熱を呼ぶ声
テレフォンセックス


『服を脱ぐのは少し寒いか。下だけ───』
「…もう脱いでる…」
『そうか。じゃあ……そうだな、仰向けや俯せより、座っている方が楽かな』


 促された通りに、スコールは起き上がってベッドと密着している壁に背を預けた。
煌々とした部屋の明かりで、自分の格好が眼前に晒されて、スコールの頬が赤くなる。


『携帯、ハンズフリーにした方が楽だぞ』
「……うん」


 携帯電話の設定をハンズフリーにして、ベッドに置いた。


『先ず───今、どうなっているのか教えてくれ』
「……どうって……」


 スコールが自分の体へと視線を落とすと、頭を持ち上げている中心部があった。
緩く包んだ手の中で、ひょっこりと頭を出しているそれは、ぴくっ、ぴくっ、と切なげに震えている。

 この有様を、自分で説明しろと言うのか。
自分の有様を確認する事すらスコールには恥ずかしくて堪らないのに、口で説明など出来る筈がない───が、電話の向こうは静寂のみで、スコールの言葉を待っているのは明らかだ。
スコールは、はぁ…っ、と息を吐いて、震える唇を動かした。


「……勃って、る……」
『結構キてるか?』
「……まだ。あんたが…触ってた時みたいなのは、ない…」


 中心部は頭を起こしていはいるものの、濡れる気配はないし、体の奥から競り上がってくる熱の感覚もない。
包んだ手を上下に動かして扱いてはいるが、それも緩やかなものであった。
クラウドと付き合う前は、問題なく事故処理で済ませる事が出来ていたのに、何が変わったのか。
恐らくは、クラウドに触れられる事が当たり前で、躯もそれに馴染んだから、自身の機械的で拙い愛撫では物足りなくなってしまったのだろう。


「クラウド……」


 どうすれば良い、と迷子になった子供のような声で、スコールは恋人を呼んだ。


『足を開いて』
「……ん……っ」
『自分で触って。両手の方が良いな。右手で上を、左手で全体を扱いて』
「…っあ……んっ…!」


 言われた通りに足をM字に開き、右手で膨らみを撫で、左手で竿を扱く。
片手だけで単調に刺激しているよりも、僅かに強い刺激がスコールを襲い、押し殺していた声が零れた。


『裏側に爪を当てて、擦ってみろ』
「……んぁっ…!」


 立てた爪をくすぐると、びりっ、としたものが腰に走った。
広げた足がビクッと跳ねて、じわじわと深くなって行く熱の重みに、背中を丸める。


「ふ、あ……」
『同じように続けろ。扱いてる方も、根本の方の皺がある所を擦ると気持ちが良いぞ』
「ん、ん……うぅん…っ!」


 当てた爪を続けて擦り続けながら、根本に指先を当てる。
下から上になぞって、スコールは壁に押し付けた背を小さく丸めた。
口を開けば情けない声が出るのが判ったから、精一杯に唇を噛んで声を殺す───と、


『スコール。声を出せ』
「…い、やだ……」
『出した方が気持ち良い』
「……っ…」


 今夜はラグナが帰って来ないので、誰かに聞かれると言う心配はないが、それでも甘ったるい自分の声を聞きたくはないし、電話の向こうの相手に聞かれるのも恥ずかしい。
けれど、体が求める快感への欲求は強く、スコールはゆっくりと唇の強張りを解く。


「あ…あっ…、や、あ……ん…っ!」


 体をすっかり縮こまらせた状態で、スコールは自慰を続ける。
根本に宛てた指に力を入れて、皺が集まっている場所を擦ると、足の太腿の筋肉が伸縮反応を示す。
刺激が与えられる毎に、ビクン、とあからさまに跳ねる動きを見せる躯を見るまいと、スコールはぎゅっと目を閉じた。

