ドント・イマジン・モア・ミーニング
『ドント・セパレート・フロム・ミー』の続き


 仕事を終えたタークスのメンバーが神羅ビルに戻って来たのは、太陽が西の空に沈んでからだった。
それでも、一人で退屈を持て余していたであろうスコール為にと、予定をかなり前倒しに片付けて来た方だ。

 任務を終え、スコールが淹れたコーヒーを飲みながら報告書を書き終えて、タークスの面々はようやく夕飯に有り付く事が出来た。
ビル内のデリバリーを頼み、食堂から『総務部調査課』の部室まで運ばれてきた食事に舌鼓を打つ。
────タークスの面々が、スコールがいつもと少し様子が違う事に気付いたのは、その時だった。


「スコール、何か良い事でもあった?」


 パスタをフォークに巻きながらシスネが訊ねると、スコールはきょとんとした表情を浮かべた。
何が?と逆に無言で尋ねて来るスコールに、シスネはくすくすと笑いながら言う。


「だって、なんだか嬉しそうだから」


 シスネの言葉に、スコールの白い頬が微かに赤らんだ。
どうやら、自分が機嫌が良い事を自覚しているらしい───と言う事は、シスネの言う通り、“良い事があった”と言う証明でもあった。

 そんなスコールの手に、今朝仕事に向かう前には見なかったものがある事に気付いたのは、レノだ。


「それ、どうした?」
「……?」
「指」


 “それ”が何であるのか判らず、首を傾げたスコールに、レノは改めて言った。
シスネ、ルード、ツォンの視線がスコールの手に集まり、銀光を見付ける。


「あら。これ、どうしたの」


 シスネの伸ばした手が、スコールの左手を取る。
食べ終わったら巻き直そうね、と先程言っていた包帯の上に、真新しい光を称えた銀色のリングがあった。

 スコールは慌ててシスネの手を振り払うと、その手を───リングを隠すように、体の後ろに回してしまう。
赤くなっている少年を見て、シスネはくすくすと笑った。


「明日、買ってあげるって言ったのに。我慢できなくて買いに行っちゃったの?」
「い、う…いや……」
「んー?どれどれ、ちょっと見せてみろ、と」


 シスネの言葉に、スコールが返事を詰まらせていると、いつの間にかレノが傍に来ていた。
レノは隠していたスコールの手を取ると、その指に嵌められたリングをまじまじと見つめる。


「おっ。これ、前にお姫様が欲しいって言ってた奴だぞ、と」
「やっぱり我慢できなかったんだ」
「違う……」
「…ん?これって確か、限定品で、買えなくて諦めてた奴じゃなかったか?と」


 レノの言葉に、ルードが顔を上げる。
レノはスコールの手を掲げて、ルードに指輪を見せた。
ルードは遠目にじっと指輪を見詰め、


「……ああ。そうだな」


 タークスメンバーは、スコールがこの個数限定で生産された指輪を買えず、長い間悔しがっていた事をよく覚えていた。
事前予約も受け付けていたのだが、色々と不運が重なって、直営店に買いに行くしか手段がなくなり、スコールはかなり気合を入れて購入に行くつもりでいた。
しかし、緊急に回された任務の為に、それも叶わなかった。
任務なのだから仕方がない、とスコール自身言っていたが、相当気に入ったデザインで、買いに行く為の算段まで立てていたので、手に入れられないと知った時のショックは大きかった。

 結局、指輪は任務に行っている間に完売した。
代わりにと、スコールがそれ以前に欲しがっていたピアスをツォンが買って贈ったが、保護者と上司の気遣いは有難くも、やはり欲しかった指輪の代わりには出来ず。
暫く、自分のデスクに突っ伏して蹲り、判り易く落ち込むスコールの姿が見られていた。


