聞きたい事、知りたい事


秩序の女神の下、新たに召喚された戦士は、年若い少年であった。
年齢を聞けば、スコールやティーダ達と言った“年下組”とそう変わらない。
一見すると女顔とも揶揄されそうな童顔であるが、何処か世間知らずにも見える外観とは打って変わって、剣には培われた技術と魂が籠められている。
目覚めたばかりである為、持ち得る記憶は少なく、彼の軌跡を確かめる事は本人でさえ出来ていないが、それでも彼が自身の事を「傭兵」と名乗った事を納得させるだけの材料にはなった。
────「傭兵」と名乗った時、僅かにその表情に苦味が滲んでいた事は、目敏い者なら感じ取っただろうが、それについて訊ねても、恐らく本人もその感情の出所は判っていないだろう。
判っていたとしても、可惜に他人が踏み込んで良い事とも思えず、似たような感覚を持つ者も少なくない為、気付かない振りをするのが暗黙の了解となっていた。

戦闘に置いて、彼の力は非常に有用である。
剣と魔法の両方にバランスが取れており、仲間をサポートする魔法も持っている。
重みのある一撃を放つクラウドや、脚で駆け回って敵陣を引っ掻き回すティーダやジタンと言ったように、一方に突出した能力を持つ者と向き合うとやや押される所もあるが、これはオールラウンダーの苦い所か。
しかし、前衛にも後衛にも配置できる人物がいると言うのは、非常に有難い事である。

と言ったように、様々な方面で活躍する力を持った人物であるが、その性格はやや控えめで大人しい。
賑やかし屋が多い年下の中では、やや印象が薄くなる事も儘あった。
雰囲気で言えばセシルに近く、わいわいと騒がしい面々を遠目に眺め、適当な所で声をかけて諌めている。
かと思ったら、案外とノリの良い所もあり、賑やか組に遊びに誘われると、ちゃっかり参加している事もあった。
ティーダのように明らかにテンションが高くなると言う事は───今の所───ないが、年相応の少年らしい一面も持っているようだ。

そのラムザと、スコールは共に行動していた。
持ち回りで行っている、秩序の聖域近辺の見回りと、イミテーション退治の為だ。
パーティにはジタンとバッツも同行しており、彼等はあちらこちらへちょこまかと寄り道しながら歩いている。
ラムザはそんな二人を楽しそうに眺め、スコールは溜息を漏らしながら、規定のルートを進む。

神々の闘争や、あちこちに蔓延り襲い掛かってくるイミテーションの事など、最低限を説明すればラムザは程無く理解した。
状況が状況、応じなければ元の世界に戻れないだけに、理解せざるを得なかったのはあるだろう。
それでも、セシルやクラウドが必要な事を話すと、それだけで自分のするべき事、置かれた状況を理解し受け止めたのだから、決して愚鈍ではないのだろう、とスコールは分析している。

その証左ではないが、不可思議な次元の扉のような役目を持つ“歪”についても、彼は既に馴染んでいる。


「スコール、あの歪。赤い色だ」


指差したラムザに倣って目を向けると、確かに赤く光る紋章陣があった。
赤色の歪は、混沌の侵食を受けて、イミテーションがうろついている可能性が高い。
此処から出現し、聖域周辺をうろつき回るイミテーションも出てくる為、早い内に混沌の力を消し、浄化してやる必要があった。

スコールは少し後ろでじゃれ合いながら歩いていたジタンとバッツに声をかける。


「ジタン、バッツ。歪に入るぞ」
「ほいほーい」
「おれ一番!」
「あ、ちょっと。もう少し慎重に────」


ジタンとバッツは、スコールとラムザを追い越して、先を取り合うようにして歪に飛び込んだ。
危険度を確認してから、と呼び止めようとするラムザの声は、虚しく宙を掻く。

ぽかんと立ち尽くすラムザに、スコールは一つ溜息を吐いて、


「いつもの事だ。言っても無駄だから、好きにさせておけば良い」


言いながら、スコールも歪へと飛び込んだ。

光が氾濫する数瞬を過ごした後、スコールは硬い雪を踏みしめた。
何処だ、と辺りを見回すと、見慣れない雪景色が広がっている。
初めて見る歪内の光景に、眉根を寄せていると、後を追って来たラムザが雪の上で蹈鞴を踏んだ。


