ユア・マイ・コンフェート


 いつから此処が定位置になってしまったのだろう、とスコールが思った時には、きっと手遅れだったのだ。
いつから、と考える以前に、どうして、と言う疑問を忘れている。
それ程、気付いた時には、スコールの定位置として定着していたのだ───レオンの腕の中と言うものが。

 仲間達の視線から隠れるように、レオンの部屋で過ごす、二人切の時間。
レオンの部屋は、スコールの部屋と同様に物が少なく、クローゼットとベッド以外にはこれと言って目に付くものがない。
だからスコールは、レオンの部屋で過ごす時、必然的にベッドに座っている事が多い。
そうした時間が始まった頃、レオンはベッドヘッドに背を預け、些か緊張したように肩を強張らせているスコールを見ていたものだった。
現在はスコールの方もこの時間に慣れたので、緊張する事はないのだが、代わりに顔が赤らむのを誤魔化せなかった。
と言うのも、二人が腰かけているベッドは、二人の褥としても使われているからだ。
神経質な性格で、まだまだ少年の域を出し切れないスコールには、少しばかり気まずいものがあるのも無理はないだろう。
……そんなスコールを見て、レオンが楽しげに笑っていた事を、スコールは知らない。

 ベッドにいるからと言って、毎日のように睦み合いがある訳ではない。
今日はどうだった、何があった、と他愛もない会話を交わす事も多かった。
それで何も不満はなかった筈なのだが、いつしかレオンは、二人きりで部屋で過ごす際、スコールに近付いて座るようになった。
これが他人ならスコールは逃げる所だが、相手はレオンである。
近付く気配を厭う事もなく、そう言う気分なのだろうとレオンの好きにさせる形で過ごしていると、気付いた時には距離はすっかりなくなっていた。

 距離が近付くと、レオンはスコールに触れるようになった。
頭を撫でたり、頬をくすぐったり、猫のような柔らかな髪を指先で遊ばせたり、と言う具合に。
ふとした時、何もなくても触れて来るレオンに、スコールは何度か顔を赤くして、彼の手を緩く払い除けたが、一分もすればまた触れて来る。
何がしたいんだ、と問えば、彼はゆぅるりと笑みを浮かべて、何も、と言う。
したいのか、と羞恥を堪えて訊ねた事もあったが、その時は、お前が望むなら、と言う含みのある応えが返ったのみ。
結局はスコールが益々顔を赤くしただけで、レオンの好きにさせるしかなかった。

 触れる事が増える内に、レオンの腕に抱かれている時間が増えた。
肌を重ね合せる訳ではなかったが、背中越しに彼の温もりを感じたり、腹に回った腕から伝わる力強さに、むず痒いものを感じたり、と言う具合に。
基本的に接触嫌悪のきらいのあるスコールだが、レオンの体温だけは別だった。
過ぎる不安や、いつかの未来への恐怖は拭い切れないまでも、彼に触れていると感じていると、他の事は溶けるように忘れる事が出来る。
だから、レオンが触れて来る事に対して、強い拒絶の必要に狩られる事がないのかも知れない。

 今日もスコールは、レオンの部屋のベッドで、彼の腕に抱かれていた。
ベッドに座るレオンの膝の上に乗せられ、背中から抱き締められている。
背中越しに伝わる体温と鼓動に、むずむずとしたものが浮かぶのが押さえられなくて、スコールは何とも言い難い表情をしていた。
それは決して嫌悪を示すものではなかったが、この状況にどう対処して良いのか判らない、そんな風であった。


(……いつまで、このままでいれば良いんだ…?)


 背中の男を振り払う気はない。
ないが、このままじっとしていると言うのは、中々辛いものがある。
決して厭うものではないとは言え、やはり人の体温であったり、こうして触れ合うと言う行為に対して慣れないスコールだ。
酷く緩慢に感じられる時間の流れの中で、もぞもぞと身動ぎするようになるのは、無理もない事だろう。


「あ、の……レオン……」
「……うん?」


 掻き消えそうな声で、辛うじて背後の男の名を呼ぶと、一拍の間を置いてから、返事があった。
肩に押し付けられていた額が離れて、スコールの首の後ろを柔らかなものがくすぐる。
スコールとよく似た色と質を持った、レオンの髪だろう。
むず痒さを助長させるように項を滑るそれに、スコールは少し肩を縮こまらせて、くすぐったさから逃げるように身を捩った。


「……いつまで、こうしてるんだ?あんた……」


 問いながら、スコールは腹に回されたレオンの腕に、自分の手を重ねた。
解かせようと言うつもりはなかったが、レオンにはそう感じられたのかも知れない。
離すまいと言うかのように、ぎゅ、と抱き締める腕に力が篭った。