「中古…じゃないな。新品みたいだ、と」
「よく似た偽物、でもないわね。ちゃんとブランドの刻印もあるし」


 シスネとレノは、スコールの手を握ったまま、まじまじと指輪を眺めている。
自分の指へと熱烈に注がれる視線に、スコールは酷く落ち着かなかった。


「……もういいだろ、二人とも」
「あら。ごめん、ごめん」


 真っ赤になって二人の手を振り払ったスコールに、シスネは笑いながら謝った。
じろりと睨む弟分の少年を宥めるように、レノがくしゃくしゃと頭を撫でる。

 スコールは指輪を嵌めた手を、反対の手で隠すように包んだ。
そっと隙間を開けて覗き込めば、きらり、と手の中で銀色が閃く。
それを見つめる少年の横顔は、とても穏やかなもので、それを見たシスネとレノは、顔を見合わせて小さく笑う。


「本当に良かったわね、スコール。欲しかった指輪が買えて」
「それにしても、珍しい事もあるもんだな、と。お姫様が一人でビルの外に出るなんて、明日は雨かも知れないぞ、と」
「ビルの外って……ネットショップで見付けたんじゃないの?」
「ネットショップで買ったのなら、今日には届いてないぞ、と。注文したのが昨日や一昨日なら、そわそわして待ってた筈だからな。だから、外の店で買ったんだろうと思ったんだ、と」
「あ、そっか。そうね」


 レノの言葉に、シスネは納得して頷いた。


「一人で外に出れたのね、スコール。大丈夫だった?変な人に声をかけられたりしなかった?」
「え……」


 シスネの言葉に、スコールははっと我に返り、赤い顔で俯く。
そんなスコールに、シスネとレノは何かあったのか、と心配する表情を浮かべるが、


「そう言うのは、ない。……一人じゃなかったから」


 もごもごと口籠りながら言うスコール。

 一人じゃなかったと言う事は、誰かがスコールと一緒にいたと言う事だ。
スコールが気を許す人間は、非常に少ない。
タークスのメンバーは、今日はスコールを除く全員が任務に出ていたので、他の“誰か”になる。
人見知りが激しく、警戒心の強いスコールが、一緒にビルの外に出て買い物に行く相手となれば、相当親しい相手に限られる。

 シスネ、レノ、ルード、ツォンの脳裏には、同時に一人の青年の顔が浮かんでいた。
スコールが一緒に行動する事に抵抗感のない相手と言ったら、彼しかいない。
もっと言えば、タークスメンバー以外でスコールが素の自分自身を曝け出せるのは、彼の前でのみ。


「ザックス・フェアか」


 言い当てたのはツォンだった。
スコールは、何故判ったのだろう、と言う表情でツォンを見る。
スコールと言う人間を知る面々から見れば、判って当然の事なのだが、本人はそうは思っていないのだ。


「そう。ザックスと一緒だったのなら、心配は要らなかったわね」
「この指輪を見付けたのもザックスか?」
「見付けたのは、俺。ショッピングモールに、偶々、置いてる店があって、それで……」
「衝動買いした、と」


 レノの言葉に、スコールはふるふると首を横に振った。
おや、とレノがその反応を意外に思っていると、


「……ザックスが、…買って、くれた……」


 頬を赤らめて、小さな声で呟いたスコール。
俺は良いって言ったのに、と更に小さな声で付け加えた。

 仮に今日、ザックスがいなかったとしても、見付けてしまった以上、自分で衝動買いしていたであろう事は予想がつく。
親しいとは言え、身内とは違うザックスに強請るのは気が引けて、明日になればシスネに購入を頼む事も出来ると思っていたが、それまで、指輪は果たして待っていてくれるだろうか。
若しかしたら、自分が立ち去った後で、同じようにこの指輪を見付けた誰かが買ってしまうかも知れない。
そうなったら、もう二度とこの指輪には出会えないだろう。
一度は止む無く諦めたスコールにとって、今日のこの指輪との出会いは、まるで運命付けられていたのではないかと思う程の奇跡────そんな風に思う程、スコールはこの指輪が欲しかったのだ。

 そんなスコールの渦巻く胸中の葛藤を、ザックスが知っていた訳もなく。
ただほんの少し嫌な思いをさせてしまったお詫びだと言って、彼は指輪を買ってくれた。


「ザックスが?」
「……ん」
「スコールにプレゼントしてくれたの?」
「…そういう事じゃ、ないけど…」


 プレゼント等と言う洒落た物ではない、とスコールは思うが、結果としてはそれと同じだろう。
スコールは、指に嵌めたままの銀光を見下ろして、薄らと頬を赤らめた。
そんな自分に気付いて、何故自分は赤くなっているのだろう、と表情を変えないまま、頭の中はパニックを起こす。