 視覚情報を捨てると、聴覚や嗅覚は勿論、触覚も研ぎ澄まされる事になる。
中心部に宛てた指の感触が、一層はっきりと伝わるのを感じて、スコールの吐息に艶が篭る。
自らの手で上り詰めるのが随分と久しぶりな所為か、微かに恐怖心に似たものが過ぎるが、同時に、同様のものをクラウドと重なり合っている時に感じていた事を思い出す。
それなら、この後にあるものは、と考えて、スコールの脳は本能へと流されて行く。


「は…はぁっ……う、ぅんっ……!」
『スコール。今どうなってるのか、教えてくれ』
「……う……」


 閉じていた目を止む無く開けて、スコールは自分の体を見下ろした。
じっとりと汗ばんだ躯が其処にはあって、中心部も膨らみも増している。
先端の窪みに親指を当てると、ぞくん、としたものが背中を奔った。


「はっ……ん、んぅっ…」
『スコール。どうなってる?』
「んぅ……うん…っ……さっきより…固い……」


 電話の向こうで、小さく笑う気配があった。
スコールの脳裏に、褥の中で見ていた、恋人の貌が蘇る。
その貌で、彼はスコールの中心部を奥から入口へと向かってゆったりと撫で、くすぐり、小さく笑ってスコールが喘ぐ様を見詰めている。
今もきっと、電話の向こうで、同じ顔をしているに違いない。


『根本から握って、押し出すように扱く』
「う、う…んんっ……!」
『少し痛いか?力を抜いて良い。そんなに力一杯握らなくても、気持ち良くなれるから』


 そんなに、なんて、今のスコールの姿が見えている訳でもあるまいし。
クラウドの前で自慰行為などした事もないのだから、スコールがどんな風に自身に触れているかも、彼は想像も出来ない筈だ。

 そんな事を考えながら、スコールは一物を握る手を緩めた。
包む程度の優しい力にして、奥から出口に向かって絞るように扱いて行く。
感じる刺激は弱まったが、代わりに腰の奥から這い上がるように何かが上って来る。


「あっ…あ…っ……うぅん…っ」
『イきそうか?』
「…ん……まだ…あぁ……っ」


 クラウドの言う焦燥感は未だないものの、競り上がってくる物にそれが入り交じっているのは確かだ。

 腰全体が痺れて、力が入らなくなっている。
壁に押し付けた背中がずるずると落ちて、スコールは背を丸めたまま、ベッドに転がっていた。
質量を増した雄だけが頭を上に向けていて、スコールは膝を立て、腰だけを浮かせた格好で自慰に耽る。

 ひくん、ひくん、と薄い腹が震えて、スコールはもどかしさに身を捩った。
鈴口から溢れた蜜が筋を作って、雄を握るスコールの手を汚す。
もう直ぐかも知れない、と思いながら、スコールは物足りなさを感じている自分に気付いていた。


「…クラウド……んっ、…あんた、まだ……?」
『ああ……悪いな。もう少しかかる』
「……んん……」
『良ければ、準備して置いてくれると嬉しいな』
「……っバカ……!」


 クラウドの言わんとしている事を悟って、スコールの顔に朱が上る。
電話の向こうで笑う気配があった。

 雄の先端を揉むように撫でながら、スコールは右手を更に下へと下ろして行く。
自慰行為自体が久しぶりだったのに、其処への刺激など自ら与えた事など、ある筈もない。
それでも疼くものは我慢する事が出来ず、羞恥心よりも本能が上回って、スコールはおずおずと慎ましく閉じた秘部に触れた。


「んっ……!」
『少しずつで良い。いきなり奥まで入れるなよ、傷付くからな』
「う、ん……」


 心理的な抵抗感を堪えながら、スコールは秘部に指を宛がう。
少しだけ力を入れると、くぷ、と口が開いて指先を咥える。
ぶるっ、と体が震えて、スコールは息を飲んだ。


「……っ…!」
『息を吐きながら、吐くタイミングに合わせて指を中に入れて行け』


 喉奥の苦しさを追い出すように、スコールは意識して呼吸を続けた。
秘部に埋めた違和感を自覚する度、全身が強張るのが判ったが、息を吐けば僅かにそれが緩んでくれる。
スコールは耳を欹てて、電話の向こうから聞こえる声を拾おうとしていた。
肌を重ね合せて、彼が此処に触れる時、必ずクラウドはスコールの躯を抱き締めている。
ともすれば詰めてしまう呼吸を、意識的に続ける事を促すように、耳元で聞こえる彼の呼吸に合わせて繰り返すのが常だった。


