を確かめようと顔を伺おうとすると、スコールは真っ赤になってフリオニールの肩に額を埋める。
見るな、と言う無言の命令に、心配を募らせつつ、フリオニールは筋の表面を撫で続けた。


「ん……んん……っ」
「ええと……い、入れて…良いか?」
「……っ」


 確認すると、スコールは顔を伏せたままで頷いた。

 フリオニールの人差し指が、ゆっくりと筋の間に押し入れられて行く。
固く閉じているとばかり思っていた其処は、初めこそ微かな抵抗を見せたものの、其処を軽く押してみると、にゅぷり、と侵入を許した。
熱を孕んだ柔らかな肉が指先にまとわりついて来る感覚に、フリオニールの興奮が高まって行く。


「ス、コール……中が、何か…凄く、濡れて……」
「ん…、う……っ言うな、…バカ……っ!」
「ご、ごめん」
「あ…ふ……っ!」


 スコールの中はじんわりとした熱と共に湿気に覆われており、少し指を動かすだけで、くちゅっと言う音がした。
内部から分泌された蜜は後から後から溢れて来て、フリオニールの指にまとわりつく。
其処が濡れていると言う事は、スコールも興奮していると言う事で、受け入れる為の準備をしていると言う事で───そう理解して、フリオニールの喉が鳴った。

 フリオニールはスコールの腰を抱いて、中に埋めた指を少しずつ動かした。
いつも体を重ね合う時にしていたように、スコールを傷付けないよう、中を入念に解しておかなければ。
況してや今は女の体で、此処に受け入れるのは初めてなのだから、尚の事を気を付けなければいけない。
フリオニールはゆっくりと指を動かしながら、スコールの内側を撫で拡げて行く。


「は…あ……っ!や、あ…ん……っ!」


 内側に感じるフリオニールの指の感触に、スコールは体が芯から熱くなって行くのを感じていた。
指先が肉壁をほんの少し撫でるだけで、腹の奥が切なくて堪らない。
それは覚えのある感覚で、フリオニールと繋がり、奥で彼を受け止めた時に得る事が出来るもの。
それを指先だけで与えられているなんて、繋がった暁にはどうなってしまうのか、考えるだけでも堪らない。

 雄を握っていたスコールの手は、添えられているだけになっていた。
今のスコールはフリオニールの指に翻弄され、ただ縋りついている事しか出来ない。
フリオニールはそうとは気付かず、隙間のないように、分泌された愛液を指で塗り拡げて行く。


「は、あ……っ!そ、そこ……んっ」
「すまない、痛かったか」
「んん……っ!ち、がう……あ…っ!」
「こっちの方が良いかな……」
「んう……っ!」


 左右を探るように動いたフリオニールの指が、内壁を引っ掻くように擦った。
ビクンッとスコールの腰が跳ね、膝立の足が震える。


「は…や……あ……っ、フリオ、ニールぅ……っ」
「此処も痛い?」
「……っ」


 フリオニールの問に、スコールはふるふると首を横に振った。
痛くはないのか、と小さく呟いて、フリオニールは同じ場所を何度も爪先で擦る。


「あっ、あっ…!あ、んん……っ!」
「…どんどん濡れて来てる」
「や、あ……言うな……んぁ…っ」


 指先に感じる分泌物の感触に、フリオニールが呟けば、スコールが真っ赤になっていやいやと頭を振った。
嫌がる仕草に、すまない、と謝りながら、フリオニールの指は変わらず同じ場所を刺激し続けていた。


「ああっ、ああ……っ!ひ、ん…んぁ……っ!」


 スコールの中は内側から溢れ出した蜜ですっかり濡れ、指を咥えた其処からとろりと溢れ出す程になっていた。
フリオニールが少し指を動かしただけで、くちゅくちゅと卑猥な音がする。
がくがくと膝を震わせるスコールを、フリオニールは腰に腕を回してしっかりと抱き止めていた。
それが反ってスコールの逃げ場を奪い、抵抗を奪い、快感漬けで苦しめている事など露知らず。


