日常的非日常


 頭を動かすよりも、体を動かす方が性に合っているからと、建設業の会社に就職した。
やっている事は設計云々と言うものではなく、所謂、土方だとか、鳶職だとか言われる類のものだ。

 夏は非常に苛酷な労働であるが、春先であれば大分楽だ。
防塵マスクや防護服の中に篭る熱気に苦しむ事も減るし、真冬のように、手袋の下で手が悴んで、釘一本を拾うだけで苦労する事もなくなる。
とは言え、重労働である以上、それなりに体力を必要とするし、現場の状況や作業内容によっては、重装備も免れない。
お陰で夏だろうが冬だろうが秋だろうが、そして当然春先であろうが、仕事中にこれでもかと言う程に汗を掻くのはいつもの事で、汗を多量に吸い込んだシャツがべっとりと肌に張り付いて気持ちが悪いのも、最早毎日の決まりであると言って良い。
春を迎え、仕事中の「これは苦行か!?」と思うような辛さは減ったものの、こればかりは、土建屋の体質上、仕様のない事だ。

 午前7時頃から始まった今日の仕事は、夕暮れが沈む頃に終了した。
住宅密集地での建設作業は、近隣住民への配慮にと、ライトの使用や作業時間が制限される為、暗くなる前に作業は中断される。
時間的には、一般家庭ならばもう夕飯を食べようか、と言う頃か。
その時間には、ザックスの腹も労働を終えた安心感と共に空腹を訴え始めるので、ザックスは太陽の傾き具合と、自分の腹具合を確かめつつ、撤収指示を待つのが癖になっていた。

 そうして、今日の仕事を終えた帰り道。
今回の仕事現場が家から近いお陰で、ザックスは徒歩で往復する事が出来る。
バイクを持っているので、多少遠くの現場でも問題はないのだが、社会人になってまだほんの2年程度しか経っていないザックスの給料に、ガソリン代と言うものはそこそこ痛手になるものだった。
何せ、家賃だけで一ヶ月の給料の半分は飛んで行くし、食費だって馬鹿には出来ない。
その上に交通費まで自費負担しろと言うのは、中々辛い。
一応、会社から交通費は支給される事になっているのだが、それは上限が定められている為、一定額以上は結局自費負担となってしまう。
交通に裂く費用だけで、一日の食事の品数が変わる事を思えば、やはりこの負担に苛まれない、“現場が近所”と言う事項は、非常に有難い事だ。

 汗をふんだんに含んだシャツの、べたべたとした不快感に見舞われつつ、しかし一仕事終えた充足感にも満たされつつ、ザックスは帰路を歩いていた。
部活帰りであろう学生達と擦れ違いながら、ああ俺もあんな頃があったなぁ、等と思いつつ、途中でコンビニに立ち寄る。
缶ビールや缶チューハイ、酒のつまみになるものを買い物カゴに入れ、棚に並ぶ弁当を眺め、チキンカツカレーとステーキ丼を選ぶ。
一食は今日の夕飯、もう一食は明日の朝食だ。

 コンビニから住んでいるアパートまでは、5分で着く。
2階建てのアパートの上階、外階段から一番遠い場所が、ザックスの家だ。
その部屋の窓を見上げて、おや、とザックスは足を止めた。

 ザックスの部屋の、ベランダに繋がる窓が開いている。
そして、ベランダに干していた筈の洗濯物が見当たらない。
今朝、家を出る時は、洗濯物を干して、窓はちゃんと閉めて鍵もかけて来た筈────と、言う事は。

 ザックスは、駆け足でアパートの外階段を上った。
カン、カン、カン、と鉄板の仕込まれた安全靴が、古びたアパートに似合いの鉄階段を蹴って音を鳴らす。
ポケットに入れていた鍵で、部屋の施錠を外して開け放ち、


「ただいま!」


 一人暮らしであるから、挨拶をしても、誰も返事をする事はない。
筈だった。

 しかし、キッチンからひょこりと濃茶色の髪の少年が顔を出す。


「お帰り。今日は────」


 早かったな、と言おうとした少年の言葉は、ザックスの胸に覆われた。
靴を蹴り脱いで廊下に上がったザックスは、有無を言わさず、少年を己の腕の中に閉じ込めた。

 濃茶色の髪から、ほんのりと甘い香りがするのは、気の所為か。
シャンプーの匂いかな、と思いつつ、その匂いにこっそりと夢中になっていると、


「ん…く……臭いっ!!」


 ゴッ!と拳がザックスの顎を打ち上げた。
ぐごっ、とザックスが悲鳴を上げている間に、少年はザックスの胸を押し退けて逃げる。


「あんた、汗臭い!」
「って〜……そりゃ仕方ないだろ、お仕事して来たんだから」
「さっさとシャワー浴びて来い!」


 眉尻を下げ、じんじんと痛む顎を摩りながら言ったザックスに、少年は噛み付く気迫でそう言うと、ふいと背を向けてキッチンへ入った。
ザックスがその後ろをついてキッチンに入ると、少年は怒った表情のまま、調理台に並べられた野菜を慣れた包丁捌きで刻んでいた。

 ザックスがまだキッチン入口にいるのを見た少年は、片眉を吊り上げて、じろりと睨む。


「何やってるんだ。早く風呂に行け」
「行く行く。行くけど、その前に、これ」


 ザックスが差し出して見せたのは、コンビニの袋だ。
中には缶や弁当が入っている。

 ザックスは少年の後ろを通り過ぎると、キッチン奥の冷蔵庫を開けた。
階段を上がる時に跳ねた所為だろう、中身が左半分に偏ってしまったチキンカツカレーとステーキ丼を冷蔵庫に入れる。
買わなくても良かったな、と思いつつ、どの道朝飯用に必要であったと思い出した。
缶ビールと缶チューハイは、それぞれ一本だけ冷凍に入れて、他は冷蔵に並べる。

