夢の続きをいつまでも


 勘違いだろう、と何度も言った。
そうでなければいけない、と思ってもいた。
そう言っていた頃の自分の本当の心が何処にあったのかは、今もってよく判らない。

 ────レオンが自分に対して特別な感情を抱いている事は、少なからず感じ取っていた。

 少年期はともかく、青年期にさしかかってからは、割と社交性も身について、しっかりリーダーシップが取れるようになったレオン。
共に過ごしていた面々が、皆自分よりも年下だった事からも、彼の自立心を大きく刺激したのは間違いないだろう。
その反面、他者に甘える事は良しと出来なくなり、何もかもを自分の責任だと背負い込もうとする所は困り物だったが、それをどうにか出来るだけの実力も身について行ったので、悪い事ばかりではないと言えよう。
そんな中で、彼は自分の中の感情をコントロールし、本心を隠す事も上手くなって行ったのだが、それでも彼の瞳は言葉以上に雄弁であったから、レオンと言う人間をよく知る人間からすれば、彼の心は決して読み取れないものではなかった。

 初めの頃は、自覚がなかったのもあるのだろう、存外と正直な彼の瞳は、判り易くシドを特別視していた。
だが、過去の事件然り、その後の生活然り、彼が自立しながらも偏った成長をしていた事は否めず、何処か幼さを残した心が、己の安寧を求めて、身近にいる大人───シドの存在が大きな比重を占めた事は想像に難くない。
半ば神聖視にも似た意識は続き、それが形を変えて、今に至ったと言うのもある。
しかしシドは、それがいつまでも同じ形で彼に根付くとは思っていなかった。

 元々レオンは独立心が強かったから、誰かに依存する事は良しとしない傾向もあった。
それも行きすぎなければ良し、いつまでも子供ではないし、自身で考え行動してくれる方がシドも楽だ。
無論、彼が助けを求めれば応えるが、平時にまで何もかもを当てにされる訳には行かなかった。
その点は、レオンだけでなく、エアリスやユフィ、クラウドも同様で、皆それぞれの形で自立してくれたと思う。
特にレオンは、シドが考えていた以上に立派な大人になったと言えるだろう。

 しかし、彼のシドに対する特別な感情は消えなかった。
ある日、ぷつりとそれが瞳から消えるようになった時は、親心混じりの寂しさはあれど、そう言うものだと───それが正しいのだとシドは思ったが、あれはきっと、自分の感情を自覚した事で、彼がそれを隠そうと意識するようになったからだろう。
どちらかと言えば常識的な思考を持ち、自立心の強さもあり、他者に迷惑をかける事を厭う性格だから、「シドを困らせたくない」と言う気持ちで、自身の感情を隠そうとしていたのだ。
だが、人間の心とは難しいもので、幾ら隠そうと努力しても、意識し切れない部分は零れ出てしまうものらしい。
シドと向き合っている時には、レオン自身が己の心を隠そうとする為、シド本人には隠せていたが、それ以外では明らかだったと言う。
エアリスやユフィは勿論、時折帰って来るのみのクラウドにすら、レオンのシドへの恋心は明確だったそうだ。
判っていて彼等が何も言わなかったのは、やはりレオン自身が隠そうとしている事を感じ取ったからだろう。
誰にも知られたくないと、知られてはいけないと思っているレオンに気付いたから、助言さえも避けたのだ。

 レオンが心を隠そうとしたのが良かったのか、悪かったのか、それは誰にも判らない。
隠し続けた所為で、レオンは胸の内で苦しみ続け、情緒不安定になった事もある。
好きな人と一緒にいられるだけで幸せだ────そうは思っていても、応えて欲しいと言う欲求は抑え切れなかった。
しかし、恋心を隠している以上、それは叶えられない願いである。
諦めながら求めずにはいられなくて、レオンはそんな自分が酷く浅ましい人間に思え、悩み苦しみ続けていた。
不安定に陥った彼を心配する者は多く、それを見たユフィを筆頭とした面々が、シドのいない所で、それぞれの方法でレオンを発奮したらしい。
だが、元よりレオンにとっては諦めていた恋である。
成長して緩和したとは言え、どちらかと言えば元々ネガティブな思考に陥り易い彼は、己が最も望まない形での終焉を願うようになっていった。

 しかしその頃には、レオンの恋心はシドにも知る話となっていた。
それでも“受け取る訳には行かない”とシドは考えていたから、知らずのつもりを貫いていたのだが、クラウドからは「あいつが動いたら、ちゃんと答えを出してやれ」と言われていた。
それがレオンの望む結末であろうと、そうでなかろうと、何らかの形で決着を着けなければ、レオンは生涯苦しむ事になるだろうから、と。

 答えを出せと言われても、シドにとっては最初から出ていたようなものだ。
自分は彼の親代わりで、彼は成長過渡期に最も傍にいた大人を信頼し、その信頼の形が何らかの理由で歪んでしまっただけ。
シドに出来る事があるとすれば、歪んだ形を正しい形に戻す事。
だから、若しもレオンが自分の心を打ち明ける日が来たら、きっぱりと突き放してやるのが正しい答えだと思っていた。

 だが、レオンはそんなシドの考えも判っていた。
それこそが正しい答えであると、彼自身も思っていた。
思っていたから、レオンは恋心を隠し続けていたのだ。
自分から欲しがろうとしなければ、何かが壊れてしまう事もないから。

 酒の力を借りて、ようやくレオンがそれを告白した時、シドはどう言えば彼を傷付けずに済むかを考えた。
全く傷付けないと言うのは難しいと思ったから、出来るだけ傷が浅くて済むようにと言葉を探した。
────だが、その時のレオンの顔を見て、それを探している事こそが彼を深く傷つけている事に気付いた。

