何もかもが初めての


 絶頂の余韻に浸るように、スコールの体が小刻みに震えているのを、サイファーはじっと見下ろしていた。
強張りが解けて弛緩した体は、ぐったりとベッドの上に投げ出され、まるで捧げられた供物のように見える。
となれば、自分はこれから獲物を喰らおうと言う獣か。
間違ってはいないな、と思いつつ、サイファーはスコールの膝を押して、足を大きく開かせた。


「っは…あ…う……?」


 未だ呆けている蒼が、何、とサイファーを見上げる。
蕩けた表情を見せるスコールに、サイファーの喉が鳴った。


「やっぱ初めは痛いらしいけど、我慢しろよ」
「……?」
「後でちゃんと気持ち良くしてやるからよ」


 そう言って、サイファーはスコールの秘部に指を宛がった。
あらぬ場所に触れられる違和感に気付いて、ビクッ、とスコールの体が竦む。

 此処まで来れば、何をするのか、何をされるのか、スコールにも判った。
女と違い、受け入れる器官がない男の体で、どうやって性交渉をするのか知らない訳ではなかったが、本気でする事になるとは思っていなかった。
が、此処まで来て気付かない程、スコールとて鈍くはない。
本気でそんな所を触るのか、と戦々恐々としつつ、スコールは息を飲んでその瞬間を待つ。

 ───つぷ…っ、と秘所に異物が挿入されるのを感じて、スコールの体が硬くなる。
息を詰めて身を縮こまらせているスコールに、サイファーは先端だけを埋めた指が拒まれるのを感じて、小さく舌を打った。


「おい、スコール。力抜け、入らねえ」
「…そ、んな…事…言われても……っ」


 男としてか、生理的嫌悪か、拒絶を示す体を宥めるのは容易ではない。
本能的な反応なのだから、自分の意思だけではどうにもならなくて、かと言って目の前の男は止めてくれそうもないし、とスコールは泣きたい気分だった。


「おい、ちゃんと息しろ。マジで窒息するぞ」
「ん、ん……う…っ」
「ったく……」


 しがみ付くばかりで、呼吸すらも忘れているスコールに、サイファーは溜息を吐く。
しかし、心の準備も儘ならなかったスコールに、此処まで押し進めて来たのは自分である。
宥めるのは自分の役目だろうと、噤まれた唇に顔を近付け、親猫が仔猫を宥めるように、下唇をなぞってやる。


「う、ん……っさいふぁ……っん……!」


 唇が重なり合い、ちゅく、と唾液の絡む音が鳴る。
肩を掴むスコールの手が力を籠めて、サイファーを離すまいとしているのが判った。
助けを求めるように縋る手を好きにさせ、サイファーはスコールの舌を絡め取り、外へと誘い出す。
二人の唇の間に隙間が生まれ、其処で舌を絡ませあえば、はっ、はっ…と短い呼吸でスコールの胸が上下した。

 スコールの呼吸を確かめながら、サイファーはゆっくりと秘部に指を埋めて行く。
僅かに内肉が広げられる度、スコールの体は強張ってサイファーの指を締め付けたが、濡れた舌が唇をなぞると、僅かに身を震わせてゆっくりと緩んで行く。


「ふ、っぅ……んんっ……」
「っは……」
「は、ふ…んぁ……あっ……!」


 半分以上の指が侵入して、スコールはぞくぞくとしたものが背を奔るのを感じて、身を捩った。
その拍子に、くにっ、と中を抉られて、ビクッ!と細い肢体が跳ねる。

 呼吸が正常に繰り返されている事を確認したサイファーは、スコールの唇を解放し、反らされた喉へと頭を寄せた。
浮き出た喉仏に甘く歯を立てると、ひくん、とスコールの体が震え、秘孔に咥えた指が締め付けられる。


「や…サイ、ファ……あっ…!」
「ちょっと我慢してろよ……」


 これ以上何を我慢するんだ、とスコールが眉根を寄せていると、埋められた指がゆっくりと前後に動き始めた。
狭い道を擦りながら動く指に、スコールは摩擦の痛みに顔を顰める。


