重ねて溶け合う、熱鼓動


 スコールが風邪を引いた。
原因は、毎度の事とも言ってしまえる、ジタンとバッツによるものだ。

 犯人の両名は、昨日、スコールを連れて探索に向かった。
その先で空間の歪みから強制転移に遭遇し、何処かの世界の断片へと送られた。
其処には清浄な泉が滾々と湧き上がっており、疲労と傷を癒してくれたのだが、それだけで彼らは其処を立ち去ろうとはしなかった。
周囲が安全な場所である事もあり、しばし休息を取ろうと言う話になったのだが、決まるや否や、ジタンとバッツは泉で遊び出した。
スコールはそれを呆れながら眺めていたのだが、そんな彼を、ジタンとバッツが放って置く訳もない。
強引にスコールを泉の中に引っ張り込み、頭から足の爪先までずぶ濡れになった彼は、聖域の屋敷に戻るまでそのままで、結果、夜半に発熱を起こしたのである。
……事の原因であり、一緒にずぶ濡れになった二名は、けろっとした顔で朝を迎えていたが。

 現在、屋敷のキッチンでは、フリオニールがスコールの為に粥を作っている傍ら、ルーネスが薬を調合している。
薬の調合は、いつもならバッツの仕事───と言う程でもないのだが、彼の方が薬草等の知識は精通している────なのだが、そのバッツは今、リビングで正座している真っ最中だ。
その隣にはジタンの姿もあり、彼らの眼前には押し潰されそうな程のプレッシャーを放つウォーリア・オブ・ライトが立っていた。

 週に一度か二度は見られる光景に、懲りないな、とクラウドは思う。
それと全く同じ言葉が、隣から聞こえてきた。


「懲りないっスねえ、ジタンもバッツも。あとウォーリアも」


 注意したってどうせ無駄なのに、と言うティーダにセシルがそうだねえ、と苦笑し、それはお前も同じだろう、とクラウドは胸中で呟いた。
あの正座組にティーダが加わるのは、まま見られる光景である。

 彼らが今の状態になってから、かれこれ30分は経っただろうか。
ジタンとバッツの眉が辛そうに潜められ、唇も何かを耐えるように端を噛んでぴくぴくと震えている。
戦士としての心構えを説くウォーリアの声は、殆ど聞こえていないだろう。

 そろそろ限界か、とクラウドが思って数秒後、バッツが勢いよく手を上げた。


「すいません!もう許して!足痛い!」
「オレももう無理です!ごめんなさい!もうしませんから許して下さい!」


 ごめんなさいいいいいい!と解放を懇願する二人だったが、ウォーリアは頑としたもので、


「三日前に同じ言葉を聞いたばかりだ。君達はもう少し、言葉の重みと言うものを知るべきだ。何より謝るべきは私ではなく、スコールに対してだろう。そもそも君達は……」


 もう勘弁して!と涙を流す二人だが、屹然とした勇者がそれを気に留める事はなかった。
後一時間追加、と言った所だろうか。

 キッチンからトレイに一人分の小さな鍋と薬を乗せたフリオニールが顔を出した。


「すまないが、誰かスコールに持って行ってくれないか?」
「俺が行こう」


 直ぐにクラウドが腰を上げた。
頼むよ、と差し出されたトレイを受け取ると、ティーダが鍋の蓋を開けて中を覗き込む。


「うわっ、芋粥!美味そう!」
「こら、ティーダ」
「いいなー、俺も食いたい。フリオ、俺もお粥食べたいっス」


 じゃれつくティーダに、判った判った、と苦笑しながら、フリオニールはキッチンに戻って行く。
はしゃぐティーダの声がキッチンから聞こえ、片付けをしていたのだろうルーネスの「煩い!」と一喝する声が聞こえた。

 クラウドがリビングを出てスコールの部屋に向かおうとすると、丁度階段を降りて来たティナと鉢合わせた。
ティナの手には水を張った桶がある。

 ティナはクラウドと目を合わせると、彼の手にあるトレイを見て、


「それ、スコールのご飯?」
「食べられそうか?」
「大丈夫だと思う。朝よりは熱も下がってるし。水、温くなってたから、取り替えてまた持って行くね。スコールの事、お願い」
「ああ」


