スタッフィード・アニマル


 ラグナはベッドに片足を乗せた。
きしり、と微かにベッドが音を立てて、クッションが沈んだが、レオンは小さくむずがるだけで目を開けない。
目許にかかる濃茶色の前髪を、そっと指先で避けてやると、レオンはくすぐったそうに小さく笑った。
そうすると、いつもの凛とした頼り甲斐のある表情とは全く違い、随分と幼い印象になる。
それを知っているのはラグナだけで、彼がそんな表情を浮かべて甘えてくるのもラグナだけ───だったのだが。


(……うーん……なんかコレ、ちょっと妬けるぞぉ…?)


 ラグナに頭を撫でられながら、レオンはライオンのぬいぐるみに顔を埋めている。
抱き付く腕も離れる様子はなく、しっかりとライオンを捕まえていた。

 ライオンのぬいぐるみは、ラグナがレオンにプレゼントしたものだ。
初めは困惑している所もあったが、専用のソファを買ったり、古着屋で見付けて購入した帽子を被せたりと、彼も存外と可愛がっている節がある。
プレゼントしたものを気に入ってくれているのなら、ラグナにとっても嬉しい事だ。

 しかし、自分が此処に来れない間、このライオンがずっとレオンの傍にいたのかと思うと、なんだか胸の奥がモヤモヤする。
ぬいぐるみに、それも自分でプレゼントした物に嫉妬なんて、と思うものの、感情は止まらない。
況して、普段のレオンは決して自ら進んで甘えるような事をしないから、ラグナに対して、こんな風にしっかりと抱き付いて来る事もない。
甘え下手なレオンの甘え方は、いつも何処か遠慮があって、ラグナと抱き合っている時でさえ、恐る恐ると言った風だった。

 理不尽で大人気のない事と判っていても、ラグナの唇が尖る。
柔らかな濃茶色の横髪が滑る頬と、人差し指でぷにぷにと突いてやる────と、


「……ん……」


 レオンの眉がぴくっと動き、眉間に皺が寄せられる。
ああ起こした、とラグナは直ぐに察したが、深くは気にしなかった。

 じっと見詰めていると、瞼がゆっくりと持ち上がる。
寝起きのレオンはスイッチが入るまでが遅く、夢と現をふわふわと揺蕩う時間があった。
今日も例に漏れず、彼は自分が今まで眠っていた事も判っていないようで、ぬいぐるみに顔を半分埋めたまま、ぼんやりとしている。
そんな彼の頬を、またつんつんと突いてやると、ゆらゆらと頼りない光を湛えた蒼灰色が、ゆっくりとラグナへと向けられた。


「……ラグナ……さん……?」


 確かめるように名を呼ぶレオンに、ラグナは頷いた。


「うん。ただいま、レオン」
「…お帰りなさい」


 言葉を交わし合いながら、ラグナはレオンの頬に唇を当てた。
レオンのぬいぐるみを抱いていた片腕が解け、ラグナの髪に指を絡める。

 あやすように、ラグナは何度も口付けをした。
触れては離れ、また触れる唇の感触に、レオンは猫のように目を細めている。
まだ寝惚けているかな、と思ったラグナだったが、少しずつ意識が戻って来たらしい。
一分もすると、レオンはきょとんとした表情で、ラグナを見上げて来た。


「……ラグナさん、仕事は…?」
「今日で終わったよ。だから急いで帰って来たんだ。早くレオンに逢いたかったからさ」


 くしゃくしゃと柔らかな髪を撫でて言うラグナに、レオンの頬に赤色が浮かぶ。
レオンはその貌を隠そうと、顔を背けてぬいぐるみの胸に顔を埋めた。
それを見て、そうだ、とラグナはベッドの半分を占拠しているぬいぐるみの存在を思い出す。


「レオン。お前、俺がずっと出張行ってる間、ずっとこうやって寝てたのか?」
「あ……い、いや……その……昨日、寒かったので……」


 確かに、昨夜の都心は随分と冷え込んでいたようだった。
低気圧が襲って来た事や、朝から殆ど陽光に恵まれなかった事に加え、風も強くて殆ど気温が上がらなかったと言う。
家の中なら暖房を付けて置けば、と言いたい所だが、レオンは人工風に弱いようで、冷暖房はいつも最低限しか使用しない。
タイマーで温風が止まってしまえば、後は冷えて行く一方なので、暖を求める為に綿の詰まったぬいぐるみは確かに丁度良かったのだろう。

