誰より傍に


クリスタルを手に入れる道中を、共に過ごした間柄だからだろうか。
探索や素材集めに向かう時のパーティメンバーは、いつの間にか固定されたように、同じ面々が集まるようになっていた。
ティーダはフリオニールやセシルやクラウドと、スコールはバッツやジタンと、自然と振り分けられるようになり、多めに手が欲しいと言う時や、魔法生物が多い所や獰猛な獣類が多い地域に行く時などのように、指示されない限りは、固定パーティが出来るようになっていた。

それをティーダは、悪い事だとは思っていないのだけれど。


「スコール、お宝探し行こうぜ!」
「一番見付けたのが少なかった奴が罰ゲームな!」


そう言って、ティーダと会話をしていたスコールに駆け寄って来たのは、いつもと同じ、ジタンとバッツの二人。
二人は既に出発準備を終えており、早く早くと急かすようにスコールの腕を引っ張って行こうとする。
突然の事にスコールは目を丸くして、ちょっと待て、とは言うものの、二人は全くお構いなしだった。

そのままリビングを連れ出されるかと思われたスコールだったが、


「今日は駄目っスよ」


言葉と共にスコールを引き留めたのは、ティーダだった。
しっかりとした手に掴まれた腕を見て、スコールがぱちぱちと瞬きし、ジタンとバッツは不満げに唇を尖らせる。


「え〜。良いじゃんかよ、暇してるみたいだし」
「暇じゃないっス。今、俺と会話中」
「だから、暇なんだろ?」


のんびりと会話に興じる時間があるなら、それは即ち、暇であると言う事だ。
間違ってはいないが、ティーダは眉を吊り上げて、違う、と言った。


「暇じゃないっス。俺と会話してるんだから、暇じゃない」


同じ言葉を繰り返し、自分の方が先約だと言わんばかりに、ティーダは捕まえたスコールの手を、強い力で握る。
その所為でスコールは痛みに顔を顰めたが、ティーダはそれに気付いていなかった。

むすっとした顔でジタンとバッツを見詰める彼は、いつもの快活さはなく、何処となく不機嫌そうに見える。
これはジタンとバッツも気付いたようで、二人は顔を見合わせると、


「先客がいるんじゃ、仕方ないか」
「他に誰か誘うか。二人で勝負してもあんまり張り合い出ないし」
「ティナとルーネスが書庫で本読んでたっスよ」
「何っ!たまねぎの奴、ティナちゃんと二人きりとは生意気なっ」


くるっと踵を返して、ジタンがリビングを飛び出していく。
それを追って、バッツもリビングを出て行こうとして、ふと思い出したように振り返って戻ってくる。

駆け寄って来た栗色の人懐こい瞳に、スコールがどうかしたかと首を傾げていると、


「スコール、確かリフレクトチェーン欲しいって言ってたよな。もうトレードしたか?」
「いや、まだだ」
「じゃあ帰りにモーグリの所に行って、貰ってくるよ」
「ああ、頼んだ」
「頼まれたー」


スコールの言葉に、バッツは嬉しそうに言うと、弾んだ足取りで今度こそリビングを出て行った。
閉じた扉の向こうから、ジタンとルーネスの賑やかな声が聞こえて来る。
其処にどたーん!と言う派手で物騒な音が響いて、スコールの脳裏に、年下達にダイビングボディプレスを喰らわせる20歳の姿が浮かんだ。

騒がしさと言うべきか、賑やかさと言うべきか、とにかく忙しない足音が暫く続いて、また静まり返る。
しん、と無音が広いリビングを支配して─────スコールはじんじんとした手首の痛みに気付く。
ちらりと右腕に視線を落せば、確りとした手に掴まれている自分の腕があって、掴んでいるのは他でもない、ティーダで。


「……ティーダ」
「なんスか」


名前を呼ぶと、いつもの子犬のような快活な声ではなく、不機嫌な音が返って来た。
聞き慣れないトーンの声に、スコールの眉間に皺が寄る。

振り返ってみれば、眉間に目一杯の皺を刻んだ、苦々しい顔付のティーダがいる。
凡そ滅多に見れるものではないであろう、太陽のような少年の表情に、スコールは微かに慄いた。
それから、どうして自分がティーダの突然の不機嫌に当てられなけばならないのだと、青の瞳を睨み返し、


「腕」
「?」
「……痛いんだが」
「………うわっ!ごめん!」


きょとんと首を傾げたティーダに、低い声音で言い付けてやれば、ティーダはスコールの腕を見下ろし、ようやく自分が彼の腕を掴み続けていた事に気付いた。
慌てたティーダの手が離れれば、白く骨張った手首に、くっきりと手形が残っている。
じんとした痛みの残る手首を摩るスコールに、ティーダはへにゃりと眉尻を下げ、申し訳なさそうに頭を掻いた。


「なんか、その、ごめん」
「……別に。それよりお前、どうしたんだ」


スコールから見て、今のティーダは明らかに様子が可笑しかった。
ジタンとバッツが出て行った扉の方を睨んでいたり、宝探し(素材集め)にスコールを誘う二人に対し、まるでムキになったように「駄目」と言ったり。
彼らがスコールをパーティに誘うのはいつもの事だし、スコールがティーダと会話をしていたのは暇を持て余していたからで────スコールにしてみれば、彼らの誘いを断る理由はなかった。
ティーダが間に入る形で断る事がなければ、恐らく、今日も彼らと行動を共にしていただろう。