 擦れ違って階段を上がり、スコールの部屋の前まで来ると、軽くノックをする。
返事はなかったが、入るぞ、と一言断りを入れて、クラウドはドアを押した。

 雑多なもので溢れ返るクラウドの部屋と違い、スコールの部屋は物が少なく、少々殺風景な印象がある。
その中で一人、ベッドで包まっている少年の下へ近付くと、青灰色がちらりとクラウドを見た。


「あんたか……」
「食事だ。食えるか?」
「なんとか……」


 スコールがのろのろと起き上がる。
額に乗せられていたタオルが落ちたのを、クラウドが拾ってサイドボードに置いた。
背中にクッションを当てて凭れかかるスコールは、白い頬が紅潮し、額にはじっとりと汗が滲んでいる。
零れる吐息も熱を孕んでいて、クラウドは思わず────いやそんな場合じゃないだろう、と頭を振る。

 突然頭を振ったクラウドに、どうした?とスコールが首を傾げる。
熱の所為だろうか、いつもよりも仕草が酷く幼いような気がする。
可愛らしいものではあったが、食事を採らせたらもう一度寝かせた方が良いな、とクラウドは思った。


「フリオニールが作った粥だ。薬はルーが調合した。ちゃんと飲めよ」
「…ああ……」


 トレイをスコールの膝上に乗せる。
もそもそと食べ始めるスコールを見て、食欲があるなら大丈夫か、とクラウドは呟く。

 コンコン、とドアをノックする音が聞こえ、クラウドは腰を上げた。
ドアを開けると、ティナが水を張った桶と、新しいタオルを持って立っている。


「スコール、ご飯食べてる?」
「ああ。後は俺がやろう。ティナ、昼飯がまだだろう?」
「じゃあ……うん、お言葉に甘えるね。スコール、ゆっくり休んでね」
「……ん……」


 少しぼんやりとした声ではあったが、返事が返って来た事が嬉しかったのだろう、ティナは花のような笑顔を浮かべて、じゃあね、と踵を返した。
ぱたぱたと駆けて行くティナを見送ってから、ドアを閉める。

 受け取った桶を持ってベッド傍に戻ると、スコールの粥は三分の二になっている。
まだ食べる気はあるようで、相変わらずゆっくりと、スコールはスプーンを口元に運んでいる。
クラウドは、そうして上下する彼の喉元に、滲んだ汗が玉になっている事に気付いた。


「食べたら着替えるか。汗、気持ち悪いだろ」
「……ああ……」
「一人で着替えられるか?」
「……ん……」
「………」


 なんとも微妙な反応しか返って来ないのを見て、クラウドは眉根を寄せる。
熱の所為なのか、単純に寝惚けているのか。

 一言断りを入れて、クラウドは部屋のチェストを開ける。
柄物のないシンプルな衣類ばかりの中で、一番手前にあるシャツを取り出す。
下着も代えさせた方が良いだろう。
一通りのものを取り出して、クラウドはベッドに戻る。

 粥が半分になった所で、スコールの手は止まった。


「もういいのか?」
「……ん」


 返す、と差し出されたトレイを受け取って、サイドボードに置く。
薬と水を注いだコップを渡すと、スコールは躊躇いなくそれを口に含んだ。
一気に飲み込んだ後、苦かったのか、飲み方に失敗して口の中に残ったか、思い切り眉間に皺が寄る。

 さて着替えさせるか、とクラウドが思った矢先、ころん、とスコールはベッドに横になった。


「辛いか?」
「……ん……」
「気持ちは判るが、寝るなら着替えてからにしろ。汗も拭かないと」
「……いい……めんどくさ……」
「悪化するぞ」
「………」


 スコールは無言でシーツを引っ張り上げ、蓑虫になってしまう。
そのまま寝てしまおうとするスコールに、クラウドは一つ溜息を吐いて、シーツを力任せに奪い取った。


「うー……」
「ほら、脱げ。終わったら寝ていいから」
「後でいい……」
「駄目だ」
「煩い…もうほっといてくれ……」


 完全に駄々を捏ねる子供と化したスコールの姿は、常とのギャップもあって可愛らしさがあるのだが、それ以上に手がかかる。
ああもう、とクラウドは愚痴めいた言葉を漏らした後、スコールのシャツに手をかけた。