「……お前は、こうしているのは、嫌か?」
「………」


 レオンの言葉に、そう言う訳じゃない、と言おうとして、スコールは口を噤んだ。
どうにも、そうした言葉を口にするのは、気恥ずかしくてならない。

 口を開いて、また閉じたスコールの気配を、感じ取ったのだろう。
背後でくすりとレオンが笑うのが判って、スコールは眉根を寄せて、重ねた手の下にあるレオンのそれに爪を立てた。
痛いな、と言うのが聞こえたが、スコールは聞こえない振りをする。


「悪かった、スコール。それ、離してくれ」


 自分の手の甲に爪を立てるスコールの指を指して、レオンは言った。
スコールは少しの間爪を立て続けていたが、首筋にかかる吐息に微かに肩を震わせて、爪を放す。


「…それで、俺はいつまでこの状態なんだ?」


 改めてスコールが訊ねると、そうだな、とレオンが考えるように呟いて、


「お前が嫌だって言うまで、このままでいるか?」
「……」


 茶化すようなレオンの台詞に、スコールはじっとりと湿った眼を向けた。
やっぱり振り解いてやろうか、と思っていると、レオンの唇がスコールの頬を掠める。
子供をあやすようなキスに、スコールの眉間には皺が寄せられた。


「俺で遊ぶな、レオン」
「そんなつもりはない。こうやって、お前と静かな時間を過ごしていたいのも本当だしな。お前の周りは、いつも賑やかな奴等がいるから」


 レオンの言う“賑やかな奴等”───十中八九、ジタンとバッツの事だろう。
二人はスコールの事を痛く気に入っているので、レオンがスコールを独占するのが不満らしい。
レオンとスコールが一緒に過ごしている時は、可惜に乱入して来る事はないが、二人が少しでも離れていると、今がチャンスを言わんばかりに、スコールに跳び付いて来る。
その時、レオンが邪険にされる事はないが、「レオンばっかりずるい!」と言う抗議は定番のものとなっていた。

 レオンも、ジタンとバッツの事を嫌ってはいない。
この闘争の世界で目覚めたばかりの時、スコールは他者を徹底的に遠ざけていた。
傍目に見れば冷たいと言われるような態度すら、ものともせずに接してくれたジタンとバッツの存在の有難さを、レオンは理解している。
彼等のお陰で、閉じていたスコールの世界は広がり、他の仲間達とも打ち解ける事が出来たのだ。
感謝こそすれ、厭う理由はなかった。

 が、それとこれとは別、と言う奴だ。
愛しい少年を思えばこそ、尚更厭う理由はない仲間の存在だが、「ずるい!」の一言で、二人きりの時間を邪魔されると言うのは、中々困り物である。
だからレオンは、聖域に設けられた屋敷にいる時は、暇さえあればスコールを連れて部屋に篭る。
此処に来れば、ジタンやバッツも心得ているのか、乱入して来る事はないからだ。

 スコールも、何故レオンが自分を連れて部屋に篭るのか、判らない訳ではない。
肌を重ね合う事はなくても、互いの温もりを分け合うように距離を近付けるのも、限られた時間の全てでスコールの存在を感じていたいからだ。
───判っているから、尚の事恥ずかしい、と言うのも、スコールの本音であった。

 耳元にかかる吐息や、首筋をくすぐる髪の感触など、スコールも決して嫌いではないのだが、そろそろ離れて欲しい、と眉根を寄せる。
が、その気配を察してか、腹に回されたレオンの腰は、また力を籠めて来る。
別に逃げる訳じゃないから、少しだけ離れて欲しいんだ、とスコールは胸中で訴えるが、レオンは全く意に介さなかった。
声に出さない主張を気付いて貰う方が無理だろうと言われるだろうが、レオンはスコールの事なら、当人以上に聡い所がある。
そんな彼が、他者との接触や、触れ合う事に未だに慣れないスコールの胸中に、気付かない筈がない。
それでも、彼は決してスコールを離そうとはしなかった。

 結局スコールは、レオンの気が済むのを大人しく待っているしかない。
せめてカードでも持ち込んでおくんだった、と気を紛らわすアイテムの不在を嘆きつつ、スコールは背中の温もりに体重を預けた。
まだ僅かな強張りを残しつつも、スコールが自分に身を預けたのを感じてか、レオンが微かに嬉しそうに笑うのが伝わる。


