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召喚獣の力を得る為に進むに当たり、その気配を辿る事が出来るティナの存在は稀有且つ有用であった。
スコールもそれらしき気配を感じ取る事は出来るが、彼女のように詳細までは判らない。
スコールが感じ取れるのは、精々方角程度で、距離感までは感じ取れなかった。
だからスコールは、もう一つ召喚獣の気配を感じる、とティナが言った時、彼女に距離を確かめさせたのだ。
これはやはり、その人物が召喚獣とどれだけ近い力や魔力を持ち得ているか、と言う違いから現れる差なのだろう。

召喚獣の気配を複数キャッチする事が出来たと言うのは、情報として決して小さくはない。
求めるものが情報であるにせよ、力であるにせよ、その接触は急がれている。
求める召喚獣が一体ならば、それに向かって走れば良いが、数が多いのなら分担した方が効率は良い筈だ。
戦力の分散と言う問題点については、今の所は目を瞑る。
今現在、優先するべきは、状況の把握と情報の入手、それを迅速に行う事であった。

だからスコールは、一人で向かおうとしたのだ。
距離が近い位置にいると言う召喚獣の事はティナを含めた他のメンバーに任せ、自分は遠い位置にいると思しき召喚獣の下へ。
半分は斥候の目的もあり、個別に行動する事で、旅路で起こるトラブルや、敵の襲撃に遭った時のリスクも緩和する事が出来る。
幸い自分は、薄ぼんやりとではあるが目的の気配を追う事が出来ていたから、それに沿って向かえば目当てのものには辿り着けるし、それが終わってからティナ達の下へ合流する事は十分可能だ。
だから、目的を果たしたら直ぐに戻る事を───一方的に───約束して、別行動を取る事を選んだのだ。

だが、それはあくまで自分一人の中の話。


(……こっちに来るとは思ってなかった)


同行者となった女性の背を見て、スコールはこっそりと息を吐く。
堪え切れなかった溜息が混ざった気がしたが、前を歩く人物が振り返らなかったのは幸いだった。

その名に雷光を抱き、文字通り稲妻の如き剣閃を持って戦う戦士────ライトニング。
スコールが彼女と顔を合わせたのは、これが初めての事ではないが、その記憶も思い出せるものは僅かである。
と言うのも、スコールが明確に記憶している“神々の闘争”は、最後の戦いの時の記憶のみで、それ以前のものは霞がかっており、激しくはないが所々に虫食いが出来ていた。
それが“浄化”の影響によるものなのか、スコール自身が抱える“代償”の影響なのかは判らない。
が。過去にライトニングと戦場を共にした際、それは決して長い時間ではなく、且つその機会も少なかったのだと言う事は明らかだった。

その限られた記憶を手繰り寄せながら、スコールはライトニングの背中を見詰めている。
眺めている内に、スコールは頭に浮かぶ後姿と、目の前にいる人物との形が違う事を確かめていた。


(あんな格好じゃなかった。もっと俺やクラウドに近いような、割と普通の感じで……)


この世界に召喚された者の多くは、スコールにとって、ファンタジーや創作物でしか見ないような服装をしている者が多い。
だからか、スコールやクラウドのようなシンプルな服装の者は、反って目立つ所があった。
ライトニングも同様で、服飾デザインとしての装飾はあっても、魔力を込めた宝石であるとか、特殊な魔獣の毛を編み込んだ布であるとか、そう言うものは余り使われていなかった。
装備していた肩宛てやベルト等は、強化カーボンやプラスチックが素材となっており、これもまた他の面々と異なる。
銃にもなるギミックを備えた剣、と言う、これも文明レベル的にはスコールと近い形があった事もあり、二人は同じ世界から来たのではないか、と想像する者もいた。

しかし、今のライトニングは、明らかに以前とは違う格好をしている。
身に着けているのは鎧と呼んで良さそうだが、それにしても合板は奇妙な繋がり方をしているし、普通の鎧とも違うように見えた。


(……クラウドも格好が変わっていたし、それと同じ事なのか?)


以前の闘争の時に比べ、服装が変わった仲間は他にもいた。
そう言う人物は、元の世界で一年や二年と言った時間が過ぎており、その間に何らかの出来事に巻き込まれたりとしていたらしい。
彼女もそうなのだろうか、と思いつつ、


(…だから、雰囲気も前と違うのか……?)