「腕上げろ、スコール」
「…やだ、めんどう……」
「全く……」


 なんでも自分で出来る、とばかりに他者の手を借りようとしないスコールの、滅多に見ない我儘な姿。
貴重な物を見た、と思う気持ちもなくはないが、出来れば平時に見たい姿である。
いや、今だからこそ見られらのかも知れないが。

 シャツをたくし上げて、万歳、と促すと、渋々と言う様子でスコールはベッドの上で腕を持ち上げる。
少々強引にシャツを脱がせれば、細く白い肢体が露わになった。
熱の所為で汗ばんだ肌が、皺だらけのシーツの波の中に沈む姿は、何処か淫靡なものを匂わせる。


(……いやいや。相手は病人だろう。まずいだろ、そんな事考えたら)


 幾ら“恋人”と呼べる関係であるとは言え、弱っている相手に欲情してはいけない。
ティナにも頼まれた事だし(そもそも自分が言い出したのだし)、今はスコールの回復の助けを勤めるべきだ。

 ………と、頭では思っているのだが、人間の欲望と言うものは甚だしつこいものである。


「ん……」


 鼻にかかった声が聞こえた。
スコールは汗ばんだ肌が外気に晒されて寒さを感じだのだろう、裸身のまま、もぞもぞと丸くなる。
ぎゅう、とベッドシーツを握って、赤らんだ頬に熱の篭った吐息を零すスコールの姿は、夜の褥で見せる姿とよく似ていた。

 クラウドは、己の下半身に熱が篭るのを自覚した。


「……クラウド、寒い……」
「あ、ああ」


 スコールの声に我を取り戻して、クラウドは慌ててサイドボードに置いていた新しいタオルを取った。
水に濡らしてよく絞り、汗ばんだスコールの肌に乗せる。
冷えたタオルが触れると、ぴくん、とスコールの身体が小さく震えた。


「ん……」
「すぐ済む」
「……ん」


 クラウドの言葉を聞いて、スコールは身を委ねるように体から力を抜いた。

 もう何度も見た筈なのに、何度も重ねた筈なのに。
改めて無防備に差し出される身体に、クラウドは、場を弁えない己の本能を殴り飛ばしたくなった。
しかしそれ以上に、布越しに触れた恋人の肢体の魅力が鮮やか過ぎて。

 眠るように目を閉じているスコールの顔に、そっと己の顔を近付ける。
触れそうな程に近付いた時、落ちた金糸がスコールの頬をくすぐって、ぱちり、と瞼が持ち上がって、青灰色がクラウドを映す。


「……何、してるんだ?」
「…………いや」


 なんでもない。
そう言って顔を離そうとして、出来なかった。


「スコール?」


 クラウドの胸元を掴む手がある。
まるで離れて行く事を嫌うように。

 こつん、とクラウドはスコールの額に己のそれを押し付けた。


「どうした?」
「………」
「うん?」


 至近距離で見詰める碧眼から、スコールが目を逸らす。
人の目を見て話すのが苦手なスコールは、覗き込まれると直ぐに視線を逸らす癖がある。
それでもクラウドが目を合わせようとすると、スコールはまた目を逸らし、しかし、胸元を掴む手は離れない。

 頬に口付けてやると、スコールはくすぐったがる猫のように片目を閉じる。
唇を放して笑いかけてやれば、熱とは別の意味で赤らんだ顔で睨まれた。


「誘ったのはお前だろう?」
「……先に発情したのは、あんただ」
「仕方ないだろ」


 汗ばんだ肌、赤らんだ顔、熱の篭る吐息。
それらをクラウドが聞いていたのは、いつも肌を重ね合わせていた時の事。
どうしたって連想してしまう。


「病人の癖に、誘うなよ。悪化しても知らないぞ」
「…病人相手に欲情した奴に言われたくない」


 ご最も、と呟いて、クラウドはスコールの額の傷にキスをする。

 クラウドの厚みのある手が、スコールの汗ばんだ胸を撫でた。
ぴくん、とスコールの身体が素直な反応を示す。


「んっ……」
「…体、熱いな」
「…当たり前だろ…」


 熱があるんだから、と呟くスコールに、そうだったな、とクラウドが小さく笑みを浮かべる。


「……っ……」


 クラウドの指先が赤い蕾を押すと、スコールの喉から殺した息が零れ落ちる。
遊ぶように指先で突いた後、親指と人差し指で摘まんで転がせば、スコールの手がベッドシーツを強く握る。