「スコール」


 嬉しそうに名を呼ぶ声に、スコールは反応しなかった。
俯いた顔が熱くなっているのが判って、くそ、と誰に対してでもなく毒を吐く。

 レオンの形の良い指が、スコールの頬をくすぐった。
ふるふると首を横に振って振り払えば、くつくつと背中で笑う気配がする。


(だから、俺で遊ぶなって……)


 腹に回された手に緩く爪を立てつつ、スコールは唇を尖らせる。
レオンはそんなスコールを笑みを浮かべて見詰めていたが、ふと、濃茶色の髪の隙間から、赤らんだ首筋を見付けると、誘われるように其処に唇を寄せた。


「っ!」


 不意打ち同然に触れた感触に、ビクッ、とスコールの躯が跳ねた。
防衛本能か、反射的に逃げを打つスコールを、レオンの腕がしっかりと捕まえる。

 スコールは柔らかな感触の残る項に手を当てて、背後の男を睨んだ。


「レオ────」


 文句の一つでも言ってやろうと言う気概は、呼吸ごと塞がれた。
顎を捉えられ、振り向いた瞬間の格好で固定され、唇の隙間から熱いものが滑り込む。
ちゅく、と耳の奥で音が鳴って、スコールの顔が益々赤くなった。


「ん、んんっ……!」


 身を捩った所で、体格で劣るスコールがレオンに勝てる訳もなく、レオンは全く意に介す事なく口付けを続けた。

 レオンの舌が、ゆっくりとスコールの舌腹をなぞる。
ぞくぞくとしたものが背筋を昇るのを感じて、スコールの体が震えた。
それを気付かれまいと誤魔化すように、スコールが身を捩るが、殆ど意味のない抵抗でしかない。
スコールの顎を捉えていたレオンの手が頬へと滑り、肌を撫でながら、首筋へと降りて行く。


「んぅ……っ」


 首の付け根をくすぐられて、ピクッ、とスコールの肩が跳ねた。
腹を抱く手が悪戯な気配を滲ませているように思うのは、スコールの思い込みだろうか。

 息苦しさでスコールが眉根を寄せると、レオンは呼吸を解放した。
はっ…とようやくの酸素にスコールの表情から険が取れるのを見て、レオンがくすりと笑う。


「いつまで経っても、キスが下手だな」
「……うるさい」


 こういう事をする仲になってから、長い時間が経った訳でもないが、過ごした時間は短いとも言い難い。
その間に何度も口付け、睦み合ったけれど、スコールは未だに、こうした行為に慣れなかった。
それが初々しく見えるから、レオンはこのままで良いと思っている。

 スコールは首をくすぐっていたレオンの手を掴んで離させると、ふいっと顔を背けた。


「もう十分だろ……離せ」


 静かな時間も、二人きりの甘さも、十分堪能しただろう、と言うスコール。
その言葉は、この時間にうんざりしたから、と言う訳ではなく、恥ずかしさから来るものだ。

 口付けられた唇に手を当てて、なんとも面映ゆい表情を浮かべているスコール。
彼を背中から抱き締めているレオンには、スコールがどんな顔をしているのかは判らない。
が、茹でたように真っ赤になった耳を見れば、スコールが何を考え、何を思っているか、レオンには手に取るように判る。

 その真っ赤に染まった耳に、レオンは徐に歯を立てた。


「っ!」


 耳朶を柔らかく食まれた瞬間、スコールが声にならない悲鳴を上げる。


「ちょ……レオ、やめっ」


 身を捩って男の腕から逃げようとするスコールだが、遅かった。
腹に回された腕は、しっかりとスコールを捕まえて、脇下から回された手が顎を捉える。
促されるままに振り向かされれば、また口付けられるのが判ったから、スコールは精一杯に首を逸らして、レオンの思惑から逃げようとする。

 しかし、やはり青さの抜けない少年よりも、背後の男の方が一枚上手である。

 レオンは逃げを打つスコールの体を横倒しにして、ベッドに倒れ込んだ。
視界の変化に頭がついていかないのだろう、スコールは目を瞠って固まっている。
その隙に、レオンはスコールを俯せに転がして、背に覆い被さった。
伸びた髪の毛先が、スコールの首の後ろをくすぐって、スコールの肩がふるりと震える。
ようやく状況を理解したか、スコールの腕がベッドシーツを手繰って暴れたが、構わずレオンは赤い耳に歯を立てた。


「ひうっ…!」


 悲鳴にしては甘さを孕んだ声が、スコールの喉から漏れるのを聞いて、レオンの唇が笑みを深める。


「レ、レオン……っ」
「うん?」
「…噛むなっ……!」


 蒼い瞳が覆い被さる男を睨むが、白い頬がその威力を失わせる。
剰え、そんなスコールの表情を見て、可愛いな、と思うのがレオンと言う男であった。

 耳朶の裏側に艶めかしいものが滑るのを感じて、スコールは唇を噛んで反応を押し殺す。
が、実際には小刻みに震える体を誤魔化せてはおらず、ベッドシーツを握る手も白む程に強いものになっていた。
レオンはその手に自分の手を重ね合せ、宥めるように緩く握る。