 告白した時、レオンは笑っていた。
笑っていれば、告白すらもシドにとっては冗談に見え、シドが受け流す事も、笑い混じりにバカバカしいと言う事も出来るから、シドがどう答えるとしても、気を遣わせる事はないだろう、と。
その時点で、レオンは本当に欲しい答えと言うものを諦めていた。
彼はただ、羨望と期待を抱き続ける事に疲れ、それでも想う事を止められない自分を殺して欲しくて、シドに想いを告げたのだ。

 笑いながら、諦めながら、殺してくれと願う青年の姿を見た時、殺してはいけないとシドは思った。
では、彼の心を受け止められるのかと言われれば、その時はまだ判らなかった。
シドにとって、レオンは自分の子供も同然であったから、彼に対して、親代わりとして見る以上の感情はなかった。
それでも、苦しそうに笑う彼を見て、必死に隠そうとしている柔らかな心を壊してはいけない───と思ったのだ。

 同情がないと言えば嘘になる。
あまりにレオンが苦しそうだったから、一時の慰めを与えるような気持ちで、隠そうとする彼の求める手を捕まえたのも否めない。
それは、ある意味で酷な事だったのかも知れない。
終焉を求めた彼に、いつ消えるかも判らない一条の光を見せたのだとしたら、シドの罪は計り知れないだろう。

 だが、結局の所、何が“正解”だったのかは、誰にも判らないのだ。
ふとした時に目が合う度、嬉しそうに双眸を細める青年を見る度、シドは思う。
あの日まで正しいと思っていた答えを、あの時突き付けていたとしたら、そんな表情を見る事すらもきっと叶わなかった筈だから。




 シドとレオンが、所謂“恋人同士”になったのは、レオンが想いを告白してから、随分と経ってからの事だ。
シド自身、レオンの気持ちを本当に受け入れられるまでに時間がかかったし、レオンもシドが本当に自分の気持ちを受け取ってくれたとは思っていなかった。
その所為で、告白する以前よりもぎくしゃくとした事もあったが、二人の周りにはお節介な面々が多数いる。
彼女達のお陰で、ようやく二人の関係は、“恋人”として治まったのである。

 が、それでも二人が“恋人”らしい日々を送っているのかと言われれば、否である。
街の再建の為、共に忙しない日々が過ぎ、出来る事と言えば、夜半に一緒に酒を飲む位。
それすらレオンが酒に強くない事や、明日も予定が詰まっていて忙しいと、適当な所で切り上げて解散だ。
共に分別ついた大人であるから、余計にそう言った淡白な日々が続いたのかも知れない。

 だが、シドはともかく、レオンの方はまだまだ若い。
“それ”もまた彼は淡白な方とは言えるが、かと言って全くない訳ではないし、荒事が起これば、その分昂ぶる事もある。
それでも、シドに迷惑はかけられないと、彼は自分で“それ”を処理し続けていたのだが、シドとてそれを全く考えない程枯れてはいなかった。

 とある日、その日のやるべき事を終えて、ユフィもエアリスも眠った後、シドとレオンは習慣になりつつある酒盛りを始めた。
時刻は深夜を回り、まだ人がそれ程多くない街中は、静寂に包まれている。
静かなのは彼等にとって良い事だった。
最近の街の様子の報告から、どうでも良い雑談がぽつぽつと交わされた後、心地良く酔いも回ってそろそろお開きにするか、とレオンが言った時だった。


「なあ、レオン。お前は、そのー────」


 其処まで言って、シドは一度口を噤んだ。
いつにない歯切れの悪さに、レオンがことんと首を傾げていると、シドはがしがしと後頭部を掻きながら、


「……ヤりてえって思った事あるか?俺と」
「………!!」


 シドの言葉に、レオンは一拍の間の後、目を瞠って赤くなった。
その反応に、おいおい、とシドは胸中で呟く。
それはレオンが考えていた事に引いた───等と言う訳ではなく、レオンの反応が思いも寄らなかったので驚いたのだ。
ユフィのような年齢の少女や、ソラのようにまだ思春期真っ盛りと言うならともかく、既に経験済み(異性関係についてシドは立ち入らないが、年齢を思えば妥当な事だ)の青年が、こんなにも初心な反応をするとは思わなかった。

 赤い顔のまま、レオンは俯いて黙ってしまった。
そんなに恥ずかしがる事ではないだろう、とシドは思ったが、直ぐにいや、と思い直した。
レオンは唇を噛み、まるで良くない事を見付かった子供のような顔をしている。
シドに対し、恋愛感情を抱いているというだけで、何か罰を受けているような気持ちすら感じていたレオンである。
それはシドが自分の気持ちに応えてくれる筈がない、と言う思考もあったからだろう。
それと同様の事を、性欲に関して考えていたとしても、可笑しくはない。


「………」
「………」


 シドに対する質問そのものに、レオンは答えられなくなっていた。
そんな彼の姿に、俺が何か言うべきなのだろうか、とシドは考える。
話を振ったのは此方だし、レオンは声には出してはいないが、反応そのものが返事とも言えるだろう。
となれば、次に答えを出すべきは、シドの方だ。


「あー……」
「……!」


 場繋ぎのように漏れたシドの声に、レオンの肩が小さく跳ねた。
ちらりとシドが其方を見ると、レオンはじっとシドの反応を待っている。
待っているが、顔を見る事は出来ないようで、彼は俯いたままだった。

 シドはがりがりと頭を掻いた後、レオンを横目に見ながら言った。


「そう言うのは、あるモンだしな。そんな顔すんな」
「……」
「気持ち悪ィとか、そんな事は言わねえよ。好きな奴とそう言う事がしたいってのは、別に可笑しな事じゃねえし」
「…でも。俺もあんたも、男で」
「そりゃ今更だろう。なんか前にも同じような事言った気がするな。ともかく、“普通”がどうこうってのは考えるな。“普通”なんて人によって幾らでも変わるモンだ」


