海に溺れる幸福を


 今更祝って貰うような年齢ではないのだと思いはすれども、祝ってくれる人々の気持ちはとても嬉しいものだった。
故郷を失った遠いあの日から、後悔を繰り返し、幼い名を捨てたレオンが生まれた日を、それでも彼女達は祝ってくれる。
誕生日おめでとう、と言うその言葉が、レオンには「此処にいてくれてくれてありがとう」と言っているように聞こえた。
きっとそれも間違ってはいなくて、今でも本当の名前を名乗る事の出来ないレオンに、それでもこの世に生まれた喜びを、それを祝福した人がいたのだと言う事を忘れないでと、あの日から苦労を共にしてきた仲間達は繰り返すのだ。

 今日は故郷に戻って来てから、初めてのレオンの誕生日だった。
だからやっぱり良い誕生日にしたい、とユフィは言っていたけれど、街の復興はまだ幾らも進んでおらず、日々のそれぞれの仕事も減らない所か増える一方だった。
夜の街でまんじりともしない日々を送るしかなかった日々を思うと、これは故郷を取り戻す為にやっと時間が動き出した証拠だとも考えられたが、その代わりに皆が自由に過ごせる時間も随分と減った。
それを嘆く者は此処にはいないけれど、時折寂しく感じる事も、ないとは言えなかった。
日常の何気ない会話、ふとした喜びを感じた時の共有、そう言った時間が減っていたのだ。
だからユフィは、折角だからと言う気持ちもあって、レオンの誕生日は盛大に祝いたかったのだと言う。

 結局の所、レオンの誕生日パーティは開かれたのだけれど、準備にかけられた時間は幾らもなく、夕飯の後にシドが作った誕生日ケーキを皆で食べる、細やかなものになった。
本当はプレゼントも用意したかったし、サプライズもしたかった。
ケーキを食べながら、判り易く拗ねた顔をするユフィに、俺はこれで十分嬉しい、とレオンは言った。
それが気遣いでも何でもなく、レオンの心からの本音であるとユフィも判っているけれど、特別にしたかった気持ちも嘘は吐けない。
来年は絶対にサプライズするからね、と言う彼女に、言ってしまってはもうサプライズにならないのでは、とその場にいる者皆が思いつつも苦笑と共に飲み込んだ。

 ささやかな宴であろうとも、喜びの席である事に変わりはなく、皆がその空気を楽しんだ。
いつもならそんな席で片付けを始める頃になると、レオンとエアリスがそれを引き受けるのだが、今日は誕生日だからとレオンは席に留まるように釘を刺された。
エアリスに指示を貰いながら、ちょこまかと忙しく駆け回り、食器を集めて流し台へと運ぶユフィ。
全ての食器を運び終えたら、今度はエアリスが洗い終えたものを布巾で拭いて片付けて行く。
シドはと言うと、手が多過ぎても邪魔になるだけだろうと、レオンと二人でアルコールを傾けていた。

 一通りの片付けが終わり、後はレオンとシドが使っているグラスだけになった所で、エアリスとユフィが言った。


「じゃあ、私達はもう休むね。シド、グラス、ちゃんと洗ってね」
「判ってる判ってる」
「おやすみ、レオン。誕生日おめでとう!」
「ああ、ありがとう。おやすみ、エアリス、ユフィ」


 挨拶はいつもと変わりなく。
家の奥にある自室へと向かいながら手を振る二人に、レオンもひらひらと手を振り返して感謝を述べた。

 ぱたんとドアの閉まる音がして、数秒の静寂。
レオンの手の中で、グラスに入った氷が小さく音を零す。
そんな小さな音がはっきりと聞こえる中で、シドが言った。


「やっと終わったな」


 やれやれ、と言った表情を浮かべた呟きだったが、口角が上がっているので、機嫌が良いのが判る。
それは酒のお陰でもあるが、今も昔も変わらず、仲の良い養い子達の様子に安堵しているのもあるのだろう。
その中で最も年長である男もまた、養父の言葉に頷いて、


「この忙しいのに、俺なんかに構わなくても良いのにな」
「良い年してんだからなぁ」
「全くだ。でも、あんたも少し浮かれてるんじゃないか。ケーキなんて作ったの、何年振りだ?」
「よく覚えてねえよ。仕方ねえだろ、ユフィが作れ作れって煩かったんだから」
「だろうな。……美味かったよ、ありがとう」
「へっ」


 レオンの言葉に、シドは鼻で笑って、グラスを煽る。
照れている時の反応だとレオンはよく知っていた。

 二つのグラスが空になり、シドがそれを流し台で手早く洗う。
二人で酒を飲む時には、いつの間にか片付けはレオンの役目になっていたのだが、それも今日はシドが引き受けた。
それだけで、今日と言う日が特別なものである事の証明のように思えて、レオンは面映ゆくて少し顔が熱くなる気がした。