何を考えているのかと睨むスコールに、ティーダは口をへの字に曲げて俯いた。


「だってさぁ……」
「ああ」
「………」
「……なんだ」


いつになく煮え切らない様子のティーダに、スコールの眉間の皺が深くなる。
急かすように彼の声のトーンが低くなった事には、ティーダも気付いただろう。

ティーダはしばらく、あーだのうーだの、意味のない唸る声を上げていた。
待ち惚けを食らわされているスコールが苛々を募らせていると、


「なんか、やだったんだよ」


余りにも漠然とした言葉に、スコールの表情が更に険しいものになる。
ティーダはそれを見て、縮こまるように肩を竦めて、頭を掻いたり、腕を組んだり、爪先で床を鳴らしたり。
少しは落ち着いて物を考えられないのだろうか、とスコールは思う。

なんて言うのかな、とティーダが言葉を探す。
それからまた、しばらくの時間を要した後、ティーダは言った。


「ジタンもバッツも、昨日だって一昨日だって、スコールと一緒だったじゃないっスか」
「……ああ」
「そんで今日もまた一緒なんて、そんなのずるいっス」


唇を尖らせ、拗ねた子供のような顔をして言ったティーダに、スコールは無表情。
そんなスコールを前にして、ティーダは言わなきゃ良かった、と小さく呟き、スコールに背を向けた。
がりがりと乱暴に頭を掻く仕草が、父親と似ていると言ったら、きっと彼は怒るのだろう────等と今この場に関係ない事をスコールは考える。

……確かに、昨日も一昨日も、スコールは彼らと一緒に行動していた。
切っ掛けは今日と同じで、素材集めに行こうと誘われ、断る理由がなかったので同行した。
決まったメンバーとパーティを組んでいるのは、スコールに限った話ではないのだ。
長い時間を共にしたメンバーとチームを組んだ方が、戦闘時の連携も上手く取れるし、何も理由もなく同行を了承した訳ではない。


(大体、お前だって昨日も一昨日も、フリオニール達と一緒だったじゃないか)


昨日、スコールと同じように、“いつものメンバー”で探索に出ていたティーダ。
お互い、同じ条件でパーティを組んでいたのに、それを「ずるい」等と言われても対応に困る。

拗ねた表情のティーダと、眉間に寄せれる限りの皺を寄せて不機嫌な表情をしているスコールと。
リビングにいるのはこの二人だけで、間に入ってくれそうなフリオニールは、此処にはいない。
茶化しながら空気を和ませてくれるジタンとバッツは、つい先程、屋敷を出て行ったばかりだ。
他の面々も、今日は揃って外出しているようで、屋敷の中はすっかり静まり返ってしまい、当然、リビングにも沈黙の蚊帳が落ちていた。

それを破ったのは、ティーダの方。


「……俺だって、スコールと一緒にいたいのに」


─────いつだって、スコールを攫って行くのはジタンとバッツの方が先。
昨日だって、本当はスコールも一緒に行かないかって、誘ってみようと思っていたのに、フリオニール達と話をしている間に、二人がスコールを連れて行ってしまった。
スコールもあの二人になら、特に抵抗もなくついて行ってしまうから、益々ティーダは「ずるい」と思う。
おまけに、バッツはスコールの欲しいものについてもきちんと把握していた。
スコールはきっと、ティーダを相手にそんな話はしないだろうから、ティーダにはバッツがスコールに頼られている、スコールが彼に甘えているように見えてしまった。
勿論、スコールにとっては、もののついでに頼んだだけなのかも知れないけれど。

一番近くにいたいのに、一番一緒にいたいのに。
バッツもジタンも、ずるい。

拗ねた顔でそう告げて、ティーダは俯けていた顔を上げた。
上げて─────其処にあった真っ赤顔に、ティーダは目を瞠る。


「スコール?」
「………っ」


名を呼べば、スコールが息を飲んだように音にならない音を漏らす。
その顔は、頬から耳から首まで、まるで茹でられたかのように赤くなっている。

ティーダはきょとんとした表情で、真っ赤になった目の前の人物を見詰めて、


「照れてる?」
「煩いっ!」


指摘に対して吼える態度は、まるで、図星ですと言わんばかり。
その様子は、いつもの冷静沈着な傭兵然とした表情とは全く違っていて、常の大人びた空気は何処かに消えている。
其処にいるのは、ただ、真っ直ぐに向けられる好意に慣れず、素直になれない少年の顔。

数分前まで子供のように拗ねていたティーダの表情が、一転して明るくなる。
反対に、スコールの方はどんどん赤くなって行って、


「スコール、大好きっス!」
「な、」
「だから今日は、俺と一緒!決まり、な!」


全身全霊で抱き着いて来たティーダの言葉に、スコールは目を丸くして固まって。
続け様の勝手な決定事項に、ちょっと待て、とすら言えず、スコールははくはくと口を開閉させるだけ。

その唇に自分のそれを押し付けて、ティーダは真っ赤になったスコールを見て、太陽のように笑った。




─────ティーダは知らない。
真っ赤になったスコールが、何を考えていたのかを。


(バッツとジタンがずるいって)

(俺とばかり一緒にいるからずるいって)

(俺も同じだったなんて、そんな事)

(……絶対、言えない)


────一番近くで、一番一緒にいたいのが、自分だけではないなんて。
ティーダは知らない。





2012/10/08

10月8日でティーダ×スコール!

お互い別々に行動しながら、一緒にいられなくてやきもきして、それぞれ焼きもち焼いてたとか。
青春真っ只中な17歳コンビかわいい。