「う、ん…ふ…はっ……っあ…!」
『今、どれ位入ってる?』
「……は…半分……?」
『ちょっと苦しいか』
「う……」


 ふるふると小刻みに体を震わせながら、スコールは小さく頷いた。
声を出さなければ伝わらないのだが、声は喉奥が詰まったような感覚の所為で、絞り出す事すら難しい。


『そのまま少し待て。痛みはないな?』
「…多分……」
『そっちはそのままで、前の方、続けられるか?』
「…なんとか……」


 握ったままの雄は、秘部からの違和感にも萎える事はなく、切なげにピクッ、ピクッ、と震えていた。
頭を撫でていた手を下げて、竿の裏筋を指でなぞる。


「んぁっ……!」
『萎えてはいないようだな』


 見えていないのに、まるで見えているかのように言う。
実際に萎えていないから、スコールは否定も出来ず、ただただ恥ずかしさで顔を赤くしていた。


『カリの竿の間の凹みに爪を当てて』
「ん…っ…!」
『そのまま擦ってみろ』
「…っあ、あっ…!あぅんっ…!」


 言われた通りに触れてみると、ぞくぞくっとスコールの躯に熱が奔る。
その刺激に悦ぶように、きゅうっ、と秘部に入れた指が締め付けられた。


「はっ、あっ…あぁ…っ!」
『後ろ、痛みがないなら少し曲げてみろ』
「…ふくぅっ…!」


 秘孔の中で指先を曲げると、壁が押されるのが判って、スコールは逃げるように尻を浮かせる。


「ひぅっ……」
『ゆっくり、焦るなよ。指先を動かしながら、少しずつ広げて』
「ふ、あふっ…あっ…あっ……」


 指を曲げては伸ばしと繰り返しつつ、曲げた指で壁を探りながら、奥へと装入を深くしていく。
異物感が深くなって行く毎に、体の奥が迎え入れるように熱の位置が下がって行く気がする。
早く此処まで、と誘うように内肉が蠢いて、咥えたものを食んで離すまいとしている。


『スコール。今どうなってる?』
「あ、ふ……んぅ……っ」


 問う声に、スコールはベッドに横になったまま、頭だけを持ち上げた。
広げた足の間で、天を突いた雄の先端から、とろとろと蜜が溢れ出している。


「…出て、る……」
『イったのか?』
「そうじゃ、ない…けど……んんっ…!でも…はっ、あっ…気持ち、いい、かも……」


 前を触れている時は、絶えず感じていた物足りなさも、今は少し落ち着いた。
秘奥がもっと熱くて太いものを欲しがっているのが判るが、それも今しばらく我慢すれば感じる事が出来る。
その前に、躯を解して置けば良い。

 熱に溺れたスコールの思考は、徐々に羞恥心を置き去りにして、自身の欲望に忠実になりつつある。
秘孔の指を奥へと進ませ、ぐにゅっ、と奥の壁が抉られるように突くと、ビクンッ、と躯が仰け反った。


「あっ、あぁっ…!んっ、んぁっ…!」
『後ろはどうなってる?』
「ひ、んっ…ゆ、指…締め付けてる……んっ!」
『どれくらい入った?』
「もう…結構……」


 秘孔に挿入した指は、既に指と手の付け根まで届いている。
しかし、スコールの欲しい場所は更に奥で、自身の指ではどう足掻いても届かない。
もどかしさに耐え兼ねて、指を曲げて掻き回すように動かした。
くちゅっ、くちゅっ、と音が鳴って、スコールの細腰がビクッ、ビクッ、と跳ねる。