 ヒュウ、と口笛の音が鳴った。
レノである。


「プレゼントに指輪。中々やるじゃないか、と」
「だから、そう言うのじゃないって言ってる」
「まあまあ。良いじゃない。嬉しかったんでしょ?」
「それは……」


 嬉しくなかった訳ではない、寧ろ凄く嬉しかった。
だがそれは、欲しかったものが思わぬ所で手に入ったからであって、ザックスがプレゼント云々は関係ない。
────と、スコールは思っているのだが、何故かそれを口にする事が出来なかった。

 むぅ、と拗ねたように口を噤んだスコールに、レノがくつくつと笑って、剥れた少年の顔を覗き込む。


「なあ、お姫様。その指輪、ただのプレゼントだと思うか?と」
「……?」


 にやにやと笑みを交えて言うレノの意図が汲めず、スコールはことんと首を傾げた。
だから、と言ってレノはスコールの左手を取り、リングを嵌めた指───薬指を指して、


「男が女に指輪を贈って、それも薬指だ。それでただのプレゼント、なんて事があるのか?まあ、お姫様は女じゃないけどな、と」


 ザックスがスコールの事を女だと勘違いしている事は、タークスの全員が知っている。
その所為で、ザックスの“休暇”の時や、その後の二人の間のぎこちなさ等と言った色々なトラブルが起きたりもしているのだが、タークスの面々はそれも含め、二人の様子をのんびりと見守っていた。
だから、ザックスがスコールの事を(勘違いもあるとは言え)大切にしてくれている事も知っているし、スコールがザックスに対して(本人は自覚していないが)周囲とは違う特殊な感情を抱きつつある事も気付いている。

 そんな二人が、一緒に買い物に出かけて、ザックスからスコールに指輪のプレゼント。
ザックスの勘違いに基づいて言えば、これは男女がデートをして、男から女に特別なプレゼントを贈った、とも言える。
最も、ザックスはレノやシスネがスコールの事で揶揄う度、「子供に手を出す趣味はない!」と豪語しているのだが。

 スコールは、薬指に通された指輪を見て、ぱちりと瞬きを一回、二回。
左手の薬指に、指輪────それが俗になんと呼ばれるのか、何を示すものか、判らない訳ではなく。


「…ばっ……馬鹿か!変な事言うな!」
「おっと」


 スコールの白い肌が、まるで茹でたか沸騰したかと言う程に真っ赤になる。
兄代わりの言葉の意味を理解すると同時に落ちて来た拳を、レノは素早く逃げて避ける。


「じゃあどうして、そんな所に指輪してるんだ?と」
「こっ…これは偶々だ!中指だとサイズが少し合わなくて、こっちの方が合うから…」
「右手でも良いだろ、と」
「利き手にこんなものしてたら邪魔になる!」


 レノの言葉に、反発するように声を荒げて答えるスコール。
その形相が必死さを増していく毎に、レノはくつくつと楽しそうに笑った。
揶揄われているのは明らかなのだが、スコールの沸騰した頭ではそれを冷静に受け止める余裕はなく、只管深い理由はないのだと叫ぶ。
その様子は、まるで自分自身に言い聞かせているようにも見える。

 そのまま沸騰し切って憤死してしまうのではないかと思う程興奮して行くスコールを宥めたのは、シスネだった。
レノに噛み付かんばかりに眦を吊り上げるスコールの肩を押し留め、どうどう、と頭を撫でて落ち着かせてやる。


「判ってる、判ってる。レノが言ってるのは冗談よ。本気にしなくて良いの」
「性質が悪すぎる!」
「……俺から言って置こう」
「ルードじゃ絶対聞かない。ツォンさん!」