 これでよし、と冷蔵庫の蓋を閉め、風呂場に向かおうとして、ふとザックスは足を止めた。
キッチンに立つ少年の手にはフライパンが握られており、刻んでいた野菜がじゅうじゅうと良い音を鳴らしている。
ザックスはそれを横から覗き込んだ。


「野菜炒めか?」
「……ん」
「肉入ってねえの?」
「…其処にある。後で入れる」


 其処、と言って少年が視線で指した先に、パックに入った豚肉があった。
一日の労働でスタミナを消費して帰ったザックスには、大事なエネルギー回復の源だ。


「…それより、あんた、早くシャワー浴びて来い」
「俺、そんなに臭い?」
「臭い」


 きっぱりと言う少年に、ザックスは「へーい」と退散を決めた。

 醤油の香ばしい匂いが、空っぽの胃袋を刺激する。
シャワーを浴びて、缶ビールで一服した頃には、きっと美味しい夕飯が出来ている事だろう。
それを思うだけで、ザックスは一日の疲労を忘れられるような気がした。




 シャワーを浴びて汗を流し、清潔な部屋着に着替えたザックスは、早速冷凍庫から缶ビールを取り出す。
リビングでプルタブを開けた所で、少年が皿に盛った肉入りの野菜炒めを持って来た。


「おっ、食って良いの?」
「摘まみに作った奴だから。夕飯はもう少しかかるから、それ食べて待っててくれ」


 野菜炒めと箸を置いて、少年はまたキッチンへと戻って行った。
ザックスは缶ビールを傾けつつ、その後ろ姿を目で追う。

 少年の名は、スコールと言った。
此処から電車で駅を二つ程行った所にある、有名進学校に籍を置いている、高校二年生だ。
彼の家は、ザックスのアパートがある方面とは真逆の方向にあるのだが、時折、こうしてザックスの家に来る事がある。
家主の断りをする事もなく、持っている合鍵で中に入り、洗濯物を取り込むのも、この半年間でよく見られる光景となっていた。
勝手知ったるなんとやら、とばかりに彼がザックス宅のキッチンを使っているのも、週に二度三度はある事だ。

 ザックスとスコールの仲は、“恋人”と呼ばれるものになる。
だからスコールは、ザックスのアパートの合鍵を持っていて、放課後に家主の断りもないままに家にやって来るのだ。
そして早くても夕方過ぎに帰って来るであろうザックスの為に、酒の摘まみになる料理と、夕飯を作り、食卓を共にして、───時々一泊して───家に帰る。
これが一週間の平日における、ザックス宅の光景であった。


(なんか、通い妻みたいだなー……とか言ったら絶対怒るな)


 野菜炒めを口の中に入れながらそんな事を考えて、ザックスはにやにやと目尻や頬が緩むのを止められない。

 トントントン、とキッチンから野菜を刻む音がする。
一人暮らしの寂しさや侘しさと言うものを、ザックスは特別気にする性質ではなかったが、やはり人の気配がすると言うのは嬉しいものだ。
それが好きな相手の気配で、自分の為にキッチンに立ってくれているのだと思うと、尚の事。
それを素直に口に出して伝えると、恥ずかしがり屋な彼に痛烈な一蹴を食らう事になるのだが。

 缶ビールが空になり、野菜炒めも平らげた所で、ザックスは腰を上げた。
キッチンを覗き込んでみると、エプロンをつけたスコールが其処にいる。
エプロンは、スコールがザックスの家に通うようになってから一月程経った頃から身に付けるようになった。
いつも制服のままでザックスの下に来て料理をするので、汚れなどが制服につかないようにと、自分で選んで買ったらしい。
群青色のシンプルなエプロンをつけてキッチンに立つ恋人を見て、ザックスはまた顔がニヤけてしまう。


「……何してるんだ、あんた」


 キッチン横に立っているザックスに気付いて、スコールが此方を見た。


「いんや、なんでも」
「…じゃあ、向こうに行っててくれ。気が散る」


 にやにやと上機嫌な表情をして見つめるザックスに、スコールはなんとも素っ気ない態度だ。
しかし、ふい、と恋人から目を逸らす瞬間、濃茶色の髪の隙間から、赤く染まった頬や耳が除く。
それだけで、可愛いもんだなぁ、とザックスは思う。


「なー、スコール」
「何だ────っ!?」


 振り向かないまま、呼ぶ声にだけ返事をしたスコールを、ザックスは背後から覆い被さるように抱き締めた。
スコールが他人の体温を苦手としている事は、ザックスもよく知っている。
けれど、接触嫌悪かと言われると───相手は身内や特別親しい者に限定されるが───そうではない。

 鍋を掻き混ぜる手を止めて、硬直してしまったスコールに、ザックスはくつくつと笑った。
それが聞こえた事で、スコールは我に返る。


「は、離せ!邪魔だ!」
「えー、良いじゃん。こうしてると新婚夫婦みたいでさ」
「良くない!離れろ、この馬鹿犬!」


 毛を逆立てた猫宜しく、噛み付きそうな形相で睨んで言ったスコールの一言に、ザックスはぴしっと固まった。


「犬って……」
「子犬って呼ばれてるんだろう、あんた」
「……スコール、それ誰から聞いたの」


 なんとなく予想はつくけれど、と訊ねてみれば、


「あんたの会社の先輩。スーパーで会った」
「…アンジール?」
「落ち付きのない子犬だが、宜しくって言われた」


 スコールのその言葉で、ザックスは確信した。
いや、その言葉がなくとも、ザックスを“子犬”扱いする男など、彼しかいない。

 別に自分が何処で何と呼ばれていようと、気にはしない。
子犬呼ばわりが少々屈辱である事は確かだが、相手に悪意があってそう呼んでいる訳ではない事は判っているし、社会人になって尚自分にいまいち落ち着きが足りないのも自覚している。
だから、大学時代から先輩後輩の仲であるアンジールに“子犬”扱いされる事は、半ば諦めもあって、受け流している事なのだが、年下の恋人にまで“子犬”扱いされるのは見過ごせない。