スコールの記憶に浮かぶライトニングは、常に何かを警戒しているように見えた。
幾人かの穏やかな気性の仲間に対しては、少し当たりが柔らかくなるものの、それ以外は総じて張り詰めた糸を保っていたように思う。

しかし、今のライトニングの背中は、そうした緊張感が殆ど感じられなかった。
いつ何が起こるか判らない、と言う警戒で周囲に気を配ってはいるものの、以前程に頑なな空気もない。
何より、以前の彼女なら、単独行動を進むスコールの後を追って来る事はしなかっただろう。
スコールはあの時、追って来るのであれば恐らくジタン、だがフェミニストの彼の事、女性二人を放ってこっちに来る事はないだろう────と思っていただけに、追って来たのが彼女だと見た瞬間、思わず一瞬足を止める程に驚いていた。


(……なんでこっちに来たんだ)


口の中で疑問を呟いた所で、誰も応えてくれはしない。
答を持っているであろう人物は、スコールの前を黙々と進んでいる。
恐らく彼女は、スコールが向かう方向の修正を提案しない限り、延々と真っ直ぐに歩き続けるつもりだろう。
まるでスコールが示す方向に間違いがあるとは思っていない足取りに、スコールは記憶に残る人物像との違いを益々深めていた。

そんな調子で、一日は歩き通して終わった。
進むうちに幾つかの歪を経由している内に、薄赤色を宿した曇り空が夜帳に変わる。
何処まで行っても荒地しかないのかと思っていた景色は、いつしか緑を映すようになり、川も見付かった。
魚がいたのでスコールがそれを釣り、ライトニングが集めた薪で火を起こし、それで夕食を採る事にする
その間、二人の間には、連絡事項に則した必要最低限の会話しかなかったのだが、釣った魚が半分まで減った所で、


「随分と雰囲気が変わったな」


と、ライトニングが言った。
特に前置きの会話もなく、藪から棒と言えばそうであった言葉だったので、会話相手はお互いしかいないのに、スコールはそれが自分に向けられた言葉だと、一瞬気付かず、


「……誰の事だ?」
「決まっているだろう。お前だ」


当たり前のことを訪ねて、当たり前の返事があった。
それを受けてから、ようやく、確かに俺しかいない、とスコールも理解する。

ライトニングは骨になった魚を焚火の中へ放った。
ぱちぱちと音を立てる焚火に、細長い生木の枝を使って、くべた薪を突きながら言う。


「私が覚えている限り、お前はこうやって誰かと同行する事はなかった」
「……そんなの、お互い様だろう。あんたも大体一人だった」
「お前程じゃない」


からん、と薪の音を鳴らして、ライトニングはスコールの反論に対して言い返す。

確かに、どちらも以前の闘争では、一人で行動している節があり、スコール自身も自覚があった。
特に最後の闘争の時以外では、スコールは外の仲間達に対し、判り易く明確な距離と線を引いている。
そんなスコールに比べ、ライトニングの周りには、彼女を慕う者や気に掛ける者の存在が多く、ライトニング自身も───相性の良し悪しはあれど───それを露骨に無碍にする事はなかった。

とは言え、自分から積極的に仲間達と交流をしていたとも言い難く、その為にスコールとライトニングは接点が薄かったのも確かだ。
ライトニングもそうした自分の行動、態度については記憶があるらしく、しばしの沈黙の後、


「まあ……確かに、必要がなければ一人でいた事も多かった気がするな。誰に信用を置いて良いか、そもそも信用が出来るのか、それも判らなかったから」


言って、ちらり、と緑の瞳がスコールを視る。
お前も似たようなものだろう、と言われているような気がして、スコールは沈黙で応答とした。

はあ、とライトニングは溜息を吐く。


「と言うか、あんな状況で、初めて出逢った赤の他人を即信用して背中を預けろ、と言うのに無理がある」
「……それは同感だ」
「あの時の私は、自分の事も全く判らない状況だったしな」