「ふ、ぁ……っ」
「ん……」
「んぅっ……!」


 かかる吐息と一緒に聞こえた、くぐもったレオンの声に、スコールの体がぶるっと戦慄く。
レオンの躯の下で、もぞ、とスコールの下肢が身動ぎした。


「……スコール」


 通りの良い低い声で名を呼ばれ、スコールは隠れるように身を縮めようとした。
が、緩く握られた手は離れようとしないし、足の間にはレオンの躯があって、その身の自由はとっくの昔に奪われていた。

 腹を抱いていたレオンの腕が滑り、シャツの裾から中へと潜り込んで、スコールの肌上を撫でて行く。
ゆっくりと上って行くレオンの手に、スコールの呼気が上がって行く。
下肢に当たる固い感触があって、スコールはゆるゆると頭を振ったが、拒絶と言うには弱い主張であった。


「レ、オン……んんっ…!」


 胸の頂を柔らかく摘まれて、スコールから鼻にかかった声が漏れる。
甘ったるさを帯びた自分の声に、スコールは唇を噛んで、シーツに顔を埋める。
と、それを咎めるように、レオンの舌がスコールの耳をくすぐった。


「ふっ…、うぅん……っ」
「はむ…っ」
「やっ…!歯、当てるな……っ」


 ふるふると頭を振って、スコールはレオンの歯を振り払う。
レオンはスコールの耳からすんなりと離れ、代わりのように胸を弄る手が悪戯さを増す。


「あっ、うっ…んぅっ……」
「もう膨らんで来てるぞ」
「ふく…ぅうん……っ」


 摘まんだ其処を捏ね、先端を爪で擦られて、スコールの体がびくっ、びくっ、と跳ねた。
顕著な反応を示すスコールに、いつもより敏感だな、とレオンが囁く。
スコールは首を横に振ったが、自分の体の奥で、じんわりと熱が広がっている事は自覚していた。

 前に体を重ねたのは、今から五日前の事だ。
レオンは四日前にウォーリア・オブ・ライトと共に混沌の大陸へ斥候に赴いており、スコールはジタンとバッツに連れられ、素材集めに出かけていた。
レオン達は二日を混沌の大陸で過ごし、前後一日を往復に費やした。
スコールは毎夕には秩序の聖域に戻り、比較的平穏な時間を過ごす事となったが、どうにも落ち着かなかった。
原因は他でもないレオンの不在である。
それだけの事で、と情けない自分に辟易しながらも、過ぎる寂しさは否めず、スコールは恋人が早く帰って来るのを待ち遠しくしていた。

 レオンがウォーリア・オブ・ライトと共に帰還したのは、昨日の夜のこと。
スコールは見張と称して起きていようとしたが、「レオンが帰って来た時、クマ作ってたら心配かけるぞ」と言うジタンとバッツに言われ、二人から半ば強引に見張の役目を奪われ、気持ちとは裏腹に早い就寝に着いていた。
だから、帰って来たレオンとスコールが顔を合わせたのは、今からほんの数時間前の事であった。

 顔を合わせた時は食事の席であった為、人目を気にするスコールがレオンに甘えられる筈もなく、レオンもそんなスコールを理解していたので、「ただいま」と頭を撫でるだけに留まった。
それからしばらくは、斥候の報告も兼ねて仲間達と過ごし、それも一段落して、ようやく二人きりの時間が取れた。
何をするでもなく抱き合っていた緩やかな時間の中で、久方ぶりの恋人の温もりに、どちらともなく熱が疼いていたのは、誤魔化しようのない事実であった。

 スコールのシャツが捲り上げられて、露わになった背中にレオンの唇が落ちる。
ちゅ、と強く吸えば、白い肌に赤い華が咲いて、レオンは自分の欲望が満たされるのを感じていた。
その華の傍らの背筋を、指先で下からゆっくりと伝い上って行けば、ひくんっ、とスコールの体が弓形に反らされた。


「んっ……!」
「下、脱がすぞ」
「……う、ん…」


 囁く声に、わざわざ言わなくて良い、とスコールは頷きながら思う。
此処まで来ていれば、後の流れは判っているのだから、今更反発する気はない。
それでも、恥ずかしさはどうしても堪えられないものだから、これ以上羞恥心を煽るような事はしないで欲しかった。
───そんなスコールを判っているから、レオンは彼の羞恥心を刺激せずにはいられないのだが。