 ザックスは拗ねたように唇を尖らせて、スコールを抱き締める腕に力を込めた。
それを感じ取ったのだろう、長身ながら未発達さを残した細い体が、びくっと微かに震える。


「俺が犬だってんなら、スコールだって猫みたいだぜ」
「誰が猫だ」


 じろり、と青灰色が凶暴な色で背後の男を睨む。
が、ザックスは拗ねていた表情から一転、にやりと意地の悪い笑みを浮かべ、


「なんてーのかなぁ、雰囲気?犬じゃないよなーって気がするんだ。意地っ張りで、素直じゃないしな」
「…素直じゃなくて悪かったな」
「良いの良いの。素直じゃないけど、素直だから」
「……意味不明だ」
「あと、ほら。タチネコで言ったら、スコールがネコだろ?」
「………タチネコ?」


 鸚鵡返しに呟いて、肩越しにザックスを見遣るスコールは、不思議そうな表情をしている。
どうやら、“タチネコ”と言う言葉を知らないらしい。
その表情を見て、昨今の若者にしては、彼が思いの外初心であった事を思い出す。

 タチネコと言うのは、と口で説明しようとして、ザックスは思い留まった。
くく、と喉で押し殺すように笑ったザックスに、スコールが眉間に皺を寄せる。
そんな彼の表情には構わず、ザックスはスコールの腰を抱いていた腕を持ち上げて、


「タチネコのネコってのは───こういう事」
「───ひんっ!?」


 きゅっ、とエプロン越しにスコールの胸の蕾を摘まみ上げる。
予想もしていなかった突然の刺激に、スコールの喉から甲高い悲鳴が漏れた。

 鍋を掻き回していたおたまがスコールの手から離れる。
蕾を摘むザックス手を、自由になったスコールの手が掴んだ。


「は、はなせ…あっ…!」
「同性同士でセックスする時、女役になる方が、ネコって呼ばれるんだってさ」


 エプロンと制服の上からでは、スコールの蕾がどんな状態にあるのか、ぱっと見ては判らない。
しかし、摘まめる程には膨らんでいるのだと、指先に引っ掛かるものを確かめながら考える。

 スコールはじたばたと身を捩って暴れ、ザックスの腕から逃れようともがく。
しかし、日々の力仕事で無駄なく鍛えられたザックスの腕から、どちらかと言えば華奢な印象を与える体つきをしたスコールが逃げられる筈もなかった。

 ザックスは片腕でスコールの腰を抱いたまま、乳首を摘まんでいた手で、スコールの制服の釦を外し始めた。
スコールはエプロンをつけたままなので、外せるのは第一釦と第二釦だけ。
僅かに開いた胸元の隙間に、ザックスの手が侵入する。


「ちょ…ザックス、夕飯…!」
「おっと。じゃ、これで」


 胸元に侵入しようとしていた手が逃げて、かちり、と硬い音。
鍋を煮込んでいた、コンロの火が消された音だった。

 そうじゃない、と苛立ちを滲ませて叫ぶスコールだったが、ザックスはやはり構わなかった。
もう一度、制服の肌蹴た胸元からザックスの手が侵入し、くっきりと浮き出た鎖骨をなぞる。
それだけで、ひくん、とスコールの喉が小さく鳴ったのを、ザックスは聞き逃さなかった。


「ザッ…クス…っ!いい加減、にっ…!」
「そうは言っても、」


 ザックスの指が、スコールの鎖骨から、体の中心線をなぞり、薄い胸の形を撫でる。
ザックスはスコールの肩口から顔を出して、肌蹴た制服と自分の手の隙間から、スコールの胸元を覗いた。
其処には、女性のような膨らみはないが、頂きが腫れたように膨らんで色付いている。


「こっちは期待してる感じだぜ」
「んっ…う…!」


 胸を弄る武骨な手に、スコールは唇を噛んだ。
撫でる手が、指が、触れる時に与えられる熱は、何度感じても慣れない。
慣れないけれど、いつも本気で振り払えなくて、押し流されてしまう。

 胸を撫でる手の指先が、悪戯に乳首を掠める。
スコールは声を殺して、腰に回されたザックスの手に爪を立てた。
口を開けば、自分のものではないような、甘ったるい声が出てしまうから、その代わりの抵抗。
しかしザックスは、皮膚に突き立てられる彼の爪さえも、愛しくて狂おしくて。


「もっと弄って欲しい?」
「ばっ…!」
「ほいっ」
「あぅんっ!」


 馬鹿を言うな、と怒鳴りかけたスコールだったが、きゅっ!と摘んだ乳首を強く抓られて、甘い悲鳴に取って代わられる。
固く膨らんだ乳首を、摘まんだままコリコリと転がされると、スコールはひくひくと肩を戦慄かせた。