「声、我慢しなくて良いぞ。ティナも皆も、しばらくは戻って来ないだろうし」
「そん、なの…っ、ん、……!」


 保証がないし、特にジタンやバッツは、いつも予告も何もなく飛び込んでくる。
見られてしまったら時の事を考えると、スコールは今直ぐにでも死んでしまいたい気分になる。

 だが、だからと言ってクラウドが行為を止められる訳もない。
スコールのくっきりと浮き出た鎖骨に舌を這わせて、ゆっくりと下へと下りて行く。
程なく辿り付いた蕾を口に含めば、ねっとりとした熱の感触に、スコールが息を飲んだのが判った。


「ふ、んん……っ」


 軽く歯を立てれば、また細い体が跳ねる。
ちゅう、と音を立てて吸い付くと、スコールはぎゅっとベッドシーツを握って背を丸めた。


「あ、う……、んんっ!」
「いつもより敏感だな」


 乳首の先端を舌先でぐりぐりと押しながら言えば、かかる吐息も快感になるのか、スコールの唇から零れる声が高くなったのが聞こえた。


「やあ……っ」
「ほら、こっちも」
「ひんっ」


 空いていた反対側の乳首を指で摘まんで転がす。
いやいやするようにスコールが頭を振ったが、クラウドは構わず、乳首を攻め続けた。


「ん、ん…!ぅ……やっ、あ、」


 びくっ、びくっ、と繰り返しスコールの身体が跳ねて、クラウドの目を楽しませる。
自分の手で恋人が感じてくれる事、悦んでいる事が嬉しくない訳がない。

 シーツを蹴る音がして、もぞもぞとスコールが下肢を悶えさせていた。
クラウドは乳首を弄っていた手を滑らせて、薄い腹筋を撫で、ボトムスの中へと潜らせる。
触れたスコールの中心部は、大きく膨らんで張り詰めている。


「辛そうだな」


 囁いてやれば、スコールが赤い顔で睨む。
しかし、掌全体で雄を包んで上下に扱いてやれば、呆気なくそれも蕩けてしまった。


「ふあ、あ……ん、や、あっ」
「ほら、もうイきそうだろ?」
「ん、ん、あう、あっ…ひ、や……あ、やぁ…ぅ」


 違う、とでも言いたげに首を横に振るスコールだが、まるで説得力がない。
立てた膝が耐えるように震えて、シーツを握っていた手がクラウドの首に絡み、縋り付く。


「ふ、クラウド、…ん、脱がせ、て」


 このまま射精すれば、下着の内側がどろどろになってしまう。
その気持ち悪さを嫌ったのだろうスコールの言葉に、どうするかな、とクラウドは意地悪く考えた。


「どうせこの後着替えるんだ。気にするな」
「や……あっあっ、や、んぁあっ!」


 手淫を激しくさせると、スコールは幾らも絶えない内に、甲高い声を上げて絶頂を迎えた。

 クラウドがボトムスから手を引き抜いて見れば、どろりとした白濁液が纏わりついている。
荒い呼吸を繰り返すスコールの口元に、それを押しつけてやれば、スコールは悦の篭った表情で舌を伸ばす。
舌先に指を触れさせれば、絡みついた蜜液を舐め取るように、ねっとりと舌が這った。


「んぁ……」


 丹念に指を舐めるスコールの表情は、すっかり熱に溺れてしまったようで、理性は遥か彼方。
仲間達に知られまいと声を殺そうとしていた事など、すっかり頭から抜け落ちているに違いない。

 クラウドは、指に絡みつく物が蜜液と唾液と交じり合っているのを見て、スコールの口元からそれを離した。
下肢のズボンを汚れていない片手で脱がせようとすると、スコール自らが腰を浮かせる。
下着ごとズボンを引き下ろして脱がせると、自身の蜜液に汚れた秘部が露わになった。