「や…フリオ……フリ、オぉ……っ!」
「二本目、入れても大丈夫か?」
「は…い、は……あ、あん……っ!」


 スコールから返事らしい返事はなかったが、二本目の指を口に宛がうと、媚肉がヒクンと戦慄いたのが判った。
そっと口を割れば、濡れそぼった其処は指を容易く飲み込んで行く。

 二本になった指が中でゆっくりと動き、波打つ肉壁を丹念に擦る。
指の挿入も深くなり、スコールの其処はフリオニールの長い指の第二関節まで受け入れた。
多様な武器を握る無骨な指が、気遣うように柔らかに丁寧に、内側を捏ね広げて行く感覚に、スコールの腰が悩ましく揺れる。


「フリオ…んっ!も、もう……あ、うぁ…っ!」
「まだ早いだろ?いつもだって、もっと解さないと……スコールの中はいつもきついから…」
「だから…そんな、事、んんっ…!言う、な…ああ……っ!」


 二本の指が左右に割れ、中が拡げられる。
開かれた媚肉の壁が、ヒクヒクと戦慄いて、奥の切なさが増した。


「フリオ…も、う……いい…いい、から……っ!」


 スコールはフリオニールに縋り、先へと進む事を促した。
煽るように雄を握っていた手で竿を摩ると、「う……っ!」とフリオニールも息を詰める。
スコールの中が濡れそぼっているように、フリオニールの雄もすっかり固く張り詰め、今にも暴発しそうになっていた。
それが早く欲しい、と熱に染まり切った蒼灰色は強請っていたが、


「あっ、あっ、あっ……!フリオ…やめ、とめ……っ!」


 くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ、と止まない淫音。
フリオニールの指は、尚も執拗にスコールの秘部を苛め続けている。
指に掻き回された内肉は、愛液で隙間なく濡れ、何処を触れられても快感を得るようになっていた。
それでもフリオニールの指は攻めを止めない。
それはフリオニールがスコールを慮っての行為であったが、既にスコールにとっては拷問に等しい所まで来ていた。

 フリオニールの肩に、スコールの湿った吐息がかかる。
はっ、はっ、と息は短いリズムで繰り返され、指を咥えた秘部がきゅうっと締め付けを増した。
ぞくぞくとしたものがスコールの背筋を駆け抜けて、フリオニールの指がくりゅっと肉壁を抉った瞬間、スコールの体は大きく仰け反った。


「ああぁぁぁ……っ!」


 甲高い悲鳴に似た喘ぎ声を上げて、スコールは絶頂を迎える。
ぷしゃあっ、と透明な飛沫が秘部から噴いて、スコールの股とフリオニールの手を濡らした。
それはシャワーの湯で直ぐに洗い流されて行ったが、スコールの体を苛む快感電流はいつまでも残り、


「あっ…ああ……っ、あ……っ」


 ビクンッ、ビクンッ、と細い四肢を痙攣させた後、スコールの体が弛緩する。
かくんと力を失った体は、フリオニールの腕と体で支えられた。


「あ……スコール…?」
「んぁ…う……」
「大丈夫、か……?」


 恐る恐ると言う様子で尋ねるフリオニール。
きゅううぅ……と名残のように締め付けていた秘部から、そっと指を抜いてみる。
指が完全に抜ける瞬間、ヒクン、とスコールの薄い腹筋が戦慄いた。

 寄りかかった体勢のまま、はーっ、はーっ、と荒い呼吸をしているスコールを、フリオニールは落ち着くまで待った。
無理をさせたかな、と恋人を見詰める赤い瞳には、純粋な心配の色が灯っている。

 スコールの呼吸が落ち着くまで、数十秒の時間が必要だった。
ようやく肩で息をしなくても良い程度になってから、フリオニールはスコールの背中をぽんぽんと撫でてあやす───と、その手をがしっと強い力で掴まれた。


「……スコール?」
「あんた、は…本当に……っ」


 顔を上げたスコールは真っ赤になっており、目尻が吊り上がっている。
完全に怒っている時の表情だった。
え、とフリオニールが目を丸くしている間に、スコールはフリオニールの肩を押して、床へとその体を押し倒す。
シャワーの流水のお陰で倒れ込んだタイル床は思ったよりも冷たくはなく、それは良かったのだが、それよりも。