「サ、サイファー…痛、い……っ」
「判ってるから、我慢してろって」
「うぅ……っ!」


 我慢しろ我慢しろって、他人事だと思って。
そう愚痴ってやりたいスコールだったが、喉が詰まったように声が出ない。

 奥で指が探るように動いている。
異物感と違和感で顔を顰め、唇を噛むスコールの顎に、赤い線が伝っていた。
サイファーは空いている手でスコールの口をこじ開けると、口端に滲む血を拭った指をスコールの咥内に入れた。


「んぁっ……!」
「噛むなら、こっち噛んでろ」
「ん、ぐぅ……っ」


 口に入れられたそれの正体を確かめられる程、スコールは平静としてはいなかった。
促されるまま、咥内のものを噛んで、体の奥から競り上がる異物感に耐える。
ぎりぎりと食い込む歯列に、サイファーは片眉を潜めたが、この程度は甘受するべきだと思った。

 秘部に埋めた指が、ぐにっ、ぐにっ、と内壁を押す度、スコールの太腿がビクビクと震えていた。
サイファーは手首を動かしながら、指先を円を描くように動かして、天井や壁を広げて行く。


「ふっ、んっ…ふぅんっ…!」


 ある一点を突いた時、ビクンッ!とスコールの体が一際大きく跳ねた。
もう一度同じ場所を突けば、同じように肢体が跳ね、指を噛む顎に力が入る。

 此処だな、とサイファーは呟いて、同じ場所をぐりぐりと指先で押し上げた。
電流のようなものがスコールの体を駆け抜け、スコールは背を弓形に撓らせて喘ぐ。


「あっ、ああっ!ひっあ…!」


 同じ場所を突き上げられる度、筋肉が引き攣ったように跳ねるが、自分の意思では幾らも動かせなかった。
ぞくぞくとしたものが、腰だけでなく全身に広がって、躯中の力が抜けて行く。


「や、サイ、ファ…やだ、んんっ…!」
「やっぱきついな……つーか、俺も辛ぇ」
「あ、う…っ、んぁ…っ!あぁあっ…!」


 秘部の奥を抉るように蠢いていた指が、ずるっ、と抜けて行く瞬間、スコールは堪らず声を上げた。

 異物感がなくなって、スコールの体はすっかり弛緩した。
ひくっ、ひくっ、と開かれた膝を震わせながら、薄い胸が上下に動く。
天井を仰いだ瞳は焦点が定まっておらず、口を閉じる事も忘れて、熱を孕んだ呼吸を零している。

 サイファーは、自分よりも厚みの足りない躯がぐったりと横たわっているのを見下ろし、罪悪感のような、それ以上にふつふつとわき上がる征服欲に、己の欲望が限界を来している事を感じていた。
異物から解放された秘孔が、慎ましやかな筈の穴を拡げ、ヒクヒクと伸縮している様も、サイファーの熱を煽る。
サイファーは自身の乾いた唇を舐め、窮屈だった前部を緩め、反り返った雄を取り出した。
どくどくと脈打つそれを、ひくつく陰部に押し当てると、はたっとしたようにスコールが目を見開く。


「ちょ、サイファ、」
「なんだよ」
「そ、それ……」


 スコールの目は、下肢に押し付けられたサイファーの一物に向けられている。
膨らんだその体積に慄いたか、スコールの顔は明らかに引き攣っていた。
その気持ちはサイファーも判らないではなかったが、此処までで充分に我慢を強いられていたサイファーである。
これ以上待てと言うのは、究極の生殺しだ。