「あひっ、あっ、あぁんっ…!」
『あまり奥まで入れると、苦しいぞ』
「んっ…平、気……んあっ…!」
『…でも、お前は奥をいじられる方が好きだったな』


 痛みの類は、既にスコールにはなかった。
淫部を弄る指から得られるものは、快感以外の何物でもなく、自身が求めているのもそれだけだ。
はっ、はっ、と短いリズムで呼吸をしながら、スコールは更なる熱を求めて行為に没頭する。

 左手の中で切なげに震えている雄を扱くと、奥から競り上がってくるものがあった。
スコールは輪にした手で根本を握り、出口に向かって押し出すように絞って行く。


「あ、あ…んっ、あぁっ……!」
『いい声だ』
「ク、クラウド、ぉ……っ」
『中はもうぐちょぐちょになってるぞ。物欲しそうにヒクついてる』
「ふ、うぅん……っ」


 クラウドの言葉の通り、スコールの内肉はどろどろに濡れて蕩け、ひくん、ひくん、と脈を打ちながら指を締め付けている。


「はっ、あっ、あぁっ…!クラ、ウド…んっ、クラウド…!」
『中が震えて、うねってる。イくか?』
「う、んっ…んんっ…!イ、く……ん、出る…っ」
『ああ。良いぞ、出せ』


 通信越しに聞こえる声が低くなり、甘い響きでスコールの鼓膜を犯す。
目を閉じれば、直ぐ其処に彼がいるような錯覚に陥って、スコールの躯の熱が一層燃え上がった。


「ああぁあ……っ!」


 ビクッ、ビクッ、と躯が跳ねて、一際高い音で声を上げてスコールは上り詰める。
びゅくっ、と白濁が噴き出して、スコールの両手と腹を汚した。

 絶頂の瞬間からその後の余韻まで、連動するように秘孔が蠢き、きゅうっ、きゅうぅっ、とスコールの指を締め付ける。
どろりとしたものが指の隙間を伝い、太腿に流れ落ちて行く。
スコールは絶頂間際に閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げて、自分の下肢の有様を見下ろした。
蜜液塗れの腹や股間を見下ろして、羞恥心と言うものが戻って来る事はなく、埋めた指がひくっ、ひくっ、と脈打つように締め付けられるのを感じて、物足りなさに襲われる自分を自覚する。


『派手にイったな。大分溜まっていたんだから、無理もないか』
「は…あっ……」


 見てもいないのに、まるで見ているかのように言う男の声に、スコールの躯が反応を示す。
もぐもぐと食べるように秘奥がスコールの指を噛み、もっと奥に、と誘おうとしている。


「ク、ラ…ウド……」
『なんだ?』
「ん……早く…んっ…、んぁ…っ…!」


 後ろに埋めた指が、くちっ、くちっ、と動き出す。
自分の意思で動かしているのか否か、スコールには判らなかったが、どちらでも同じだ。
幾ら弄っても、目を閉じて男の顔を思い浮かべてみても、其処に在るのは自分の指で、一番欲しいものではない。


「あっ、あっ…!ん、はぁ、んっ…!」
『大分お盛んだな』
「はひっ、んん……っ、クラウド…お……っ」


 ベッドの上で身を捩り、俯せになったスコールは、四つ這いの姿勢で秘孔に埋めた指を激しく動かしていた。
手首から先をやや乱暴に右へ左へ動かして、狭い道を滅茶苦茶に掻き回す。
後ろで自慰行為などした事がなかったから、何処をどう刺激すれば良いのか判らなかった。
とにかく道を拡げるようにと、壁を万遍なく押し上げては擦ってと繰り返す。