「おっと……雪のある世界か」
「……初めて見る世界だ」


スコールの呟きに、「そうなのか?」とラムザが確かめるように訊ねる。

雪に覆われた景色は、闘争の世界にも存在しているが、此処はその雪山ではなさそうだった。
真っ白な斜面のずっと下方───麓と思しき場所に、小さく人里のようなものが見え、煙を焚いている煙突もあった。
斜面を挟む道は、高い崖で挟まれており、これもスコールには見覚えのないものだ。

先に飛び込んだジタンとバッツは何処に行ったのか、と見回してみると、高い崖の上に立って斜面の道を見下ろしている。
斜面には、真っ白い雪が光を反射させて見え難かったが、ガラス細工の人影がうろついているのが確認できた。
動きはぎこちなく、ロボットにも見えるので、どうやら下位のイミテーションのようだ。

スコールとラムザの到着に気付いたジタンが、スコール達に向かってハンドサインを送る。
崖の下に二体、更に下った位置に二体のイミテーションがいるようだ。
レベルはどちらも低そうだが、早目に片付けてしまおう、とスコールがガンブレードを握ると、ラムザも腰のロングソードを抜いた。
ジタンとバッツは、「オレ達はあっち」と斜面の向こうを指差して、崖を大回りして駆けて行く。


「スコール。僕は援護に回った方が良いかな」


新たに召喚された身とあって、この世界に限って、ラムザはまだ経験が少ない。
それ以前から存在している混沌の戦士の特徴、それを真似て動くイミテーションに対しては、まだまだ情報が少なかった。
この為、敵のレベルが高い状態であれば、ラムザは可惜に近付かず、援護に回っている事が多いのだが、


「いや、あそこにいるのはガーランドと皇帝のイミテーションだ。イミテーションのレベルも低いし、皇帝は放って置くとこっちの動きを封じるように動くから、こっちから近付いて片付けた方が良い。ガーランドは俺が相手をするから、そっちを任せる」
「判った」
「足元に気を付けろ。罠を仕掛けてくるからな」


必要となるべき点を簡潔に伝えると、スコールは地面を蹴った。
足元の雪は、水分が少なくさらさらとしたパウダー状になっており、踏み込むスコールの足を沈めてしまう。
それに足を取られないように注意しつつ、スコールは猛者と暴君へと肉迫した。




スコールの分析通り、イミテーションは簡単に片付ける事が出来た。
離れた場所にいた二体の下へ向かったジタンとバッツも、スコールとラムザの戦闘終了後、無事に合流を果たす。

その後、ジタンとバッツは雪合戦をして遊び始めた。


「うりゃ!」
「とうっ!」
「あいてっ。お返し!」
「うおぉっ!」


崖に挟まれた斜面の真ん中で、手早く作った雪玉を投げ合う二人を、スコールは崖の上から眺めていた。
近くにいると巻き込まれるのが想像に難くないので、さっさと避難したのは正解だった。
柔らかなパウダー状の雪で作られた玉は、当たっても直ぐに弾けてしまうので、大して痛くはないが、やはり冷たい。
基本的に寒い事を嫌うスコールが、雪玉遊びに参加する訳もなかった。

そんなスコールの背中に近付いて来たのは、ラムザだ。
ざくざくと雪を踏む音を鳴らす仲間を、スコールは肩越しに見遣って、直ぐに崖下へ視線を戻す。


「少し周りを見て来た。他にイミテーションはいないみたいだ」
「そうか」
「ジタンとバッツは……楽しそうだな」


崖下で無邪気に雪遊びに耽っている仲間を見て、ラムザはくすりと笑った。


「スコールは参加しないのか?」
「断る」
「楽しそうだよ」
「それなら、あんたが参加すれば良い。俺はこの世界を調べて来る」


立ち上がって、足元にまとわりつく雪埃を払い、スコールは仲間達に背を向けた。

この雪景色は、初めて見るものだ。
歪の中の景色は幾つもの世界の断片が混ざり千切れて存在している為、その時限りで二度と見る事が出来ない世界も在る。
しかし、そうした消え行く断片の世界には、イミテーションが湧いてくる事はなかった───少なくとも、今までの経験では。
イミテーションが存在すると言う事は、其処に混沌の力が流れ込んで定着している訳だから、新たな世界の断片として、歪の中で繰り返し出現する可能性がある。
下位のイミテーションだけで事が済んだ今の内に、この世界の特性や、注意するべき物事を確認して置いた方が良いだろう。

