おねがい、とどいた?


レオンが目を覚ますと、小さな弟はまだ腕の中ですやすやと眠っていた。

スコールを起こさないように、ゆっくりと起き上る。
カーテンの隙間から滑り込んでくる陽光は、眩しく、暖かい。
しかし、ベッドから一歩降りると、ひんやりとした冷気が足下から上って来て、レオンは顔を顰めた。
床暖房のあるマンションに引っ越した方が良いかな、と思いつつ、寝癖のついた頭を掻く。

ころん、とベッドの上でスコールが寝返りを打った。
小さな手が何かを探すように彷徨うのを見て、レオンは小さく笑みを零す。
スコールの手は、ベッドシーツを手繰るように握り締めたけれど、それだけでは不満なのだろう、スコールの眉間にシワが寄っている。
寂しげに握り開きを繰り返している小さな手に、レオンは自分の手を重ねた。
すると、きゅ、と小さな手が柔らかい力でそれを握り、


「んぅ……」


レオンの手を握ったまま、スコールはもそもそと身動ぎした。
目元にかかった前髪をそっと払ってやると、ふる、と長い睫が震えて、瞼が開く。


「……ふぁ……」
「おはよう、スコール」
「…おにいちゃ…おはよ…」


眠そうに目を擦りながら、スコールが起き上がる。
レオンと同じ、ふわふわとした猫っ毛の髪が、あちこちに跳ねていた。

それを優しく撫で梳いていると、スコールはぼんやりとした目できょろきょろと部屋を見回す。
何かを探している様子の弟に、レオンはくすりと笑みを漏らし、


「ほら、スコール。其処、見てみろ」
「……あ!」


レオンが指差した先を見て、スコールの目がきらきらと輝いた。
赤と緑のクリスマスカラーでラッピングされたそれには、サクタクロースの柄のリボンが結ばれている。
リボンにはメッセージカードが添えられており、『スコールくんへ』と宛名が書かれていた。

スコールは自分の頭ほどの大きさのそれを手に取って、じっと見つめる。
そして宛名に書かれた名前を見付けると、へにゃ、と眉をハの字にした。


「どうした?サンタさんからのプレゼントだろう?」
「うん……」
「一年間、良い子にしてたからな」


ぽんぽんとスコールの頭を撫でるレオンだったが、スコールの表情は以前として晴れない。
おや、とレオンがその様子を見守っていると、スコールはまたきょろきょろと部屋の中を見回した後、


「お兄ちゃんのは?」
「俺?」


鸚鵡返しのレオンに、うん、とスコールは頷いた。


「僕、サンタさんにお願いしたの。僕、今年はクリスマスプレゼント我慢するから、代わりにお兄ちゃんにプレゼントあげてって。お兄ちゃん、いっつもお仕事頑張ってるから」


それを聞いて、ああ、とレオンは昨晩見たものを思い出す。

可愛らしい便箋に書かれた、スコールからサンタクロースへ宛てられた手紙。
その手紙には、自分のプレゼントはいらないから、お兄ちゃんにプレゼントをあげて、と書かれていた。
まだ幼くて、兄の為に何も用意できない自分の代わりに、自分の分を我慢するから、と。

我慢すると決めていたスコールだけれど、サンタクロースからのプレゼントは、一年間を良い子に過ごしていたスコールへのご褒美だから、貰えるとやっぱり嬉しい。
でも、お願いした筈の兄へのプレゼントは、何処にも見当たらない。
それが自分へのプレゼントの喜び以上に悲しく思えて、スコールはしゅんと落ち込んでしまっていた。

レオンは、しょんぼりとした表情で自分へのプレゼントを見つめるスコールを抱き上げて、膝上に乗せる。


「大丈夫だよ、スコール。実はな、昨日の夜、サンタさんに会ったんだ」
「ほんと?」
「ああ。それで、スコールからの手紙、きちんと読んだって言ってたよ。でも、サンタさん、ちょっと困ってたんだ」
「困ってた…?」


どうして?と首を傾げるスコールに、レオンは努めて優しい声で言った。


「スコールは、クリスマスプレゼントは我慢するって言ったけど、サンタさんは凄く感動してて。こんな良い子には、とびっきりのプレゼントをあげたいって思ったらしいんだ。でも、スコールの手紙には、自分は良いからお兄ちゃんにって書いてある。どうしようかな、と思ってた所で、俺の目が覚めてしまってな」


びっくりしたぞ、起きたらサンタさんがいたんだから。
そう言うレオンに、スコールはきらきらと目を輝かせた後、ぷく、と頬を膨れさせる。
起こして欲しかった、と言わんばかりの表情に、レオンは誤魔化すように苦笑した。


「それと、サンタさん、プレゼントは今年配る子の分しか用意できていなかったらしいんだ。俺はもう大人だから、数に入ってなかった。だから、俺にプレゼントをあげたら、今年良い子にしていた誰かの分がなくなってしまう。それじゃあ、貰えなかった子が可哀想だろう?」
「うん」
「だから、俺からサンタさんにお願いしたんだ。俺の分のプレゼントを、スコールにあげて下さいって」


レオンの言葉に、スコールはむぅ、と口をへの字にした。


「それじゃ、お兄ちゃんのプレゼント、なくなっちゃう」


スコールは、どうしてもレオンにプレゼントを贈りたいらしい。
不満そうなスコールに、レオンはくすくすと笑って言った。


「俺には、スコールのその気持ちだけでも、凄く嬉しいよ。それに、サンタさんとは約束したからな。来年は、スコールの分と、今年の俺の分を用意してくれるそうだ」
「……ほんと?」
「ああ。本当だ」


ぱああ、とスコールの表情が明るくなって行く。
それを見て、よしよし、とレオンは満足げにスコールの頭を撫でる。

其処へ、きゅうぅ、と可愛らしくもいじらしい音が鳴り、スコールの顔がぽわっと赤くなる。
レオンはくすくすと笑って、スコールを抱いて寝室を出た。


「お腹が空いたな、スコール。昨日は夕飯、食べないで待っててくれたんだな」
「だって、お兄ちゃんと食べたかったんだもん」
「うん。遅くなっちゃってごめんな。直ぐに朝ご飯の用意するから、その間にプレゼント、開けてみたらどうだ?」


リビングのソファにスコールを下ろし、レオンはキッチンへ向かう。
朝から唐揚げはちょっと重いかな、と思いつつ、一晩の空腹を思えば、大丈夫かも知れないと思い直す。

リビングからはがさがさと袋を開ける音。
それから、わあ、と嬉しそうな声がした。
はしゃぐ声で兄を呼ぶスコールに、レオンはほっと安堵に胸を撫で下ろす。



─────さて、来年は何を用意しよう。

二人でお揃いのものがいいかな、と思いつつ、相変わらず弟が喜びそうなものからリストアップするレオンであった。





2012/12/26

どうしてもお兄ちゃんにクリスマスプレゼントがしたい子スコが書きたかった。
でも、お兄ちゃんもどうしても子スコにクリスマスプレゼントがしたかった。

スコールへのサンタさんからのプレゼントは、ライオンのぬいぐるみだったそうです。