「う、うっ…んん…っ!」
「なんか、触る度に敏感になってるよな、スコールの乳首」
「んく…う…っ」


 ザックスの言葉に、スコールは唇を噛んで、ふるふると首を横に振った。
違う、そんな事ない、と真っ赤な顔で訴える恋人の耳元に、ザックスは唇を寄せてキスをする。
ちゅ、と耳元で鳴った音に、スコールの躯が小さく跳ねた。

 スコールの腰を捕まえていた腕が離れる。
自由になったにも関わらず、スコールは逃げようとはしなかった。
立てていた爪が、しがみ付くものをなくして、頼りなさげに彷徨う。

 ザックスの手がエプロンの下に滑り込んで、スコールの制服のシャツを捲る。


「や、ザックス…!」
「んー?」
「あっ…は…!」


 身を捩って逃げようとしたスコールだったが、かぷ、と耳朶に歯を立てられて、甘い息を漏らす。

 エプロンとシャツの下────スコールの肌の上で、ザックスの掌が遊ぶ。
引き締まった細い腰と腹を撫でながら、ザックスの手は少しずつ上に向かった。

 上から肌蹴られた胸元に侵入され、下からも昇って来る掌。
上半身を確りと捕まえられ、抱き寄せられて、背中に密着する男の体温に、スコールの鼓動が早くなって行く。
その鼓動は、胸を愛撫する男の手にも伝わっていた。


「スコール、興奮してるみたいだな」
「……!」


 ふるふるとスコールが首を横に振る。
そんな恋人に、ザックスは意地の悪い笑みを浮かべて、右の乳首を左手で、左の乳首を逆の手で強く摘まんだ。


「んぁっあ!」


 ビクッ、ビクッ!とスコールの躯が跳ね上がり、嬌声が上がる。
そのままコリコリと左右の乳首を転がし、悪戯に指先で弾いてやれば、その度に細い体がヒクヒクと反応を示す。


「あ、う、…んぅ…っ!」


 爪先を先端に宛がって擦ると、スコールは甘い吐息を漏らしながら、はくはくと唇を戦慄かせる。
やだ、と時折うわ言のように聞こえる声に、ザックスは嘘吐き、と耳元で囁いた。
低くよく通る声音に、スコールは零れそうになる声を、自分の指を噛んで押し殺した。


「あ、駄目だろ、噛んだりしたら」
「ふぐっ…う…っ」
「ほら、指こっち貸して」


 ザックスは制服の胸元に入れていた手を抜いて、スコールの手を取った。
僅かに抵抗の力があったが、乳首を摘まんでやると、簡単に弛緩する。

 薄らと歯形の残ったスコールの指。
ザックスはそれを己の手元へと運ぶと、ぴちゃ、と舌を乗せて、ゆっくりと食んだ。


「あ、な…や、やめ、」


 スコールはザックスの手を振り払おうとするが、体はまともに力が入らない状態。
耳元でぴちゃ、ちゅぷ、ちゅく…と卑猥な音が鳴るのを聞いて、スコールの顔が可哀想な程に真っ赤に沸騰する。

 ザックスは、指に残った歯型の痕をたっぷりと舐った。
最初は歯型だけをなぞって、人差し指の全体を舌でなぞり、その後には人差し指と中指の間を。
じゅる…と時折、意識的に唾液をまとわせる音を交えてやると、スコールがふるふると震え、やだ、と小さな声が漏れる。
しかし、その声は拒絶と言うには酷く弱々しく、甘ったるい音を含んでいた。

 ちゅぷ…と糸を引かせながら、ゆっくりとスコールの指を解放する。
ねっとりと唾液に塗れたそれをスコールの眼前に見せれば、スコールは恥ずかしそうに俯いた。


「スコール」
「……」
「スコールって」
「────っ!」


 返事がない事を咎めるように、シャツの下で乳首を摘む。
きゅうぅ…と指で挟んで強く潰してやると、痛みにスコールが顔を顰めた。
その痛みへのせめてもの反抗のように、スコールがなんだ、と背後の男を見遣る───と、同時に、スコールの唇にザックスの指が宛がわれ、


「スコール、舐めて」
「……っ」


 ザックスの意図を察したか、スコールは顔を赤くして、嫌だ、と首を横に振った。

 ザックスは、手を乗せたままの彼の胸の奥から、煩い程の鼓動が聞こえて来るのを感じていた。
興奮と、緊張と、羞恥から来る怒りと、綯交ぜになっているのが判る。


「なんで?さっき俺も舐めたし、良いじゃん、お相子で」
「さっきのは、あんたが勝手に…」
「それに、スコールも痛いのは嫌だろ?」


 だから舐めて、と囁いて、ザックスの指がスコールの唇に触れる。
薄く色づいた唇に、ふに、と爪先が当たった。
その唇が、微かに戦慄きながら開かれて、


「あ、あんたが…止めれば、済む話、だ」
「それは無理」
「だったら、その…べ、ベッドで…」
「それも無理」


 せめてベッドで、寝室で。
キッチンで立ったままなんて嫌だ、と訴える恋人に、ザックスはきっぱりと言った。

 なんで、と問おうとしたスコールの声は、侵入してきた指に奪われた。
くぷん、と咥内に入れられた指は、スコール自身のそれよりも、太くて武骨だった。
毎日の力仕事の所為か、指先の皮膚が罅割れるように荒れていて、舌の腹をなぞられる度、ちりちりとした感触がする。


「んっ、んっ…ふ、ぐ…」
「たまには良いだろ?こういう所でするのも。新婚夫婦みたいで」


 キッチンで、エプロンをして料理中の妻と。
なんともチープなシチュエーションだが、これがどうして、中々そそられる。
ザックスはそう思うのだが、残念ながらスコールはそうではなかったようで、