「や…無理、サイファー…っ!」
「……悪いな」
「バカ─────っっ!」


 頭を振って懇願するように訴えるスコールの意思を振り切って、サイファーは腰を押し進めた。
強張る躯が拒絶反応を示すのも構わず、凶器がスコールの体を最奥まで貫く。

 指の比ではない痛みと圧迫感に、スコールの顔が苦悶に歪む。
同じく、サイファーもぎゅうぎゅうと噛み付くように締め付ける痛みに顔を顰め、息を詰めていた。
凡そこうなるであろう事は予想していたサイファーだが、思っている以上に辛い。
自分がそうなのだから、スコールの体の負担を思うと、やっぱり早まったか、と遅蒔きに思う。

 痛みが納まるまで動く事は疎か、口を利く事すら出来なかった。
性の刺激を覚えたばかりの子供でもあるまいし、性急過ぎた事を後悔するサイファーだが、あれ以上堪えろと言うのも苦しかった。


「ひっ…ひうっ……うぅう……っ!」
「く……おい、スコール…っ、力抜け……っ!」
「あ、あんた、が…抜け…っ!も…痛い…死ぬ、ぅ……っ!」


 痛みなどと言うものは、傭兵にとっては忌避しようのないものだ。
それでも、こんな痛みは初めての事で、スコールは軽く恐慌状態に陥っている。

 手繰り寄せたベッドシーツを握り締め、涙の滲む顔を隠すスコール。
無理をさせている事がありありと判る様子に、サイファーの罪悪感が募るが、秘部に埋めた雄の昂ぶりは一向に萎えを見せない。
大概酷い奴だよな、と自分を自嘲しつつ、サイファーはスコールの腰を掴んで、強引に動き始めた。


「ひっ、あっ!や、サイファーっ…、やめぇ…っ!」
「我慢、しろって……!」
「む、り…痛い…っ!やっぱり、あんた、下手くそ……っあぁ!」


 ずりゅっ、と秘奥を突き上げられて、スコールは悲鳴を上げた。
何かが中で裂けた様な感覚があったが、スコールは考える事が怖かった。
じんじんとした痛みを訴える躯を縮こまらせ、揺さぶる男の欲望に従う以外、今のスコールに出来る事はない。

 早く終わってくれ、と願うスコールを余所に、サイファーは自分が酷い男である事を実感していた。
埋めた雄を前後に動かす度、秘孔の隙間から紅いものが零れ出しているのが見える。
無理をさせるつもりはない、と言った癖に、この有様だ。
それでも尚、昂る欲望は落ち込む事はなく、ぎゅうぎゅうと締め付けるスコールの熱を更に貪ろうとしている。

 スコールの体内で滲んだ紅が、潤滑油の代わりとなって、サイファーの動きを助けて行く。
痛みと締め付けでぎこちなかったサイファーの律動が、徐々に逸って行く毎に、スコールは喉奥から押し出される声を抑えられなくなっていた。


「あっ、うあっ、あっ…、ぎ、い…あっあ…!」
「く、この……っ」
「んうぅうっ…!」


 痛みの気配が消えないスコールの表情に、サイファーは舌を打った。
サイファーの額から滲んだ汗が、頬を伝ってスコールの腹の上に落ちる。
冷たいものが脇腹を伝い落ちて行くのを感じて、スコールはいやいやと頭を振った。


「もう、やだ…っ!痛い、し…苦し……っ!」
「もう、ちょい…我慢してろ…っ、良くしてやっから…!」
「こんなの…よ、くなんか…ならない……っあ!」


 眦に涙を滲ませるスコールに、サイファーはくそ、と毒を吐いた。
痛い思いをさせたい訳ではない事は確かなのに、どうしてもスコールには苦痛しか感じられないらしい。

 サイファーは律動を止め、二人の体の間で頭を垂れているスコールの雄に手をかけた。
びくっ、とスコールの体が震え、蒼灰色が下肢を見遣る。
サイファーが萎えたそれを扱き始めると、苦悶に甘味の混じった声が聞こえ始めた。


「ひっ、あっ…!やめ、触るな…バカ、あ…っ!」


 スコールの手が雄を包むサイファーの手を掴み、振り払おうとする。
しかし、親指の腹で裏筋を、人差し指で先端をぐりぐりと刺激されて、スコールの手から力は失われてしまう。
添えられるだけとなってしまったスコールの手をそのままに、サイファーはスコールの雄を扱きながら、欲しがってるみてえだな、と思う。