 シドが濡れた手を拭いながらテーブルに戻ってくる。
開けたままにしていた酒瓶の蓋を締めながら、シドはレオンに訊ねた。


「さてと……誕生日パーティは、終わったが。お前、何か欲しいモンとかねえのか?」
「欲しいもの?」
「今日中にってのはもう無理だろうから、その内って事になるが」
「別に良いよ、俺は」
「良いから言うだけ言っとけ。エアリスやユフィの誕生日でだって、同じ事を毎年やってんだ。お前だけ今年はナシってのも不公平だろ」


 確かにシドは、エアリスやユフィ、クラウドの誕生日にも、同じように当人に欲しいものはないかと訊いている。
その時に言ったものは、誕生日当日か、それが無理なら後日に渡される事が常だった。
トラヴァーズタウンで皆が共同生活を始めてから、養父の立場となった意識がそうさせるのか、シドはそれを恒例にしており、レオンも何度かプレゼントを貰った事がある。
レオンは二十歳になる頃から、そう言った物は気持ちだけで十分だと言っているのだが、なんでも良いから言えとシドは必ず言った。
そうして何かを渡せば、こっちも気分が良くなるから────と冗談めいた事を言いながら。

 レオンは口元に指をあてて、ふむ、と考える。
故郷を取り戻した今、レオンが日々急いでいるのは、街の復興である。
その為に必要なものは幾らでも尽きないのだが、それは誕生日だからと強請る事でもないだろう。
第一、復興に関するものなら、レオンだけが必要としている訳ではないし、いずれ何らかの形で保管されるのだ。
それよりも誕生日プレゼントらしいもの、レオンが個人的に欲しいと思う物は────


(あまり浮かばないんだよな。ああ、でも────)


 住み暮らした環境で染みついた性分なのか、どうにも新しい物を欲しがる欲がレオンには少ない。
それでは何も欲しい物はないのか、と言われると、そう言う訳でもなかった。
ずっとずっと欲しくて堪らなくて、けれど欲しがる前に諦めていたものがある。
それはつい最近、奇跡のように手元に来てくれたのだけれど、レオンはまだそれを夢の出来事のように感じている。
でも出来る事なら、夢ではなく本当に其処に在るのだと思えるようになりたかった。

 思考に入って宙を見ていた蒼の瞳が、テーブルの向こうに立っている人物を見る。
いつかの自分と負けず劣らずの眉間の皺、年齢を重ねて浮き出るようになった豊齢線、咥え煙草がすっかり定着したへの字気味の唇。
それを見詰める瞳に、じんわりとした熱が浮かんんで行く。


「……シド」
「あん?」
「…あんたが欲しいな。良いか?」


 レオンのその言葉に、シドは目を丸くする。
ぱちりと瞬きする養父の姿に、結構可愛い顔もするよな、と思う位に、レオンは彼を好いている。

 自分を見つめる青年の口元で、形の良い指がゆっくりとその唇を擽るように辿っているのを、シドの目が追う。
その指が縋る時の熱を、唇が紡ぐ音を、シドは自分の耳元で何度も聞いた。
それを思い出すだけで、決して若くはない自分の欲が、むくむくと起き上がってしまう。
レオンがそれを意図して見せている仕草だと判っていても、馬鹿正直な欲望は止まらない。


「お前なぁ。何処でそう言うの覚えた?」
「何処でって、色々と。あんたも知ってる事だろう?」


 指を宛てた唇に笑みを含ませ、双眸を細めて言う青年に、シドは片眉を顰めつつ歯を見せて笑う。
誰がこんな風に育てたんだか、と言うその言葉は、そっくりそのままシドへ跳ね返るものだ。
レオンをこんな風にした張本人は、他の誰でもないのだから。

 意識すると熱の奔流は止まらなくなる。
此処で今すぐ欲しい、とレオンは言いたかったが、飲み込んだ。
せめて然るべき場所に移動してからじゃないと、と形骸化しつつある理性が押し留めている所に、シドが言った。


「…お前ん家に行くか」
「此処じゃなくて?」
「此処だとお前、色々気になるだろ」


 それはシドが同じ屋根の下で暮らしている少女達であったり、ひょっとしたら鳴るかも知れない機械のアラームだったり。
後者は出来れば反応できる状態にしておく事が望ましいが、それはレオンの所にも自動で通達が飛ぶようにしているから、何処であっても同じ事だ。
けれど前者については、今更と言えば今更であっても、出来れば気にならない環境の方が良い。