付け足されたライトニングの言葉に、そうか、とスコールは一人得心する。
スコールは何度か世界が撒き戻され、“浄化”で重ねられた戦いが今の記憶として───虫食いではあるが───残っているが、其処にライトニングの姿が見られた戦いは一度きり。
その戦いを除いて、ライトニングは後にも先にも登場していない。
つまりライトニングは、繰り返しを体験する事もなく、召喚間もなく退場する事になったのだ。


「……あんた、何も思い出せていない状態だったのか」
「そう言う事だ。判っていたのは精々自分の名前くらいで、後の事はからきし。自分の世界の事も全く思い出せてはいなかったが、それでもこの世界が自分の常識と全く違う世界である事は判った。判ったが、それだけだ。そんな状態で混乱しない程、私は融通良くは出来ていない」


スコールにも少なからず覚えのある話だ。
いつ、何回目の時の話なのか、それが始まりなのか否なのか、記憶に明確な正確性が持てないスコールには判らないが、それでも最初に召喚された時には、当時のライトニングと同じ混乱があった───ように思う。

説明を求めても、それに応じて貰っても、自身の頭に刷り込まれた常識とは何もかもが違い、それがどうして“違う”と判るのかと言う理由も判然としない。
記憶や体験から構築される、自分自身と言うアイデンティティが曖昧になった状態で、何もかもを己の都合良く受け入れて行動できる程、スコールは聞き分けと割り切りの良い人間ではない。
それでも神だと自称する者の拘束力は強く、それに従わなければ、記憶を回復する手立ても、元の世界に戻る手段も得られない。
気持ちの納得は置き去りに、烏合の衆のような団体の中で行動しなければならないと言う状況は、ライトニングやスコールと言った、安全の為に物事を懐疑的に見る癖のある人間にとって、少々難のあるものであったと言える。
結果、あの時点でライトニングは、己を召喚したと言う女神の言葉は勿論、それに機械的にも見える忠誠心で応じるウォーリアに対し、不信感を募らせる事となった。
故に彼女は、積極的に交流を行うコミュニケーション上手な人間以外には、刺々しい態度を振り撒かざるを得なかったのだろう。

ライトニングは焼き終わった二尾目の魚に手を付けた。
味付けも何もないが、川が比較的清流だったお陰で、泥臭さはない。
スコールも二尾目に手を伸ばして、ふ、ふ、と息を吹きかけて冷ましている所へ、ライトニングは言った。


「お前なら通じそうだから、言わせて貰うが。あの状態で、同じ陣営にいるからと、容易く信用できる人間の方が気が知れない」
「……まあな」
「私があの時、初めての召喚で、“浄化”されても継続的にあそこで戦い続けていた皆とは、考え方や感じ方が違うのかも知れないが……」
「いや。俺はあんたに同意する。あんな状況で見ず知らずの奴等と一緒にされて、あっさり信用できる方が可笑しい」


魚を齧りながら言うスコールの言葉を聞いて、そうか、とライトニングは言った。
その時の彼女の顔は、ほんの少し緩み、共犯者を見付けた子供のような雰囲気が滲んでいる。

ライトニングの言葉には、少々きつい棘が滲んでいるが、彼女の表情は特に顰められてはいない。
終わった事だから、思い出話のついでに苦言が出て来たのだろう。
ついでに、当時感じていた事が、自分一人の独走的なものではないと聞いて安心したのかも知れない。


「…そんな状態だった時に比べれば、今は随分楽だ。大体の奴等と顔見知りだからと言うのもあるが、身内を一々警戒しなくて良いしな」
「……マーテリアは?」
「察しろ。多分、お前と私の考え方は似ている」
「……」


スコールの端的な問の意味を、ライトニングは理解していた。
新たな女神となった女性を、何処まで信用しているのか、彼女の言葉を何処まで受け止めているのか。
それはスコールが未だ疑問視している所で、ジタンとも意見が一致している。
ライトニングはどう思うのか、と言う点を問い質したものであったが、ライトニングは明確に言葉にしない事で返答とした。

────それはそれで良いのだが、スコールは今のライトニングの言い方に引っ掛かるものを感じていた。


(似ているってなんだよ)