 だが、赤らんだ顔を隠すレオンの様子を見るに、きっと理由はそれだけではないのだろう。
ラグナは、可愛いなあ、と思いながら、顔を背けたままのレオンの肩に手を置く。


「レオン、こっち向けって。顔見たいんだ」
「……」
「な、レオン。ちょっとで良いから」
「………」


 意地になったように、レオンはぬいぐるみに顔を埋めたまま動かなかった。
ぎゅう、とライオンの首を締めんばかりに、しがみつくレオンの腕に力が篭る。
レオン、とラグナは繰り返しレオンの名を呼ぶが、愛しい人は耳を赤くしたまま、頑なに動かない。

 ラグナは唇を尖らせて、レオンの背中に抱き付いた。
ぎくっとレオンの肩が一瞬硬直したが、くしゃくしゃと髪を撫でてやれば、直ぐに解れる。
どんな顔をしているだろうとラグナが肩口から覗き込んでみると、視線を察したか、レオンはライオンの柔らかな胸に顔を沈める。
息がし辛いんじゃないかと思う程に、深く顔を沈めるレオンを、ぬいぐるみは何も言わずに受け入れていた。


「レオン。どうせ抱き付くなら、こっちにしてくれよ」
「……嫌です」
「レオン〜」


 赤いと自覚のある貌を見られたくないのだろう、レオンは決して振り返らない。
耳どころか、髪の隙間から覘く白い首筋まで赤くなっているのが見えた。

 こっち見て、嫌です、と言う遣り取りの傍ら、ラグナの視線は濃茶から覗く白に釘付けになる。
レオンがゆるゆると頭を振る度、柔らかな髪がふわふわと動いて、項をちらちらと隠しては覗かせる。
ラグナは徐にその後ろ髪を掬い上げると、露わになった項に吸い付いた。


「っ……!」


 ビクッ、とレオンの肩が跳ねる。
助けを求めるように、レオンのぬいぐるみに抱き付く腕に力が篭った。
が、抵抗と言えばその程度で、レオンはその場から逃げる事も、ラグナを振り解こうと暴れる事もしない。

 ラグナはレオンの背中にぴったりと密着して、腰に回していた腕をもぞもぞと動かし始めた。
スラックスの前を緩め、シャツの隙間から手が侵入して、レオンの引き締まった腹を撫でる。
くすぐるようにソフトなタッチで撫でる手に、ぬいぐるみに埋めたレオンの唇から、微かに甘い呼気が零れた。


「…ラグ、ナ…さん……っ」
「嫌か?」
「……それは、……」


 ラグナに求められれば、レオンに拒否する理由は無い。
嫌かと言われれば決して嫌ではないし、元より、一週間振りの触れ合いをレオンも求めているのは確かだった。
ただ、それに頷くのは恥ずかしいので、どうしてもレオンはその質問に答えが返せない。

 答えなどなくとも、ラグナは構わなかった。
腹を撫で、上へと昇って行く手を捕まえる事もせず、受け入れられていると言う事が答えであると知っている。

 胸の中心を指先がつう、と辿り上る感覚に、レオンは小さく声を漏らした。
左胸に手を当てると、破裂しそうな程に早い鼓動が伝わってくる。
女と違って柔らかくはないが、鍛えられた胸板を掌全体で揉んでいると、レオンがもぞもぞと身動ぎして、胸元を隠そうとぬいぐるみに体を押し付ける。
だが、柔らかなぬいぐるみではラグナの手の悪戯を邪魔する程の力は無く、寧ろもっと、と言うように手がぴったりとレオンの胸に重なった。
ラグナの掌の皺の形まで判る程の密着に、レオンの鼓動が一つ大きく跳ねる。


「う……ん……っ」
「レオンの乳首、もう膨らんでる」
「…っ……!」


 胸の頂きの蕾が、微かに膨らみを帯びているのを指先で感じ取って囁けば、レオンはふるふると首を横に振った。
しかし、否定した所で、事実はラグナがよく判っている。
インナーの下でぷくっと膨らんでいた乳首を摘むと、レオンは堪らず声を上げる。


「あっ……!」
「ほら。な?」
「ん…あ……っ、や、あ……っ」


 人差し指と親指で乳首を摘まみ、コリコリと転がすように遊ばせてやると、レオンはピクッ、ピクッ、と小刻みに体を震わせた。


「んっ…んん……っ」
「なんだかいつもより敏感だなあ。一週間振りだからかな」
「…ん……っ、ふ……っ」
「寂しい思いさせちまったみたいだな。ごめんな」
「…それは…別に……」


 仕事ですから、と小さく呟くレオンに、ラグナは眉尻を下げる。
大人なのだから分別があるのは結構な事だが、偶には我儘を言ってくれても良いのにな、と思う。
しかし、それを言っても、甘え方を知らないレオンを困らせるだけだろう。
言葉の代わりに、赤くなった耳の裏にキスをして、ラグナは行為を続けた。