 良識ある常識人のような思考が強い所為か、レオンは倫理的な事を酷く気にする傾向があった。
シドへの想いを必要以上に拗らせたのは、そうした側面も理由にあるだろう。

 しかし、今のシドとレオンは、性別や元々の間柄の垣根も越えた“恋人同士”と言う関係だ。
それでレオンはようやく笑えるようになったし、シドもそんなレオンを見ているのが心地良いと思う。
それで良いのだから、一般的なものだと勝手に定義された“普通”の枠組み等、必要ないのだ。

 ───それで、とシドは話を元に戻す。


「どっちで考えてる?」
「…ど、っち?」
「俺を抱きたいのか、抱かれたいのか」


 遠回しに言っても仕様のない事なので、シドはストレートに聞いた。
ぐ、とレオンは返答に窮したように唇を噤んだ後、


「……あんたに……抱かれ、たい……」


 消え入りそうな声で、レオンはそう答えた。
それからまた俯いて、雄弁な蒼灰色の瞳が長い前髪で隠れる。
が、見える頬や耳は真っ赤になっており、唇はまた何かを堪えるように噤まれていた。

 シドからレオンの表情は伺えなくなったが、彼が後ろ向きな事を考えているのは明らかだ。
困らせていないか、気持ち悪いと思われていないか、嫌われていないか。
受け入れられたからこそ、今度はそうした想像が恐怖となってレオンを縛っている。

 シドは、俯いているレオンをじっと見詰めて考えた。
取り敢えず、自分を抱きたいと思っている訳ではない事には、少し安堵したというのが正直な所である。
レオンの想いを受け止めた時点で、彼の気持ちには応えてやりたいと言う感情は芽生えたが、伴わないものも少なくはないのだ。
性的趣向で言えばシドは一般的な感覚で、エックスと言えば抱かれるのは女の方であり、男である自分が他者からそう言う目で見られる事は想像していなかった。
レオンと付き合うようになってからも、其処は変わっていないから、自分にその役割が求められていなかった事は、彼にとって少なからず幸いと言えた。

 それから次に考えるのは、自分に目の前の青年が抱けるか、と言う事。
体格では自分よりも恵まれており、理知的で、額の傷も含めて容姿は整っており、女ならば誰もが理想の異性として見るだろう。
整っているのは見た目だけではなく、人に気遣いが出来るし、生真面目だしと、実に申し分のない逸材だ。
自分に惚れてるなんて、何処のパーツを選び間違えたんだと、シドは未だに思う事がある位だった。
そんな彼を自分は抱けるのか、そもそも性的な対象として見る事が出来るのか。
況してやシドは親代わり的な立場もあり、それは恋人同士となった今でも意識に根付いており、そう言う意味でも、シドは選択に慎重になってしまう。

 そんなシドに、レオンが俯いたままで唇を開く。


「……シド」
「あ?」
「……あんた、……その、……」


 しどろもどろと、レオンは中々次の句を言わなかった。
開いては閉じる唇に、シドは眉根を潜めたが、幸いにもそれは俯いたレオンに見えていなかった。
シドの方も、早く言え、と急かしたくなる自分を宥め、根気強くレオンの言葉を待つ。
そうしなければ、既に可哀想な程に委縮しているレオンが、もっと縮こまってしまうからだ。

 たっぷりと時間を置いて、レオンは意を決したように、膝の拳を握り締めて言った。


「……俺と…して、くれる…のか……?」


 ほんの少しだけ顔を上げたレオンの前髪の隙間から、不安と期待の交じり合った瞳が覗く。
シドの方から聞いて来たのなら、と言う想いと、それと応えてくれるかどうかは別、と言う思考の板挟みになっているのがよく判る。

 レオンが考えている通り、自分から言い出したのだから、こう言った流れになる事は、シドも考えていた。
押し隠そうとしているレオンの胸中を暴くような真似をして、放置する気も更々ない。
そんなつもりがあるのなら、そもそもこの話をシドから切り出す意味もないのだ。
気付かない振りをしていれば、レオンはずっと隠したままで過ごそうとしていた筈だから。


「まあ……なんだ。男とヤった事なんざないから、上手く出来るかは判んねえけどな」
「……!」


 それでも良いなら───とシドが確かめるまでもなく、レオンの瞳が判り易く輝いた。
受け入れられると思っていなかったから、シドがそんな答えを利かせてくれるとも考えていなかったのだろう。

 良かった、と受け入れられた事に素直に喜ぶ青年の顔が、何処か幼い子供のそれと重なって、シドはなんとも複雑な気分になる。
しかし、その表情こそが、レオンが幸せを感じている事の確かな証拠でもあった。




 話をしてから、シドの酒を飲むペースは早くなった。
会話の後から青年の事を強く意識してしまう自分に気付き、ぎこちなくなりそうな自分を誤魔化したかったのかも知れない。
だから気付かなかったのだが、レオンも飲酒のペースは上がっていた。
彼は諦めていた希望が叶った事が嬉しかったのもあったし、シド同様に意識してしまう自分を誤魔化していたのもあった。

 お開きにしてみると、テーブルの上の空き缶の数は、常よりも多くなっていた。
こんなに飲んだか、と思ったのは、片付けをしていたレオンだ。
だが、不思議とレオンの頭はすっきりとクリアで、酔いが回っている気がしない。
それはシドも同様で、酔いもなければ睡魔もない自分に、妙な緊張感を感じていた。

 晩酌の片付けを終えて、レオンはシドが待つ寝室へと向かった。
レオンがドアを開ける時、心臓が破裂しそうな程に音を立てていたのが自分だけではないと、二人は知る由もない。