「ふあっ、あっ…あぁっ…!」
「ちったあ緩んで来たか?」
「な、にが……あ、んんっ……!ふぅんっ…!」


 中心部から与えられる快感に、唇を噛んで肩を震わせるスコール。
サイファーはその表情を眺めながら、秘奥の締め付けが少しずつ和らいでいるのを感じていた。

 息苦しさと痛みで喘いでいたスコールの声が、徐々に甘味を強くしていく。
サイファーの手の中では、スコールの雄がむくむくと頭を起こしつつあった。
サイファーを咥え込んだ秘部は、喘ぐ呼吸に合わせるようにヒクヒクと蠢いて、サイファーの熱を揉むように絡み付いて来る。


「あ、あ…っは……や、あ…サイ、ファー……っ」


 助けを求めるように名を呼ぶ声は、幼い頃にサイファーが聞いていたものに比べると、随分と低くなった。
それでも潤いを孕んだ蒼や、縋るように伸ばされる手は、サイファーの記憶にあるものと変わっていない。
宙を彷徨う手を掴んで首に絡めてやれば、ぎゅう、としがみ付いて来る。

 やだ、やだ、と子供のように繰り返すスコール。
サイファーが涙の滲む頬にキスをすると、不機嫌な蒼が見上げて来た。
唇を重ね合せると、スコールは少しの間むずがるように唸っていたが、舌を絡めると素直に応える。
ちゅく、と音を立てて舌を遊ばせてやると、ひくん、と肉壁が疼いて、サイファーに絡み付く。


「ん、ん……ふぁ…あ…っ」
「……少しは楽になっただろ?」
「んぁ……あっ…」


 唇を解放し、雄を愛撫しながら言ったサイファーに、返事らしい返事はなかった。
スコールは蒼い瞳をぼんやりと彷徨わせ、濡れた唇からは甘い声を漏らしている。
ぴくっ、ぴくっ、と体が小さく跳ねるのに合わせ、きゅっ、きゅっ、と秘孔が締まってサイファーを刺激していた。

 サイファーはスコールの足を持ち上げると、肩に乗せて、律動を再開させた。
にゅちっ、と動き出した一物に、スコールが一瞬眉根を寄せたが、もう苦悶の声は聞こえなかった。


「ふ、あっ…うっ…、サ、イファー……っ」
「イイか?」
「…わか、ら、ない……っは、んんっ…!」
「…ちょっと待ってろ」
「あ……あっ、あぁっ…!」


 サイファーはスコールの雄へ愛撫を続けながら、一度腰を引いた。
埋められたものが下がって行く感覚に、スコールの腰がぶるっと震える。

 サイファーは入口に雄を引っ掛けた状態から、浅い律動でスコールの中を刺激し始めた。
奥を突き上げられていた時と違い、短いストロークで何度も同じ場所を擦られ、スコールはじわじわとしたものが下肢から上って来るのを感じていた。


「ふ、んっ、んんっ…!っあ、う…っ」


 何かを探るように動く雄に、スコールはもどかしさのようなものを感じて、ふるふると頭を振った。
ぐにっ、ぐにっ、と狭い道を広げながら、角度を少しずつ変えて肉壁を押されているのが判る。

 ねっとりと絡み付いて来る熱い媚肉を感じながら、サイファーは吹き飛びそうになる理性を必死で押し留めていた。
熱に溺れた蒼を彷徨わせ、白い頬を火照らせ、汗を滲ませるスコールの表情に、己の欲望が凶暴さを増して行くのが判る。
しかし、子供の用に縋り付いて来るスコールに、暴走するのは早いと歯を食いしばった。