 行くぞ、と促すシドに、レオンは頷いて席を立った。
少女たちだけを残す家にしっかりと鍵をかけて、少し暑苦しさのよる夜の街を歩く。
思えばシドと二人で夜の街を歩くなんて、故郷に帰って来てからは初めての事ではないだろうか。
その事に心なしか逸る鼓動を隠しながら、レオンは隣で紫煙を燻らす男を見ながら、緩む口元は誤魔化せなかった。




 元々は沢山の人が住まう居住区であったろうに、今ではその面影は殆どない。
建物だけは、老朽化の程度は置いておいて、一通り無事ではあるのだが、セキュリティの届かない地区である事もあって、人はまだまだ戻る気配はなかった。
それを思えば、そんな所にあるアパートを自宅にしているレオンの方が可笑しいのだろう。
自身がハートレスに対してある程度対抗できる戦闘力を持っているから出来る事ではあるのだが、それを覗いても利便性の点であるとか、毎日の出勤路を思えば非効率的なので、物好きと言われても否定は出来ない。

 普段はレオン一人で過ごすばかりのアパートに、来客が来る事は少ない。
時折、自宅代わりのように転がり込んでくる幼馴染は、客としては数えない事にした。
後は身内が稀に来る事を覗けば、時折やって来るキーブレードの勇者位だろうか。
それも滅多にない事なので、アパートは基本的にレオン一人の城のようなものになっていた。

 其処にシドが来ると言うのは、元々は月に一度、あるかないかと言う程度だったのだが、最近は週に一度は訪れるようになっていた。
レオンがシドと思いを遂げてから、体の関係も持つようになり、同居している少女たちの気配から逃げるように、レオンの家で過ごすようになったのだ。
アパートは一階と二階を合わせて六部屋があるのだが、レオン以外に住んでいる者はいないから、此処なら何があるとしても気にする必要がないのだ。

 アパートに入ったレオンは、取り敢えずシャワーを浴びる事にした。
湯を貯める程今日は疲れていないし、何より気持ちが急いてのんびりしている気になれない。
がっついているようで辛抱のない自分が少し恥ずかしかったが、それ位の勢いがないと、レオンは自分から彼を求める事が出来ない。
気持ちの良いアルコールも入っている事だし、すっかり正気に覚めてしまう前に、レオンは褥に入りたかった。

 レオンがシャワーを浴びて、次にシドが烏の行水のように済ませて、寝室に入った。
シドは風呂場から出てきた時からパンツ一枚になっていて、盛り上がっている下肢を隠そうともしていなかった。
情緒のない、とレオンは思ったが、シドがそう言う男なのだから仕方ないし、判り切っていた事だ。
誘った自分の気持ちの通りに、彼が興奮してくれている事が嬉しくて、レオンも体が熱くなった。

 ベッドに座るレオンの肩に、少し乾燥の目立つ手が触れて、横になれと促す。
逆らわずにベッドに背中を落とせば、ぎしりと二人分の体重を乗せたスプリングが音を立てた。
覆い被さったシドの顔が近付いて来るのを見ているだけで、レオンの鼓動は早くなって行く。


「……ん……」


 目を閉じて、唇が重なるのを受け入れた。
ついさっきまで吸っていた煙草の匂いがして、焦がれて已まないそれをようやく得た事に、少し心が安堵する。
こんなにも近い距離で煙草の匂いを感じるだけで、至高の幸福の中にいるような気がした。

 初めは触れるだけだった口付けは、程無く深くなって行き、レオンは口の周りにちくちくと細かい棘が刺さるのを感じていた。
時間が時間だから仕方がないし、そうでなくともシドはいつも無精だ。
レオンが手を伸ばしてシドの頬に触れると、ざりざりとした感触が伝わる。
それを楽しむように遊んでいたレオンだったが、指の太い手がレオンの手首を掴んで、ベッドへと縫い付ける。


「ん……っ!」


 ぬるりとしたものが咥内に滑り込んできて、レオンの肩がピクッと跳ねた。
舌が艶めかしいものに絡め取られて、ねっとりと唾液を塗しながら、隙間なく舐られる。
舌の根がじわじわと痺れて行くのを感じながら、レオンも応えるように舌を動かした。

 ちゅぷ、ちゅぷ、と言う音が耳の奥で鳴っている。
はしたない音を目の前の男にも聞かれているのだと思うと、無性に体が熱くなる。
もっと熱くなりたくて、レオンは自由な腕をシドの首に絡めて、抱き着くように身を寄せた。
甘えるようなレオンの仕草を察して、シドの腕もレオンの背中へと回る。


