ワン・デイズ・リピート


当たり前のように窓から入って来て「ただいま」と言った青年を、「おかえり」の言葉の代わりに投げ飛ばした。



荒れ果てた故郷の再建が落ち着いた頃、レオンは自分だけの居宅を持った。
昔から不思議と人の輪の中で過ごす事が多かったレオンだが、自分自身は静寂を好む性質であったので、個人スペースの保持と言うものはレオンにとって重要なものだったのだ。

場所は郊外、街全体を見渡す事が出来る高台。
元々賃貸アパートとして使われていたらしい、ボロボロの風体になっていた建物を一つ貰う事にし、シドに頼んで簡単な修復を済ませ、後は自分の好みに幾つか改修工事をした。
アパートは二階建てになっており、レオンは二階の角部屋を使わせて貰う事にした。
一階に住んでも良かったのだが、高台にある建物の二階から外を見れば、より遠くまで景色を見る事が出来る。
ゆっくりとだが、少しずつ修復して行く故郷の姿を臨む事が、レオンの楽しみの一つとなったのだ。

レオンが居を構えた郊外には、まだまだ人の気配はない。
だから交通の便もまだ整っていないので、疲れた日は帰り路が酷く長く感じる事もあるのだが、それでもレオンは街の中心部に移住しようとはしなかった。
どうせ一日の大半、若しくは数日間を中心部で過ごすのだから、自分一人の空間だけは、何物にも侵食されない場所に持ちたかったのだ──────が。

頭から床に叩き付けた青年は、逆直立の状態でしばし停止し、どたっと引っ繰り返って倒れた後、何事もなかったかのようにむっくりと起き上がった。


「痛いじゃないか」
「そうでなければ意味がない」


赤らんだ顔を摩りながら言ったクラウドに、レオンは仁王立ちでクラウドを見下ろして言い返した。


「窓から入って来るのを止めろと、何度言ったら判るんだ」
「こっちの方が早いから良いじゃないか。嫌ならあんた、ちゃんと鍵かけろよ」
「かけておいた鍵を壊したのは何処の誰だ」
「俺です、ごめんなさい」


ぎろりと睨んだ青灰色に、クラウドは直ぐに頭を伏せて謝罪する。
この謝罪が行動にも反映してくれれば良いのだが、とレオンは眦の険を緩めて溜息を吐く。

レオンはベッド端に腰を下ろし、そのまま後ろへと体を倒した。
ふぅ、と深く深呼吸すると、ぎしりと傍らでスプリングの鳴る音。
見上げていた電球の前にぬぅっと人の頭が現れて、視界が陰る。


「……退け」
「嫌だ」


光源を遮り、視界に影を落としていたのは、無論、クラウドである。
レオンの顔の横には、彼の腕が立っていて、このままレオンが大人しくしていれば、組み敷かれる格好になるだろう。

レオンはベッドから下ろしていた足を持ち上げて、クラウドの腹を押し飛ばした。


「ぐえ」
「全く……俺は疲れているんだ。お前の相手をしている暇はない」


さっさと休んで、明日からの予定に備えたい。
復興委員会、レポートの解析、コンピュータープログラムの修正他諸々……やらなければならない事は、まだまだあるのだ。
ふらふらと帰って来ては、べたべたと甘え、ふらふらと消える気儘な男に構い付けてやる暇はない。

無視の意思表示とばかりに、ごろりとベッドの上で寝返りを打って背中を向けたレオンに、クラウドは床に座り込んだまま、拗ねた顔を作る。


「そんなに連れない態度しなくても良いじゃないか。折角の誕生日なのに」
「……誕生日?」


聞こえた単語にレオンが体を起こして振り返ると、それを見たクラウドが目を輝かせる。


「そうだ、誕生日なんだ。だから帰って来たんだ」
「……だからってなんだ」
「誕生日だぞ。お祝いするものだろ」
「………」


ベッド端に取り縋って来てねだるクラウドに、レオンは冷たい眼差しを向ける。
しかし、マイペースなクラウドがそれに気にする訳もなく、彼はいそいそとベッドに乗り上がって来た。
レオンは躊躇せず、クラウドの赤いマントを掴んで引っ張り、ベッドの下へと落とす。