「止めろって、言ったのに…!あんたはいつも……っ!」
「え、ちょ…ス、スコール、なんで怒って……」
「もう良いって!言っただろう!それなのに…あんなにするから……あんな……!」


 沸騰しそうな程に顔を赤くし、心なしか涙まで滲ませてスコールは叫ぶ。

 自分の体を襲った出来事について、スコールは理解していた。
あまりに執拗なフリオニールの責めによって、スコールの体は果てを迎えると同時に、潮を吹いたのだ。
フリオニールが自分を気遣い、負担をかけないように思ってくれていたのは判るつもりだが、当人がもう良いと言っているのに続けるのは如何なものか。
しかも、こうした事は今回が初めてではなく、毎回のように起きている。
嫌だと言ったら止めると言った癖に、とスコールは眉を吊り上げ、フリオニールを見下ろし睨んだ。

 フリオニールの方は、だってもう良いと言われても───と言いたい。
実際、スコールの体は、元々そう言う体なのか、慣れない触れ合いによる緊張の所為なのか、いつも中々解れないのだ。
お互いに行為に慣れない内は、スコールに求め促されるままに進めた事もあるが、その度にスコールに強い負担を強いた。
しっかりと解す方が良いと知ってからは、スコールの為だと言い聞かせ、彼の強請る声を我慢して、十分に準備が出来るまで前戯をするようになった。
その方がスコールも痛い思いをしなくて済むからだ。
だから、“初めて”となる今回も、焦らずにきちんと準備をした方が良い───とフリオニールは思ったのだが、今日に至るまでに長らくお預けをされた形になっていたスコールには、此処まで来て更に焦らされたも同然であった。

 スコールは噛みつきそうな目でフリオニールを睨みながら、彼の体の上に跨る。
右手でフリオニールの雄を持ち、支えて上を向かせながら、その先端に自身の秘部を宛がった。


「!スコール、ちょっと待て、それは───」
「もう、待たない。あんた、このままじっとしてろ」
「駄目だ、無理に入れたりしたら」
「んぅ……っ!」


 止めようとするフリオニールの声に耳を貸さず、スコールは腰を落として行く。
太く固い雄が、ぐぅっと口を押し広げるのを感じて、スコールは息を飲んだ。

 スコール、とフリオニールの呼ぶ声がする。
止めようと伸ばされる手を、スコールは自身の手を絡めて捕まえた。
捕まえた手に縋るように力を入れて握り締めながら、呼吸を止めないように意識しつつ、ゆっくりと雄を受け入れて行く。


「ん…ぅ……っふ……」
「ス、スコール……っ!」


 指先だけで感じていた時とは比べ物にならない、艶めかしい肉の感触がフリオニールを襲う。
久しぶりに味わう恋人の体温と、秘孔で繋がっていた時とはまた違った、ねっとりと濡れそぼった肉の絡み付き。
まだ先端しか入っていないと言うのに、吸い付いて揉むように蠢くそれに、フリオニールの熱が膨らんだ。


「んぁっ……!バカ……っ!」
「ご、ごめん……」


 膨らんだ感触を感じ取って抗議するスコールに、反射的に謝るフリオニール。
スコールは謝るな、と言いたかったが、下部を襲う圧迫感に声を出す事も出来なくなっていた。

 そのまま硬直する事、しばし。
スコールは改めて呼吸を落ち着け、繋いだフリオニールの手を震えながら握り締めていた。
フリオニールはそんなスコールを見上げながら、そっと手を握り返す。
力が返って来る事を感じ取り、スコールが薄らと目を開けると、じっと見詰める赤の瞳とぶつかった。


「…スコール。無理、するなよ…?」
「……っん……」


 止める事はやめ、恋人の気持ちに委ねながら、フリオニールはせめてスコールが傷付かないようにと祈る。
そんな恋人の心を感じ取り、スコールは小さく頷いて、もう一度ゆっくりと深呼吸した。
少しだけ体の力が抜けると、秘部を覆っていた違和感も和らいで、代わりに直に触れている熱が伝わって来る。