「…ふ……、っは……」


 ちゅく、と咥内を吸われる感覚に、ヒクン、とレオンの体が震えるのを最後に、ゆっくりと唇が離れて行く。
引いた銀糸がぷつりと切れて、は、は、と浅い呼吸を繰り返すレオンの唇を濡らす。

 夜着に着ているシャツの裾が捲られて、中にシドの手が侵入して来る。
腹筋を擽るように辿って上へと進み、胸板を撫でられた。
まだシャワーの火照りが冷めきっていない手が、何度もレオンの胸をくすぐって、指先が蕾を掠める。
それだけで、覚えた体が反応してしまうのを隠せない。


「ん…っ、シド……っ」
「あん?」
「は……あ……っ」


 名前を呼べば、なんだ、と帰って来る声。
別に返事が欲しかった訳ではなかったけれど、応えてくれたのが嬉しくて、気持ちが緩むように吐息が漏れた。
同時にシドの指が頂きを捕まえて、クニクニと押すように捏ねたものだから、思わず甘い声が出る。

 機械を扱う事になれた、普段は何かとガサツさが目立つ指先が、丁寧にレオンの体を愛撫する。
押し潰された乳首が硬くなって勃ち上がると、シドはそれを親指と人差し指で摘まんで、転がすように捏ねて苛める。


「あ、ふ…っ、あ…っ、あ……っ!」
「どんどん敏感になって行くよな、お前。初めは此処までじゃなかったと思うんだが」
「あ……あんた、が……しつこく、触る…から……んっ…!」
「お前から触ってくれって言った事もあるだろ」
「ああ…っ!は…っ、あぁ……っ」


 左右の乳首を摘ままれ、同時に刺激を与えられて、レオンは背中を反らして喘ぐ。
膨らんだ蕾の形が強調されるような角度になると、シドは良い眺めだなと嘯いて、右のそれに吸い付いた。


「んんっ!」


 指で摘ままれている時とは違う、生暖かい吐息と湿った感触に、レオンの背中にぞくりとしたものが走る。
指からの刺激で神経が敏感になっている先端に甘く歯を立てられると、痺れるような電流がレオンを襲った。

 腹の奥が熱くなって行くのが判るが、レオンはそれを宥めるように片手で腹を撫でた。
けれど、そんな事をした所で、熱が収まってくれないのも判っている。
これはただ、もう少し待て、と自分に言い聞かせているだけのものだ。

 膨らみ、固くなって行く乳首を、太い指がぐりぐりと押し潰す。
そうすると益々固くなってしまうから恥ずかしいのだが、シドが面白がってもっと触ってくれるのも知っているから、レオンはされるがままに全てを受け入れていた。


「あ…あ、ん……っ、ああ……っ」
「ん、」
「は…っ、うぅんっ……!」


 ちゅう、と強く吸われて、レオンの体が震えた。
余韻を引っ張るようにゆっくりとシドの唇が離れると、唾液に濡れた突起が露わになる。

 皮の厚い手がレオンの脇腹を辿りながら、下へと降りて行く。
乳首への舌の愛撫は止まず、レオンの意識は其方へと傾き勝ちになっていた。
それでも掌が引き締まった尻を撫でると、期待するようにレオンの腰は震える。
楽ではない生活を送っていたから、シドも少なからず荒事には慣れていて、それを象徴するように少しゴツゴツとした手がレオンの尻をわしっと掴んだ。
指先に力を込めて尻を揉みしだかれるのを感じながら、男の尻を触るって楽しいんだろうか、とレオンは頭の隅で考える。
と、そんなレオンの意識の飛びに気付いてか、カリッ、と乳首に歯が当てられた。


「んぁっ!」


 思わずレオンが声を上げれば、シドは甘く噛んだ歯で乳首を苛めて来る。
舌で舐るよりも直接的な刺激に、レオンの体がビクビクと震え、彼の手はベッドシーツを強く握り締めていた。


「は、あ……っ、シド…ぉ……っ!」
「あん?」
「んんっ……!あ、そこ……っ!」


 尻を揉んでいたシドの手が、谷間に潜って秘めた場所に触れる。
与えられる事を既に覚えた体は、それだけで期待するように穴を膨らませ、刺激を貰える瞬間を待ち侘びていた。

 指先で具合を確かめるように、穴口を撫でられる。
もどかしさの増す感覚に、レオンは身を捩ってシドに縋った。
早く欲しい、と強請るような青年の仕草に、シドの熱も高ぶって行くが、