「いだっ」
「誕生日ケーキが食べたいなら、明日にでもエアリスの所に行け。お前が帰って来るかどうかも判らないのに、わざわざ用意してくれていたんだぞ」
「……うん、まぁ。それは、後で行く。ちゃんと行く。だから今は、こっち」


もう一度、ぎしりとスプリングの鳴る音。
ならば此方も、もう一度蹴落としてやろうと足を浮かせると、がしっ!と脇で振り上げた足を挟まれた。

しまった、とレオンが緊張で強張らせた隙に、クラウドはレオンの膝を掬って、レオンの体を折り畳むように持ち上げる。
半端に起こしていた上半身を支える肘が崩れて、背中がシーツに沈み込む。
クラウドの背中が伸びて、手袋をしたままの手がレオンの肩を掴んで、白い波へと押し付ける。


「─────おい!」
「今日だけ」
「“今日だけ”って、その台詞、何回目だと思ってるんだ!」


米神に青筋を浮かばせて声を荒げるレオンだったが、クラウドはやはり気にしない。

金糸がレオンの視界を埋め尽くす。
無防備に開かせていた口の中に、生温いものが潜り込んで、レオンの舌を絡め取る。


「ん、ん……っ」
「んー……」
「ふ……む、……っ」


絡み合う小さな水音が聞こえて、レオンは息苦しさに耐えるように目を閉じる。
そうすると、咥内をまさぐられる感覚がよりはっきりと感じられて、────より深く繋がろうとする侵入者に、レオンの肩がふるりと震える。
咥内を好きに貪られ、逃げようとすれば顎を捉えられて固定された。

クラウドは、そのままレオンの咥内を思う様に堪能し続ける。
強張っていたレオンの躯が弛緩した頃、ようやく、レオンの呼吸は解放された。


「っは…ん……」


苦しげな喘ぎを零して、酸素を取り込もうとするレオンの胸が上下する。
クラウドはそれと、触れそうな程に近い距離でじっと見下ろし、閉じられていたレオンの瞼が開けられるのを待って、


「今日だけ」


先と同じ言葉を、一言一句、そのまま繰り返すクラウドに、レオンは整った呼吸の中で、一つ溜息を吐く。

レオンは手袋を外すと、白い手をクラウドの頬へと滑らせた。
碧眼が微かに見開かれるのを近い距離で確認して、レオンはこっそりと笑う。


「……いいのか?」


怖々と聞いて来た青年に、何を今更言うのだろう、とレオンは思った。
いつも此方の都合などお構いなしでがっついて来る癖に、此方が寛容な様を見せると、驚いたように目を丸くする。
自分の方からねだってくる時は、これでもかと言わんばかりに押しが強いのに、逆の立場になると急に弱気な様を見せる。
そう言う所を見る度、案外と可愛げがあるな、とレオンはこっそりと感じていた。

伸ばした腕を首に絡めて、引き寄せる。
ぎこちない動きで近付いて来たクラウドの頬に、そっと触れるだけのキスをした。


「誕生日なんだろう。いらないのなら、今直ぐ取り上げても良いが」
「嫌だ。貰う。返さない」


レオンの言葉に、慌てたように口早に言って、クラウドはレオンの唇に吸い付いた。
絡み付いて来る舌に、今度はレオンの方から応えてやる。

唇が離れて、つ……と銀糸が二人の間でぷつりと切れて、レオンの濡れた唇にクラウドが唾を飲み込む。


「俺が貰ったプレゼントだから、全部俺ので良いんだよな」
「……“今日だけ”な」




衣擦れの音と、重なりゆく吐息を感じながら、レオンはそっと目を閉じた。





2012/08/11

クラウド誕生日でクラレオ!
……なんだけど、これ誕生日なのか。平常運転じゃないか、うちのクラレオとしては。

この後のえっちはクラウドが色々変なことリクエストすればいいじゃないかな!