 シドはユフィ、エアリスと同居しているが、年頃の女子二人との生活とあって、お互いのテリトリーには出来る限り不可侵で過ごせるようにと、部屋は完全に分けて配置されている。
そのお陰で、レオンは二人の事を強く気にする必要はなかった。
全く気にせずにいられるかと言われればそうではないが、壁一枚向こうに彼女達がいる、と思うよりはマシだ。
これから自分達がする事を思うと、尚の事。

 シドの部屋は決して綺麗に整えられているとは言い難いが、ゴミが散乱している訳でもないのは、定期的にレオンとエアリスが掃除をしているからだ。
ただ、部屋には機械の細々としたパーツや、機械修繕の為の道具、セキュリティシステムを作る為の電子系の本等もあるので、ごちゃごちゃとしているのも確かだ。
それでも、レオンはそれがシドらしいとも思っているので、彼の部屋に入るのは嫌いではなかった。
壁に染みついた煙草の匂いも、シドの匂いと同じだから、その部屋に入れる事は嬉しかった。

 レオンが部屋に入ると、シドはベッドに腰掛けて煙草を燻らせていた。
電気も点けず、窓から差し込む月明りだけが光源だ。
レオンはその光を頼りに、ぎこちなくなりそうな足を叱咤しながら、出来るだけいつもと同じように歩いた。


「シド。ベッドで煙草は危ないぞ」
「んー……」


 シドの反応は気のないもので、彼は窓の外を見詰めている。
此方を見ようとしないシドに、少し寂しさを感じながらも、レオンは仕方がないと思う事にした。
先の遣り取りと、これからの事と、シドの顔が真っ直ぐに見れないのはレオンも同じだ。
その理由が自分と同様かまでは判らないが、同じであれば、少し嬉しいと思う。

 窓のカーテンを閉めるべきか否か、レオンが考えていると、シドがまだ長い煙草を灰皿に捨て、名前を呼んだ。


「おい、レオン」
「ん?」
「……ん」


 ぽんぽん、とシドがベッドを手で叩く。
座れ、と言っているのだ。
途端にレオンは、自分が無意識にベッドに近付く事を避けていた事に気付き、その理由を悟って赤くなる。

 レオンはこれから、シドに抱かれる。
それは望んでいた事であったが、いざその瞬間が目の前に迫ると、妙に緊張してしまう。
その緊張をシドに悟られたくなくて、落ち着くまではとベッドに寄らなかったのだ。
だが、シドに促されたのなら、レオンに拒否など考えられる筈もなく、ふらり、と足が彼の下へと向かう。

 隣に座ろうとした所で、手首を掴まれて引っ張られた。
バランスを崩したレオンが、シドの上に倒れると、そのままの勢いでレオンの視界がひっくり返って仰向けになる。
あ、と思った時には、レオンの視界はシドだけが映っていた。


「……!」


 ベッドの上で、シドが自分に覆い被さっている事に気付いて、レオンの顔に朱が昇る。
緊張が更に上がって、レオンは呼吸を忘れていた。

 息を詰めて見上げるレオンを、シドも同じように奥歯を噛んだ状態で見下ろしていた。
考えてみれば、想いを通じ合わせている相手とセックスをするのは、随分と久しぶりの事だ。
レオン達と共にトラヴァーズタウンで過ごしていた頃ですら、商売の女としか寝ていなかったし、そもそもシド自身の浮ついた事があったのは、世界が闇に飲み込まれるよりもずっと以前の話だから、十年そこらの話ではない。
それを思うと、恋人とのセックスとはどう言うものだったのか、理屈も感覚も判らなくて、混乱しそうだった。

 その体勢のまま、二人はしばらく動かなかった。
何をどうすれば良いのか判らなくて、相手の出方を待っていたのもある。
何かが動けば、それを切っ掛けに進められる筈だと、どちらもが考えていた。

 見詰めあってから、何分が経ったか。
レオンが詰めていた息をゆっくりと吐いて、ベッドに投げていた右腕を持ち上げた。
躊躇うように、静かに伸ばされた手が、シドの皺の深み始めた顔に触れる。


「……シド」


 求めるように、請うように、レオンはシドの名を呼んだ。
声が微かに震え、緊張を押し隠そうとして失敗したのが伝わる。
だが、レオンは精一杯隠したつもりなのだろう。
シド、ともう一度、呼ぶ声が零れたのを聞いて、シドはその唇を塞いだ。


「ん……っ」


 レオンの鼻にかかった声が漏れて、一瞬彼の肩が強張った。
恋人同士になってから、何度か口付けを交わしたが、その度にレオンは緊張している素振りを見せる。
最も、それは最初に触れる時だけで、後は直ぐに力を抜いて、シドに身を委ねていた。

 いつもなら触れるだけで終わる事が多いキスも、子供でもあるまいし、こんな時までそうでなくても良いだろうと、シドはレオンの唇に舌を当てた。
こんな状況になっても、そう言う事をされるとは思っていなかったのか、驚いたようにレオンが目を瞠る。
構わずにシドがもう一度唇の形をなぞると、レオンはピクッ、ピクッ、と体を震わせた後、ゆっくりと噤んでいた唇を割った。
直ぐにシドの舌がレオンの咥内へと侵入し、おずおずと差し出されたレオンの舌を絡め取る。


「は、む…んぅ……っ」


 反応ばかりは初心でも、やはりレオンも男として経験済みの行為だ。
されるばかりではなく、シドが触れようとするのを感じ取ると、応えようと絡み付かせて来る。

 口付けを深めて行く内、レオンは躊躇いながら、自身の腕をシドの首へと回した。
筋力だけなら自分の方が遥かに上なので、下手にシドの首を絞めてしまわないよう、注意する。
その所為か、腕が強張っている割には力が入っていない事は、シドにしっかりと伝わっており、