「クラウド…あっ、あぁっ、クラウドぉ…んっ!早く…早く、欲しい……っ!」


 高く掲げた腰を揺らし、尻を振る姿に、常の凛とした理性的な姿はない。
恋人が見れば、何事かと目を丸くした後で、誘われるままに覆い被さって来るだろう。

 早く、彼の熱が欲しかった。
その気持ちを隠す事もなく正直に口にすれば、もう直ぐだから、と宥める声が聞こえた。
柔らかく響く声は、年下の恋人を宥めているつもりなのだろうが、今のスコールには逆効果だ。
煽られるように増して行く体の熱を自覚しながら、スコールは秘部に埋めた指を抜いて、のろのろと起き上がった。




 スコールの住んでいる家は、高層マンションの上層にある。
クラウドが住んでいるワンルームのアパートに比べると、天と地の差だ。
スコールが幼い頃は、母と共に───父がジャーナリストとして方々を駆け回っていた為、他人から母子家庭と思われていたらしい───クラウドの実家近くに住んでいたが、母の逝去の後、登下校中のスコールが誘拐未遂に遭ったのを機に、父と共に現在のマンションに移り住んだ。
それから父はしばらくの間、余程の事でなければ息子を一人にしないように努め、どうしても離れなければならない時は、クラウドが彼を預かる事になっていた。
現在は其処まで付っきりではないものの、一人息子への溺愛振りは変わらず、心配だからと言う理由で、一人暮らしも赦されていない。
父なりに幼年の頃のスコールを守れなかった事、病気を隠していた妻に息子を任せ利にしていた事を悔やんでいるらしく、スコールも仕様がないと言う顔で、今しばらくは父との同居に甘んじている。
お陰でクラウドは、彼の父親が不在の時にしか上がらせて貰えないのだが、若しもクラウドが彼の父と同じ立場であれば、過保護になっても無理はないので、仕方がないと思う事にしている。

 クラウドはマンションの玄関ロビーを足早に通り抜け、エレベーターへ乗った。
耳に宛てた携帯電話は、マンション前に車が到着した所で切っている。
ハンズフリーにしていたとは言え、運転中にはかなり刺激の強い声が聞こえていたので、よく此処まで事故を起こさなかったと自分を褒める。
徒歩で来れる所に引っ越すかな、とも思ったが、この周辺は何処の家も家賃が高い。
少なくとも、スコールが高校を卒業するまでは、現在の生活で我慢するしかなさそうだ。

 エレベーターが停止し、クラウドは彼のいる部屋番号へと向かった。
人気のない通路を進みながら、ポケットに入れていた合鍵を取り出す。
程無くついた扉の鍵穴に鍵を入れて捻り、ガチャ、と開錠の音が鳴った。

 数ヵ月ぶりに目の前の扉を開けると、直ぐにダークブラウンがあった。


「っと……スコール、」


 言うまでもなく、飛び出して来たのはスコールだ。
今日は甘えたがりだな、と口端を上げたクラウドだったが、直後に見えた白肌に目を丸くする。


「おい、そんな格好で……」
「……遅い」


 クラウドの肩に鼻頭を押し付けたまま、スコールは言った。
すん、と小さく聞こえた音に、クラウドは眉尻を下げて苦笑する。
くしゃくしゃと柔らかな猫っ毛を撫でて、開いたままにしていた扉を締める。

 肩を押して寝室へと向かおうとすると、するりとスコールの躯が滑り落ちる。
かちゃ、とベルトのバックルを外す音が聞こえて、クラウドは再度目を丸くした。


「スコール、何やって───」
「………」


 クラウドの戸惑う声に、蒼の瞳が縋るように見上げる。
熱に熟れたその瞳は、早く、と訴えていた。
その瞳と、彼の現在の格好を見れば、彼がどれ程餓えているのかがよく判る。

 下肢に縋るように座り込んでいるスコールに、クラウドは柔らかく笑いかけて、もう一度濃茶色の髪を撫でる。


「熱烈なお誘いは嬉しいが、せめて奥に行かないか?」
「……此処で良い……」
「外に聞こえるぞ」
「……どうでも良い」
「俺が良くない。お前の可愛い声を誰にも聞かせたくない」
「……可愛くない」