「はっ、やっ、サイファ…んぁっ、あっ…!」
「……っくそ……っ」
「あ、あっ、んんっ…!んっ、ふぅ…っ!」


 漏れた悪態が、誰に対してのものなのか、スコールは勿論、サイファーにも判らなかった。
スコールの雄を扱くサイファーの手付きが、やや粗暴さが目立ち始める。
スコールの体内では、咥えた雄がむくむくと体積を増して行き、狭い秘孔を限界まで拡げていた。


「や、サイファー…も、もう……っあぁ!」


 ぐちゅっ、と肉の上壁が押された瞬間、甲高い声が響いた。
にぃ、とサイファーの唇が弧を描く。


「此処だな…っ!」
「───ひぁあっ!」


 同じ場所をもう一度突き上げると、スコールはもう一度高い声を上げる。
確信を持ったサイファーは、背中に立てる爪の痛みを感じながら、再び律動を速めて行く。

 ずんずんと絶え間なく突き上げられて、スコールは呼吸すら忘れて喘ぎ始めた。


「んぁっ、あっ、あぁっ!ひ、や…サイ、ファー…っ!」
「いい声出て来たじゃねえか」
「や、んん……あぅんっ!やだ、や、ひぃうぅっ…!」


 唇を噛んで声を殺そうとするスコールだったが、過敏な場所をぐりぐりと抉るように押し潰されて、抵抗は呆気なく崩されてしまう。
そのまま激しさを増して行く攻めに、スコールは背筋を撓らせ、爪先がピンと伸ばしていた。

 サイファーは、ビクッビクッと震える太腿を膝で押して、スコールの足を大きく開かせる。
サイファーを咥えた場所も、刺激を与えられ続けすっかり頭を持ち上げた雄も、何もかもが見える格好だ。


「サイ、ファ、やだ、あぁっ…!見るな、触るなあ……っ!」
「やだね。全部見せろよ」
「んっ、んぁっ、あぁ…!や、ひっ、そこ…っん!もう、んくっ…あぁん…っ!」


 サイファーの手の中で、スコールの雄が切なげに震え、鈴口からは先走りが零れ始めていた。
抵抗らしい抵抗は既になく、スコールはサイファーの律動にされるがまま、体を揺さぶられている。
ぐりっ、ぐりゅっ、と弱い所が押し上げられる度、スコールの腰が震え、媚肉が痙攣するように蠢くのがサイファーに伝わった。
その動きが、もっと、と求められているように思えて、サイファーの興奮は増して行く。

 サイファーがスコールの雄に爪を立てると、ビクン!と細い四肢が大きく跳ねた。
スコールは舌を伸ばして喘ぎながら、嫌だ、駄目、と譫言のように繰り返す。


「あっ、あっ、サイ、やっ、だめ、んぁっあぁっ、やぁっ、あぁああ…っ!」
「嫌嫌言ってる割に、此処は嬉しそうに見えるぜ」
「バカ、んぁっ、あぁうっ!はひっ、ひんっ、あ、あ、あ、」


 ぎしぎしとベッドのスプリング音が煩く鳴る。
早まって行くサイファーの律動に、スコールは最早まともに言葉を紡ぐ事すら出来なかった。
突き上げに合わせるように、ビクッ!ビクッ!と躯の筋肉が跳ねて、喉からは甘い声が押し出される。
見下ろす碧眼に映る顔は、締まりをなくしたように蕩けていて、スコールはそれが自分の今の顔だと知って、嫌悪と同時に言い知れない熱を感じていた。

 スコールの体内で、サイファーが大きく脈を打っている。
サイファーの呼吸が上がって行くのを、スコールは遠い意識の向こうで聞いていた。
それ以上にスコールの呼吸も早くなり、ぞくぞくとしたものが体の奥から湧き上がって来るのが止められない。


「やっ、あっ、あぁっ…!んっ、んぁっ、来る…っ!サイ、ファ、あぁっ!」


 悲鳴に似た嬌声を上げるスコールの躯は、限界を迎えていた。
あらぬ場所から与えられる刺激と、サイファーの手によって与えられる快感が、身体を内側から壊して行く。
その感覚への恐怖は不思議と感じられず、押し迫る瞬間への解放感が強くなって行くのが判った。