「んん……っ!」


 じゅうっ、と舌を吸うように啜られて、ビクッとレオンの体が跳ねる。
今更怖がるな、と言われているようで、レオンはそっと腕に力を入れて、シドに縋り付いた。


「ん…は……っ、あ……っ」


 ゆっくりと咥内を舐めしゃぶられた後、シドの唇が離れて行く。
夢心地にいたレオンの意識が現実に還り、目の前の男の顔を見て、どくん、と心臓が跳ねた。

 見下ろす男の顔が、レオンが見慣れた養父のものとは微かに違う。
壮年にさしかかる皺のある顔が、いつもの悪ぶった笑みを引っ込めて、真剣に此方を見ているのは、初めて見たような気がする。
いや、初めてではなかったか。
レオンが自分の想いを告白した時、シドはしばらく言葉を探すように視線を彷徨わせた後、同じ顔でレオンの事を見た。
その時の事を思い出して、レオンの胸の鼓動が高鳴って行く。


「シ…ド……」


 名前を呼ぶ声がまた震えたが、それはきちんと合図になった。
シドの唇がレオンの首筋に落ちる。
また無精にしているのか、髭のじょりじょりとした感覚が首を擦るのがくすぐったかった。

 シドの手がレオンの胸を撫でる。
シャツの上から触れられている事に無性にもどかしさを感じて、レオンは自分でシャツをたくし上げた。
自身が酷く性急な気分でいる事は自覚していたが、それを隠す術も判らず、何よりこの状況に興奮が高ぶるばかりで、自分のコントロールと言うものが上手く出来そうにない。
取り繕う意識など早く捨てて、好いた男に触れて欲しくて仕方がなかった。

 鍛えられたレオンの胸板に、直にシドの手が触れる。
何度も撫でては揉むように指先に力が入るのが判ったが、生憎、女と違って柔らかな胸ではない。
つまらないか───とシドの胸中への不安を抱きながらも、レオン自身はシドに触れられている事に充足感を得ていた。


「は…ん……っ」
「お前、乳首勃ってねえか?」
「……んん……っ!」


 つん、とシドのカサついた指がレオンの胸の蕾に触れた。
ビクッ、とレオンの体が跳ねて、引き結んだ唇の端から、ふう、ふう、と押し殺した吐息が漏れる。

 レオンの胸は血色良く赤らみ、頂きの蕾は微かに膨らんでいる。
其処をシドが指先でクニクニと圧し潰してやると、レオンは唇を戦慄かせ、はあっ……、と熱の籠った息を吐く。


「あ…は……っ、んん……っ!」


 もどかしげに身を捩り、頭を振るレオン。
長い濃茶色の髪がベッドシーツに散らばる様子が、窓から差し込む月明りで薄らと浮かび上がっていた。
瞼の隙間から覗いては隠れる蒼灰色の瞳が潤んでいる。
レオンの足元が何度もシーツの上を滑り、しゅる、しゅる、と衣擦れの音が静かな室内でやけに反響して聞こえた。

 ぐっと押した乳首が、指を離すとぷくっと膨らむ。
それを何度か遊んだ後、シドは親指と人差し指で乳首を摘んだ。


「ああっ……!」


 一つ高い音でレオンが啼く。
まるで自分のものとは思えないような声に、レオンははっと我に返って、手で口を塞いだ。


「おい、堪えんな」
「…ん…で、も……んんっ……!」
「良いから声出せ。あいつらにゃ聞こえねえよ」
「そ…言う、事じゃ…んっ、なくて……んぅっ…!」


 同居している女性陣に気付かれたくなくて声を抑えていると、シドは受け取ったらしい。
それも全くなくはないのだが、レオンは単に自分の女のような甲高い声が恥ずかしかったのだ。
変な声を上げて、シドに怪訝な顔をされたくないと思っての事だったが、シドは構わずに声を出せと言う。
それでも中々口を覆う手を外さずにいると、焦れたようにシドはレオンの手を掴み、ベッドへと押さえ付けた。


「シド……っ」
「声出した方が色々楽だろ。多分な」
「…はう……っ!」


 きゅ、と摘んだ乳首を軽く引っ張られて、レオンは堪らず声を上げた。
シドは更に乳首の先端に爪を当て、コリコリと擦って刺激を与える。
乳首は益々敏感になって行き、レオンは胸を襲う快感に背筋をベッドから浮かせて喘いでいた。


「あ、ふ……っ、あぁ……っ!シド…ぉ……っ!」
「お前、結構敏感だな」
「あ…あ……っ!あ…っ!」


 レオンの腕を抑えていた手が離れ、空いていた乳首を摘む。
左右の乳首を同時に弄ばれて、レオンは胸全体が熱くなって行くのを感じていた。

 胸への愛撫で官能を感じているレオンの姿に、まるで女だ、とシドは思う。
しかし、触れている胸は決して柔らかくないし、聞こえる声も高いとは言え、女のように極端に甲高くはない。
何より、腹に自分と同じ性の象徴が当たっているから、やはり此処にいるのは正真正銘の男なのだと再認識する。


(その割にゃ萎えねえな、俺も)


 前戯の前の戯れのような愛撫で感じている青年を見ながら、シドは自分の下半身に熱が溜まるのを感じていた。
事を始める前、こういう事になる可能性に気付いてから、何度か想像を巡らせてみたが、その時はレオンは性的に淡白であると言うイメージもあってか、レオンが乱れる様子と言うのが上手く思い浮かばなかった。
その所為でレオンを抱けるか、或いは彼に抱かれても平気かと言う事まで考えられなかったのだが、現実に自分の手で乱れるレオンを見ていると、その煽情的な姿に己の欲望が膨らんで行くのが判る。