 左右の乳首を片手で代わる代わる弄りながら、ラグナは空いている手でレオンのスラックスを引っ張った。
脱がそうとしている事に気付いて、レオンも腰を捻って、ラグナの手を助ける。
ぴったりと肌に密着したボクサーパンツは、脱がすのに少し手間取ったが、膝下まで下りてくれれば後は簡単に脱がす事が出来た。

 上半身は少し着崩した程度で、下半身はすっかり裸にされて、レオンの体温が上がる。
白い肌は上気すると直ぐに表面に出てしまい、ラグナの目に、レオンの首筋がまた赤らんでいるのが見えた。


「レオンは直ぐ赤くなるよな」
「……余り見ないで下さい」


 ぬいぐるみに顔を埋めるレオンに、其処ばっかり隠しても、とラグナは苦笑する。
耳と首と、生まれたままの姿になれば、全身がほんのりと紅潮する事を、彼は知らない。

 ラグナは引き締まった腰を抱き寄せて、レオンの臀部を自身の腰に押し付けた。
スラックス越しに固くなった感触が伝わったのだろう、ビクッとレオンの身体が震える。


「ラグナさん……あの…当たってます…」
「うん。判ってる」


 当ててるから、と耳元で囁かれた言葉に、レオンは呆れたと言わんばかりの溜息を漏らす。
が、そんなレオンの中心部に触れてやれば、彼も既に頭を持ち上げている状態になっていた。

 膨らみ始めている雄を緩く握り、上下に扱く。
一週間振りに恋人から与えられる刺激に、レオンの身体はたちまち熱を持ち、欲の象徴もあっと言う間に成長して行く。


「ん…んっ…!」
「声出して良いんだぞ」
「……ん、ぐぅ……っ」
「そんなに照れなくても良いのに。レオンの感じてる声、好きなんだから聞かせてくれよ」


 ぬいぐるみに口元を埋め、唇を噛んで嬌声を堪えようとするレオンに、ラグナは解放を促した。
しかし、レオンはふるふると首を横に振るばかりで、中々声を聞かせてくれそうにない。
いつもの事だ、とラグナはがっつく事はせず、ゆっくりとレオンの理性を蕩かせていこうと、愛撫を続けた。

 根本から先端へ、詰まっているものを絞り出すように、緩く握った手で扱かれて、レオンは段々と下腹部がくるしくなるのを感じていた。
離れ離れの一週間、一度だけ自慰をしていたが、与えられない決定的な熱に焦がれが増すばかりだったので、それ以降はしていない。
お陰で溜まっていたのだろう、ようやく与えられたラグナからの快感に、躯は直ぐに上り詰めて行く。


「あ…ん……っ!んぅ……っ!」
「イっていいぞ」
「……っ」


 先端からとろりとした蜜液を溢れさせ始めたレオンに、ラグナが耳元で囁いたが、レオンは首を横に振る。


「よ、ごれ…ます……っ」
「良いよ、俺の事は気にしなくて」
「そ、それも…ありますけど……こ、これ……っ」


 これ、とレオンが言って指したのは、抱き付いているライオンのぬいぐるみだ。
ベッドの半分を占拠しているぬいぐるみに、レオンは体を密着させている。
このまま射精してしまったら、間違いなく、ぬいぐるみを卑猥な液体で汚してしまう事になる。


「そんな事言ったって、レオンがそいつを離さないんだろ?」
「はっ、あっ……!うぅ……っ」


 ぬいぐるみを汚すまいと、ラグナが与える刺激に耐えるレオン。
しかし、彼の一物はラグナの手の中でむくむくと成長し、後幾らもしない内に弾けてしまうに違いない。
その前にぬいぐるみを避難させなければ、と思うのだが、湧き上がる劣情に耐える為にとぬいぐるみに抱き付く腕は、力が入ったまま解けそうにない。

 目尻に涙を浮かべ、顔を真っ赤にして限界に耐えているレオンに、しょうがないな、とラグナは言った。
乳首を苛めていた手を離し、下肢へと下ろして、レオンの一物の先端をきゅっと握る。


