優しさよりも傷を与えて


遠くに名前を呼ぶ声が聞こえて、重い瞼を持ち上げる。
暗がりの視界に飛び込んできたのは、淡い月の光を思わせる、プラチナブロンドだった。
藤色の瞳が心配そうに此方を覗き込んでいるのを見て、どうしてそんな顔を、とスコールは首を傾げる。
その仕草を見た藤色が、ほっと安堵の色を灯した。


「ああ、良かった。すまない、無理をさせたみたいだね」


そう言って柔和に微笑むセシルに、スコールは自分が意識を飛ばしていた事を知った。

面立ちとは裏腹に、厚みのある戦士の手が、スコールの頬を撫でる。
ごめんよ、と詫びるセシルに、スコールはゆるゆると首を横に振った。

セシルと体を重ねる関係となってから、どれ程の時間が過ぎただろうか。
まだ両手では余るが、それでも片手が埋まる位には、同じ褥で夜を越えたように思う。
その中で、スコールはいつも、途中で意識を飛ばしていた。
スコールが気を失う度に、セシルは無茶をさせた、負担を強いたと謝るけれど、気を失う理由は本当はそれではない事をスコールは自覚している。

スコールの意識がはっきりと戻って来るまでの間、セシルは年下の恋人を宥め慰めるように、ずっと頬や頭を撫でていた。
子供をあやすように触れる手にスコールは些かの不満を覚えたりもするのだが、見下ろす瞳は確かに熱を持っていて、単に自分を甘やかしているだけではないのだと言う事が判るから、黙認する。


「落ち着いたかな」
「……ん。…悪い」
「いや、君が謝る事じゃないよ。僕が無理をさせたんだから」


いつもの言葉を口にするスコールに、スコールはそうじゃない、と言いたかった。
けれど、ではどうして、と聞かれる事を思うと、どうしても否定の言葉は出せない。

頭を撫でる手が離れると、セシルはスコールの首筋をそっと撫でて言った。


「今日は此処までにしようか」
「……嫌だ」


拗ねた顔で返したスコールに、セシルは眉尻を下げて困った顔をする。
でも、と言おうとするセシルを、スコールは自分の唇で塞いだ。

スコールの方からセシルの咥内へと侵入し、舌を絡ませ合う。
セシルの瞳が一瞬大きく見開かれたが、求める少年の声なき声を聞いて、直ぐに応え始めた。
先の熱の余韻も残る中、唾液の分泌は直ぐに始まり、ぴちゃ、ぴちゃ、と言う蜜音が耳の奥で響く。
重みのある筋肉が自分の上に覆い被さって来るのを感じて、スコールの足がシーツの海を引っ張った。

青白い月の色をした髪が、スコールの頬を掠める。
ふわふわとした髪質のそれが少しくすぐったくて、スコールの鼻先がひくひくと我慢するように震えていた。


「……んっ……」


セシルの手がスコールの胸をするりと撫でる。
火照りの残った体には、それだけで甘い刺激になった。

肌を重ねている時のセシルは、酷く優しい。
それこそ、スコールが一種の拷問と思う位に優しく、柔らかく、緩やかだ。
明日の戦闘や、日々の内に知らず蓄積されて行く疲労でスコールが潰されてしまわないよう、気遣ってくれているのだと言う事は判る。
しかし、若い躯に余りにも緩やかな刺激は、じわじわと効いて行く弱毒に似て、スコールを苛んでしまう。


「う…ん……っ!」
「大丈夫かい?」
「……っ」


まだ肌を滑り合わせているだけなのに、敏感に反応してしまうスコールに、セシルが囁く声で問う。
それもスコールを慮っての事なのだが、耳元で密やかに囁かれると、スコールはその声だけで高ぶってしまうのだ。

真っ赤な顔で、スコールは平気だ、と頷いた。
セシルはそんなスコールの眦に、羽根のようなキスをして、胸を撫でていた手を腰へと回す。

いつも鎧に覆われているセシルの腕は、嫋やかそうに見える外見に反して、とても筋肉質だ。
クラウドのような判り易い筋肉の盛り上がりは少ないが、鍛え抜かれた固さと厚みがある。
どうにも筋肉がつき難く、絞られる一方で戦士らしい体格が身に着かないスコールには、羨ましい事だ。
一時はそれがスコールのコンプレックスを刺激する事もあって、セシルの裸身を見る事に随分と抵抗を抱いた事もあったが、今となってはどうでも良い事────でもないのだが、目くじらを立てる話ではなくなった。
代わりに、騎士然としたその肉体に組み敷かれる事で、その体を持って世界の全てから隠されているような気がしてならない。