 同僚からの注意程度で、レノが態度を改めない事を、スコールはよくよく知っていた。
だから、スコールがルードと共に「“お姫様”と呼ぶな」と何度も言ったにも関わらず、未だにレノがスコールに“お姫様”呼びを止めないのだ。

 スコールの矛先は、上司でありタークスをまとめる役を持つツォンへと向けられた。
部下の賑やかさとは一線を隔すように、ペースを崩さずに夕食を食べ終えたツォンは、ナイフとフォークを皿に置いてから顔を上げた。


「…レノ。スコールで遊ぶな」
「了解しました、と」
「スコール。お前も頭を冷やせ。それから、手を痛め兼ねない事は慎むように」
「……了解」


 上司の言葉に、レノはいそいそと自分のデスクへと戻り、スコールも眉間に皺を寄せたまま姿勢を正して返事をした。

 不満の表情のまま、スコールは自分のデスクに座った。
食べかけのサンドイッチに手を伸ばして、その指に光ったものに、また眉間に皺が寄る。


「……」
「あら。外しちゃうの?」


 左手の薬指から指輪を抜き取るスコールを見て、シスネが言った。
スコールからの返事はなく、デスクに指輪を置くと、黙々と食事を再開させる。
シスネは小さく笑って、ぽんぽんと濃茶色の髪をあやすように撫でてやった。





 宛がわれた任務に向かうまでにはまだ余裕があると、ザックスはロビーで暇潰しをしていた。
エレベーター横に設置されたベンチに座り、通り過ぎる人々を特に意味もなく眺めたり、PHSに届いたメールに返信をしたり。
遠目に展示された車をぼんやりと見詰めていると、その前を横切る黒服の少女を見付け、ザックスは腰を上げた。


「おーい」


 声をかけてみると、少女は立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回している。
やがて青灰色の瞳がザックスを見付けると、さっと目を逸らされた。
おや、とザックスは首を傾げたが、少女はその場から立ち去ろうとはしなかったので、そのまま近付いて行く。

 黒服の少女は、スコール・レオンハート───ザックスが何かと気にかけている、神羅カンパニーの暗部を担う精鋭部隊『タークス』の見習いであった。
ザックスはスコールの前で足を止めると、ちらり、と彼女の制服の袖から覗く手を覗いた。


「包帯、取れたのか」


 白く細いその手には、数日前まで、包帯が任務時に負傷した為の包帯が巻かれていた。
しかし、今は彼女自身の白い肌だけがあって、傷痕さえも残っていない。
どうやら、綺麗に完治したようだ。


「良かったな。もう任務に復帰したのか?」
「…今日から。でも、今日は皆暇だから」
「良い事じゃん。平和な証拠だからな」


 ぽんぽんと濃茶色の頭を撫でると、スコールは嫌がるように頭を振って、ザックスの手を払った。
蒼の瞳がじろりと不満そうに睨むのを見て、ザックスはへらり、と愛想笑いを浮かべる。


「あんたは、何してるんだ」
「お仕事前の暇潰しだよ」
「……そうか」


 特に興味があって問うてきた訳ではないのだろう。
ザックスの返事に対して、スコールの反応は淡白なものだった。

 スコールはつい、とザックスから視線を逸らし、ロビーに展示されている旧式の車に視線を向ける。
これも特に興味があって見ている訳ではないのだろう。
ザックスはそんな少女の横顔を何とはなしに見詰めていたが、ふと、彼女の首にかかる光るものを見付けて、目を瞠る。


「なあ、スコール。それ───」


 ザックスに呼ばれ、顔を上げたスコールが、きょとんとした表情でザックスを見詰める。
魔晄色の瞳が何かを見ている事に気付いたスコールは、倣うように自分の首下に視線を向けて、ザックスが何を見ていたのか気付いた。

 スコールの首にかけられていたのは、銀色のチェーン。
それに通されていたのは、数日前にザックスがスコールにと買って贈った、シルバーリングだった。

 少女の顔に紅が挿して、スコールは隠すようにリングを握る。


「ネックレスにしたのか?」
「…う、ん……」


 スコールは、ザックスから視線を逸らして俯き、指輪を強く握り締めながら言った。


「…レノが、煩かったから」
「レノが?何か言われたのか?」


 訊ねてから、任務等で作業をする時に邪魔だったのかも知れない、とザックスは思った。
デザインが凝っていて、少し大きな指輪だったので、武器を扱う時に感覚を妨げるとかで、用途を買えたのか。
と、ザックスがそう考えていると、


