全部きみの所為


日頃の疲労が祟ったのもあるが、やはり一番は数日前の雨に打たれた所為だろう。
熱を出したスコールが高熱を出して寝込んでから、今日で三日目になる。
誰が見ても危うい、意識朦朧とした状態からは抜け出したものの、まだまだ回復の兆しが遠い事には変わりない。
そんな状態であるから、スコールと共に屋敷に残るのは、家事を任せられる者と決められていた。

クラウドは家事全般を不得意としている。
料理はキャベツとレタスの違いが判らないので、食事を作る事も出来ず、スコールを看病するメンバーから外されたのは仕方がないと思っている。
出来ないものがあれこれと判らない気を回す位なら、気の付く者が適切な看病をしてくれた方が良い。
そのお陰で、スコールも時折目を覚ませる程度には、その症状が落ち着いたのだから。

ただ、顔を見る事位はしたかった。
だから探索から戻った後、夕飯の時間になると、スコールの部屋に配膳する役目を買って出る。
仲間達もクラウドの気持ちを察してくれているようで、スコールの飯も準備してあるから、とクラウドに伝えるようになった。

最初にスコールの症状が表面化した日は、意識がまともに戻らなかった為、少しずつ流動食を飲ませ食べさせるしかなかった。
昨日は辛うじて目を覚まし、やはり流動食であるが、起きた状態で数口を食べる事が出来た。
そして今日は、まだ熱も高い状態ではあるものの、自力で起き上がって、クラウドの介助を受けながら食べる事が出来ている。
匙で掬って差し出した粥を、開いた口元に持って行き、少しずつ傾けてやる。

ちびちびと食べていたスコールであったが、意識が戻った事と、二日間まともに食事が出来ていなかった所為か、食欲はあった。
食べる元気があるのは良い事だ、と思うクラウドの手で、スコールは粥を半分まで食べ進め、


「…ん……もう、良い……」
「そうか。よく食べれた方だな」


最後の一口を飲み込んで、スコールは次を断った。
此処まで食べれたのなら、用意したフリオニールも少しは安心するだろう、とクラウドも粥の入った土鍋をトレイへ戻す。

ピッチャーの水をグラスへ注ぎ、バッツが調合した薬と一緒に差し出すと、スコールは判り易く顔を顰めた。
しかし飲まねば回復しない事も判っているので、大人しく薬を受け取り、水と一緒に口に含む。
スコールの事を心配し、早く回復できるようにと、バッツは効能を優先した薬を調合したと言う。
と言う事は飲み易さは二の次になってしまう訳で、スコールは目尻に涙を浮かべながら、なんとか薬を飲み切った。
グラスをクラウドに返し、ぐったりとベッドに沈み込むスコールを苛むのは、熱なのか薬なのか、微妙な所である。
しかし薬は飲んだ訳だから、後は体が回復するのを待てば良いのだ。


「食器を戻してくる。ちゃんと寝ていろよ」
「……ん……」


無理をしないようにと促すと、スコールは小さく頷いて、もぞもぞと布団の中に潜り込んだ。

トレイを持ってキッチンに行くと、フリオニールが夕飯に使った食器の片付けをしていた。
彼は土鍋の中身が半分まで減っているのを見ると、良かった、と嬉しそうに笑った。
スコールの意識が戻ったのは今朝の事だったが、朝食と昼食と、食べる気概もなく過ごしていたので、心配していたのだ。
薬は勿論大事だが、やはり食べ力と言うものも重要なので、少しでもそれが戻って来たのなら、きっと良くなるだろう、とフリオニールは言う。
とは言え、治りかけやその兆候が見られた時が一番油断し勝ちなのも事実。
今晩はしっかり休ませないと、と言うフリオニールに、クラウドも頷いた。

キッチンを後にしたクラウドは、もう一度スコールの部屋へと向かった。
この後のクラウドは特にこれと言ってやる事もなく、強いて言うなら明日に備えて眠る位なのだが、その前に改めてスコールの顔を見ておきたかったのだ。
明日は混沌の大陸の傍まで足を延ばす予定なので、帰って来れない算段になっている。
屋敷に残るのはバッツだと聞いているから、看病については全く心配していないのだが、恋人として彼の傍にいられない事への寂しさは誤魔化せない。
スコールが熱を出してから、共に過ごす事の出来ない時間を埋め合わせるように、クラウドは就寝前に彼の部屋を訪れることを習慣にしていた。