 スコールはフリオニールの手を握りながら、腰を落として行った。
ぬぷ、ぬぷ……と少しずつ体の中が拓かれていくのが判る。
頭が全部入ると言う所で、引っ掛かった感触に気付いたが、覚悟を決めてぐっと雄を飲み込んだ。


「んんぅ……っ!」
「…っスコール……!」
「っあ……は……っ、平、気……んん……っ!」


 スコールの表情に苦悶が浮かぶのを見付け、フリオニールが名前を呼ぶ。
スコールは一回、二回と息を吐いた後、最後までフリオニールを受け入れた。

 全てを飲み込んで、スコールは少しの間、呼吸を整える事に終始していた。
天井を仰ぎ、はあ、はあ、と吐き出す呼吸の音が、広い風呂場に溶けて消える。
フリオニールはその様子を見上げながら、逆上せそうだ、と思った。
スコールはまだ少しも動いていないのに、媚肉は絶えずうねりフリオニールを締め付けていて、衝動的にその全てを貪りたくなる。
スコールもまた、限界まで広がった内部を雄が一杯に占領しているのを感じながら、腹の中が熱くなって行くのを感じていた。


「は……フリ、オ……」
「スコール……」
「ん……う…っ」


 互いの名を呼び合うのが合図になって、スコールが腰を上下に動かし始める。
ぬぷっ、くぷっ、と陰部を雄が出入りするのを見て、フリオニールは唾を飲んだ。


「あっ、あっ…!んっ…あ……っ!」


 自ら腰を振って熱を貪るスコールの姿に、フリオニールも我慢の限界が来ていた。
握っていた手を解いて、腕を掴んで自分の方へとスコールの体を引き倒す。
スコールは抗う事なく、フリオニールの胸の中へと倒れ込んだ。


「んぁ……っ、あっ、ふ…あぁっ……!」


 咥え込んだ雄の角度が変わり、肉ビラの天井を擦るように当たると、ビクビクとスコールの体が跳ねた。
フリオニールの手はスコールの尻を撫で、太腿を掴む。
雄を咥える為に開いた股は無防備で、フリオニールが指を伸ばすと、足の付け根まで届いた。
付け根の皺の痕を辿るように摩って、更に中心部まで寄せて行くと、


「あ…っ!や……フリ、オ……っ」


 繋がっている場所まで届いたフリオニールの指。
花唇が指で拡げられ、剥き出しにされるのを感じて、スコールは顔を赤くして頭を振った。
恥ずかしそうに、嫌、とスコールは小さく零したが、


「スコール……っ!」
「は、あ……ああぁっ!」


 ヒクヒクと震える其処に、フリオニールは腰を打ち付けた。
下から上に向かって、ずぷんっ、と奥へと一気に穿たれる衝撃に、スコールの腰が跳ね上がる。


「ああ……っ、ああぁ……っ!」


 ビクンッ、ビクンッ、と跳ね震えるスコールの体。
恋人の胸に縋るスコールの表情は、苦し気に眉根を寄せつつも、唇から濡れた舌が覗いて悩ましくも映る。
雄を咥えた媚肉は絶えず戦慄き、うねうねと動いて肉棒を締め付けて離さない。

 気持ち良い。
フリオニールはそれしか考えられなくなっていた。
スコールの体はいつも蠱惑的で、体を重ねる度にフリオニールを獣として目覚めさせて行く。
今回、新たに知ったスコールの熱と感触もまた、フリオニールを虜にし、欲望の本能を煽っていた。

 フリオニールはスコールの背に腕を回して、抱き締めた。
こうして全身で抱き締めていると、やはり記憶よりもサイズ感が足りない気がする。
一回り程度の違いとは言え、筋肉量や骨格の違いも相俟って、いつも以上にスコールが華奢に見えた。
だから無理はさせてはいけない、と判っている筈なのに、外れた箍は元に戻ってはくれない。