「焦るな。ちゃんと解してやるから」
「あ……っ!」


 つぷっ、と指が秘孔に潜って来て、レオンの体がビクンッと跳ねる。
まだ指先程度しか入っていないにも関わらず、レオンの中は熱くうねってシドに絡み付き、もっと来てと誘う。
シドはその感触を味わいながら、ゆっくりと中から穴の縁をなぞり、爪のある指の背で肉壁をトントンと叩く。


「はっ、はぁ…っ、ん……っ」


 薄く響くノックの感触が、秘孔の奥にじわじわと届いて来る。
シドの指は、レオンの中でじっとりと滲み始めた腸液を拭うように、丁寧に丹念に、肉壁を辿って行った。


「あ…あ……っ、シ、ド……んんっ……!」


 ぞくん、ぞくん、と何かが這って来るような速度で、快感の信号が神経を伝って広がって行く。
どうにも初めての感覚だった。
いつもならもう奥まで指が突き入れられて、掻き回されて、受け入れる体にされるのに、今日は酷くもどかしい時間が長い気がする。
そう思うと益々欲しい気持ちが大きくなって、レオンは誘うように足を開いて、シドを奥へと誘おうとする。


「シド…、奥…中、に……」
「ああ。ちゃんとやるから急かすなって」
「んん……っ!や、あ……っ!」


 宥めるシドがレオンの胸に舌を這わす。
厚みのある胸板をゆっくりと辿る赤い舌が、唾液に塗れててらてらと光っているのを見て、レオンは唾を飲んだ。


「や…シド……っ、くすぐ、ったい……」
「こっちもか?」
「んぁっ……!あ…、そ、そっち、は…違う……んぅ…っ!」


 こっち、と言って秘孔の中に埋めた指を動かすシドに、レオンはビクッビクッと体を震わせながら首を横に振った。
其処への刺激は、擽ったいとか言う優しいものではなくて、気持ち良くてもどかしい。
溺れてしまいたいのに、まだ其処までの強烈さには足りなくて、理性を飛ばしてくれないのが恥ずかしかった。

 ようやく半分の所までシドの指が入る頃には、レオンの其処は濡れそぼっていた。
女の膣とは違う筈なのに、そう生まれ変わったかのように、シドが指を動かすだけで、くちゅくちゅといやらしい音が聞こえる。


「あっ、ああ…っ、そ、そこ…もっと……っ」
「此処か?」
「はうぅ……っ!」


 カリッ、と硬い爪先に壁を擦られて、ビクンッ、とレオンの腰が弾む。
其処をシドの指が集中的に引っ掻いてやれば、レオンははくはくと唇を戦慄かせながら、背を仰け反らせて快感に悶えた。


「あっ、はっ、んんっ!は、ひ……っ!」
「おい、服、もう全部脱いじまえ」
「あ、ん、ん……っ」


 シドの言葉に頷くと、くちっ、と中を引っ掻いてから指が出て行った。
中途半端に煽られた体が解放されて、放り出されたような虚しさを感じながら、レオンはのろのろと服を脱いでいく。

 汗を吸って心持ち重くなったシャツを捨て、綿のズボンもパンツも脱いで、レオンは生まれたままの格好になる。
火照った体を捩らせながら、レオンもシドの下肢に下着ごしに触れた。
膨らみを隠そうともしていない其処を撫でながら、あんたも、と唇だけで強請れば、シドもパンツを脱ぎ捨てる。
露わになった雄は逞しく膨らんでいて、レオンの目を釘付けにして離さない。


「…シド…、舐めて良いか……?」
「ああ。お前の誕生日なんだ、好きにしろよ」


 許可を求めて強請るレオンに、シドは笑みを含んだ顔で答えた。

 シドがベッドに座り、レオンはその膝下に蹲るようにして顔を寄せた。
もう若くないんだとシドは言うが、彼の中心部はその言葉を裏切るように固くなっており、触れるとドクドクと脈を打っていて、雄としての機能は全く霞んでいない事が判る。
それを言うと、お前の所為だと言われるのが、レオンは密かに嬉しかった。

 竿を握って、根本から先端に向かって、ゆっくりと舌を這わす。
鼻先に独特の据えた匂いがするのも、シドの匂いだと思えば、レオンは好きだった。
変態なのかも知れない、と思う事もあるが、思う事は辞められないのだから仕方がない。
膨らみの下にある皺を舌先で何度もなぞって刺激すると、頭上で鼻息が荒くなって行くのが聞こえた。


「んちゅ…ん……は、むぅ……っ」
「く……っ」


 鈴口にキスをして、レオンは雄を口一杯に含んだ。
生暖かく湿った空間に誘い込まれた雄が、ヒクヒクと体を震わせている。
頭を上下に動かして、ぬぽぬぽと音を立てながら唇で扱くと、肉竿が益々太く固くなって行く。