「はぁっ、イっ、イくっ!んっ、あぁっ…!」
「ああ……良いぜ、イけよ。お前のイってる顔、俺に見せろ…っ!」
「やっ、はっ、はぁっ、あぁっ!んぁあぁあああっ…!!」


 ぎゅうっ、と握るように陰部を強く掴まれ、根本から内側の物を押し出すように、先端に向かって絞られる。
同時に、ぐりゅぅっ、と奥の壁を抉られるのを感じて、スコールの体の中で熱が弾けた。

 サイファーの手で絞り出された熱が、二人の腹を汚す。
長い絶頂に誘発されて、スコールの秘部に力が入り、咥え込んだ男を強く締め付けた。
全体に絡み付いて来る快感に、サイファーも同じく限界を迎える。
体内へと注がれる熱い奔流を感じながら、スコールの意識は真っ白なものへと飲み込まれて行った。




 スコールが目を覚ました時、始めに感じたのは、鈍痛だった。
何処から、と言うのを考えるのが億劫な場所から響いた痛みに、その原因となったであろう男に殺意を覚える。
して、その男はと言うと、スコールの傍らで寝煙草を吹かしていた。

 柔らかな布の感触が肌に当たるので、自分が裸である事を認識するまで、それ程時間はかからなかった。
サイファーも同じく裸身で、スコールと同衾した状態になっている。
スコールは、覚醒と同時に自覚した鈍痛の波が収まるまで、碧眼の横顔を細めた双眸で見詰めていた。

 時刻は判らなかったが、レースカーテンの向こうには世闇と月があったので、今が夜半である事だけは判る。
その月明かりに照らされたサイファーの指に、くっきりと噛み後が残っているのを見付けて、スコールは顔が熱くなった。
それを誤魔化そうと枕に顔を埋めていると、


「起きたのか」


 問い掛けと言うよりも、確認のような声だった。
スコールがもそもそと顔を上げると、サイファーはベッド横のサイドチェアに置いた灰皿に煙草を押し付けていた。


「気分はどうだよ」
「……最悪だ」


 不機嫌を滲ませる声で言ってやると、サイファーが喉で笑うのが聞こえた。
他人事だと思って、とスコールの眉根が寄せられる。
徐にスコールがサイファーの肩の皮膚を抓ると、「いって!」と悲鳴が上がった。


「何しやがんだ、テメェ」
「………」
「いてぇっつーの!せめて何か言え!」


 無言で皮膚を抓り続けるスコールに、サイファーは起き上がってスコールの手を振り払った。
スコールは払われた手をシーツ上に戻すと、枕に顎を埋めて唇を尖らせる。
不満をありありと示す表情に、サイファーは溜息を吐いて、胡坐を掻いてスコールを見下ろす。


「無理させたのは悪かったよ」
「……」
「あと、まあまあ強引だったのもな」
「……まあまあ?」


 セックスするぞ、と一方的に決めて、上下の役割も決めて、嫌だと言っても聞いて貰えず。
これを“まあまあ”の勝手と言うのかと睨むスコールに、サイファーも流石にばつが悪くなったようだった。
理屈を捻じ曲げてでも自分の非を認めたがらない男にしては珍しく、「……悪かった」と重い声で殊勝な態度になる。

 スコールは枕に顎を埋めたまま、視線だけでサイファーを見遣った。
目が暗がりに慣れたお陰で、座っている男の体躯をはっきりと見る事が出来る。
自分よりも遥かに体格に恵まれている男に、若干の嫉妬を覚えつつ、その体が汗もなくすっきりとしている事に気付いた。
其処から自分の体もすっかり清められている事を知り、なんともむず痒い気分に襲われる。