 拗ねた顔を見せるスコールを、クラウドは抱き上げた。
横抱きにするといつも嫌がって暴れるのだが、今日のスコールは大人しいばかりか、首に腕を回して来る。

 リビングを通り抜けて、灯りを点けたまま、ドアも開け放ったままの寝室に入る。
ベッドへと向かう傍ら、クラウドは勉強机に目を向けた。
教科書、問題集、ノートと筆記用具───明日の準備も済ませてあるのか、椅子の足下には鞄もある。
久しぶりに見る恋人の部屋は、クラウドの記憶にあるものと変わらず、必要最低限のものと、趣味であるカードゲームのデッキだけがこっそりと置かれている。
しかし、ベッドは几帳面な彼にしては不似合いな程に乱れており、脱いだままのズボンが放置され、薄らと色を変えた沁みまで残されていた。

 ベッドにスコールを下ろすと、離れる事を嫌がるように、首に回された腕に力が篭る。
額に唇を寄せて宥めて、クラウドはそのままベッドに上った。
スコールは首に回した腕を解くと、背中を丸めてクラウドの下肢に縋る。
緩んでいたベルトが完全に外されて、下着の中で膨らんでいた一物が取り出された。


「……あんた、これ……」


 明らかに勃起している雄に、スコールが顔を上げる。
クラウドは眉尻を下げて苦笑した。


「ずっとあんな声を聞かされたんだ。仕方ないだろ?」


 クラウドの言葉に、スコールの頬が赤みを増す。
恥ずかしそうに蒼灰色が逸らされたが、スコールは離れようとはしなかった。
それ所か、おずおずと口を開け、血管を浮かせているクラウド自身を咥え込む。

 ちゅぷ、ちゅぷ、とアイスをしゃぶるような音が静かな部屋で木霊していた。
クラウドはしばらくスコールの頭を撫でていたが、四つ這いになったスコールの背中へと指を滑らせると、シャツの裾から覗く肌をくすぐった。
ぴくん、とスコールの躯が微かに震え、高く掲げた尻がもぞもぞと揺れる。
クラウドは腕を伸ばして双丘の形を辿り、久しぶりに恋人の秘部に触れた。


「んっ……」


 クラウドを咥えたまま、くぐもった声が漏れる。
少し指先に力を入れると、つぷんっ、と装入は抵抗なく行われた。


「んんぅっ……!」


 悩ましげな声が上がり、スコールはゆらゆらと腰を揺らす。
求めるそれに応じて、クラウドは更に指を奥へと突き入れた。


「うぅん…っ」
「どんどん入るぞ。しっかり解してたみたいだな」
「ん、ん……はむ…っ」


 下肢から上って来る快感に身を震わせながら、スコールは夢中になってクラウドに奉仕している。
小さな口を限界まで開かせて咥えた雄は、中程までに届いている。
頭を前後に揺らしてストロークしながら、舌の腹で膨らみの裏側を執拗にくすぐった。


「ふっ、んっ、んん……っ、んぉ…っふぅん…」
「積極的だな」
「ん、ん……っは…はふ…うぅん…んちゅっ…んぷっ…」
「久しぶりだったから、仕方ないか」
「んふぅんっ…!」


 秘部に埋めた指を曲げ、くりゅっ、と壁を抉ってやると、ビクッ!と細い体が跳ねた。
スコールの喉奥から熱を孕んだ吐息が漏れて、咥えたままの雄がむわっと蒸れて行くのが判る。

 限界まで咥えていた雄が、ゆっくりとスコールの口から出て行く。
解放された雄は、唾液と先走りでぬらぬらと艶めかしく光っており、それを目にしたスコールが小さく息を飲んだ。
釘付けになったように雄を見詰めるスコールの瞳は、うっとりと光悦しているように見えて、クラウドは無意識に乾いた唇を舐める。