なんだか、自分の心の内を見透かされたようで、スコールは落ち着かなかった。
マーテリアやスピリタスと言った、神々の後継者について、懐疑的な見方が強いのは、広く仲間達を見渡しても、そう変わらないだろう。
それだけ、マーテリアの言動に頼りなさが感じられるのだ。

マーテリアについての見解が、スコールとライトニングの間で一致するのは当然だろう。
共に理屈屋とまでは言わないが、根拠のない感覚的なものだけで好悪を括れる程、人が好く出来てはいない。
スコールは傭兵、ライトニングも軍属の警備員と言う経験を持ち、組織内に搬入する異分子への危険度と言うものも理解している。
況してや組織の頭を担う形となっている人物があれでは───と言う懸念は、二人にとって至極当然のものだった。

しかし、スコールはそれをライトニングの前で吐露してはいない。
ジタンとは会話の折に、彼の方から心中を察されて指摘されたが、それも過去の戦いで何かと行動を共にしていた彼であるから、と思える。
だが、ライトニングとは仲間であっても殆ど会話はなかった。
ゆっくりと膝を突き合わせている等、今が初めても同然で、ライトニングが案外と多弁である事も、スコールは初めて知った位だ。
それなのに、自分の事を知っているかのように、双方を指して「似ている」と言われるのは、些か不本意な気分である。

むぐ、と魚を噛んで、スコールは眉間に皺を寄せていた。
ぱちぱちと音を立てて揺れる焚火に、その皺がはっきりと映し出されている。
ライトニングはそんな少年の顔をちらりと見遣って、口角を上げる。


「お前は案外、子供っぽいんだな」
「……は?」


突然のライトニングの言葉にスコールが顔を上げると、彼女はくつくつと笑っていた。

今までの会話に、彼女が笑うようなポイントがあっただろうか。
おまけに、子供っぽい等と、指摘されるような話をしたか。
混乱と苛立ちで、スコールの眉間の皺は益々深くなって行く。

そんなスコールの気配を察してか、ライトニングは骨になった魚をひらひらと揺らしながら、


「怒るな。前はそう言う顔を見た記憶がなかったから、意外だと思っただけだ」
「………」
「顰め面はいつもの事だが、そんな拗ねた顔をしたのは見た事がなかったからな」
「別に拗ねてない」
「ああ。そうだな」


反論を軽く流すように返され、スコールの眉間の皺がまた一段と深くなる。
そうする事で、ライトニングの言う“拗ねた顔”になっているのだと、スコールは気付いていなかった。
だから余計にライトニングの笑いのツボを刺激してしまうのだと言う事も、知る由はない。

スコールは苦い表情のまま、残ったいた魚を平らげた。
骨だけになったそれを焚火に放って、火に背を向けてごろりと横になる。
見張りについて話し合うつもりだったのも忘れて、不貞腐れた気分で過ごしていると、


「その内起こす。それまで私が見張りをする」
「……ん」
「ああ。お休み」


それがその日の内に二人が交わした、最後の会話だ。
スコールはそれきり沈黙し、眠る事に終始して、ライトニングは静かに過ごしていた。

から、と焚火の中で薪が小さくを音を鳴らす。
それも聞こえない程にスコールが眠りに落ちた頃、ライトニングは少し首を伸ばして、スコールの様子を伺った。
焚火に背を向けたままのスコールは、身動ぎ一つ立てず、ただ蹲っているだけのようも見える。
呼吸音がほんの微かに規則正しく聞こえているので、眠っている事は感じ取れた。

ライトニングは、焚火越しに見える少年の背中を見詰め、くつりと笑う。


「……お前は、そうやって寝るんだな」


これも初めて見た、とライトニングは呟いて、これからの長いか短いか判らない旅の道中、少なくとも退屈はしないだろうと思った。





2018/02/13

ライトニング×スコールだと言い張る!!

書きたい書きたいと思いつつ、どう絡ませようか悩み続けたライスコ。
DdFFの頃から妄想はしていたんですが、NTで同じグループになってやったー!!って気分でした。
012では周り(主にWoLや衝突のあったカイン)に大してピリピリしていましたが、原作ではホープだったり、012ではユウナだったり、年下には優しいので、スコールの事も気にはなっていた感じにしてみた。
記憶の喪失や混乱がなければ、結構面倒見が良いライトニングが好きです。