「あっ、あっ、んっ!フリ、オ、あぁ……っ!激し、い……あぁっ!」


 逞しい腕の檻に閉じ込められ、逃げ場を失った状態で、スコールはフリオニールの攻めを受けていた。
潮を噴くまで指で弄られていたお陰か、思っていたよりは苦しくない。
代わりに、粘膜を擦られる度、突き上げられる毎に、電流のような甘い痺れが遅い、頭が真っ白になってしまう。


「んぁ…っ、あぁ…っ!フリオ…フリオニール……っ!」
「っは…スコール…んっ、気持ち良い……熱くて…凄く……っ!」
「フリ、オ……んっ、あぁあっ!はく…っ、うぅん…っ!」


 フリオニールの零す言葉にさえ、スコールは官能を感じていた。
細胞レベルで融かされて行くような感覚さえ感じられて、何も考えられなくなって行く。
そうなってしまえば、後は本能に従うのみ。
スコールは、もっと深い場所でフリオニールと言う存在を確かめる為に、彼の律動に合わせて腰を振り始めた。


「あっ、ひっ、あっ…!フリオが…んんっ、奥まで……来てる……んっ…!」
「ふっ、く…っ!スコール、こっち見てくれ……っ」
「ふあ……んむっ、」


 フリオニールに促され、スコールが覚束無い思考でそれを聞き取り、顔を上げると、唇が塞がれた。
ちゅ、ちゅく、と耳の奥で水音が鳴るのを聞きながら、キスされてる、とスコールは理解した。
途端、きゅうっと秘部が強く強張り、咥え込んでいる雄を締め付ける。

 みっちりと隙間のない程に密着した中を、太い雄が何度も擦り上げて行く。
太い首が引っ掛かるように肉ビラを引っ張りながら擦って行くものだから、スコールは声を上げる事も出来ない程の快感で悶える羽目になった。
余りの快感に反射的に体が逃げを打って捩られるが、抱き締める腕の檻は強く、スコールは幾らも離れる事は出来なかった。
フリオニールはそんなスコールの舌を捕まえ、誘い出すと、唾液塗れのそれを吸いながら、また口を開けて深く重ね合わせる。


「んっ、んぅっ!ふっ、ふぅう……っ!」
「ん、む…んん……っ!」
「ふあ……んむぅ……っ!んんん…っ!」


 フリオニールから贈られる深く激しい口付けに、食べられる、とスコールは思った。
腰の動きも激しさを増して行き、スコールへの気遣いと言うものも段々と形骸化しつつある。
スコールはそれが嬉しかった。
理屈や理性と言った面倒な言い訳を捨て、本能から自分の存在を全身で求められている事に安堵する。
今日まで感じていた不安も、女の体になった事で感じていた不便や不満も、全てが押し流されていくようで、目の前にいる人の存在のみで世界が埋まって行くのが判った。

 スコールの秘部がきゅっ、きゅうっ、と小刻みに痙攣しながら、フリオニールを締め付ける。
はっ、はっ、とスコールの呼吸も逸って行き、絶頂が近いのが判った。


「フリ、オ…フリオ……っ!俺、もう…っ、むり……っ!」
「う…ま、待ってくれ……俺も…もう少し……っ」
「あ、んっ、ああっ…!やぁっ、そんなに、したら……あっ、す、すぐイっ……!」


 限界を訴えるスコールに、フリオニールは自分ももう直ぐだからと我慢するように言った。
僅かに残った階段を一気に駆け上がって行くように、フリオニールの腰遣いが激しくなる。
ずんっ、ずんっ、と奥をノックするように強く突き上げられて、スコールの体は一層追い詰められ、


「やっ、あっ!イ、イく…っ!来るぅ……っ!」
「はっ、スコール……!スコール、俺も……っ!」
「あっ、ああぁ…っ!んんぅぅううっ……!!」


 しなやかな白い躯が、ビクンッ、ビクンッ、と波打つように大きく跳ねた。
官能の果てを迎えたスコールの体は、内部までその様を伝播させ、咥え込んでいる雄に全身で吸い付いた。
根本から強く締め付けられたフリオニールは、「ううぅぅ……っ!」と唸り声のような声を上げながら、競り上がって来た劣情を一気に解放した。