 頭を撫でていたシドの手が、レオンの項をくすぐって、背中を辿る。
つう、と指先が背筋を滑るのを感じて、レオンは「んんぅっ」とくぐもった悲鳴を上げた。
意地の悪い事をする養父を上目遣いに睨めば、悪戯が成功した子供のような顔をする。


「んむぅっ」
「うおっ」


 意趣返しに、喉奥まで雄を咥え込んだ。
大きなストロークで全体に満遍なく刺激を与えながら、重みの増してきた袋を掌で揉む。
溜め込まれたものを絞り出してやろうと言うレオンの企みに気付いて、シドの特に意味のない対抗心に火が点いた。

 レオンの背中で遊んでいた手が、尻へと延びる。
ぐっと尻を掴んだ手が、レオンに尻を上げるようにと急かした。
レオンは雄を口に含んだまま、尻だけを高く掲げる格好を取る。
シドの手が双丘の谷間をくすぐれば、其処に隠れている秘孔がヒクヒクと疼いて、レオンは無意識に腰を振っていた。


「ん、ん…ふ…っ、んっ……!」
「指、入れるぞ」
「んん……っ」


 シドの言葉に、早く、とレオンは雄を咥えたままで言った。
まともな形にならない言葉だったが、シドには伝わったのだろう。
ぬぷうっ、と一気に奥まで指が入ったのを感じて、レオンの体が強張って指を締め付けた。


「んんぅっ!」
「動かすからな」
「は、ふ、んっ!んっ、んぅっ…!」


 くちっ、くちっ、と音を立てながら、シドの指がレオンの中を掻き回す。
立てた膝が震えるのを自覚しながら、レオンは尻の高さを下げないようにと踏ん張った。
与えられる快感に悶える体をなんとか叱り、奉仕も続ける。

 一度半分までは指を咥えていたし、元より覚えきった体であるから、シドの指を根本まで飲み込むのに時間はかからなかった。
奥まった場所にあるポイントを、指で何度も細かく擦られて、レオンの腰がビクビクと跳ねる。
まだ届かない窄まりの中が、シドを求めて指をきゅうきゅうと締め付けた。
浅ましい体が恥も忘れて一心不乱に求めようとするのを、シドは指全体に絡み付く肉の感触から感じ取っている。


「焦るなって言ってるだろ?」
「…っは…はむぅ…っ!んっ、んっ、んっ…!」
「っは……く……っ」


 宥めるように声をかけるシドに、それでも我慢できない、とレオンは雄を扱きながら訴える。
裸になるのと同時に、羞恥心も脱ぎ捨てたレオンは、夢中になってシドにこの行為の先を求めていた。


「んっ、はふっ…んんっ……!シ、ド……んむぅ……っ」


 ぢゅうっ、と音を立てて雄を啜れば、口の中でドクドクとシドが跳ねる。
先端から滲み出た先走りの液を、舌で掬い取って、こくりと喉へと落とした。
ゆっくりと口から雄を放して、苦い感触の残る舌を見下ろす男へと晒してやる。


「シド……、もう、欲しい……」
「お前なぁ…」
「良いだろ?俺の誕生日なんだから。あんたの方こそ、らしくもなく焦らそうなんてしないでくれ」


 そう言いながら、レオンはきゅっとシドの指を締め付けた。
艶めかしく、それそのものが生き物のように蠢く肉壁は、露骨にシドを煽っている。
それに従うのは年上としてどうなのか、とシドは思わないでもなかったが、それよりも本能に従うのが男と言う生き物のどうしようもない所だろう。


「別に焦らそうなんて思っちゃいねえよ」
「んぁっ……!」


 まだ締め付けたままの肉を振り切って、にゅぽっ、と音を立てて指が出て行く。
ビクンッ、とレオンの体が震え、解された秘孔がヒクヒクと切なげに伸縮を繰り返す。

 下肢に広がる痺れるような感覚に苛まれて、ふるふると体を小刻みに震わせているレオン。
シドはその肩を掴んで持ち上げると、胡坐を掻いた自分の上に跨らせた。


「は……っ、シ、シド……っ」
「焦らすつもりはなかったが、折角の誕生日なんだし、大事にしてやろうと思っただけだ」
「…あっ……!」


 濡れそぼったレオンの秘孔に、シドの太く膨らんだ肉棒が宛がわれる。
痛いのは嫌だろ、と言うシドに、レオンは何と答えれば良いのか判らないし、そもそも意識が宛がわれたものにばかり囚われていて、言葉すらも紡げない。
はあ、はあ、と荒い呼吸を繰り返しながら、レオン自身も腰を揺らして、位置を整える。


