おひるね・ふぁんたじあ



すぅ すぅ すぅ


ぽかぽかと暖かそうな陽気が降り注いでいて、花の咲いた庭がある。
ぴんと張られた紐に、真っ白なタオルや毛布が吊るされて、風が吹くと翻った。
幼子の瞳とよく似た真っ青な空に、眩しい白が、とてもとても映えている。

その瞳は、今は瞼の裏に隠れていて、しばらくは人目に映りそうにない。
幼子は窓辺から差し込むぽかぽか陽気に身を委ね、太陽の匂いのする毛布に包まって眠っていた。

ふかふかの毛布は、幼子がとても気に入っている寝床だった。
毎日、この毛布を引っ張って、転んで、包まって、遊んでいる。
時々取り上げられる事があって寂しい事もあるけれど、必ずその日の内に帰って来て、その時にはくしゃくしゃだった毛がふわふわになっていた。
今日はそのふわふわの日で、幼子は気持ち良さに包まれている内に、すやすや眠ってしまったのだ。

幼子の傍にいつでも一緒にいる兄は、今はいない。
この広くて優しい住処の何処かにいるのは知っているから、彼の姿が見えなくても、もう怯える事はない。
この優しい住処には、優しいものしかないと知っているから。

─────きぃ、と小さな音がして、小さな小さなドアが開く。
ドアの隙間からするりと滑り込んで来たのは、幼子よりも少し体の大きな兄。


すぅ すぅ すぅ


兄は、眠る幼子を見付けると、幼子に近付いた。
ゆっくり、ゆっくり、音を立てないように気を付けて。


すぅ すぅ すぅ


兄が直ぐ傍らまで来た時、幼子は変わらず、すやすやと寝息を立てている。
毛布の中で丸まった、小さな腹が、小さくふか、ふか、と動く。

そっと幼子の腹に頭を寄せて、兄は幼子の腹を舐めてやる。
ぴくっ、ぴくっ、と幼子の尻尾が動いて、心なしか嬉しそうに揺れた。
そんな幼子の反応が嬉しくて、兄の尻尾も嬉しそうに微かに揺れる。

腹に埋められた幼子の貌に頭を寄せて、小さな額を舐める。
ぴくん、と小さな耳が動いて、ぴょこっと兄の方を向いた。


んぅ……?


とろとろと瞼を持ち上げた幼子の、きれいなきれいな蒼色が、兄を映す。
それだけで、幼子はふんわりと嬉しそうな貌をして、兄の口元に頬を寄せた。


おかえりなさい、お兄ちゃん


嬉しそうな幼子の声と、眩しそうに笑う幼子の貌が、兄の心をぽかぽかと暖める。

毛布の中に包まった幼子を、自分の体で包み込むようにして、兄も丸くなる。
幼子はふわぁ、と小さな口で大きな欠伸をして、眠そうに目を細める。


んぅ……


うとうと、うとうと。
こっくり、こっくり。

小さな頭を上下に揺らす幼子に、兄はくすりと小さく笑う。
寝ていて良いぞと耳をくすぐれば、幼子はもぞもぞと身動ぎして、ころんと寝返りを一つ。
幼子は、兄の腹に顔を埋めて、丸くなった。


ふにゅ……ふふ


小さく笑う声が聞こえて、見て見ると、幼子がくすくすと笑っていた。
尻尾の先端がゆらゆらと嬉しそうに揺れて、兄の足元をくすぐる。


あのね、お布団ね、ふかふかしてて、あったかいんだよ
でもね、でもね、一番あったかいのはね、お兄ちゃんなんだよ
知ってた?


嬉しそうに、自信満々に言った幼子の言葉に、足元だけではなくて、胸の中もくすぐったくなった。
なんだか無性に照れ臭くて、それを誤魔化すように、幼子の耳元を舐めてやる。
くすぐったいよう、と幼子は言って、もっと、と言うように兄の腹に顔を埋める。

幼子はしばらく嬉しそうに兄にじゃれついていたけれど、程無く、静かになった。
自分の腹の上で、すやすやと穏やかな寝息を立てる幼子を見詰めた後、兄もゆっくりと目を閉じる。

それから少しの時間が経って、キィ、と大きなドアが開けられる。
幼子と兄と同じ、綺麗な蒼い瞳の生き物が、おやつの缶を持って来た所だった。
綺麗な蒼は、自分が名付けた幼子と兄の名前を呼ぼうとして、止める。


すぅ すぅ すぅ
くぅ くぅ くぅ


規則正しい、二つの寝息。
ぽかぽか柔らか陽気の中で、毛布にくるまって眠る子供達。
起こしちゃ可哀想だから、今日のおやつはもう少し後で。



お兄ちゃんが一番あったかい。

そう言った幼子に、一番あったかいのはお前だよ、と兄は思った。




2013/10/30

ペットショップで、仔猫が毛布に包まって気持ち良さそうに寝てたので。
その子は一匹だけだったのですが、仔猫スコにはやっぱりお兄ちゃんが欲しくなる。