 ベルトのバックルが外され、フロントが緩められる。
下着ごとボトムが引き下ろされて行くのを感じて、スコールはもぞもぞと身動ぎする事で、脱がす手を補助する。
僅かに冷えた部屋の空気が臀部に直に触れるのを感じて、スコールは手繰り寄せたベッドシーツに赤らんだ顔を埋めた。

 腕を緩やかに動かされて、胸元で固まっていたシャツを脱がされる。
生まれたままの姿になって、スコールは寒さを嫌うように身を縮こまらせた。
レオンは自分の服を脱ぎ捨てると、猫のように丸くなるスコールの上に重なり、白い背中を包むように抱き締める。
直接重ね合わされた肌の温もりに、スコールが寒さとは違う理由で体を震わせる。


「……っ」
「俺がいない間、怪我はしていないみたいだな」
「……んっ……!」


 スコールの滑らかな肌を、レオンの手が滑って行く。
探索の最中に負ったのであろう、薄らとした痣の痕は見られたが、レオンは目を瞑る事にした。

 俯せになったスコールの小振りな尻を、ゆったりと撫でる手。
くすぐるような柔らかい触れ方に、スコールはもぞ、と太腿を擦り合わせた。
手は少しずつ下へ下へと降りて行き、足の付け根の皺をなぞって、スコールの中心部に辿り着く。


「ふ…ぅん…っ……」


 袋の下の窪みを指で突かれて、スコールはひくっと腰を震わせる。
それだけの弱い刺激で反応してしまった自分が恥ずかしくて、スコールはシーツに額を擦り合わせた。

 レオンの膝がスコールの足を内側から押した。
緩く抵抗を見せながらも、スコールは背後の男の意に沿う形で、閉じていた太腿を開かせる。
露わになった股座を潜るように、レオンの手がスコールの体とシーツの間に潜り込んで、中心部を緩く握った。


「っあ……!」


 びくん、とスコールの体が跳ねた事に、レオンは薄く笑みを浮かべて、握ったものを上下に扱いて刺激を与える。
スコールはレオンの手と、膨らみつつある自身を押し潰さないように、膝を立てて腰を浮かせた。


「んっ…んっ…!ふ、ぅん……っ」
「声、我慢しなくて良いぞ。多分、皆リビングにいるから」
「…んんっ……!」


 囁くレオンに、スコールはふるふると首を横に振った。
仲間達がリビングにいるとしても、彼等が同じ建物内にいる事は変わりない。
誰かがフロアに上がって来る可能性も否めず、特にジタンやバッツは───基本的に、二人が部屋に篭ると追い駆けて来る事はないが、それも絶対ではない訳で───唐突に襲撃を企てる事がある。
そんな状況下で、スコールが自ら本能に素直になれる訳もない。

 レオンも、スコールが一等理性が強く、羞恥に敏感な性格だと言う事は判っている。
それでも、レオンは彼の声が聞きたかった。
恥ずかしがっている彼を暴く事に、若干の罪悪感は否定しないが、声を殺して真っ赤になっている顔や、理性の壁が決壊した後のスコールの姿を思うと、早く閉じ籠った殻から引きずり出してやりたい、と凶暴さを孕んだ欲望を抑えられなかった。


「スコール」
「───いあっ…!」


 名を呼んで、白い背中に歯を立てる。
カリッ、と皮膚に立てられる牙に、スコールは堪らず声を上げた。


「あんた…っ、今日噛み過ぎ……ひうっ」


 肩越しに振り返って睨むスコールに、それなら、と今度は舌で撫でた。
びくっ、びくっ、と細い体が震えて、スコールはまたベッドに顔を伏せる。

 スコールの中心部を包むレオンの手の中で、むわっとした湿り気が滲んで来た。
緩やかな刺激を与えているだけなのに、其処はすっかり膨らんでおり、鈴口からはとろとろと蜜が溢れ出している。
離れ離れになった四日の間の様子を知るようで、レオンはくつくつと笑った。


「随分、我慢させたみたいだな」
「…してない…っ」


 耳まで赤くして否定するスコールだが、体の奥の熱は、レオンの言葉を肯定するように、全身へと広がって行く。
汗の滲む背中をゆったりと舐められ、雄の先端を爪先でコシコシとくすぐられて、スコールは快感に悶えて頭を振った。