「シ、ド……っ」
「良いぜ。お前の欲しいトコまで入れろ」
「ん……っ!んんーーーっ……!!」


 シドの言葉に頷いて、レオンは一気に腰を落とした。
一番太い所で引っ掛かって止まったら苦しいから、一思いに下肢を貫く。
どうしても慣れない痛みと圧迫感に、一瞬呼吸が止まったが、それでもレオンはシドを全て受け入れる事に成功した。


「あ…う……っ」
「っ……、ったくンな事すっから……っ」
「ああんっ!」


 無茶をしてくれたレオンに、シドは肩眉を顰めつつ、強張った腰を抱いて引き寄せた。
ずんっ、と奥の方に硬い感触が穿たれて、レオンの全身が強く跳ねる。

 目の前の男にしがみつき、子犬のように体を震わせているレオン。
シドは奥深くまで愛しい子を犯しながら、子供をあやすように、ぽんぽんと背中を叩いてやった。
それでレオンが子供扱いに怒るかと言えばそうではなく、安堵するように、思い出したように呼吸を再開させる。
ふっ、ふっ、と始めはリズムの短い呼吸を繰り返しながら、四肢の強張りを解く事に努めて行けば、次第に圧迫感は消えて、じわじわと腹の奥から熱の塊が復活する。


「は…あ……っ、シド…シド、ぉ……っ」
「お前、あっちぃな。中ぐちょぐちょだぞ」
「あっ…あん、たの……んっ、所為……だ……っ」
「判った判った」


 そう言う事にしといてやる、と言って、シドはレオンの喉に歯を当てた。
愛しい男に食われそうな錯覚と、ちくちくとした細かい棘に喉を擽られるのを感じながら、レオンは天井を見上げてはあっと熱の籠った息を吐いた。

 レオンの呼吸が落ち着き、強張りも解けると、今度は胎内にある雄の熱がまざまざとリアルになってくる。
シドが此処にいる、と思っただけで、レオンの体は熱くなった。
きゅうぅ……と切なげに締め付ける肉壁に、それを味わう男が薄く笑みを浮かべる。


「もう動いて良いな?」
「……ん」


 次に行くぞと言う合図の代わりの確認だった。
レオンが頷くと、シドはレオンの腰を掴んで、下から突き上げるように律動を始める。


「んっ、んっ…!はっ、あっ、あっ…!」


 深くまで挿入された状態で揺さぶられるから、何度も奥を叩かれて、レオンは声を抑えられなくなっていた。
どんなに口を噤もうと思っても、ごつん、と奥を突き上げられると、押し出されるように甘ったるい声が出てしまう。
次第にそれは大きくなって行き、比例するようにレオンを襲う快感も強くなり、レオンの理性を蕩かして行く。


「あっ、はっ、あっ…、ああ……っ!シド…っ、シド……っ!」
「お前も動きな。出来るか?」
「はっ、ん…っ、うんっ…んんっ、んっ!」


 シドの言葉に応えるように、レオンはシドの肩に腕を回して縋り付き、膝を立てる。
力の入らない膝を震わせながら、レオンはシドの律動に合わせて腰を振り始めた。
奥を突き上げられる瞬間に腰を落とせば、より深くまでシドが入って来て、ごちゅんっ、と行き止まりを打ち上げた。
その瞬間、レオンの体がより大きく震え、


「あっ、ああ…っ!ああぁぁぁっ……!」
「うぐ……っ、く……っ!」


 ビクンッ、ビクンッ、と背中を弓形に撓らせながら、レオンは絶頂した。
二人の体の間で、いつしかとめどなく涙を流していたレオンの雄から蜜が噴き出し、レオンの腹を白濁に汚す。

 絶頂の瞬間からレオンの胎内も強く戦慄き、咥え込んだ雄を全身で包み込むように締め付けていた。
レオンのお陰で大きく膨らんでいた肉棒には過ぎた快感で、シドは歯を食い縛るものの、長く堪える事は出来ずにレオンの中へと射精する。
どくんどくんと脈を打ちながら、勢い良く熱を吐き出す欲望によって、レオンは自分の体が支配されて行く愉悦を感じていた。


「ああぁ…っ、中、に……出、て……!」
「…お前が良すぎるんだよ……っ」
「は…ふ……んぁっ……!」


 耳元で恨み言めいた声で呟かれた嬉しい言葉に、レオンがくすりと喉で笑う。
何笑ってんだ、とシドの手で腰を揺すられて、レオンの胎内でぐちゅっぐちゅっと精液が掻き回された。