 腰の痛みが引いたので、スコールはゆっくりと起き上がった。
じん、とした鈍痛が響いたが、僅かに顔を顰めるだけで済んだ。


「……痛かった」
「…おう」


 呟いたスコールに、サイファーは短く返事を寄越した。


「……なんか裂けた気がする」
「…ああ。そうだな」
「……変な声、一杯出たし」
「俺には良い声に聞こえたけどな」
「………」
「冗談だ。睨むな」


 両手を上げて降参ポーズを取ったサイファーだが、スコールは今の台詞は冗談で言っていない、と思う。
それがまた、スコールには腹立たしい。

 意識を飛ばす直前までの事を、スコールははっきりと覚えていた。
痛くて気持ちが悪くて、けれどもそれだけではなかった事も、鮮明に思い出す事が出来てしまう。
脳裏に蘇る遠くはない感覚に、赤くなる顔を俯ける事で隠した。


「……最悪だった」
「……おう」
「………」


 スコールは、口の中で歯噛みの悪いものが詰まっているような気がしていた。
裸の体に夜の冷気が触れて、小さく体が震える。
冷えるぞ、と言って差し出されたシーツを引っ手繰るように受け取って、蓑虫のように包まった。
サイファーが寒そうに二の腕を摩っていたが、気付かない振りをして、暖を一人占めする。

 包まったシーツから、僅かに煙草と鉄の匂いがする。
日々を此処で過ごすサイファーの匂いである事は言うまでもなく、スコールはサイファーに抱かれているような錯覚を覚えた。
当人は目の前にいるので、そんな事を口に出せば、こっちにしろ、とシーツを奪われて捕まえられるのが用意に想像できる。

 ほんの数時間前まで、そうして囚われていたのだと思い出して、スコールの顔に血が上った。
立てた膝に火照った顔を押し付けると、おい、と呼ぶ声がする。
そのまま無反応で過ごしていると、溜息のようなものが聞こえて、くしゃくしゃと頭を撫でられた。
幼い頃から変わらない、乱暴だけれども決して髪糸を絡めないように動く手指に、見た目に寄らず器用だよな、と関係ない事を考えながら、スコールは口を開いた。


「……俺は、最悪だったけど」
「……ああ」
「………あんたは?」


 その質問の詳細を、サイファーは問わなかった。

 膝に押し付けていた顔を上げ、蒼灰色が上目で目の前に座る男を見た。
じぃ、と真偽を見極めるように見詰める瞳に、サイファーはしばらく言葉を探すように沈黙していたが、


「……俺は、最高だった」
「……!」
「もう一回───いや、また何回でもヤりたい位にな」


 八重歯を見せて笑う男の言葉に、スコールの顔が夜目にも判る程に赤くなる。
碧眼はそれをしっかりと見ており、にんまりと唇が笑むのを見て、スコールは赤い顔で眉根を寄せる。


「…バカじゃないのか…!」
「バカで結構。実際、お前が気絶した後、もう一回ヤろうかと思ったしな」
「な……!」
「言っとくがヤってねえからな。始めてはどうしたってキツいらしいし、お前の方が負担でけぇのは判ってるし。お陰で後処理が大変だったけどよ」


 最後の一言が余計だ、とスコールは思った。
が、それでも、サイファーがスコールの体調を配慮してくれたのは確かだった。

 聞かなければ良かった、と思うスコールを余所に、サイファーの唇は笑みを深める。
煙草の匂いをまとわせた手が、スコールの赤らんだ頬に触れた。


「っつー訳で、次はもうちょっと頑張れよ。毎回、一回で気絶されてたら、俺が満足出来ねえからな」


 そう言って笑ったサイファーの顔は、スコールが幼い頃から何度も見て来た、自信に溢れたガキ大将の顔だった。
気が弱かったスコールは、その顔で孤児院の仲間達を引っ張って行くサイファーに、心密かに憧れたものだ。
姉がいなくなり、仲間達がいなくなり、バラムガーデンで過ごすようになってからも、それは長らく変わらなかった。
いつも一人で閉じ籠っているスコールを、サイファーは自信に満ちた顔で引っ張り、外の世界へ連れ出して行く。
彼が笑って大丈夫だから、と言えば、それで全てが上手く行くような気がしたから、スコールはいつも、うん、と頷いてサイファーについて行った。