 弄られている内に、レオンの乳首はすっかり固くなった。
それを軽く摘まんで引っ張ると、レオンは胸を仰け反らせて喘ぐ。


「ああっ……シ、ド……、其処…もう……っ」


 止めてくれ、とレオンは言わなかったが、そう懇願しているのは判った。
これ以上乳首ばかりを弄られていたら、明日になっても敏感なまま元に戻らない気がする。
それは止めて欲しい、と言うレオンに、シドは少し悪戯したくなった。


「良いじゃねえか、もう少し」
「よ、良くな…ああっ!」


 抗議するレオンに構わず、シドはレオンの胸に吸い付いた。
乾燥し勝ちの唇がレオンの乳首を食み、生暖かい肉厚の舌が蕾を舐る。


「あ、あっ…!んん……っ、ああぁ……っ!」


 軽く歯を立てられて、レオンはビクビクと四肢を震わせた。
強張って反り返った背中に、シドの腕が回される。
腕はレオンの背筋を辿り、引き締まった腰を撫でて、尻へと辿り着く。
ズボンの上から尻たぶを掴むように揉まれて、かあっとレオンの顔に朱色が昇った。


「シ、シド……あっ、あっ……!」
「脱がして良いな?」
「ん…ま、待ってくれ…あっ、脱ぐ、から……っ」


 シドの手でされるのは無性に恥ずかしく思えて、レオンは自分でベルトのバックルを外した。
熱の所為か、手が震えてカチャカチャと金属の音が鳴る。

 下着ごとズボンを抜いで、ついでに靴下まで脱いでしまうと、レオンの下肢は何も身に着けていない状態になった。
シャツだけを着ているのが妙に恥ずかしく思えて、脱ごうかと考えている間に、シドの手がまた尻を撫でる。
谷間を指先が辿るのを感じて、レオンの体がふるりと震えた。


「ん…っ、んぅ……っ」
「こっちで良いんだな?」
「あ…ん……っ、んん……っ」


 女と違って、男に受け入れる為の器官はないが、其方でする方法があるのは知っている。
ただ、負担は女の比ではない筈だ。
それでも良いのかと、確かめるようにシドが問えば、レオンは漏れる吐息を堪えながら、小さく頷いた。

 シドの指が尻の谷間を辿り下りて、慎ましく閉じている秘部に触れる。
ビクッ、とレオンの腰が震えたが、逃げる様子はなかった。
指先で縁の形をなぞり、先端でつんつんと穴に触れてやると、シドの耳元で艶を孕んだ吐息が零れ出す。


「ふっ…、うっ……ん……っ!」
「挿れるぞ」
「……ん……あぁ……っ!」


 レオンが頷くのを確認して、シドは人差し指をレオンの秘孔に挿入させた。
一瞬強い抵抗感の後、穴はシドの指を受け入れて、またきゅうっと締め付ける。
ヒク、ヒク、と穴口が伸縮を繰り返しながらシドの指をマッサージした。


「あ…ふ……んぅ……っ」


 シドの指が自分の中に入っている───そう考えるだけで、レオンの体は熱を増して行く。
ゆっくりと指が中へ、奥へと進んで行くのを感じて、レオンはベッドシーツを握り締めて悶え喘いだ。


「シド…ぉ……っ、あ、あ……っ!シド……っ!」
「…随分、すんなり入って行かねえか?」


 入口以外は素直にシドを受け入れて行くレオンに、シドは気の所為かと思いつつ呟いた。
すると、レオンは沸騰しそうな程に顔を赤くしながら、


「…き……、昨日…んっ、した、から……」
「……自分で弄ったって事か?」
「………っ!」


 きゅううっ、と秘穴が一層締め付けを増したのが答えだった。
それ以上は聞かないでくれ、とレオンはシーツを手繰り寄せて、ベッドに顔を埋めようとする。

 シドはレオンの片足を持ち上げ、半身にさせて、局部を露わにさせる。
あ、とレオンが自分自身を晒している格好にされたと気付き、抗議するようにシドを見たが、何も言えなかった。
シドの視線は晒された自分の股間へと向けられており、見られている、と思った瞬間、恥ずかしさと同時にとてつもない興奮が彼を襲った。


「あ…あ…っ…!シド…っ、み、見るな……あぁ……っ!」
「お前のケツ穴なんて、ガキの頃に何度も見てるよ。風呂も全部入れてやったろ?」
「い、いつの話……んっ、あっ…!」


 昔とは年齢も関係も全く違うのだと判りつつ、揶揄うように言うシドに、レオンは一緒にしないでくれと頭を振った。


「確かに随分前の話だし。そん時ゃパンツ変えてやったりもしたけど、こう言う事はしてねぇな」
「ああぁ……っ!」


 ぬぷぷっ、と指が奥まで入って来るのを感じて、レオンは天井を仰いで喘ぐ。
シドの指は根本まで入り、指先が奥の天井を擦るように撫でる。
するとレオンの腰がビクビクッと痙攣するように震え、快感の逃げ道を探して体がくねくねと捩られる。


「ふ、ふぅ…んん……っ!そ、そこ…ああ……っ!」
「此処が良いんだな?」
「あっ、あっ…あぁ…っ!」


 ぐり、とシドが一点を指で押し上げてやると、レオンの太腿が緊張したように強張った。
指を其処から離せば、かくっと力が抜けてベッドに沈む。
もう一度同じ場所を押すと、レオンはまた体を強張らせながら、熱の滲んだ眦に涙を浮かべた。

 弱点と判った場所を指先で擦ってやると、レオンの体が電気を流されたようにビクンビクンと跳ねる。
快感の覚え方を知っている反応だ。
自分で触っていた、と言っていたレオンに、どんだけ弄ってたんだか、とシドは喉の奥でくつくつと笑う。