「ん、うっ!んん…!」


 ふるふると頭を振って、スコールはザックスの手を振り払おうとする。
しかし、


「んんぅっ!」


 乳首を摘まんで引っ張ってやれば、稚拙な抵抗など直ぐに消える。

 親指と人差し指で摘まんだ乳首を転がしながら、スコールの咥内を指先で弄って遊ぶ。
舌の腹や先端を指でなぞると、ぞくぞくとしたものがスコールの背を奔った。
弄られるのを嫌って舌を引っ込めようとすれば、指が更に奥まで入り込んで来て、指先で摘ままれて引き摺り出されてしまう。

 息苦しさか、いつもと違う場所で、いつもと違う行為の仕方に戸惑っているからか、スコールの眦には透明な滴が浮かんでいた。
それを見付けて、苛めすぎたかなぁ、と思いつつ、ザックスはスコールの涙を舐め取った。


「ふ、あ……」


 宥めるように眦にキスを落とすと、甘えるような声が、指の隙間から零れる。

 れろ…と、スコールの舌がザックスの指を撫でた。
それを感じ取ったザックスが、指を咥内から引き抜こうとすると、舌がそれを追い駆けて来る。


「舐めてくれんの?」
「ん…ぷ、ぅ……っは……」


 逃げようとするザックスの手を、スコールの手が捕まえる。
ちゅ、ちゅ、とスコールはザックスの指をしゃぶるように啜った。


「ん、ふ…しない、と…ん、どうせ……っ、終わらない、だろ…」
「ま、そうだな。此処までして止めろってのが、無理な話だ」
「っ……押し付けるな…!」


 ぐ、とザックスがスコールの臀部に腰を押し付けると、ジーンズ越しに固くなっているものが当たる。
その熱の感触に、スコールは顔を顰めるが、


「そんな怖い顔するなって。お前も同じようなモンだろ?」
「な……んぅっ!」


 ザックスの言葉に、顔を赤くして抗議しようとしたスコールだったが、咥内に付き入れられた指に言葉を失う。
更に、胸を弄っていた手がするりと落ちて行くのを感じ取って、スコールは嫌だ、とくぐもった声で言った。

 ザックスが片手で器用にスコールのスラックスのベルトを外していると、スコールの手がそれを掴んで止めようとする。
しかし、身に付けたままのエプロンの所為で、不埒な手を捕まえる事は出来なかった。


「んっ、ざ、くふっ…!」


 ベルトが外され、ジッパーも下ろされて、留めるものをなくしたスラックスが、すとん、と抵抗なく床に落ちる。
ボクサーパンツも下ろされて、外気が下肢に触れるのを感じて、スコールは息を詰めた。
咥内に食んでいた指に思わず歯が立てられる。

 ぴり、とした指先の痛みに、ザックスはくすりと笑みを浮かべた。


「へーきへーき。恥ずかしくない。俺しか見てない」
「んぅう…っ」
「って言うか、俺も見えないなー」


 ザックスが見ているから、恥ずかしい。
エプロンのお陰で見えないけれど、自分自身でどうなっているのかは厭が応にも判っているから、恥ずかしい。
そんなスコールの無言の訴えに、ザックスは気付いていない訳ではなかったけれど、気付いていない振りをした。
そうして、羞恥心に苛まれて、真っ赤な顔で耐える恋人の姿が、愛しくて仕方がない。

 ザックスの手が、探るようにゆっくりと、スコールの脚の付け根を撫でる。
するり、と摩るような柔らかな触れ方に、スコールの喉が小さく鳴った。
程なくザックスの手は、スコールの中心部に辿り着く。


「スコールの此処、乳首と一緒。膨らんで立ってるぜ」
「ふ、あ……!」


 つつ……とザックスの指が、スコールの中心部の根本から先端までをなぞる。
それだけで、スコールは意識が白熱するのを感じた。

 咥内を弄っていた指が離れて、スコールは久しぶりに正常な呼吸を赦された。
しかし、頭の中はぼんやりとしていて、いつも凛としている筈の青灰色の瞳は、すっかり熱に犯されている。


「体、自分で支えられるか?」
「……ん……」


 ザックスの誘導に従って、スコールはキッチン台を支えに縋る。
しかし、スコールの躯には最早まともな力は残っておらず、ザックスに抱えられていなければ、その場に座り込んでいただろう。

 ザックスは、密着していた体を離すと、改めてスコールの姿を見下ろした。
エプロンの所為で体の前は何も見えなかったが、後ろからとなると、スコールが下肢を露わにしているのが明らかだった。
蝶結びにされたエプロンの紐だけで隠せる訳もなく、華奢な腰から、引き締まった尻、細く白い脚が全て見える。
隠すものを失った秘部が、ヒクヒクと物欲しげに伸縮しているのを見て、ザックスは己の半身に血が集まるのを感じた。


(なんか、裸エプロンみてえ)


 上半身はシャツを着ているままだから、違うけれど。

 夕飯作りを中断された所為で、鍋だのまな板だのが残ったままのキッチン台。
生活の匂いが漂う場所で、エプロンだけを身に付けて、淫部を惜しげもなく晒している恋人。
いつも寝室で褥を共にしている時とは違う光景に、ザックスの興奮は更に昂って行く。