 どくっ、どくっ、と脈を打つ雄から吐き出されたものが、スコールの中へと注ぎ込まれていく。
久しぶりの情交であり、吐き出したのも勿論久しぶりとあって、フリオニールのそれは濃く、量も多い。
溢れんばかりのそれを全て受け止める充足感を感じながら、スコールは意識を手放した。




 気を失ったスコールに気付いた時、フリオニールは一瞬蒼白になった。
無理をさせてはいけないと思っていたのに、結局激しい行為にしてしまい、きっと負担を強いたに違いない。
その挙句にスコールが気絶してしまったものだから、一瞬、死なせてしまったかも知れない、と思った程だ。
幸い、スコールは疲れ切って眠ってしまっただけだったが、まるで抑制の出来ない自分の不甲斐無さにフリオニールは打ちのめされた。

 更に、風呂を出て、スコールに服を着させ、それでも目覚めない恋人を背負って部屋まで向かおうとした所で、セシルに遭遇したのでよりダメージを喰らった。
セシルは風呂場で何をしていたのかとは聞かなかったが、眠るスコールを見れば、察しの良い彼は気付いた事だろう。
にっこりとした笑顔で、「無責任は駄目だよ?」と言われた。
一瞬、何の事かと首を傾げたフリオニールだったが、「どっちが言い出したにせよ、“もしも”の時に負担が大きいのはスコールだからね」と釘を差され、ようやく理解した。
直接的な言い方をせず、遠回しな言葉ばかりを選んだのは、意地悪なのか、自分で気付いて責任を持てと言う圧なのか。
どちらにせよ、彼の忠告は最もだ、とフリオニールは思った。

 フリオニールは、スコールを彼の部屋のベッドに寝かせると、端に座って眠るスコールの顔を覗き込んだ。
女になっていると言っても、やはりスコールは傍目には男である時と殆ど変わっていない。
眠っていると眉間の皺が抜け、年齢相応、それ以下にも幼く見えるのも相変わらずだ。


(……だから俺、気付かなかったのかな。スコールが不安になっているって事に)


 体格は一回り縮んでいるとは言え、遠目に見れば余り判らない事だ。
並んで立って、いつもより目線の位置が低いとか、同じ位の身長だった筈のティーダと並ぶと気持ち小さく見える、と言う程度。
日常的な生活にも然したる障害はなく、戦闘さえなければ、スコールはいつもと変わらないように見えた。


(でも、違うんだ。体調とか、そう言う事だけじゃなくて、もっと気にしなくちゃいけなかったんだ)


 スコールは繊細だ。
一つ一つの小さな不安も、囚われ続ける内に肥大化し、圧し潰されてしまいそうに大きくなる事も少なくない。
事故によって女性の体となった今、スコールはいつ元に戻れるのか、ひょっとしてこのままなのか、と言う不安を抱き続けている。
しかし、それを自分で表面化させる事は出来ない性格なので、フリオニールが先に気付き、その不安を取り除いてやらねばならなかったのだ。

 フリオニールに薬の知識はないし、魔力も少ない。
だからスコールの不安の根本である、彼の体の変化については、何も協力する事が出来なかった。
それでも、スコールはフリオニールに頼り、甘えようとする。
フリオニールの存在を感じ取る事で、彼の心は幾許でも平穏を取り戻す事が出来るのだろう。

 フリオニールは、眠るスコールの額にかかる前髪をそっと指で退けた。
行為の所為だろう、スコールの目尻には薄らと涙の痕が残っている。
フリオニールには、それが今の彼の心を示しているように見えて、


「不安にさせてごめんな、スコール」


 そう言って眦にキスをして、投げ出されているスコールの手を握る。
緩く握り返されるのを感じて、この手は何があっても離すまいと誓った。




後天女体は楽しいなあ……
女体化したら、見た目にそうだと判る変化があるのが好きなのですが、ぱっと見てそうだと判らないぐらいの変化しかないスコールも良い。
そんなだから傍にはいるけど、ついついそう言う事を意識の外に置いてしまい勝ちなフリオニールとか、それがいきなり「そうだった…!」って意識する瞬間とか楽しいですね。