 快感の余韻の残る秘孔から、ゆっくりと雄が抜けて行く。
駄々を捏ねるように肉壁が絡み付いて引き留めようとするが、シドはそのまま自身を抜き去った。
咥えるものを失くした秘孔が、ぱっくりと口を開けたまま、腸液と精液の混じった液体を零してシーツに染みを作る。


「あ…っ、は……っ、ん……」


 力を喪ったレオンの体がベッドに落ちて、ぐったりと重く沈む。
残る快感に余韻に身を捩り、太腿を擦り合わせる様子を、シドの瞳がじっと見下ろしている。

 レオンの手が自身の下肢へと伸びて、ヒクつく秘孔に指が触れた。
穴淵を少し広げると、中に注ぎ込まれたものがとろりとダマを作りながら溢れ出し、レオンの尻をゆっくりと流れ落ちて行く。
その仕草がシドに見せつけるような角度で行われるものだから、シドの出したばかりの熱がまた頭を持ち上げて来る。


「おい、レオン」
「……ん?」


 眉根を寄せて名を呼べば、レオンは含みのある顔で養父を見た。
わざとだな、と言うシドに、レオンは変わらない表情のまま、ヒクつく秘孔を拡げて見せる。


「なあ……、まだしたい」
「あのな。俺はお前みたいに若くねえんだぞ?」
「でも、枯れてもいないだろ?こんなに出してる癖に」


 くん、とレオンの指先に力が入れば、また蜜が溢れ出してくる。
それが皮膚を伝い落ちて行く感覚に、レオンの体がぴくっ、ひくっ、と小刻みに震えた。

 レオンは仰向けになって足を開いた。
シドに局部を見せつける格好になって、両手で自身の穴を拡げて雄を誘う。


「もっとあんたが欲しいんだ。……良いだろう?誕生日なんだから」


 いつも何処か恥ずかしそうに、良い年をしても初心な反応が拭えないレオンの、露骨な誘惑。
本当に何処で覚えて来てるんだと嘯きながら、シドは挑発に乗って、魅惑的な肢体に覆い被さった。
欲望は少し刺激を与えてやれば直ぐに起き上がり、宛がった秘孔はよく滑っていて、押し込んでやれば直ぐに全てを飲み込む。
はしたない体は男を咥え込んで嬉しそうに啼き、離すまいと懸命にしがみ付いて来る。
その背を抱いて、シドは力強い腰遣いで、レオンを快感へと道連れにして行った。




 カーテンの隙間から差し込む朝の陽ざしが、レオンの目元を眩しく照らす。
丁度睡眠が浅くなった頃合いだったので、レオンはそのまま目を覚ました。
乾いた目に刺さる光に眉根を寄せて目元を擦りつつ起き上がると、ずきずきと腰が怠い痛みを訴えて来て、昨夜の事を思い出す。
酒が入っていた所為で随分と大胆な事をしたような気がするが、そのお陰で嬉しい事もあったから、概ね良い誕生日であったと回想できた。

 腹が何が寄越せと訴えて来るのに気付いて、朝飯を作らないとと思い至る。
体が疲れているので、簡単なもので良いよな、とベッドを抜け出そうとするが、


「!」


 ぐっ、と何かに手を掴まれて、あっと思う前にベッドへと引っ張り戻された。
ぼすんとベッドの上でレオンの体が軽く弾む。
それを抑えて捕まえようとするかのように、レオンの腰に腕が回されて、檻の中へと閉じ込められた。


「シド、ちょ……っ」


 朝食の用意をしないと、とレオンは声を上げようとしたが、其処で寝ている人物の顔を見て、口を噤んだ。

 レオンと同様に裸身のまま、ベッドで大の字に眠っているシド。
かーかーと口を開けて寝息を立てている姿に、雰囲気も情緒もあったものじゃないな、と昨夜と全く同じ事を考える。
だが、腰に回されたシドの腕は、本当に寝ているのかと思う位にしっかりと力が籠っていた。
まるで、此処にいろ、と言われているようで、困りつつもレオンの口元は緩んでしまう。

 レオンはしばし此処から抜け出せないかと探ってみたが、腕が解かれる事もなければ、シドが目を覚ます気配もなかった。
空きっ腹の訴えは相変わらずなのだが、こうなっては仕方がない。
開き直って、レオンは横になってシドに身を寄せた。
すっかり無精に伸びた髭を至近距離で眺めつつ、そんな距離感が許されている事に幸せを噛み締めた。




レオン誕生日おめでとう!
いつも何処か幸薄いレオンばかり書いてる気がしたので、今年は幸せ一杯にしてみようと思った。
幸せを素直に享受できるようになったら、大胆になってました。