 身を縮めるようにしてキッチン台に縋るスコール。
ザックスはスコールの白い尻を撫でて、ヒクつく秘孔に指を這わせた。


「……っ!」


 ビクッ、とスコールの腰が跳ねる。
構わず、彼の唾液で濡れそぼった指を押し付ければ、ぬぷ……と抵抗なく飲み込まれて行く。


「んっ、んっ……!」
「すんなり入っちまったけど。期待してた?」
「バ、カ……あっ!」


 肩越しに睨む蒼灰色と、赤く火照った白い頬に、ザックスは気を良くして、更に指を押し入れる。
ゆっくりと埋められていく指に、脾肉が纏わりついて来るのが判った。


「あっ、あっ…!ひ、ぅ……!」


 ぬぷぬぷと体内へ潜り込んでくる異物感に、スコールは唇を噛んだ。
力の抜けた膝ががくがくと震えている。

 ザックスはスコールの腰を抱き寄せて、エプロンの下に手を入れた。
反り返ったスコールの中心部を掌で包めば、スコールの薄淡色の唇から、甘い吐息が零れる。
そのまま手を上下に動かして扱くと、スコールは耐えられないと言わんばかりに嬌声を上げ始めた。


「あっ、あっ…!や、う…は、あっ…!」
「気持ち良い?」
「う、う…んんぅっ…!」


 耳元で囁かれる問い掛けに、スコールは答えなかった。
返事がないのは良い証拠、と勝手に解釈して、ザックスは淫部に埋めた指を曲げる。


「ひんっ!」


 くにっ、と曲げられた指が、スコールの敏感な場所を圧した。
ザックスは其処を集中するように、指先でぐりぐりと壁を撫ぜてやる。


「ひっ、あっ、ああっ!」
「ここ?」
「や、や…!う、あっ、あっ、んんっ、」


 やはり問い掛けに対する返事はなかったが、スコールの反応を見れば、答えは明らか。
敏感な場所を集中して弄られて、前部も絶えず刺激を与えられては、快感に弱い彼が正気を保っていられる訳もなかった。


「はっ、あっ…!う、ん…イ、く……イきそ…っ」
「一回イっとく?」


 ザックスの言葉に、スコールはこくこくと頷いた。
直後、───ずぷっ!とザックスの指が秘部の奥を突き上げる。


「あっあっ、あぁああああっ!」


 ビクン、ビクン、とスコールの躯が戦慄し、彼の中心部から熱が吐き出される。
エプロンの内側を汚したそれは、糸を引きながら床に落ちて、スコールの足下に液溜りを作った。

 はっ、はっ、と息も絶え絶えになっているスコールだったが、彼の休息はまだ訪れない。
頽れそうになる膝を辛うじて支えていると、腰を掬い上げられ、更に片足を持ち上げられる。
熱に浮かされた頭で、何、と思っていると、


「次、俺な」
「あ……っ!?」


 秘部に埋められていた指が抜かれて、かと思ったら、熱いものが宛がわれる。
それの正体は、見なくても判った。


「待、ザックス……!やっぱり、へ、部屋に、」
「だーから。今更、無理、だってっ!」
「───んぁあああっ!」


 先端から、根本まで、一息に突き入れる。
逆らう暇もない挿入に、スコールは悲鳴とも嬌声とも判らない声を上げた。

 怒張した雄の侵入を、スコールはやはり拒まなかった。
直ぐに律動が始まって、固くなって反り返った熱が内部を前後に擦りながら、先端が最奥の壁を突き上げる。
圧迫感や息苦しさはあるけれど、それを拒絶するには、与えられる熱が狂おしい程に甘く感じられた。


「ひっ、あう、あっ、んんっ!」
「っは、く…ワリ、一気に、入れちまった…っ」
「んんっ、あっ、…は…バカ、バカ犬っ…!」
「まだソレ言うか」


 可愛い恋人の、精一杯の仕返しの言葉に、ザックスは口角を上げた。
その表情は怒っていると言うよりも、悪戯を思い付いた子供のように見える。

 ザックスの両手がエプロンの下に滑り込み、更にシャツの中へ。
不埒な動きを見せる手に気付いたか、スコールは片腕でキッチンに縋りながら、空けた手でザックスの腕を払おうとするが、またしてもエプロンが邪魔になる。


「───ひぃんっ!」


 ぎゅっ、とスコールの左右の乳首が摘ままれる。
其処は既に、散々苛められた所為で、ほんの少し擦られるだけでも、顕著な反応を示す程に敏感になっていた。


「あっ、やっああっ!ざっく、ざっくす、やだ、ひっ、」
「恋人のこと、バカ犬呼ばわりする奴は、こうだっ」
「ひうっ、うっ、んっ!あ、あんただって…ね、猫が、どう、とかって、えっ!」


 最奥を突き上げられ、二つの乳首を同時に捏ねられながら、スコールは言う。


「猫みたいってのは言ったけど、バカ猫とは言ってないだろ?」
「んぁ、ひっ、ひんっ…!」


 ザックスの指で擦られているスコールの乳首は、しこりのように固くなっていた。
軽く摘まんでいるだけでも反応を示すスコールに、ザックスは笑みを深くして、先端に爪を立てる。
スコールの背が弓形に反って、咥え込んだ雄を強く締め付けた。


「あっくぅ…!んあ、あ、あ、あ、」


 締め付ける内壁を振り解いて、ザックスは腰を激しく動かす。
ぐぷ、ぐちゅ、と言う淫音と、皮膚をぶつけあう音が、狭いキッチンの中で反響していた。


「スコール。乳首、気持ち良い?」
「はっはひっ…!や、やだ…もう、いじるなぁっ…!」
「なんで?気持ち良いんだろ?俺の、すげー締め付けて来るもん」


 耳元で囁くザックスの声と言葉に、また内壁が締まって、ザックスを煽る。
言葉の証明とするように、秘奥を突き上げると同時に乳首を摘まめば、甘い悲鳴が響く。


「あああっ!や、やだ、触るな、ひぃんっ!」
「素直じゃねえなぁ。こっちは正直なのに」


 言いながら、ザックスはゆっくりと腰を引いて行く。
ずるり、と内壁を擦りながら抜けて行く雄に、スコールの腰がぴくっ、ぴくっ、と痙攣するように跳ねていた。

 あと少しで全て抜ける、と言う所で、スコールの内壁がザックスを引き留めるように絡み付く。
ザックスは腰を浅く突き出した。
くぷっ、と浅い位置を押し上げられて、スコールの喉から甘い音が溢れる。