まだ起きているかも知れないな、と思いつつ、寝ているのなら邪魔をしないようにと、ノックをせずに部屋のドアを開けた。
そっと部屋を覗き込むと、ベッドの上でもぞもぞと身動ぎしているスコールがいる。
「んぅ……」とむずがるような声が聞こえて、まだ眠ってはいなかったようだと、足音を殺さずに中へ入った。


「……クラウド…?」
「ああ。ちょっと、顔を見に来た」


寝返りを打って恋人の顔を見付けて、名を呼ぶスコールに、クラウドも返事をする。

ベッド横に座って、ぼんやりとしたスコールの赤い頬に触れる。
いつもはクラウドの手の方が体温が高いけれど、今日ばかりは「つめたい」と言う声が聞こえた。
それだけまだスコールの躰に熱があると言う事だ。
まだ体も重いだろうから、直に眠るだろうかと思ったスコールであったが、彼は中々目を閉じない。
起きていても辛いので眠ろうとはしているようだが、どうにも落ち着かなくてもぞもぞと身動ぎと寝返りを繰り返した。


「……寝られないか、スコール」
「……暑いんだ」
「熱があるから、そうだろうな」
「……ベタベタする……」
「…ああ、服か。それもそうか……」


意識が戻らない程の高熱に魘された三日間。
その間にかいた大量の汗は、寝間着にしている服に染み込んでいるに違いない。
熱を出した二日目にはセシルが着換えさせたと聞いているが、それからまた眠り続け、汗をかき続けていたのだから、もう一度着替えた方が良いだろう。
ついでに今も出ているであろう汗を拭き、清潔な服に着替えれば、すっきりとした気分で眠りにつけるに違いない。

クラウドはスコールに服を脱ぐように言って、風呂場にあるタオルを取りに行った。
シャワーの湯でタオルを濡らしてよく絞り、下着と一緒にスコールの部屋へと持って上がる。

部屋に戻ってみると、スコールは裸身でベッドに横たわっていた。
暑さから服が鬱陶しくなり、脱いだお陰で少し涼しく感じているのだろうが、そのまま寝入ろうとしているのは良くない。
クラウドはスコールの体を抱き起して、枕を背にベッドヘッドに凭れさせた。


「スコール、体を拭くぞ」
「……ん……」


濡れタオルで先ずはスコールは顔を軽く拭いてやる。
火照った頬にはタオルが冷たく感じられるようで、少しほっとしたようにスコールの口元が緩んだ。
半開きになった無防備な唇に、数瞬目を奪われたクラウドであったが、直ぐに自分の役目を思い出して仕事を再開させる。

スコールは普段、あまり肌を晒さずに過ごしている所為か、日焼けも殆どしていない。
病的とまでは言わないが、白い肌をしている所為で、火照っていると直ぐに肌が薄く染まるので判り易かった。
熱を持っている今は尚更で、頬は勿論、首元や胸元もほんのりと赤くなっている。
普段、それを見る事が出来るのは、風呂に入っている時を覗けば、ベッドの上で肌を重ねている時くらいのものだった。

クラウドがゆっくりと体を拭く度に、くすぐったいのか、スコールは身動ぎする。
体が重いのだろう、大して動く訳でもなかったが、しゅるしゅると肌とシーツが擦れる音が何度も繰り返された。
それがクラウドには夜の情事を思い出させる音になっていて、じわじわと下半身が熱くなって来るのを自覚してしまう。


(いや、病人だぞ。自重しろ)


理性がクラウドを叱咤した。
ようやく回復の兆しを見せてきたスコールに、無体を働いてはいけない。

────だが、前に体を重ねたのはいつであったか。
既に一週間の時間が開いている事に気付くと、耐えた日々の反動のように、欲望が頭を擡げて来る。
それをスコールに悟られないよう、クラウドは努めて無表情で、彼の体を拭いて行く。


「ん……っ」
「……」
「クラウ、ド……くすぐ、ったい……」
「ああ、悪い」


スコールの訴えに、クラウドは表情を変えないように意識しながら返した。

薄い胸板、腹筋、脇腹、腰。
出来るだけ力を入れないように、柔らかくそっと。
それはスコールを労わっての事なのだが、何度もスコールが身を捩っては腰をくねらせるから、クラウドは自分の手が意識とは違う意図を持って動いているような気がしてならない。
はあ……っ、とスコールの薄く開いた唇から零れる溜息は、熱を孕んでいる。
それは彼が病気なのだから仕方のない事────それなのに、クラウドはどうしても、褥の彼の姿を思い出してしまう。