「や、ぁっ…!レオ…ンんっ……!」
「ん……ぐ」
「あっ…!だから、噛むなって……んんっ!」


 首の後ろに歯を立てられ、スコールはひくんっと肩を震わせた。

 レオンはスコールの背中に覆い被さって、右手で雄を、左手で乳首を刺激する。
コリコリと爪を立てて乳首を摘まんで捏ねられて、スコールは何度も細い体を跳ねさせた。
立てた膝が震え、シーツを手繰る手も強張っており、ぞくぞくとしたものが体を昇ってくる感覚を堪える事が出来ない。


「や、ふ…あっ、あっ……!」
「イっていいぞ」


 囁いて、レオンはスコールの雄をきゅうっと握った。
ビクッ!とスコールの体が震えた直後、神経が集まっている裏筋を指先で擦る。
スコールはベッドシーツに顔を埋めて、くぐもった悲鳴を上げて絶頂した。


「ふむっ、んんっ!うぅうん……っ!」


 爪先がシーツの波を蹴って、ピンと張る。
ビクッビクッ、ビクッ、と細い腰が跳ねて、レオンの手の中にどろりとしたものが吐き出された。

 快感の余韻で四肢を固まらせて痙攣していたスコールだったが、数秒もすると、くったりと力が抜け落ちた。


「あ…う……」


 ベッドに伏し、何処かうっとりとした表情を浮かべるスコールに、レオンは頬を緩める。
胸を抱く手で、くすぐるように乳輪を刺激すると、弛緩したままの体がヒクッ、ヒクッ、と反応を返した。


「んぁっ…あっ……」
「気持ち良かったか?」
「はぅ…んん……っ」


 スコールの蜜液で濡れたレオンの手が、白い尻を撫でている。
柔らかく揉むように捉まれて、スコールは逃げを打つように腰を揺らした。
しかしレオンは意に介さず、双丘の狭間で物欲しげに口を伸縮させている秘孔へと指を宛がう。


「……ああぁっ……!」


 つぷ…と形の良い指が侵入する感覚に、スコールは天井を仰ぐ。
ゆっくりと進んで行く指に、狭い道が閉じて更にきつくなり、指を締め付けている。
レオンは時折僅かに指を引き、ふっ、とスコールの口から吐息が漏れた瞬間、また奥へと指を進めた。
前進と後退を繰り返している内に、スコールの秘部は指を厭う事はなくなり、肉が侵入者を誘うように柔らかく絡み付いて行く。

 二本目の指が挿入されて、スコールはぶるっと腰を震わせた。
圧迫感と同時に、明らかな快感が背中を昇ってくる。


「あっ…あっ…んんっ……」
「奥までヒクついてる」
「やぁ…言う、な……あぅっ」


 指先が内肉の膨らみを突いて、ビクン!とスコールの体が跳ねた。
はくはくと口を開閉させ、瞳を彷徨わせるスコールに、レオンは同じ場所を集中して擦ってやる。


「あっ、あっ、んぁっ…!や、そこ…んっ、んんっ」
「嫌と言う割には、気持ち良さそうに見えるぞ」
「ふく…んぁ……っ」


 胸を弄っていた手が、いつの間にかスコールの口元に来ていた。
声を殺そうと噛む唇を、指先が擽って、薄く開いた唇の隙間に滑り込む。
歯列をなぞるように指が滑り、スコールがいやいやと首を横に振れば、咎めるように耳朶が噛まれた。


「あっ…!」


 思わず高い声を上げたスコールに、レオンの喉がくつりと笑う。
レオンの舌がスコールの耳朶に宛がわれ、ゆっくりと形をなぞるように滑って行く。


「やっ、あっ…!あぁ……っ!」
「…反応してるぞ、此処が」


 吐息がかかる程近くで囁かれて、スコールの秘孔が指を噛む。
耳の裏側を舌がなぞるタイミングに合わせ、秘孔を噛む肉がきゅうっ、きゅうっと窄まった。


「ん……あっ…、ふぅん…っ!」
「……耳、感じるんだな?」
「……て、ない…っ」


 レオンの言葉に、スコールは首を横に振った。
が、じゅる、とわざとらしく音を立てて耳朶を舐められて、「ふぁあっ…!」と甘い声が漏れる。

 レオンはスコールの耳を舐りながら、秘孔口に埋めた指を抜き差しする。
にゅぷっ、にゅぷっ、と粘液の音を立てながら秘孔を突く指に、スコールは細い腰を震わせ、強くなっていく快感に怯えるように涙を滲ませた。