「あぁっ…!」


 まるで待ち望んでいたかのような反応に、ザックスは笑みを深め、


「素直じゃないけど、素直だよな、こういうトコ」
「はっ、あっ…!んん…!」


 自分の反応が恥ずかしくて堪らなかったのだろう。
スコールは唇を噛んで、官能そのものを殺そうとするが、今更彼が恋人に逆らう事など不可能だった。

 浅い位置を押し上げていた雄が、もう一度、根本まで一気に突き入れられる。


「───ひぁあんっ!」


 仰け反って悲鳴を上げたスコールの胸に、ザックスはまた手を伸ばし、ぷっくりと腫れたように膨らんでいる乳首を摘む。


「ひあっ、あっ、あっ!ザックス、ザックス…っ!」
「ん……」
「んんっ…!」


 仕切りに名を呼ぶスコールの唇を、ザックスは己のそれで塞いだ。
ちゅく、と咥内で舌が絡み合って、互いの熱の篭った吐息が交じり合う。


「んっ、んっ…!ふ、は、」
「っは…スコール、う……っ」
「ああっ、あっ、乳首、やだ、あっ…!奥、奥も…当たって、うぅんっ…!」


 コリコリと乳首を転がされて、絶えず刺激を与えられ、秘部の最奥を繰り返し突き上げられて、スコールは息つく暇も与えられない程の激しい快感に身を悶えさせていた。
だが、ザックスの攻めは休む事なく続けられ、スコールを二度目の絶頂へと追い上げて行く。

 ザックスも、触れれば触れる程に乱れて行く恋人の痴態に煽られて、限界を迎えつつあった。
スコールの乳首を悪戯に摘まんで、彼の内壁に強く締め付けられる度、持って行かれそうになる自分を、唇を噛んで堪える。
熱に溺れたスコールが、一番気持ち良くなる所で、自分の熱を注ぎ込みたかった。

 スコールの躯には、既に自重を支える力すら残っていない。
胸の蕾を摘ままれて、ザックスに抱き締められる格好で、辛うじて立っているような状態だった。
意識も白濁に染められて、殆ど前後不覚に陥っている。


「はっ、あっ、あっ…!ザック、ス、ザックス、」
「ん、うん…っ、イく?スコール」
「イく、んっ、イくっ…!も、無理、げんか、いっ」


 訴えるスコールの口端から、飲み込み忘れた唾液が溢れ出している。
ザックスはそれを舌で掬って、返すように口付けて、


「ん、んっ、んんっ、」
「んっふ……は、いいぜ、俺もイく、から」
「ふぁ、は、あっ、あっあっ、あっあっ!」


 ザックスはスコールの腰を両手で挟んで固定すると、一層激しく腰を動かし始めた。
ずんっ、ずんっ、と敏感な場所を突き上げられて、スコールは頭の中が真っ白に染まって行くのを感じた。


「ひっ、イくっ、イくっ!う、ん、あぁあぁああっ!」


 ビクッ、ビクッ!と全身を痙攣させるように震わせて、スコールは絶頂する。
吐き出された蜜液が、エプロンと床を汚した。

 同時に秘部が一際強く締まり、ザックスの雄に喰らい付く。


「う、く、出るっ…!」
「んぁっ、あっ!ふ、あぁああ……!」


 どろりとした熱が体内に吐き出されるのを感じて、スコールは悩ましい悲鳴を上げる。
内壁はそれを全て搾り取ろうとするかのように絡み付いていて、ザックスはスコールが意識を失うまで、誘われるまま、彼の体内に自身の欲望を注ぎ込んでいた。





 スコールが目が覚めた時、彼はベッドの上で横になっていた。
着ているものは制服ではなく、スコールには少し大きい、恋人のシャツ一枚。

 寝起きのぼんやりとした頭で、なんで寝てたんだろう、と考えていると、寝室のドアが開いた。
寝惚け眼を擦りながら首を巡らせれば、温かな湯気を立てた夕餉を持った恋人が入って来た所だった。


「おっ、目ぇ覚めたか。じゃあスコールの分も持って来ないとな」


 ザックスはそう言うと、夕飯を乗せたトレイをカーペットの床に置いて、部屋を出て行く。
数分ほどで戻って来た彼は、色違いのトレイに、量を控えめに盛った夕餉を持って戻って来た。


「ほい、スコールの」
「……あ、ああ…」
「制服はリビングに置いてある。エプロンは今、洗ってるから」
「ん……」


 スコールがザックスの手からトレイを受け取ると、彼は床に腰を下ろした。

 スコールは、膝上に乗せた自分のトレイを見下ろした。
鶏と豆の煮込みスープは、スコールが途中まで作っていたものだ。
サラダは作った覚えがないので、恐らく、ザックスが作ったのだろう───セックスの後で。