「足、開け」


 そう言うと、いつも恥ずかしがるように唇を噛んで睨むスコールだったが、風邪の熱で思考力も低下しているのだろう。
クラウドに言われるがまま、足を開いて濡れそぼった淫部を曝け出す。

 先に待つ快感を欲しがるように、スコールの秘部口がヒクヒクと疼いている。
其処へ指を這わして形をなぞれば、切なげな声が漏れて聞こえた。


「んぁ……あ、う…ふぅん…っ!」
「物欲しそうにしてるぞ…?」
「う、や……クラ、ウドぉ……」


 甘えるように縋り付いて来る恋人に、クラウドは気を良くして笑みを零す。
つぷん、と指を挿入してやれば、スコールは甘い声を上げて背を反らせた。


「やぁっん!」


 ぎゅう、と縋る腕を好きにさせて、クラウドは挿入した指を奥へと進めて行く。


「ん、う……痛、い……んんっ」
「そうは言ってもな……」
「ひんっ!」


 クラウドが指を引き抜こうとすると、それを敏感に感じ取った淫部が締め付け、留めようとする。


「此処はもっとって言ってるぞ」


 耳元で低い声で囁けば、より一層、締め付けが強くなる。
鼓膜すら性感帯になってしまったスコールの反応は、何処までもクラウドを愉しませてくれる。

 二本目の指を挿入すると、強い抵抗感に遭ったが、内壁を爪先で擦ってやると、皮肉は直ぐに悦びに震えた。


「あっ、んあっ、ああぁっ…!」
「此処、好きだろう?」


 壁越しに膨らみのある場所を指の先で押せば、ビクン、とスコールの身体が跳ねて、目を瞠る。


「…あっ…あ、……!」


 まるで電流が体を駆け抜けたかのように、スコールは声にならない音で喘ぐ。
そんな反応に気を良くして、クラウドは繰り返し、同じ場所を刺激してやった。


「ひっ、ひんっ、あんっ……!や、クラウド…、そこ、ばっかり…っ!」


 強い快感に耐え兼ねるように、スコールはクラウドに縋り付いて、肩口に顔を埋める。
耳元で聞こえる喘ぎ声に、クラウドも我知らず呼吸が上がって行く。


「は、あ、……んんっ!」
「スコール……可愛いな、あんた…」
「ひっ、かわ、く、ない……んあっ!」


 縋る恋人に素直に思った事を口にすれば、そんな言葉が帰って来る。
けれど、赤らんだ顔で縋って来る姿は、やはり可愛いと思う。

 埋めた二本の指で内部を広げると、ひくひくと皮肉が震えたのが判った。


「ん…、クラウドぉ……」


 甘えるように名を呼ぶ唇に、キスをする。
舌を滑り込ませれば、直ぐにスコールのそれが絡みついて来た。

 口付けをそのままに、クラウドはゆっくりと、淫部を指で広げながら引き抜いて行く。
内壁を擦られる感覚に、スコールの太腿がピクッピクッと痙攣するのが判った。
指が全て抜かれると、甘い切なさがスコールの躯を蝕み始める。


「ん、ふ……んん……」


 キスで呼吸を奪われたままのスコールから、もどかしそうな声が漏れて、躯がクラウドの腰に押し付けられる。
クラウドが自身の下肢を寛げれば、膨らんで反り返った雄が露わになる。

 細い足を肩に担いで、クラウドはスコールの秘部に怒張した己を宛がった。
先端が口に触れると、スコールはむずむずとした感覚が昇って来るのを感じて、先を促すように腰を揺らす。
早く、と音なく急かす青灰色を見て、クラウドはゆっくりと腰を進めた。


「ひう、んっ…くぅうううっ……!おっき…ぃ…!」


 クラウドの首に廻された腕が、目一杯の力でしがみ付いて来る。


「く……」
「あ、は……ふあっ…!」


 出来るだけ呼吸を詰めないように意識するスコールだったが、中々思うようには行かない。
圧迫感への抵抗で、スコールの秘部は強く締まり、クラウドの雄に痛い程絡みついている。
クラウドはそれをあやす様に、スコールを抱き寄せてキスを施してやる。