「や、あっ、あっ…!は、んんっ…!」
「ん……はぐ、」
「んぁあっ」


 三度レオンの歯がスコールの耳を甘噛みする。
最早スコールには、喉を突いて出る声を堪える事も出来なかった。


「や、だから…噛む、なって……」
「ん、ちゅ、」
「ひんっ!な、舐めるのも…っんん!」


 抗議の声を遮るようなタイミングで、秘孔の指が引き抜かれた。
媚肉を引っ張られる刺激に、スコールはぶるっと体を震わせ、名残の快感に尻たぶがヒクヒクと痙攣する。

 レオンは自身の雄を扱いて勃起させると、スコールの陰部にそれを宛がった。
塗りたくられた蜜液と、散々に解されたお陰で、秘孔は物欲しげに戦慄いている。
レオンの指が入口を拡げるように穴の皺を伸ばせば、くぱっ、と口が広がって、押し当てられた先端に肉が吸い付いて来るのが判った。


「あぁ……っ」
「…まだ入ってないぞ」


 悩ましい声を上げるスコールに、レオンは焦らすように、宛がった雄でつんつんと入口を突く。
もどかしさに耐え切れなくなったスコールは、自ら腰を高く掲げ、


「レ、オン……もう…入、れ……っ」


 嬲られる耳を赤く染めて、スコールは潤んだ瞳で覆い被さる男に訴えた。
縋るような瞳の横顔に、レオンは自身の熱が昂るのを自覚する。

 早く、と強請る少年の、耳の裏側にキスをして、レオンはゆっくりと腰を押し進めた。


「ふぁっ、あっ、あぁあ……っ!」


 じっくりと味わうような速度で進んで行く熱に、スコールの足がシーツを蹴って強張る。
攣りそうな程に緊張している足を、レオンの腕が掬い上げて、スコールはベッドに半身を預けている状態にされた。
片足を上へと持ち上げられ、下肢を大きく曝け出す格好に、いやだ、と身を捩って抵抗するが、最奥の壁を押されて、意識は快感に流される。


「んぁ、あ…深、ぁ……っ」
「動く、ぞ……っ」
「────あぁっ…!」


 スコールの返事を待たず、律動は始まった。
奥から入口までの道を、ずんずんと激しく突き上げられて、スコールの細越しがビクッ!ビクッ!と跳ねる。
逃げを打つように跳ねる腰を掴まれれば、叩きつけられる劣情に翻弄されるしかなく、掲げられた足が爪先までピンと強張った。


「あっ、あっ、あっ…!うぅ…んんっ」
「……っく……んっ!」
「ひぅんっ…!」


 再び覆い被さる男の体温に、スコールは包み込まれて、顔を赤くした。
触れ合う場所から伝わる熱は、互いの皮膚すら溶かしてしまいそうな程に熱い。

 体内で大きくなって行くレオンの存在を感じながら、スコールの呼吸は逸って行く。
耳元や首筋にかかる、レオンの髪がくすぐったくて仕方がないが、それすらスコールには愛おしかった。


「あっ、レオ、ン、ふぁっあぁっ…!」


 ぐりっ、と深い場所を大きく抉られて、スコールはびりびりと甘い痺れが全身を奔るのを感じた。
大袈裟な程に身を大きく撓らせるスコールに、レオンは歯を食いしばって、律動を早くする。
行き着く暇も無い程の激しい攻めに、スコールはすらりとした白い喉を反らし、震わせて、夢中で喘ぎ啼いていた。


「はひっ、そこ…んっ、あぁっ…!」
「ああ……もっと、だろう?」
「ふぅんっ……!」


 腰を抱き寄せられ、互いの陰部がぴったりと密着する。
スコールの手が石のように固くベッドシーツを握り締めた。
その手をレオンが柔らかく解いて、二人の指を絡ませる。


「レオ…んっ、奥…当たって、ぇ……っ」
「…少し苦しいか?」
「…は、ひ……んん……っ」


 心配するように訊ねるレオンに、スコールはふるふると首を横に振った。
圧迫感や異物感はどうしても否めないが、苦痛は感じていない。

 無理はするなよ、と耳元で囁くレオンの声に、スコールはぞくぞくとしたものが背中を奔るのを感じていた。
呼応するように、秘孔が窄まって、レオンの雄を締め付ける。
それを感じ取ったレオンは、またスコールの耳に舌を這わせた。


「ああっあっ…!」
「耳、やっぱり感じてるじゃないか」
「は、う……んんっ…!や、だぁ…っ!」


 耳にかかる吐息と、ねっとりとまとわりつく熱い物を嫌うように、スコールは弱々しく頭を振った。
少し虐めすぎたようだ、とレオンは眉尻を下げて微笑み、濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でてやる。


「怒るな」
「…ふ、んっ……」
「…気持ち良くしてやるから」


 通りの良い低音が鼓膜を震わせるだけで、スコールの体は堪らなく熱を上げてしまう。
それを解ってやっているのか、無意識なのか、スコールには判らなかったが、何れにせよ、この声に自分が骨抜きにされているのは事実であった。