「あっ……!」


 思わず漏れたレオンの声に、ラグナの下半身に熱が増す。
スラックス越しに尻に当たる固い感触に、レオンのからだがぶるっと震え、とぷり、と先端から濃い蜜が溢れ出した。


「あ、あ……っ」
「大丈夫。イっていいぞ。ほら、俺が受け止めてやるから」


 先端を握る手を緩め、掌で撫でてやる。
其処に恋人の手があると確かめさせてから、ラグナはレオンをもう一度絶頂へと導き始めた。


「んっ、んぅっ……!ラグナ、さ……っ!」
「ラグナで良いよ」
「は…はい……あ…っ、ラグナ…ラグ、ナぁあ……っ!」


 二人きりの恋人同士の時間だけ紡がれる呼び名を、レオンは狂おしそうに呼びながら、頂への階段を上る。
下腹部に集まっていた熱が、押し出そうとするラグナの意思に沿って、一気に出口まで昇ってくる。
引き締まった腰が悩ましげにゆらゆらと揺れて、尻をラグナの腰へと押し付けた。
きゅうっ、とラグナが雄の根本を握ると、レオンは息苦しそうにヒクッと喉を詰まらせたが、それもほんの一瞬の事。
握る力を緩めた途端、我慢の堰が決壊したように、レオンは高みへと昇り切った。


「あぁああ……っ!」


 切ない声を上げて、レオンはラグナの手の中に己の熱を吐き出した。
若い精子が勢いよく溢れ出し、ラグナの掌を熱いもので汚して行く。

 ビクッ、ビクッ……と余韻の痙攣を見せていたレオンの身体は、程無く、くたっと弛緩した。
耳を赤くさせて、はあ、はあ、と熱の篭った息遣いがラグナの耳に届く。
ラグナが彼の蜜液で濡れた手で太腿を撫でると、汗でしっとりとした肌が掌に吸い付いて来た。
ぬるぬると生々しい粘液の感触を残した手で、ゆっくりと肌を滑り撫で、引き締まった肉の上に薄らと脂肪のついた尻を撫でる。


「んっ……」


 尻の谷間を指がくすぐった時、レオンが呻くように小さく啼いた。


「嫌か?」
「……いえ……」


 確かめるラグナの問いに、レオンは首を横に振った。
閉じていた太腿をゆるゆると動かし、ラグナが秘部を触り易いように、腰を少し後ろへと突き出す。
尻の谷間で潜めいている秘孔が露わになり、ラグナは濡れそぼった指を其処に宛がった。


「入れるぞ」
「────んんっ……!」


 つぷ、と爪先を埋めると、レオンの身体が一瞬強張る。
本来は受け入れる器官ではない所為か、何度体を重ねても、入り口が緩む事はない。
今日は一週間振りと言う事も相俟ってか、いつもよりもずっと締まりが強い。
ラグナは、指にまとわりついている蜜液を潤滑油の代わりにして、肉壁に塗りながら、ゆっくりと指を挿入して行った。


「っは……んっ……」
「レオン。それ、息苦しくないか?」


 指の侵入が深くなる度、ぬいぐるみに強く抱き付くレオンに、ラグナは訊ねた。
ふかふかとしたライオンの胸に顔を埋めるのは、暖かさもあって気持ちが良いかも知れないが、呼吸するには不便だろう。
だが、レオンはラグナの問いに答えず───余裕もないのだろう───、ライオンのぬいぐるみにしがみついたまま、ヒクッ、ヒクッ、と四肢を震わせている。

 半分まで入った指の関節を曲げて、天井壁を指先で押す。
不意を突かれたように、ビクンッ、とレオンの躯が大きく跳ねた。


「あ…ふ……っ」
「此処、気持ち良いか?」
「…あっ、あ……っ!」


 同じ場所をつんつんと指先で突いてやると、レオンの太腿がビクッビクッと戦慄き、きゅうっ、とラグナの指を締め付ける。
絡み付く肉は、ねっとりと艶めかしくラグナの指を包み込み、指を動かす度にグニグニと蠢いて形を変える。


「あっ…ラグ、ナ…あ……っ」
「二本目」
「ぅん……っ!」


 人差し指を咥えている秘孔に、中指も押し込む。
穴から抵抗感があったが、それも入口の裏側をくすぐってやれば直ぐに解けた。


「あ…っ、はぁ…っ、あぁ……っ」


 息を詰めて必要以上に力む事のないよう、意識して呼吸をするレオンに合わせて、ラグナもゆっくりと指を押して行く。
呼吸に促され、僅かに締め付けが緩くなった隙に、数センチずつ指を入れていくと、直に根本まで入れる事が出来た。

 ラグナの長い指に秘孔を犯されて、レオンはうっとりとした表情を浮かべていた。
自慰でも自分で其処を弄るには至っていなかった為、本当に一週間振りに刺激を与えられたのだ。
その悦びは何よりも躯が正直に表しており、ラグナがほんの少し指を抜こうとしただけで、嫌がって食い付いて来る。