「……指……」


 ぼそ、と呟いたスコールに、ザックスはうん?と聞き返し、よく聞こえるようにとスコールの頭に顔を近付けた。
距離を縮めたザックスに、スコールは慄くように身を反らしたが、逃げる事はなく。
ぐぐ、と何かを耐えるように唇を噛んだ後で、ぽつりと言った。


「ちゃんと合うのが、薬指だけ…だったから。左手の」
「───うん。そうだな。それで確認したから……それでレノが煩かったのか?」


 仕事の邪魔になるとか、もっと堅い理由で煩く言われたのではないのだろうか。
そう思ってから、その程度の事でレノが口を出す事はないか、とザックスは思い直す。
何せ彼は、スコールの兄貴代わりを自負しており、“お姫様”と呼んで可愛がる程、スコールを溺愛しているのだから。

 そのレノが、何を口煩く言ったのだろう。
ザックスが首を傾げていると、顔を上げたスコールがじろりと眦を吊り上げた。


「左手の、薬指に…指輪……だから、って」
「─────……あっ?」


 左手の薬指。
指輪。
───それらが意味を成すものとは、つまり。

 此方を見上げて来る少女は、眦こそ鋭いものの、目元も頬も耳も赤くなっている。
ネックレスの指輪を握り締める白い手までもが、心なしか紅潮しているように見えるのは、ザックスの思い込みだろうか。
そんな彼女の赤みが伝染したように、ザックスの顔にも朱が上って行く。


「あっ、えと、あー…いや、あれは、」
「判ってる。あれはただの偶然だ」


 どもって言葉を濁らせるザックスに代わり、スコールが言った。
うん、その通りだ、とザックスは思ったのだが、赤らんでいる少女の横顔に、それを正直に口に出すのは憚られた。


「……レノが俺を揶揄ってただけだ。そもそも俺達の間では関係のない話だし」
「う、えーと……」
「あんたは何も気にしなくて良い。俺も、別に何とも思ってない。でもレノが煩かったから…こっちにした。それだけだ」
「お、おう…」


 しどろもどろに頷いて返事をしながら、ザックスはなんとも言えない気まずい気持ちに駆られていた。

 薬指に合うサイズの指輪を買ったのは、偶然以外の何者でもないし、その指を選んだ事にも深い意味はない。
しかし、普段女扱いすると怒るとは言え、やはり“少女”。
薬指に指輪を贈ると言う事に、特別な意味があるのでは、と思ってしまうのも、無理はないだろう。
ザックスは、“詫び”だからと言って、自分が酷く軽率な行動をしてしまったような気がしていた。

 ────けれども、そんな気まずさよりも。
ちらりと覗き見た少女が、白い手の中で光る銀色のリングを見て、光を反射させる青色の瞳が、きらきらと、宝物を見詰めるように輝いているように見えるのが、無性に嬉しい気がして。


「まあ、その。なんだ。結構似合ってるし。良いんじゃないか、そういう感じも」


 沈黙を誤魔化すように紡いだザックスの言葉に、スコールが顔を上げる。
青灰色の瞳は、銀光の名残を残したような淡い光を宿しながら、「何が?」と不思議そうな色を浮かべていた。
それきり口を開く様子のないザックスに、スコールはことんと首を傾げたが、言及する事はなかった。

 指輪ではなく、ネックレスになったシルバーリング。
その内側には、この指輪が彼女の為に存在するたった一つのものだと言う証のように、彼女の名前が彫られている。
それを見た少女が、とても小さく、とても嬉しそうに笑うを見て、ザックスは自分の胸の内が酷く満たされて行くのを感じた。




無自覚無意識な二人でデートのようなもの。進展する訳がなかった!
でも何かが芽吹いた……かも知れない。

段々少女漫画みたいになってきた気がします。