 抱えられていた足を押し開かれた弾みで、スコールの体が仰向けに反転される。
納められたモノが中で擦れるのを感じて、スコールは息を詰めた。
ひくっ、ひくっ、と体を震わせるスコールに、レオンは馬乗りになり、スコールの秘奥を突き上げる。


「あっ、はっ、あぁっ…あぁあっ…!」
「は……いい、顔だな…スコール」
「や、見るな……ふぁっ、あっあっ……!」


 赤らんだ顔を隠そうとするスコールだったが、一足早く、両腕を掴まれてベッドに縫い付けられる。
そのまま雄の力で体を揺さぶられ、スコールはぱさぱさと髪を振り乱した。


「レオ、あっ、レオンんっ…!も、んんっ…来る…ぅんっ!」
「ああ……俺も…っ!」


 スコールの両腕を縫い付けたまま、レオンはスコールの唇を己のそれで塞いだ。
抵抗しない舌を絡め取り、唾液を混ぜ合って、歯列の裏をなぞる。
宙を蹴っていたスコールの足が、レオンの腰に絡み付いて、しっかりと掴まった。


「ん、んっ、ふぅ…んんっ!」
「ふ、ぅ…んっ、っは…!」
「はぁっ、あっ、あっ、あっ…!レ、オ…イく…っ、あぁああ…っ!!」


 ベッドに縫い付けられた四肢を大きく戦慄かせ、スコールは絶頂を迎えた。
ビクン、ビクン、と痙攣する体の中で、雄を咥え込んだ蜜壺がより一層強く締まって、レオンの雄を根本から入口までみっちりと咥え込む。
どろどろに溶け切った熱い肉の感触に、レオンもまた唇を噛んで、愛しい少年の中へ自身の劣情を注ぎ込んだ。





 たかが四日、されど四日。
離れ離れになっていたその時間を、長いと見るか短いと見るか、断言は出来ない。
忙しなく過ごしていれば短かったように思うし、しかし思い返して見れば酷く長い時間だったようにも思えた。

 その四日間を埋め合わせるように、情交は長く続いた。
スコールは声を抑える事を忘れ、夢中になってレオンに縋り付き、レオンも何度もスコールの名を呼ぶ。
部屋の外を仲間が通り掛かるかも知れない、と言う不安は、レオンは勿論、スコールもとうに忘れてしまっていた。

 そして疲れ果てて共に意識を飛ばし、目を覚ました時には、部屋はすっかり暗くなっていた。
窓のカーテンの隙間から、青白い月明かりが細く滑り込んでいるのを見て、今が夜更けである事を知る。


(寝過ぎた……)


 抱き締める男の腕の中で、スコールは思った。
自分がいつ寝たのか、いつまで睦み合っていたのかは判然としないが、記憶にある限りでは、まだ夕暮れも迎えていなかった筈だ────と思い返して、昼日中から夢中で恋人と貪り合っていたと言う事実に気付き、撃沈する。

 赤くなって唸るスコールを、レオンはぼんやりと開いた目で見詰めていた。
一応、意識はクリアになっているのだが、起きるのが面倒で、且つ起きるとスコールを解放しなければならないので、眠いポーズを続けている。


(……夕飯、食べてなかったな)


 腹が減った、とレオンはぼんやりと考える。
今日はティファが腕によりをかけて作ると言っていたので、年少組が皆楽しみにしていた。
よく気の付く彼女の事、スコールとレオンの分もきちんと確保してくれているだろう。
温かい内に食べなかったのは悪い事をしたな、と思いつつ、腕の中で身動ぎする少年を抱き締める。


「レオン?」


 起きてるのか、と訊ねる恋人の声に、レオンは反応しなかった。
寝惚けた振りをしながら、スコールの肩に鼻柱を埋める。

 スコールはしばらくの間、レオンの寝顔を見上げていたが、じっとしていると緩やかな睡魔が手招きを始める。
シャワーくらい浴びないと、と思いつつ、体の重さと怠さと、抱き締める腕が離れるのは嫌だった。
規則正しい心臓の音を伝える胸に頬を寄せれば、背中に回された腕が少し力を籠める。
耳元に触れる恋人の吐息に、満足したはずの熱がくすぶるのを感じつつ、今はこのままが良い、とゆっくりと目を閉じた。




『レオンに耳を舐められただけで感じるスコール』でリクを頂きました。
耳舐めってエロくて好きです。楽しかった。

コンフェート=confetto=金平糖(砂糖菓子)