「は…あぁ……っ、ん…はぁ……んっ…!」


 呼吸か、艶の吐か、入り交じった音がレオンの喉から漏れている。
ぬいぐるみに顔を半分埋めているので、くぐもって聞こえるのが、余計にいやらしさを増している気がした。

 縋るように締め付けていた肉の感触は、次第に解れて行き、柔らかい強さで絡み付くようになる。
その頃には、レオンの雄も再び膨らみ、肌には珠のような汗が浮かんでいた。


「レオン」


 耳元で名を呼ぶと、ぬいぐるみに埋めていた顔が浮いて、肩越しに振り返る。
熱に浮かされた蒼灰色がラグナを捕え、「らぐな」と舌足らずに名前を呼ぶのが聞こえた。

 ラグナがゆっくりと秘孔の指を抜こうとすると、レオンは切なげに眉根を寄せて、零れる息を噛み殺す。
躯はと言うと、咥えるものを失う事を嫌がって、きゅうきゅうとラグナの指に吸い付いて来た。
もっと、もっと奥に、と物欲しげに誘う肉の動きは魅力的だったが、だからこそ、ラグナはもっと繋がりたくて、指を引き抜く。


「あっ……!」


 ぴったりと指の形に添っていた穴から、ぬぽっ、と小さく音を立てて指が出て行くと、レオンの口から寂しげな声が漏れた。

 ぬいぐるみにしがみ付き続けていたレオンの腕が解け、その手が自身の下肢へ向かう。
自分の手で尻たぶを掴み、レオンは秘部を曝け出して見せた。
其処には慎ましく閉じている筈の秘孔ではなく、色付いた土手を僅かに膨らませ、ヒクヒクといやらしく穴を蠢かせて男を誘う肉壺がある。


「ラグナ……もう…挿れて…くれ……」


 言葉遣いを正すのを止めて、レオンはラグナに雄をねだる。
恋人ではあるけれど、年上であり上司であるからと、何処か一線を隔すような態度を取るレオンがこんな姿を見せるのは、滅多にない。
それだけ、一週間振りの睦言の時間を待ち遠しく思っていたと言う事だろう。


「じゃあ……と、このままだと入れ辛いな」
「ラグナ……早く……」
「判ってるよ。そうだな……よっ、」
「っ」


 ラグナはレオンの躯を抱き起こして、ベッドに座らせた。
背中のラグナに支えられたまま、レオンはとろんとした表情で大人しく過ごしている。
そのレオンが横たわっていた場所に、ライオンのぬいぐるみを置いて、ラグナは恋人のその上に俯せに乗せてやった。


「ラグナ……?」
「四つん這いって結構膝とか背中とか来るからな。でも、これなら楽だろ?」


 レオンは、ぬいぐるみの上に馬乗りになる格好になっていた。
仰向けのぬいぐるみがレオンの体重をすっかり受け止めているお陰で、確かに、レオンの膝や背中の負担はかなり軽減されている。
躯は半分程ぬいぐるみの腹に沈んでいるが、腰は高い位置をキープしており、ラグナとしても挿入し易い状態だ。

 熱に浮かされている所為か、自分が何の上に乗っているのか、レオンはいまいち理解していないようだった。
不思議そうに躯を埋めるぬいぐるみの端を摘まみ、綿の感触を遊ばせている。
と、その背にラグナが覆い被さると、はっと我に返ってばたばたと脚を暴れさせ始めた。


「ラ、ラグナさん…!こ、これは、ちょっと……あっ…!」


 ぬいぐるみの上に乗った状態でセックスしようとしている事に気付き、それは流石に、と思ったレオンだったが、ラグナは止まらなかった。
色付いて液を垂らしている秘孔にラグナの雄が宛がわれると、その熱と感触に、レオンの背にぞくぞくとした快感が走る。

 レオンが再び熱に捕まると同時に、ラグナはぐっと腰を押し進めた。
レオンは先端から最も太い場所までを一気に飲み込み、圧迫感と火傷しそうな程の熱の快感に、背中を仰け反らせて喘ぐ。


「ああぁぁぁ……っ!」
「っく……!レオン、熱い……っ!」


 迎え入れたと感じた瞬間、一気に濃厚な肉圧がラグナを襲った。
指で解されていたお陰で、噛み付く程の痛みはないが、幾重にも重なる肉の波が竿の太い場所を隙間なく包み込み、ねっとりと絡み付いて来る感触が堪らなく心地良い。
ラグナ自身も、一週間振りに感じる肉の感触に、あっと言う間に頂点まで昇りそうになった。