「……スコール。下も拭くぞ」
「……ん……」


スコールを包んでいるシーツを捲ると、思った通り、白い脚が露わになった。
腰回りに集まるように溜まったシーツが、スコールの中心部だけを隠している。
が、その布端からちらちらと覗く太腿が、クラウドの劣情を露骨に煽っていた。

クラウドは足の爪先から、丹念に、丁寧に、スコールの体を拭いて行く。
足の裏を拭く時、スコールの爪先が丸まって、ピクッ、ピクッ、と震えて、「や……」とむずがる声があった。
タオルの表裏を畳み直して、もう随分とタオルが冷たくなっている事に気付いたが、熱があるならこれ位でも良いだろう、と思う事にする。
そのひんやりとした感触のタオルを、そっとスコールの内腿に宛がえば、ヒクン、とスコールが膝を震わせるのが判った。


「う……ん……っ」


内腿をゆっくりと伝い、シーツで隠れた場所に近付く。
ひく、ひく、とスコールが肩を震わせ、脚がするするとシーツの波を泳ぐ。

スコールの瞼は薄く開かれ、ぼんやりとした表情で、世話を焼くクラウドを見詰めている。
その瞳が追っているのは、自分の下肢をゆっくりと辿るクラウドの手だ。
彼が自分に触れているのはタオル越しなのだが、その手付きがスコールにいつかの夜を思い起こさせる事に、クラウドは気付いているだろうか。

そっと、スコールは膝を開いて、クラウドに秘部を差し出した。
シーツのお陰でスコールの其処は、まだ晒されてはいなかったが、クラウドが思わず手を停めた事で、スコールの意図が彼に伝わった事は明白となる。


「……スコール」
「ん……」


クラウドの声は、病人だろう、と恋人を咎めるものだったが、そんな彼の手は相変わらずスコールの内腿に添えられている。
スコールはその手に自分の手を重ね、これはもう要らない、とタオルを厭う。
クラウドの手をタオルからずらし、脚の付け根に誘うように促しながら、スコールは自ら内腿を押し付ける。


「クラウド……」


呼ぶ声にクラウドが顔を上げると、じっと見つめる蒼灰色とぶつかる。
緩やかな光を帯びて、ほんのりと赤らんだ顔は、熱で浮かされている時に見るものだ。
褥の中で熱に溺れるスコールの瞳は、涙と憂いで濡れながらも、悲しみよりも喜びに満ちている。
それを見るのが好きで、見る度に愛おしいと思って、クラウドは益々彼を熱の海に引きずり込む。

だが、今日は駄目だ。
スコールが浮かされている熱は、クラウドが与えたものではなくて、彼のバイオリズムの崩れが表面化したもの。
今日と、明日もまだ駄目だろう、せめて熱が下がるまでは大人しくさせなければならない。

そう判ってはいる筈なのに、クラウドの手は止まらない。


「う…んん……、」
「…スコール」
「あ……ん……っ…」


クラウドの少しかさついた指先が、震える中心部に触れた。
シーツの中で悪戯な動きをする掌に、スコールは天井を見上げてほうっと艶を孕んだ吐息を漏らす。


「…明日、悪化したらどうするつもりだ?」
「……あんたの、所為に、する……」
「酷いな」


誘った癖に、と囁けば、スコールは何も言わなかった。
代わりにクラウドの首に腕が絡み付いて、潤んだ唇が「……もっと」と囁く。



彼の体を支配する熱を、自分が与えるものに摩り替えてしまおう。
縋る指が求めるままに、クラウドは薄く開いたスコールの唇を塞いで、ゆっくりと覆い被さった。




2019/08/08

『怪我とか病で動けないスコールに、心配しつつもムラムラしてしまうクラウド』のリクを頂きました。

出来る限りの看病をして、無理をさせてはいけないと思いつつ、余り本能に逆らう気がないクラウド。
スコールに無理をさせないようにゆっくり進めるんだと思います。が、途中でスコールの方が物足りなくてねだりそうな。