閉じ込められた腕の中で、スコールは未だ続く緩やかな刺激に身を捩った。
中心部が膨らんでいるのを自覚すると、頬の朱が走る。
暗闇の中でも、セシルはそれを見付けたのだろう、くすりと笑う気配があった。


「何処か痛むなら、無理をしないで言ってくれよ」
「……それ、は…ない……っ」
「そう?」


なら良いけど、と言って、セシルの手がスコールの下肢へと降りていく。
膨らみの足りない臀部を摩られるのを感じて、スコールはビクッと喉を逸らした。

緩慢に煽られる熱の中で、体はスコールの意志とは関係なく、此処から先の流れを期待している。
スコールはゆっくりと足を開いて、セシルに続きを促した。
気を失う前に一度繋がっていたから、改めての準備は必要ないだろう。
言外に、早く、と言うスコールの希望が体現されたのだが、


「……っは…あ……っ!」


セシルの手はスコールの太腿を滑り、足の付け根を辿る。
其処に触れられている時が、スコールは一番もどかしくて堪らなかった。
ほんの少し横に逸れれば、一番触れて欲しい所に触れて貰えるのに、辿り着かないのだから。

スコールは、時々、セシルが判っていてこんな触れ方をするのではないか、と思う事がある。
気遣うような触れ方は、スコールにとっては焦らされているも同然で、その間に嫌と言う程熱を蓄えさせられるのだ。
それから秘部に熱を貰うと、それまでの高ぶりが一気に限界まで膨張して、頭の芯まで溶かしてしまう。
まるで全身が性感帯にされたかのような熱の中で攻められれば、スコールはあっという間に前後不覚の状態になって、限界まで上り詰めて果てる。
これを繰り返されるから、いつも途中で意識が途切れてしまうのだ。

今もスコールは、先に貰った熱から続く欲望を煽られて、体の芯が熱くて堪らなかった。
今直ぐにでもそれに触れて解き放って欲しいのに、セシルの手は白い肌の上を滑るばかり。
重なり合った部分が高ぶっている事はお互いに判り切っている筈なのに、焦燥しているのが自分だけのようで、スコールはいつも恥ずかしかった。

だが、いつまでもこんな触れ方をされていては、スコールの躯が持たない。


「セシ、ル……」
「……うん?」


胸の頂に口付けされて、スコールの肩がピクッと跳ねる。
ふう、ふう、と零れる呼吸を噛みながら、スコールはシーツを突っ張っていた足を持ち上げて、セシルの腰へと絡み付かせた。


「も…早、く……!」
「でも」
「…いい、からぁ……っ!」


セシルの気遣いは判っている。
大事にしようとしてくれているのも、理解しているつもりだ。

けれど、それ以上に、彼の熱が欲しくて堪らない。
強く抱き締めて、一番奥に彼の存在を注ぎ込んで欲しい。
それでまた意識を飛ばしてしまうなら、それも良いだろう。
彼と言う存在が自分の中に種を残してくれるのを感じながら、溺れ死ぬのも悪くない。


「……判った。辛くなったら、無理をせずに言ってくれ」
「……無理、なんて…ない……」


このままじわじわと灼かれ続ける方が無理だ、とスコールは思う。
それをセシルが読み取ったかは判らないが、スコールの懇願だけは受け止めてくれた。

腰に絡み付かせていた足を掴まれ、大きく左右に開かれる。
全てを曝け出す格好になって、スコールは一気に羞恥心が蘇ったが、今更引き留めるのも都合の良い話だし、何より、見下ろす瞳に雄の匂いが浮かんでいるのが判って、息を飲む。



反射的に閉じようとした足の抵抗を捨てれば、形の良い唇が、良い子、と紡いだのが判った。




2017/08/08

『セシスコでしっとり大人な雰囲気えっち』のリクエストを頂きました。
……しっとりってなんだっけ……

余裕がある訳ではないけど、自分の方が年上だから、無理させないようにしなくちゃって思ってるセシルと、そんなの良いから早く欲しいスコールでした。