 ぐっと息を堪えて射精管を堪えると、ラグナは更に腰を進めた。
まだ意識が戻り切っていなかったレオンは、深くなる侵入にまた悩ましい声を上げている。


「あはああ……っ!ラグナ、あ……っ」
「ん……っ、気持ち良い……レオン……っ!」
「あぁ……っ!」


 背中に覆い被さったラグナの言葉に、レオンの躯の熱が一際増した。
熱を持った肉がきゅうぅっと切なく戦慄いて、ラグナの雄に絡み付き、奥へと誘うように動く。
ラグナは促されるままに腰を進めて行き、程無く、狭くなった行き止まりの壁に行き当たった。


「あふっ……!」
「ここ、な……っ!」
「あっ…!あぁ……っ!」


 奥壁を雄の先端にぐっと押され、ビクッと背筋を仰け反らせるレオン。
ラグナはその反応に気を良くして、レオンの肩をぬいぐるみに縫い付けるように押さえこんで、強く腰を打ち付け始めた。


「あっ、あっ、んあっ…!や、あっ…んんっ」
「はっ、はっ…はぁっ…!」


 ぬいぐるみから食み出ているレオンの足が、爪先でシーツの波を引っ掛ける。
突き上げられている内に、レオンの躯は段々と上へずり上がって行き、レオンは太腿から上を完全にぬいぐるみに乗せていた。
膝はすっかりベッドから浮いており、震える膝には碌に力を入れる事が出来ていない。

 レオンは、自身の膨らみがぬいぐるみの腹に押し付けられている事に気付いた。
秘奥を突きあげられる度、先端から押し出されるように溢れ出す蜜液が、レオンとぬいぐるみの腹を汚している。
ぬるぬるとした感触が下腹部に溜まって、じわじわと柔絹の表面に沁み込んでいるのが判った。


「ああっ、ラグっ、ナさ…っ!ラグナぁ…っ!だ、め……あぁっ!」
「駄目って、でも…んっ!レオン、すっげー締め付けて来るぞ…っ!」
「はっ、あっ、あぁ…っ!やあ…あっあぁ…っ!」


 レオンの足が逃げを打つように暴れるが、宙を蹴り上げるばかりで、ラグナには何の効果もない。
レオンの手は、ぬいぐるみの綿を千切らんばかりの力で、ライオンの胸を握り締めていた。
円らな瞳のライオンは、力一杯握るレオンに文句も言わず、自身の上で卑猥な交尾が行われている事も、黙って受け入れている。
それがレオンには無性に罪悪感が増して辛いのだが、同時に、ボタンの円らな瞳に見つめられると、得も言われぬ感覚に襲われて、堪らずラグナを締め付けてしまっていた。


「あっ、ふっ、うぅっ…んんうっ…!」


 ライオンの視線から逃げるように、レオンは目を閉じて、ぬいぐるみの胸に顔を埋める。
ラグナはそんなレオンの背中にキスをして、体を起こすと、ぬいぐるみに乗り上げているレオンの腰を両手で掴んだ。
レオンが掴んでいるぬいぐるみごと、ぐっと後ろへ引き寄せると、


「んふぅううっ!」


 レオンの躯がぬいぐるみの上からずり下がり、ぬぷぷぷっ、と深くなる挿入に、レオンがくぐもった声を上げる。

 レオンは、今度はぬいぐるみの腹に顔を埋めていた。
浮いていた膝がベッドマットに届き、上半身だけがぬいぐるみに乗っている。
レオンはぬいぐるみに縋り付いて、ヒクヒクと四肢を戦慄かせながら、ふぅ、ふぅ…と甘い吐息を漏らしていた。
その呼吸が幾らも整わない内に、ラグナは律動を再開させ、レオンの中を長いストロークで責め立てる。


「んっ、んぅっ…!うぅ……ふくぅうっ…!」
「レオン、そんなに声我慢するなよ」
「う、んん……っ!」
「聞きたいんだ。レオンが気持ち良くなってる声。だから───」
「んぁあんっ!」


 ずんっ!と秘奥を強く穿ち上げられて、レオンは堪らず悲鳴を上げた。
それを皮切りに、レオンの甘い声が引っ切り無しに上がり始める。


「あっ、あっ…!ふあ、あんっ……!あぁっ、はぁんっ……!」
「んく…はは……っ、やっと聞けた。レオンのきもちいーって声」
「あふっ、違…違います……あぁっ、んんっ!」
「じゃあ気持ち良くない?俺とセックスするの、嫌か?」
「…はっ、そう言う、事をっ…聞くのは……あぁっ、ずるい、です……っ!ひぃうっ」