ざくざくと深い雪を踏みながら歩いていると、後ろから同様の音が聞こえてきた。
振り返れば、進む毎に深くなる積雪に足を取られつつ、ラムザが後を追って来る。


「手伝うよ、スコール。此処、スコールも初めて見る世界なんだろう?」
「……ああ」
「それなら単独行動は危ないんじゃないか」
「……眩しい奴と同じ事を言うな。俺はそんなに弱くない」


眉根を寄せたスコールの言葉に、「眩しい奴?」とラムザは首を傾げる。
スコールはそんなラムザからついと視線を逸らし、雪向こうに点々と岩が顔を出している高場に向かう。
ラムザは足を速めて、スコールの隣へと並んだ。


「別に弱いとか強いとかって言う問題じゃないさ。ただ、色々見ておきたいんだ」
「……色々?」
「地形とか、使えそうな物とか。僕はまだこの世界の事もよく判らないし、出来るだけの事はしたい。皆の足を引っ張りたくないから」


真面目な奴だ、とスコールは胸中で感想を零す。
だが、向上心があるのは良い事だし、慣れない場所で単独行動が危険と言うのも事実。
況して雪深く足元が取られやすい場所は、奇襲されると厄介で、一人では目の届かない範囲を補える者がいるのは有難い事だ。

崖の向こうでは、まだジタンとバッツが雪遊びに興じている。
彼等の力はスコールもよく知っているし、傍目にはただ遊んでいるようでも、視野が広い彼等の事だ、異常があれば直ぐに気付いて切り替えるだろう。
ついでに、スコールとラムザが場所を離れた事にも直に気付くだろうから、その内追って合流して来るのも、想像に難くない。


(……それまでに確認できる所はして置くか。こいつなら、あの二人のように騒がしくはならないだろうし)


何故かジタンとバッツによく絡まれるので、賑やかし事の中心に巻き込まれているが、元来、スコールは静寂を好む性質である。
控えめな性格のラムザとなら、苦になる事はないだろう───と、思ったのだが、


「それに、スコールの事も色々見ておきたいんだけど、駄目かな」
「……は?俺?」
「僕達、普段はあまり話をする機会もないだろ?」


ラムザの指摘は事実で、スコールは普段、ラムザとほぼ接点を持っていない。
召喚されて間もなかった為、パーティを組む時は、セシルやフリオニールと言った気遣いの上手い面々と一緒にいる事が多く、単独行動が多い、或いは自由───一歩間違えれば、トラブルメーカーにもなる事がある───なジタンやバッツと共にいる事が多いスコールとは、パーティを組む事がなかったのだ。
スコールはそれを深く気にした事はないが、ラムザの方はそうではなかったらしい。


「いつかスコールとゆっくり話が出来たらって思ってたんだ」
「……そう言うのは、俺はパスだ。大体、記憶の回復も大して進んでいないのに、何を話せって言うんだ?」
「それは僕も同じさ。だから、この世界でスコールが感じた事や、出逢った事を教えて欲しい。僕はこの世界の事もよく知らないから、勉強の一環として聞きたいんだ」
「……」
「もっと君達の力になりたいんだ。だから、頼むよ」


何れにしろ、スコールにとっては宜しくない話題である。
しかし、ラムザも引くつもりはないようで、「少しで良いから」と言って来た。
こう言う手合いは、断っても断っても諦めはしないのだと、先に同じように食い付いて来た仲間達から学習している。

対して面白い話は無い、と最後の言い訳のように言ったスコールだが、それでも良いよ、とラムザは笑った。




2016/03/08

ディシディアアーケードに参戦と言う事で、ラムザ×スコールを目指してみた。

タクティクスはプレイしましたが(途中までだけど)、物語が物語なだけに、ラムザの明るい所って殆どないんですよね。大体がシリアスなシーンだから、素の喋りと言うものがあまり浮かばない。
公式で年齢が出てないと思うのですが、個人的には17歳前後だと思ってます。なので同年代のスコールやティーダ、ジタン達とわいわいやってくれたら楽しいなーと。