「クラ、ウド……」


 縋る目で見上げるスコールに、クラウドは頷いた。
秘部に埋めていた指を抜き、無言で促すクラウドに従い、スコールは体の向きを変えて、尻を差し出す。
ひくん、ひくん、と物欲しげに開閉させる口に、クラウドは先端を宛がうと、細腰を掴んで一気に挿入した。


「はぁああんっ!」


 高い悲鳴が上がって、スコールの背が若木のように撓る。
クラウドは彼の呼吸が整うのを待たず、ぱん、ぱん、と皮膚のぶつかり合う音が鳴る程の激しさせ、スコールの陰部を突き上げ始めた。


「んぁっ、あっ、ひぅっ!あっ、あっ、あっ、あぁっ!」


 スコールはベッドシーツを握り締めて、揺さぶりに併せて押し出される声を堪える事もしない。
一際太い所で壁を抉られる度、スコールの躯は歓喜に震えていた。


「あひっ、あっ、クラ、んんっ!激し、い……あぁっ…!」
「悪い、な、俺も辛いんだ…っ!」
「んっ、んっ、あふっ、はぁ…っ!あん、んっ、はぁんっ!」


 性急な運びと、一気に上り詰めようとする男の熱の激しさに、スコールは頭を振った。
しかし背後の男は動きを緩める事もなく、ずんずんとスコールの奥を突き上げて来る。


「あっ、あっ、んっ、あっ、あぁっ、」
「く、んっ…スコール……!」


 クラウドはスコールの背中に覆い被さり、耳元に唇を寄せた。
赤らんだ耳にクラウドの吐息がかかり、ぞくぞくとスコールが背中を撓らせる。
捲れたシャツの中に手を滑らせて、胸の膨らみを摘んだ。
短い悲鳴が上がり、いやいやとスコールは頭を振るが、コリコリと爪を立てて転がしてやれば、悦ぶように甘い声が漏れる。


「は、あっ、んぁあっ…!ク、クラウド…胸…ち、乳首ぃっ…あっ、あっ、やぁあっ…!」
「随分敏感になってる気がするが、久しぶりだからか?それとも、自分で弄ってこうなった?」
「んっ、違っ……そこ、そこは…触って、な…あぁっ」
「じゃあ、しっかり弄ってやらないとな」
「や、んっ、あぁっ!あふっ、ひぃんっ…!あぁあ…!」


 引っ張って伸ばし、尖った膨らみの先を爪先で穿るようにくすぐられて、スコールは快感に身を捩る。
クラウドが指先を動かす度、じんじんとした痺れがスコールを襲う。
きゅうきゅうと秘孔が強く締まってクラウドを締め付け、媚肉がぐにっ、ぐにっ、と蠢いて雄を愛撫する。


「はっ、あんっ、んんっ…!や、あっ、あっ、クラウド…んっ、も、もう…うぅんっ!」


 ぐりゅっ、と秘奥を抉られて、スコールはくぐもった声を上げる。
びくっ、びくっ、と細い腰が震え、腹の下で反り返っている中心部から、とろとろと蜜が溢れ出している。

 クラウドはスコールの乳首を苛めていた手を放し、蜜を溢れさせている鈴口に触れた。
ビクン、とスコールの躯が震え、待ち侘びていたかのように、溢れる白濁の量が増える。
きゅっ、きゅっ、と雄を締め付けて先を求める躯に応じて、クラウドはスコールの雄を包んで扱きながら、腰を動かして最奥を突き上げた。


「んぁっ、あっ!は…あぅんっ、んんっ!」
「どんどん溢れて来るぞ、スコール…っ!」
「あっ、あっ、クラ、あっ…!クラウド、クラウドぉ…っ!は、熱、い…あぁあ…っ!」


 自分で触れている時の比はない快感に、スコールは頭の芯が真っ白になって行くのを感じていた。
長らく味わっていなかった強い衝動に翻弄されるまま、スコールは二度目の絶頂へと導かれて行く。
四肢の強張りは内側まで繋がって、咥え込んだ雄を食い千切らんばかりに締め付けていた。