「シ、シド…シド……っ!あっ、あっ、やめ……っ」
「気持ち良いなら、止める必要ねえだろ?」
「はっ、ああ……っ!んぁっ、そこ…ばっかり、ぃ……っ!」
「にしても、エロい体してんな、お前」
「あふ、ぅ……っ」


 囁くシドの言葉に、レオンの体が熱くなる。
秘孔まで熱は影響を及ぼして、咥え込んだ指をきゅううっ、とまた強く締め付けた。

 シドの指で解された中の方で、くちくちと言う音がする。
シドは指先がじっとりとした湿り気で覆われているのを感じていた。
雄を咥えるにはまだ中は随分と狭そうだったが、そもそもいつまで解せば良いのかはシドにも全く判らないが、


「……おい。そろそろ大丈夫そうか?」
「あ…ん……っ」


 一応の確認を、と訊ねてみるが、レオンの反応はそぞろであった。
彼は与えられる快感に思考が溺れているようで、シドの問う言葉の意味も汲み取れていないようだった。

 多分大丈夫だよな、と半分は自分に言い聞かせつつ、シドはレオンの秘孔から指を抜いた。
中が指で擦られる快感に、「ああ……っ!」と悩ましい声が上がる。
引き留めるように吸い付く肉の感触を感じながら、シドが指を引き抜くと、さっきまで閉じていた筈の穴口が微かに膨らんでヒクヒクと蠢いているのが見えた。


「は…ああ……っ、んぅ……っ」


 刺激がなくなったのが寂しくて、レオンは疼く体を捩らせた。
そんな事をしても体の熱は燻るばかりで、秘孔がもっと欲しい、と卑しい願望を訴えている。

 ぎしり、とベッドの軋む音を聞いて、レオンは閉じていた目を開ける。
覆い被さる男をぼんやりと見上げていると、秘部に熱く固いものが宛がわれた。
ちらりと其方を見遣れば、やや膨らんだ雄が股間に押し付けられているのが見えて、どくん、と心臓が跳ねる。


「あ……っ」
「良いな?」
「……っ」


 此処まできて止まれよう筈もない事は、同じ性を持つ身としてよく判る。
レオン自身も、早くシドの存在が欲しくて堪らないのだ。

 レオンは体を反転させて俯せになり、腰を高くして、差し出すようにシドに尻を向けた。
引き締まったレオンの尻をシドの手が掴んで、軽い力で揉む。
その感触にピクッ、ピクッ、と体を震わせるレオンを眺めながら、シドは勃起した自身をレオンの秘孔に宛がった。


「…あ……っ」


 シドの雄が大きくなっているのを感じ取って、ぞくりとレオンの背に悦びが這う。
元々、自分の方がシドに惚れ、シドがそれに応えてくれたのも、同情に近いものだと思っているレオンである。
行為となればそれは単純な同情で出来るものではなく、体の反応にはやはり感情も少なからず伴うから、シドが自分を見て性的興奮を覚えてくれるのかと言う不安はあった。
が、それも最も正直に反応してくれる部分が教えてくれる。

 良かった、と何処かほっとした気持ちで、レオンの体の強張りが僅かに緩む。
その隙を見付けて、シドの雄がレオンの秘孔を抉じ開けた。


「ひ、ぃ……あ……っ!」


 指で解され、昨夜も自身で慰めていたレオンだが、それでも男を受け入れるのは初めての事だ。
指とは全く違う太い侵入に、思わず顔が顰められる。
秘部は指こそ簡単に飲み込んで行ったものの、雄は頭を潜らせた所で、締め付けによって奥への侵入を拒まれた。


「う…んん……っ!」
「ぐ……おい、ちょっと…息しろ、レオン…っ」
「は……はぁ……あ…くぅ……っ!」


 自身を痛いほどに締め付けられて眉根を寄せるシドに言われ、レオンは意識して呼吸を繰り返す。
秘孔はレオンの呼吸に合わせ、また締め付けては微かに緩み、また締め付けてと言う感覚を繰り返した。

 少しずつレオンの強張りが緩んでくると、今度はねっとりとした肉の感触がシドを襲う。
レオンが僅かに身を捩る度に、中のものに内壁が擦れ、それでレオンが甘い吐息を零した。


「あ…ああ……っ、ん……っ!」


 レオンは何度も深呼吸をしている内に、受け入れたものの形に自分の形が変化して行くのを感じていた。
シドがいる、と思うだけで体が熱いのに、駄目押しのように彼の為のように体が作り替えられて行くのが判る。


「はあ…あ……シド……」


 名を呼ぶと同時に、レオンの秘奥がきゅうっとシドを締め付けた。
誘っているのだとシドは本能的に悟り、ゆっくりと腰を前後に振り始める。

 内肉が太く逞しいものに擦られるのを感じて、レオンは絶え絶えに甘い吐息を漏らしていた。
シドはレオンの秘部に指を当て、己を咥え込んでいる秘孔を引っ張って拡げてやった。
そのまま肉竿で中を、入口の縁を擦ってやれば、レオンは背筋を仰け反らせながら快感に身を震わせる。


「ああっ…、ああっ……!シド…、擦れて……んんっ…!」
「もうちょい、腰上げれるか」
「ん、んんぅ……っ、あっ!あっ、あっ…!」


 シドが言うようにと、レオンは膝をしっかりと立たせて、腰の位置を高くする。
よし、とシドが呟くのを聞きながら、レオンは太い部分が内側の天井をゴシゴシと抉るように擦るのを感じていた。