「ん、ふ……クラ、ウ、」
「いいか?」
「…ん……」


 スコールの躯から強張りが解けて行くのを待って、クラウドは律動を始める。
くちゅ、ぐちゅ、と言う濡れた音と、ベッドのスプリングが軋む音が、静かな部屋の中に反響した。


「んっ、あっ、…んんっ!」


 内壁が拡げられ、擦られる感覚に、スコールは頭の芯が痺れていくのを感じていた。
圧迫感から来る苦しさが消えていくに連れると、次に体中を占めて来るのは怖い程の充足感。

 少しずつ早くなって行く律動に合わせ、二人の呼吸も早くなって行く。
突き上げる深さが奥へ奥へと進んで行く度、スコールの口からはあられもない声が漏れた。


「あっ、んあ、…あっ…あっ、は、う…」
「大丈夫、か…?スコール……」


 ぼんやりとした青灰色を見下ろして、クラウドは今更ながら、スコールが病人である事を思い出した。
普段ならば滅多に見られない、殊更に甘えてくるような仕草も、きっとその所為だったのだろう。

 心配するように問うクラウドに、スコールは答えられない。
最早、クラウドの言葉が聞こえているのかどうかも怪しい状態で、与えられる快感だけを追い駆けているのが精一杯だった。
何か言葉を紡ごうと、恋人の名前を呼ぼうとしても、秘奥を突き上げられれば、音は直ぐに嬌声に飲まれてしまう。

 ぐちゅ、ぬりゅ、ぐちゅ……と繰り返される淫靡な音。
性感帯になった鼓膜がそれを拾って、スコールは脳髄まで犯されていくのを感じていた。


「あ、はっ、あん……あっ!ふあ…、クラ、あ、あ、あ、」
「スコール、スコールっ……!」


 もっと奥へ、もっと奥へ。
そう欲しがるように、スコールの内壁はクラウドを締め付けて離そうとしない。
クラウドはそれを振り切って、更に奥へと雄を突き上げる。

 クラウドの雄が、膨らみのある内壁を突き上げた。
びくん、とスコールの躯が仰け反り、白い喉が露わになって、クラウドは其処に舌を這わす。
ひくひくと痙攣する躯に構わず、クラウドは激しく腰を動かして、同じ場所を何度も突き上げた。


「ひっ、ひん、あっ、んう……っ!そこ、や…だめ、だめ、」
「駄目じゃないだろ。気持ちいい、だろ?」
「ひ、だめ、あ、んあっ!きもち、い…だめ、や、ん…っ、頭、変になる…から、…あっあっ、ひっ、あぁっ!」


 揺さぶられるまま、スコールは悩ましい声をあげて感度を上げていく。
限界まで押し広げられた脚の狭間で、スコールの雄はすっかり膨らみ、突き上げられる度に先走りの蜜を溢れさせていた。


「や、イく、イく…!もう、無理……ひっ、んんんんっ!!」


 ビクッビクッ、と一際大きく躯を波打たせ、スコールは二度目の絶頂を迎えた。
吐き出された蜜液がスコールの白い肌を汚し、シーツに落ちて汚す。

 同時にスコールの秘部が強く閉じ、クラウドの雄を締め付ける。
それがクラウドの限界だった。


「くぅっ……!」
「あっ、あぁあぁぁ……!入って…ひ、んあ、クラウドの…入って来るぅう…っ!」


 クラウドの熱の奔流が流れ込んでくるのを感じて、スコールは光悦とした表情でそれを甘受する。
雄を咥え込んだままの秘部までもが、まるで悦ぶように痙攣してクラウド自身を締め付け、あらん限りの欲望を搾り取ろうとしているかのようだった。