 奥を絶え間なく突き上げながら言うラグナを、レオンは涙の滲んだ目で肩越しに睨んだ。
が、ぐりゅっ、と奥壁を抉るように突かれて、直ぐに表情は快感に蕩け堕ちる。


「んぁ、んっ!あっ、はぁ…っ!ラ、グナ…あっ、ラグナ、ぁ…っ!」
「うっ……!やば、キツいかも……っ!」


 互いの限界が近い事を悟り、愛しい人の名を繰り返し呼ぶレオンと、歯を食いしばるラグナ。
レオンの秘孔の中で、ラグナの雄は大きく膨れ上がっており、狭い道を限界まで押し広げていた。
それを肉壁が隙間なく密着し、突き上げる度に根本からみっちりと食むものだから、ラグナは堪らない。


「はあっ、ああ…イ、イく……ラグナ…あっ、抜いて…っ!」
「無茶言うなよっ、こんな状態で……!」
「お、お願いします…っ!い、今…今イったら、俺……あぁっ…!」


 ずっと待ち侘びていた肉熱を与えられた時から、レオンの躯は早くも二度目の限界を迎えつつあった。
それを今までなんとか堪えていたが、もうそれも時間の問題だ。
腹の下で反り返った雄の先端からは、とろとろと愛液がだらしなく垂れ溢れており、シーツにダマを作って沁み込んで行く。
それと同じ沁みが、ぬいぐるみの腹にもあり、レオンは自分の胸元にその沁み込みの痕があるのを感じていた。
それだけでも恥ずかしいと言うのに、今の格好のまま果ててしまったら、レオンは確実にぬいぐるみに向けて噴き出してしまう。
これ以上、このぬいぐるみを汚す事は耐えられない、とレオンは必死でラグナにストップを懇願していた。

 だが、ラグナも既に辛い状況だ。
こんな状態で自身の欲望を止められる筈もなく、ラグナはレオンの腰を掴んで、より一層激しく彼を責め立てる。
大きく怒張した一物に、入り口から最奥までを隙間なく擦られて、レオンの我慢は遂に決壊した。


「ああっ、やめっ、あっ…!あああぁぁぁ……っっ!!」
「締まって……レオ、ンんっ…!」


 一際高い声を上げて、レオンは絶頂に昇り詰めた。
耐えた分まで蓄積された快感は、レオンの意識を真っ白に溶かして行き、蜜は潮を吹くように勢いよく飛び散って行く。

 同時にレオンの括約筋がぎゅうっと縮こまり、咥え込んだ一物を搾るように締め付けると、ラグナもまた絶頂を果たした。
一週間振りの濃い液体が、レオンの中をあっと言う間に満たし、粘膜同士が絡み付いて交じり合う。
ラグナは、ぎゅうっぎゅうっと繰り返し不規則なリズムで締め付ける肉に促されるまま、溜まっていた肉欲をレオンの中に注ぎ込んで行く。


「ああっ…!ああぁん……っ!」
「う…うっ……くうぅ…っ!」


 甘ったるい声を零し、腹の奥に熱を注がれる快感に、レオンが悩ましげに身を捩る。
ぬいぐるみの上で彷徨いもがく手を、ラグナが捕まえた。

 ラグナはレオンの躯を半分起こして、脚を持ち上げて躯を反転させた。
繋がり合ったままで反転させられた所為で、肉壁が雄に擦り回され、レオンはまた甘い悲鳴を上げた。
背中がぬいぐるみの腹に沈むと、ラグナはレオンの上に覆い被さり、再び律動を始めた。


「あっ、あっ、ラグナ…や、落ちる……っ!」


 不安定なぬいぐるみの上で揺さぶられて、レオンは慌てた。
縋るものを失くした両腕と、身体が半ば折り曲げられたように沈んでいる所為で、浮いた両足が宙を掻く。
ラグナはそんなレオンの上に重なり合って、彼の腕を自分の首へと回してやる。


「ほら。今度はこっちに捕まって」
「んぁ…あっ、は、はい……っ!」
「足も絡めて。落っこちないように」
「は、んぁっ…!あっ、あぁ……っ!」


 ラグナに促されるまま、レオンはラグナの腰に足を絡めて、全身で恋人に抱き付いた。
不安定な場所から落ちない為と言い訳はあれど、こんなにも全身で縋り付いてくれたのは、これが初めての事だ。
そう思った途端、レオンの秘孔の中で、ラグナの雄がむくっと膨らみを取り戻す。