「はひっ、ひっ…!んんぅ……っ!」
「どう、だ、レオン……っ!ちったあ、良くなってんだよな…っ!?」


 締め付けを増し、どくんどくんと脈を打って雄を搾り取ろうとする肉壁の動きに、シドは歯を噛みながら問う。
だが、レオンに答える余裕はなかった。
レオンはシドに抱かれていると言う事実と、自慰では得られなかった強烈な快感に、頭の中が真っ白になっている。
ぼんやりとシドの声は聞こえるのだが、それはレオンに、今シドに抱かれているという事実を伝える以上のものにはならず、ただただ彼の興奮を高ぶらせるばかりとなっていた。


「シド…シドぉ……っ!ん、あ…あっ、あっ!」
「おい、こっち向け。顔見せろ」
「はっ、あっ、ああっ!や、あ……中…擦、れ……ぇっ…!」


 シドに肩を掴まれ、体を反転させられる。
中のものがぐりゅんっと壁全体を擦るのを感じて、レオンは堪らず甲高い声を上げた。
びりびりとした快感の痺れが終わるのを待たずに、シドは続けてレオンの奥を突き上げる。


「ああっ、ああっ!シド、そこ…そこ奥……っああぁ…!」
「く…は…っ!ったく、若かねえんだけどな……っ!」
「あ、あひっ…、ひぃんっ!は、激しく、あっ、なって…んぁあ…っ!」


 シドはレオンの足首を掴み、両足を大きく左右に開かせて、激しい律動で彼の奥を何度も突き上げた。
レオンの中は分泌された腸液で濡れそぼり、シドの雄に掻き回される度、ぐちゅっ、ぐちゅっと言う卑猥な音が響く。
レオンの持ち上げられた足が、快感の強さを物語るように、何度も宙を蹴るように跳ねた。


「シ、シド、俺……も、もう……来て……っ!」
「…ああ、良いぜ。好きなだけ、イきゃあ良い……っ!」
「あっ、あっ、ひぅんんっ!シ、シド…シドぉお……っ!」


 限界を訴えるレオンに、シドは覆い被さって深い場所へと己を埋めてやった。
一気に最奥を圧し潰すように刺激されて、レオンはシドの背に腕を回し、抱き着きながらビクンッ、ビクンッ、と一際大きく痙攣する。


「はっ、あっ、あああぁぁ……っ!!」


 シドのシャツを皺だらけになる程に握り締めながら、レオンは絶頂の快感に打ち震えた。
びゅくっ、びゅくっ、と噴いた蜜が二人の腹を汚す。

 絶頂と同時にレオンの体は強張り、シドを咥え込んだ秘部の締め付けも一層増した。
果てた名残にレオンが身を震わせれば、其処もまたうねるように蠢いて、シドの肉棒を刺激する。
シドはこれまでの行為で滾っていた肉欲が、一気に出口へ向かうのを感じ、レオンの体の上に伸し掛かるように覆い被さって、彼の中へと自身の熱を吐き出した。


「は、ひ…、熱……っ!シ、ド……お……っ!」
「く……うううっ!」
「んあぁぁぁっ!」


 中へと熱を注ぎ込まれる快感に、レオンは四肢を捩って身悶えた。
逃げを打つように暴れるレオンの体を、シドが全身で抑え込む。
それが自身が彼に求められているようで、レオンは涙が流れる程に嬉しかった。

 シドの射精はそれ程長くは続かなかったが、行為自体が久しぶりと言う事もあってか、注がれた熱の量は多かった。
シドもそんな自分の昂ぶり具合を改めて自覚し、若くはねえんだけどな、とまた呟く。
それから押さえ付けていたレオンの体を解放するが、レオンはうっとりとした瞳で、ぼんやりと天井を見上げたまま動かない。


「…おい。大丈夫か?」


 シドが声をかけると、蒼の瞳がゆっくりと動いて、シドを映す。
意識が半分酩酊しているような青年の様子に、無理をさせたか、と頬を撫でてあやしてやる。
すると、


「……シ、…ド……」


 レオンの眦が、唇が緩んで、嬉しそうに想い人の名を呼ぶ。
頬に触れるシドの手に、レオンは自分の手を重ねた。


「……夢みたいだ」


 そう言って、レオンの腕はぱたりとベッドに落ちる。
おい、ともう一度声を掛けようとして、シドは止めた。
すう、すう、と規則正しい寝息が聞こえると、シドは無意識に緊張していた体から力が抜けた。
危うく眠るレオンの上に落ちそうになる体をどうにか起こし、隣にごろんと転がって、石造りの天井を仰ぐ。


「……やっちまったなあ……」


 贖罪めいた気持ちで、そんな言葉が漏れた。
頭に浮かぶのは、もう出逢う事は出来ないかも知れない、隣で眠る青年の父親の顔だ。
レオンの事は彼から託された訳で、しかしこう言った形が望まれていた訳ではないのは明らかである。
若しも再会する日が来たら、どんな形相で睨まれるか、全く想像できないのが恐ろしい。

 しかし、隣を見遣れば、酷く幼い貌で眠る青年がいる。
今更彼との関係をなかった事に出来るかと言われれば無理な話で、始まりはどうであれ、今は確かにシドも彼を大事に想っている。
惜しむらくは、レオンがシドのその気持ちを芯から信じ、身を委ねる事が出来ていないと言う事だが、それは時間をかけて行くしかないのだろう。
そうすれば、触れ合う度にそれを「夢のよう」だと笑う事もなくなる筈だ。

 静かに眠るレオンの体を抱き寄せて、疲れ切った体の誘いのままに目を閉じる。
明日の朝、腕の中の青年が目覚めてどんな顔をするのか、少し楽しみだった。




書いてみたかったシド×レオンの初エッチです。

年上を好きになると拗らせまくるレオンが好きです。
もうちょっと素直に甘えられたら其処まで複雑化しないだろうに、言えないから余計に溜め込んでにっちも察知も行かなくなりそうなのがね。好きです。
そんなレオンとシドが付き合うまでの経緯も、いつかは書いてみたい。