 ───が、此処に限っては、ちょっと待て、とスコールは我に返る。
今此処で頷くのは、自分の矜持が赦せない。


「次って……またこんな事するのか?」
「こんな事とはご挨拶だな。恋人同士のロマンティックな一時だぜ?一回だけで終わりなんて連れねえこと言うなよ」
「ロマンは俺にはどうでも良いが……」


 ざっくりと言い切るスコールに、サイファーは不満げに睨んだが、スコールは気に留めなかった。


「“次”の時は、俺が上をやるからな」
「……はあ?」


 睨んでいたサイファーの目が丸くなり、ぽかんとした顔でスコールを見る。
サイファーは二度、三度と瞬きをした後で、胡乱な顔を浮かべた。


「なんだよ。お前、不満だったのか?」
「不満とか言うレベルの問題じゃない!」
「気持ち良くしてやっただろーが。結構ヨかったろ?」
「痛かったし、気持ち悪かった!」
「そりゃ初めてなんだから、それもあるだろうよ。でも最後はしっかりイってたじゃねえか」
「イ、イってない!あんたみたいな下手くそでイけるか!」
「あぁ?」


 サイファーの声が低くなり、目が据わる。
地雷を踏んだ事は明らかであったが、スコールは退かなかった。
それが最悪の選択である事に気付かないまま。


「とにかく、次は俺が上になる」
「騎乗位か?」
「違う!俺があんたを抱くんだ」
「お前、俺の事抱きたい訳じゃねえんだろ」
「だからって俺が絶対抱かれる側じゃなきゃいけない訳じゃないだろ。あんたが下でも良い筈だ」
「俺が良くねえ」
「良いから、次は俺が上だ。あんたも一回、俺と同じ思いをすれば良い。痛いし気持ち悪いし、本当に死ぬかと思ったんだからな!」


 スコールのその叫びは、自分が体験した大変な思いを、少しでも目の前の男に理解させたい一心であった。
次いで、サイファーの言う“気持ちが良かった”と言う言葉を受け入れる事に、未だ苦い気持ちが抜けなかった所為もある。

 サイファーが落ち付いていれば、スコールのそんな心情を見抜く事も出来ただろう。
強引に事を始め、辛い思いをさせた事への負い目も否めなかったし、気を失ったスコールの寝顔を見ながら、起きたら我儘の一つや二つ位は聞いてやろうと思っていた。
───が、そんな殊勝な気持ちも、先のスコールの一言ですっかり消えた。

 がしっ、とサイファーの手がスコールの包むシーツを掴み、力任せに引っぺがす。
裸身にされたスコールは、一瞬自分の現状に追い付けずに呆然としてしまった。
その隙を逃さず、サイファーはスコールの両肩をベッドシーツへと縫い止める。


「死ぬ思いか。そりゃあ悪かったな」


 血の底から這い出るような低い声に、スコールはようやく、自分が危険物を踏み抜いた事に気付いた。
間近で見下ろす碧眼は、餓えた獣のように獰猛な色を宿しており、スコールは蛇に睨まれた蛙のように息を詰めた。

 固まったスコールを見下ろして、サイファーは如何にも愉しげに言った。


「お詫びに、死ぬほど気持ち良くしてやるから、覚悟しろ。ついでに、上だの下だのどうでも良くしてやるよ」


 碧眼がにたぁ、と笑う。
完全に凶悪犯の顔だ、とスコールは思った。




『サイスコで初めて物語』と言う事で、初めてのえっち話。
物凄く諦めの悪いスコールが浮かんだので、全力抵抗させてみた。結果、サイファーが凄く疲れる。
サイファーが相手なら、スコールも意地になってこんな事言い出すかなと。絶対サイファーは逆転させないけど。

あと、我慢するけど我慢し切れないサイファーもいいなって。
優しくしたいけど、耐え切れずにがっついて、色々後悔しつつも止まらない若い感じとか。良いなって。