「………!」


 ぼんっ、と爆発したように赤くなったスコールに、ザックスが「ん?」と顔を上げた。
真っ赤になって固まっているスコールを見て、ザックスは首を傾げる。


「どうした?」
「………!!」
「うおっ!なんだよ!?」


 唐突に腕を振り上げたスコールに、ザックスは逃げるように腰を引かせた。
が、拳が落ちる前に、スコールは体を襲った痛みに撃沈する。

 背を丸めて震える恋人に、ザックスは恐る恐る声をかけた。


「スコール?あー……大丈夫…」
「……っ」
「じゃないよな…」


 じろり、と睨んだ蒼い瞳に、ザックスは気まずげに目を逸らす。


「最悪だ……」
「悪い悪い。ちょっと調子に乗っちまった」
「ちょっとじゃない!」


 声を荒げたスコールは、自分の腕で体を庇うように押さえていた。
その腕も微かに震えていて、スコールの唇からは、耐えるような甘さを含んだ吐息が零れている。
涙の滲んだ瞳も、何処か艶っぽく、官能のスイッチが切り替わっていないように見えた。

 ザックスが思わず唾を飲み込んでいると、スコールは眉を吊り上げてザックスを睨み、


「あんたの所為で痛いんだよ!」
「痛いって…悪い、何処か痛めたのか?何処だ?」
「ど、何処って…!」


 心配そうに問うザックスに、スコールは益々顔を赤くする。

 自分の体を抱き込むようにして口を噤んだスコールに、ザックスは「何処だ?」ともう一度訊ねた。
問う声は、自責と心配で満ちていて、本当にスコールの事を気にかけているのが判る。
自分の所為で辛い思いをさせたのなら、ちゃんと謝りたいし、楽にさせてやる事が出来るなら、マッサージでもなんでもしてやりたい。
ザックスは本気でそう思っているのだが、


「どこって……────…」
「え?」


 ぼそぼそと呟かれた声が聞こえなくて、ザックスは聞き返した。
だから、とスコールは言って、もう一度呟くが、また聞こえない。

 言い辛い所が痛いのか。
そう思ってから、言い辛い所って───と考えて、


「……尻?」
「違う!」


 それもあるけど、と言うスコールの声を聞きながら、じゃあ何処だろう、とザックスがもう一度考えていると、


「……胸!あんたが散々弄るから!!」


 ぎりぎりと歯を噛んで睨むスコールだったが、白い頬は赤く染まり、相手に恐怖心を与えるにはまるで迫力が足りない。
それ所か、真っ赤になって叫んだスコールの言葉に、ザックスは呆気に取られていた。


「胸って……あ」


 胸。
詰まる所、乳首。
今日、ザックスが散々弄った場所。

 ただでさえ、触れる度に敏感になって行くスコールの躯だが、今日はいつにも増して敏感になってしまった。
一度意識を失ったにも関わらず、ザックスを見上げるスコールの瞳が、何処か熱を孕んだように見えるのは、その所為だ。

 ザックスは徐に手を伸ばし、スコールが着ているシャツの襟元を引っ張った。
襟元は大きなVネックだったので、厚みの足りないスコールの胸元が上から覗き込める。
其処には、ぷっくりと腫れたように赤く膨らんだ乳首があった。


「見るな!!」


 ゴッ!とアッパーがザックスの顎を打ち上げる。


「いって〜!大丈夫か確かめようとしたんじゃねーか」
「必要ない!」
「ない事ないだろ。俺の所為なんだから、ちゃんと責任取らないと」


 そう言うと、ザックスはスコールの膝上から夕餉の乗ったトレイを取り上げた。
返せ、と伸ばされた細い腕を捕まえて、ベッドシーツに縫い付ける。
一気に様変わりした視界に、現状把握が追い付かなかったのか、スコールはきょとんとした表情でザックスを見上げていた。

 スコールが突発的な出来事に弱くて良かった。
そんな事を思いながら、ザックスはスコールに着せていたシャツをたくし上げる。
此処まで来て、ようやくスコールも我に返った。


「なっ…!離せ、やめろ!」
「おお、いつもより赤くなってんな。ピンピンになったまんまだ」
「見るな触るな!もう今日はしない!やりたくない!」
「そう言うなって。此処、労ってやるからさ」


 ちゅ、とザックスの唇がスコールの乳首に吸い付く。
びくん、とスコールの躯が跳ねたのを見て、ザックスは気分が高揚して行くのを感じた。


「や、だ…!ザックス…っ」
「泊まって行けよ、今日。どうせ明日は学校休みだろ?」
「んあっ!」


 指先で乳首の先端を押し潰すように、くりくりと刺激してやれば、直ぐに甘い声が漏れ始める。


「や、休み…でもっ…だからっ……もう、明日…明日に…っ」
「俺は今したいんだよ」
「この……あんた、お預けも出来ないのか!」
「って、このタイミングでまた犬扱いか〜?」


 胸元から聞こえてきたザックスの声が、低いトーンに代わった事に気付いて、スコールはぎくり、と身を固くした。
恐る恐る見下ろしてみれば、子犬と言うには物騒な目をした男がいる。


「労わりついでに、ちょっと気持ち良くしてやろうって思ってたんだけど。気ぃ変わった。思いっきり気持ち良くしてやる」
「は…?な、バカ、いらない!今日はもう───ふぁあっ!」


 スコールの言葉は、最後まで許されなかった。
ねっとりとしたものが這った途端、スコールの躯は簡単に抵抗を忘れてしまう。

 膨らんだ蕾に吸い付きながら、ザックスはスコールの表情がみるみる内にとろけて行くのを見て、今度は調子に乗らないように気を付けよう、と思った。
5分後には、そんな誓いを忘れているような気がするけれど、それを指摘してくれる筈の恋人は、既に熱に浚われてしまっていた。




現パロらぶらぶでザッスコ!
がっつく犬と、毛を逆立てても逃げない猫(詰まる所スコールの負け)。