「ふぁあ……っ!」
「離すなよ、レオン。俺も落とさないようにするから」
「は、い……っ、あぁあ……っ!」


 首に回したレオンの腕に力が篭る。
素直に縋り、甘えてくる恋人にラグナが顔を寄せ、二人は深く唇を重ね合わせて、長い夜を過ごした。




 翌日、レオンが目を覚ますと、傍らにライオンはいなかった。
目覚めてしばしぼんやりと過ごし、先に起きていたラグナに頭を撫でられて過ごしてから、レオンはその事に気付いた。

 レオンはだるさの残る体を起こして、きょろきょろと辺りを見回す。
件の住人は部屋の何処にも見当たらず、定位置にしている一人用のソファにも座っていない。
可笑しいな、と首を傾げていると、そんなレオンを眺めていたラグナが、ベッドに横たわったままで言った。


「あのライオンなら、外にいるよ」
「外?」


 ぬいぐるみが外に、と聞いて、まさかゴミに、とレオンは思ったが、ラグナが指差したのは窓だった。
窓の向こうには物干しに使っている小さなベランダがある。
其方を見てみると、ラグナの言った通り、すりガラス越しの外───ベランダに大きなぬいぐるみのシルエットが映っている。


「どうして……」
「どうしてって、そりゃあ洗ってやったからさ」


 レオンの呟きに、ラグナは起き上がりながら言った。
裸身のままベッドに座っているレオンを、ラグナはシーツで包んでやる。
ラグナはと言うと、早い内から起きて過ごしていたのか、いつの間にかレオンの部屋に常備するようになったシャツとジーンズと言う格好だ。


「洗った……?」
「ああ」


 ラグナの言葉に、どうして、とレオンがもう一度首を傾げる。
するとラグナは、些か気まずそうな顔で頭を掻き、


「昨日ので、ほら。色々な。汚れちゃったから」
「昨日……────!!」


 頭の中で昨夜の出来事を再生させて、レオンはラグナの言葉の意味を理解すると同時に、沸騰宜しく真っ赤になった。
ぬいぐるみの経緯は勿論、その後、彼に全身で縋り付いてセックスをしていた事も、全てがレオンにとっては恥ずかしい。
一週間振りと言う事もあって、昨夜はそうした事を全て忘れてラグナとの睦言に夢中になっていたが、冷静になって振り返ると、レオンは恥ずかしさで憤死してしまいそうだった。

 赤くなった顔をラグナに見られている事に気付き、レオンはシーツを手繰り寄せて顔を隠す。


「見ないで下さい……!」
「そんな事言うなよ。可愛かったぞ?ぬいぐるみに抱き付いて寝てた所も可愛かった」
「止めて下さい……」


 レオンにとっては、それこそがラグナに見られたくない場面だった。
ラグナから貰い、ラグナが身に着けていたネクタイを譲られたライオンのぬいぐるみは、時折彼の代わりに見える事があった。
一週間の出張で離れ離れになっている間、どうにも寂しく思う気持ちが誤魔化せなくて、気休めにと抱いて寝たのは三日前。
ベッドの半分を占拠するライオンは、ラグナに比べてずっと大きく柔らかくて、感触はまるで似ないのだが、首下のネクタイが彼を思い出させてくれた。
一度そう感じてしまうと、次の夜も傍に置いたまま手放せず、その後も同じベッドで眠っていた。
彼が帰って来る日には、いつも通りの場所に戻してしまえば良いからと思っていたのに、まさか昨夜帰って来るとは思っていなかったのだ。
帰って仕事疲れのまま、休憩するつもりで寝落ちてしまった事が、まさかこんな結果に繋がるとは、思ってもみなかった。

 真っ赤になって膝を抱えて丸くなる青年に、ラグナはくすくすと楽しそうに笑う。


「嬉しかったよ。あのぬいぐるみ、そんなに気に入ってくれてたんだって」


 ラグナの言葉に、レオンは返事もしない。
シーツの隙間から覗く頬や耳が、湯気でも出そうな程に真っ赤になっているのが見える。
勘弁して下さい、と小さな呟きが聞こえた気がしたが、ラグナは構わず、シーツに包まっているレオンを抱き寄せて言った。


「でも、もう俺は帰って来たからな。また出張があったら行かなきゃいけないけど、それまでは俺が一緒に寝てやるから」


 それなら寒くないだろ、と言うラグナに、レオンはそっと顔を上げて、小さく「はい」と頷いた。




大きなぬいぐるみに抱き付いてるレオンって可愛いなと言う萌えと、ぬいぐるみに抱き付いてえっちしてるのって良いなって言う萌えを頂いて以来、いつか書こうと思っていたもの。
あとラグナに対して敬語を使うレオンにも萌えています。微妙な距離感を保とうとする感じがもどかしくて好き。