 クラウドもまた、久しぶりに感じる恋人の熱に、自身の欲望がはちきれそうになるのを感じていた。
電話越しで聞いていた時でも、スコールの喘ぎ声は男の欲望を煽り、クラウドの理性を奪おうとする。
逢う事すらも自重し、それがスコールの為だと思っていたクラウドだったが、今こうして乱れ喘ぐ恋人と、それに煽られて行く自分に、やはり我慢は良くない、と頭の隅で思う。
時間が空いた分だけ、スコールは快感への免疫をなくして敏感になり、クラウドは見慣れた筈の恋人の痴態に、無意識に抑え込んでいた雄としての凶暴性が暴かれて行く。


「んぁっ、ひっ、あっ、あぁっ…!クラ、クラウド、もう…んっ、あふっ、あぁっ…!」
「く……俺、も…出る……っ!」
「んっ、あっ、出し、出して…!俺の、俺の中…クラウド…んっ、あぁあああ…っ!」


 クラウドの手の中で、スコールの雄がびくっびくっびくっ、と震え、勢いよく精液が噴き出した。
根本から出口に向かって絞るように揉みながら扱けば、スコールは甲高い声を上げて、びゅくっ、びゅくっ、と蜜を吐き出す。


「あっイっ、あぁっ…!イって、イってる…んっ!クラウドの、手、ああっ…きもち、い……ひぅうんっ!」
「ぐ、う……んんんっ!」


 歯を食いしばったクラウドの腰が震え、スコールの体内で雄が弾けた。
奥壁に叩き付けるように注ぎ込まれる熱に、スコールの躯が突っ張るように強張って、ベッドシーツが波を打つ。

 どろりとした濃い粘液が体の奥へ沁み込んでくるのを感じる最中、スコールの膝が崩れ、背に覆い被さったクラウドごとベッドに落ちる。
ピクッ、ピクッ、と全身を微かに痙攣させるスコールの体は、官能に支配されたまま、理性は戻って来る様子はない。
俯せになった顔をクラウドがそっと起こしてやれば、蕩け切った蒼灰色が宙を彷徨った。


「あ…ふ……ぁ……」
「大丈夫か、スコール」
「…ん、ん……」


 呼びかける声の意味を理解しているのか、微妙な反応を返すスコールに、クラウドは眉尻を下げて笑う。
汗を滲ませる額にキスをすると、ぼんやりとした瞳がクラウドを見上げた。


「続き、どうする?」


 クラウドの雄は、まだスコールの中で脈を打っている。
久しぶりの情交とあって、萎える様子のないそれを、スコールの躯はみっちりと咥えて離そうとしない。
細身の躯はまだ終わりを求めてはいないと、クラウドには直ぐに判る。

 しかし、明日は平日。
クラウドは三時限目に間に合えば十分だが、高校生のスコールはのんびりしてはいられない。
曜日ごとの時間割に変更がなければ、体育の授業もあった筈だ。
若い躯とは言え、激しい情交で酷使した躯の回復は容易ではなく、彼の明日を思うのならば、今日は此処までとするべきだろう。

 しかし、見上げる恋人の瞳は、そうした理屈は忘れている。
官能のスイッチが入ったままの躯も、これだけで満足なんて出来ない、と訴えるように、クラウドを煽るように肉をうねらせ、咥え込んだ雄をぎゅうぎゅうと締め付ける。


「…クラ、ウド……」


 身を捩るスコールの腰を抱いて、クラウドは彼と向き合う姿勢になる。
首に腕が絡み付いて、スコールはクラウドの胸に顔を寄せた。

 もっと、と形を紡ぐ濡れた唇に、クラウドは自身のそれを押し付けて、今夜は思う存分恋人を甘やかそうと決めた。




『クラスコでテレフォンセックス』のリクを頂きました。

寂しくなるから我慢してたのに、余計に寂しくなって結局我慢できなくなったスコールでした。
我慢は体に良くないんだよ。うん。