 恋人の熱を注ぎ込まれたスコールの表情は、すっかり愉悦に染まり、それを見たクラウドの口元に、意地の悪い笑みが浮かぶ。


「……もっと?」


 寝なきゃ駄目だろ、病人なんだから。
そんな事を思いながら問いかければ、返事の代わりに、甘いキスが返って来た。




 フリオニールがスコールの部屋に夕飯を運んできた時には、スコールの熱はすっかり下がっていた。
まだ微熱程度に残ってはいるものの、昨晩から今朝にかけて続いていた高熱に比べれば、遥かに良くなっている。
意識も明瞭としているし、ベッドに座って本を読んでいられる程に回復していた。


「良かったな、長引かなくて」


 昼から置きっぱなしにしていたトレイと、持ってきた夕飯を取り換えて、フリオニールは言った。
それに対し、ああ、と頷いたのは、ベッドサイドに椅子を寄せて腰掛けているクラウドだ。


「クラウドが看病していてくれたんだよな」
「まあ……そうだな」
「悪かったな、任せきりにしてしまって」
「いや、構わない」


 クラウドの言葉に、そうか、とフリオニールは素直に笑ってから、本を読んでいるスコールを見た。


「夕飯、また粥にしたんだけど、足りるかな」
「……十分だ。そこ、置いておいてくれ」
「ああ。薬もあるから、ちゃんと飲めよ」
「……判ってる」


 意識を本に集中しているのだろう、スコールの返事はずっと遅れ気味だ。
しかし、それだけ元気なら十分だ、とフリオニールは満足した様子で部屋を出て行く。


「じゃあクラウド、もう少しだけ頼む」
「ああ。この際、明日まで俺が引き受けてもいいぞ」
「そうか?じゃあ、頼もうかな。ジタンとバッツが看病したがってるけど」
「あの二人じゃ、また悪化させるのがオチだろう」


 真面目に看病をするなら、ジタンはよく気が回るし、バッツも知識が豊富なので、大いに頼りになる。
しかし、今回のスコールの風の原因は彼らである。
無論、彼らに悪気はないのだが、ついついハメを外してしまうのが、あの二人のパターンだ。

 クラウドの言葉に、フリオニールがくすくすと笑う。


「それもそうだ。まあ、今はウォーリアが目を光らせてるから、暫くは静かだろうな。じゃ、クラウド。頼んだぞ」
「ああ」


 ひらひらと手を振ったクラウドを見て、フリオニールはドアを閉めた。

 クラウドは、ベッドの上で本を読んでいるスコールに向き直る。
眉間に深い皺を刻んでいるスコールだが、もうその白い肌は赤らんではおらず、汗も滲んではいない。


「良かったな」


 言うと、青灰色だけがクラウドの方を見た。


「熱、下がって」
「………」
「怒るなよ。俺のお陰だろう?」


 判り易く口端を上げてそう言うと、スコールは眉間の皺を深くして、手に持っていた本を無言で投げつけた。
すっと体を傾ければ、投げられた本はクラウドの後ろの壁に当たって床に落ちる。


「あんたの所為であちこち痛いんだ!」


 腰とか背中とか、喉とか。
何度も繰り返された情交の所為で、スコールの躯は、風邪とは別の理由でボロボロだ。
それをフリオニールに気付かれたくなくて───引いてはその原因にも───、スコールはずっと動かず、黙っていたのである。

 怒り心頭のスコールは、出来る事なら、本を投げるだけでなく、直接殴ってやりたい気分だった。
しかし、今の姿勢から少し動くだけでも、腰が痛みで悲鳴を上げる。
結局スコールが出来る事と言ったら、子供が駄々を捏ねるような八つ当たり程度のものだった。

 クラウドは、床に落ちた本を拾って、スコールに差し出した。
スコールは引っ手繰るようにそれを掴んで、ベッドに寝転がる。


「最悪だ」
「そうか。悪かったな」
「……そんな事、一つも思ってない癖に」
「…そうだな」


 クラウドがベッドサイドに腰を下ろせば、ぎしり、とスプリングの鳴る音。
背中を向けて丸くなるスコールに手を伸ばし、ダークブラウンの柔らかな髪を手櫛で梳いた。


「でも、寂しくなくなっただろう?」


 囁くと、スコールはその言葉から隠れるかのように、布団を引っ張って頭から潜り込んでしまったのだった。




風邪っぴきスコールで、らぶエロ。
体調不良と熱でちょっと甘えたになるスコールって可愛いと思う。